説明

連続鋳造用ノズル

【課題】アルミニウムを含有する鋼等の連続鋳造において、溶鋼をタンディッシュから鋳型へ供給するノズルの内孔の狭さく、更には閉塞の効果的な抑制、サーマルショックによるノズルの割れ防止を可能とした連続鋳造用ノズルを提供する。
【解決手段】ノズル内孔3と同心に電気的に絶縁された炭素含有量が25質量%以上の炭素質材料からなるシート部材をインサートし、予熱終了時から鋳造開始までの間、電気印加することにより、ノズル外表面の温度低下を効率的且つ大幅に抑制することが出来る。ノズルの温度低下を抑制することにより、鋳造初期のサーマルショックによるノズルの割れが防止できる。また、ノズル表面温度が高く保たれているため、溶鋼からノズル材質への熱移動量が減少し、溶鋼が凝固することによるアルミナの付着を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造用ノズルに関するものである。特に、アルミニウムを含有する鋼等の連続鋳造において、溶鋼をタンディッシュから鋳型へ供給するノズルの内孔の狭さく、更には閉塞の効果的な抑制、サーマルショックによるノズルの割れ防止を目的とするものである。
【背景技術】
【0002】
タンディッシュからモールドへ溶鋼を注入する連続鋳造用ノズルは、注入の際に空気との接触による溶鋼の酸化を防ぐともに、溶鋼の飛散防止を図るために用いられる。さらに、連続鋳造用ノズルは、注湯を整流化することにより、非金属介在物及びモールドの浮遊物等の鋳片内への巻き込みを防止している。
【0003】
連続鋳造用ノズルは、主として黒鉛(約30質量%)、酸化アルミニウム(60〜70質量%)からなり、少量の酸化ケイ素、炭化ケイ素等を含む材質から構成されている。
【0004】
しかしながら、アルミキルド鋼等を鋳造する場合は、鋼中のアルミニウムが酸化し、これにより生成したアルミナ(Al)がノズル内壁に付着し、ノズル閉塞が生じ易い。生産性向上の点から鋳造の多連鋳化が進められているが、アルミナ付着によるノズル閉塞が生じると、溶鋼の流量制御が不可能となり、鋳造の継続が困難となる。また、鋳造途中に閉塞物が溶鋼の流れによって剥離する場合がある。剥離した閉塞物がモールド内の溶鋼中に混入して、鋳片中に取り込まれることが、鋳片の欠陥を生成する要因の1つとなっている。
【0005】
上記したノズル閉塞を防止する方法の1つに、特開平8−168857号公報に開示されたガスブロー方式がある。この方式は、浸漬ノズル等の内孔部を多孔質化したり、ガスの通気可能な小径の流路を設置したりして、ノズル内壁側にArガス等の不活性ガスを流し、該ガスの流れによりアルミナ付着を防止する方法である。また他の方式として、特開7−40015号公報や特開2002−143993号公報に開示された難アルミナ付着性連続鋳造用ノズルのように、ノズル等の内壁面側にCaOを含有した材料を配置し、溶鋼中に析出したアルミナとCaOとの反応によりCaO−Al系の低融点物質を生成させ、溶鋼の流れによりその低融点化合物を取り除いて、アルミナ付着を防止する方法も使用されている。
【0006】
またノズルに使用される材質は、炭素含有量として約30質量%であるため、熱伝導率は10W/mK以下である。鋳造開始と同時に1600℃に近い温度の溶鋼がノズル内孔部を通過するため、ノズル内孔側と外周側に大きな温度差が生じ熱応力によるノズル割れが発生する。この対策として、使用前にガスバーナー等によって1000℃程度までノズルの予熱を行うことにより、鋳造初期に発生する熱応力を緩和させている。また予熱温度の低下を抑制するためにノズル外周部にセラミックスシートなどの断熱材を巻く等の方法が取られている。
【0007】
しかしながら、上記ガスブロー方式では、ノズル閉塞が防止できる程度にガスを流すと、ガスの微細な気泡がモールド内に混入し、鋳片に取り込まれ欠陥を生成するという問題点がある。また湯面変動が大きくなり、介在物を溶鋼中に巻き込み易くなるため、同様に鋳片中に欠陥が生成し易くなる。また、上記ノズル内壁側にCaO含有材料を配置する方法では、アルミナ付着防止効果は高いが、材料特性上耐スポーリング性に劣るという欠点がある。さらに、鋳造初期のノズルに対するサーマルショックを抑制する方法として、ノズル外表面全体にセラミックス製のシートやフェルト(熱伝導率0.05W/mK程度)を巻いて予熱温度の低下防止をしているが、予熱終了から鋳造までの待機時間が常に一定でないため、10分以上待機した場合予熱温度が低下してしまい、鋳造初期のサーマルショックによる割れが発生する問題がある。また、セラミックス製のシートやフェルトは、受熱により材料が変質して断熱特性が低下したり、表面が剥離・脱落して溶鋼中に巻き込まれたりするなどの問題もある。
