説明

連続発酵による化学品の製造方法

【課題】発酵原料を微生物の発酵培養により化学品を含有する発酵液へと変換する発酵工程と、該発酵液から分離膜により濾過液として化学品を回収する膜分離工程を含む連続発酵装置において、発酵および膜濾過を安定化させて、運転コストを大幅に低減する方法を提供する。
【解決手段】濁質濃度の高い発酵液に適する分離膜モジュール10を適用し、分離膜が集水管の周りにスパイラル状に巻き付けられたスパイラル式分離膜モジュールを使用する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜を用いて発酵により連続的に化学品を製造する連続発酵装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微生物や培養細胞の培養を伴う物質生産方法である発酵法は、大きく(1)回分発酵法(Batch発酵法)および流加発酵法(Fed−Batch発酵法)と、(2)連続発酵法とに分類することができる。
【0003】
上記(1)の回分発酵法および流加発酵法は、設備的には簡素であり、短時間で培養が終了し雑菌汚染による被害が少ないという利点がある。しかしながら、時間経過と共に発酵培養液中の化学品濃度が高くなり、浸透圧あるいは化学品阻害等の影響により生産性および収率が低下してくる。そのため、長時間にわたり安定して高収率かつ高生産性を維持することが困難である。
【0004】
また、上記(2)の連続発酵法は、発酵槽内で目的化学品が高濃度に蓄積することを回避することによって、長時間にわたって高収率かつ高生産性を維持できるという特徴がある。この連続発酵法については、L−グルタミン酸やL−リジンの発酵についての連続培養法が開示されている(非特許文献1参照)。しかしながら、この例では、発酵培養液に原料の連続的な供給を行うと共に、微生物や培養細胞を含んだ発酵培養液を抜き出すために、発酵培養液中の微生物や培養細胞が希釈されることから、生産効率の向上は限定されたものであった。
【0005】
そこで、連続発酵法において、微生物や培養細胞を分離膜で濾過し、濾液から化学品を回収すると同時に濃縮液中の微生物や培養細胞を発酵培養液に保持または還流させることにより、発酵培養液中の微生物や培養細胞濃度を高く維持する方法が提案されている。例えば、分離膜として有機高分子からなる平膜を用いた連続発酵装置において、連続発酵する技術が提案されている。(特許文献1参照)。
【0006】
一方、分離膜については、上述したよう発酵分野への適用を含め、飲料水製造、浄水処理、排水処理などの水処理分野、食品工業分野等様々な方面で利用されている。飲料水製造、浄水処理、排水処理などの水処理分野においては、分離膜が従来の砂濾過、凝集沈殿過程の代替として水中の不純物を除去するために用いられている。浄水処理や排水処理などの水処理分野においては、処理水量が大きいため、透水性能の向上が求められており、透水性能が優れている分離膜で膜面積を減らし、膜面積あたりの設置面積が小さい中空糸膜モジュールやスパイラル式モジュールを使用することで、装置のコンパクト化、設備費および膜交換費の低減を試みている。
【0007】
これより、より効率的な連続発酵による生産を行うために、膜面積あたりの設置面積が小さく、膜モジュールの交換費用が少ない中空糸膜モジュールなどを用いた技術が開示されている(特許文献2)。この技術では、微生物や培養細胞を、分離膜に中空糸膜モジュール分離膜を用いて、濾液から化学品を回収すると同時に濃縮液中の微生物や培養細胞を発酵培養液に保持または還流させることにより、発酵培養液中の微生物や培養細胞濃度を高く維持することが可能となっており、ここで、発酵培養液を中空糸膜モジュールに送液し、一部は濾過をして、大部分は発酵槽に還流させるクロスフロー濾過を採用しており、このクロスフロー濾過の流れの剪断力により、膜表面の汚れを除去し、効率的な濾過を長期間継続することも可能であった。
【0008】
しかし、中空糸膜モジュールでは、特に微生物量が高濃度になるように培養した発酵液の場合、中空糸膜の間に微生物などが堆積する懸念があり、それによりモジュール内で偏流が発生する懸念があった。そこで、微生物などの堆積を防止するために、クロスフロー濾過の流束を大きくすることが必要となるが、クロスフローの流量が増加することで、発酵槽から各モジュールへ送液する配管、バルブおよび送液ポンプなどの機器、設備を大型化する必要があり、そのため、送液配管等の容量が増加する。これより、発酵槽においては、原料の供給、また好気発酵では酸素供給が行われ、発酵培養の環境が適正に整えられているが、この発酵槽の容量に対し、発酵槽以外の送液配管等の容量が相対的に大きくなり、発酵効率が低下する懸念がある。さらに、機器、設備が大型化することによる設備費が増加、またクロスフロー流量の増加により送液ポンプ電力が増加し、コストアップにつながる問題がある。また内圧式中空糸膜モジュールでは、微生物のフロックが中空糸膜に詰まってしまう懸念があるが、特許文献2には、これらの課題や解決手段についての記載や示唆は無い。
【0009】
また、回転平膜を浸漬した有価物連続発酵生産用リアクターの技術が開示されている(特許文献3)。この技術では、発酵槽内の撹拌と膜表面の微生物等の堆積を防止とを目的として、回転平膜を回転させて連続発酵することが提案されている。しかし、設置面積あたりの膜面積が大きく、設備コストが過大となる問題があり、また回転平膜の回転数では膜表面の微生物等の堆積が除去できない懸念がある。
【0010】
この様に従来の膜分離連続発酵法では、分離膜モジュールについて、産業的応用が難く、効率的な連続発酵における化学品の製造は困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−252367号公報
【特許文献2】特開2010−57389号公報
【特許文献3】特開2009−82029号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Toshihiko Hirao et al.(ヒラノ・トシヒコ ら)、 Appl. Microbiol. Biotechnol.(アプライド マイクロバイアル アンド マイクロバイオロジー),32,269−273(1989)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、濁質濃度の高い発酵液に適する分離膜モジュールを適用し、発酵および膜濾過を安定化させて、運転コストを大幅に低減する化学品の製造方法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、前記目標を達成するために、次のような構成をとる。
