説明

進行型冠動脈疾患およびその合併症のインジケーターとしての心筋トロポニン

【課題】好ましくは冠血管疾患、特に多枝疾患に関する進行型虚血性冠心疾患を診断するための、新しい検査法を提供する。
【解決手段】診断方法は、以下のステップ:a)被験体サンプル中の心筋トロポニンの量を測定するステップ;b)ステップa)で測定された量と参照量とを比較すること。さらに、ANP、NT−proANP、BNPおよびNT−proBNPからなる群から選択されるナトリウム利尿ペプチド、好ましくはBNP若しくはNT−proBNP、特にNT−proBNP、またはそのように命名されたペプチドの変異体の量が、心筋トロポニン(特にTnT)に加えて測定されることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験体における進行型虚血性冠心疾患の病理状態を診断する方法に関し、該冠心疾患は好ましくは冠血管疾患に関し、特に多枝疾患に関する。該方法は、被験体サンプル中の心筋トロポニンの量を測定するステップ、および測定された量と参照量とを比較することにより、前記冠心疾患、好ましくは冠血管疾患、特に多枝疾患を診断するステップを含む。本発明は、当該方法を実施するためのデバイスおよびキットも含む。
【背景技術】
【0002】
現代医学の目的の1つは、個人または個別の治療レジメンを提供することにある。それらは、患者の個別のニーズまたはリスクに配慮した治療レジメンといえる。特に重要なリスクは、心血管系合併症、特に認識されていない心血管系合併症の存在、またはそのような心血管系合併症の罹患率である。西半球において、心血管系合併症、特に心疾患は、罹患および死亡原因の第一位である。心血管系合併症は、長期間にわたり無症候性のままである場合がある。したがって、心血管系合併症の存在についての信頼性の高い鑑別診断は、一般に考えられているよりも難しく誤りが生じやすい。
【0003】
具体的には、胸痛のような急性心血管発作(例えば、心筋梗塞(MI))の症状を患う患者は、現在のところトロポニンTに基づいた診断に供される。この目的のために、患者のトロポニンTレベルが測定される。血中のトロポニンT量が上昇している場合、すなわち約0.1ng/mLより高い場合、急性心血管発作が想定され、患者はしかるべき治療を受ける。
【0004】
MIは冠心疾患(CHD)に属するものとして分類され、MIを発症する前には、MIと同様にCHDに属するものとして分類される他のイベント、例えば不安定狭心症(UAP)が起こる。UAPの症状は胸痛で、該胸痛はニトログリセリンの舌下投与により緩和される。UAPは、低酸素血症および心筋虚血を招来する冠血管の部分閉塞により引き起こされる。閉塞が極めて重症であるか、または全体に及ぶ場合には、(心筋梗塞の基礎をなす病理状態である)心筋壊死が生じる。MIは明らかな症状がなくても、すなわち被験体が症状を何も示さなくても生じる場合があり、この場合、MIを発症する前に、安定狭心症または不安定狭心症は生じない。
【0005】
しかしながら、UAPはMIよりも前に起こる症候性のイベントである。被験体において、CHDは無症状でも起こり得る。すなわち、被験体は不快感を感じたり、息切れ、胸痛または当業者に公知の他の症候等のCHDの症状を何も呈さない場合がある。ところが、被験体は、MIおよび/またはうっ血性心不全(CHF)(心臓が被験体の身体に必要な血液供給を確保するように機能する能力を有さないことを意味する)をもたらし得る冠血管の機能不全に病理学的に該当し、また該機能不全を患っている場合がある。このことは、重篤な合併症、一例として心臓死を招来し得る。
【0006】
高リスク集団(例えば、喫煙者および/または糖尿病患者)に属する被験体は、リスク因子にさらされていない被験体(健康な被験体)よりも、CHDまたはCHFに罹患しやすい傾向があることが知られている。しばしば、無症候性の状態のCHD/CHFが生じ、認識されずにいる病理状態がもたらされる。CHD発症についての手がかりは、FraminghamスコアまたはPROCAMスコアから得られる。現在のところ、冠血管の生理学的状態は、一般に、高額で、熟練を必要とし時間のかかる方法である(侵襲性またはバーチャルの)冠血管造影法により評価される。そのため、冠血管合併症を患っている可能性が高くない被験体は一般に、冠血管造影法には供されないであろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、好ましくは冠血管疾患、特に多枝疾患に関する進行型虚血性冠心疾患を診断するための、新しい検査法を提供することにある。該検査法は、実施するのが容易で、高価な設備/装置を必要とせず、好ましくは心血管疾患の分野における専門家の知識を必要としないようにすべきである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はこの問題を、進行型虚血性冠心疾患の診断方法であって、以下のステップ:
a) 被験体サンプル中の心筋トロポニンの量を測定するステップ;
b) ステップa)で測定された量と参照量とを比較することにより、該疾患を診断するステップ
を含む方法により解決する。
【0009】
好ましくは、冠心疾患は冠血管疾患、特に多枝疾患に関する。
【0010】
特に、進行型虚血性冠心疾患は無症候性である。
【0011】
本発明の方法は、好ましくはin vitroの方法である。そのうえ、該方法は上記に明記したステップに加え、複数のステップを含み得る。例えば、さらなるステップはサンプルの前処理または診断データの評価に関し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本明細書で使用される用語「診断する」とは、被験体が、進行型虚血性冠心疾患または本明細書で意図されるいずれかの他の疾患を患っている可能性を評価することを意味する。当業者であれば理解するであろうが、そのような評価では通常、診断される被験体の100%について正しいことは予定されていない。しかしながら、該用語は、統計学的に有意な被験体の一部分(例えば、コホート試験におけるコホート集団)を、心不全を患っているか、または将来的に該疾患を患うリスクを有すると診断できることを必要とする。ある一部分が統計学的に有意かどうかは、当業者であれば、様々な周知の統計学的評価手段、例えば、信頼区間の算出、p値の算出、Studentのt検定、マン・ホイットニー検定等を用いて、苦労することなく判断することができる。詳細はDowdyおよびWearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983に見出すことができる。好ましい信頼区間は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%である。p値は、好ましくは0.1、0.05、0.01、0.005、または0.0001である。
【0013】
本発明の診断には、関連する疾患、症状またはそれらのリスクをモニタリングすること、確認すること、細分類することおよび予測することが含まれる。モニタリングとは、既に診断された疾患または合併症の追跡を続けて、例えば該疾患の進行や該疾患若しくは合併症の進行に対する特定の治療の影響を分析することと関連する。確認とは、他のインジケーターやマーカーを用いて、既になされた診断を強化または実証することと関連する。細分類とは、診断された疾患の様々なサブクラスに従って、診断をさらに明確にすることと関連し、例えば軽度または重度の状態の疾患であると明確にすることと関連する。本発明の場合、これは単枝疾患を多枝疾患と区別することと関連する。予測とは、他の症状若しくはマーカーが顕著になる前に、または明らかに変化する前に、疾患や合併症を予知することと関連する。
【0014】
特に、本発明はモニタリングすること、確認すること、および細分類することに関する。
【0015】