【特許文献1】特開平8−168857号公報
【特許文献2】特開平7−40015号公報
【特許文献3】特開2002−143993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記各種方式の問題点を解決するために、アルミナ付着の原因を分析探求した。これによると、ノズル内壁面には地金が付着しており、その地金を起点にアルミナが付着していることが判った。この状況は、鋳造開始時のノズル内面温度が低下している為、ノズル内面と最初に接触する溶鋼の熱エネルギーがノズル本体に抜熱されることにより、溶鋼温度が低下して溶鋼が凝固し始め、そこにアルミナ付着が発生することが判明した。従って、ノズル内壁近傍の温度低下を防止することにより、溶鋼凝固による地金付着が起こらず、アルミナ付着の防止が可能となることが分かった。
【0009】
本発明は上記知見に鑑みてなされたもので、特に、アルミニウムを含有する鋼等の連続鋳造において、溶鋼をタンディッシュから鋳型へ供給するノズルの内孔の狭さく、更には閉塞の効果的な抑制、サーマルショックによるノズルの割れ防止を可能とした連続鋳造用ノズルを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための請求項1に記載の連続鋳造用ノズルは、鋼等の連続鋳造において溶鋼を供給する為のノズルにおいて、炭素含有量が25質量%以上の炭素質材料からなるシート部材を、ノズル本体壁面内部にノズル内孔と同心にインサートしたことを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の連続鋳造用ノズルは、請求項1に記載の構成において、前記炭素質材料の炭素源が、天然または人造の非結晶質炭素、結晶質炭素及びそれらの加工品の少なくとも1種以上であることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の連続鋳造用ノズルは、請求項1又は請求項2に記載の構成において、前記前記シート部材を電気的絶縁体により被覆して、ノズル本体を構成する材料と電気的に絶縁されていることを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の連続鋳造用ノズルは、請求項1乃至請求項3の何れかに記載の構成において、前記シート部材に電気を印加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の連続鋳造用ノズルによれば、ノズル本体壁面内部にノズル内孔と同心に炭素含有量が25質量%以上の炭素質材料からなるシート部材をインサートすることにより、ノズル内壁から外壁面側までの間でノズル長手方向の熱移動を促進してノズル壁の温度の均一化を図ることができる。ノズル全体温度が均一化することにより全体の熱放散が低下し温度低下を抑制することが可能となる。それにより、鋳造初期に発生するサーマルショックの割れを回避できとともに、溶鋼温度の低下を防止でき、溶鋼が凝固することによるアルミナの付着を防止できる。
【0015】
尚、シート部材の炭素含有量が25質量%未満であると、熱伝導率が急激に低下しシートの面方向の熱の伝わりが悪くなり、ノズル本体を構成する材料と大差なくなる。よってノズル壁の長手方向の温度が均一化され難くなり、温度バラツキのよる温度低下の防止に有効でない。また、シートの厚みは0.1mm〜2.0mmまで使用可能である。0.1mm未満であるとシートそのものの強度が低下しハンドリングが困難である。2.0mmを超えるとシートの剛性が上がり可撓性に問題が生じる。このため、強度面及び可撓性の保持から、その厚みは0.1mmから1.0mmが望ましい。
【0016】
請求項2に記載の連続鋳造用ノズルによれば、炭素質材料の炭素源が、天然または人造の非結晶質炭素、結晶質炭素及びそれらの加工品の少なくとも1種以上であるから、石油コークス、石炭コークス、土壌黒鉛、鱗片状黒鉛、熱分解炭素、炭素繊維など各種が使用可能である。