【0015】
(1)発酵原料を微生物の発酵培養により化学品を含有する発酵液へと変換する発酵工程と、該発酵液から分離膜により濾過液として化学品を回収する膜分離工程を含む連続発酵による化学品の製造方法であって、該分離膜が集水管の周りにスパイラル状に巻き付けられたスパイラル式分離膜モジュールを使用することを特徴とする連続発酵による化学品の製造方法。
【0016】
(2)分離膜と分離膜の間の供給液の流路が0.1mm以上10mm以下の厚みであることを特徴とする、(1)に記載の連続発酵による化学品の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、上述の連続発酵による化学品の製造方法により、濁質濃度の高い発酵液について、発酵および膜濾過を効率的に行うことができ、広く発酵工業において、発酵生産物である化学品を低コストで安定に生産することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明で用いられるスパイラル式分離膜モジュールを説明するための部分展開斜視図である。
【図2】本発明で用いられる膜分離型連続発酵装置の例を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を用いた連続発酵による化学品の製造で使用する、微生物または培養細胞について述べる。
【0020】
本発明の連続発酵による化学品の製造において使用される微生物や培養細胞については特に制限はなく、例えば、発酵工業においてよく使用されるパン酵母などの酵母、大腸菌、コリネ型細菌などのバクテリア、糸状菌、放線菌、動物細胞、昆虫細胞などが挙げられる。また、使用する微生物や培養細胞は、自然環境から単離されたものでもよく、突然変異や遺伝子組換えによって一部性質が改変されたものであってもよい。
【0021】
本発明の製造方法で得られる化学品すなわち変換後物質は、上記の微生物や培養細胞が発酵液中に生産する物質である。化学品としては、例えば、アルコール、有機酸、アミノ酸および核酸など発酵工業において大量生産されている物質を挙げることができる。また、本発明は、酵素、抗生物質および組換えタンパク質のような物質の生産に適用することも可能である。例えば、アルコールとしては、エタノール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオールおよびグリセロール等が挙げられる。また、有機酸としては、酢酸、乳酸、ピルビン酸、コハク酸、リンゴ酸、イタコン酸およびクエン酸等を挙げることができ、核酸であればイノシン、グアノシンおよびシチジン等を挙げることができる。
【0022】
また、本発明の製造方法で得られる化学品は、化成品、乳製品、医薬品、食品または醸造品のうち、少なくとも1種を含む流体物、または排水であることが好ましい。ここで化成品としては、例えば、有機酸、アミノ酸および核酸のように、膜分離濾過後の工程により化学製品を作ることに適用可能な物質、乳製品としては、例えば、低脂肪乳など、膜分離濾過後の工程により乳製品として適用可能な物質、医薬品としては、例えば、酵素、抗生物質、組み換えタンパク質のように、膜分離濾過後の工程により医薬品を作ることに適用可能な物質、食品としては、例えば、乳酸飲料など、膜分離濾過後の工程により食品として適用可能な物質、醸造品としては、例えば、ビール、焼酎など、膜分離濾過後の工程によりアルコールを含む飲料として適用可能な物質、排水としては、例えば、食品洗浄排水、乳製品洗浄排水などの生産品洗浄後の排水や、有機物を豊富に含む家庭排水などが挙げられる。
【0023】
本発明で乳酸を製造する場合、真核細胞であれば酵母、原核細胞であれば乳酸菌を用いることが好ましい。このうち酵母は、乳酸脱水素酵素をコードする遺伝子を細胞に導入した酵母が好ましい。このうち乳酸菌は、消費したグルコースに対して対糖収率として50%以上の乳酸を産生する乳酸菌を用いることが好ましく、更に好ましくは対糖収率として80%以上の乳酸菌であることが好適である。
【0024】
本発明で乳酸を製造する場合に好ましく用いられる乳酸菌としては、例えば、野生型株では、乳酸を合成する能力を有するラクトバチラス属(Lactobacillus)、バチラス属(Bacillus)属、ペディオコッカス(Pediococcus)、テトラゲノコッカス属(Genus Tetragenococcus)、カルノバクテリウム属(Genus Carnobacterium)、バゴコッカス属(Genus Vagococcus)、ロイコノストック属(Genus Leuconostoc)、オエノコッカス属(Genus Oenococcus)、アトポビウム属(Genus Atopobium)、ストレプトコッカス属(Genus Streptococcus)、エンテロコッカス属(Genus Enterococcus)、ラクトコッカス属(Genus Lactococcus)およびスポロラクトバチルス属(Genus Sporolactobacillus)に属する細菌が挙げられる。
【0025】
また、乳酸の対糖収率や光学純度が高い乳酸菌を選択して用いることができ、例えば、D−乳酸を選択して生産する能力を有する乳酸菌としてはスポロラクトバチルス属に属するD−乳酸生産菌が挙げられ、好ましい具体例として、スポロラクトバチルス・ラエボラクティカス(Sporolactobacillus laevolacticus)またはスポロラクトバチルス・イヌリナス(Sporolactobacillus inulinus)が使用できる。さらに好ましくは、スポロラクトバチルス・ラエボラクティカス ATCC 23492、ATCC 23493、ATCC 23494、ATCC 23495、ATCC 23496、ATCC 223549、IAM12326、IAM 12327、IAM 12328、IAM 12329、IAM 12330、IAM 12331、IAM 12379、DSM 2315、DSM 6477、DSM 6510、DSM 6511、DSM 6763、DSM 6764、DSM 6771などとスポロラクトバチルス・イヌリナスJCM 6014などが挙げられる。
