説明

遅放性バリア材、その製造方法、およびそれを用いた包装容器

【課題】薬剤成分などの透過成分の透過を所定時間経過後に開始させることが可能なバリア材、およびそれを用いた包装容器を提供すること。
【解決手段】所定時間経過後に透過成分が透過し始める遅放性バリア材であって、重量平均分子量が70000以上のポリグリコール酸系樹脂を含有することを特徴とする遅放性バリア材、およびこの遅放性バリア材を少なくとも一部に備えることを特徴とする遅放性包装容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定時間経過後に透過成分が透過し始める遅放性バリア材、その製造方法、およびそれを用いた包装容器に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香剤や防虫剤、農薬、肥料などの薬剤成分の効果(薬効)を長く安定して発揮させる技術として、薬剤成分を徐々に放出させる技術が知られている。このような技術を利用した徐放性製剤としては、例えば、薬剤成分に、薬剤成分の放出を抑制する成分を配合した徐放性製剤(特開2005−75762号公報(特許文献1))、薬剤成分に多孔質物質を共存させた徐放剤(特開2005−307120号公報(特許文献2))、薬剤成分を透過または浸透させることが可能な容器に徐放性薬剤を内包した徐放材(特開2005−289941号公報(特許文献3))、連通孔を有する徐放シートを一部に配置した包装容器に揮発性薬剤を内包したガス徐放性製剤(特開2008−133228号公報(特許文献4))などが知られている。
【0003】
しかしながら、これらの徐放性製剤は、使用開始時から薬剤成分を徐々に放出する機能を有するものであるため、遅効性肥料などの遅効性が要求される薬剤に適用することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−75762号公報
【特許文献2】特開2005−307120号公報
【特許文献3】特開2005−289941号公報
【特許文献4】特開2008−133228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、薬剤成分などの透過成分の透過を所定時間経過後に開始させることが可能なバリア材、その製造方法、およびそれを用いた包装容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリグリコール酸系樹脂を含むフィルムは、酸素や炭酸ガス、香気(有機蒸気)に対するバリア性に優れたものであるが、ポリグリコール酸系樹脂の重量平均分子量が特定の値(例えば、70000)より小さくなると、このフィルムのバリア性が急激に低下することを見出した。そこで、本発明者らは、ポリグリコール酸系樹脂の加水分解性を利用してポリグリコール酸系樹脂の重量平均分子量を経時的に低下させることによって、所定時間経過後に、ポリグリコール酸系樹脂を含むバリア材のバリア性が急激に低下して、芳香剤や防虫剤、農薬、肥料などの薬剤成分の透過が開始されることを見出し、さらに、前記ポリグリコール酸系樹脂の初期の重量平均分子量を制御することによって前記薬剤成分の透過開始時間を調整できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の遅放性バリア材は、所定時間経過後に透過成分が透過し始める遅放性バリア材であって、重量平均分子量が70000以上のポリグリコール酸系樹脂を含有することを特徴とするものである。このような遅放性バリア材において、前記ポリグリコール酸系樹脂100質量部に対する加水分解抑制剤の含有量としては10質量部以下であることが好ましい。
【0008】
また、本発明の遅放性バリア材の製造方法は、所定時間経過後に透過成分が透過し始める遅放性バリア材の製造方法であって、前記透過成分が透過し始めるまでの透過開始時間を設定し、該透過開始時間に応じて前記遅放性バリア材の少なくとも一部を構成するポリグリコール酸系樹脂の重量平均分子量を制御することを特徴とする方法である。
【0009】
さらに、このような製造方法において、前記遅放性バリア材が、加水分解抑制剤および/または加水分解促進剤をさらに含有するものである場合には、加水分解抑制剤および/または加水分解促進剤の含有量を制御することによって、所望の透過開始時間を有する遅放性バリア材を得ることができる。
【0010】
本発明の遅放性包装容器は、前記本発明の遅放性バリア材を少なくとも一部に備えることを特徴とするものである。また、本発明の遅効性製剤は、前記本発明の遅放性包装容器と、この包装容器に内包された薬剤成分とを備えるものであり、前記薬剤成分としては、芳香剤、防虫剤、農薬および肥料などが挙げられる。