上記のとおり、CHDは無症候性で生じることもあり、または対象被験体は症状を示すこともある。本発明は、CHDを患う無症候性の被験体を確認するのに役立つ。該被験体は一般に、喫煙者、糖尿病患者、肥満患者、高脂血症を患う被験体、動脈性高血圧を患う被験体、冠心疾患、心筋梗塞若しくは卒中の家族歴のある被験体、例えば関節リウマチのように冠疾患の好発に関連する基礎疾患を有する者といった、リスク集団に属する。
【0016】
好ましくは、被験体は冠血管疾患により生じたCHDを患う。特に、該血管疾患は多枝疾患であり、すなわち(例えば、プラーク沈着、血栓および/または痙攣による)心臓血管の部分閉塞により生じたものである。部分的血管閉塞は、症状を伴うかまたは無症状の更なる合併症を生じさせ得る心筋虚血をもたらす。冠血管は、当業者には公知である。本発明に関して、用語「冠血管」には、(3種類の)大冠血管だけでなく、これに接続する中型の血管および小型の血管が含まれる。したがって、本発明に関して、冠血管疾患は、例えば、大冠血管に影響を及ぼす大血管障害として生じ得るだけでなく、大血管障害および微小血管障害が組み合わさったものとして生じ得る。
【0017】
心血管全体の閉塞が生じた場合にもたらされる病理状態は、心筋梗塞(MI)の基礎をなす状態であるとして定義される心筋壊死である。被験体の体液中の心筋トロポニンT(以下、TnT)またはトロポニンI(TnI)の量を測定することによりMIを診断する方法が、現時点での技術水準である。この値が上昇すると、MIを発症していることが疑われる。(冠心疾患である)MIを診断する該方法は、本発明の一部ではない。
【0018】
本発明に関して、用語「冠心疾患」(CHD)は、冠動脈硬化、すなわち冠血管の部分閉塞または全閉塞により生じたいずれかの冠動脈の機能障害(病理状態)を意味する。用語CHDは、広範囲の様々な急性および慢性の病理状態(安定狭心症および不安定狭心症(それぞれSAPおよびUAP)、左心室機能不全(LVD)、(うっ血性)心不全(CHF)、心臓死を含む)を含む。本発明に関して、より一般的には、「冠疾患」は心筋への血液供給不足に関連し、またそれに付随する全ての病理状態に関連する。
【0019】
一般に、LDVおよびCHFは慢性の状態または疾患とみなされるのに対し、SAP、UAPおよびMIは急性の病理状態または疾患とみなされる。本発明は、特に、無症候性であるCHDの確認に適している。したがって、無症候性ではないSAPおよびUAPは、胸痛のような特徴的な症状を示すので、通常、本発明の教示内容を用いては診断されないであろう。MIの診断も同様に、本発明の目的ではない。本発明は、例えばLVDおよび/またはCHFのような病理状態を導く慢性心血管疾患に関する。
【0020】
本発明に関して、「無症候性の」とは被験体がCHDに関して明らかな症状を示さないことを意味する。「明らかな症状」とは、当業者(医師)が、それぞれの病理状態(ここではCHDまたはCHDのサブグループに分類されるもの)に特徴的であると認識するような症状を意味する。本発明に関して、無症候性の患者は身体的活動の制限を示さず、通常の身体的活動では過度の疲労感、動悸、呼吸困難(息切れ)、嘔気、嘔吐、または不安を生じない。もちろん、被験体は胸痛のような重篤な症状を示さない。
【0021】
当業者にとって、用語「明らかな症状」に、徹底したかつ/または目標を絞った医学的検査(例えば血管造影法またはECG)を実施して初めて認められる症状が含まれないことは明らかである。どんな病理状態でも、十分注意をして(徹底した方法で)医学的検査が行われれば、一般に認識することができる症状を伴うことに配慮する必要がある。
【0022】
冠心疾患(CHD)は、急性心血管発作、すなわち突然現れる(すなわち事前に臨床症候または症状を伴わない)発作を生じさせることがあり、該発作は拡張期または収縮期血流速度に重大な影響を与える。本明細書で意図される急性心血管発作は、病理組織学的には心筋細胞の突然虚血により当然に引き起こされるものであり、前記細胞の深刻な壊死を伴うものである。一般に、急性心血管発作を患う被験体は、胸部、心窩部、上腕、手首または顎関節等の不快感または痛みといった典型的な症状も患うであろう。また、それらにより該胸痛が上腕、背部または肩へ放散され得る。急性心血管発作のさらなる症状は、原因不明の嘔気若しくは嘔吐、持続的な息切れ、衰弱、眩暈、立ちくらみまたは失神に加え、それらの任意の組合せであり得る。一般に、急性心血管発作は、急性冠症候群(ACS)、すなわち不安定狭心症(UAP)または心筋梗塞(MI)のいずれかである。多くの場合、急性心血管発作はST上昇型のMIおよび非ST上昇型のMIを含むMIである。さらに、心血管イベントには卒中も包含される。定義、症状および心電図による症候等の臨床症候に関するさらなる詳細は、Joint European Society of Cardiology / American Society of Cardiology, 2000, J American College of Cardiology, Vol.36, No.3: 959-969に見出される。
【0023】
本発明に関して、冠心疾患は一般に、急性心血管発作状態またはLVD状態を過去に経たか否かを問わず、幾つかのクラスに分類される心不全を引き起こすであろう。症状は、New York Heart Association分類体系に従って分類され得る。クラスIの患者は、心血管疾患の明らかな症状がない。身体的活動は制限されず、通常の身体的活動では過度の疲労感、動悸、または呼吸困難(息切れ)を生じない。クラスIIの患者は、身体的活動がわずかに制限される。彼らは、安静時は快適に過ごすが、通常の身体的活動により疲労感、動悸、または呼吸困難が生じる。クラスIIIの患者は、身体的活動が著しく制限される。彼らは安静時には快適に過ごすが、通常よりも少ない身体的活動であっても疲労感、動悸、または呼吸困難が生じる。クラスIVの患者は、どんな身体的活動であれ、不快感を感じずに行うことができない。彼らは、安静時でも心不全の症状を示す。なんらかの身体的活動を行おうとすると、不快感が増す。したがって、患者群は何も症状を示さない被験体と症状(例えば、呼吸困難)のある被験体とに分けることができる。
【0024】
本発明の好ましい実施形態において、ANP、NT−proANP、BNPおよびNT−proBNPからなる群から選択されるナトリウム利尿ペプチド、好ましくはBNP若しくはNT−proBNP、特にNT−proBNP、またはそのように命名されたペプチドの変異体の量が、心筋トロポニン(特にTnT)に加えて測定される。
【0025】
ナトリウム利尿ペプチド、特にNT−proBNPは、例えば、心不全、心筋虚血および/または心筋壊死と関連付けることができる心筋の心室壁張力を示すいわゆる神経液性マーカーとして知られている。
【0026】
本発明に関して、ナトリウム利尿ペプチドまたはその誘導体、特にNT−proBNPの量の測定により、虚血性冠心疾患、特にそれぞれの被験体の多枝疾患がすぐに発症しそうなときに、その程度に関する追加情報を得ることができる。
【0027】
本明細書で使用される用語「被験体」は、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトに関する。しかしながら、本発明では、CHDまたは急性心血管発作と関連することが知られている症状(すなわち胸痛、呼吸困難および上記の他の症状)を、好ましくは示さないことが想定される。より好ましくは、被験体はNYHAクラスII、IIIまたはIVの症状を示さないものとする。本発明の一実施形態において、被験体はNYHAクラスIの被験体である。
【0028】
本発明でナトリウム利尿ペプチドまたは心筋トロポニンの量を測定することは、好ましくは半定量的または定量的に、量または濃度を測定することに関する。測定は直接的または間接的に実施することができる。直接測定は、ナトリウム利尿ペプチドまたは心筋トロポニン自体から得られるシグナルおよびサンプル中に存在するペプチドの分子数と直接相関する強度に基づいて、ナトリウム利尿ペプチドまたは心筋トロポニンの量または濃度を測定することに関する。そのようなシグナル(本明細書で時に強度シグナルと称される)は、例えば、ナトリウム利尿ペプチドまたは心筋トロポニンに特有の物理的若しくは化学的特性の強度値を測定することにより得られる。間接測定は、第2の成分(すなわち、ナトリウム利尿ペプチドそのものではない成分)または生物学的読み取り系(例えば、測定可能な細胞応答、リガンド、標識または酵素反応生成物)から得られるシグナルを測定することを含む。