【0026】
L−乳酸の対糖収率が高い乳酸菌としては、例えば、ラクトバシラス・ヤマナシエンシス(Lactobacillus yamanashiensis)、ラクトバシラス・アニマリス(Lactobacillus animalis)、ラクトバシラス・アジリス(Lactobacillus agilis)、ラクトバシラス・アビアリエス(Lactobacillus aviaries)、ラクトバシラス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバシラス・デルブレッキ(Lactobacillus delbruekii)、ラクトバシラス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバシラス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバシラス・ルミニス(Lactobacillus ruminis)、ラクトバシラス・サリバリス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバシラス・シャーピイ(Lactobacillus sharpeae)、ラクトバシラス・デクストリニクス(Pediococcus dextrinicus)、およびラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)などが挙げられ、これらを選択して、L−乳酸の生産に用いることが可能である。
【0027】
本発明の連続発酵による化学品の製造は、発酵原料を使用する。使用される発酵原料としては、培養する微生物の生育を促し、目的とする発酵生産物である化学品を良好に生産させ得るものであればよい。
【0028】
使用される発酵原料は、炭素源、窒素源、無機塩類、および必要に応じてアミノ酸やビタミンなどの有機微量栄養素を適宜含有する通常の液体培地が良い。炭素源としては、グルコース、シュークロース、フラクトース、ガラクトースおよびラクトース等の糖類、これら糖類を含有する澱粉糖化液、甘藷糖蜜、甜菜糖蜜、ハイテストモラセス、酢酸等の有機酸、エタノールなどのアルコール類、およびグリセリンなどが使用される。窒素源としては、アンモニアガス、アンモニア水、アンモニウム塩類、尿素、硝酸塩類、その他補助的に使用される有機窒素源、例えば油粕類、大豆加水分解液、カゼイン分解物、その他のアミノ酸、ビタミン類、コーンスティープリカー、酵母または酵母エキス、肉エキス、ペプトン等のペプチド類、各種発酵菌体およびその加水分解物などが使用される。無機塩類としては、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩およびマンガン塩等を適宜添加することができる。
【0029】
連続発酵による化学品の製造に使用する微生物または培養細胞が生育のために特定の栄養素を必要とする場合には、その栄養物を標品もしくはそれを含有する天然物として添加する。また、消泡剤を必要に応じて使用することができる。連続発酵による化学品の製造において、培養液とは、発酵原料に微生物または培養細胞が増殖した結果得られる液のことを言う。追加する発酵原料の組成は、目的とする化学品の生産性が高くなるように、培養開始時の発酵原料組成から適宜変更しても良い。
【0030】
また、適当な時期から原料培養液の供給および培養物、また必要に応じて発酵槽内から微生物または培養細胞の引き抜きを行うことが可能である。
【0031】
本発明において、発酵・膜分離工程において用いられる分離膜について説明する。
【0032】
本発明に用いられる分離膜は、有機膜、無機膜を問わず、耐薬品性を持つ分離膜であれば良く、多孔質基材の表面に分離機能層として作用する多孔質樹脂層を有している。
【0033】
多孔質樹脂層は、分離性能及び透水性能、さらには耐汚れ性の観点から、有機高分子化合物を好適に使用することができる。例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、セルロース系樹脂およびセルローストリアセテート系樹脂などが挙げられ、これらの樹脂を主成分とする樹脂の混合物であってもよい。
【0034】
本発明においては、溶液による製膜が容易で物理的耐久性や耐薬品性にも優れているポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂およびポリアクリロニトリル系樹脂が好ましく、ポリフッ化ビニリデン系樹脂またはそれを主成分とする樹脂が、化学的強度(特に耐薬品性)と物理的強度を併せ有する特徴をもつため最も好ましく用いられる。
【0035】
ここで、ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンの単独重合体が好ましく用いられる。さらに、ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体との共重合体を用いても構わない。フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体としては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよび三塩化フッ化エチレンなどが例示される。
【0036】
多孔質樹脂層の厚みは、薄すぎると多孔質基材が露出し、微生物等が多孔質基材に付着して濾過圧が上昇したり、洗浄しても濾過性能が十分に回復しなかったりする場合がある。また、厚すぎると、透水量が低下することがあるので、通常は1μm以上500μm以下、好ましくは5μm以上200μm以下の範囲で選定することが好ましい。
【0037】
多孔質樹脂層を形成している樹脂の一部は、多孔質基材の少なくとも表層部に入り込み、その少なくとも表層部において、多孔質基材との複合層を形成している。多孔質基材に樹脂が入り込むことで、いわゆるアンカー効果によって多孔質樹脂層が多孔質基材に堅固に定着され、多孔質樹脂層が多孔質基材から剥離するのを防止できるようになる。
【0038】
