説明

遅燃性ポリアミド繊維およびそれからなる布帛

【課題】燃焼時のドリップが抑制され、燃焼時間遅延効果が高い遅燃性ポリアミド繊維および布帛を提供する。
【解決手段】(A)ポリアミド系樹脂70〜95重量%と、(B)膨潤性層状珪酸塩0.5〜10重量%と、(C)ジホスフィン酸塩、ポリリン酸塩、ホスフィン酸塩から選ばれる少なくとも一つのリン酸塩を3〜10重量%を少なくとも含むことを特徴とする遅燃性ポリアミド繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨潤性層状珪酸塩、特定のリン酸塩の相乗効果により、燃焼時のドリップが抑制され、燃焼速度遅延効果が高いポリアミド繊維およびそれからなる布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリアミド繊維などの熱可塑性繊維などの素材の難燃化手法として、含塩素系難燃剤、含臭素系難燃剤などのハロゲン系難燃剤、またはハロゲン系難燃剤とアンチモン系難燃剤を含有させた素材が数多く提案されている。しかしながら、これらの素材は難燃性には優れるもののハロゲン系難燃剤は燃焼時にハロゲン化ガスを発生する懸念があるなどの問題があり、これらの問題を解決するために数多くの検討がなされている。
【0003】
例えば、ハロゲン元素やアンチモン元素を含まない難燃剤としてリン化合物を用いた検討がされている。リン酸エステルを使用したリン系難燃剤を含有した素材が数多く提案されているが、難燃性はハロゲン系、アンチモン系難燃剤よりも低く、難燃性能は不十分であること、燃焼時にドリップするという課題があった。
【0004】
ポリアミド繊維のノンドリップ化として、有機化した膨潤性層状珪酸塩の添加が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。膨潤性層状珪酸塩の添加量は5から10重量%の範囲で検討しているが、ノンドリップ効果を発現するためには8から10重量%の膨潤性層珪酸塩を使用しなくてはならず、製糸性が不良になると記載がある。該非特許文献には、他の難燃剤との併用に関する記載はない。
【0005】
膨潤性層状珪酸塩をポリアミド系樹脂に用いた例が開示されている(例えば、特許文献1参照)。リン酸化合物を併用しているが、リン化合物は有機でも無機でもかまわないとの記載があり、自動車用フューズの射出成形時の着色防止かつ高温雰囲気下でのクラックの生成の抑制を目的としたものである。本願のノンドリップを目的とした燃焼特性に関する記載はない。
【0006】
膨潤性層状珪酸塩を用いた難燃剤が提案されている(例えば、特許文献2参照)。リン化合物など一般的な難燃剤との組み合わせが記載されているが、本願の繊維および布帛のノンドリップを目的とした燃焼特性に関する記載はない。
【0007】
すなわち、本願の目的とするノンドリップかつ燃焼速度を抑制する効果の発現を目的とした難燃剤として十分なものがないというのが現状である。
【非特許文献1】Polymer Eng. and Sci.,48,662ページ(2008年)
【特許文献1】特開2004−95279号公報
【特許文献2】特開2004−331975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、上記の従来技術に鑑み、燃焼時のドリップが抑制され、燃焼速度遅延効果が高いポリアミド繊維および布帛を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、次の構成を有するものである。
(1)(A)ポリアミド系樹脂100重量部に対し、(B)膨潤性層状珪酸塩0.5〜12重量部と、(C)ジホスフィン酸塩、ポリリン酸塩、ホスフィン酸塩から選ばれる少なくとも一つのリン酸塩を3.5〜12重量部を少なくとも含むことを特徴とする遅燃性ポリアミド繊維。
(2)リン酸塩(C)の平均粒径が10ミクロン以下であることを特徴とする前記(1)に記載の遅燃性ポリアミド繊維。
(3)膨潤性層状珪酸塩全体に対して20〜40重量%の4級アンモニウムイオンで有機化処理された膨潤性層状珪酸塩(B)を用いることを特徴とする前記(1)または(2)記載の遅燃性ポリアミド繊維。
(4)さらにグアニジン系化合物を含有することを特徴とする前記(1)から(3)のいずれか一項記載の遅燃性ポリアミド繊維。
(5)前記(1)から(4)のいずれか一項記載の遅燃性ポリアミド繊維を用いてなることを特徴とする布帛。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、難燃繊維素材として、具体的には、産業用途、衣料用途、非衣料用途などにおいて、ドリップ抑制の効果に優れ、燃焼速度が遅く、かつ生産安定性の高い遅燃性ポリアミド繊維および布帛を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の遅燃性ポリアミド繊維について詳細に説明する。
【0012】
本発明における遅燃性とは、燃焼時のドリップ抑制効果が高く、燃焼速度が遅いことを表す。
【0013】
本発明でいう繊維とは、例えばモノフィラメント、マルチフィラメント、ステープルファイバー、ナノファイバー、トウ、ハイバルクスフ、ハイバルクトウ、紡績糸、混紡糸、加工糸、仮撚糸、異形断面糸、中空糸、コンジュケート糸、部分配向糸、延伸加工糸、スライバーなどを包含する。異形断面形状としては、扁平型、三角型、C型、Y型、あるいはそれらの組合せなどを例示できるが、これに限られるものではない。特に、フィラメントやステープルとして好適に用いることができる。
【0014】
例えば衣料用途のフィラメントとしては単糸繊度が0.1dtexから十数dtexの範囲であり、総繊度として50〜300dtexでフィラメント数が10〜100本の範囲であることが好ましい。例えば産業用途のフィラメントとしては単糸繊度が十数Dtexから数百Dtexの範囲であり、総繊度として数百Dtexから数千Dtexでフィラメント数が10〜100本の範囲であることが好ましい。
