説明

連続的灌流および交互接線流による細胞培養の方法

本発明は、細胞培養培地および細胞を含んでなる細胞培養の連続的灌流培養による細胞の培養のための方法に関し、ここで細胞培養培地は細胞培養に添加され、細胞培養は中空繊維を含んでなるフィルタモジュールにわたって循環され、結果として細胞培養よりも低い細胞密度を有する液体の流出が生じ、フィルタモジュール内の流れは交互接線流である。好ましくは、培養培地は、特定の灌流量で添加され、かつ/またはバイオマスが少なくとも1回培養から除去される。この手法は、特に凝集細胞の培養に適している。本発明は、生物学的物質、好ましくは、抗体が細胞によって製造され、生物学的物質がさらに下流処理で精製されうるかかる方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、細胞の灌流培養に関する。
【0002】
本発明は、細胞培養培地および細胞を含んでなる細胞培養の灌流培養による細胞の培養のための方法を開示するが、ここで細胞培養培地は細胞培養に添加され、ここで細胞培養は中空繊維を含んでなるフィルタモジュールにわたって循環され、結果として細胞培養よりも低い細胞密度を有する液体の流出が生じ、ここでフィルタモジュール内の流れは交互接線流である。
【0003】
意外にも、本発明による動物細胞、具体的には哺乳類細胞、または酵母細胞の灌流培養によって、きわめて高い生存細胞密度を得ることができるが、細胞培養はさらにきわめて高い細胞生存率を提示することが見出されている。さらに、本発明の灌流方法が培養における少ない細胞凝集、および可視凝集体なしに単一細胞の懸濁液である培養さえもたらすことが見出された。これは、灌流細胞培養など低い剪断条件の使用が、一般的に細胞の解離をもたらすことがないという点で驚くべき所見である。灌流細胞培養時の細胞凝集は、例えば、細胞凝集体内の細胞の代謝プロフィールにおける不均一性により方法の制御がより困難であるため不利である。これは特に、細胞が5個の細胞もしくはそれ以上の凝集体を形成する場合、かつその凝集体が全体で細胞の総量の5%もしくはそれ以上を構成する場合に厄介である。
【0004】
灌流方法が米国特許第6,544,424号明細書に記載されている。この文書は、この方法が動物細胞の灌流培養に使用できることに言及してはいるが、本発明において見出されたきわめて高い細胞密度を開示も示唆もしていない。さらに、米国特許第6,544,424B1号明細書は、灌流方法が中空繊維の膜表面上の障害物の付着および増殖を減少させうることを開示しているが、細胞培養そのものにおける細胞が凝集しないことを開示も示唆もしていない。
【0005】
ボアジュ(Voisier)ら(Biotechnol.Bioeng.82(2003年)、751〜765頁)は、懸濁哺乳類細胞の高密度灌流培養におけるさまざまな細胞保持法を検討している。検討された細胞保持系のうち、本発明のきわめて高い細胞生存率と相まってきわめて高い生存細胞密度を提供できるものはない。
【0006】
細胞の灌流培養は、当技術分野におけるその従来の意味を有し、すなわち、培養時に細胞が分離デバイスによって保持されることを意味するが、ここで分離前よりも低い細胞密度を有する液体の流出があり、かつ細胞培養培地の流入がある。本発明の方法においては、分離デバイスは中空繊維を含んでなるフィルタモジュールである。
【0007】
灌流培養としては、連続流および半連続流、例えば、段階的流またはねじれ流が挙げられるが、これらに限定されない。
【0008】
「中空繊維」という語では管膜が意味される。管の内径は、好ましくは、0.3〜6.0mm、より好ましくは、0.5〜3.0mm、最も好ましくは、0.5〜2.0mmである。好ましくは、膜のメッシュサイズは、メッシュの孔のサイズが細胞の直径に近く、細胞の高い保持力を確保すると同時に、細胞残屑がフィルタを通過しうるように選択される。好ましくは、メッシュサイズは3〜30μmである。
【0009】
中空繊維を含んでなるフィルタモジュールは、例えば、ジェネラル・エレクトリック(General Electric)(旧アマシャム(Amersham))から市販されている。
【0010】
「フィルタモジュール内の交互接線流」により、その流れが行ったり来たりする中空繊維の膜表面と(すなわち、その接線と)同じ方向での1つの流れがあり、かつ前記フィルタ表面に対して実質的に垂直の方向で別の流れがあることが意味される。接線流は、当業者に周知の手法に従って達成されうる。例えば、米国特許第6,544,424号明細書においては、交互接線流が中空繊維を含んでなるフィルタモジュールにわたって細胞培養を循環させる1つのポンプを使用し、かつフィルタ分離前に細胞培養より低い細胞密度を有する液体を除去する別のポンプを使用することにより達成されることが記載されている。