また、多孔質基材としては、有機材料、無機材料等、特に限定されないが、軽量化しやすい点から有機繊維が好ましい。さらに好ましくは、セルロース系繊維、酢酸セルロース系繊維、ポリエステル系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリエチレン系繊維などの有機繊維からなる織布や不織布、ネット等である。
【0039】
そのような多孔質基材の厚みは、薄すぎると分離膜としての強度を保ちにくくなり、また極端に厚いと透水量が低下しがちになるので、50μm以上1mm以下の範囲にあるのが好ましい。
【0040】
また多孔質基材の密度は、0.7g/cm以下が好ましい。製膜工程において多孔質樹脂層を形成する樹脂を受け入れ、多孔質基材と樹脂との複合層を形成するのに適している。しかしながら、極端に低密度になると分離膜としての強度が低下しがちになるので、0.3g/cm以上であることが好ましい。ここでいう密度は、見かけ密度であり、多孔質基材の面積、厚さと重量から求めることができる。
【0041】
また平均細孔径は、透水性能が上述の範囲にあれば使用する目的や状況に応じて適宜決定することができるが、ある程度小さい方が好ましく、通常は0.01μm以上1μm以下であることが良い。平均細孔径が0.01μm未満であると、糖や蛋白質などの成分やその凝集体などの膜汚れ成分が細孔を閉塞して、安定運転ができなくなる。透水性能とのバランスを考慮した場合、好ましくは0.02μm以上であり、さらに好ましくは0.03μm以上である。また、1μmを超える場合、膜表面の平滑性と膜面の流れによる剪断力や、逆洗やエアースクラビングなどの物理洗浄による細孔からの汚れの成分の剥離が不十分となり、安定運転ができなくなる。さらに平均細孔径が微生物もしくは培養細胞の大きさに近づくと、これらが直接孔を塞いでしまう場合がある。また発酵培養液中の微生物もしくは培養細胞の一部が死滅することにより細胞の破砕物が生成する場合があり、これらの破砕物によって分離膜が閉塞することから回避するために、平均細孔径は0.4μm以下が好ましく、0.2μm以下であれば、より好適に実施することができる。
【0042】
ここで、平均細孔径は、倍率10,000倍以上の走査型電子顕微鏡観察で観察される複数の細孔の直径を測定し、平均することにより求めることができる。10個以上、好ましくは20個以上の細孔を無作為に選び、それら細孔の直径を測定し、数平均して求めることが好ましい。細孔が円状でない場合などは画像処理装置等によって、細孔が有する面積と等しい面積を有する円、すなわち等価円を求め、等価円直径を細孔の直径とする方法により求めることも好ましく採用できる。
【0043】
本発明では、用いられる分離膜モジュールの形態として、スパイラル式を採用することが特徴である。
【0044】
スパイラル式分離膜モジュールは、代表的には、2枚の平膜状の分離膜を封筒状に接着し、この分離膜が集水管の周りにスパイラル状に巻き付けられた構造をとり、分離膜が濾過液流路材と供給液流路材と共に集水管の周りにスパイラル状に巻き付けられた構造をとる。ただし、分離膜の形態によっては必ずしも濾過液流路材や供給液流路材を必要とせず、本発明においては、本発明の目的を阻害しない範囲で適宜分離膜モジュールの構造を選択することができる。
【0045】
分離膜を集水管のまわりに巻き付ける場合、分離膜は、1枚でも良いし、複数枚でも良い。分離膜と分離膜の間は、同一分離膜間でも、異なる分離膜間でも良い。分離膜間の隙間については、モジュールあたりの分離膜面積をできるだけ大きく確保する観点からは小さい方が良いが、一方で、濁質により閉塞しにくく、偏流が発生し難い様に、ある程度の隙間を有する必要があり、0.1mm以上10mm以下の間隔であることが好ましく、また、分離膜間の隙間は同様であることが好ましい。
【0046】
スパイラル式分離膜モジュールは、タンク式、チューブラー式や平板式、回転平膜式の分離膜モジュールよりも単位装置容積あたりの膜面積を大きくとることができる。構造が簡単で、クロスフローの流路は0.7mm前後で、分離膜と分離膜の間の供給液流路材の厚みや分離膜表面の凹凸高さを変えることで調整することができる。また、中空糸膜モジュールに比べると、濁質濃度の高い発酵液に対して、供給液流路材があることにより、クロスフローの流路が広く、均一であることから、偏流が少ない。連続発酵による化学品の製造では、発酵培養液を分離膜モジュールに送液し、一部は濾過をして、大部分は発酵槽に還流させるクロスフロー濾過を採用しているが、スパイラル式分離膜モジュールでは、このクロスフローの流れを均等化できることで、クロスフロー濾過の流れの剪断力により、膜表面の汚れを除去し、効率的な濾過を長期間継続することができ、濁質により閉塞しにくく、濁質の滞留も少なくすることができる。
【0047】
また、スパイラル式分離膜モジュールを縦に配置し、空気等の気体をクロスフローの発酵液と同時に送液することで、発酵液へ酸素を供給すると共に、気泡が膜表面の堆積物を除去する効果も期待できる。
【0048】
本発明で用いられるスパイラル式分離膜モジュールについて、図を用いて説明する。
【0049】
図1は、本発明の連続発酵による化学品の製造方法で用いられるスパイラル式分離膜モジュールを例示説明するための部分展開斜視図である。図1に示す様に、スパイラル式分離膜モジュールは、第1の分離膜3および第2の分離膜4の3辺を互いに接着して形成した封筒状分離膜の間に、濾過液流路材5を挟み込み、これと供給液流路材6とを1つのユニットとして、単数もしくは複数ユニット用意し、集水管1の周囲にスパイラル状に巻き付けてなる。集水管1は孔が複数開口したパイプを用い、封筒状分離膜は集水管1側で開口している。供給液2は、スパイラル式分離膜モジュールの一方の端面から供給され、供給液2は供給液流路材6部分を、集水管と平行方向に流れ、第1の分離膜3および第2の分離膜4で処理される。
【0050】
封筒状分離膜の巻き付け方法に特に制限はないが、モジュールあたりの分離膜面積をできるだけ大きく確保することが望ましく、分離膜、供給液流路材と濾過液流路材の隙間は最小限にして巻き付きすることが好ましい。
【0051】
供給液流路材6は、供給液が乱流状態で送液されることを促進する働きをもつことが好ましく、これより分離膜表面の濃度分極を低く抑えることができる。供給液流路材を薄くすると、モジュール内に分離膜をより多く巻き付きできるが、一方でクロスフローの流路が小さくなり、濁質濃度の高い発酵液で閉塞が発生したり、クロスフローの送液抵抗が大きくなったりする懸念がある。そのため、供給液流路材は、ある程度の厚みを有することが望ましく、0.1mm以上10mm以下であることが好ましい。