【0011】
なお、本発明において「遅放性」とは、透過成分の透過量が、図1の実線で示すように経時的に変化する特性、すなわち、所定時間経過するまでは透過成分の透過は開始されず(透過量=0)、所定時間経過後に前記透過成分が透過し始める特性を意味する。なお、前記所定時間経過後の透過成分の透過量は、図1に示すように急激に増大してもよいし、徐放性製剤のように徐々に増大してもよい。
【0012】
また、本発明においては、この透過成分が透過し始める時間を「透過開始時間」という。この透過開始時間は、次のようにして求めることができる。すなわち、透過成分の透過量の経時変化を示すグラフ(横軸:経過時間、縦軸:透過量)において、経過時間に対する透過成分の透過量の変化が最も大きい2点を直線で結び、この直線を外挿して横軸と交差した点を透過開始時間と定義する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、薬剤成分などの透過成分の透過を所定時間経過後に開始させることができる遅放性バリア材、その製造方法、およびそれを用いた包装容器を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明にかかる「遅放性」の概念の一例を示すグラフである。
【図2】実施例1で得られたPGA樹脂フィルムにおけるリモネン透過量の経時変化を示すグラフである。
【図3】実施例2〜9で得られたPGA樹脂フィルムのPGA樹脂の重量平均分子量とリモネン透過開始時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0016】
<遅放性バリア材>
先ず、本発明の遅放性バリア材について説明する。本発明の遅放性バリア材は、所定時間経過後に透過成分が透過し始める遅放性を有するものであって、重量平均分子量が70000以上のポリグリコール酸系樹脂(以下、「PGA系樹脂」ともいう)を含有するものである。なお、PGA系樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定され、標準ポリメチルメタクリレートにより換算した値である。
【0017】
本発明の遅放性バリア材は、PGA系樹脂の重量平均分子量を加水分解により経時的に低下させることによって、前記重量平均分子量が特定の値(例えば、70000)より小さくなった場合にバリア材のバリア性が急激に低下することを利用して遅放性を発現させるものである。前記PGA系樹脂の加水分解には、後述するように、本発明の遅放性バリア材を用いた遅放性包装容器に内包される被包装物中の水分や、土壌などの遅放性包装容器の周囲環境に含まれる水分が利用される。また、遅放性バリア材上に水分を含有するフィルムを貼付して遅放性バリア材に水分を供給してもよい。なお、PGA系樹脂は通常の空気中の水分では加水分解されにくいため、本発明の遅放性バリア材のバリア性は、通常の空気中(すなわち、加水分解に必要な量の水分供給源がない場合)では保持されている。
【0018】
(ポリグリコール酸系樹脂)
本発明に用いられるPGA系樹脂としては特に制限はなく、例えば、下記式(1):
【0019】
【化1】

【0020】
で表されるグリコール酸繰り返し単位のみからなるグリコール酸の単独重合体(以下、「PGA単独重合体」という。グリコール酸の2分子間環状エステルであるグリコリドの開環重合体を含む。)、前記グリコール酸繰り返し単位を含むポリグリコール酸共重合体(以下、「PGA共重合体」という。)などが挙げられる。
【0021】
前記PGA共重合体における前記グリコール酸繰り返し単位の含有量としては60質量%以上が好ましい。前記グリコール酸繰り返し単位の含有量が前記下限未満になると、PGA共重合体の結晶性が低下し、遅放性バリア材のバリア性や耐熱性が低下する傾向にある。
【0022】
このようなPGA共重合体における前記グリコール酸繰り返し単位以外の繰り返し単位としては、例えば、下記式(2)〜(6):
【0023】
【化2】

【0024】
表される繰り返し単位が挙げられる。
【0025】
前記式(2)中、pは1〜10の整数を表し、qは0〜10の整数を表す。また、前記式(3)中、jは1〜10の整数を表す。さらに、前記式(4)中、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表し、kは2〜10の整数を表す。
【0026】
このような前記式(2)〜(6)で表される繰り返し単位を1質量%以上導入することによってPGA系樹脂の融点を下げることができ、その結果、加工温度を下げることができ、溶融加工時の熱分解を低減させることができる。さらに、PGA系樹脂の結晶化速度を制御して、加工性を改良することも可能となる。ただし、PGA系樹脂の結晶性および加水分解性の観点から、前記式(2)〜(6)で表される繰り返し単位の含有量の上限としては40質量%以下が好ましい。