【0015】
本発明の遅燃性ポリアミド繊維は強度が3.0〜7.0cN/dtexであることが好ましく、4.0〜6cN/dtexであることが好ましい。3.0cN/dtex以上であることで、繊維として使用する際に十分であり、7.0cN/dtex以下であることで製糸の収率が高くなり、毛羽を抑制し品位が良好になる。
【0016】
本発明の遅燃性ポリアミド繊維がマルチフィラメントである場合には、その沸騰水収縮率が5〜15%が好ましく、8〜13%がさらに好ましい。
【0017】
本発明のポリアミド繊維は(A)ポリアミド系樹脂100重量部に対し、(B)膨潤性層状珪酸塩0.5〜12重量部と、(C)ジホスフィン酸塩、ポリリン酸塩、ホスフィン酸塩から選ばれる少なくとも一つのリン酸塩を3.5〜12重量部を少なくとも含むことを特徴とする。
【0018】
本発明におけるポリアミド系樹脂(A)は、アミノ酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸を主たる構成成分とするポリアミドである。その主要構成成分の代表例としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、メタキシレンジアミン、パラキシレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクをロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂肪族、脂環族、芳香族のジアミン、およびアジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂肪族、脂環族、芳香族のジカルボン酸が挙げられ、本発明においては、これらの原料から誘導されるナイロンホモポリマーまたはコポリマーを各々単独または混合物の形で用いることができる。
【0019】
本発明において、特に有用なポリアミド樹脂は、150℃以上の融点を有する耐熱性や強度に優れたポリアミド樹脂であり、具体的な例としてはポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリペンタメチレンアジパミド(ナイロン56)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリカプ
ロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ−2−メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリノメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)およびこれらの混合物などが挙げられる。
【0020】
とりわけ得られる繊維特性の点から、ナイロン6,ナイロン66、ナイロン6/66のコポリマーが好ましい。
【0021】
本発明におけるポリアミド系樹脂の重合度は、製糸可能な範囲であれば特に制限はないが、ポリアミド樹脂1重量%の98%濃硫酸溶液中、25℃で測定した相対粘度として、2.0〜4.0の範囲のものが好ましい。2.0以上であることで、繊維とした場合の力学特性が好ましく、4.0以下であることで製糸性が良好になるからである。2.5以上が好ましく、3.0以下がより好ましい。
【0022】
本発明の遅燃性ポリアミド繊維中のポリアミド系樹脂(A)は繊維全体の50重量%以上であることが好ましい。50重量%以上であることで、ポリアミド由来の優れた力学特性を有する繊維が得られる。60重量%以上が好ましく、75重量%以上がより好ましい。
【0023】
本発明の遅燃性ポリアミド繊維は膨潤性層状珪酸塩(B)はポリアミド系樹脂(A)100重量部に対し、0.5〜12重量部含む。
本発明において使用される膨潤性層状珪酸塩とはアルミニウム、マグネシウム、リチウム等の金属を含む8面体シートの上下に珪酸4面体シートが重なって1枚の板状結晶層を形成している2:1型の構造を持つものであり、通常、その板状結晶層の層間に交換性の陽イオンを有している。
【0024】
その1枚の板状結晶の大きさは、通常幅0.05〜0.5μm、厚さ6〜15オングストロームである。また、その交換性陽イオンのカチオン交換容量は0.2〜3meq/gのものが挙げられ、好ましくはカチオン交換容量が0.8〜1.5meq/gのものである。
【0025】
膨潤性層状珪酸塩の具体例としてはモンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイトなどのスメクタイト系粘土鉱物、バーミキュライト、ハロイサイト、カネマイト、ケニヤイト、燐酸ジルコニウム、燐酸チタニウムなど
の各種粘土鉱物、Li型フッ素テニオライト、Na型フッ素テニオライト、Na型四珪素フッ素雲母、Li型四珪素フッ素雲母等の膨潤性雲母等が挙げられ、天然のものであっても合成されたものであっても良い。これらのなかでもモンモリロナイト、ヘクトライトなどのスメクタイト系粘土鉱物やNa型四珪素フッ素雲母、Li型フッ素テニオライトなどの膨潤性雲母が好ましく、特にモンモリロナイトが最も好ましい。
【0026】
上記層状珪酸塩としては、市販品である、ラポナイトXLG(英国ラポート社製、合成ヘクトライト類似物)、ラポナイトRD(英国ラポート社製、合成ヘクトライト類似物)、サーマビス(独国ヘンケル社製、合成ヘクトライト類似物)、スメクトンSA−1(クニミネ工業(株)製、サポナイト類似物)、ベンゲル(豊順洋行(株)製、天然モンモリロナイト)、クニピアF(クニミネ工業(株)製、天然モンモリロナイト)、ビーガム(米国バンダービルト社製、天然ヘクトライト)、ダイモナイト(トピー工業(株)製、合成膨潤性雲母)、ソマシフ(コープケミカル(株)製、合成膨潤性雲母)、SWN(コープケミカル(株)製、合成スメクタイト)、SWF(コープケミカル(株)製、合成スメクタイト)などを好ましく用いることができる。
