説明

進行波アレイ、分離方法、および精製セル

【課題】液体もしくはガス状媒質から粒子もしくはサンプルを収集かつ選別する器具またはデバイスを提供すること。
【解決手段】様々な進行波グリッド構成を開示する。該グリッドおよびシステムは、液体またはガス状媒質中に分散した小さな粒子を輸送、分離、および分類するのに非常に適している。また、そのような進行波アレイおよび戦略を用いる様々な分離戦略および精製セルも開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本例示的実施形態は、特に液体もしくはガス状媒質から、粒子もしくはサンプルを収集かつ選別する器具またはデバイスに関する。該例示的実施形態は、生物学的作用物質(biological agents)の分離および検出と併せた特定の用途を見出しており、特にそれに関して説明する。ただし、本例示的実施形態が他の類似用途にも適していることを理解すべきである。
【背景技術】
【0002】
エアロゾルの形態でまたは水中に分散した生物学的作用物質は、通常、最も感度の高い検出スキームの検出限界(LOD:limit of detection)さえも下回るような低い濃度である。それにもかかわらず、ただ1つのバクテリアの摂取でさえ、命に関わる結果をまねくことがある。したがって、サンプルがエアロゾル収集で得られたにせよ、水収集で得られたにせよ、該サンプルを検出前にさらに濃縮する必要がある。
【0003】
エアロゾルおよびヒドロゾル収集スキームは、通常、非常に高流量(150kL/分以上)で大量の空気を採取し、サイクロンインパクタ設計を使用して脅威範囲内のサイズを有する粒子を収集し、それらを体積5〜10mLのウェットサンプル中に捕集する。次いで、この上清を作用物質検出のためのテストサンプルとして使用する。現在利用可能な検出戦略を使用するには、ヒドロゾルをさらに2桁濃縮することが望ましい。これは、例えば、サンプルの体積中の生物粒子すべてを、より小さい50〜100μLの体積中に収集することによって達成することができる。
【0004】
水中の汚染物質は、通常、作用物質試験用のサンプルを回収するために、いくつかの濾過ステップによって処理される。初めにより大きな植物性物質を除去するために予備濾過された後、サンプルは、限外濾過を用いてさらに2〜3桁濃縮される。このタンジェンシャルフロー濾過(TFF:tangential flow filtration)法は、各ステップが標的分子の分子量(MW)に比べて1/3〜1/6の分子量を分画(カットオフ)するフィルタを用い、かつ保持液(retentate)を再循環させる、多数の連続TFFステップを必要とすることがあるので、面倒である。TFFの制限因子は、システムロスであり、それ未満ではさらなる濃度改善をもたらすことのできない分画が存在する。検出器に供給されることになる最後の保持液は、体積約50mLである。保持液をさらに最大3桁まで濃縮することが特に望ましい。
【0005】
フィールドフローフラクショネーション(FFF:Field Flow Fractionation)は、流路チャネル内で様々な電荷対サイズ比(q/d)の粒子の分離を可能にする技術である。この技術は、印刷から生物医学および生化学用途にまで及ぶ、多くの分野で有用である。分離が達成されるのは、q/d比の異なる粒子が流路チャネルを横切って移動するのに要する時間が異なり、したがって収集壁に到達する前に流路チャネルに沿って進む距離が異なるからである。q/d値が異なる種の、分離した明確なバンドを得るために、粒子は、通常、チャネルの最上部から狭い入口を通じて注入される。総処理量は、入口の幾何学形状および流量によって決まり、それがシステムのq/d分解能に影響を及ぼす。
【0006】
FFFは、流れ場に注入された粒子の泳動(migration)の制御を、分離方向に垂直な場の存在に頼っている。分離された構成成分は、保持時間に基づいてシステムから1つずつ溶出し、順に収集される。この分離は、分離チャネルを通じてポンプで送り込まれる、ポアゾイユ流に特有の放物線速度プロファイルを生み出す低粘性液体中、通常は緩衝水溶液中で実施される。該プロセスは、注入された粒子と側壁との間隔を調節することによって該粒子の相対速度を制御することに頼っている。より高い電気泳動移動度またはゼータ電位をもつ粒子は、壁の近くに集まり、したがってチャネル中央寄りにある粒子よりも移動が遅い。事実上、粒子は、ゼータ電位およびサイズに基づいてシステム内を異なる速度で移動する。熱、磁気、誘電泳動、遠心分離、沈降、立体的(steric)、および直交流など、様々な分離メカニズムの使用が、FFF方法群を生み出してきた。多くの点では満足のいくものであるが、依然として改良型FFF分離技術が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6351623号明細書
