説明

遅れ破壊防止鋼材

【課題】鋼材における遅れ破壊が抑制できるようにする。
【解決手段】鋼から構成された構造体101と、鋼より低い硬度の材料から構成されて構造体101の中に分散して添加された応力緩和部102とを備える。ここで、応力緩和部102は、閉曲面で構成された立体形状を有している。応力緩和部102は、体積比で50%未満であり、構造体101より炭素成分が少ない金属材料から構成されている、あるいは気泡である。その形状は球、燐環状、あるいは楕円形であっても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遅れ破壊が防止できる遅れ破壊防止鋼材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、高強度鋼において、使用環境と負荷荷重により遅れ破壊が発生することが知られている。遅れ破壊は、鋼材に侵入した水素により亀裂の塑性変形領域がきわめて小さくなることで生じるとされている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】村上 隆宜 著、「水素脆化メカニズムと水素機器強度設計の考え方」、材料科学シンポジウム2010配布資料(電力中央研究所)、43−62頁、2010年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した亀裂による塑性変形領域がきわめて小さい遅れ破壊では、いったん亀裂が発生すると、発生した亀裂の先で応力集中が起こって脆性的な破壊に至る。したがって、遅れ破壊では、金属材料でありながら靱性がみられず、材料変形によるエネルギーの吸収がほとんどなく破壊が生じる。また、このために、材料のマクロな変形などの予兆がなく、破壊や破断が生じるという問題がある。
【0005】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、鋼材における遅れ破壊が抑制できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る遅れ破壊防止鋼材は、鋼から構成された構造体と、鋼より低い硬度の材料から構成されて構造体の中に分散して添加された応力緩和部とを備え、応力緩和部は、閉曲面で構成された立体形状を有している。
【0007】
上記遅れ破壊防止鋼材において、応力緩和部は、体積比で50%未満とされていればよい。
【0008】
上記遅れ破壊防止鋼材において、応力緩和部は、鋼より炭素の成分が少ない金属材料から構成されていればよい。また、応力緩和部は、気泡であればよい。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明によれば、応力緩和部を備えるようにしたので、鋼材における遅れ破壊が抑制できるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の実施の形態における遅れ破壊防止鋼材の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態における遅れ破壊防止鋼材の構成を模式的に示す断面図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態における遅れ破壊防止鋼材の構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における遅れ破壊防止鋼材の構成を模式的に示す断面図である。この遅れ破壊防止鋼材は、鋼から構成された構造体101と、鋼より低い硬度の材料から構成されて構造体101の中に分散して添加された複数の応力緩和部102とを備える。ここで、応力緩和部102は、閉曲面で構成された立体形状を有している。図1では、応力緩和部102の形状が球体の場合を例示している。
【0012】
よく知られているように、通常の鋼は、金属結晶で構成される組織を有している。このため、いったん亀裂が入ると、この亀裂の先端に応力が集中する。遅れ破壊が生じる鋼材においては、水素脆化が発生したことにより亀裂先端の変形領域がきわめて小さくなることから、亀裂先端における応力集中係数が大きく、亀裂が進行して破壊が発生しやすい。これに対し、亀裂が進行してきた場合に、亀裂先端における応力を緩和する構造が、鋼の内部に形成されていれば、亀裂の進行が抑制でき、破壊が抑制できるようになる。
【0013】
本実施の形態では、上述した亀裂先端における応力を緩和する構造として、閉曲面で構成された立体形状を有する応力緩和部102を用いる。応力緩和部102は、地となる鋼よりも柔らかい(低い硬度の)材料から構成されていればよく、例えば、空気などの気体からなる気泡(空孔)であってもよい。また、鋼より炭素の成分が少ない金属材料から構成されていてもよい。このように構成する応力緩和部102は、靱性が高いものであることがより望ましい。なお、応力緩和部102は、体積比で構造体全体の50%未満とされていることが重要である。50%を超えて応力緩和部を備える状態では、強度など鋼材としての初期の性能が得にくい状態となる。
【0014】
本実施の形態における遅れ破壊防止鋼材における遅れ破壊の抑制について、より詳細に説明する。まず、図2に示すように、亀裂201が発生すると、亀裂201の先端では、幾何学的に微分不可能な点を中心に応力が集中して内部に進行する。この応力が緩和する時点で、エネルギーを吸収してから破壊が生じる。これに対し、本実施の形態では、応力緩和部102を備えているので、亀裂201の先端は、直ちに応力緩和部102に到達することになる。
【0015】
このようにして応力が集中している亀裂201の先端が進行して応力緩和部102に到達すると、図3に示すように、応力が集中していた亀裂201の先端は、球状の形(球面状)になり、収集していた応力が分散する。このように、応力緩和部102に到達した亀裂201の先端部においては、応力集中が点にならずに球面(曲面)に分散するため、この分散した分、亀裂201の進行が食い止められることになる。
【0016】
上述した本実施の形態における遅れ破壊防止鋼材は、例えば、粉末冶金法により、鋼材成分の金属粉を表面だけが溶融する温度で焼結させることで形成できる。応力緩和部102を、鋼より融点の高い材料から構成する場合、応力緩和部102を構成する材料の粉末と、鋼材の粉末とを所望とする体積比で混合し、鋼材の粉末の表面だけが溶融する温度で焼結させれば、鋼から構成された構造体101に、応力緩和部102が分散した状態とすることができる。応力緩和部102を気泡から構成する場合も同様である。
【0017】
また、溶解した鋼に直接、応力緩和部102とする材料の粉末を混合して鋳造してもよい。また、鋼より融点の低い樹脂や油などを含ませる場合には、粉末冶金で気泡を形成し、この気泡の中に含浸させればよい。
【0018】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。例えば、応力緩和部の形状は、球に限るものではなく、例えば、輪環状(トーラス)であってもよく、また、楕円体であってもよい。
【符号の説明】
【0019】
101…構造体、102…応力緩和部、201…亀裂。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼から構成された構造体と、
前記鋼より低い硬度の材料から構成されて前記構造体の中に分散して添加された応力緩和部と
を備え、
前記応力緩和部は、閉曲面で構成された立体形状を有していることを特徴とする遅れ破壊防止鋼材。
【請求項2】
請求項1記載の遅れ破壊防止鋼材において、
前記応力緩和部は、体積比で50%未満とされていることを特徴とする遅れ破壊防止鋼材。
【請求項3】
請求項1または2記載の遅れ破壊防止鋼材において、
前記応力緩和部は、前記鋼より炭素の成分が少ない金属材料から構成されていることを特徴とする遅れ破壊防止鋼材。
【請求項4】
請求項1または2記載の遅れ破壊防止鋼材において、
前記応力緩和部は、気泡であることを特徴とする遅れ破壊防止鋼材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−28846(P2013−28846A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166455(P2011−166455)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】