【0011】
本発明の方法においては、細胞の培養に適したすべてのタイプの細胞培養培地が原則として使用されうる。細胞培養培地および細胞培養条件を選択するガイドラインは当該技術分野で周知であり、例えば、フレッシュニー(Freshney),R.I.、Culture of animal cells(基本技術マニュアル)、第4版(2000年)、ワイリー・リス(Wiley−Liss)の8章および9章、およびドイル(Doyle),A.、グリフィス(Griffiths),J.B.、ニューエル(Newell),D.G.、Cell&Tissue culture:Laboratory Procedures 1993年、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley&Sons)において示されている。
【0012】
一般に、哺乳類細胞の細胞培養培地は、塩、アミノ酸、ビタミン、脂質、界面活性剤、緩衝剤、成長因子、ホルモン、サイトカイン、微量元素、および糖質を含んでなる。塩の例としては、マグネシウム塩、例えば、MgCl・6HO,MgSO、およびMgSO・7HOイオン塩、例えば、FeSO・7HO、カリウム塩、例えば、KHPO、KCl、ナトリウム塩、例えば、NaHPO、NaHPO、およびカルシウム塩、例えば、CaCl・2HOが挙げられる。アミノ酸の例は、すべて20個の既知のタンパク質新生アミノ酸、例えば、ヒスチジン、グルタミン、トレオニン、セリン、メチオニンである。ビタミンの例としては、アスコルビン酸塩、ビオチン、コリン・Cl、ミオ−イノシトール、D−パントテン酸塩、リボフラビンが挙げられる。脂質の例としては、脂肪酸、例えば、リノール酸およびオレイン酸、大豆ペプトンおよびエタノールアミンが挙げられる。界面活性剤の例としては、トゥイーン(Tween)80およびプルロニック(Pluronic)F68が挙げられる。緩衝剤の例はヘペス(HEPES)である。成長因子/ホルモン/サイトカインとしては、IGF、ヒドロコルチゾン、および(組換え)インスリンが挙げられる。微量元素は当業者に周知であり、例としてはZn、Mg、およびSeが挙げられる。糖質の例としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース、およびピルビン酸塩が挙げられる。
【0013】
細胞培養培地のpH、温度、溶解酸素濃度、および浸透圧は原則として重要ではなく、選択される細胞のタイプによって決まる。好ましくは、pH、温度、溶解酸素濃度、および浸透圧は、細胞の成長および生産性に最適であるように選択される。当業者には灌流培養のための最適なpH、温度、溶解酸素濃度、および浸透圧を見出す方法が周知である。通常、最適なpHは6.6〜7.6であり、最適な温度は30〜39℃であり、最適な浸透圧は260〜400mOsm/kgである。
【0014】
本発明の方法に有利にかけられる細胞は、この方法、すなわち、きわめて高い生存細胞密度およびきわめて高い細胞生存率への培養から恩恵を受けるすべての細胞タイプでありうる。
【0015】
本発明の方法によれば、きわめて高い生存細胞密度が、少なくとも80×10細胞/mL、好ましくは、少なくとも100×10細胞/mL、より好ましくは、少なくとも110×10細胞/mL、より好ましくは、少なくとも120×10細胞/mL、より好ましくは、少なくとも130×10細胞/mL、最も好ましくは、少なくとも140×10細胞/mLである。一般的には、細胞密度における適切な上限が約500×10細胞/mLでありうる。
【0016】
意外にも、本発明のきわめて高い細胞密度は、きわめて高い細胞生存率によって達成される。きわめて高い細胞生存率が、少なくとも90%、好ましくは、少なくとも95%、より好ましくは、少なくとも97%、最も好ましくは、少なくとも99%である。
【0017】
非常に高い生存細胞密度および非常に高い細胞生存率は、一定期間の灌流培養後、一般に細胞が定常状態に達した場合、哺乳類細胞では一般的に灌流培養の開始後12〜25日で達すことが理解されるべきである。
【0018】
本発明の方法は、動物細胞または酵母細胞の培養、特に哺乳類細胞の培養に適している。
【0019】
本発明の方法はさらに、培養時、特に灌流培養時に凝集体(いわゆる凝集細胞)を容易にかつ本質的に形成する細胞の培養に特に適している。意外にも、本発明の方法は、フィルタ膜上の凝集体除去を減少させるだけではなく、灌流培養方法時の細胞の凝集、凝集体を形成する本質的な傾向を有する細胞の凝集も減少させる。本発明による凝集細胞の培養は、結果として、少なくとも5個の細胞の凝集体が最大でも細胞の総量の5%、好ましくは、最大でも4%、より好ましくは、最大でも3%、さらにより好ましくは、最大でも細胞の総量の2%を含んでなる培養をもたらす。特に好ましくは、本発明による凝集細胞の培養は、結果として、真の単一細胞懸濁液である培養をもたらす。