【0027】
層状珪酸塩のアスペクト比は5〜600であることが好ましく、100〜500であることがさらに好ましい。アスペクト比が5以上であることで、ノンドリップ性が向上するため好ましく、600以下であることで繊維物性が良好になるため好ましい。
【0028】
本発明においては膨潤性層状珪酸塩の層間に存在する交換性陽イオンが有機オニウムイオンであることが好ましい。
【0029】
有機オニウムイオンとしてはアンモニウムイオンやホスホニウムイオン、スルホニウムイオンなどが挙げられる。これらのなかではアンモニウムイオンとホスホニウムイオンが好ましく、特にアンモニウムイオンが好んで用いられる。アンモニウムイオンとしては、1級アンモニウム、2級アンモニウム、3級アンモニウム、4級アンモニウムのいずれでも良い。
【0030】
1級アンモニウムイオンとしてはデシルアンモニウム、ドデシルアンモニウム、オクタデシルアンモニウム、オレイルアンモニウム、ベンジルアンモニウムなどが挙げられる。
【0031】
2級アンモニウムイオンとしてはメチルドデシルアンモニウム、メチルオクタデシルアンモニウムなどが挙げられる。
【0032】
3級アンモニウムイオンとしてはジメチルドデシルアンモニウム、ジメチルオクタデシルアンモニウムなどが挙げられる。
【0033】
4級アンモニウムイオンとしてはベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、ベンジルトリブチルアンモニウム、ベンジルジメチルドデシルアンモニウム、ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウムなどのベンジルトリアルキルアンモニウムイオン、トリメチルオクチルアンモニウム、トリメチルドデシルアンモニウム、トリメチルオクタデシルアンモニウムなどのアルキルトリメチルアンモニウムイオン、ジメチルジオクチルアンモニウム、ジメチルジドデシルアンモニウム、ジメチルジオクタデシルアンモニウムなどのジメチルジアルキルアンモニウムイオン、トリオクチルメチルアンモニウム、トリドデシルメチルアンモニウムなどのトリアルキルメチルアンモニウムイオンなどが挙げられる。
【0034】
また、これらの他にもアニリン、p−フェニレンジアミン、α−ナフチルアミン、p−アミノジメチルアニリン、ベンジジン、ピリジン、ピペリジン、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸などから誘導されるアンモニウムイオンなども挙げられる。
【0035】
これらのアンモニウムイオンの中でも、好ましいものは4級アンモニウムイオンであり、例えばトリオクチルメチルアンモニウム、トリメチルオクタデシルアンモニウム、ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウム、12−アミノドデカン酸から誘導されるアンモニウムイオンなどが挙げられ、特にトリオクチルメチルアンモニウム、ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウムが最も好ましい。
【0036】
本発明において層間に存在する交換性陽イオンが有機オニウムイオンで交換された膨潤性層状珪酸塩は、交換性の陽イオンを層間に有する層状珪酸塩と有機オニウムイオンを公知の方法で反応させることにより製造することができる。具体的には、水、メタノール、エタノールなどの極性溶媒中でのイオン交換反応による方法か、層状珪酸塩に液状あるいは溶融させたアンモニウムイオンを直接反応させることによる方法などが挙げられるが限定されない。
【0037】
本発明において、層状珪酸塩に対する有機オニウムイオンの量は、層状珪酸塩の分散性、溶融時の熱安定性、成形時のガス、臭気の発生抑制などの点から、有機化した層状珪酸塩全量に対して、20〜40wt%であることが好ましい。
【0038】
また、有機オニウムイオンは、混練後から最終製品に至るいずれかの工程において、ポリマー中から除去しても構わない。除去する方法は、有機溶剤あるいは水溶液による抽出があるが限定されない。
【0039】
また、これら層状珪酸塩は上記の有機オニウムイオンに加え、反応性官能基を有するカップリング剤で予備処理して使用することは、より優れた機械的強度を得るために好ましい。かかるカップリング剤としてはイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのが挙げられる。
【0040】
特に好ましいのは、有機シラン系化合物であり、その具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基含有アルコキシシラン化合物、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシシラン、γ−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリクロロシランなどのイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物、γ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ヒドロキシプロピルトリエトキシシランなどの水酸基含有アルコキシシラン化合物、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩等の炭素炭素不飽和基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。特に、炭素炭素不飽和基含有アルコキシシラン化合物が好ましく用いられる。
【0041】