【0027】
本発明に用いられるPGA単独重合体は、グリコール酸の脱水重縮合、グリコール酸アルキルエステルの脱アルコール重縮合、グリコリドの開環重合などにより合成することができ、中でも、グリコリドの開環重合(より好ましくは、スズ系化合物、チタン系化合物、アルミニウム系化合物、ジルコニウム系化合物またはアンチモン系化合物などの重合触媒の存在下で約120〜250℃の温度に加熱して行なう開環重合)により合成することが好ましい。なお、このような開環重合は塊状重合および溶液重合のいずれでも行うことができる。
【0028】
また、前記重縮合反応や前記開環重合反応においてコモノマーを併用することにより前記PGA共重合体を合成することができる。このようなコモノマーとしては、シュウ酸エチレン(すなわち、1,4−ジオキサン−2,3−ジオン)、ラクチド類、ラクトン類(例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、β−ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなど)、カーボネート類(例えば、トリメチレンカーボネートなど)、エーテル類(例えば、1,3−ジオキサンなど)、エーテルエステル類(例えば、ジオキサノンなど)、アミド類(ε−カプロラクタムなど)などの環状モノマー;乳酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル;エチレングリコール、1,4−ブタンジオールなどの脂肪族ジオール類;こはく酸、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸類またはそのアルキルエステル類などが挙げられる。これらのコモノマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。このようなコモノマーのうち、共重合させやすく、物性に優れたPGA共重合体が得られるという観点から環状モノマーおよびヒドロキシカルボン酸が好ましい。
【0029】
このようなPGA系樹脂は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。本発明に用いられるPGA系樹脂の重量平均分子量は70000以上である。PGA系樹脂の重量平均分子量が70000未満であると、使用当初(包装直後)においても透過成分に対するバリア性が低く、遅放性バリア材の原料として使用することが困難である。
【0030】
また、本発明に用いられるPGA系樹脂の溶融粘度(温度270℃、剪断速度120sec−1)としては300〜10,000Pa・sが好ましく、400〜8,000Pa・sがより好ましく、500〜5,000Pa・sが特に好ましい。さらに、PGA系樹脂の融点としては200℃以上が好ましく、210℃以上がより好ましい。
【0031】
本発明においては、このようなPGA系樹脂は単独で使用してもよいが、本発明の目的を阻害しない範囲内において、PGA系樹脂に、無機フィラー、他の熱可塑性樹脂、可塑剤などを配合したPGA系樹脂組成物として使用してもよい。また、PGA系樹脂およびPGA系樹脂組成物には、必要に応じて、熱安定剤、光安定剤、防湿剤、防水剤、撥水剤、滑剤、離型剤、カップリング剤、酸素吸収剤、顔料、染料等の各種添加剤を含有させることができる。
【0032】
(加水分解抑制剤)
本発明の遅放性バリア材においては、加水分解抑制剤が含まれていないことが好ましいが、透過成分の透過開始時間を遅くするために加水分解抑制剤を含有させてもよい。ただし、その含有量としては、PGA系樹脂100質量部に対して、10質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましい。加水分解抑制剤の含有量が前記上限を超えると、PGA系樹脂の加水分解速度が遅くなりすぎ、PGA系樹脂の重量平均分子量の低下が進行せず、バリア材の遅放性が発現しにくくなる傾向にある。
【0033】
このような加水分解抑制剤としては、脂肪族ポリエステルの耐水性向上剤として知られているカルボキシル基封止剤を用いることができ、このようなカルボキシル基封止剤としては、例えば、N,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドなどのモノカルボジイミドおよびポリカルボジイミド化合物を含むカルボジイミド化合物、2,2’−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2−フェニル−2−オキサゾリン、スチレン・イソプロペニル−2−オキサゾリンなどのオキサゾリン化合物;2−メトキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジンなどのオキサジン化合物;N−グリシジルフタルイミド、シクロへキセンオキシド、トリグリシジルイソシアヌレートなどのエポキシ化合物などが挙げられる。このような加水分解抑制剤は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0034】