【特許文献2】米国特許第6290342号明細書
【特許文献3】米国特許第6272296号明細書
【特許文献4】米国特許第6246855号明細書
【特許文献5】米国特許第6219515号明細書
【特許文献6】米国特許第6137979号明細書
【特許文献7】米国特許第6134412号明細書
【特許文献8】米国特許第5893015号明細書
【特許文献9】米国特許第4896174号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本例示的実施形態は、前述の問題などを克服する、新しい改良型のシステム、デバイス、セル、および関連方法を企図している。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様では、例示的実施形態は、第1の進行波グリッドと、該第1の進行波グリッドの下流にある第2の進行波グリッドと、該第1の進行波グリッドと該第2の進行波グリッドとの間を延びる移行領域とを含む、進行波グリッドシステムを提供する。移行領域には、アーチ形トレースの集合体が含まれる。移行領域は、第1のグリッドから第2のグリッドへと粒子ストリームを輸送し、かつ該粒子ストリームの収束(convergence)を引き起こすように適合される。
【0010】
他の態様では、例示的実施形態は、粒子のサンプルからサイズに応じて粒子を区別し、任意で粒子を収集する方法を提供する。該方法は、第1の進行波グリッドと第2の進行波グリッドとを含む進行波グリッドシステムを提供するステップを含む。第1および第2の進行波グリッドは、互いに対してある角度を成すように向けられている。その角度は、約10°〜約170°にわたる。該方法は、様々なサイズの粒子を含んだサンプルを第1の進行波グリッド上に導入するステップを含む。該方法は、進行波グリッドシステムを操作し、それによって粒子を第1および第2の進行波グリッドに沿って輸送するステップをさらに含む。粒子は、第1および第2の進行波グリッドの角度配向に対応する方向変化を起こすと、該粒子のサイズに応じて少なくとも2つの群に分かれる。
【0011】
さらに他の態様では、例示的実施形態は、複数の粒子のサンプルからサイズに応じて粒子を区別し、任意で粒子を収集する方法を提供する。該方法は、グリッドに印加される電圧信号の掃引周波数を選択的に調節する準備を含めて、進行波グリッドを提供するステップを含む。該方法は、また、様々なサイズの粒子を含んだサンプルを進行波グリッド上に導入するステップも含む。該方法は、第1のサイズの粒子がそれによってグリッドのある領域から別の領域へと変位する第1の掃引周波数で、グリッドを操作するステップをさらに含む。また、該方法は、第1のサイズとは異なる第2のサイズの粒子がそれによってグリッドのある領域から別の領域へと変位する、第1の掃引周波数とは異なる第2の掃引周波数で、グリッドを操作するステップを含む。
【0012】
他の態様では、例示的実施形態は、サンプルから粒子を除去かつ分類するように適合された精製セルを提供する。該セルは、第1の進行波グリッドを含んだ濃縮チャンバと、第2の進行波グリッドを含んだ分離チャンバと、該第1の進行波グリッドと該第2の進行波グリッドとの間を延びる集束(focusing)チャネルとを含む。該集束チャネルには、第3の進行波グリッドが含まれる。第2および第3の進行波グリッドは、互いに対して約10°〜約170°の角度に向けられている。分離チャンバには、さらに、様々なサイズの粒子を受け取るように適合された区画の集合体が含まれる。区画の集合体は、第2の進行波グリッドをまたいで整列している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】微粒子のストリームを濃縮して所望の位置へと誘導する進行波アレイの略図である。
【図2】中程度の質量負荷で停滞する恐れのある進行波アレイを示す図である。
