説明

進行方向表示装置

【課題】乗客コンベアを動作して手摺ベルトが移動しても、手摺ベルトに設けられた乗客コンベアの進行方向を示す標章が静止しているように見え、視認性が良好な進行方向表示装置を提供する。
【解決手段】進行方向表示装置は、無端状に連結された複数の踏段からなる乗客コンベアの周回動作に同期して周回する無端状の手摺ベルトの上記乗客コンベアの乗り込み口付近に設けられる進行方向表示装置において、上記手摺ベルトの全周の表面に固定されるとともに上記乗客コンベアの進行方向を示す標章を表示する電子ペーパと、上記手摺ベルトの移動速度を検出して手摺ベルト速度検出信号を発生する速度検出手段と、上記手摺ベルト速度検出信号に従って上記標章をスクロールする移動信号を発生するスクロール手段と、上記乗り込み口に到来したときの上記電子ペーパに上記移動信号に基づいて上記標章を静止しているように表示する静止表示手段と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マンコンベアの進行方向を表示する進行方向表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の進行方向表示装置は、往路から復路にかけて反転して移動し、表面平坦部と両縁部で形成される断面略C字形の手摺ベルトを備え、手摺ベルトの表面に、この手摺ベルトと色を異にすると共に、手摺ベルトの表面平坦部と両縁部とに亘って設けられ、その移動方向を表示する方向表示マークを、反転部の半円周範囲に少なくても1個存在する間隔をおいて、その全長に複数個有し、かつその間隔内に、方向表示マークより幅狭で注意文字や広告を表示した印刷シートを設けたものがある。
【0003】
この進行方向表示装置によれば、両縁部の方向表示マークの存在により、乗客コンベアの側方からでも移動速度と移動方向が視覚的に認知できる構成となる。乗客コンベアヘの乗り込みタイミング取りの失敗による転倒事故の防止と、逆乗り込みの防止、乗客コンベア側方からの移動速度と移動方向の認知が容易となる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2007−191303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の進行方向表示装置は、方向表示マークが手摺ベルトの移動速度により移動するので、方向表示マークの視認性が劣るという課題があった。
【0006】
この発明の目的は、乗客コンベアを動作して手摺ベルトが移動しても、手摺ベルトに設けられた乗客コンベアの進行方向を示す標章が静止しているように見え、視認性が良好な進行方向表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る進行方向表示装置は、無端状に連結された複数の踏段からなる乗客コンベアの周回動作に同期して周回する無端状の手摺ベルトの上記乗客コンベアの乗り込み口付近に設けられる進行方向表示装置において、上記手摺ベルトの全周の表面に固定されるとともに上記乗客コンベアの進行方向を示す標章を表示する電子ペーパと、上記手摺ベルトの移動速度を検出して手摺ベルト速度検出信号を発生する速度検出手段と、上記手摺ベルト速度検出信号に従って上記標章をスクロールする移動信号を発生するスクロール手段と、上記乗り込み口に到来したときの上記電子ペーパに上記移動信号に基づいて上記標章を静止しているように表示する静止表示手段と、を備えた。
【発明の効果】
【0008】
この発明に係る進行方向表示装置の効果は、手摺ベルトに設けられた電子ペーパに表示される乗客コンベアの進行方向を示す標章が手摺ベルトの移動にも拘わらず所定の位置に静止しているように見えるので、視認性が良好であることである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は、この発明を実施するための最良な形態の進行方向表示装置を配置したエスカレータの全体図である。図2は、エスカレータの乗り込み口付近の様子を示す正面図である。図3は、進行方向表示装置の制御装置および電子表示部の構成図である。
エスカレータ1は、乗り込み口近傍に配置されるとともに乗り込み口に人が近づいたことを検出して人検出信号を発生する人感センサ2、複数の踏段3が無端状に連結される乗客コンベア4、乗客コンベア4に連動して移動する断面が略C字状の無端状の手摺ベルト5、踏段3に取付けられた踏段チェーン7、および、踏段チェーン7が巻き掛けられるとともに上下階にそれぞれ配置された主駆動スプロケット11および従動スプロケット13を備える。
【0010】
また、エスカレータ1は、乗客コンベア4および手摺ベルト5を周回移動する回転運動を供給するモータ24、モータ24の回転を減速するとともにモータ24の軸の一端側に直結される減速機20、主駆動スプロケット11に取付けられた主軸6に取り付けられる被駆動スプロケット15、被駆動スプロケット15を駆動する減速機20の駆動スプロケット22、および、被駆動スプロケット15と駆動スプロケット22との間に巻き掛けられる駆動チェーン17を備える。
【0011】
また、エスカレータ1は、モータ24の軸の他端側に配置される主ブレーキ26、モータ24の回転位置を検出して位置検出信号を発生するエンコーダ28、および、機械室に配置されるとともにモータ24を駆動制御する制御装置50を備える。
【0012】