(加水分解促進剤)
本発明の遅放性バリア材においては、加水分解促進剤を含有させることができる。その含有量としては、PGA系樹脂100質量部に対して、10質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましい。加水分解促進剤の含有量が前記上限を超えると、PGA系樹脂の加水分解速度が速くなりすぎて、使用開始後すぐに透過成分が透過し始めるため、遅放性バリア材としての役割を果たさない傾向にある。
【0035】
このような加水分解促進剤としては、PGA系樹脂の加水分解反応を促進できるものであれば特に制限はなく、例えば、アンモニアなどのアミン類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどの水酸化物といった塩基性化合物が挙げられる。このような加水分解促進剤は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0036】
(遅放性バリア材およびその製造方法)
本発明の遅放性バリア材は、重量平均分子量が70000以上のPGA系樹脂を含有するものであるが、通常、このようなPGA系樹脂を含有する遅放性バリア層を備えるものである。また、本発明の遅放性バリア材が加水分解抑制剤および/または加水分解促進剤を含有するものである場合、前記遅放性バリア層は、PGA系樹脂と加水分解抑制剤および/または加水分解促進剤とを含有する1層からなるものであってもよいし、PGA系樹脂を含有する層と加水分解抑制剤および/または加水分解促進剤を含有する層との2層からなるもの、PGA系樹脂および加水分解抑制剤を含有する層と加水分解促進剤を含有する層との2層からなるもの、PGA系樹脂および加水分解促進剤を含有する層と加水分解抑制剤を含有する層との2層からなるものなどの多層のものであってもよい。
【0037】
このような遅放性バリア層の厚さは、遅放性の度合いにほとんど影響しないため、透過開始時間までのバリア性が十分に発現する厚さであれば特に制限はないが、1〜1000μmであることが好ましく、1〜500μmであることがより好ましい。遅放性バリア層の厚さが前記下限未満になると、透過開始時間までバリア性が十分に確保できない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、遅放性バリア材の剛性が増加しすぎるとともに、包装資材の廃棄量が増大するという経済的な不利益を被る傾向にある。
【0038】
このような本発明の遅放性バリア材は、以下のような本発明の遅放性バリア材の製造方法により製造することが好ましい。すなわち、本発明の遅放性バリア材の製造方法においては、先ず、透過成分が遅放性バリア材を透過し始めるまでの透過開始時間を設定し、この透過開始時間に応じて初期に必要なPGA系樹脂の重量平均分子量を決定する。例えば、予め、遅放性バリア材の使用環境条件(特に、透過成分、温度、湿度)毎に、透過開始時間とPGA系樹脂の初期重量平均分子量との関係を求め、この関係に従って、設定した透過開始時間および使用環境条件に対応する初期に必要なPGA系樹脂の重量平均分子量を決定する。
【0039】
次に、決定した重量平均分子量を有するPGA系樹脂を、フィルム状、シート状など所定の形状に成形することによって、所望の透過開始時間を有する本発明の遅放性バリア材を得ることができる。また、決定した重量平均分子量よりも大きい重量平均分子量を有するPGA系樹脂を所定の形状に成形した後、このPGA系樹脂成形物(PGA系樹脂フィルムやPGA系樹脂シートなど)に電子線などを照射し、成形物中のPGA系樹脂の重量平均分子量を、前記決定した重量平均分子量まで低減することによっても、所望の透過開始時間を有する本発明の遅放性バリア材を製造することができる。PGA系樹脂の成形条件および成形方法には特に制限はなく、PGA系樹脂の重量平均分子量が維持される限り、公知の条件および方法を採用することができる。
【0040】