【図3】ブランク領域が粒子を集束させる曲線グリッドを示す、例示的実施形態の進行波アレイの略図である。
【図4】停滞を起こしにくい進行波アレイの他の例示的実施形態の略図である。
【図5】他の例示的実施形態の進行波アレイの略図である。
【図6】例示的実施形態による、方向変化を起こしている異なったサイズの微粒子のストリームにおける曲率および結果として得られる集束の程度を示す、曲線状進行波グリッドの幅をまたぐ3つの顕微鏡写真のコレクションである。
【図7】集束された粒子ストリームの分離を示す、他の例示的実施形態の進行波アレイの略図である。
【図8】例示的実施形態による分離戦略を示す図である。
【図9】例示的実施形態による精製セルの略図である。
【図10】例示的実施形態による他の再循環式精製セルの略図である。
【図11】例示的実施形態による、連続分離のために変形フィールドフローフラクショネーションセルと統合された精製デバイスの略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
現在、遠心分離および限外濾過によって達成される典型的な濃縮に優る、液体サンプル中の非常に希薄な量の生物学的作用物質(または生体分子)を濃縮する有効な方法は、他に存在しない。高速(10,000rpm)での遠心分離を使用して、バクテリアなどの多数の粒子をペレット化できるが、その方法は、容易に持ち運び可能ではない。例示的実施形態のデバイスは、限外濾過後に保持液を処理し、さらに100倍以上濃縮することが可能である。加えて、精製またはバイオエンリッチメント操作に通常関係した体積を取り扱うことのできる利用可能なデバイスも、ほとんど存在しない。ラボオンチップ(LOC:lab−on−chip)デバイスは、わずかな体積しか取り扱うことができない。例示的実施形態のデバイスは、そのような大きい体積を容易に取り扱うことができる。
【0015】
より具体的には、例示的実施形態は、デバイスの動作を最適化するために、具体的には、質量輸送を最大にし、かつ密集(congestion)を最小限に抑えるために使用できる、様々な独特の進行波アレイ構成を提供する。例示的実施形態は、また、液体媒質でのサンプル分離のための様々な方法も提供する。また、例示的実施形態は、濃縮、集束、および分離機能をもたらすカスケード式進行波グリッドを用いる精製セルを提供する。
【0016】
本明細書で使用する用語「進行波グリッド」または「進行波アレイ」は、集合的に、基材、進行波を発生するために電圧波形が印加される複数の電極、ならびに電気信号(または電位)をグリッド全体に分配するための1つ以上のバス、バイアス(vias)、および電気接触パッドを指す。この用語は、また、集合的に、グリッドを操作する多相電気信号を提供する1つ以上の電力源も指す。進行波グリッドは、例えば、扁平な平面形態や非平面形態など、ほとんどどの形態にもすることができる。非平面形態は、例えば、円筒の外壁に沿って延びるアーチ形領域の形態にすることができる。非平面グリッドは、チューブの内部領域内に画定される環状グリッドの形態にすることができる。進行波グリッド、それらの使用、および製造については、一般に、前述の米国特許に記載されている。
【0017】
本明細書で述べるように、様々な例示的実施形態の進行波グリッドシステムは、1つ以上の山形グリッドを含む。本明細書で使用する用語「山形(chevron)」は、進行波グリッドもしくはその一部分を構成する電極またはトレースのパターンを指しており、トレースのかなりの部分、通常はトレースすべてがアーチ形で、さらに同心的に配置される。通常、アーチ形トレースは、また、該トレースの集合体の動作時に、粒子の意図される流れの方向から上流に位置した1つ以上の中心点の周りに該トレースが画定されるように配置される。この構成は、流れの方向に対して、ストリームの方向を維持し、かつ流れているストリーム中の微粒子の分散を低減する働きをする。
【0018】
本明細書に記載の進行波グリッドまたはアレイシステムの他の態様は、特定の用途では、該グリッドが互いに対してある角度を成すように向けられていることである。この配向態様は、実際、別のグリッド上の微粒子の進行方向に対する、あるグリッド上の微粒子の意図される(もしくは実際の)進行方向に関する。一般に、隣接したグリッド間またはグリッド領域間の角度は、約10°〜約170°、より具体的には約45°〜約135°、しばしば約90°にすることができる。特定の用途では、例示的実施形態は、粒子流ストリームの方向変化を用いて、該粒子を区別し、分離し、かつ/または分類する。