【0052】
分離膜3および分離膜4で濾過して得られた濾過液8は集水管1から取り出され、分離膜3および分離膜4で濾過されなかった供給液2は、スパイラル式分離膜モジュールの他方の端面から、循環液7として排出される。
【0053】
スパイラル型モジュールとして実際に使用する場合には、上記の様に製作したスパイラル型モジュールを容器の中に、一つ以上、直列に配置して用いることができ、クロスフローで発酵液を直列に配置したモジュールに供給することで、複数のスパイラル型モジュールを、並列に配置することに比べ、クロスフローの流量を削減することができる。
【0054】
供給液流路材6は、分離膜の膜面側へ供給液を導くための流路空間を形成するシート形状のものを使用して良い。特に材質および形態に限定は無いが、ポリプロピレン、ポリエチレンおよびポリエステル、ポリスルホンなどからなるネット形態のものを使用しても良い。
【0055】
濾過液流路材5は、分離膜で濾過した濾過液を、集水管1へ導くための流路空間を形成するシート状のものを使用して良い。特に材質および形態に限定は無いが、トリコットと呼ばれるポリエステル樹脂やポリオレフィン樹脂から織られた織物または編み物で、集水管1方向に表面に複数の溝を有する形態のものを使用しても良い。分離膜の形状によっては、必ずしも濾過液流路材や供給液流路材を必要としない。例えば、分離膜表面に凹凸を有する加工をする場合は、分離膜を重ねた場合に分離膜間に隙間が生じるため、この隙間をクロスフローや濾過液が通液しても良い。なお、この場合の分離膜間の隙間についても、0.1mm以上10mm以下の間隔であることが好ましい。
【0056】
集水管1は、巻囲時の巻き付け抵抗力、巻囲体の重量および流体圧力に対しての剛性および強度のある材質であれば特に限定は無いが、低コストである樹脂系、例えば、ポリプロピレン、ポリエステル、FRP、ABS、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホンなどの樹脂を使用しても良い。
【0057】
分離膜の接着に用いる接着剤は、エポキシ系またはウレタン系などを使用することができ、強度、耐熱性等に優れたものを使用することが好ましい。
【0058】
本発明において、微生物や培養細胞の発酵液を膜モジュール中の分離膜で濾過処理する際の膜間差圧は、微生物や培養細胞および培地成分が容易に目詰まりしない条件であればよいが、膜間差圧を0.1kPa以上20kPa以下の範囲にして濾過処理することが重要である。膜間差圧は、好ましくは0.1kPa以上10kPa以下の範囲であり、さらに好ましくは0.1kPa以上5kPaの範囲である。上記膜間差圧の範囲を外れた場合、原核微生物および培地成分の目詰まりが急速に発生し、透過水量の低下を招き、連続発酵運転に不具合を生じることがある。
【0059】
濾過の駆動力としては、発酵液と多孔性膜処理水の液位差(水頭差)を利用したサイホン、またはクロスフロー循環ポンプにより分離膜に膜間差圧を発生させることができる。また、濾過の駆動力として分離膜処理水側に吸引ポンプを設置してもよい。また、クロスフロー循環ポンプを使用する場合には、吸引圧力により膜間差圧を制御することができる。更に、発酵液側の圧力を導入する気体または液体の圧力によっても膜間差圧を制御することができる。これら圧力制御を行う場合には、発酵液側の圧力と多孔性膜処理水側の圧力差をもって膜間差圧とし、膜間差圧の制御に用いることができる。
【0060】
連続発酵による化学品の製造において、原料に糖類を用いる場合、発酵培養液中の糖類濃度は5g/l以下に保持されることが好ましい。発酵培養液中の糖類濃度を5g/l以下に保持することが好ましい理由は、発酵培養液の引き抜きによる糖類の流失を最小限にするためである。
【0061】
微生物もしくは培養細胞の培養は、通常、pH3以上8以下、温度20℃以上60℃以下の範囲で行われる。発酵培養液のpHは、無機の酸あるいは有機の酸、アルカリ性物質、さらには尿素、炭酸カルシウムおよびアンモニアガスなどによって、通常、pH3以上8以下の範囲内のあらかじめ定められた値に調節する。酸素の供給速度を上げる必要があれば、空気に酸素を加えて酸素濃度を21%以上に保つ、発酵培養液を加圧する、攪拌速度を上げる、あるいは通気量を上げるなどの手段を用いることができる。
【0062】
また連続発酵における化学品の製造において、分離膜の洗浄に逆圧洗浄や薬液浸漬による洗浄などを行うため、これらに対する耐久性を有することが要求される。例えば逆圧洗浄液には、水や濾過液を用いる他、発酵に大きく影響しない範囲で、アルカリ、酸または酸化剤、還元剤は、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムなどの無機系還元剤などを使用することができる。ここで、アルカリは、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液などを挙げることができる。酸は、シュウ酸、クエン酸、塩酸、硝酸などを挙げることができる。また酸化剤は、次亜塩素酸塩水溶液、過酸化水素水などを挙げることができる。この逆圧洗浄液は100℃未満の高温で使用することもできる。ここで、逆圧洗浄とは、分離膜の2次側である濾過液側から、1次側である発酵液側へ液体を送ることにより、膜面の汚れ物質を除去する方法である。
【0063】
なお、逆圧洗浄液の逆圧洗浄速度は、膜濾過速度の0.5倍以上5倍以下の範囲であり、より好ましくは1倍以上3倍以下の範囲である。逆圧洗浄速度がこの範囲より高いと、分離膜に損傷を与える可能性があり、またこの範囲より低いと洗浄効果が充分に得られないことがある。
【0064】
逆圧洗浄液の逆圧洗浄周期は、膜差圧および膜差圧の変化により決定することができる。逆圧洗浄周期は、時間あたり0.5回以上12回以下の範囲であり、より好ましくは時間あたり1回以上6回以下の範囲である。逆圧洗浄周期がこの範囲より多いと、分離膜に損傷を与える可能性があり、またこの範囲より少ないと、洗浄効果が充分に得られないことがある。
【0065】
逆圧洗浄液の逆圧洗浄時間は、逆圧洗浄周期、膜差圧および膜差圧の変化により決定することができる。逆圧洗浄時間は、1回あたり5秒以上300秒以下の範囲であり、より好ましくは1回あたり30秒以上120秒以下の範囲である。逆圧洗浄時間がこの範囲より長いと、分離膜に損傷を与える可能性があり、またこの範囲より短いと、洗浄効果が充分に得られないことがある。
