説明

連続鋳造鋳型用銅板

【要 約】
【課 題】 簡便かつ安価な手段で通水路の壁面に付着物が堆積するのを防止して、高速鋳造において優れた冷却特性を安定して維持できる鋳型を提供して、鋳片の縦割れ,バルジング,ブレークアウトを防止する。
【解決手段】 連続鋳造鋳型の内壁面を構成する連続鋳造鋳型用銅板に設けられた冷却水の通水路の壁面を、冷却水との濡れ角が40°以下のコーティング材で被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の連続鋳造で使用する鋳型の内壁面を構成する銅板(以下、連続鋳造鋳型用銅板という)に関し、特に熱負荷が増大する高速鋳造において優れた冷却特性が安定して得られる連続鋳造鋳型用銅板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、連続鋳造では、生産性を向上するために鋳造速度(すなわち鋳片の引抜き速度)を増加する技術が種々検討されている。連続鋳造において鋳造速度を速めた操業は、通常、高速鋳造と呼ばれており、その鋳造速度は鋳片の厚さに応じて異なるものの、厚さ220mm のスラブで 3.5m/min ,厚さ90mmのスラブで8m/min ,小断面のビレット(120mm角)で5m/min 程度の高速鋳造が可能になってきた。
【0003】
鋳型の冷却効率を高めるために、溶鋼や凝固シェルと接触する鋳型の内壁面に熱伝達率の高い銅板を取付けて連続鋳造を行なう技術は一般に広く採用されている。ところが高速鋳造では、鋳型の内壁面を構成する銅板(すなわち連続鋳造鋳型用銅板)への単位時間あたりの入熱量,単位面積あたりの入熱量が増加するので、連続鋳造鋳型用銅板の温度が上昇する。その結果、下記のような問題が生じて、連続鋳造の操業に支障をきたす。
【0004】
(A) 連続鋳造鋳型用銅板が変形して凝固シェルに均一に接触できないので、凝固シェルの成長が不均一になり、鋳片の表面に縦割れが発生する。
【0005】
(B) 凝固シェルが連続鋳造鋳型用銅板に焼付いて、拘束性ブレークアウトが発生する。
【0006】
(C) 連続鋳造鋳型用銅板の変形と鋳造速度の増速の相互作用によって鋳型の出側で凝固シェルの厚さが減少するので、鋳片のバルジングが発生する。
【0007】
(D) 凝固シェルには未凝固の溶鋼の静圧が作用するので、上記の(A) ,(C) に関連して、凝固シェルが溶鋼を保持できないときには、鋳片の破断あるいは溶鋼の漏出が発生する。
【0008】
これらの (A)〜(D) に掲げたような問題点に対して、鋳型の冷却特性を一層向上し、高速鋳造を支障なく行なう技術が種々検討されている。
【0009】
たとえば特開平3-81049 号公報には、連続鋳造鋳型の水冷方法が開示されている。この技術は、鋳型内を流通する冷却水を沸騰させて、冷却水の熱伝達率を向上させるものである。
【0010】
また特開平11-179492 号公報には、連続鋳造用鋳型が開示されている。この技術は、鋳型の冷却水の沸騰を防止し、緩冷却を施すことによって鋳片の縦割れを防止するものである。
【特許文献1】特開平3-81049号公報
【特許文献2】特開平11-179492 号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら特開平3-81049 号公報に開示された技術では、沸騰現象を安定して維持するのが困難であるから、冷却水の熱伝達率が大きく変動する。その結果、鋳片の縦割れが生じるばかりでなく、甚だしい場合はバーンアウト(すなわち沸騰熱伝達から膜沸騰熱伝達に遷移する領域で熱伝達率が急激に低下することによる鋳型の溶損)が生じて操業を停止せざるを得なくなる。
【0012】
また、沸騰現象を利用して鋳型の冷却を行なう場合に、たとえば環水等の安価な水資源を使用すると、水中に溶解している炭酸カルシウムが析出して冷却水の通水路(たとえば配管等)の内壁面に付着し、熱伝達が阻害される。したがって、特開平3-81049 号公報に開示された技術を適用するときには、冷却水として純水を使用しなければならないので、冷却水の管理費のみならず配管や水処理設備の維持費が増大する。