【0020】
凝集細胞は、少なくとも5個の細胞の凝集体を形成する細胞であり、その凝集体は全体で細胞の総量の少なくとも5%を含んでなる。好ましくは、凝集体は、少なくとも6個、より好ましくは、少なくとも7個、さらにより好ましくは、少なくとも8個、さらにより好ましくは、少なくとも9個、さらにより好ましくは、少なくとも10個の細胞からなる。好ましくは、凝集体は、全体で細胞の総量の少なくとも7%、より好ましくは、少なくとも10%、最も好ましくは、少なくとも15%を含んでなる。
【0021】
哺乳類細胞の例としては、CHO(チャイニーズハムスター卵巣)細胞、ハイブリドーマ、BHK(ベイビーハムスター腎)細胞、骨髄腫細胞、ヒト細胞、例えば、HEK−293細胞、ヒトリンパ球様細胞、PER.C6(登録商標)細胞、マウス細胞、例えば、NSO細胞が挙げられる。酵母細胞の例としては、サッカロマイセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ファフィア・ロドジマ(Phaffia rhodozyma)、クリヴェロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、またはピチア(Pichia)属からの酵母細胞が挙げられる。
【0022】
好ましくは、哺乳類細胞、より好ましくは、CHO、NSO、PER.C6(登録商標)細胞が使用される。好ましくは、その培養(凝集細胞)時の凝集反応について周知の細胞も使用される。最も好ましくは、PER.C6(登録商標)細胞が使用される。
【0023】
細胞凝集は、例えば、顕微鏡下に判定されうる。
【0024】
細胞培養培地の培養への添加速度(流入量または灌流量)は、細胞の生存率および密度に影響を及ぼす。
【0025】
本発明の1つの実施形態においては、細胞培養培地は、以下の式1
灌流量=SPR総細胞培養容積生存細胞密度 (1)
(式中、前記灌流量はリットル/日で表され、SPRは比灌流量、すなわち細胞培養培地が、生存細胞/時間単位当たりで添加される培地の容積で表される細胞培養に供給される速度であり、生存細胞密度は生存細胞/容積単位の数である)に従って計算される灌流量で添加される。生存細胞の数は、当業者によって、例えば、トリパンブルー排除法によって判定されうる。
【0026】
比灌流量は、好ましくは、0.01〜0.3nL/細胞/日、より好ましくは、0.01〜0.2nL/細胞/日で選択される。
【0027】
灌流量を調節する際の追加のパラメータ、例えば、培養および/または酸素濃度に供給されるグルコースの量を考慮することは有利でありうる。例えば、PER.C6(登録商標)では、グルコース灌流量は、好ましくは、培地灌流量の一環として、3〜20mmoles/L、より好ましくは、5〜15mmoles/Lで選択される。
【0028】
当業者は流出量を測定する方法を理解している。液体の流出量は灌流量によって測定され、一般に等しい値で選択される。
【0029】
本発明の1つの実施例においては、流出液体は実質的に生存細胞を欠いている。
【0030】
本発明の別の実施形態においては、バイオマス(すなわち、細胞培養における細胞)が細胞培養から少なくとも1回除去され、追加の細胞培養培地が細胞培養に添加され、バイオマス除去を相殺する。バイオマス除去は高い細胞密度をもたらしうる。バイオマスは連続的または段階的に除去されうる。
【0031】
段階的やり方においては、バイオマスは所定の時間に連続的に除去される。段階的やり方が使用される場合は、バイオマス除去は、好ましくは、細胞が定常状態に達する直前または直後に開始される。
【0032】
段階的やり方が使用される場合は、好ましくは、作業量/日の2〜40%、より好ましくは、作業量/日の5〜30%、さらに好ましくは、作業量/日の10〜25%のバイオマスの量が、バイオマス除去ステップ毎に除去される。
【0033】
「作業量」により、細胞培養の総量が意味される。
【0034】
「バイオマス除去ステップ」により、バイオマス除去の開始から停止までの時間が意味される。連続的やり方が使用される場合は、バイオマスは、細胞培養の終了まで連続的に除去される。好ましくは、バイオマスの連続的除去は、細胞が定常状態に達する直前または直後に開始される。好ましくは、バイオマスの量は、作業量/日の2〜40%、より好ましくは、作業量/日の3〜30%、さらに好ましくは、作業量/日の4〜15%で除去される。
【0035】
