説明

連続鋳造二次冷却用スプレーノズルの冷却能評価装置及び評価方法

【課題】 従来方法に比較して極めて容易に、連続鋳造機の二次冷却帯に設置されるスプレーノズルの冷却能を実測することのできるスプレーノズル冷却能評価装置を提供する。
【解決手段】 本発明の冷却能評価装置は、スプレー水またはエアーミストを噴霧するスプレーノズル1と、発熱抵抗体及び発熱抵抗体を被覆する被覆鋼管9を有し、スプレーノズルからの冷却水が噴霧される発熱器4と、発熱器に電力を供給する定電圧電源15と、発熱器に流れる電流を測定する電流測定手段14と、被覆鋼管の冷却部の表面温度を測定する第1の測温素子12と、被覆鋼管の内面の表面温度を測定する第2の測温素子13と、第1,2の測温素子による測定値を温度に換算するとともに記憶する温度記録手段16と、温度記録手段からの表面温度測定値、定電圧電源からの電圧値及び電流測定手段からの電流値に基づいてスプレーノズルの熱伝達係数を算出する演算手段17とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造中の鋳片を冷却するために、連続鋳造機の二次冷却帯に設置されるスプレーノズルの冷却能評価装置及び評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造機には、鋳造される鋳片の外殻を形成するための鋳型の直下に複数対の鋳片支持ロールが配置され、そして、鋳造方向に隣り合う鋳片支持ロールの間隙には多数のスプレーノズルが配置されており、鋳型によって冷却されてその外殻が形成された鋳片は、鋳型から引き抜かれた後、鋳片支持ロールで支持されながら引き抜かれ、その間、スプレーノズルから噴霧される冷却水によって冷却され、やがて鋳片中心部までの凝固を完了する。この連続鋳造機において、鋳片を冷却するためのスプレーノズルの配置された領域は二次冷却帯と呼ばれており、スプレーノズルとしては、一般的に、冷却水のみを噴霧する水スプレーノズルまたは冷却水と空気との混合体を噴霧するエアーミストスプレーノズルが使用されている。本発明においては、水スプレーノズル及びエアーミストスプレーノズルをまとめてスプレーノズルと称する。
【0003】
近年、生産性向上の観点から、鋳片の引き抜き速度が増速される傾向であり、それに伴ってスプレーノズルの冷却能を高くすることが必要となっている。一方、連続鋳造機で鋳造する鋼種が多岐にわたり、高合金鋼や亜包晶鋼などは冷却強度が高すぎると、熱応力による表面割れを起したり、冷却し過ぎて曲げ及び矯正時の応力によって表面割れを起したりすることから、均一で且つ緩冷却が可能であることも要求されている。
【0004】
従来、スプレーノズルの冷却能を測定する方法は、予め所定の位置に熱電対を埋め込んだ鋼片(20〜100kg程度)を加熱炉中で加熱し、炉内で所定の温度(1000℃程度)まで昇温した後、加熱炉から鋼片を取り出し、スプレーノズルで鋼片表面を冷却し、前記熱電対のそのときの温度変化から熱伝達率を算出する方法が一般的であった(例えば、非特許文献1〜3を参照)。
【0005】
図5は、従来のスプレーノズルの冷却能を測定する方法を示す斜視図であり、加熱した鋼片18の上方所定位置にスプレーノズル1を配置し、スプレーノズル1からスプレー水或いはエアーミスト(水と空気との混合体)を鋼片18の表面に噴霧し、鋼片18の噴霧面3とは反対側の熱電対埋め込み位置19に設置した熱電対(図示せず)によって鋼片18の温度変化を測定し、この温度変化測定値からスプレーノズルで冷却したときの熱伝達率を算出するという方法である。
【0006】
しかしながら、このような方法を用いる場合には、以下のようなデメリットがあることも知られている。
【0007】
即ち、(1):鋼片のスプレーノズルによる冷却以外の温度低下を避ける必要があることから、鋼片が大きくなり、それに伴って装置が大掛かりになるために、電動式或いは機械式の鋼片搬送装置が必要になること、(2):幅方向や鋳造方向の温度分布を詳細に測定するためには、多数の熱電対を鋼片の所定の深さ位置に制度良く設置する手間が必要であること、(3):強冷却の条件や冷却ムラが生じるような条件では鋼片に反りや変形が発生し、連続した使用が困難になること、(4):スケールの生成が顕著な鋼種を加熱用鋼片とした場合には、加熱中に生成したスケールの剥離の有無によって温度測定値にばらつきが発生すること、(5):実際の連続鋳造時には鋳片内部に未凝固部分が存在するので、常に内部からの熱供給が伴う状態での冷却であるのに対し、冷却される鋼片は加熱されただけであって発熱源はなく、ただ冷却されるだけの非定常状態の冷却現象であること、などである。