これらカップリング剤での層状珪酸塩の処理は、水、メタノール、エタノールなどの極性溶媒中、あるいはこれらの混合溶媒中でカップリング剤を層状珪酸塩に吸着させる方法か、ヘンシェルミキサー等の高速攪拌混合機の中で層状珪酸塩を攪拌しながらカップリング剤溶液を滴下して吸着させる方法、さらには層状珪酸塩に直接シランカップリング剤を添加して、乳鉢等で混合して吸着させることによる方法のどれを用いても良い。層状珪酸塩をカップリング剤で処理する場合には、カップリング剤のアルコキシ基の加水分解を促進するために水、酸性水、アルカリ性水等を同時に混合するのが好ましい。また、カップリング剤の反応効率を高めるため、水のほかにメタノールやエタノール等の水、カップリング剤両方を溶解する有機溶媒を混合してもかまわない。このようなカップリング剤で処理した層状珪酸塩を熱処理することによってさらに反応を促進させることも可能である。なお、本発明の組成物を層状珪酸塩とポリアミド樹脂を溶融混練して製造する際には予め層状珪酸塩のカップリング剤による処理を行わずに、層状珪酸塩とポリアミド樹脂を溶融混練する際に、これらカップリング剤を添加するいわゆるインテグラルブレンド法を用いてもよい。
【0042】
層状珪酸塩の有機オニウムイオンによる処理とカップリング剤による処理の順序にも特に制限はないが、まず有機オニウムイオンで処理した後、カップリング剤処理をすることが好ましい。
【0043】
本発明で用いるポリアミド繊維においては、マトリックスであるポリアミド繊維に層状珪酸塩が単層のレベルで均一に分散していることが好ましい。単層のレベルで均一に分散している状態とは、層状珪酸塩が単層〜10層程度の状態で、二次凝集することなくマトリックス樹脂全体に分散していることを言う。この状態はポリアミド繊維から切片を切削しこれを電子顕微鏡で観察することによって確認できる。
【0044】
本発明における膨潤性層状珪酸塩(B)の配合量はポリアミド系樹脂100重量部に対し、0.5〜12重量部である。0.5重量部以上で遅燃性ポリアミド繊維の燃焼時のノンドリップ効果が大きく、12重量部以下で遅燃性ポリアミド繊維の繊維特性が良好になるからである。4重量部以上、8重量部以下で成形性と燃焼時のノンドリップ性が良好になるため好ましい。
【0045】
本発明の遅燃性ポリアミド繊維は、ジホスフィン酸塩、ポリリン酸塩、ホスフィン酸塩から選ばれる少なくとも一つのリン酸塩をポリアミド系樹脂(A)100重量部に対し、3.5〜12重量部用いる。3.5重量部以上用いることで十分な遅燃性が得られ、12重量部以下用いることで、繊維物性が低下しないからである。4重量部以上がより好ましく、8重量部以下がさらに好ましい。
【0046】
本発明において、リン酸塩(C)を膨潤性層状珪酸塩(B)と併用して使用することで単独で使用するよりも高いノンドリップ効果及び遅燃効果が得られる。理由は明らかではないが、膨潤性層状珪酸塩(B)とリン酸塩は相互作用が強くいため、ポリアミド中で分散した膨潤性層状珪酸塩(B)の間にリン酸塩(C)が入り込み、燃焼時に炭化層を形成することで、膨潤性層状珪酸塩(B)を単独で用いる時よりも燃焼熱の伝わりを遮断する効果が高くなり、少量でも高い難燃効果が得られると考えられる。
【0047】
本発明において、リン酸塩(C)の平均粒子径は20ミクロン以下であることが好ましい。平均粒子径が10ミクロン以下であることにより、本発明の繊維の力学特性の低下を抑制できるため好ましい。0.2ミクロン以上であることが好ましく、5ミクロン以下であることがさらに好ましい。平均粒子径は、レーザー光回折法の粒度分布測定装置を用いて、重量平均値として求めることができる。
【0048】
上記の粒径を有するリン酸塩(C)は、ボールミル等の手段で粉砕した後、乾式分級するなどの方法で得ることができる。粉砕には湿式粉砕、乾式粉砕などあるが、限定されない。
【0049】
本発明で用いられるリン酸塩として、ジホスフィン酸塩、ポリリン酸塩、ホスフィン酸塩から選べる少なくとも一つを用いる。
【0050】
本発明で用いられるジホスフィン酸塩、ポリリン酸塩、ホスフィン酸塩は下記一般式(1)〜(3)で表される化合物である。
【0051】
【化1】

【0052】
【化2】

【0053】
【化3】

【0054】
、R、R、Rは、同一あるいは異なっていても構わないが、炭素数1〜6の直鎖状あるいは分岐状アルキルまたはアリール基であるのが好ましく、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、第三ブチル、n−ペンチル、フェニルから選ばれる一つ以上であることがより好ましい。
【0055】
は炭素数1〜10の直鎖状あるいは分岐状アルキレン、アリーレン、アルキルアリーレン、アリールアルキレンであることが好ましく、メチレン、エチレン、n−プロピレン、イソプロピレン、n−ブチレン、第三ブチレン、n−ペンチレン、n−オクチレンまたはn−ドデシレン、フェニレン、ナフチレンであることがより好ましい。
【0056】
Mは, リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムなどのアルカリ土類金属,マンガン、チタン、ジルコニウム、亜鉛、アルミニウムなどの金属、アンモニウム塩などのカチオン種が好ましく、カルシウム、アルミニウムまたは亜鉛、アンモニウム塩がより好ましい。
【0057】
本発明において、リン酸塩(C)は、被覆したものを用いることができる。被覆は無機酸化物微粒子、熱硬化性樹脂が好ましく、目的に応じて選択することができる。
【0058】
被覆する熱硬化性樹脂としては、メラミン樹脂、尿素樹脂、ユリア樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂が好ましい。特に、相乗効果により難燃性を向上させるメラミン樹脂はさらに好ましい。
【0059】
本発明における遅燃性ポリアミド繊維は、トリアジン、グアニジン、シアヌレート、イソシアヌレートなどの含窒素難燃剤の1種以上を含有することができる。リン酸塩との相乗作用により、高い難燃効果を発現するため好ましい。含窒素難燃剤の中でもグアニジン化合物が特に好ましい。
