説明

連続鋳造機ロール支持用軸受の潤滑方法

【課題】設備の改造に莫大な費用を要したりすることなくロール支持用軸受を良好に潤滑することのできる連続鋳造機ロール支持用軸受の潤滑方法を提供する。
【解決手段】グリスタンク11に貯えられたグリスと潤滑油タンク16に貯えられた潤滑油とを連続鋳造機のロールを支持するロール支持用軸受に交互に供給してロール支持用軸受を潤滑する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造機のロール支持用軸受を潤滑剤により潤滑する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶鋼などの溶融金属から鋳片を連続的に鋳造する連続鋳造機では、鋳型から鋳片を引き抜くピンチロールや鋳型から引き抜かれた鋳片を案内するガイドロールなどのロールを支持するロール支持用軸受として、通常、自動調心ころ軸受などのころ軸受が用いられている。このようなころ軸受を連続鋳造機のロール支持用軸受として用いた場合には、焼付きを防止するためにロール支持用軸受を潤滑剤により潤滑する必要があり、ロール支持用軸受を潤滑する潤滑剤としては、従来、グリスが用いられている。これは、潤滑剤として潤滑油を用いるとロール支持用軸受から漏洩した潤滑油が鋳片の輻射熱によって発火し、火災等の重大事故を引き起こす可能性があるなどの理由からである。
【0003】
しかし、ロール支持用軸受を潤滑する潤滑剤としてグリスを用いると、転動体(ころ)の回転に伴ってグリスが軸受の転動体転走面から押し出され、転動体に付着した微量のグリスしか軸受の潤滑に寄与しないという難点がある。そこで、ころ軸受などの転がり軸受を潤滑する方式として、極微量の潤滑油をプランジャ機構等を利用して空気配管中に吐出し、ノズルから空気と共に潤滑油を軸受内部に向けて噴出して潤滑を行うオイルエア方式が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−49850号公報(0002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ロール支持用軸受を潤滑する方式としてオイルエア方式を採用すると、設備の改造に莫大な費用を要するという問題が生じる。また、圧縮空気と共に軸受内部に供給された潤滑油が軸受シールの劣化等により軸受から漏洩すると、漏洩した潤滑油が鋳片の輻射熱により発火し、火災事故等を引き起こす可能性もある。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、設備の改造に莫大な費用を要したりすることなくロール支持用軸受を良好に潤滑することのできる連続鋳造機ロール支持用軸受の潤滑方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、連続鋳造機のロール支持用軸受を潤滑剤により潤滑する方法であって、前記潤滑剤としてグリスと潤滑油を用い、前記ロール支持用軸受に前記グリスと前記潤滑油とを交互に供給して前記ロール支持用軸受を潤滑することを特徴とする。
請求項2の発明は、前記ロール支持用軸受に供給される潤滑油の1回当りの供給量を前記グリスの1回当りの供給量に対して0.1〜10の比率に設定して前記ロール支持用軸受を潤滑することを特徴とする。
【0007】
請求項3の発明は、前記連続鋳造機のロール支持用軸受に潤滑剤を供給する設備として、前記グリスを貯蔵するグリスタンクと、該グリスタンクに貯えられたグリスを吐出するグリスポンプと、該グリスポンプから吐出されたグリスを前記連続鋳造機の各ロール支持用軸受に接続された複数のグリス供給管に分配する複数のグリス分配弁と、前記潤滑油を貯蔵する潤滑油タンクと、該潤滑油タンクに貯えられた潤滑油を吐出する潤滑油ポンプと、該潤滑油ポンプから吐出された潤滑油を前記グリス供給管の各々に接続された複数の潤滑油供給管に分配する複数の潤滑油分配弁とを有するものを用いて前記ロール支持用軸受を潤滑することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