【0008】
このようなことから、現状では、スプレーノズルの冷却能を測定によって求めることは一般的ではなく、スプレーノズルのメーカーがオフラインで測定した水量密度や衝突水圧のデータに則って、連続鋳造機での実際の設置条件(ノズル高さ、水量密度、空気量、背圧など)から経験的な冷却条件推算式を求め、求めた冷却条件推算式を凝固伝熱計算に採用して凝固厚みを算出し、この計算結果からスプレーノズルの冷却能を求めることが行われている。
【0009】
尚、伝熱計算に採用する熱伝達係数の推算式として、前記非特許文献3は下記の(1)式を提案している。
h=a1×P0.2673×W0.3738×10-0.0016To…(1)
但し、(1)式において、hは熱伝達係数(kcal/m2・hr・℃)、a1は定数、Pは衝突圧(kg/m2)、Wは水量密度(m3/m2・秒)、Toは鋳片表面温度(℃:適用温度範囲500〜800℃)である。
【0010】
前述したように、連続鋳造におけるスプレーノズルに要求される特性は多様化しているが、スプレーノズルの冷却能を実験により求めることは手間隙を費やし、コスト上昇となることから十分な対応はできず、特に、新しい型式のスプレーノズルを開発するとき以外には、スプレーノズルのメーカーがオフラインで測定した水量密度や衝突水圧のデータを、ユーザーとの間で取り決めた仕様と照らし合わせ、仕様を満足していることで連続鋳造機に設置されるのが一般的であった。
【非特許文献1】佐々木等、鉄と鋼、vol.65(1979)No.1,p.90
【非特許文献2】三塚、鉄と鋼、vol.54(1968)No.14,p.1457
【非特許文献3】手嶋等、鉄と鋼、vol.74(1988)No.7,p.1282
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、従来の方法に比較して極めて容易に、連続鋳造機の二次冷却帯に設置されるスプレーノズルの冷却能を実測することのできる評価装置及び評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための第1の発明に係る連続鋳造二次冷却用スプレーノズルの冷却能評価装置は、スプレー水またはエアーミストを噴霧するスプレーノズルと、発熱源としての発熱抵抗体及び該発熱抵抗体を被覆する被覆鋼管を有し、前記スプレーノズルから所定距離隔てた位置に配置され、前記スプレーノズルからのスプレー水またはエアーミストが噴霧される発熱器と、前記発熱抵抗体に電力を供給する定電圧電源と、前記発熱抵抗体に流れる電流を測定する電流測定手段と、前記被覆鋼管のスプレー水またはエアーミストが噴霧される部位の表面温度を測定する第1の測温素子と、前記被覆鋼管の内面の表面温度を測定する第2の測温素子と、前記第1及び第2の測温素子による測定データを温度に換算するとともに測定データを記憶する温度記録手段と、該温度記録手段から入力される表面温度測定値、前記定電圧電源から入力される電圧値及び前記電流測定手段から入力される電流値に基づいて前記スプレーノズルの熱伝達係数を算出する演算手段と、を具備することを特徴とするものである。
【0013】
第2の発明に係る連続鋳造二次冷却用スプレーノズルの冷却能評価装置は、第1の発明において、前記発熱抵抗体は、ニッケル−クロム合金、白金または白金系合金であることを特徴とするものである。
【0014】
第3の発明に係る連続鋳造二次冷却用スプレーノズルの冷却能評価方法は、連続鋳造二次冷却用のスプレーノズルからスプレー水またはエアーミストを、発熱抵抗体への通電により加熱された、該発熱抵抗体を被覆する被覆鋼管に噴霧し、そのときの前記被覆鋼管のスプレー水またはエアーミストが噴霧される部位の表面温度と、その内面側の表面温度とを測定し、測定したこれらの表面温度に基づいて前記スプレーノズルの熱伝達係数を算出することを特徴とするものである。