追加の細胞培養培地の添加は、バイオマス除去を相殺するために行われる。追加の細胞培養培地が細胞培養に添加される供給は、灌流供給に合流されうるが、分離供給でも添加されうる。当業者は、どのくらいの追加の細胞培養培地がバイオマス除去を相殺するために必要であるかを承知している。一般に、追加の細胞培養培地の細胞培養への追加の速度は、バイオマス除去速度と同じなる。
【0036】
本発明のさらに別の実施形態においては、生物学的物質が細胞によって産生される。細胞の灌流培養において適切に産生されうる生物学的物資は原則として、動物、特に哺乳類、および酵母細胞によって産生されうるすべての生物学的物質、例えば、モノクローナル抗体、成長因子またはペプチドホルモン、酵素などの治療的および診断的タンパク質、遺伝子治療において使用されるウイルスベクターなどのポリヌクレオチド、ワクチン等である。
【0037】
本発明の灌流培養方法において、流出液体は、分離前の液体よりも低い細胞密度を有するが、同じ濃度の生物学的物質を有する。
【0038】
好ましくは、本発明による方法は、医療用途を有する生物学的物質である生物医薬品の製造に使用される。生物医薬品の例は以下の通りである(括弧内の対応する生物医薬品の商標の例を含む)。すなわち、テネクテプレース(Tenecteplase)(TN Kase(商標))、(組換え)抗血友病因子(ReFacto(商標))、リンパ芽球様インターフェロンα−n1(WelIferon(商標))、(組換え)凝固因子(NovoSeven(商標))、エタネルセプト(Etanercept)、(Enbrel(商標))、トラスツマブ(Trastuzumab)(Herceptin(商標))、インフリキシマブ(Infliximab)(Remicade(商標))、バシリキシマブ(Basiliximab)(Simulect(商標))、ダクリツマブ(Daclizumab)(Zenapaz(商標))、(組換え)凝固因子IX(Benefix(商標))、エリトロポエチン(erythropoietin)アルファ(Epogen(登録商標))、G−CSF(Neupogen(登録商標)Filgrastim)、インターフェロンアルファ−2b(Infergen(登録商標))、組換えインスリン(Humulin(登録商標))、インターフェロンベータ1a(Avonex(登録商標))、第8因子(KoGENate(登録商標))、グルコセレブロシダーゼ(Cerezyme(商標))、インターフェロンベータ1b(Betaseron(登録商標))、TNFアルファ受容体(Enbrel(登録商標))、卵胞刺激ホルモン(Gonal−F(登録商標))、Mabアブシクスマブ(abcixmab)(Synagis(登録商標)、ReoPro(登録商標))、Mabリチキシマブ(ritiximab)(Rituxan(登録商標))、組織プラスミノゲン活性化因子(Activase(登録商標)、Actilyase(登録商標))、ヒト成長ホルモン(Protropin(登録商標)、Norditropin(登録商標))、GenoTropin(商標))。可能な医療用途を有するポリヌクレオチドの例は、遺伝子治療的プラスミドDNAである。一部の遺伝子治療的DNAは現在、その医療用途のための臨床試験においてテストされている。ワクチンの例は、生、口腔、四価ロタウイルスワクチン(RotaShield(商標))、狂犬病ワクチン(RanAvert(商標))、B型肝炎ワクチン(RECOMBIVAX HB(登録商標)、エンゲリックス(Engerix)(登録商標))、および不活性化A型肝炎ワクチン(VAQTA(商標))である。
【0039】
流出における生物学的物資はさらに、いわゆる下流処理で精製されうる。下流処理は通常、さまざまな組合せおよび順序でいくつかの精製ステップを含んでなる。下流処理における精製ステップの例は分離ステップ(例えば、親和性クロマトグラフィーおよび/またはイオン交換クロマトグラフィーによって)、生物学的物質の濃縮のためのステップ(例えば、限外ろ過またはダイアフィルトレーションによって)、緩衝剤を交換するステップおよび/またはウイルスを除去または不活性化するステップ(例えば、ウイルスろ過、pHシフト、または溶媒界面活性剤処理によって)である。
【0040】
本発明をこれから以下の実施例によって説明するが、しかし、それに限定されることはない。
【0041】
実施例1:生物製剤の製造のためのヒト細胞系PER.C6(登録商標)の方法最適化
序論
多くの発現プラットフォームが現在、生物製剤の製造のために存在する。新しい製品の大部分は、主要部分において、これらの細胞は含有し、その他は欠く、グリコシル化機構により、哺乳類系を選択する必要がある。しかし今日まで、これらの細胞の細胞量および結果として得られる生産性は、これらの細胞がかかる製品を製造する機構を有した場合は、対応する微生物系の10〜100倍低い因子である。