【0060】
好ましいトリアジンは次式で表される。
【0061】
【化4】

【0062】
式中、R、RおよびRは各々独立にC1−C12アルキル、C1−C12アルコキシル、C6−C12アリール、アミノ、C1−C12アルキル置換アミノまたは水素である。特に好ましいトリアジンとしては、2,4,6−トリアミン−1,3,5−トリアジン(メラミン)、メラミン誘導体、メラム、メレム、メロン、アメリン、アメリド、2−ウレイドメラミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミンなどが挙げられる。これらの化合物の硫酸、ホウ酸もしくはリン酸との塩もしくは付加物も組成物に使用できる。具体例としては、ピロリン酸メラミンやポリリン酸メラミン、硫酸メラミンが挙げられる。好ましいシアヌレートおよびイソシアヌレート化合物としては、トリアジン化合物とシアヌル酸との塩もしくは付加物、例えばシアヌル酸メラミンおよびメラミン塩の混合物が挙げられる。
【0063】
好ましいグアニジン化合物としては、グアニジン、アミノグアニジンなど、並びにそのホウ酸、炭酸、リン酸、硝酸、硫酸などとの塩および付加物、並びにこれらのグアニジン化合物の1種以上を含有する混合物が挙げられる。
【0064】
本発明において、ホウ酸金属塩を含有することができる。ホウ酸金属塩は特に限定されないが、ホウ酸亜鉛、ホウ酸マグネシウムなどのホウ酸塩を用いることが好ましい。
【0065】
ホウ酸金属塩はポリアミド系樹脂(A)100重量部に対し、1〜6重量部含有することが好ましい。1重量部以上含有することで、効果的に難燃性を発現でき、6重量部以下であることで難燃剤の分散性が向上するため好ましい。2重量部以上が好ましく、3重量部以下であることが好ましい。
【0066】
本発明においては、上述した以外の難燃剤を用いることができる。本発明においては一般的に難燃剤として用いられている化合物から選択できる。具体的には、水酸化マグネシウムなどの水和金属系難燃剤を用いることができるが、限定されない。
【0067】
本発明のポリアミド繊維には、その特性を阻害しない範囲で、難燃剤以外にもその目的に応じて各種の添加剤を適宜配合することができる。添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、光安定剤、相溶化剤、滑剤、充填剤、接着助剤、防錆剤などを挙げることができる。
【0068】
本発明の遅燃性ポリアミド繊維の耐候劣化および耐熱強力劣化を防ぐためには、ボリアミド繊維がさらに銅化合物を銅金属量として10〜500ppm含有することが好ましい。銅金属量が10ppm以上で銅化合物による耐候・耐熱性向上効果が良好になり、銅金属量が500ppm以下で、銅化合物が異物となり製糸性が悪化する危険性が少なくなるため好ましい。含有する銅金属量としては20〜300ppmが好ましく、30〜250ppmがより好ましく、難燃性ポリアミド繊維の用途および目的によって添加量を選択する。銅化合物としては、沃化銅、塩化銅、臭化銅等を例示することができるがこれに限られるものではなく、従来知られた無機および有機銅塩や銅金属単体を用いることができる。
【0069】
ポリアミド繊維は、さらに他の耐熱剤を含有してもよい。耐熱剤としては、アミン化合物、メルカプト化合物、リン系化合物、ヒンダードフェノール化合物、ハロゲン化合物、ハロゲン化アルカリ金属、ハロゲン化アルカリ土類金属等が挙げられるが、これに限られるものではなく、また、これらを2種類以上組み合わせたものでも良い。アミン系化合物としては、N,N'−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、ジアリル−p−フェニレンジアミン、ジ−β−ナフチル−p−フェニレンジアミン等を例示することができ、メルカプト化合物としては、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトチアゾールが例示でき、リン系化合物としては、ステアリルフォスフェート、亜リン酸またはその塩等の有機・無機リン酸等を例示できるがこれらに限られるものではない。銅化合物と前記耐熱剤は別々に添加しても良いし、錯体を形成させて添加しても良い。銅化合物とともに加える耐熱剤としては、なかでもメルカプト化合物が好ましく、特に2−メルカプトベンゾイミダゾールを組み合わせることが好ましい。その時のメルカプト化合物添加量としては、300〜3000ppmであることが、熱酸化劣化防止性および製糸性の観点から好ましい。
【0070】
本発明において使用可能な酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−ブチリデンビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス{2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4−チオビス−(2−t−ブチル−5−メチルフェノール)、2,2−メチレンビス−(6−t−ブチル−メチルフェノール)、4,4−メチレンビス−(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレン−ジ−ホスホナイト、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、2,5,7,8−テトラメチル−2(4,8,12−トリメチルデシル)クロマン−2−オール、5,7−ジ−t−ブチル−3−(3,4−ジメチルフェニル)−3H−ベンゾフラン−2−オン、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジペンチルフェニルアクリレート、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、テトラキス(メチレン)−3−(ドデシルチオプロピオネート)メタンなどが挙げられる。