また、本発明の遅放性バリア材に加水分解抑制剤および/または加水分解促進剤を含有させる場合には、先ず、予め、遅放性バリア材の使用環境条件毎に、透過開始時間とPGA系樹脂の初期重量平均分子量と加水分解抑制剤および/または加水分解促進剤の含有量との関係を求め、これらの関係に従って、設定した透過開始時間および使用環境条件に対応する初期に必要なPGA系樹脂の重量平均分子量および加水分解抑制剤および/または加水分解促進剤の含有量を決定する。次いで、所定の重量平均分子量を有するPGA系樹脂と所定量の加水分解抑制剤および/または加水分解促進剤を含有するPGA系樹脂組成物を所定の形状に成形したり、あるいは所定の重量平均分子量を有するPGA系樹脂を含有する層を形成し、その上に所定量の加水分解抑制剤および/または加水分解促進剤を含有する層を形成するなどして、所望の透過開始時間を有する遅放性バリア材を製造することができる。
【0041】
このように、遅放性バリア材を構成するPGA系樹脂の重量平均分子量、加水分解抑制剤および/または加水分解促進剤の含有量を制御することによって、所望の透過開始時間を有する遅放性バリア材を得ることが可能となる。
【0042】
また、本発明の遅放性バリア材は、延伸処理を施さずに未延伸の遅放性バリア材として使用することが好ましい。延伸した遅放性バリア材においては、PGA系樹脂の加水分解速度が遅くなりすぎ、PGA系樹脂の重量平均分子量の低下が進行せず、バリア材の遅放性が発現しにくくなる傾向にある。
【0043】
本発明の遅放性バリア材は、本発明にかかるPGA系樹脂と、必要に応じて加水分解抑制剤および/または加水分解促進剤とを含有する前記遅放性バリア層のみからなるものであってもよいが、前記遅放性バリア層の片面または両面に他の樹脂層を設けた多層のものであってもよい。前記樹脂層を設けることによって、遅放性バリア材の強度を高めたり、透過成分などの被包装物と前記遅放性バリア層との接触を防いだりすることができる。このような樹脂層は、単層であっても2層以上の多層であってもよい。
【0044】
前記樹脂層を形成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂、アイオノマー樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂などのポリエステル樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。このような樹脂層は、透過成分が速やかに透過するものである必要があり、また、水分を供給する側の樹脂層は、水分が速やかに透過するものである必要がある。したがって、樹脂層を構成する樹脂としては、樹脂層が非貫通の場合でも透過成分を透過させるものが好ましいが、透過成分や水分に対してバリア性を示す樹脂であっても、樹脂層に貫通孔を形成することによって使用することができる。
【0045】
このような樹脂層は、前記遅放性バリア層とともに共押出成形や共射出成形により形成してもよいし、前記遅放性バリア層上に樹脂フィルムをラミネートして形成してもよい。前記樹脂層の厚さとしては、遅放性バリア材の強度および経済性の観点から、1〜100μmが好ましく、1〜50μmがより好ましい。
【0046】
<遅放性包装容器>
次に、本発明の遅放性包装容器について説明する。本発明の遅放性包装容器は、前記本発明の遅放性バリア材を少なくとも一部に備えるものである。すなわち、本発明の遅放性包装容器は、前記遅放性バリア材が内部と外部に曝されるように配置されていれば、包装容器のすべてが前記遅放性バリア材で形成されているものであってもよいし、一部分が前記遅放性バリア材で形成されており、残りの部分が透過成分に対してバリア性を示す材料で形成されているものであってもよい。
【0047】
前者の遅放性包装容器においては、所定時間経過後に遅放性包装容器の外表面全体から透過成分が放出されるため、例えば、後述する遅効性農薬製剤や遅効性肥料製剤などに用いる遅放性包装容器として適しているが、その用途は特に限定されるものではない。
【0048】
一方、後者の遅放性包装容器においては、所定時間経過後に遅放性バリア材で形成された部分のみから透過成分が放出されるため、例えば、後述する遅効性芳香製剤や遅効性防虫製剤などに用いる遅放性包装容器として適しているが、その用途は特に限定されるものではない。また、透過成分に対してバリア性を示す材料としては特に制限はないが、例えば、アルミニウムなどの金属、ガラス、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂などのバリア性材料の中から、内包する透過成分に対してバリア性を示すものが適宜選択される。
【0049】
このような遅放性バリア材を備える遅放性包装容器に、透過成分と水分とを含有する被包装物を内包させると、被包装物中の水分が、遅放性バリア材中の遅放性バリア層に供給され、PGA系樹脂の加水分解が進行し、PGA系樹脂の重量平均分子量が経時的に低下する。そして、透過開始時間まで経過してPGA系樹脂の重量平均分子量が特定の値よりも小さくなると、遅放性バリア材の透過成分に対するバリア性が急激に低下し、透過成分が遅放性バリア材を透過し始め、外部に放出される。