【0029】
本発明において、ナトリウム利尿ペプチドまたは心筋トロポニンの量の測定は、サンプル中のペプチドの量を測定するための全ての公知の手段により、実施することができる。前記手段には、様々なサンドイッチ型、競合型または他のアッセイ型で標識された分子を利用し得るイムノアッセイデバイスおよび方法が含まれる。前記アッセイは、ナトリウム利尿ペプチドまたは心筋トロポニンの存在または不存在を示すシグナルを生じさせるであろう。さらに、シグナルの強さは、好ましくは、サンプル中に存在するポリペプチドの量と直接的または間接的に(例えば、反比例して)相関し得る。さらに適切な方法は、その正確な分子量またはNMRスペクトルのようなナトリウム利尿ペプチドに特有な物理的または化学的特性を測定することを含む。前記方法は、好ましくは、バイオセンサー、イムノアッセイと組み合わせた光学デバイス、バイオチップ、分析用デバイス(質量分析装置、NMR解析装置、またはクロマトグラフィー装置など)を含む。さらに、この方法にはマイクロプレートELISAに基づく方法、完全に自動化されたかまたはロボット制御のイムノアッセイ(例えばElecsysTM分析機により実施できる)、CBA(例えばRoche−HitachiTM分析機により実施することができる酵素的コバルト結合アッセイ)、およびラテックス凝集反応アッセイ(Roche−HitachiTM分析機により実施できる)が含まれる。測定方法および手段には、Cardiac ReaderTM (Roche Diagnosticsから購入できる)のような治療現場デバイスも含まれる。
【0030】
治療現場デバイスは、患者のベッドサイドで測定することができるデバイスとして、一般に理解される。一例は、例えばNT−proBNP用のテストストリップ(Roche Diagnosticsから「Cardiac proBNP」として購入できる)と組合せたCardiac ReaderTM (Roche Diagnosticsから購入できる)である。そのような試験法では、所望のペプチド(例えば、BNP型ペプチド)に対する2種類の(好ましくはモノクローナル)抗体を利用し得る。該抗体は、例えばElecsysTMまたはCobasTMアッセイで使用される抗体と同一であり得る。例えば、第1の抗体はビオチンで標識され、第2の抗体は金粒子で標識される。該試験法は、少量(例えば150μL)の血液サンプルを、テストストリップに(例えばテストストリップのサンプルウェルに)加えることにより開始され得る。サンプル中の赤血球は、テストストリップに添加する前または後に、例えばサンプルを適切なフリース(例えば、ガラス繊維フリース)に通過させることにより、残りの血漿から分離し得る。前記分離手段(例えば、フリース)は、好ましくはテストストリップの一部である。抗体(好ましくはテストストリップ上に既に存在する抗体)は、残りの血漿中で溶解される。該抗体は、所望のペプチドまたはポリペプチドと結合して、三者サンドイッチ複合体を形成することができる。(結合または非結合)抗体はストリップを通過して、検出区画へと移動する。検出区画には、結合複合体を検出するための手段が含まれ、該手段は例えばストレプトアビジンを含む。これにより複合体を固定化し、固定化された遊離の複合体は、金標識抗体により紫色のラインとして可視化される。好ましくは、残存する金標識抗体は、その後さらにストリップ内を下流に移動することにより、BNP型ペプチドのエピトープを含む合成ペプチドまたはポリペプチドを含む区画内で捕捉されて、別の紫色のラインとして可視化され、検出され得る。そのような第2のラインの存在は、サンプルが正常に作用するように通過し、該抗体が無傷であることを表すので、対照として役立ち得る。テストストリップは、ストリップで検出することができる所望のペプチドまたはポリペプチドを示す標識を含み得る。テストストリップは、検出区画内で検出することができる標識の量を光学測定するためのデバイスにより、判読可能なバーコードまたは他のコードも含み得る。そのようなバーコードには、所望のペプチドまたはポリペプチドをストリップで検出できることを示す情報が含まれ得る。バーコードには、テストストリップに関するロット固有の情報も含まれ得る。
【0031】
本発明の使用において利用される試験法は、心筋トロポニン、特にトロポニンTおよび/またはトロポニンIの検出について高感度を有する。各試験では、トロポニンTについて、約0.001ng/mLまたはそれより少ない濃度を測定することができる。濃度約0.01ng/mLは99%以上の再現性をもって測定することができる。トロポニンIのような他の心筋トロポニンについては換算値が適用され、これらの値は当業者には公知であり、刊行された文献中の値から推測することができる。
【0032】
高感度試験は、これまでのアッセイ世代と本質的に同じ試薬および成分により行われる。感度は、配置および/またはインキュベーション時間を変更することにより、増強されてきた。
【0033】
Cardiac Reader自体は、光学的にテストストリップの検出区画を記録するカメラ(例えば、荷電結合デバイス:CCD)を含む。シグナルラインおよび対照ラインは、パターン認識アルゴリズムにより特定され得る。シグナルライン中の標識の強度は、一般に所望のペプチドまたはポリペプチドの量に比例する。光学シグナルは、コードチップに内蔵され得るロット固有の較正曲線により濃度へと変換される。較正コードと試験ロットとの合致性については、テストストリップ上のバーコードにより確認され得る。
【0034】
好ましい実施形態において、ナトリウム利尿ペプチドまたは心筋トロポニンの量を測定するための方法は、以下のステップ:(a)細胞応答を誘発することができる細胞であって、その強度が前記ペプチドの量を示すものである細胞を前記ペプチドと適切な時間にわたり接触させるステップ;(b)細胞応答を測定するステップを含む。
【0035】
細胞応答を測定するために、サンプルまたは処理したサンプルは、好ましくは細胞培養物に加えられ、細胞内応答または細胞外応答が測定される。細胞応答には、測定可能なレポーター遺伝子の発現または基質(例えばペプチド、ポリペプチド、または小分子)の分泌が含まれ得る。発現または基質は、ペプチドの量と相関する強度シグナルを生じさせるであろう。
【0036】
別の好ましい実施形態において、ナトリウム利尿ペプチドまたは心筋トロポニンの量を測定するための方法には、サンプル中のナトリウム利尿ペプチドまたは心筋トロポニンから得られる特有の強度シグナルを測定するステップが含まれる。
【0037】
上記のとおり、そのようなシグナルは、ナトリウム利尿ペプチドまたは心筋トロポニンに特異的な質量スペクトルまたはNMRスペクトルで観察されたナトリウム利尿ペプチドまたは心筋トロポニンに特有のm/z変数で観察されるシグナル強度であり得る。
【0038】
別の好ましい実施形態において、ナトリウム利尿ペプチドの量を測定するための方法は、以下のステップ:(a) 該ペプチドを特異的なリガンドと接触させるステップ;(b)(任意により)非結合リガンドを除去するステップ;(c)結合リガンドの量を測定するステップを含む。
【0039】