【0015】
第4の発明に係る連続鋳造二次冷却用スプレーノズルの冷却能評価方法は、連続鋳造二次冷却用のスプレーノズルからスプレー水またはエアーミストを、発熱抵抗体への通電により加熱された、該発熱抵抗体を被覆する被覆鋼管に噴霧し、そのときの前記発熱抵抗体の両端部間での電圧及び前記発熱抵抗体に流れる電流を測定するともに前記被覆鋼管のスプレー水またはエアーミストが噴霧される部位の表面温度を測定し、測定した電圧、電流及び表面温度に基づいて前記スプレーノズルの熱伝達係数を算出することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、発熱抵抗体により加熱された被覆鋼管をスプレーノズルからの冷却水によって冷却し、そのときの被覆鋼管の内外面の表面温度、或いは、被覆鋼管の外面表面温度、発熱抵抗体の両端部間での電圧及び発熱抵抗体に流れる電流に基づいてスプレーノズルの熱伝達係数を求めるので、従来の鋼片を加熱する方法に比較して極めて簡便にスプレーノズルの冷却能を評価することができ、これにより、実際の鋳造時での冷却強度を精度良く予測することが可能となり、表面割れを発生させることなく、鋳造速度の高速化が達成されるなど、工業上有益な効果がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明を具体的に説明する。図1は、本発明に係るスプレーノズルの冷却能評価装置の構成を示す概略図である。
【0018】
図1において、2個のスプレーノズル1が所定の間隔で支持台(図示せず)で保持されて配置されており、このスプレーノズル1の先端から所定の距離Zだけ離れた位置に、発熱器4が設置されている。距離Zは、スプレーノズル1を連続鋳造機に設置したときの鋳片表面とスプレーノズル1の先端との距離に一致させる。つまり、スプレーノズル1を連続鋳造機に設置し、このスプレーノズル1から鋳片表面に向けてスプレー水またはエアーミスト(水と空気との混合体)を噴霧したときに鋳片表面に形成される噴霧面3に相当する位置に、発熱器4を設置する。スプレーノズル1に供給される冷却水は、その温度(Tw)が例えば供給管(図示せず)に配置した測温素子などよって測定されている。
【0019】
尚、図1では、スプレーノズル1が2個設置されているが、スプレーノズル1を1個だけ設置することも可能である。また、スプレーノズル1が水スプレーノズルの場合には、スプレー水が噴霧され、スプレーノズル1がエアーミストスプレーの場合には、エアーミストが噴霧されるが、ここでは、噴霧されるスプレー水及びエアーミストをまとめて噴霧体2と称し、区別する場合には、スプレー水或いはエアーミストと記すものとする。
【0020】
発熱器4の断面概略図を図2に示す。図2に示すように、絶縁管5の周囲に、絶縁体7によってサンドイッチ状に挟まれて発熱抵抗体6の細線が巻かれており、このサンドイッチ状構造の絶縁体7及び発熱抵抗体6の周囲に、鋼製の被覆鋼管9が設置され、この被覆鋼管9と、絶縁体7及び発熱抵抗体6のサンドイッチ状構造との間に絶縁材8が充填されて、発熱器4が構成されている。被覆鋼管9の内部には冷却水が侵入しないように、防水構造となっている。被覆鋼管9としては、スケールの生成を防止する観点から、ステンレス鋼が好ましいが、インコネルや普通鋼などを用いることも可能である。絶縁管5は、アルミナ管やマグネシア管などの耐火物製の管を使用し、絶縁体7及び絶縁材8としては、アルミナ粉やマグネシア粉などの粉体の耐火物を使用することが、高温での安定性に優れることから好ましい。
【0021】
発熱器4の被覆鋼管9が設置された側の反対側には端子10が設けられ、端子10を介して発熱抵抗体6へ電力が供給されるようになっている。端子10は防水・防熱処理が施されている。
【0022】
また、被覆鋼管9には、その外面に第1の測温素子12が溶接などによって密着され、この第1の測温素子12が密着された部位の内面側には、第2の測温素子13が溶接などによって密着されている。第1の測温素子12及び第2の測温素子13としては、細いことにより、噴霧体2の障害になりにくいことから、直径0.5mm程度のシース熱電対(Kタイプ)が最適である。第1の測温素子12及び第2の測温素子13は温度記録計16と接続しており、第1の測温素子12及び第2の測温素子13による測定データを受けた温度記録計16は、測定データを温度表示するとともに記憶する。