【0066】
また逆圧洗浄をする際に、一旦濾過を停止し、逆圧洗浄液で分離膜を浸漬することができる。浸漬時間は、浸漬洗浄周期、膜差圧および膜差圧の変化により決定することができる。浸漬時間は、好ましくは1回あたり1分以上24時間以下、より好ましくは1回あたり10分以上12時間以下の範囲である。
【0067】
分離膜を複数系列とし、分離膜を逆圧洗浄液で浸漬洗浄する際に、系列を切り替えて、濾過が全停止しないようにすることも好ましく採用できる。
【0068】
洗浄液保管タンク、洗浄液供給ポンプ、洗浄液保管タンクからモジュールまでの配管およびバルブは、耐薬品性に優れるものを使用すれば良い。逆圧洗浄液の注入は手動でも可能だが、濾過・逆洗制御装置を設け、濾過ポンプおよび濾過側バルブ、洗浄液供給ポンプおよび洗浄液供給バルブを、タイマーなどにより自動的に制御して注入することが望ましい。
【0069】
連続発酵による化学品の製造では、培養初期にBatch培養またはFed−Batch培養を行って、微生物濃度を高くした後に、連続発酵(引き抜き)を開始しても良い。または、微生物濃度を高くした後に、高濃度の菌体をシードし、培養開始とともに連続発酵を行っても良い。連続発酵による化学品の製造では、適当な時期から原料培養液の供給および培養物の引き抜きを行うことが可能である。原料培養液供給と培養物の引き抜きの開始時期は必ずしも同じである必要はない。また、原料培養液の供給と培養物の引き抜きは連続的であってもよいし、間欠的であってもよい。
【0070】
原料培養液には菌体増殖に必要な栄養素を添加し、菌体増殖が連続的に行われるようにすればよい。発酵培養液中の微生物または培養細胞の濃度は、発酵培養液の環境が微生物または培養細胞の増殖にとって不適切となって死滅する比率が高くならない範囲で、高い状態で維持することが、効率よい生産性を得る上で好ましい態様である。発酵培養液中の微生物または培養細胞の濃度は、一例として、SL乳酸菌を用いたD−乳酸発酵では、乾燥重量として、微生物濃度を5g/L以上に維持することにより良好な生産効率が得られる。
【0071】
連続発酵の運転においては、微生物発酵槽の微生物濃度をモニタリングすることが望ましい。微生物濃度の測定はサンプルを採取し、測定することでも可能だが、微生物発酵槽に、MLSS測定器など、微生物濃度センサーを設置し、微生物濃度の変化状況を連続的にモニタリングすることが望ましい。
【0072】
連続発酵による化学品の製造では、必要に応じて発酵槽内から微生物または培養細胞を引き抜くことができる。例えば、発酵槽内の微生物または培養細胞濃度が高くなりすぎると、分離膜の閉塞が発生しやすくなることから、引き抜くことで、閉塞から回避することができる。また、発酵槽内の微生物または培養細胞濃度によって化学品の生産性能が変化することがあり、生産性能を指標として微生物または培養細胞を引き抜くことで生産性能を維持させることも可能である。
【0073】
連続発酵による化学品の製造では、発酵生産能力のあるフレッシュな菌体を増殖させつつ行う連続培養操作は、菌体を増殖させつつ生産物を生成する連続培養法であれば、発酵反応槽の数は問わない。連続発酵による化学品の製造では、連続培養操作は、通常、培養管理上単一の発酵反応槽で行うことが好ましい。発酵反応槽の容量が小さい等の理由から、複数の発酵反応槽を用いることも可能である。この場合、複数の発酵反応槽を配管で並列または直列に接続して連続培養を行っても発酵生産物の高生産性は得られる。
【0074】
本発明で用いられる連続発酵装置について、図を用いて説明する。
【0075】
図2は、本発明の連続発酵による化学品の製造方法で用いられる連続発酵装置を例示説明するための概略側面図である。図2は、分離膜モジュール10が、発酵槽9の外部に設置された代表的な連続発酵装置の例である。図2において、連続発酵装置は、発酵槽9と分離膜モジュール10と洗浄液供給部で基本的に構成されている。また、洗浄液供給部は、濾過バルブ21と洗浄液供給ポンプ20と洗浄液バルブ22で構成される。また、分離膜モジュール10は、循環ポンプ16を介して発酵槽9に接続されている。
【0076】
図2において、培地供給ポンプ17によって培地を発酵槽9に投入し、必要に応じて、撹拌装置12で発酵槽9内の発酵液を撹拌し、また、必要に応じて、気体供給装置23によって必要とする気体を供給することができる。このとき、供給された気体を回収リサイクルして再び気体供給装置23で供給することができる。また必要に応じて、pHセンサー・制御装置13および中和剤供給ポンプ18によって発酵液のpHを調節することにより、生産性の高い発酵生産を行うことができる。
【0077】
さらに、装置内の発酵液は、循環ポンプ16によって発酵槽9と分離膜モジュール10の間を循環する。発酵生産物を含む発酵液は、分離膜モジュール10によって微生物と発酵生産物に濾過・分離され、装置系から取り出すことができる。また、濾過・分離された微生物は、装置系内にとどまることにより装置系内の微生物濃度を高く維持することができ、生産性の高い発酵生産を可能としている。ここで、分離膜モジュール10による濾過・分離には、循環ポンプ16による圧力によって、特別な動力を使用することなく実施可能であるが、必要に応じて濾過ポンプ19を設け、差圧センサー・制御装置15によって発酵液量を適当に調整することができる。必要に応じて、温度制御装置11によって、発酵槽9の温度を一定に維持することができ、微生物濃度を高く維持することができる。
【0078】
好気発酵においては、発酵槽に気体を供給し、発酵液に酸素を溶解させて発酵を行うが、連続発酵法において、微生物や培養細胞を分離膜で濾過する際、濾液から化学品を回収すると同時に濃縮液中の微生物や培養細胞を発酵培養液に保持または還流させるため、分離膜モジュール10に発酵液をクロスフロー循環させる。この循環を行う送液ラインや分離膜モジュール10に気体を供給することで、発酵槽とは別の場所で、発酵液に酸素を溶解させることもでき、かつ気体の剪断力により分離膜表面へ堆積した微生物等を除去することができる。
【0079】