【0013】
一方、特開平11-179492 号公報に開示された技術では、冷却水の沸騰を防止するために、冷却水の通水路の内壁面にNi系合金をメッキするので、鋳型の製造費が増大する。また、鋳片に緩冷却を施すことによって縦割れを防止する技術であるから、上記した (A)の問題は解消できるが、 (B)〜(D) の問題は解決できない。
【0014】
本発明は、上記したような問題点を解消し、簡便かつ安価な手段で通水路の壁面に付着物が堆積するのを防止して、高速鋳造において優れた冷却特性を安定して維持できる連続鋳造鋳型用銅板を提供して、鋳片の縦割れ,バルジング,ブレークアウトを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、連続鋳造鋳型用銅板に設けられる通水路の壁面の熱伝達に着目し、冷却水と接触する壁面に、水との濡れ性の良い物質をコーティングすることによって、冷却特性が著しく改善されることを見出した。
【0016】
すなわち本発明は、連続鋳造鋳型の内壁面を構成する連続鋳造鋳型用銅板に設けられた冷却水の通水路の壁面を、冷却水との濡れ角が40°以下のコーティング材で被覆した連続鋳造鋳型用銅板である。
【0017】
本発明の連続鋳造鋳型用銅板においては、コーティング材の被覆層がTiO2 またはSiO2 を主成分とすることが好ましい。あるいは、コーティング材の被覆層がTiO2 とSiO2 との混合化合物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高速鋳造を行なうにあたって、簡便かつ安価な手段で鋳型の冷却効率を高めることができ、下記の (1)〜(3) の効果が発揮される。
【0019】
(1) 鋳片の縦割れ,バルジング,ブレークアウトの防止
従来の高速鋳造の技術では、連続鋳造鋳型用銅板への入熱量が増大するので、連続鋳造鋳型用銅板の温度が上昇し、連続鋳造鋳型用銅板の変形や焼付きが生じる。その結果、鋳片の縦割れ,バルジング,ブレークアウトが発生していた。これに対して本発明では、高速鋳造においても連続鋳造鋳型用銅板の温度上昇を抑制できるので、鋳片の縦割れ,バルジング,ブレークアウトを防止できる。この効果は、スラブの高速鋳造のみならずビレットの高速鋳造でも発揮される。
【0020】
(2) 通水路の壁面への付着物の堆積防止
冷却水と接触する通水路の壁面に濡れ性の良い物質をコーティングすることによって、水垢やスケールの付着が抑制される。この効果は、環水等の安価な水資源を冷却水として使用する場合にも発揮され、しかもスケール等の付着防止のための薬剤を注入しなくても長期間にわたって維持される。
【0021】
(3) 鋳型の耐用性の向上
上記の (1),(2) の効果が発揮されることによって、高速鋳造における鋳型の耐用性が著しく向上する。その結果、高速鋳造を長時間安定して継続できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の連続鋳造鋳型用銅板に設けられる通水路は、連続鋳造鋳型用銅板の冷却水と接触する壁面に、濡れ性の良い物質(すなわち親水性の物質)をコーティングする。通水路の壁面にコーティングする物質(以下、コーティング材という)の濡れ性は、水との濡れ角(°)で評価する。水との濡れ角は、各コーティング物質を表面粗さRa =2μm以下とした銅板上にコーティングし、温度24℃,湿度(相対湿度)45%の条件下で、実際に冷却に使用する水(環水または純水)を使用し、協和界面科学(株)製のFACE接触角計(CA-X型)にて 0.4mlの水滴を垂らし、図5に示すようにして水滴9とコーティング表面10のなす角11を測定し、これをもって濡れ角とした。
【0023】
ここにRa は、JIS規格B0601:2001 による算術平均粗さを表わす(以下においても同様)。
【0024】