【0023】
上記の発熱器4としては、発熱抵抗体6としてニッケル−クロム合金などが使用された市販の加熱ヒーターを用いるのが簡便ではあるが、900℃以上の高温データが必要な場合には、発熱抵抗体6として白金或いは白金系合金(白金−ロジウム合金など)を使用することが好ましい。
【0024】
端子10はケーブル11と接続され、ケーブル11は定電圧電源15と連結されており、発熱抵抗体6には、定電圧電源15から任意の一定電圧の電力が供給されるようになっている。また、ケーブル11には、発熱抵抗体6に流れる電流を測定するための電流測定装置14が設置されている。電流測定装置14、定電圧電源15及び温度記録計16は、電流測定装置14から入力される電流値、定電圧電源15から入力される電圧値及び温度記録計16から入力される表面温度の測定データに基づき、スプレーノズル1の熱伝達係数を算出するための演算装置17と接続されている。熱伝達係数を演算する際には冷却水温度Twも必要であり、従って、演算装置17には冷却水温度Twも入力されるようになっている。
【0025】
図1に示す冷却能評価装置では、発熱器4が1基であり、一方、スプレーノズル1の噴霧面3のそれぞれの部位における熱伝達係数を測定する必要があり、従って、噴霧面3のそれぞれの部位における熱伝達係数を測定するために、本発明に係る冷却能評価装置では、スプレーノズル1或いは発熱器4を二次元の任意の位置に移動可能なように構成されている。図1に示す冷却能評価装置では、発熱器4を保持する支持台(図示せず)が図1に示す幅方向X及びこれに直交する鋳造方向Yに移動可能に構成されている。発熱器4を複数設置することも可能であるが、測定点が多いことから、発熱器4を複数設置したとしても、一度の測定のみで全ての測定点の測定が完了することはなく、従って、本発明に係る冷却能評価装置において移動装置は必要である。
【0026】
測定の手順は、例えば以下の方法で行なうことができる。
1)スプレーノズル1を所定の条件に設定し、所定の噴霧体2を噴霧しながら、定電圧電源15から発熱器4に電力を供給する。
2)500℃程度で温度が一定となったなら、電圧を徐々に上昇させていき、被覆鋼管9の外表面の温度を測定する第1の測温素子12の温度が600〜1000℃となる区間で、そのときの電圧値及び電流値を記録する。
3)発熱器4を図1に示す幅方向Xまたは鋳造方向Yに所定の量移動させ、そこで同様に上記の2)を実施する。
4)必要とする測定範囲の測定が終了したなら、冷却水量、空気量などを変化させ、上記の2)及び3)の測定を繰り返し実施する。
【0027】
記録した測定結果に基づき、以下の評価方法で熱伝達係数を算出する。
【0028】
1つ目の評価方法は以下のとおりである。それぞれの測定時期における第1の測温素子12による表面温度Tsと、冷却水温度Twと、電力値Q(=電圧×電流)とから、下記の(2)式に示す値(以下、「C値」と呼ぶ)を求める。
C値=a2×Q/(Ts−Tw)…(2)
但し、(2)式において、a2は比例定数であり、発熱抵抗体6の種類や長さ、及び被覆鋼管9の厚みや材質などにより決定されるものである。
【0029】
図3に、第1の測温素子12による表面温度Ts、つまり冷却面の表面温度とC値との関係を示す。図3には、前述した図5に示す従来の評価方法で測定した熱伝達係数hを●印で表示している。
【0030】
図3に示すC値の曲線は、従来測定されている伝熱モード(核沸騰領域、遷移沸騰領域、膜沸騰領域)と温度的に対応しており、C値は熱伝達係数hに対応していることが分かる。また、C値は従来の評価方法で測定した熱伝達係数hである●印と極めて良い相関関係があり、これらから、C値と熱伝達係数hとの間には、下記の(3)式で示す比例関係があることが分かる。
h=a3×C値…(3)