【0071】
本発明において使用可能な安定剤としては、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ラウリン酸カルシウム、リシノール酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸バリウム、リシノール酸バリウム、ステアリン酸バリウム、ラウリン酸亜鉛、リシノール酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛などの各種金属せっけん系安定剤、ラウレート系、マレート系やメルカプト系各種有機錫系安定剤、ステアリン酸鉛、三塩基性硫酸鉛などの各種鉛系安定剤、エポキシ化植物油などのエポキシ化合物、アルキルアリルホスファイト、トリアルキルホスファイトなどのホスファイト化合物、ジベンゾイルメタン、デヒドロ酢酸などのβ−ジケトン化合物、ハイドロタルサイト類やゼオライト類などを挙げることができる。
【0072】
本発明において使用可能な光安定剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、シュウ酸アニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤などが挙げられる。
【0073】
また、本発明の遅燃性ポリアミド繊維は、さらに有機または無機の顔料または染料を、0.1〜1.0重量%含有することができる。ポリアミド繊維を原着化することもでき、その場合には染色の必要が無いため好ましい。有機または無機顔料または染料の添加量は、好ましくは0.02〜0.08重量%である。
【0074】
好ましい顔料、染料としては、亜鉛華、酸化チタン、ベンガラ、チタンイエロ−、亜鉛−鉄系ブラウン、チタンーコバルト系グリ−ン、コバルトグリ−ン、コバルトブル−、銅−鉄系ブラック、群青、炭酸カルシウム、マンガンバイオレット、カ−ボンブラック、アルミニウム粉、ブロンズ粉、チタン被覆雲母等の無機顔料、および銅フタロシアニンブル−、銅フタロシアニングリ−ン、臭素化銅フタロシアニングリ−ン、ジアンスラキノンレッド、ベリレンスカ−レット、ベリレンレッド、ベリレンマル−ン、ジオキサンバイオレット、イソインドリノンイエロ−、金属錯塩アゾメチン等の有機顔料が挙げられる。
【0075】
また、黒色顔料としては、カ−ボンブラック、酸化鉄ブラック、スピネルブラック、マンガンプロック、コバルトブラック等が用いられるが、特にカ−ボンブラックが好ましい。
【0076】
本発明において、本発明の目的を損なわない範囲であれば少量の熱可塑性樹脂、例えば、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリフェニレンオキシド、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのオレフィン系ポリマー、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/1−ブテン共重合体、エチレン/プロピレン/非共役ジエン共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、およびエチレン/プロピレン−g−無水マレイン酸共重合体などのオレフィン系共重合体、ポリエーテルエステルエラストマー、ポリエステルエラストマーなどを添加することもできる。
【0077】
本発明において、上述した遅燃性ポリアミド繊維を用いてなる布帛であることが好ましい。
【0078】
また、本発明における布帛とは、上述した遅燃性ポリアミド繊維を含む、織布、編物、不織布、紐、縄、フェルト、紙、網などの繊維体と認識されるもの一般を包含する。
【0079】
布帛全量に対して上述したポリアミド繊維を重量比で70%以上含有していることが好ましいがこの限りではなく、ドリップ抑制の効果や遅燃性、樹脂組成物の物性低下や加工特性の低下が無い範囲で他の繊維との混紡や混繊などが可能である。
【0080】
繊維がフィラメントの場合には、例えば一重組織である三原組織や変化組織、二重組織であるよこ二重組織やたて二重組織などの織物に製織し、繊維構造物として得ることができる。また、このときの繊維構造物の質量は衣料用として用いる場合には、50g/m以上500g/m以下の範囲であること、産業用として用いる場合には質量は300g/m以上1500g/m以下の範囲であることが好ましい。
【0081】
本発明の遅燃性ポリアミド繊維からなる布帛は、繊維製品として特にドリップ抑制の効果や遅燃性が必要な繊維製品、例えばカーシートやカーマットなどの車両内装材、カーテン、カーペット、椅子張り地などのインテリア素材、衣料素材などでドリップが抑制され、且つ遅燃性を発現する繊維製品として好適に用いることができる。
【0082】
次に本発明の繊維および布帛の製造方法に関して詳細に説明する。
【0083】
まず、ポリアミド繊維に関しては、膨潤性層状珪酸塩(B)、リン酸塩(C)などの難燃剤をポリアミド繊維に付与する方法として、例えば膨潤性層状珪酸塩(B)、リン酸塩(C)などの難燃剤をポリアミドの重合時に添加する方法、ポリアミド系樹脂のチップと膨潤性層状珪酸塩(B)、リン酸塩(C)などの難燃剤を2軸押し出し機等の混練機で混練する方法、またはポリアミド系樹脂の紡糸時に膨潤性層状珪酸塩(B)、リン酸塩(C)などの難燃剤を添加する方法などが挙げられるが、膨潤性層状珪酸塩(B)、リン酸塩(C)をポリアミドに付与することができればこれらに限るものではない。混練する場合には、ポリアミド系樹脂(A)に対して、膨潤性層状珪酸塩(B)、続いてリン酸塩(C)を混練することが好ましい。
【0084】
ポリアミド系樹脂(A)、膨潤性層状珪酸塩(B)、リン酸塩(C)を少なくとも含有するポリアミド繊維の製造方法としては、通常の製糸工程、延伸工程が採用できる。また、製糸工程では高速紡糸、複合紡糸など、延伸工程では製糸工程と延伸工程を連続で行う方法なども利用できる。