【0042】
灌流培養構成が、生物製剤の製造を良好にさせる多くの特徴を有するヒト細胞系であるPER.C6(登録商標)細胞系のために開発された。灌流構成は培養ブロスのさまざまな成分の分離を含み、細胞が保持され、集菌が捕捉され、培地清浄化が起こる。PER.C6(登録商標)細胞系のスピンフィルタ、音響デバイス、および交互接線流(ATF)ユニットを評価した。
【0043】
材料と手法
細胞系および維持:PER.C6(登録商標)細胞系をヒトIgGを産生する本試験において使用した。6mM L−グルタミン(ジブコ(Gibco))を補充した血清を含有しない市販の培地(EX−CELL(商標)VPRO培地、JRHバイオサイエンス社(Biosciences))中に細胞を維持した。PER.C6(登録商標)細胞系は、ホスホグリセレートキナーゼプロモータを使用することによりアデノウイルスタイプ5(ad5)E1遺伝子で不死化したヒト胚細胞系である。
【0044】
バイオリアクター構成:1Lおよび4L作業量リアクター(アプリコン(Applikon)、オランダ、およびB.ブラウン(Braun)、ドイツ)を本試験中に使用した。ブラウン(Braun)DCU3コントローラー(B.ブラウン(Braun)、ドイツ)を使用し、規定設定点で方法を操作した。温度を36.5℃(範囲35.5〜37.5℃)で維持した。ヘッドスペースを通じた吸気組成物の自動調整および微孔性スパージャーによる一時的散布で50%(範囲40〜60%)の空気飽和で溶解酸素濃度を制御した。pH設定点は7.1(範囲6.7〜7.5)であり、ヘッドスペースを介しCOの流れによって制御した。細胞を発酵槽において接種生存細胞密度範囲0.2〜0.510細胞/mLで接種した。灌流は1〜310細胞/mLの範囲の生存細胞密度で開始した。
【0045】
細胞保持:3種類のデバイスを使用してリアクター内で細胞を保持した。最初に10μmの細孔径を有するスピンフィルタ(GKD、デューレン(Dueren)、ドイツ)を使用した。次に、Biosep AD1015細胞保持システムおよびコントローラー(アプリセンス(AppliSens)、オランダ)を使用した。最後に、関連中空繊維膜モジュールを有するATF−4制御ユニットおよびハウジング(リファイン・テクノロジー(Refine Technology)、米国(USA))を評価した。使用された中空繊維フィルタはモデルCFP−2−E−8SIP(0.2ミクロン、面積:4600cm、マゼラン・インスツルメンツ(Magellan instruments)から得られたアマシャム・バイオサイエンス(Amersham Bioscience)、米国(USA))であった。一定の培養量を維持するためにレベルセンサ制御ループが実施中であった。
【0046】
分析的手法:バイオリアクターからの細胞計数をトリパンブルー排除法を使用して行った。生存細胞の数は以下の通り測定された。すなわち、トリパンブルーで染色した細胞の量をフックス・ローゼンタール(Fuchs Rosenthal)血球計算器に移した。血球計算器のチャンバを顕微鏡下に配置し、適切な数のボックスを計算した。生存細胞密度を以下の式:
生存細胞密度(×10細胞/ml)=(A+B)×E/320 (2)
(式中、
A=四角Aにおける非染色細胞の数
B=四角Bにおける非染色細胞の数
E=希釈係数)を使用して計算した。
【0047】
UV280nmの吸収検出でHPLCを使用して分析的プロテインAカラムによって抗体濃度を測定し、実際の濃度をIgG1標準品の較正曲線に基づき測定した。
【0048】
結果
灌流培養
上記の材料および手法で得られた結果は図1〜図6に示されている。
【0049】
概要
異なるタイプの灌流で得られたデータの要旨については表1を参照。
【0050】
【表1】

【0051】
ATFユニットを使用した連続的灌流実験は、非常に高い細胞密度および生成物濃度(100×10細胞/mLおよび0.9g/L/日)を達成する大きな可能性を示すが、PER.C6(登録商標)細胞の凝集は観察されなかったと結論づけることができる。
【0052】
実施例2:灌流によるPER.C6(登録商標)細胞の培養
機器:B.ブラウン(Braun)発酵槽制御ユニット(ブラウン(Braun)、ドイツ)、7Lブラウン(Braun)管、および付随pH、溶解酸素(DO)、およびレベルセンサプローブ(ブラウン(Braun)、ドイツ)を備えたヘッドプレート、ATF−4制御ユニット、および付随中空繊維膜モジュール(リファイン・テクノロジー(Refine Technology)、米国(USA))。
【0053】
フィルタ
フィルタモデル:CFP−2−E−8SIP