但し、(3)式において、a3は比例定数であり、発熱抵抗体6の種類や長さ、被覆鋼管9のスケール生成状況などにより若干変化するため、測定前に校正しておくことが望ましい。尚、上記のC値と熱伝達係数hとの比例関係は、冷却面の冷却が活発な場合は、発熱抵抗体6が高電力で発熱しないと冷却面の温度を高温に保持できないことに対し、冷却面の冷却が弱い場合や冷却面に膜沸騰などが形成されて冷却を阻害する場合には、発熱抵抗体6に付与される電力量が小さくても温度が上昇することに由来する。
【0031】
即ち、熱伝達係数を求める1つ目の方法は、C値から上記の(3)式を用いて求める方法である。但し、この場合には、比例定数a3を正確に把握する必要があり、従って、例えば、前述した図5に示す従来の評価方法を用いて少なくとも或る条件下で熱伝達係数hを測定し、測定した熱伝達係数hから比例定数a3を把握するなどが必要である。
【0032】
また、次の方法でも熱伝達係数hを求めることができる。
【0033】
本発明においては、熱流束qに対して下記の(4)式及び(5)式が成立する。
q=h(Ts−Tw)…(4)
q=λs/D×(Th−Ts)…(5)
但し、(4)式及び(5)式において、Tsは、第1の測温素子12による表面温度測定値、Twは冷却水温度、λsは被覆鋼管9の熱伝導率、Dは被覆鋼管9の厚み、Thは第2の測温素子13による表面温度測定値である。
【0034】
(4)式及び(5)式から、下記の(6)式により熱伝達係数hが算出される。
h=λs/[D×(Th−Ts)×(Ts−Tw)] …(6)
本発明で測定している電力値Qは、下記の(7)式で示すように、熱流束qに比例した値を示すことから、上記の関係が得られるものである。
Q∝λs/D×(Th−Ts)…(7)
即ち、第1の測温素子12による表面温度測定値Tsと、第2の測温素子13による表面温度測定値Thとを(6)式に代入することで、熱伝達係数hを直接測定することができる。ここで、被覆鋼管9の熱伝導率λs及び厚みDは別途演算装置17に入力される。
【0035】
また、熱伝達係数hの他の測定方法として、一旦所定温度まで空気中で発熱抵抗体6に通電して被覆鋼管9の表面温度を600〜1000℃に上昇させ、その後にスプレーノズル1から噴霧体2を噴霧し、そのときの被覆鋼管9の表面温度の低下速度と電力値Qとを用いても、熱伝達係数hを算出することができる。但し、この場合には発熱器4の寿命が短くなるという問題がある。
【0036】
また更に、スプレーノズル1の冷却能を指数的に評価する場合には、発熱抵抗体6に一定電圧を付与したときの電流値と被覆鋼管9の表面温度のみを測定することで、簡易評価することも可能である。
【0037】
本発明に係る冷却能評価装置は、サイズが小さく、簡易な構造であるので、実機連続鋳造機のダミーバーやセグメントに設置することが可能であり、このようにすることで、実機でスプレーノズルを噴霧させて熱伝達係数hを測定することも可能である。
【0038】
以上説明したように、本発明によれば、発熱抵抗体6により加熱された被覆鋼管9をスプレーノズル1からの噴霧体2によって冷却し、そのときの被覆鋼管9の内外面の表面温度、或いは、被覆鋼管9の外面の表面温度、発熱抵抗体6の両端部間での電圧及び発熱抵抗体6に流れる電流に基づいてスプレーノズル1の熱伝達係数を求めるので、従来の鋼片を加熱する方法に比較して極めて簡便にスプレーノズル1の冷却能を評価することが可能となる。
【実施例1】
【0039】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
【0040】
図1に示す冷却能評価装置において、発熱抵抗体が白金線であり、発熱抵抗体部分の長さが50cm、定格が100V、200Wで、ステンレス鋼を被覆鋼管とする発熱器を使用し、この発熱器との距離Zを300mmとして2個の水スプレーノズルを配置し、発熱抵抗体に定電圧電源から特定の電圧を付与して測定した。2個の水スプレーノズルの間隔は300mm、1個の水スプレーノズルあたりの水量は20L/分とした。水スプレーノズルの噴霧角度は90度である。
【0041】
図4に、前述した(3)式によりC値から求めた熱伝達係数hの測定結果の例を示す。図4の縦軸は熱伝達係数を指標化して示したもので、第1の測温素子の温度が800℃のときの値であり、10秒以上にわたって安定した状態のときの測定データに基づいている。また、図4には、同一の冷却条件下で、前述した図5に示す従来の評価方法を用いて測定した熱伝達係数hを●印で表示している。