【0085】
本発明におけるポリアミド繊維を用いてなる布帛は公知の方法で製造することができる。例えば、不織布とする場合には製糸工程と直結で、また、織編物などの場合では、製糸後、既知の方法により必要とされる繊維形態とすれば良い。
【0086】
得られた繊維は、他の繊維と交織、交編、または交撚糸、混繊糸などとして得られる繊維複合体を得ることもできる。
【0087】
難燃成分を繊維および布帛に付与する方法としては、ポリアミド系繊維へ共重合、ブレンドする方法、製糸後、高次加工などにより付与する方法などが利用できるが、いずれの方法で付与してもよい。
【0088】
本発明の布帛は様々な後加工をすることができる。例えば、浴中加工、吸尽加工、コーティング加工、Pad−dry加工、Pad−steam加工などにより撥水性、親水性、制電性、消臭性、抗菌性、深色性などの機能を付与することができる。
【0089】
特に、含窒素難燃剤の中のグアニジン化合物など、繊維化までにかかる熱履歴によって熱分解が懸念される難燃剤は、後加工で分解することなく付与できるため好ましい。
【実施例】
【0090】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。実施例中の各特性値は、次の方法で求めたものである。
A.相対粘度
ポリマ試料を98%硫酸に1重量%の濃度で溶解し、オストワルド粘度計を用いて25℃で測定し、次式に従い求めた。
硫酸相対粘度(ηr)=(試料溶液の滴下秒数)/(硫酸溶液滴下秒数)
各サンプルにつき2回の測定を行い、その平均値を採用した。
B.繊度
JIS L1017(2002)8.3の方法で繊度を測定した。
C.繊維物性(強度・伸度)
JIS L1017(2002)8.5の方法で測定した。
強度2.5cN/dtex以上を○、強度2.0以上2.5cN/dtex未満を△、強度2.0cN/dtex未満を×とした。
D.沸騰水収縮率
JIS L1017(2002)によって測定した。
E.燃焼テスト
得られた延伸糸を筒編み機で編物の繊維構造物を作製し、炭酸ナトリウム2g/L、界面活性剤0.2g/L(グランアップUS30、三洋化成工業株式会社製)、処理温度/時間60℃/30分で精練を行った後、乾熱180℃×2分のセットを行った。
【0091】
長さ10cm、横幅1.5cm、目付け300g/mになるように編地を重ね、縫い合わせることで燃焼試験用のサンプルとした。
【0092】
サンプルの上端をとめて垂直にし、下端に炎を10秒間着火した後、サンプルより遠ざけることで燃焼テストを行った。ドリップして布帛の燃焼が停止した場合には、再度、残存したサンプルの下端に着火した。
F.ノンドリップ性
燃焼時のノンドリップ回数が0回のものをノンドリップ性○とし、1〜2回のものをノンドリップ性△、3回以上をノンドリップ性×とした。
G.遅燃性
着火を始めてから、火の燃焼が停止するまでを燃焼時間とした。ドリップして、布帛の燃焼が停止した場合には、トータルの燃焼時間を燃焼時間とした。
30秒以上を○、20秒以上30秒未満を△、20秒未満を×とした。
H.総合評価
強度(製糸性)、ノンドリップ性、遅燃性の3つの評価のうち、全てが○のものを○とした。3つの評価のうち、一つでも×があるものの、総合評価を×にした。それ以外を△とした。
○を問題なしとした。
【0093】
参考例1
Na型モンモリロナイト(クニミネ工業:クニピアF、陽イオン交換容量120m当量/100g)100gを温水10リットルに攪拌分散し、ここにベンジルジメチルオクタデシルアンモニウムクロライド50gを溶解させた温水2Lを添加して1時間攪拌した。生じた沈殿を濾別した後、温水で洗浄した。この洗浄と濾別の操作を3回行い、未乾燥状態の固体を得た。その後、得られた固体を80℃で真空乾燥、粉砕して膨潤性層状珪酸塩を得た。得られた膨潤性層状珪酸塩の無機灰分量を測定(TG−DTAを用い、空気雰囲気下600度で3時間保持した時点の加熱減量で定量)したところ、69重量%であった。
【0094】
実施例1
ポリアミド(A)として相対粘度が2.8のナイロン6、100重量部に対し、有機化した膨潤性層状珪酸塩(参考例1参照、有機化剤:ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウム(31%))7重量部、リン酸塩としてホスフィン酸アルミニウム(クラリアント社製OP935、平均粒径2ミクロン)5.5重量部をL/D:32.5、混練温度240℃、スクリュー回転数300rpmの条件で二軸押し出し機を用いて混練し、樹脂組成物を得た後、3mm角のチップにカッティングした。チップ表面はなめらかで、難燃剤の分散性が良好で混練性に優れることが分かった。得られたチップを真空乾燥機で120℃、12時間、2Torrで乾燥した後、紡糸温度270℃、紡糸速度800m/min、口金口径0.23mm−孔深度0.15mm−孔数24である口金、吐出量32g/minの条件で紡糸を行った。製糸性は良好で、生産安定性に優れる結果となった。ついで延伸機を用いて加工速度120m/min、延伸温度90℃、セット温度130℃の条件で延伸糸の繊度が128dtex−24フィラメントになるような延伸倍率で延伸を行い、延伸糸を得た。延伸糸の物性は、強度3.1cNd/tex、伸度33%、沸騰水収縮率10.1%であり良好だった。
【0095】
続いて、得られた延伸糸を用いて、燃焼テストを行った。その結果、ノンドリップ回数0回、燃焼速度40秒であり、ノンドリップ性および遅燃性ともに良好だった。その結果を表1に示す。
【0096】
実施例2
実施例1の布帛に、グアニルスルフォアミド化合物を主成分とする水溶液(大京化学社製ビゴールNS)を付与した後、100℃で乾燥、150℃で2分間熱セットを行った。