結合リガンドは、強度シグナルを生じさせるであろう。本発明では結合には、共有結合および非共有結合の両者が含まれる。本発明ではリガンドは、本明細書に記載のナトリウム利尿ペプチドまたは心筋トロポニンと結合する任意の化合物(例えばペプチド、ポリペプチド、核酸、または小分子)であり得る。好ましいリガンドには、抗体、核酸、ナトリウム利尿ペプチドの受容体若しくは心筋トロポニンの結合パートナーのようなペプチドやポリペプチドおよび該ペプチドの結合ドメインを含むそれらのフラグメント、並びにアプタマー(例えば、核酸またはペプチドアプタマー)が含まれる。そのようなリガンドを調製する方法は、当技術分野で周知である。例えば、適切な抗体またはアプタマーの同定および産生も、商業的供給業者により提供される。当業者であれば、高親和性または高特異性を有するそのようなリガンドの誘導体を作製する方法に精通している。例えば、ランダム突然変異が、核酸、ペプチドまたはポリペプチドに導入され得る。その後、これらの誘導体は当技術分野で公知のスクリーニング方法、例えばファージディスプレイにより、結合について試験され得る。本明細書で意図される抗体には、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体だけでなく、抗原またはハプテンと結合することができるFv、FabおよびF(ab)フラグメントのようなそれらのフラグメントが含まれる。本発明には、所望の抗原特異性を示す非ヒトドナー抗体のアミノ酸配列がヒトアクセプター抗体の配列に結合された、ヒト化ハイブリッド抗体も含まれる。ドナー配列は通常、少なくともドナーの抗原結合アミノ酸残基を含むであろうが、同様にドナー抗体と構造的におよび/または機能的に相応な他のアミノ酸残基も含み得る。そのようなハイブリッドは、当技術分野で周知のいくつかの方法により調製され得る。好ましくは、リガンドまたは薬剤はナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する。本発明では特異的な結合とは、分析対象となるサンプル中に存在する別のペプチド、ポリペプチドまたは基質とは、実質的に結合しない(「交差反応」しない)はずであることを意味する。好ましくは、特異的に結合したナトリウム利尿ペプチドは、任意の相応なペプチドまたはポリペプチドよりも少なくとも3倍多く、より好ましくは少なくとも10倍多く、さらにより好ましくは少なくとも50倍多く結合する必要がある。非特異的結合は、例えば、ウェスタンブロット法においてそのサイズにより、またはサンプル中で比較的高いその存在量により、明確に区別して測定することができる場合には、認容され得る。リガンドの結合は、当技術分野で公知の任意の方法により測定され得る。好ましくは、前記方法は半定量的または定量的である。適切な方法は、以下のとおり説明される。
【0040】
第1に、リガンドの結合は例えばNMRまたは表面プラスモン共鳴法により直接的に測定され得る。
【0041】
第2に、リガンドが目的のペプチドまたはポリペプチドの酵素活性の基質としての役割も果たす場合には、酵素反応生成物が測定され得る(例えば、プロテアーゼの量は、切断された基質の量を例えばウェスタンブロット法で測定することにより、測定することができる)。あるいはまた、リガンドが酵素特性自体を示す場合もあり、さらに、リガンド/ナトリウム利尿ペプチドまたはリガンド/心筋トロポニン複合体またはそれぞれがナトリウム利尿ペプチドや心筋トロポニンにより結合されるリガンドは、強度シグナルの生成により検出することが可能になる適切な基質と接触させてよい。酵素反応生成物の測定において、好ましくは基質の量は飽和状態である。さらに、基質は反応前に検出可能な標識により標識化され得る。好ましくは、サンプルは適切な時間にわたり、基質と接触させられる。適切な時間とは、検出可能な量、好ましくは測定可能な量の生成物を生成させるのに必要な時間を意味する。生成物の量を測定する代わりに、所与の量(例えば、検出可能な量)の生成物が出現するのに要する時間を測定し得る。
【0042】
第3に、リガンドは、リガンドの検出および測定が可能な標識と共有結合または非共有結合させられ得る。標識化は、直接的または間接的な方法によりなされ得る。直接的な標識化には、標識をリガンドに直接的に(共有または非共有)結合させることが含まれる。間接的な標識化には、第2のリガンドを第1のリガンドと(共有また非共有)結合させることが含まれる。第2のリガンドは、第1のリガンドに特異的に結合する必要がある。前記第2のリガンドは、適切な標識に結合し得、さらに/または第2のリガンドに結合する第3のリガンドの標的(受容体)であり得る。第2の、第3の、またはそれよりさらに高次のリガンドを利用することにより、シグナルはしばしば増強される。適切な第2のおよびそれよりさらに高次のリガンドには、抗体、二次抗体、および周知のストレプトアビジン・ビオチン系(Vector Laboratories, Inc.)が含まれ得る。リガンドまたは基質もまた、当技術分野で知られるとおり、1以上のタグにより「タグ付け」され得る。その後、そのようなタグはさらに高次のリガンドの標的となり得る。適切なタグには、ビオチン、ジゴキシゲニン、Hisタグ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、FLAG、GFP、mycタグ、A型インフルエンザウイルス血球凝集素(HA)、マルトース結合タンパク質等が含まれる。ペプチドまたはポリペプチドの場合、タグは好ましくはN末端および/またはC末端に存在する。好適な標識は、適切な検出方法により検出可能な任意の標識である。典型的な標識には、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダンエステル、ルミノール、ルテニウム、酵素活性標識、放射性標識、磁気標識(例えば、常磁性標識および超常磁性標識を含む「磁気ビーズ」)、および蛍光標識が含まれる。酵素活性標識には、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、およびそれらの誘導体が含まれる。検出のために適切な基質には、ジアミノベンジジン(DAB)、3,3’−5,5’−テトラメチルベンジジン、NBT−BCIP(4−ニトロブルーテトラゾリウムクロリドおよび5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスフェート:Roche Diagnosticsから既製の原液として購入することができる)、CDR−StarTM (Amersham Biosciences)、ECFTM (Amersham Biosciences)が含まれる。好適な酵素・基質の組み合わせは、着色反応生成物、蛍光または化学発光をもたらし得、これらは当技術分野で公知の方法により(例えば、光感度フィルムまたは適切なカメラシステムを使用することにより)、測定することができる。酵素反応を測定するためのものとして、上記に挙げた基準を同様に適用する。典型的な蛍光標識には、蛍光タンパク質(たとえば、GFPおよびその誘導体)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセイン、およびAlexa色素(例えば、Alexa568)が含まれる。さらなる蛍光標識は、例えばMolecular Probes(Oregon)から購入することができる。蛍光標識として量子ドットを使用することも意図される。典型的な放射性標識には、35S、125I、32P、33P等が含まれる。放射性標識は、任意の公知方法により検出することができ、例えば、光感度フィルムまたはホスホルイメージャーが適している。本発明の適切な測定方法には、沈降(特に免疫沈降)、電気化学発光(電気的に生じさせた化学発光)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、サンドイッチ酵素免疫試験、電気化学発光サンドイッチイムノアッセイ(ECLIA)、解離促進ランタニド蛍光イムノアッセイ(DELFIA)、シンチレーション近接アッセイ(SPA)、濁度分析法、比濁分析法、ラテックス増強濁度分析法若しくは比濁分析法、または固相免疫試験も含まれる。当技術分野で公知のさらなる方法(例えば、ゲル電気泳動法、2Dゲル電気泳動法、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS−PAGE)、ウェスタンブロット法、および質量分析法)が、単独または上記のとおり標識化若しくは他の検出方法と組み合わせて使用され得る。