【0050】
また、被包装物が水分を含有しないものである場合には、例えば、土壌などの包装容器の外部の水分や遅放性バリア材上に貼付された水分を含有するフィルムの水分が、遅放性バリア材中の遅放性バリア層に供給され、上記と同様に、PGA系樹脂の重量平均分子量が経時的に低下し、透過開始時間になると、透過成分が遅放性バリア材を透過し始め、外部に放出される。
【0051】
<遅効性製剤>
本発明の遅効性製剤は、このような本発明の遅放性包装容器と、この包装容器に内包された薬剤成分とを備えるものであり、前記薬剤成分が本発明にかかる透過成分となる。このような薬剤成分としては、芳香剤、防虫剤、農薬、肥料などの公知の薬剤成分が挙げられる。これらの薬剤成分が遅効性を示さないものであっても、本発明の遅放性包装容器に内包することによって、それぞれ、遅効性芳香製剤、遅効性防虫製剤、遅効性農薬製剤、遅効性肥料製剤として使用することが可能となる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、PGA樹脂の重量平均分子量およびリモネン濃度は、以下の方法により測定した。
【0053】
(PGA樹脂の重量平均分子量)
PGA樹脂の重量平均分子量はゲルパーミーションクロマトグラフィ(GPC)により測定した。GPC測定装置としては昭和電工(株)製「ShodexGPC−104」(登録商標)を、カラムとしては昭和電工(株)製「HFIP−606M」2本とプレカラム(昭和電工(株)製「HFIP−G」1本を直列接続で、溶離液としては5mMトリフルオロ酢酸ナトリウム/ヘキサフルオロイソプロパノール溶液を、検出計としては示差屈折率(RI)検出計を使用した。カラム温度は40℃、溶離液流速0.6ml/分に設定した。分子量の校正は、標準ポリメチルメタクリレート(昭和電工(株)製)を用いて行なった。
【0054】
(リモネン濃度)
リモネン濃度はガスクロマトグラフィ質量分析計(GC/MS)により測定した。GC/MS測定装置としてはアジレント・テクノロジー(株)製「7890A/5975C」を、カラムとしてはアジレント・テクノロジー(株)製「HP−5MS」を、キャリアガスとしてはヘリウムを使用した。キャリアガス流速は1ml/分に設定した。カラム温度は150℃で2.2分間保持した。
【0055】
(実施例1)
PGA単独重合体((株)クレハ製、重量平均分子量(Mw):201000、溶融粘度(温度270℃、剪断速度120sec−1):596Pa・s、融点:220℃)100質量部にN,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(CDI)0.5質量部を添加してPGA樹脂組成物を調製し、これを溶融押出して厚さ15μmのPGA樹脂フィルムを作製した。
【0056】
次に、円筒形平底タイプのセパラブルフラスコ(容量200ml)に、芳香剤としてリモネン10mlを入れ、さらに3mlの水を入れたビーカー(容量10ml)を入れた。このセパラブルフラスコの開口部に前記PGA樹脂フィルムを被せた後、セパラブルカバー(容量170ml)を取り付けてクランプで固定した。その後、前記セパラブルカバーの口部にゴム栓を取り付けて密閉した。
【0057】
このようにしてリモネンと水を封入したセパラブルフラスコを50℃のオーブン中に静置した。このときのセパラブルフラスコ内の相対湿度は100%RHである。所定の時間毎にセパラブルカバー口部のゴム栓にガスタイトシリンジを突き刺してPGA樹脂フィルムより上部のヘッドスペースガスを採取し、前記方法に従ってリモネン濃度を測定し、前記PGA樹脂フィルムを透過したリモネン量を求めた。リモネン透過量の経時変化を図2に示す。
【0058】
図2に示した結果から明らかなように、セパラブルフラスコを50℃のオーブン中に静置してから約150時間経過した時点で、リモネンの透過量が急激に増大した。従って、前記PGA樹脂フィルムは、所定時間経過後に透過成分(リモネン)が透過し始める遅放性バリア材として使用できることが確認された。なお、経過時間が約300時間になった時点でセパラブルカバーを取り外したところ、PGA樹脂フィルムには穴が開いていることが目視で確認できた。
【0059】
また、前記PGA樹脂フィルムのリモネン透過開始時間を次のようにして求めた。すなわち、図2に示したリモネン透過量の経時変化において、経過時間に対する透過量の変化の傾きが最も大きい2点を直線で結び、この直線を外挿して横軸と交差した点をリモネン透過開始時間とした。その結果、前記PGA樹脂フィルムの温度50℃、相対湿度100%RHにおけるリモネン透過開始時間は144時間であった。