【0019】
進行波アレイは、図1にそれぞれ示したように、隣接した直線グリッド10と山形グリッド50とを含むことができる。直線グリッド10は、微粒子を第1の縁部12から第2の縁部14へと横方向に輸送し、該第2の縁部14で、山形グリッド50が方向転換を引き起こして微粒子をサンプルウェル(sample well)70へと移動させており、該サンプルウェル70では、電界引出し(field extraction)を使用して微粒子を収集し、それによって微粒子の濃度を増大させることができる。ストリームが山形グリッド50上に配置されたときにグリッド10上のストリームの方向に対して直角に移動する傾向にあるので、山形グリッド50は、また、得られる粒子ストリームを集束させる働きもする。この実施形態の山形グリッド50の幅は、約3mmであり、サンプル濃度が40mg/Lを超えるときには密集状態になりやすい。
【0020】
図2は、直径3μmおよび6μmのポリスチレンビーズ(beads)の濃縮サンプルによる停滞(stagnation)状態を示す。直線グリッド110と山形グリッド150とを含む進行波アレイ100では、山形グリッド150は、比較的狭い。ビーズは、領域114に沿ってグリッド110の左縁部に集まっており、粒子の密度が高いので、山形グリッド150に沿ってサンプルウェル(図示せず)まで進み続けることができない。密集の理由は、図2から明らかである。直線グリッドから山形グリッドへの移行は、多車線のハイウェイがはるかに狭いレーンへと収束するのに似ている。直線グリッド110の幅は約5cmであるので、3mmへの圧縮率は16倍を超える。山形グリッド150の底部から頂部への輸送(図2に示した通り)であるので、微粒子がサンプルウェルに接近するにつれて密集の可能性が増大する。密集は、多量の微粒子が、輸送電場の低下に起因して非効率的となる多層状輸送を引き起こす、停滞状態である。
【0021】
この状況を緩和し、かつ質量流量を増大させる(より高い濃度を伴う生物医学的用途に有用である)ために、例示的実施形態は、進行波グリッドの改良型システムのいくつかの変形形態を提供する。一般に、例示的実施形態によれば、通常は直線グリッドの形態をした第1の進行波グリッドと、直線グリッドもしくは山形グリッドのいずれかの形態、または他の何らかのタイプのグリッドにすることのできる第2の進行波グリッドと、該第1のグリッドと該第2のグリッドとの間を延びる移行領域とを含む、進行波グリッドまたはアレイのシステムが提供される。前述のように、第1および第2のグリッドは、互いに対してある角度を成すように向けられている。移行領域は、微粒子をあるグリッドから別のグリッドに輸送するのを効率的に補助する働きをし、かつ好ましくはさらに該微粒子の方向変化を促進する、進行波グリッドまたはその一部分である。
【0022】
具体的には、図3は、角度を成した境界領域260を有する山形グリッド250と連通した直線グリッド210を含む、例示的実施形態による進行波アレイ200を示す。境界領域260の遠位端264は、該領域260の近位端262よりも大きな面積または幅を有する。すなわち、山形グリッド250上の微粒子の流れの方向に関して、境界領域260の幅は、流れの方向にしたがって縮小する。図3は、移行領域260に、収束する放射状進行波アレイを使用する様子を示す。図3のアレイの特徴は、グリッド210のある領域内の粒子が山形グリッド250の特定の領域内の粒子と重なり合うときの重複経路である。
【0023】
図4は、角度を成した境界領域360を有する山形グリッド350と連通した直線グリッド310を含む、進行波アレイ300を示す。領域360の遠位端364は、該領域360の近位端362よりも小さな面積または幅を有する。図3の構成とは対照的に、図4のアレイは、山形グリッド350上の微粒子の流れの方向にしたがって幅が増大する境界領域360を特色とする。図4のアレイでは、やはり収束する放射状進行波アレイが描かれているが、その重複経路は、最小限である。図4のアレイは、密集が最小限に抑えられ、また進行する粒子の重複経路も低減されている点で、特に有益である。
【0024】