ロール支持用軸受に供給されたグリスがロール支持用軸受の転動体によって転動体転走面から押し出されてもロール支持用軸受を潤滑油により潤滑することが可能となり、これにより、ロール支持用軸受を潤滑する方式としてオイルエア方式を採用しなくてもよいので、設備の改造に莫大な費用を要したりすることなくロール支持用軸受を良好に潤滑することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明が適用される連続鋳造機ロール支持用軸受の一例を示す図である。
【図2】本発明を実施するときに用いられる潤滑剤供給設備の一例を示す図である。
【図3】図2に示す制御装置の制御動作を説明するためのフローチャートである。
【図4】潤滑剤供給管に交互に供給されたグリスと潤滑油の送油性を調査するために用いた実験装置の概略構成を示す図である。
【図5】図4に示す実験装置を用いてグリスと潤滑油の送油性を調査した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
まず、本発明が適用される連続鋳造機ロール支持用軸受の一例を図1に示す。図1に示されるロール支持用軸受1は連続鋳造機のロール2を支持するものであって、ロール2と一体に回転する内輪3と、この内輪3の外周に配置された外輪4と、この外輪4と内輪3との間に転動自在に組み込まれた複数のころ5とを有している。
【0011】
また、ロール支持用軸受1はハウジング6を有し、このハウジング6の内部に内輪3や外輪4が収容されている。さらに、ロール支持用軸受1は内輪3や外輪4の転動体転走面に潤滑剤を供給するための潤滑剤流路7を有し、この潤滑剤流路7はハウジング6に形成されている。
次に、本発明を実施するときに用いられる潤滑剤供給設備の一例を図2に示す。図2に示される潤滑剤供給設備10はグリスを貯蔵するグリスタンク11と、このグリスタンク11に貯えられたグリスを吐出するグリスポンプ12と、このグリスポンプ12から吐出されたグリスをグリス供給管14a,14b,14cに分配するグリス分配弁13a,13b,13cとを有し、グリス供給管14a〜14cは連続鋳造機の各ロール支持用軸受1(図1参照)にそれぞれ逆止弁15を介して接続されている。
【0012】
また、潤滑剤供給設備10は潤滑油を貯蔵する潤滑油タンク16と、この潤滑油タンク16に貯えられた潤滑油を吐出する潤滑油ポンプ17と、この潤滑油ポンプ17から吐出された潤滑油を潤滑油供給管19a,19b,19cに分配する潤滑油分配弁18a,18b,18cとを有し、潤滑油供給管19a〜19cはグリス供給管14a〜14cにそれぞれ逆止弁20を介して接続されている。
【0013】
さらに、潤滑剤供給設備10は制御装置21を有し、この制御装置21はグリス供給管14a〜14cから各ロール支持用軸受1に供給されるグリスの供給量と潤滑油供給管19a〜19cから各ロール支持用軸受1に供給される潤滑油の供給量との比が1:0.1〜1:10となるようにグリス分配弁13a〜13cと潤滑油分配弁18a〜18cの弁開度を制御するように構成されている。また、制御装置21は図3に示すフローチャートに従ってグリスポンプ12と潤滑油ポンプ17を制御するように構成されている。
【0014】
すなわち、制御装置21は溶融金属の連続鋳造が開始されると、図3に示すステップS1でグリスポンプ12を作動させ、さらにステップS2でグリス分配弁13a〜13cを所定の開度になるまで閉から開に切り替える。これにより、グリスポンプ12から吐出されたグリスはグリス分配弁13a〜13cを経てグリス供給管14a〜14cに供給され、グリス供給管14a〜14cに供給されたグリスは連続鋳造機の各ロール支持用軸受1に供給される。
【0015】