ここで、気体については、好気性発酵の場合は、酸素を含む気体が必要であり、純酸素で供給しても良く、発酵に悪影響のない気体、例えば、空気、窒素、二酸化炭素、メタン、または前記気体らの混合気体などを混合して酸素の濃度を調整した気体でも良い。一方で嫌気性発酵の場合において、酸素の供給速度を下げる必要があれば、二酸化炭素、窒素、メタンおよびアルゴンなど、酸素を含まないガスを空気に混合して供給することも可能である。
【0080】
気体供給源は、気体を圧縮した後、一定な圧力で気体を供給することが可能な装置、または、気体が圧縮されていて、一定な圧力で気体を供給することが可能なタンクで良い。ガスボンベ、ブロアー、コンプレッサー、あるいは配管によって供給される圧縮ガスなどを使用することができる。
【0081】
また、気体供給源から気体供給口までの配管には流量計などを設置し、気体供給量の測定ができるようにし、前記配管にバルブなどを設置し、供給流量を制御する。バルブは気体の流量を調整することができるもので、自動バルブを設け、気体供給を間欠的に行うことができる。気体供給は、バルブを用いて手動で行うことも可能だが、気体供給量を制御する装置を設け、濾過ポンプおよび濾過側バルブ、気体供給バルブおよび流量計を、タイマーなどにより自動的に制御して供給することが望ましい。前記流量計、バルブ、制御装置を設置しなくても、供給する気体の流量が確認でき、その流量を制御することができるものであれば、特に限定されない。
【0082】
気体供給源から気体供給口までの配管には、発酵系の中に雑菌が入らないように、滅菌用装置や滅菌用フィルタなどを設置することが好ましい。
【0083】
気体供給口は、気体供給源から分離膜モジュール10の1次側に気体を供給することができれば良い。気体供給口は、分離膜モジュール10の下部に設けることも良く、さらには、発酵槽9と分離膜モジュール10とを連通する配管に設けることもできる。循環ポンプ16を用いて発酵槽9から分離膜モジュール10まで発酵液を送液する際には、発酵液と循環ポンプ16の間、または循環ポンプ16と分離膜モジュール10の間に気体供給口を設けることができる。
【0084】
気体供給口の大きさは、気体供給量が供給可能で、かつ、発酵液により詰まりが発生しないような大きさであれば良い。発酵系の中に雑菌が入らないように、滅菌用フィルタなどを設置することもできる。
【0085】
洗浄液の供給方法で用いられる洗浄液供給部は、濾過バルブ21と洗浄液供給ポンプ20と洗浄液バルブ22で構成される。
【0086】
また発酵槽9には直接、水を添加することができ、水供給部は、水供給ポンプ24で構成される。連続発酵装置に添加される物質は、コンタミによる汚染を防止し、発酵を効率よく行うため、滅菌されていることが必要である。例えば、培地原料については、培地原料を調製後に加熱して滅菌しても良い。また、培地原料、pH調製液および発酵槽に添加する水は、必要に応じて、滅菌用フィルタを通すなどして無菌化したものを用いる。
【実施例】
【0087】
以下、本発明の効果をさらに詳細に、上記化学品としてD−乳酸を選定し、実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0088】
(参考例1)多孔性平膜の作製
重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを14重量%、セルロースアセテート(イーストマンケミカル社、CA−435−75S:三酢酸セルロース)を1重量%、N−メチル−2−ピロリドンを77重量%、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸ソルビタン(三洋化成株式会社、商品名イオネット(登録商標)T−20C)を5重量%、水を3重量%の割合で95℃の温度で混合溶解し、ポリエチレンテレフタレート不織布上にキャストし、純水中で凝固させることによって多孔性平膜を作製した。
【0089】
得られた多孔性平膜の被処理水側表面の平均細孔径は、0.08μmであった。次に、上記の分離膜である多孔性平膜について純水透水量を評価したところ、5.8×10-93/m2/s/Paであった。透水量の測定は、逆浸透膜による25℃の温度の精製水を用い、ヘッド高さ1mで行った。
【0090】
(実施例1)
参考例1の多孔性平膜を用いて以下のスパイラル式分離膜モジュールを製作し、実施例1を行った。実施例1における運転条件は、特に断らない限り、以下のとおりである。
発酵槽容量:2(L)
発酵槽有効容積:1.5(L)
使用分離膜:参考例1で作成したポリフッ化ビニリデン多孔性平膜(縦700mm×横80mm)2枚を、3辺を互いに接着して形成した封筒状分離膜として使用した。(総有効膜面積 0.053(m2))
スパイラルモジュール:1本、容器内径36mm、容器有効長さ80mm
温度調整:37(℃)
発酵槽通気量:窒素ガス0.2(L/min)
発酵槽攪拌速度:600(rpm)
pH調整:3N Ca(OH)2によりpH6に調整
乳酸発酵培地供給:発酵槽液量が約1.5Lで一定になる様に制御して添加
発酵液循環装置によるクロスフロー流束: 0.3(m/s)
膜濾過流量制御:吸引ポンプによる流量制御
間欠的な濾過処理:濾過処理(9分間)〜濾過停止処理(1分間)の周期運転
膜濾過流束:0.01(m/day)以上0.3(m/day)以下の範囲で膜間差圧が20kPa以下となる様に可変。膜間差圧が範囲を超えて上昇し続けた場合は、連続発酵を終了した。
【0091】
培地は121℃、20分での飽和水蒸気下の蒸気滅菌をして用いた。微生物としてSporolactobacillus laevolacticus JCM2513(SL株)を用い、培地として表1に示す組成の乳酸発酵培地を用い、生産物である乳酸の濃度の評価には、下記に示したHPLCを用いて以下の条件下で行った。
【0092】
【表1】

【0093】
カラム:Shim-Pack SPR-H(島津社製)
移動相:5 mM p-トルエンスルホン酸(0.8 mL/min)
反応相:5 mM p-トルエンスルホン酸、20 mM ビストリス、0.1 mM EDTA・2Na(0.8 mL/min)
検出方法:電気伝導度
カラム温度:45℃
なお、乳酸の光学純度の分析は、以下の条件下で行った。
カラム:TSK-gel Enantio L1(東ソー社製)
移動相 :1 mM 硫酸銅水溶液
流束:1.0 mL/分
検出方法 :UV 254 nm
温度 :30℃
L-乳酸の光学純度は、次式(1)で計算される。