図5は、複数のアーチ形電極405を用いる第1のグリッド410と、山形グリッドまたは直線グリッドの形態にすることのできる第2のグリッド450とを含む、他の進行波アレイ400を示す。例示的実施形態のこの変形形態では、第1のグリッド410は、事実上それ自体が移行領域である。図5は、収束する単一の放射状進行波アレイについての他の戦略を示す。このアレイは、より高速の濃縮のための比較的短い進行距離を特色とする。
【0025】
図3〜5では、影付きの面積は、前述の移行領域を示しており、サンプルウェル入口から出てくる拡張した山形グリッド領域の形態にすることができる。3つの構成は、すべて、サンプルウェルへと多くのレーンを開いている。山形グリッド領域を拡張すると、より大きなアプローチ角度スパンにわたる、より緩やかな粒子ストリームの収束が可能になる。
【0026】
例示的実施形態は、また、粒子分離のための戦略も提供する。ほとんどの微粒子は、pHに応じて、クーロン力をもたらす固有の電荷を有するが、また、不均一な場では分極することもある。誘起双極子モーメント(Clausius−Mossotti)は:
【数1】

であり、式中、aは粒子の半径、εparticleは粒子の誘電率、εfluidは流体の誘電率である。低周波数では、εは実数である。双極子力は、次式によって与えられる:
【数2】

【0027】
バチルスチューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)胞子およびサイズ範囲200nm〜10μmのポリスチレンビーズに対する実験で、動電輸送が、電気浸透流(EOF:electro−osmotic flow)、電気泳動、および誘電泳動効果のバランスであることが示される。
【0028】
一態様では、例示的実施形態は、進行波掃引周波数を変化させることによって粒子を分離する。進行波の特徴的な輸送は、閾値掃引周波数未満では同期的であり、該周波数を上回ると非同期モードになる。相違は、一部の粒子はそれによって追従可能で、一部の粒子は追従不可能な、抵抗力に対するクーロン力と誘電泳動力とのバランスである。この特性は、特に、より大きく、より双極性の粒子の場合に、流体環境について保持される。1μm、3μm、および6μmポリスチレンビーズのサンプル混合物によって、3Hzでは該サイズ範囲内のすべてのビーズが輸送されることが実証される。4Hzでは、いくらか大きい方のビーズがトレースに捕獲されて停滞する。それは、該ビーズの変位が進行波アレイのピッチよりも短いので、該ビーズがトレース間を前後に移動する状況で該ビーズが捕獲されるからである。6Hzでは、すべてのビーズが捕獲される。この周波数感度は分離方法で利用することができる。戦略は、動きやすい粒子から順に混合物から選択的に移動させるために、周波数を下方にスキャンすることである。
【0029】
他の態様では、例示的実施形態は、コーナー部の周りで粒子ストリームを屈曲または転回させることによって粒子を分離する。具体的には、この分離方式は、場もまた方向変化を反映するように、進行波グリッドが移行するコーナー部の周りで粒子ストリームを移動させるものである。この戦略は、様々なサイズの粒子がサンプルウェルへと集まるときに、該粒子がその相対的なサイズに応じて異なる転回半径をもつように思われるという観察結果を動機とする。図6は、山形グリッド領域の幅をまたぐ3つの顕微鏡写真A、B、およびCを示す。結果は、1μm、3μm、および6μmポリスチレンビーズのサンプル混合物に関するものである。6μmビーズは、顕微鏡写真Cから明らかなように、コーナー部の周りをより密に転回する。より小さい1μmおよび3μmビーズは、顕微鏡写真AおよびBに示されるように、より広く転回する。それは、誘電泳動力が体積(r3)とともに変化するので、より大きいビーズは、転回場の直接的な影響を受け、より速く転回可能であるからである。
【0030】
図7を参照すると、この現象をさらに調査かつ実施するために、例示的実施形態による進行波グリッド500が使用された。アレイ500は、山形グリッド550と直線グリッド510とを含む。単なる近似ではあるが、例示的実施形態の分離戦略を使用した分離能力を試験する一方法は、アレイ500を逆に操作することである。1、3、および6μm粒子の濃縮混合物100μLの体積を、山形グリッド550の第1の端部554のところでサンプルウェルに導入し、進行波グリッド510および550を逆に操作して、サンプルを主要直線グリッド510へと外に移動させる。