尚、シート部材の熱伝導率を高くするためには、結晶質炭素を用い、形状的にはアスペクト比10以上の大きいものを使用することが望ましい。
【0017】
請求項3に記載の連続鋳造用ノズルによれば、シート部材が電気的絶縁体により被覆され、ノズル本体を構成する材料と電気的に絶縁されている。予熱時および使用時の連続鋳造用ノズルの温度は800℃以上となる為、電気的絶縁体としては、酸化物系セラミックス(マイカなどの天然鉱物を含む)などの高耐熱性材料を使用するのが好ましい。また、ノズル材料と接触しないように配置することにより、空気(空隙)による絶縁方式も取ることが可能である。電気的絶縁体や空気層は熱伝導率が低いため、断熱効果が高まることにより、ノズル内壁部の熱が外周部に移動することを抑制することが可能となる。ノズル内壁部の温度低下が抑制されることにより溶鋼温度の低下を防止でき、溶鋼が凝固することによるアルミナの付着を防止できる。
【0018】
請求項4に記載の連続鋳造用ノズルによれば、インサートされたシート部材に電気を印加する。シート材質は炭素含有量が25質量%以上であるため、電気の良導体であり、このシートに電気を印加することにより抵抗加熱が可能となる。従って、ノズルから抜熱されるエネルギーをこれにより補充でき、ノズルの温度低下を抑制することができる。
【実施例1】
【0019】
本発明に係るシート部材Aは、酸処理した天然燐片状黒鉛を1,000℃以上で膨張化処理し、ローラー圧延成形した炭素含有量99質量%の黒鉛シートである。そして、その厚みを、0.1mm、0.5mm、2.0mmに調整した。
【0020】
さらに、本発明に係る他のシート部材Bは、炭素含有量20質量%の黒鉛−アルミナ複合シートである。これは、上記シート部材Aの場合と同様の黒鉛原料に、粒子径100μmのアルミナ粒子を40質量%と、繊維径50μm、繊維長5mmのアルミナ繊維を40質量%とを混合し、1,000℃以上で膨張化処理し、ローラー圧延成形したものである。そして、その厚みを、0
.1mm、0.5mm、2.0mmに調整した。
【0021】
上記各シート部材A及びBは、それぞれ厚さ1mmの高耐熱性の電気的絶縁体であるセラミックスシート(以下、単にシートという。)Sで被覆して、浸漬ノズル1の壁厚20mmのノズル本体2の半径方向の中央部に、ノズル内孔3と同心にインサートした(図1参照)。また、シート部材A及びBは、縦方向の寸法Hを200mmとした。
【0022】
また、比較例として、実施例と同様の方法で厚み0.5mmに調整し、シートSで被覆しない炭素含有量99質量%のシート部材Xと、炭素含有量20質量%の黒鉛-アルミナ複合シートであるシート部材Yを、上記シート部材A、Bの場合と同様に浸漬ノズル1にインサートした。
【0023】
そして、実施例のシート部材A、比較例のシート部材B及び比較例のシート部材X及びYをそれぞれインサートした各浸漬ノズル1のノズル内孔3に、セラミックスヒータ4を挿入して1,400℃に加熱し、実操業でのノズル予熱状況を仮想した。そして、ノズル外表面温度が1100℃に到達した時点で加熱終了し、ノズル外表面(M)の温度変化を測定した。表1及び図3には、ノズル外周部にセラミックスウール(厚み10mm)を巻装被覆した場合の結果、表2及び図4にはセラミックスウールの被覆無の結果を示す。
【0024】
【表1】














【0025】
【表2】

【0026】
表1、図3のグラフ及び表2、図4のグラフに示すように、ノズル外表面をセラミックスウールで巻装被覆する断熱処理の有無にかかわらず、共に加熱終了後のノズル外表面温度は、ノズル内部にシートSを設置しないものに比して、電気的絶縁体であるシートSで被覆したシート部材A及びBで温度低下のスピードを緩めることができた。しかしながら、シートSで被覆しないシート部材X及びYの温度低下は、シート部材無しのものと同等に大きかった。
【0027】
また、炭素含有量25質量%以上で上記のように電気的に絶縁したシート部材Aの場合、炭素含有量20質量%の黒鉛−アルミナ複合シートであるシート部材Bと比べ、高い断熱効果が得られた。内装するシートの厚みについては、断熱効果に大きなさが見られなかったが、厚みが増加するに従いシートそのものの弾性が低下するため、作業性に劣る。
【0028】