光学純度(%)=100×(L-D)/(D+L) ・・・(1)
また、D-乳酸の光学純度は、次式(2)で計算される。
光学純度(%)=100×(D-L)/(D+L) ・・・(2)
ここで、LはL-乳酸の濃度を表し、DはD-乳酸の濃度を表す。
【0094】
培養は、まずSL株を試験管で5mLの乳酸発酵培地で一晩振とう培養した(前々々培養)。得られた培養液を新鮮な乳酸発酵培地100mLに植菌し、500mL容坂口フラスコで24時間、30℃で振とう培養した(前々培養)。前々培養液を、図1に示す連続発酵装置の1.5Lの発酵槽に培地を入れて植菌し、発酵槽9を付属の攪拌機12によって攪拌し、発酵槽9の通気量の調整、温度調整、pH調整を行い、循環ポンプ16を稼働させることなく、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後直ちに、循環ポンプ16を稼働させ、前培養時の運転条件に加え、乳酸発酵培地の連続供給を行い、連続発酵装置の発酵液量を1.5Lとなるよう膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵によるD−乳酸の製造を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、濾過ポンプ19により濾過量が発酵培地供給流量と同一となるように制御した。適宜、膜透過発酵液中の生産されたD−乳酸濃度および残存グルコース濃度を測定した。
【0095】
微生物濃度は、OD600を用いて測定した。OD600の測定は、発酵槽9からサンプルを採取し、サンプルのOD600が1前後になるように蒸留水を用いて希釈した後、波長600nmの吸光度を、吸光光度計(島津製作所UV−2450)を用いて測定した。得られた測定値に、蒸留水で希釈した倍率を乗じて、サンプルのOD600として計算した。
【0096】
連続発酵試験を行った結果を表2に示す。図2に示す連続発酵装置において、連続発酵を400時間行うことができ、連続発酵400時間での発酵液のOD600は160で、D−乳酸生産速度は6.5g/L/hrであった。
【0097】
【表2】

【0098】
(参考例2)中空糸膜の作製
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマーとγ−ブチロラクトンとを、それぞれ38重量%と62重量%の割合で170℃の温度で溶解した。この高分子溶液をγ−ブチロラクトンを中空部形成液体として随伴させながら口金から吐出し、温度20℃のγ−ブチロラクトン80重量%水溶液からなる冷却浴中で固化して球状構造からなる中空糸膜を作製した。次いで、重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを14重量%、セルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社製、CAP482−0.5)を1重量%、N−メチル−2−ピロリドンを77重量%、イオネット(登録商標)T−20Cを5重量%、水を3重量%の割合で95℃の温度で混合溶解して高分子溶液を調製した。この製膜原液を、球状構造からなる中空糸膜の表面に均一に塗布し、すぐに水浴中で凝固させて球状構造層の上に三次元編目構造を形成させた中空糸膜を作製した。得られた中空糸膜の被処理水側表面の平均細孔径は、0.04μmであった。次に、上記の分離膜である中空糸多孔性膜について純水透水量を評価したところ、5.5×10-93/m2/s/Paであった。透水量の測定は、逆浸透膜による25℃の温度の精製水を用い、ヘッド高さ1mで行った。
【0099】
(比較例1)
参考例2の中空糸膜を用いて以下の中空糸膜モジュールを製作し、比較例1を行った。比較例1における運転条件は、特に断らない限り、実施例1と同様である。
使用分離膜:ポリフッ化ビニリデン中空糸膜(総有効膜面積 0.053(m2))
中空糸膜本数:154本
中空糸膜有効長:80mm
連続発酵試験を行った結果を表2に示す。図2に示す連続発酵装置において、連続発酵を350時間行うことができ、連続発酵350時間での発酵液のOD600は150で、D−乳酸生産速度は5.6g/L/hrであった。
【0100】
OD600が150と微生物濃度が高い状態では、実施例1に比べて、D−乳酸生産速度が約2割低下し、ろ過性の低下がみられた。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の方法によれば、スパイラル式分離膜モジュールを用いることで、長時間にわたり安定して高生産性を維持した連続発酵が可能となり、広く発酵工業において、発酵生産物である化学品を低コストで安定に生産することが可能となる。
【符号の説明】
【0102】
1:集水管
2:供給液
3:第1の分離膜
4:第2の分離膜
5:濾過液流路材
6:供給液流路材
7:循環液
8:濾過液
9:発酵槽
10:分離膜モジュール
11:温度制御装置
12:撹拌装置
13:pHセンサー・制御装置
14:レベルセンサー・制御装置
15:差圧センサー・制御装置
16:循環ポンプ
17:培地供給ポンプ
18:中和剤供給ポンプ
19:濾過ポンプ
20:洗浄液供給ポンプ
21:濾過バルブ
22:洗浄液バルブ
23:気体供給装置
24:水供給ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵原料を微生物の発酵培養により化学品を含有する発酵液へと変換する発酵工程と、該発酵液から分離膜により濾過液として化学品を回収する膜分離工程を含む連続発酵による化学品の製造方法であって、該分離膜が集水管の周りにスパイラル状に巻き付けられたスパイラル式分離膜モジュールを使用することを特徴とする連続発酵による化学品の製造方法。
【請求項2】
分離膜と分離膜の間の供給液の流路が0.1mm以上10mm以下の厚みであることを特徴とする、請求項1に記載の連続発酵による化学品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−179019(P2012−179019A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44754(P2011−44754)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】