具体的には、微粒子は、山形グリッドの第1の端部554から第2の端部552へと輸送され、次いで、直線グリッド510の第1の端部もしくは領域512またはその付近から、該直線グリッド510の第2の端部もしくは領域514へと輸送される。より大きい6μm粒子の経路は、矢印530によって示される。より小さい3μm粒子の経路は、矢印540によって示される。方向変化する粒子は、一般に、より長い距離に沿って同じ方向変化を起こす粒子よりもサイズが大きい。山形グリッド550の比較的狭いチャネル内の粒子混合物は、放射状進行波アレイ、すなわち山形グリッド550によって、輸送かつ集束され、線形進行波アレイ、すなわち粒子を上方に移動させる直線グリッド510によって、分離キャビティに注入される。3μmサイズのビーズなど、比較的小さいビーズまたは粒子は、より速く移動して一番に到着する。より大きい6μmのビーズまたは粒子は、より遅く移動し、Dで示されるようなコーナー部周りの掃引の際に、より短い距離で方向変化に反応することができる。
【0031】
図8は、1、3、および6μmビーズが幅1cmの帯状域にわたって分布した、この試行の結果を示す。具体的には、6μm粒子の経路は、矢印530によって示される。3μm粒子の経路は、矢印540によって示される。1μm粒子の経路は、矢印545によって示される。6μm粒子および3μm粒子の両方の経路が、コーナー部Dの周りで、0.5cmスパン内で90°の方向変化を起こしたことに注目することが重要である。この結果は、山形が集束ではなく分散的になる傾向にあるような方向を向いていることを見事に考慮している。直線チャンバ内の低いサンプル密度は、また、サンプル分離を視覚化するのに顕微鏡使用を必要とする。
【0032】
例示的実施形態は、また、精製セルも提供する。前述の進行波グリッドのレイアウトとサンプル分離戦略との組み合わせをデバイスの濃縮および集束アスペクトとともに組み込んで、図9に示した精製セル600を提供することができる。精製セル600には、濃縮チャンバ610と、集束チャネル650と、分離チャンバ670および680とが含まれる。分離チャンバの最上部680を、横列に並んだ区画682、684、686、688、および690に分割して、左から右へと進むにつれて増大する範囲の粒子サイズを収集することができる。例えば、比較的大きいサイズの粒子は、矢印672によって示されたストリームを構成し、その後区画690内に収集される。中間サイズの粒子は、矢印674によって示されたストリームを構成し、その後区画688内に収集される。ストリーム676内の比較的小さいサイズの粒子は、区画686内に収集される。より微小なサイズの粒子のストリームは、区画682および684の一方または両方に収集することができる。分離チャンバ内の進行波アレイは、様々なサイズ範囲内の微粒子を最上部の指定された収集区画へと集束させるために、連続的な山形レイアウトにすることができる。集束部分650は、分離性能の改善をもたらすことになる狭いストリームを形成する。セル600の各部分またはコンポーネントについての代表的な寸法は、図9に示されている。
【0033】
図10は、セル上のループを閉じるために連結ブリッジが使用され、かつ最上部の中間に配置された、他の例示的実施形態の進行波アレイ700を示す。この戦略は、収集された区画のうちの1つの内容物を再循環させて、さらなる精製をもたらす。精製セル700には、濃縮チャンバ710と、集束チャネル750と、分離チャンバ770および780と、連結ブリッジ740とが含まれる。分離チャンバの最上部を、区画782、784、786、788、および790の集合体に分割して、左から右へと進むにつれて増大する範囲の粒子サイズを収集することができる。例えば、比較的大きいサイズの粒子は、矢印772によって示されたストリームを構成し、その後区画790内に収集される。中間サイズの粒子は、矢印774によって示されたストリームを構成し、その後区画788内に収集される。ストリーム776内の比較的小さいサイズの粒子は、区画786内に収集される。より微小なサイズの粒子のストリームは、区画784および782の一方または両方に収集することができる。さらなるプロセス処理が望まれる場合、連結ブリッジ740を使用して、特定のサイズまたはサイズ範囲の粒子を選択的に濃縮チャンバ710に戻すことができる。
【0034】