【0060】
(実施例2)
ビーカー内の水の量を5mlに、セパラブルフラスコの静置温度を23℃に変更した以外は実施例1と同様にしてリモネン透過量を測定し、PGA樹脂フィルム(PGA樹脂のMw=201000、CDI含有量=0.5質量部)の温度23℃、相対湿度100%RHにおけるリモネン透過開始時間を求めた。その結果を図3に示す。
【0061】
(実施例3〜6)
Mw=201000のPGA単独重合体の代わりに、Mw=175000、149000、123000、97000のPGA単独重合体をそれぞれ用いた以外は実施例1と同様にしてPGA樹脂フィルムを作製した。これらのPGA樹脂フィルムのリモネン透過量を実施例2と同様にして測定し、PGA樹脂フィルム(PGA樹脂のMw=175000、149000、123000、または97000、CDI含有量=0.5質量部)の温度23℃、相対湿度100%RHにおけるリモネン透過開始時間を求めた。その結果を図3に示す。
【0062】
(実施例7〜9)
PGA樹脂組成物の代わりに、Mw=175000、140000、105000のPGA単独重合体のみを用いた以外は実施例1と同様にしてPGA樹脂フィルムを作製した。これらのPGA樹脂フィルムのリモネン透過量を実施例2と同様にして測定し、PGA樹脂フィルム(PGA樹脂のMw=175000、140000、または105000、CDI無添加)の温度23℃、相対湿度100%RHにおけるリモネン透過開始時間を求めた。その結果を図3に示す。
【0063】
図3に示した結果から明らかなように、重量平均分子量が70000以上のPGA樹脂を用いた場合には、PGA樹脂フィルムは、リモネン透過開始時間が0時間を超え、遅放性バリア材として利用できることが確認された。また、PGA樹脂の重量平均分子量とリモネン透過開始時間は直線関係にあることがわかった。このことから、PGA樹脂の重量平均分子量を制御することによって所望のリモネン透過開始時間を有する遅放性バリア材が製造できることが確認された。さらに、加水分解抑制剤であるCDIを添加することによって、リモネン透過開始時間が長くなり、リモネン透過開始時間の調整が可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上説明したように、本発明の遅放性バリア材によれば、所定時間経過後に透過成分の透過を開始することが可能となる。
【0065】
したがって、本発明の遅放性バリア材を用いた遅放性包装容器は、内容物である透過成分を透過開始時間までは透過させず、その後、透過させることが可能であるため、遅効性芳香製剤、遅効性防虫製剤、遅効性農薬製剤、遅効性肥料製剤などの遅効性製剤に用いられる包装容器として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定時間経過後に透過成分が透過し始める遅放性バリア材であって、重量平均分子量が70000以上のポリグリコール酸系樹脂を含有することを特徴とする遅放性バリア材。
【請求項2】
前記ポリグリコール酸系樹脂100質量部に対する加水分解抑制剤の含有量が10質量部以下であることを特徴とする請求項1に記載の遅放性バリア材。
【請求項3】
所定時間経過後に透過成分が透過し始める遅放性バリア材の製造方法であって、
前記透過成分が透過し始めるまでの透過開始時間を設定し、該透過開始時間に応じて前記遅放性バリア材の少なくとも一部を構成するポリグリコール酸系樹脂の重量平均分子量を制御することを特徴とする遅放性バリア材の製造方法。
【請求項4】
前記遅放性バリア材が、加水分解抑制剤および/または加水分解促進剤をさらに含有するものであり、前記透過開始時間に応じて加水分解抑制剤および/または加水分解促進剤の含有量を制御することを特徴とする請求項3に記載の遅放性バリア材の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の遅放性バリア材を少なくとも一部に備えることを特徴とする遅放性包装容器。
【請求項6】
請求項5に記載の遅放性包装容器および該包装容器に内包された薬剤成分を備えることを特徴とする遅効性製剤。
【請求項7】
前記薬剤成分が、芳香剤、防虫剤、農薬および肥料のうちのいずれか1種であることを特徴とする請求項6に記載の遅効性製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−131714(P2012−131714A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283043(P2010−283043)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】