図3に示すステップS3でグリスポンプ12の作動時間が予め定めた所定の時間に達すると、制御装置21はステップS4でグリスポンプ12の作動を停止し、さらにステップS5でグリス分配弁13a〜13cを開から閉に切り替える。そして、グリスポンプ12の作動が停止すると、制御装置21はステップS6で潤滑油ポンプ17を作動させ、さらにステップS7で潤滑油分配弁18a〜18cを所定の開度になるまで閉から開に切り替える。これにより、潤滑油ポンプ17から吐出された潤滑油は潤滑油分配弁18a〜18cを経て潤滑油供給管19a〜19cに供給され、潤滑油供給管19a〜19cに供給された潤滑油はグリス供給管14a〜14cを経て連続鋳造機の各ロール支持用軸受1に供給される。
【0016】
図3に示すステップS8で潤滑油ポンプ17の作動時間が予め定めた所定の時間に達すると、制御装置21はステップS9で潤滑油ポンプ17の作動を停止し、さらにステップS10で潤滑油分配弁18a,18b,18cを開から閉に切り替える。そして、次のステップS11で連続鋳造が終了していない場合は、上述したステップS1〜S10を繰り返す。
【0017】
このように、連続鋳造機のロール支持用軸受1にグリスと潤滑油を交互に供給することで、ロール支持用軸受1に供給されたグリスがころ5によって軸受の転動体転走面から押し出されてもロール支持用軸受1を潤滑油により潤滑することが可能となる。これにより、ロール支持用軸受1を潤滑する方式としてオイルエア方式を採用しなくてもよいので、設備の改造に莫大な費用を要したりすることなくロール支持用軸受を良好に潤滑することができる。
【0018】
ロール支持用軸受1に供給されるグリスの1回当たりの供給量を1として潤滑油の1回当たりの供給量が0.1を下回ると、潤滑油がロール支持用軸受1の潤滑に寄与しなくなる可能性があり、ロール支持用軸受1に供給されるグリスの1回当たりの供給量を1として潤滑油の1回当たりの供給量が10を超えると、潤滑剤供給管中のグリスの流れが悪くなり、グリスとオイルの交互供給ができなくなる。
【0019】
これに対して、上述した本実施形態では、ロール支持用軸受1に供給される潤滑油の1回当りの供給量がグリスの1回当りの供給量に対して0.1〜10の比率となるようにグリス分配弁13a〜13cと潤滑油分配弁18a〜18cの弁開度を制御装置21により制御しながらロール支持用軸受1にグリスと潤滑油を交互に供給しているので、潤滑油を無駄に消費することなくロール支持用軸受を良好に潤滑することができる。
【0020】
また、上述のように、ロール支持用軸受1に潤滑剤を供給する設備として、グリスを貯蔵するグリスタンク11と、グリスタンク11に貯えられたグリスを吐出するグリスポンプ12と、グリスポンプ12から吐出されたグリスを連続鋳造機の各ロール支持用軸受1に接続されたグリス供給管14a〜14cに分配する複数のグリス分配弁13a〜13cと、潤滑油を貯蔵する潤滑油タンク16と、潤滑油タンク16に貯えられた潤滑油を吐出する潤滑油ポンプ17と、潤滑油ポンプ17から吐出された潤滑油をグリス供給管14a〜14cに接続された複数の潤滑油供給管19a〜19cに分配する複数の潤滑油分配弁18a〜18cとを有するものを用いたことで、連続鋳造機の各ロール支持用軸受にグリスと潤滑剤を同一の潤滑剤供給系統から供給することでき、これにより、連続鋳造機の各ロール支持用軸受に潤滑油を供給するための設備を新たに設けたりすることなくロール支持用軸受を良好に潤滑することができる。
【0021】
本発明者らは、ロール支持用軸受に潤滑剤を供給する潤滑剤供給管にグリスと潤滑油を交互に供給した場合のグリスと潤滑油の送油性を調査するために、図4に示す実験装置を用いて送油性試験を行った。
具体的には、図4に示すように、潤滑剤供給管として見立てた透明チューブTを送油装置Pと回収容器Vとの間で引き回し、送油装置Pから透明チューブTにグリスと潤滑油を交互に供給した。このときの試験条件を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