大量のサンプルの場合、例示的実施形態の精製セルを、図11に示したmFFFセルジオメトリに組み込むことができる。具体的には、セル800は、濃縮チャンバ810と、分離チャンバの上部領域880および下部領域870と、該濃縮チャンバ810と該分離チャンバの下部領域870との間を延びる集束チャネル850とを含む。チャンバの上部領域880には、図9および図10に関して記載したように、様々なサイズの粒子を保持する複数の区画の集合体が含まれる。具体的には、セル800には、離隔された2つの基材もしくはプレート820および830が含まれており、そのうちの1つが、流入ストリームEのための入口822と、流出ストリームFのための出口824とを画定する。図9および図10の構成で前述したように、分離チャンバの上部領域880には、様々なサイズまたはサイズ範囲の粒子を収集する複数の区画882、884、886、888、および890が含まれる。精製セルの操作は、以下の通りである。サンプルストリームEが、入口822を通ってセル800に進入する。進入するサンプルは、濃縮チャンバ810に流れ込む。圧縮場が、微粒子を下側表面の近傍へと下方に移動させ、該下側表面で、そこに配置された進行波グリッドがストリームおよびストリーム中の構成成分を集束チャネル850に向かって輸送する。サンプルがチャネル850内に入ると、その中を延びる山形進行波グリッドがサンプルを輸送して前述の分離チャンバへと誘導する。分離チャンバの向きは、概ね集束チャネル850内のサンプルの流れの方向に直交する。ストリームが分離チャンバの下部領域870に進入すると、前述のように、微粒子は、別個のストリーム872、874、および876に分かれる。最も大きい粒子は、区画890に集まる。より小さいサイズの粒子は、他の区画に集まる。ストリームの残りの部分は、出口824でストリームFとしてセル800から出ていく。
【0035】
例示的実施形態の様々な精製セルは、濃縮、集束、および分離のカスケード型機能を使用することができる。該セルは、定体積設計、体積増加を伴うフロースルー構成を特色とすることができ、または、再循環式輸送とともに定体積を用いて、より高純度の濃縮を達成することができる。
【0036】
例示的実施形態の利点には、質量流量を増大させ、かつ密集および停滞を最小限に抑えるための新しい進行波グリッド構成、新しい分離戦略の提供、ならびに、最大数百マイクロリットルまでしか取り扱えない複雑な既存の方法に比べて、数十ミリリットルを取り扱うことのできる精製セルの提供が含まれるが、これに限るものではない。
【0037】
例示的実施形態の潜在用途には、生物兵器防衛(bio−defense)用途でのフロントエンド検出のための予備濃縮、公共設備の給水モニタリング、食品の毒物検査、血漿分離、細胞エンリッチメント(cell enrichment)、およびタンパク質精製が含まれるが、これに限るものではない。
【0038】
その他の実施形態として、次のものを挙げることができる。
【0039】
前記進行波グリッドシステムであって、前記第1の進行波グリッドおよび前記第2の進行波グリッドが互いに対して約10°〜約170°の角度に向けられていることを特徴とする進行波グリッドシステム。
【0040】
前記進行波グリッドシステムであって、前記第1および第2のグリッドが互いに対して約45°〜約135°の角度に向けられていることを特徴とする進行波グリッドシステム。
【0041】
前記進行波グリッドシステムであって、前記第1および第2のグリッドが互いに対して約90°の角度に向けられていることを特徴とする進行波グリッドシステム。
【0042】
前記進行波グリッドシステムであって、前記第2の進行波グリッドが山形グリッドであることを特徴とする進行波グリッドシステム。
【0043】
前記進行波グリッドシステムであって、前記移行領域が前記第2の進行波グリッドへと延びるにつれて前記移行領域の幅が縮小することを特徴とする進行波グリッドシステム。
【0044】
前記進行波グリッドシステムであって、前記移行領域が前記第2の進行波グリッドへと延びるにつれて前記移行領域の幅が増大することを特徴とする進行波グリッドシステム。
【0045】
前記進行波グリッドシステムであって、前記移行領域に山形進行波グリッドが含まれることを特徴とする進行波グリッドシステム。
【0046】
前記方法であって、他の粒子よりも長い距離に沿って方向変化を起こす粒子が、前記他の粒子よりもサイズが小さいことを特徴とする方法。
【0047】
前記方法であって、より大きい粒子が、より小さい粒子よりも短い転回半径をもつことを特徴とする方法。