【0042】
図4に示すように、本発明を適用して測定した値(本発明例)と、従来方法で測定した値(従来例)とは、ほぼ同等の値であり、且つ、同等の傾向を示すことが確認できた。即ち、本発明により熱伝達係数hを正確に且つ簡便に評価できることが確認できた。また、本発明では、測定位置を任意の位置に変更できることから、従来方法の場合の熱電対設置位置の制約も解消でき、測定の利便性を飛躍的に改善することが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係るスプレーノズル冷却能評価装置の構成を示す概略図である。
【図2】図1に示す発熱器の断面概略図である。
【図3】本発明における被覆鋼管の表面温度TsとC値との関係を示す図である。
【図4】本発明による熱伝達係数の測定結果を従来例と比較して示す図である。
【図5】従来のスプレーノズルの冷却能を測定する方法を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0044】
1 スプレーノズル
2 噴霧体
3 噴霧面
4 発熱器
5 絶縁管
6 発熱抵抗体
7 絶縁体
8 絶縁材
9 被覆鋼管
10 端子
11 ケーブル
12 第1の測温素子
13 第2の測温素子
14 電流測定装置
15 定電圧電源
16 温度記録計
17 演算装置
18 鋼片
19 熱電対埋め込み位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプレー水またはエアーミストを噴霧するスプレーノズルと、発熱源としての発熱抵抗体及び該発熱抵抗体を被覆する被覆鋼管を有し、前記スプレーノズルから所定距離隔てた位置に配置され、前記スプレーノズルからのスプレー水またはエアーミストが噴霧される発熱器と、前記発熱抵抗体に電力を供給する定電圧電源と、前記発熱抵抗体に流れる電流を測定する電流測定手段と、前記被覆鋼管のスプレー水またはエアーミストが噴霧される部位の表面温度を測定する第1の測温素子と、前記被覆鋼管の内面の表面温度を測定する第2の測温素子と、前記第1及び第2の測温素子による測定データを温度に換算するとともに測定データを記憶する温度記録手段と、該温度記録手段から入力される表面温度測定値、前記定電圧電源から入力される電圧値及び前記電流測定手段から入力される電流値に基づいて前記スプレーノズルの熱伝達係数を算出する演算手段と、を具備することを特徴とする、連続鋳造二次冷却用スプレーノズルの冷却能評価装置。
【請求項2】
前記発熱抵抗体は、ニッケル−クロム合金、白金または白金系合金であることを特徴とする、請求項1に記載の連続鋳造二次冷却用スプレーノズルの冷却能評価装置。
【請求項3】
連続鋳造二次冷却用のスプレーノズルからスプレー水またはエアーミストを、発熱抵抗体への通電により加熱された、該発熱抵抗体を被覆する被覆鋼管に噴霧し、そのときの前記被覆鋼管のスプレー水またはエアーミストが噴霧される部位の表面温度と、その内面側の表面温度とを測定し、測定したこれらの表面温度に基づいて前記スプレーノズルの熱伝達係数を算出することを特徴とする、連続鋳造二次冷却用スプレーノズルの冷却能評価方法。
【請求項4】
連続鋳造二次冷却用のスプレーノズルからスプレー水またはエアーミストを、発熱抵抗体への通電により加熱された、該発熱抵抗体を被覆する被覆鋼管に噴霧し、そのときの前記発熱抵抗体の両端部間での電圧及び前記発熱抵抗体に流れる電流を測定するともに前記被覆鋼管のスプレー水またはエアーミストが噴霧される部位の表面温度を測定し、測定した電圧、電流及び表面温度に基づいて前記スプレーノズルの熱伝達係数を算出することを特徴とする、連続鋳造二次冷却用スプレーノズルの冷却能評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−69501(P2010−69501A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−238765(P2008−238765)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】