また、エスカレータ1は、手摺ベルト5を周回移動させる手摺ベルト移動機構30を備え、手摺ベルト移動機構30は、被駆動スプロケット15の回転を伝達する伝達輪32、手摺ベルト5を上側から押圧して移動させる駆動輪34、および、押圧された手摺ベルト5を受ける受輪36から構成される。
エスカレータ1では、モータ24の回転を減速機20により減速し、減速された回転を駆動スプロケット22が駆動チェーン17を介して被駆動スプロケット15および主駆動スプロケット11に伝達し、回転する主駆動スプロケット11が従動スプロケット13とともに踏段チェーン7を周回して踏段3を上昇または下降する。
【0013】
制御装置50は、図3に示すように、エンコーダ28の位置検出信号から手摺ベルト5の手摺ベルト速度検出信号を得る速度検出手段としての速度検出部51、踏段3の上昇方向または下降方向を定める方向検出信号を発生する方向検出手段としての方向検出部53、人感センサ2からの人検出信号が入力されたときにエスカレータ1の走行信号を発生する人検出部55、ロータリースイッチ56の回転角度に応じて進行方向を示す標章を表示する位置を調整する位置調整信号を発生する表示位置調整部57、および、手摺ベルト速度検出信号、方向検出信号、走行信号および位置調整信号で特定周波数の搬送波を変調するとともに搬送波を無線により電子ペーパ60に送信する送信部59を備えている。
【0014】
手摺ベルト5には、全周に亘って折り曲げ可能な電子ペーパ60が固定されている。そして、電子ペーパ60には、図2に示すように、乗客コンベア4の進行方向が上昇方向または下降方向のいずれかであることを示す標章としての上昇矢印(または下降矢印)62、および、乗客コンベア4が走行中または停止中のいずれかであることを示す標章としての「走行中」(または「停止中」)64が表示される。そして、電子ペーパ60のある箇所に表示を固定すると図2の左側の上昇矢印のように手摺ベルト5の移動に伴って移動する。
【0015】
ニュアル部9には、図2に示すように、位置が固定される基準部としての磁石66が固定されている。
電子ペーパ60は、図3に示すように、2個の電磁コイル68、および、電磁コイル68が磁石66の付近を通過すると磁石66が発生する磁束を横切ることにより基準位置信号を発生する基準位置検出部87を備える。
【0016】
また、電子ペーパ60は、制御装置50から送信された搬送波を受信し復調して手摺ベルト速度検出信号、方向検出信号、走行信号および位置調整信号を出力する受信部71、受信部71からの手摺ベルト速度検出信号により進行方向を示す上昇矢印または下降矢印が静止しているように視認できるよう上昇矢印または下降矢印をスクロールする第1移動信号を発生するスクロール手段としての第1スクロール部73、基準位置信号と第1移動信号とにより上昇矢印または下降矢印を表示する位置を特定する表示位置手段としての第1表示位置部75、方向検出信号により上昇矢印または下降矢印のいずれかを選択する方向切換手段としての方向切換部77、特定された位置に選択された上昇矢印または下降矢印を表示する進行方向表示部79、および、電源としての太陽電池89を備える。
なお、第1表示位置部75と進行方向表示部79とから静止表示手段が構成される。
【0017】
また、電子ペーパ60は、受信部71からの手摺ベルト速度検出信号により乗客コンベア4が走行中か停止中のいずれであるかを示す「走行中」標章または「停止中」標章が静止しているように視認できるよう「走行中」標章または「停止中」標章をスクロールする第2移動信号を発生する第2スクロール部81、基準位置信号と第2移動信号とにより「走行中」標章または「停止中」標章を表示する位置を特定する第2表示位置部83、特定された位置に「走行中」標章または「停止中」標章を表示する走行・停止表示部85を備える。
【0018】
先に電子ペーパ60のある箇所に表示を固定すると図2の左側の上昇矢印のように手摺ベルト5の移動に伴って移動することを説明したが、第1スクロール部73で手摺ベルト5が移動速度で移動したときの距離だけ上昇矢印を表示する電子ペーパ60の位置を手摺ベルト5の移動方向の反対方向に手摺ベルト5が移動する距離だけ戻すことにより、図2の右側の上昇矢印のようにランディングプレートに立つ人からは静止しているように見える。なお、本願ではこのように進行方向を示す標章および乗客コンベア4が走行中または停止中であることを示す標章を表示する電子ペーパ60の位置を手摺ベルト5の移動と反対方向に移動することをスクロールすると称す。
【0019】
図4は、この発明を実施するための最良な形態の進行方向表示装置の動作を示すフローチャートである。
次に、この発明を実施するための最良な形態の進行方向表示装置の動作を説明する。なお、乗客コンベア4が停止している状態から説明を始め、乗客は下の階から上の階にエスカレータ1を利用するものとする。
ステップS101で、人感センサ2が人を検出したか否かを判断し、人を検出したときステップS102に進み、人を検出しないときにはステップS101を繰り返す。
ステップS102で、人検出信号を発生しステップS103に進む。
ステップS103で、走行信号を発生してステップS104に進む。
ステップS104で、方向検出信号としては上昇方向信号を発生してステップS105に進む。
ステップS105で、走行信号および上昇方向信号が入力されると制御装置50がモータ24を走行しステップS106に進む。