【0048】
前記方法であって、前記第1の掃引周波数が前記第2の掃引周波数よりも高いことを特徴とする方法。
【0049】
前記方法であって、前記第1の掃引周波数を用いて変位した粒子が、前記第2の掃引周波数を用いて変位した粒子よりも小さいことを特徴とする方法。
【0050】
前記精製セルであって、前記第3の進行波グリッドが山形進行波グリッドであることを特徴とする精製セル。
【0051】
前記精製セルであって、前記分離チャンバに1つ以上の山形進行波グリッドが含まれることを特徴とする精製セル。
【0052】
前記精製セルであって、山形進行波グリッドの数が区画の数に対応することを特徴とする精製セル。
【0053】
前記精製セルであって、前記集束チャネルに最も近い区画が、前記セルが操作されたときに前記サンプル内の最も大きいサイズの粒子を受け取ることを特徴とする精製セル。
【0054】
前記精製セルであって、前記濃縮チャンバと前記分離チャンバとの間を延びる再循環ループをさらに含んでおり、前記再循環ループに第4の進行波グリッドが含まれることを特徴とする精製セル。
【符号の説明】
【0055】
10 直線グリッド、12 第1の縁部、14 第2の縁部、50 山形グリッド、70 サンプルウェル、100 進行波アレイ、110 直線グリッド、150 山形グリッド、200 進行波アレイ、210 直線グリッド、250 山形グリッド、260 境界領域、262 近位端、264 遠位端、300 進行波アレイ、310 直線グリッド、350 山形グリッド、360 境界領域、362 近位端、364 遠位端、400 進行波アレイ、405 アーチ形電極、410 第1のグリッド、450 第2のグリッド、500 進行波アレイ、510 直線グリッド、512 第1の領域、514 第2の領域、530 6μm粒子の経路、540 3μm粒子の経路、545 1μm粒子の経路、550 山形グリッド、552 第2の端部、554 第1の端部、600 精製セル、610 濃縮チャンバ、650 集束チャネル、670 分離チャンバ、680 分離チャンバの最上部、682 区画、684 区画、686 区画、688 区画、690 区画、700 進行波アレイ/精製セル、710 濃縮チャンバ、740 連結ブリッジ、750 集束チャネル、770 分離チャンバ、780 分離チャンバ、782 区画、784 区画、786 区画、788 区画、790 区画、800 セル、810 濃縮チャンバ、820 基材またはプレート、822 入口、824 出口、830 基材またはプレート、850 集束チャネル、870 分離チャンバの下部領域、880 分離チャンバの上部領域、882 区画、884 区画、886 区画、888 区画、890 区画。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の粒子のサンプルからサイズに応じて粒子を区別する方法であって、
進行波グリッドに印加される電圧信号の掃引周波数を選択的に調節する準備を含めて、前記進行波グリッドを提供するステップと、
様々なサイズの粒子を含んだサンプルを前記進行波グリッド上に導入するステップと、
第1のサイズの粒子がそれによって前記グリッドのある領域から別の領域へと変位する第1の掃引周波数で、前記グリッドを操作するステップと、
前記第1のサイズとは異なる第2のサイズの粒子がそれによって前記グリッドのある領域から別の領域へと変位する、前記第1の掃引周波数とは異なる第2の掃引周波数で、前記グリッドを操作するステップと、
を含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−98297(P2012−98297A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−280171(P2011−280171)
【出願日】平成23年12月21日(2011.12.21)
【分割の表示】特願2006−245374(P2006−245374)の分割
【原出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(502096543)パロ・アルト・リサーチ・センター・インコーポレーテッド (393)
【氏名又は名称原語表記】Palo Alto Research Center Incorporated
【Fターム(参考)】