【0043】
別の好ましい実施形態において、心筋トロポニンまたはナトリウム利尿ペプチドの量を測定するための方法には、(a) 上記のとおり特定されたナトリウム利尿ペプチドまたは心筋トロポニンのリガンドを含む固体支持体と、ナトリウム利尿ペプチドまたは心筋トロポニンを含むサンプルとを接触させること、並びに(b) 該支持体に結合したナトリウム利尿ペプチドまたは心筋トロポニンの量を測定することが含まれる。
【0044】
リガンド、好ましくは核酸、ペプチド、ポリペプチド、抗体およびアプタマーからなる群から選択されるリガンドが、好ましくは固定化されて固相支持体上に存在する。固相支持体を製造するための材料は、当技術分野では周知であり、とりわけ商業的に購入可能なカラム材料、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁気ビーズ、コロイド金属粒子、ガラスおよび/またはシリコンのチップおよび表面、ニトロセルロースストリップ、メンブレン、シート、デュラサイト(duracyte)、反応トレイのウェルおよび壁、プラスチックチューブ等が含まれる。リガンドまたは薬剤は、多くの種類の担体と結合し得る。周知の担体の例には、ガラス、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、デキストラン、ナイロン、アミロース、天然または修飾セルロース、ポリアクリルアミド、アガロース、および磁鉄鉱が含まれる。担体の性質は、本発明の目的に応じて、可溶性または不溶性のいずれかであり得る。前記リガンドを定着/固定化するための適切な方法は周知であり、これに限定されないが、イオン性、疎水性、共有結合性の相互作用等が含まれる。本発明のアッセイとして、「懸濁アレイ」を使用することも意図される(Nolan JP, Sklar LA. (2002), 懸濁アレイ技術:「フラットアレイパラダイムの進展」, Trends Biotechnol. 20(1):9-12)。そのような懸濁アレイでは、担体、例えばマイクロビーズまたはマイクロスフェアが懸濁液中に存在する。該アレイは、様々なマイクロビーズまたはマイクロスフェアで、おそらく標識され様々なリガンドを担持するものから構成される。そのようなアレイの作製方法は、例えば固相化学および光標識保護基に基づくものが、一般的に知られている(US 5,744,305)。
【0045】
本明細書で使用される用語「量」には、ナトリウム利尿ペプチドまたは心筋トロポニンの絶対量、ナトリウム利尿ペプチドまたは心筋トロポニンの相対量もしくは濃度だけでなく、これに関連する任意の値またはパラメータが包含される。そのような値またはパラメータには、直接測定で前記ペプチドから得られるすべての特有の物理的または化学的特性由来の強度シグナル値、例えば、質量スペクトルまたはNMRスペクトルにおける強度値が含まれる。そのうえ、本明細書のいずれかで特定された間接測定により得られるすべての値またはパラメータ、例えば、ペプチドに対する応答として生物学的読み取りシステムで測定される発現レベルまたは特異的に結合したリガンドから得られる強度シグナルが包含される。前述の量またはパラメータと関連する値は、すべての標準的な数学的手法によっても得ることができると理解される。
【0046】
用語「心筋トロポニン」は、心臓の細胞、好ましくは心内膜下細胞で発現されるすべてのトロポニンのアイソフォームを意味する。これらのアイソフォームは、例えばAndersonら 1995, Circulation Research, vol. 76, no. 4: 681-686およびFerrieresら 1998, Clinical Chemistry, 44: 487-493に記載の通り、当技術分野でよく調べられている。
【0047】
好ましくは、心筋トロポニンはトロポニンTおよび/またはトロポニンIを意味する。
【0048】
本発明に関して、一般にトロポニンTがトロポニンIよりも好ましい。しかしながら、当業者であれば、いずれのペプチドも、心筋細胞、すなわち心筋から放出され、また同じイベント(細胞への障害)で放出されるので、多くのまたはほとんどのケースにおいて、トロポニンIの量の測定により得られた情報が、トロポニンTの測定により得られた情報と同様に価値があることを理解するであろう。
【0049】
したがって、両方のトロポニンが本発明の方法により共に(すなわち同時若しくは逐次的に)、または個別に(すなわち他のアイソフォームは全く測定せずに)測定され得る。
【0050】
ヒトトロポニンTおよびヒトトロポニンIのアミノ酸配列は、Andersonら, 上掲およびFerrieresら, 上掲に開示されている。用語「心筋トロポニン」には、前述の特定のトロポニンの変異体、すなわち好ましくはトロポニンTまたはトロポニンIの変異体も包含される。そのような変異体は、特定の心筋トロポニンと少なくとも同一の基本的な生物学的特性および免疫学的特性を有する。特に、変異体が本明細書で意図される同一の特異的アッセイにより、例えば前記心筋トロポニンを特異的に認識するポリクローナル抗体もしくはモノクローナル抗体を用いるELISAアッセイにより検出可能な場合には、変異体は同一の基本的な生物学的特性および免疫学的特性を共有している。そのうえ、本発明で意図される変異体は、少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失および/または付加により異なるアミノ酸配列を有するものであるが、変異体のアミノ酸配列は、好ましくは、特定のトロポニンのアミノ酸配列と依然として少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、または99%同一であると理解される。変異体は、対立遺伝子変異体またはいずれかの動物種特異的なホモログ、パラログ、またはオルソログであり得る。しかも、本明細書で意図される変異体には、特定の心筋トロポニンまたは前述の変異体型のフラグメントが、上述のとおり基本的な免疫学的特性および生物学的特性を有する限り含まれる。そのようなフラグメントには、例えばトロポニンの分解生成物が含まれ得る。さらに、リン酸化またはミリスチル化のような翻訳後修飾により異なる変異体が含まれる。
【0051】
用語「ナトリウム利尿ペプチド」には、心房ナトリウム利尿ペプチド(ANP)型ペプチドおよび脳ナトリウム利尿ペプチド(BNP)型ペプチド、並びに同じ予測可能性を有するそれらの変異体が含まれる。本明細書のナトリウム利尿ペプチドには、ANP型ペプチドおよびBNP型ペプチド並びにそれらの変異体が含まれる(例えば、Bonow, R.O. (1996).「心房ナトリウム利尿ペプチドの新しい知見」, Circulation 93: 1946-1950を参照されたい)。
【0052】
ANP型ペプチドには、pre−proANP、proANP、NT−proANP、およびANPが含まれる。
【0053】
BNP型ペプチドには、pre−proBNP、proBNP、NT−proBNP、およびBNPが含まれる。
【0054】
pre−proペプチド(pre−proBNPの場合は、134アミノ酸)には、短いシグナルペプチドが含まれ、これは酵素的に切断されて、proペプチド(proBNPの場合は、108アミノ酸)が放出される。proペプチドは、N末端proペプチド(NT−proペプチド、NT−proBNPの場合には76アミノ酸)および活性ホルモン(BNPの場合には32アミノ酸、ANPの場合には28アミノ酸)へとさらに切断される。
【0055】
本発明の好ましいナトリウム利尿ペプチドは、NT−proANP、ANP、NT−proBNP、BNP、およびそれらの変異体である。ANPおよびBNPは活性ホルモンであり、それらのそれぞれの不活性対応型であるNT−proANPおよびNT−proBNPよりも短い半減期を有する。BNPは血液中で代謝されるのに対し、NT−proBNPは無傷の分子として血液中で循環し、そのままの分子として腎臓で除去される。NT−proBNPのin−vivo半減期は120分間で、BNPの半減期である20分間よりも長い(Smith MW, Espiner EA, Yandle TG, Charles CJ, Richards AM.「ヒト脳ナトリウム利尿ペプチドの代謝の遅延は、中性エンドペプチターゼに対する耐性を示す」, J Endocrinol. 2000; 167: 239-46)。