鋳造速度(すなわち鋳片の引抜き速度)を増加する高速鋳造では、冷却水の流速も速める必要があり、冷却水を流速3m/sec 以上で流通させる場合には、コーティング材の濡れ角が40°を超えると、冷却水の沸騰現象が安定せず、熱伝達率が変動する。
【0025】
一方、冷却水の流速が3m/sec 以上の場合に、コーティング材の濡れ角が40°以下では、冷却水の沸騰現象を促進しかつ安定させることができる。その結果、熱伝達率を向上するとともに、優れた熱伝達率を安定して維持できる。したがって、冷却水に対するコーティング材の濡れ角は40°以下とする必要がある。
【0026】
このようなコーティング材は、使用段階において、酸化チタン(TiO2 )や酸化ケイ素(SiO2 )が好ましい。酸化チタン(TiO2 )や酸化ケイ素(SiO2 )は、それぞれ単体で使用しても良いし、あるいは酸化チタン(TiO2 )と酸化ケイ素(SiO2 )の混合化合物として使用しても良い。
【0027】
ただしコーティング材としてTiO2 を使用する場合は、TiO2 に親水性を発揮させるため、事前に、あるいはコーティングした後に紫外線を照射する必要がある。
【0028】
通水路の壁面に形成されるコーティング材の被覆層の厚さは、コーティングする面のRa よりも大きくすることが前提で、 0.2μm未満では、冷却水の沸騰現象が安定しない場合がある。一方、2μmを超えると、鋳型から冷却水への熱伝達が阻害される傾向があるばかりでなく、被覆層が剥離し易くなる傾向もある。したがって、コーティング材の被覆層の厚さは 0.2〜2μmの範囲内が好ましい。
【0029】
また、通水路の壁面の粗度も熱伝達に多大な影響を及ぼし、表面粗さRa が大きすぎると、親水性が得られない。したがって、通水路の壁面の表面粗さRa は2μm以下が好ましい。
【0030】
通水路の壁面をコーティング材で被覆する方法は、特定の手段に限定せず、スプレーコート法,ディップ法,PVD法,CVD法,メッキ法等の従来から知られている技術が使用できる。
【0031】
コーティング材で被覆する領域は、連続鋳造鋳型用銅板に設けられる通水路の、冷却水と接触する壁面全体をコーティング材で被覆するのが好ましい。ただし、冷却水へ大量の熱が伝達される鋳型上部(たとえば上側半分)の通水路の壁面をコーティング材で被覆しても良い。
【0032】
また本発明を適用する鋳型の種類や形状は、特に限定しない。たとえば、スラブ連鋳機で使用するような組立て鋳型の場合は、図1に示すように、冷却水の通水路4は、連続鋳造鋳型用銅板1とバックアップフレーム2で形成され、スリット加工されているので、そのスリット部のみをコーティング材7で被覆すれば良い。なお図1では、片側の鋳型壁のみ図示する。図2は、図1中のA−A矢視の断面図である。
【0033】
あるいは、スラブ連鋳機の鋳型に比べて断面が小さいビレット連鋳機の鋳型の場合は、図3に示すように、フラットな通水路4は、連続鋳造鋳型用銅板1とバックアップフレーム2で形成されており、その連続鋳造鋳型用銅板の壁面全体をコーティング材7で被覆すれば良い。なお図3では、片側の鋳型壁のみ図示する。図4は、図3中のB−B矢視の断面図である。
【実施例】
【0034】
表1に示す3種類の連鋳機を用いて、鋼の高速鋳造(すなわち鋳造速度 2.0m/min ,3.0m/min , 3.5m/min )を行なった。表1中の連鋳機A,Bはスラブ連鋳機であり、連鋳機Cはビレット連鋳機である。
【0035】
【表1】

【0036】
各鋳型に取付けた連続鋳造鋳型用銅板の仕様は表2に示す通りである。なお、スラブ連鋳機A,Bでは鋳型長辺の連続鋳造鋳型用銅板の冷却水と接触する壁面全体をコーティング材で被覆し、ビレット連鋳機Cでは一体成形された連続鋳造鋳型用銅板の冷却水と接触する壁面全体をコーティング材で被覆した。使用したコーティング材は表2に示す通りであり、被覆はいずれもスプレーコーティング法を使用した。コーティング材の被覆層の厚さは、 0.2〜2.6 μmとした。これを発明例とする。
【0037】
一方、比較例として、連続鋳造鋳型用銅板の冷却水と接触する壁面をコーティング材で被覆しない鋳型を使用した。