表1の条件1はグリスの供給量を18cm/hr、潤滑油の供給量を2cm/hr、グリスと潤滑油の合計供給量を20cm/hrに設定して透明チューブにグリスと潤滑油を交互に供給した場合を示し、条件2はグリスの供給量を10cm/hr、潤滑油の供給量を10cm/hr、グリスと潤滑油の合計供給量を20cm/hrに設定して透明チューブにグリスと潤滑油を交互に供給した場合を示している。また、表1の条件3はグリスの供給量を2cm/hr、潤滑油の供給量を18cm/hr、グリスと潤滑油の合計供給量を20cm/hrに設定して透明チューブにグリスと潤滑油を交互に供給した場合を示している。
【0024】
表1に示す条件1〜3で上記の送油性試験を行い、試験開始から24時間経過したときの透明チューブを図5に示す。図5において白く見える部分がグリスで、透明に見える部分が潤滑油である。
表1に示す条件1〜3では、いずれの場合も透明チューブ内でのグリスと潤滑油の送油性は良好であることが図5からわかり、このことから、潤滑剤供給管からロール支持用軸受にグリスと潤滑油を交互に供給しても問題が生じないことを確認することができた。
【0025】
なお、上述した本発明の一実施形態では、ロール支持用軸受1に供給される潤滑油の1回当りの供給量をグリスの1回当りの供給量に対して0.1〜10の比率に設定するためにグリス分配弁13a〜13cと潤滑油分配弁18a〜18cの弁開度を制御装置21により調整したが、グリス分配弁13a〜13cと潤滑油分配弁18a〜18cの弁開度を調整する代りに、グリスポンプ12と潤滑油ポンプ17の吐出量を制御装置21により調整してもよい。
【0026】
また、上述した本発明の一実施形態では、グリスポンプと潤滑油ポンプを交互に作動させてグリスと潤滑油をロール支持用軸受に供給するようにしたが、例えば、グリスポンプをn回作動させた後に潤滑油ポンプを作動させてもよいし、潤滑油ポンプをn回作動させた後にグリスポンプを作動させてもよい。
【符号の説明】
【0027】
1…ロール支持用軸受
2…ロール
3…内輪
4…外輪
5…ころ
6…軸受ハウジング
7…潤滑剤供給路
10…潤滑剤供給設備
11…グリスタンク
12…グリスポンプ
13a,13b,13c…グリス分配弁
14a,14b,14c…グリス供給管
15…逆止弁
16…潤滑油タンク
17…潤滑油ポンプ
18a,18b,18c…潤滑油分配弁
19a,19b,19c…潤滑油供給管
20…逆止弁
21…制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造機のロール支持用軸受を潤滑剤により潤滑する方法であって、前記潤滑剤としてグリスと潤滑油を用い、前記ロール支持用軸受に前記グリスと前記潤滑油とを交互に供給して前記ロール支持用軸受を潤滑することを特徴とする連続鋳造機ロール支持用軸受の潤滑方法。
【請求項2】
前記ロール支持用軸受に供給される潤滑油の1回当りの供給量を前記グリスの1回当りの供給量に対して0.1〜10の比率に設定して前記ロール支持用軸受を潤滑することを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造機ロール支持用軸受の潤滑方法。
【請求項3】
前記連続鋳造機のロール支持用軸受に潤滑剤を供給する設備として、前記グリスを貯蔵するグリスタンクと、該グリスタンクに貯えられたグリスを吐出するグリスポンプと、該グリスポンプから吐出されたグリスを前記連続鋳造機の各ロール支持用軸受に接続された複数のグリス供給管に分配する複数のグリス分配弁と、前記潤滑油を貯蔵する潤滑油タンクと、該潤滑油タンクに貯えられた潤滑油を吐出する潤滑油ポンプと、該潤滑油ポンプから吐出された潤滑油を前記グリス供給管の各々に接続された複数の潤滑油供給管に分配する複数の潤滑油分配弁とを有するものを用いて前記ロール支持用軸受を潤滑することを特徴とする請求項1または2に記載の連続鋳造機ロール支持用軸受の潤滑方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−66918(P2013−66918A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207993(P2011−207993)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】