【0056】
事前分析は、サンプルの中央検査室への輸送が容易なNT−proBNPに対し、より活発である(Mueller T, Gegenhuber A, Dieplinger B, Poelz W, Haltmayer M.「凍結血漿サンプル中の内因性B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)およびアミノ末端proBNP(NT−proBNP)での長期間安定性」, Clin Chem Lab Med 2004; 42: 942-4)。血液サンプルは、数日間室温で保存することができ、または回収損失を伴わずに郵送や運搬され得る。対照的に、BNPを室温または4℃で48時間保存すると、少なくとも20%の濃度損失が導かれる(Mueller T, Gegenhuber Aら, Clin Chem Lab Med 2004; 42: 942-4, 上掲、Wu AH, Packer M, Smith A, Bijou R, Fink D, Mair J, Wallentin L, Johnston N, Feldcamp CS, Haverstick DM, Ahnadi CE, Grant A, Despres N, Bluestein B, Ghani F. 「心不全を患う患者についての、Bayer ADVIA Centaurの自動化B型ナトリウム利尿ペプチドアッセイの分析的および臨床的評価:多施設共同試験」, Clin Chem 2004; 50: 867-73)。したがって、ナトリウム利尿ペプチドの活性型または不活性型のどちらかの測定が有利であり得るかは、目的の経時変化または特性次第である。
【0057】
もっとも好ましい本発明のナトリウム利尿ペプチドは、NT−proBNPまたはその変異体である。上記で簡潔に検討したとおり、本発明で意図されるヒトNT−proBNPは、好ましくはヒトNT−proBNP分子のN末端部分に対応する76アミノ酸長を含むポリペプチドである。ヒトBNPおよびNT−proBNPの構造は、先行技術として詳細に、例えば、WO 02/089657、WO 02/083913、Bonow, 1996, 「心臓ナトリウム利尿ペプチドに関する新しい知見」, Circulation 93: 1946-1950で既に報告されている。好ましくは、本明細書で使用されるヒトNT−proBNPは、EP0 648 228 B1に記載のヒトNT−proBNPである。これらの先行技術文献は、そこに開示されているNT−proBNPおよびその変異体の具体的配列について、参照により本明細書に組み入れられる。
【0058】
本明細書で意図されるNT−proBNPには、上記ヒトNT−proBNPの前記具体的配列についての対立遺伝子変異体または他の変異体がさらに包含される。具体的には、アミノ酸レベルでヒトNT−proBNPと少なくとも60%同一の、より好ましくは少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一の変異体ポリペプチドが想定される。診断手段により、またはそれぞれの完全長ペプチドに対するリガンドにより認識されるタンパク質分解生成物は実質的に同一であり、これもまた想定される。ヒトNT−proBNPのアミノ酸配列と比べアミノ酸欠失、置換および/または付加を有する変異体ポリペプチドも、NT−proBNPの特性を有する限り想定される。本明細書で意図されるNT−proBNP特性は、免疫学的特性および/または生物学的特性である。好ましくは、NT−proBNP変異体は、NT−proBNPの免疫学的特性と同程度の免疫学的特性(すなわち、エピトープ組成)を有する。したがって、変異体は、ナトリウム利尿ペプチドの量の測定のために使用される前述の手段またはリガンドにより認識される必要がある。生物学的および/または免疫学的なNT−proBNPの特性は、Karlらの記載(Karlら 1999.「低い検出限界を有するN末端proBNP(NT−proBNP)の新規アッセイの開発」, Scand J Clin Lab Invest Suppl 230:177-181)、Yeoらの記載(Yeo 2003. 「Roche NT−proBNPアッセイの多施設評価とBiositeトリアージアッセイの比較」, Clinica Chimica Acta 338:107-115)、および下記の実施例1に記載のアッセイにより検出することができる。変異体には、グリコシル化ペプチドのような翻訳後修飾されたペプチドも含まれる。
【0059】
本発明の変異体には、サンプル回収後に、例えば標識(特に放射性標識または蛍光標識)のペプチドとの共有結合や非共有結合により修飾されたペプチドまたはポリペプチドも含まれる。
【0060】
用語「サンプル」は、体液サンプル、分離された細胞のサンプル、または組織若しくは臓器から採取したサンプルを意味する。体液サンプルは、周知技術により取得可能なものであり、好ましくは、血液、血漿、血清、または尿のサンプルを含む。組織または臓器サンプルは、例えば生検により任意の組織または臓器から取得され得る。分離された細胞は、遠心分離または細胞選別のような分離技術により、体液または組織もしくは臓器から取得され得る。好ましくは、細胞サンプル、組織サンプル、または臓器サンプルが、本明細書で意図されるペプチド(すなわち、ナトリウム利尿ペプチドおよび心筋トロポニン)を発現または産生する細胞、組織または臓器から取得される。
【0061】
本明細書で使用される比較には、解析対象のサンプルに含まれるナトリウム利尿ペプチドまたは心筋トロポニンの量を、本明細書のいずれかで特定される適切な参照元の量と比較することが含まれる。本明細書で使用される比較は、対応するパラメータまたは値の比較を意味し、例えば絶対量が絶対参照量と比較され、濃度が参照濃度と比較され、または試験サンプルから得られた強度シグナルが参照サンプルの同じ種類の強度シグナルと比較されるものであると理解される。本発明の方法のステップ(b)で意図される比較は、説明書どおりにまたはコンピュータを利用して実施され得る。コンピュータを利用した比較では、測定量の値が、コンピュータプログラムにより、データベース中に保存されている対応する適切な参照の値と比較され得る。コンピュータプログラムはさらに、比較の結果を評価し得る。すなわち、適切なアウトプット形式で所望の診断を自動的にもたらし得る。
【0062】
本明細書で使用される用語「参照量」は、被験体が、好ましくは無症候性である進行型虚血性心疾患や本明細書で意図される別の疾患を患うか否かを、上記で参照される比較により評価することができる量を意味する。したがって、該参照は、上記で特定したリスク集団に属する被験体および/または少なくとも進行型虚血性心疾患に関しては健常な被験体に由来し得る。被験体に対し適用することができる参照量は、年齢、性別、または部分母集団のような様々な生理学的パラメータに応じて変化し得る。したがって、適切な参照量は、本発明の方法を用いて参照サンプルから測定され、試験サンプルと共に、すなわち同時または逐次的に解析され得る。原理上、虚血性心疾患の進行段階では、認められる心筋トロポニンの量、例えば血漿中での量も増加するであろうことが本発明により明らかになっている。しかも、虚血性心疾患が重症になればなるほど、血漿中のナトリウム利尿ペプチドの量が増加すると予測される。
【0063】