ステップS106で、エンコーダ28が位置検出信号を発生しステップS107に進む。
ステップS107で、速度検出部51が手摺ベルト速度検出信号を発生しステップS108に進む。
【0020】
ステップS108で、送信部59から送信された上昇方向信号および手摺ベルト速度検出信号を受信部71にて受信すると、第1スクロール部73が第1移動信号を発生し、第1表示位置部75が上昇矢印または下降矢印を表示する位置を特定し、方向切換部77が上昇方向信号から上昇矢印を選択し、進行方向表示部79が特定された位置に上昇矢印を表示する。
ステップS109で、第2スクロール部81が第2移動信号を発生し、第2表示位置部83が「走行中」を表示する位置を特定し、走行・停止表示部85が特定された位置に「走行中」を表示する。
【0021】
この発明に係る進行方向表示装置は、乗客コンベア4が走行中で手摺ベルト5が移動しているとき手摺ベルト5の移動速度に基づいて進行方向を示す標章が乗り込もうとする人から見て静止しているように標章を表示する電子ペーパ60の位置をスクロールするので、進行方向を示す標章が静止しているように見え、視認性が良好になる。
【0022】
また、この発明に係る進行方向表示装置は、進行方向を示す標章を表示する位置の近傍に磁石66を固定し、電子ペーパ60には磁石66の磁束中を通過することにより電子ペーパ60の基準の位置を確認する電磁コイル68が設けられ、電子ペーパ60の基準の位置に基づいて進行方向を示す標章を表示する電子ペーパ60の位置を特定するので、手摺ベルト5の周回に対する基準点が少しずれても乗り込もうとする人から見て進行方向を示す標章が一定の場所にあるように視認される。
【0023】
また、この発明に係る進行方向表示装置は、方向検出部53で乗客コンベア4の進行方向を検出して方向検出信号を発生し、方向切換部77で方向検出信号に基づいて進行方向を示す標章を切換えるので、乗客コンベア4の進行方向に対応して簡易に進行方向を示す標章を表示できる。
なお、上述では進行方向表示装置をエスカレータ1に設置した例を説明したが、歩く歩道などマンコンベアにもこの発明に係る進行方向表示装置を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明を実施するための最良な形態の進行方向表示装置を配置したエスカレータの全体図である。
【図2】エスカレータの乗り込み口付近の様子を示す正面図である。
【図3】進行方向表示装置の制御装置および電子ペーパの構成図である。
【図4】この発明を実施するための最良な形態の進行方向表示装置の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0025】
1 エスカレータ、2 人感センサ、3 踏段、4 乗客コンベア、5 手摺ベルト、6 主軸、7 踏段チェーン、9 ニュアル部、11 主駆動スプロケット、13 従動スプロケット、15 被駆動スプロケット、17 駆動チェーン、20 減速機、22 駆動スプロケット、24 モータ、26 主ブレーキ、28 エンコーダ、30 手摺ベルト移動機構、32 伝達輪、34 駆動輪、36 受輪、50 制御装置、51 速度検出部、53 方向検出部、55 人検出部、56 ロータリースイッチ、57 表示位置調整部、59 送信部、60 電子ペーパ、62 上昇矢印、64 「走行中」、66 磁石、68 電磁コイル、71 受信部、73 第1スクロール部、75 第1表示位置部、77 方向切換部、79 進行方向表示部、81 第2スクロール部、83 第2表示位置部、85 走行・停止表示部、87 基準位置検出部、89 太陽電池。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状に連結された複数の踏段からなる乗客コンベアの周回動作に同期して周回する無端状の手摺ベルトの上記乗客コンベアの乗り込み口付近に設けられる進行方向表示装置において、
上記手摺ベルトの全周の表面に固定されるとともに上記乗客コンベアの進行方向を示す標章を表示する電子ペーパと、
上記手摺ベルトの移動速度を検出して手摺ベルト速度検出信号を発生する速度検出手段と、
上記標章が上記手摺ベルトの移動に拘わらずに上記乗り込み口の近傍に静止するように上記手摺ベルト速度検出信号に従って上記標章を表示する上記電子ペーパの位置をスクロールする移動信号を発生するスクロール手段と、
上記乗り込み口に到来したときの上記電子ペーパに上記移動信号に基づいて上記標章を静止しているように表示する静止表示手段と、
を備えたことを特徴とする進行方向表示装置。
【請求項2】
上記手摺ベルトの近傍に固定された基準部と、
上記基準部を検知することにより上記標章を表示する上記電子ペーパの位置を修正する表示位置手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の進行方向表示装置。
【請求項3】
上記乗客コンベアの進行方向を検出して方向検出信号を発生する方向検出手段と、
上記方向検出信号に基づいて上記標章が示す上記踏段の進行方向を切換える方向切換手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の進行方向表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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