図2は、厚み0.5mmのシート部材Aとシート部材Bとを、それぞれ円周方向の3箇所にスリットを入れて3等分し、1.0mmのシートSで被覆して浸漬ノズル1にインサートしたものである。また、表3のシート部材Xは厚み0.5mmのシート部材AをシートSで被覆しないで使用したものである。そして、外周部を10mmのセラミックスウールで巻装被覆した後、各浸漬ノズル1のノズル内孔3に、セラミックスヒータ4を挿入して1,400℃に加熱した。そして、ノズル外表面温度が1100℃となった時点で加熱を終了すると同時に内装した各シート部材A、B及びXに電気を印加し、ノズル外表面の温度変化を測定した。シート部材Aは5V−30A、シート部材Bは5V−5A、シート部材Xは、5Vで100A以上の電流が流れた。その測定結果を表3及び図5に示す。
【0029】
【表3】

【0030】
表3及び図5のグラフに示すように、加熱終了後にインサートした各シート部材に電気を印加すると、黒鉛含有量99質量%のシート部材Aでは、ノズル外表面温度の低下を大幅に抑制する効果が得られた。黒鉛含有量20質量%のシート部材Bでは、流れる電流値が小さく発熱量が少ないことにより大きな温度低下抑制とはならなかった。シートSで被覆していないシート部材Xでは、ノズル本体を構成する材料に電気が流れてしまい、電流制御が出来ないと同時に、感電の可能性があり危険である。
【0031】
また、高さ寸法300mm、厚み0.5mmの炭素含有量99質量%の黒鉛シートを、厚み0.5mmのシートSで被覆して形成したシート部材を、ノズル内孔と同心でノズル本体の中央部にインサートした浸漬ノズルを製作した。この浸漬ノズルを用いて、1200℃加熱終了後、シート部材に10V−40Aの電気を印加した。予熱終了から鋳造開始までの時間は15分であった。実際に溶鋼300トンを連続鋳造した。比較として内装シート無しの通常ノズルと上記インサートした浸漬ノズルに通電しなかったノズルを各2本づつ使用した。その結果、通常ノズルは鋳造開始時に2本中1本でクラックの発生が見られたが、シート部材をインサートしたノズルでは何れもクラックの発生が無かった。鋳造終了後ノズル内孔への付着物を確認したところ通常品、電気印加無品、電気印加品の順で付着物の減少が観察された。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】温度測定箇所及び加熱方法を示した説明図である。
【図2】シート部材のインサート形態を説明する説明図である。
【図3】表1に基づくグラフである。
【図4】表2に基づくグラフである。
【図5】表3に基づくグラフである。
【符号の説明】
【0033】
1 浸漬ノズル
2 ノズル本体
3 ノズル内孔
4 セラミックスヒータ
A、B シート部材
M 測定箇所
S セラミックスシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼等の連続鋳造において溶鋼を供給する為のノズルにおいて、炭素含有量が25質量%以上の炭素質材料からなるシート部材を、ノズル本体壁面内部にノズル内孔と同心にインサートしたことを特徴とする連続鋳造用ノズル。
【請求項2】
前記炭素質材料の炭素源が、天然または人造の非結晶質炭素、結晶質炭素及びそれらの加工品の少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造用ノズル。
【請求項3】
前記シート部材を電気的絶縁体により被覆して、ノズル本体を構成する材料と電気的に絶縁されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の連続鋳造用ノズル。
【請求項4】
前記シート部材に電気を印加することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の連続鋳造用ノズル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−737(P2009−737A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−166284(P2007−166284)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【出願人】(000244176)明智セラミックス株式会社 (40)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】