したがって、健常な被験体において血漿の心筋トロポニンおよびナトリウム利尿ペプチド量が上昇している場合、急性心血管発作またはより重篤なタイプの慢性心不全を患う可能性が高いことと関連付けられるといえる。より好ましくは、少なくとも0.003ng/mL、好ましくは0.1ng/mL、特に0.5ng/mLの心筋トロポニンについての参照量が、進行型虚血性冠心疾患を示すものであることが本発明に基づいて見出される。そのうえ、前記心筋トロポニンの参照量は、少なくとも150pg/mL、好ましくは350pg/mL、特に500pg/mLのナトリウム利尿ペプチドの参照量との関連でも、進行型虚血性冠心疾患を示す(すなわち、進行する可能性がより高いことと関連する)。
【0064】
上記や下記で行った用語の定義および表現は、したがって本明細書に記載のすべての実施形態および添付の特許請求の範囲に適用される。
【0065】
本発明の方法の好ましい実施形態において、少なくとも0.003ng/mLの心筋トロポニンについての参照量は、いずれかの言及されたナトリウム利尿ペプチドの参照量と任意により組み合わせて、進行型虚血性冠心疾患を示すものであることが上記から導かれる。
【0066】
好ましい実施形態において、本発明は単枝冠心疾患と多枝冠心疾患とを区別することができる。
【0067】
本発明に関して、用語「多枝冠心疾患」は「単枝冠心疾患」よりも重篤な血管閉塞を示す。
【0068】
本明細書で使用される用語「区別する」とは、単枝冠心疾患を患う被験体と多枝心疾を患う被験体とを区別することを意味する。
【0069】
本明細書で使用される用語「慢性心不全」は、慢性の、すなわち恒久的な心不全を意味する。心不全は、拡張期または収縮期血流速度の障害により特性づけられ、したがって心機能の障害により特性づけられる。しかしながら、本明細書で意図される慢性心不全では、突然の虚血の後に心筋細胞の重篤な壊死が示されるというより、好ましくは、該虚血の後に心筋細胞において継続的な壊死性のイベントがおこり、それにより継続的な心機能障害の進行がもたらされる。
【0070】
有利には、本発明は、急性心血管発作と慢性心不全を鑑別診断するために前述の方法を提供することにより、前記疾患の症状を、確実に、時間だけでなく費用についても効率よく区別する。したがって、前記疾患を患う被験体は、非特異的で非効率的な治療ではなく、特異的で効率的な治療により容易に処置を受けることができる。
【0071】
トロポニンTレベルの上昇を有するが、症状はないことがわかっている被験体は、より徹底した診断法、特にカテーテル血管造影法、コンピュータ断層と組み合わせた造影剤を用いるバーチャル血管造影法に供されることにより狭窄が明らかにされ、該狭窄は開口される場合があり、その場合にはバルーン膨張またはステントが使用される。これにより、MIになることを回避し得、心機能を維持することができる。
【0072】
トロポニンTレベルの上昇を有するが、症状はないことがわかっている被験体は、心筋の内壁圧を低下させることにより、壊死が生じる可能性を低下させる治療にも供され得る。
【0073】
本発明の方法の具体的な好ましい実施形態は、以下に言及される。
【0074】
本発明の方法の好ましい実施形態において、少なくとも0.003ng/mLの心筋トロポニンについての参照量および少なくとも150pg/mLのナトリウム利尿ペプチドについての参照量は、重症進行型冠動脈疾患を示すものである。より好ましい実施形態において、心筋トロポニンについての参照量は少なくとも0.1ng/mLであり、ナトリウム利尿ペプチドについての参照量は少なくとも350pg/mLである。特に好ましい実施形態において、心筋トロポニンについての参照量は少なくとも0.5ng/mLであり、ナトリウム利尿ペプチドについての参照量は少なくとも500pg/mLである。
【0075】
本発明の方法の好ましい実施形態において、ナトリウム利尿ペプチドはBNPであり、より好ましくはNT−proBNPである。
【0076】
本発明の方法のさらに好ましい実施形態において、ナトリウム利尿ペプチドはANPであり、より好ましくはNT−proANPである。
【0077】
本発明の方法のさらに好ましい実施形態では、前記心筋トロポニンがトロポニンTおよび/またはトロポニンIである。
【0078】
また、本発明の方法の好ましい実施形態において、前記被験体はヒトである。
【0079】
本発明は、進行型虚血性冠心疾患を診断するためのデバイスであって、以下の手段:
a) 被験体サンプル中の心筋トロポニンの量を測定するための手段;
b) 任意により、サンプル中のナトリウム利尿ペプチドの量を測定するための手段
を含むデバイスに関する。
【0080】
本明細書で使用される用語「デバイス」は、予測を可能とするために、互いが機能し得るように連結された前述の手段を少なくとも含む手段からなるシステムに関する。ナトリウム利尿ペプチドまたは心筋トロポニンの量を測定するための好ましい手段、および比較を行うための手段は、本発明の方法に関連付けて上記のとおり開示されている。機能しうる様式での該手段同士の連結方法は、デバイスに含まれる手段のタイプにより変化するであろう。例えば、ペプチドの量を自動的に測定するための手段が適用される場合には、前記自動手段により取得されたデータが、例えばコンピュータプログラムで処理されることにより、急性心血管発作または本明細書で意図される他の疾患を診断することができる。好ましくは、そのような場合には、該手段は単一のデバイスに内蔵される。前記デバイスは、サンプル中のペプチド量の測定値について解析するユニット、および得られたデータを鑑別診断のために処理するコンピュータユニットを含むことができる。他には、テストストリップのような手段がペプチドの量を測定するために使用される場合、診断するための該手段には、対照ストリップ、または測定した量を急性心血管発作若しくは本明細書で意図される他の疾患に付随することが知られている量や健常被験体を示すことが知られている量に割り当てる表が含まれ得る。テストストリップは、好ましくはナトリウム利尿ペプチドまたは心筋トロポニンと特異的に結合するリガンドと組み合わせられる。ストリップまたはデバイスは、好ましくは前記ペプチドと前記リガンドの結合を検出するための手段を含む。検出のための好ましい手段は、上記の本発明の方法と関連する実施形態と関連付けて開示される。その場合において、該手段は、該システムの使用者が量の測定結果とそれらの診断値を取扱説明書に与えられた指示または解説により結びつけることができるように、機能的に連結される。そのような実施形態では、該手段は別のデバイスとしてもたらされ得、好ましくはキットとして共に包装される。当業者であれば、さらなる苦労をすることなく、該手段を連結する方法を理解するであろう。好ましいデバイスは、専門の臨床医の特別な知識がなくても適用することができるものであり、例えば、単にサンプルを付加すればよいテストストリップまたは電子デバイスである。結果は、臨床医による解釈を必要とする未処理の診断データであるアウトプットとして与えられることがある。しかしながら、好ましくは、デバイスのアウトプットはその解釈にあたり臨床医を必要としない処理された診断データである。すなわち、該アウトプットから、被験体が軽度の心不全を患っているのか、あるいは中等度の心不全を患っているのかが必然的に明らかとされるべきである。さらに好ましいデバイスには、分析ユニット/デバイス(例えば、バイオセンサー、アレイ、ナトリウム利尿ペプチドを特異的に認識するリガンドと結合した固体支持体、表面プラスモン共鳴装置、NMR分析装置、質量分析装置等)または本発明の方法において上記で意図される評価ユニット/デバイスが含まれる。
【0081】
さらに、本発明には以下の手段:
a) 被験体サンプル中の心筋トロポニンの量を測定するための手段;
b) 任意により、サンプル中のナトリウム利尿ペプチドの量を測定するための手段
を含むデバイスの使用であって、好ましくは無症候性の、進行型虚血性冠心疾患を被験体において診断するための使用も包含される。
【0082】
最後に、本発明は、本発明の方法を実施するためのキットであって、以下の手段:
a) 被験体サンプル中の心筋トロポニンの量を測定する手段;
b) 任意により、サンプル中のナトリウム利尿ペプチドの量を測定するための手段
を含むキットに関する。
【0083】