タイプ:0.2ミクロン
面積:4600cm
アマシャム・バイオサイエンス(Amersham Bioscience)
【0054】
作業量
設定点:4.1L
範囲:3.8−4.7L
【0055】
【表2】

【0056】
流出率
バイオマス除去はこの方法には適用されなかった。
【0057】
材料:EX−CELL(商標)VPRO培地(JRHバイオサイエンス(Bioscience)、米国(USA))、12%NaCO中6mM(最終濃度)L−グルタミン(ジブコ(Gibco))を使用してpHを制御する。
【0058】
細胞系および培養条件
モデルIgGを発現するPER.C6(登録商標)細胞系を本試験で検討した。PER.C6(登録商標)細胞系は、網膜由来初代ヒト細胞から産生された。PER.C6(登録商標)細胞系は、完全なヒトモノクローナル抗体(グリカンを含む)(参考文献1、参考文献2)を産生することが可能である。
【0059】
エアレニマー(Erlenymer)フラスコを110rpmおよび36.5℃下に攪拌して細胞を培養した。これらのフラスコのヘッドスペースを5%CO/空気の混合物を使用して制御した。
【0060】
参考文献1:ジョーンズ(Jones),D.H.、バン・ベルケル(van Berkel),P.H.C.、ログテンベルク(Logtenberg),T.、およびバウト(Bout),A.2002年「PER.C6 cell line for human antibody production」、Gen.Eng.News 22、50−54頁。
【0061】
参考文献2:ジョーンズ(Jones),D.ら、2003年、「High−level expression of recombinant IgG in the human cell line PER.C6」、Biotechnol.Prog.19、163−168頁。
【0062】
発酵槽の操作
溶解酸素圧、pH、温度、および攪拌速度が下記の通り制御された発酵槽で細胞を培養した。
【0063】
【表3】

【0064】
方法の説明:
接種生存細胞密度範囲0.2−0.5×10細胞/mlおよび設定点0.3×10細胞/mlの発酵槽で細胞を接種する。灌流は、2×10細胞/mlを上回る生存細胞密度または培養の5日時点のいずれかが最初に達成されると開始される。
【0065】
灌流量は、培養の細胞密度に依存し、使用される灌流量は以下の表に記載されている。流量および希釈率は、発酵槽内の細胞密度の増大に応じて調節される。
【0066】
【表4】

【0067】
本実施例からの実際のデータおよび結果(とりわけ本実施例において使用された流量および比灌流量)は、以下の表2および図7および図8に示されている。
【0068】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】スピンフィルタ分離デバイスを使用したPER.C6(登録商標)クローンを産生するIgG1の2種類の連続的灌流の生存細胞密度(×10細胞/ml)対培養時間(日)。1Lアプリコン(Applikon)発酵槽の攪拌速度設定は100〜150rmpであった。灌流ランは1L作業量で行った。両方の灌流ランの比灌流量(SPR)は0.1〜0.3nL/細胞/日であった。両方の場合に灌流ランはスピンフィルタの目詰まりにより終了しなければならなかった。
【図2】細胞保持系として音響デバイスを備えた連続的灌流システムにおいてPER.C6(登録商標)を産生するIgG1の成長。1Lアプリコン(Applikon)発酵槽の攪拌速度設定は100〜150rmpであった。ラン/停止サイクルに使用された設定は前方300秒および後方4.5秒であった。ラン時にこれは300秒/3秒サイクル(15日目)に適合させた。灌流ランの比灌流量(SPR)は、0.1〜0.3nL/細胞/日であった。
【図3】細胞保持システムとしてATF−4ユニットを備えた連続的灌流システムにおけるPER.C6(登録商標)細胞を産生するIgG1の成長。実験は4Lアプリコン(Applikon)発酵槽で行われた。攪拌速度の設定は125rpmであった。ATF−4では0.5〜3作業量/日で操作された。SPRは0.03〜0.08nL/細胞/日で設定された。差込図は培養の高い細胞密度を示し、凝集細胞を完全に欠いている。
【図4】スピンフィルタ分離デバイスを使用したPER.C6(登録商標)クローンを産生するIgG1の2種類の連続的灌流発酵のIgG1対培養時間(日)の生産性。
【図5】細胞保持システムとしての音響デバイスを備えた連続的灌流システムにおけるPER.C6(商標)細胞を産生するIgG1の生産性。
【図6】細胞保持システムとしてのATFユニットを備えた連続的灌流システムにおけるPER.C6(登録商標)細胞を産生するIgG1の生産性。