【0038】
【表2】

【0039】
発明例で使用したコーティング材の濡れ角および比較例の連続鋳造鋳型用銅板の濡れ角を表2に示す。使用したコーティング材は、
(a) SiO2 が主成分の無機高分子と有機溶剤から成り、乾燥によってガラス質の塗膜が形成されるもの(市販品)、
(b) TiO2 を主成分とするもの(結晶系:アナタース,酸化チタン粒子径<100nm ,市販品)、
(c) 乾燥後にSiO2 とTiO2 がほぼ50:50の割合となる混合物
を使用した。ただし本発明では、濡れ角が40°以下であれば、必ずしもこれらに限定する必要はない。
【0040】
発明例の濡れ角は、いずれも40°以下であったのに対して、比較例は全て65〜108 °であった。なお、濡れ角の測定は、温度24℃,湿度(相対湿度)45%の条件で前述のようにして行なった。
【0041】
このようにして連続鋳造を合計 500時間継続し、得られた鋳片の縦割れの総長さを調査した。さらに、鋳型を解体し、通水路の壁面に付着したスケールの最大厚さを調査した。その結果を表2に併せて示す。ここで、スケールの最大厚さとは、発明例ではコーティング材で被覆した壁面に付着したスケールの最大厚さ、比較例では連続鋳造鋳型用銅板の壁面に付着したスケールの最大厚さを指す。
【0042】
表2から明らかなように、発明例は、鋳片の縦割れの総長さが著しく減少し、かつ通水路の壁面へのスケール付着も大幅に減少した。特にコーティング厚さが2μm以下の発明例1,2,3,4,6,7,8では、壁面へのスケール付着最大厚さが10μm未満という極めて良好な結果が得られた。
【0043】
以上に説明した通り、本発明では、通水路の壁面をコーティング材で被覆するという簡便かつ安価な手段で、優れた冷却特性を安定して維持できる。したがって、冷却水の管理費,配管や水処理設備の維持費,鋳型の製造費を削減できる。しかも高速鋳造を行なう際に、鋳片の縦割れ,バルジング,ブレークアウトを防止し、長時間にわたって操業を安定に継続できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明を適用する連続鋳造鋳型用銅板の例を模式的に示す断面図である。
【図2】図1中のA−A矢視の断面図である。
【図3】本発明を適用する連続鋳造鋳型用銅板の例を模式的に示す断面図である。
【図4】図3中のB−B矢視の断面図である。
【図5】コーティング表面と水の濡れ角の測定方法を示す模式図である。
【符号の説明】
【0045】
1 連続鋳造鋳型用銅板
2 バックアップフレーム
3 冷却水
4 通水路
5 浸漬ノズル
6 溶鋼
7 コーティング材
8 パッキン
9 水滴
10 コーティング材表面
11 濡れ角


【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造鋳型の内壁面を構成する連続鋳造鋳型用銅板に設けられた冷却水の通水路の壁面を、前記冷却水との濡れ角が40°以下のコーティング材で被覆したことを特徴とする連続鋳造鋳型用銅板。
【請求項2】
前記コーティング材の被覆層がTiO2 またはSiO2 を主成分とすることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造鋳型用銅板。
【請求項3】
前記コーティング材の被覆層がTiO2 とSiO2 との混合化合物であることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造鋳型用銅板。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−61946(P2006−61946A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−247691(P2004−247691)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】