本明細書で使用される用語「キット」は、好ましくは個別にまたは単一の容器内で提供される前述の手段の集合形態を意味する。容器は、好ましくは本発明の方法を実施するための指示書も含む。
【0084】
場合によっては、キットは、いずれかの測定結果をもとに進行型冠動脈疾患および/またはその合併症の診断について解釈するための取扱説明書をさらに含み得る。特に、そのような説明書は、どのような測定レベルが、どの段階のリスクに相当するのかについての情報を含み得る。これに関しては、本明細書の他の箇所に詳細が述べられている。さらに、そのような取扱説明書は、キットの構成部品を正しく使用することにより、それぞれのバイオマーカーのレベルを測定することに関する指示を提供し得る。
【0085】
この明細書で引用される全ての参考文献は、それらの全体の開示内容および本明細書で特別に言及された開示内容について、参照により本明細書に組み入れられる。
【0086】
以下の実施例は、本発明を例示するにすぎない。何であれ、本発明の範囲を限定するものであると解釈すべきでない。
【実施例】
【0087】
実施例1
動脈硬化に罹患しているリスクのある合計235人の無症候の個体は、ECG、心エコー検査に加え、冠血管造影法を受けた。
【0088】
心エコー検査の結果でLVEFが40%未満の場合には、収縮期機能不全と診断した。LVEFが60%より高い患者は収縮期機能不全を有さないとみなし、LVEFが40〜60%の患者は収縮期機能不全について不確定とみなした。さらに、隔壁厚を測定する際に、左心房のサイズも測定した。
【0089】
冠動脈疾患を1-血管疾患、2-血管疾患および3-血管疾患に分類した。血管容量が少なくとも50%狭くなった1以上の血管狭窄がある場合には、血管疾患であるとみなした。
【0090】
これらの検査に加え、喫煙、糖尿病、動脈性高血圧、心筋梗塞の既往だけでなく、脂質異常、具体的にはコレステロールレベル、LDLレベルおよびトリグリセリドレベルを含むリスク行動について、既往歴を調べた。
【0091】
感受性トロポニンTを、新しく開発された高感度トロポニンTアッセイ(Roche Diagnostics, Mannheim, Germany)により試験し、またNT−proBNPをイムノアッセイ (Roche Diagnostics, Mannheim, Germany)により測定し、CD40リガンドを血漿サンプル中でRoche Diagnostics, Mannheim, Germanyから購入したイムノアッセイを用いて試験し、さらにNT−proANPをBiomedica, Wien, Austriaにより製造されたマイクロタイタープレートイムノアッセイにより試験した。
【0092】
すべての試験は、製造業者の指示書に従い実施した。
【0093】
結果を下記のとおり表1に示す。
【表1】

【0094】
実施例2
2型糖尿病の既往歴を有する57歳の男性は、短時間の胸痛を繰りかえし経験しており、そのほとんどが運動とは無関係であった。彼は病理学的変化がないことに関してさらに解明するために、冠血管造影法を受けた。トロポニンTは0.01未満、NT−proBNPは92pg/mLであった。
【0095】
実施例3
心筋梗塞の家族歴を有し、良好な身体的健康状態にある42歳の男性は、健康診断を受けることに同意した。25%という低いLVEFが心エコー検査で観察され、血管造影法により、90%以上の2つの狭窄を伴う3-血管疾患であることが示された。これはステント埋め込み術により治療される疾患である。トロポニンTは0.04であり、NT−proBNPは920pg/mLであった。
【0096】
実施例4
進行型心血管疾患を患い、検出可能な感受性トロポニンTを有する合計26人の患者について、合計12ヶ月間追跡調査を行った。12ヶ月の観察期間後、すべての患者はトロポニンT陽性を維持したが、検査前には何も症状がなかった。中央値TnTレベルは、0.009ng/mL未満であり、12ヶ月後も0.009ng/mLのままであった。該データは、トロポニンT陽性は血液採取の時点とは無関係に、安定して変わらずに観察され、またリスク集団との妥当な相関関係を維持することを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
進行型虚血性冠心疾患の診断方法であって、以下のステップ:
a) 被験体サンプル中の心筋トロポニンの量を測定するステップ;
b) ステップa)で測定された量と参照量とを比較することにより、該疾患を診断するステップ
を含む、上記方法。
【請求項2】
前記冠心疾患が、冠血管疾患、特に多枝疾患である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記進行型虚血性冠心疾患が無症候性である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも0.003ng/mL、好ましくは0.1ng/mLの心筋トロポニンについての参照量が、重症進行型冠動脈疾患を示すものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
心筋トロポニンがトロポニンTおよび/またはトロポニンIである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
心筋トロポニンに加えて、ナトリウム利尿ペプチドの量を測定する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ナトリウム利尿ペプチドがBNPである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
BNPがNT−proBNPである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ナトリウム利尿ペプチドがANPである、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
ANPがNT−proANPである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記被験体がヒトである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも150pg/mL、好ましくは350pg/mLのナトリウム利尿ペプチドについての参照量が、重症進行型冠動脈疾患を示すものである、請求項6〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
急性心血管発作を診断するためのデバイスであって、以下の手段:
a) 被験体サンプル中の心筋トロポニンの量を測定するための手段;
b) サンプル中のナトリウム利尿ペプチドの量を測定するための手段;および
c) 前記測定量と適切な参照とを比較することにより、急性心血管発作を診断するための手段
を含む、上記デバイス。
【請求項14】
以下の手段:
a) 被験体サンプル中の心筋トロポニンの量を測定するための手段;
b) 任意により、サンプル中のナトリウム利尿ペプチドの量を測定するための手段
を含むデバイスの使用であって、好ましくは無症候性の、進行型虚血性冠心疾患の診断のための、上記使用。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法を実施するためのキットであって、以下の手段:
a) 被験体サンプル中の心筋トロポニンの量を測定するための手段;
b) 任意により、サンプル中のナトリウム利尿ペプチドの量を測定するための手段
を含む、上記キット。

【公開番号】特開2008−46129(P2008−46129A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−211829(P2007−211829)
【出願日】平成19年8月15日(2007.8.15)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】