【図7】灌流方法を使用して培養されたPER.C6(登録商標)の細胞培養時間(日)対流(L/日)および比環流量(nl/細胞/日でのSPR)。
【図8】実施例2に記載された手順を使用した生存細胞密度および細胞生存率。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養培地および細胞を含んでなる細胞培養の連続的灌流培養による細胞の培養のための方法であって、
前記細胞培養培地が前記細胞培養に添加され、
前記細胞培養が、中空繊維を含んでなるフィルタモジュールにわたって循環され、結果として前記細胞培養よりも低い細胞密度を有する液体の流出が生じ、かつ前記フィルタモジュール内の流れが交互接線流である方法。
【請求項2】
前記細胞培養培地が、式1:
灌流量=SPR総細胞培養容積生存細胞密度(1)
(式中、前記灌流量はリットル/日で表され、SPRは比灌流量、すなわち前記細胞培養培地が、生存細胞/時間単位当たりで添加される培地の容積で表される前記細胞培養に供給される速度であり、前記生存細胞密度は生存細胞/容積単位の数である)に従って計算される灌流量で添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記SPRが、0.01〜0.3nL/細胞/日である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
バイオマスが少なくとも1回、前記細胞培養から除去され、かつ追加の細胞培養培地が前記細胞培養に添加される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記バイオマスの除去が、前記細胞が定常状態に達する直前または直後に開始される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
バイオマスの容積が、細胞培養/日の全容積の2〜40%で除去される、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記交互接線流が、中空繊維を含んでなるフィルタモジュールにわたって前記細胞培養を循環させる1つのポンプを使用し、かつ前記フィルタ分離前に前記細胞培養より低い細胞密度を有する液体を除去する別のポンプを使用することにより達成される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞が、少なくとも80×10細胞/mlの生存細胞密度および少なくとも90%の細胞生存率に培養される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも5個の細胞の凝集体が、細胞の総量の最大でも5%を含んでなる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞が動物細胞、好ましくは、哺乳類細胞、または酵母細胞である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞が哺乳類細胞である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記哺乳類細胞がPER.C6(登録商標)細胞である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞が生物学的物質を産生する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記生物学的物質が、モノクローナル抗体、成長因子またはペプチドホルモン、酵素、遺伝子治療において使用されるウイルスベクターなどポリヌクレオチド、もしくはワクチンなど治療的または診断的タンパク質、好ましくは、モノクローナル抗体である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記生物学的物質がさらに下流処理で精製される、請求項13または14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−525984(P2007−525984A)
【公表日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−501239(P2007−501239)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【国際出願番号】PCT/EP2005/002374
【国際公開番号】WO2005/095578
【国際公開日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】