得られた布帛を用いて、実施例1と同様に燃焼テストを行った。グアニルスルフォアミドの付与量はポリアミド系樹脂(A)100重量部に対し、5.5重量部である。その結果、ノンドリップ性および遅燃性ともに良好だった。また、燃焼時に炭化物が多く生じた。その結果を表1に示す。
【0097】
実施例3
膨潤性層状珪酸塩(B)として参考例1と同様にして得られた膨潤性層状珪酸塩(有機化剤:ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウム、有機化量31重量%)をポリアミド系樹脂(A)100重量部に対し、5.5重量部、リン酸塩(C)としてポリリン酸アンモニウム(Budenheim社製、平均粒径7ミクロン)4.5重量部、ホウ酸亜鉛(水澤化学社製)4.5重量部用いた以外は、実施例1と同様に混練、紡糸、延伸を行った。
【0098】
得られた繊維の物性は良好だった。
【0099】
また、延伸した糸を用いて、難燃性テストを行った。その結果、ノンドリップ性および遅燃性ともに良好だった。その結果を表1に示す。
【0100】
実施例4
ポリアミド(A)にナイロン66、膨潤性層状珪酸塩(B)として参考例1と同様にして得られた膨潤性層状珪酸塩(有機化剤:ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウム、有機化量28重量%)をポリアミド系樹脂(A)100重量部に対し7重量部、リン酸塩(C)としてホスフィン酸アルミニウム5.5重量部用いた以外は、実施例1と同様に混練、紡糸、延伸を行った。得られた繊維の物性は良好だった。
【0101】
また、延伸した糸を用いて、難燃性テストを行った。その結果、ノンドリップ性および遅燃性ともに良好だった。その結果を表1に示す。
【0102】
実施例5
膨潤性層状珪酸塩(B)として参考例1と同様にして得られた膨潤性層状珪酸塩(有機化剤:ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウム、有機化量28重量%)をポリアミド系樹脂(A)100重量部に対し、6重量部、リン酸塩(C)としてホスフィン酸アルミニウム6重量部、含窒素化合物としてメラミンシアヌレート6重量部用いた以外は、実施例1と同様に混練、紡糸、延伸を行った。得られた繊維の物性は良好だった。
【0103】
また、延伸した糸を用いて、難燃性テストを行った。その結果、ノンドリップ性および遅燃性ともに良好だった。また、炭化物が多く生じた。その結果を表1に示す。
【0104】
実施例6
リン酸塩(C)として、クラリアント社製ExolitOP1230(粒径35ミクロン)を用いた以外は実施例1と同様に混練、紡糸、延伸を行った。紡糸時のろ圧上昇が見られ、延伸時の糸切れが見られたものの、繊維物性は良いものだった。
【0105】
また、延伸した糸を用いて、難燃性テストを行った。その結果、ノンドリップ性および遅燃性ともに良好だった。その結果を表1に示す。
【0106】
【表1】

【0107】
比較例1
リン酸金属塩(C)を用いなかった以外は実施例1と同様に混練、紡糸、延伸を行った。繊維の物性は良好だったが、燃焼テストの結果ドリップ回数が2回であり、ノンドリップ性に劣る結果となった。その結果を表2に示す。
【0108】
比較例2
膨潤性層状珪酸塩(B)を用いなかった以外は実施例2と同様に混練、紡糸、延伸を行った。繊維の物性は良好だったが、燃焼テストの結果、炭化物の形成は見られたものの、ドリップ回数が4回と多く、ノンドリップ性がなかった。また、燃焼時間も21秒と遅燃効果が劣る結果となった。その結果を表2に示す。
【0109】
比較例3
ポリアミド(A)、膨潤性層状珪酸塩(B)をポリアミド系樹脂(A)100重量部に対し、7重量部、リン酸塩(C)としてポリリン酸アンモニウムを13重量部、含窒素化合物としてメラミンシアヌレートを8重量部、その他の難燃剤としてホウ酸亜鉛を8重量部用いた以外は、実施例1と同様に混練を行った。得られたポリマーは非常に脆いものとなった。
【0110】
また、繊維化したものの、強度が低く、燃焼テストの結果ではノンドリップ性も低い結果となった。その結果を表2に示す。
【0111】
比較例4
膨潤性層状珪酸塩(B)をポリアミド系樹脂(A)100重量部に対し、13重量部用い、リン酸塩(C)を用いなかった以外は実施例1と同様に混練・紡糸・延伸を行った。延伸後の糸の強度は低いものとなった。
燃焼テストの結果では、良好なノンドリップ性と遅燃性が得られた。その結果を表2に示す。
【0112】
比較例5
膨潤性層状珪酸塩(B)とリン酸塩(C)を用いず、ポリアミド(A)としてナイロン6のみで実施例1と同様に混練・紡糸・延伸を行った。得られた延伸糸の物性は良好だった。筒編み時を実施例2と同様にグアニルスルホアミドを用いて後加工を行った。
【0113】
難燃テストの結果、ノンドリップ性、遅燃性ともに劣る結果となった。その結果を表2に示す。
【0114】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアミド系樹脂100重量部に対し、(B)膨潤性層状珪酸塩0.5〜12重量部と、(C)ジホスフィン酸塩、ポリリン酸塩、ホスフィン酸塩から選ばれる少なくとも一つのリン酸塩を3.5〜12重量部を少なくとも含むことを特徴とする遅燃性ポリアミド繊維。
【請求項2】
リン酸塩(C)の平均粒径が10ミクロン以下であることを特徴とする請求項1記載の遅燃性ポリアミド繊維。
【請求項3】
膨潤性層状珪酸塩全体に対して20〜40重量%の4級アンモニウムイオンで有機化処理された膨潤性層状珪酸塩(B)を用いることを特徴とする請求項1または2記載の遅燃性ポリアミド繊維。
【請求項4】
さらにグアニジン系化合物を含有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載の遅燃性ポリアミド繊維。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項記載の遅燃性ポリアミド繊維を用いてなることを特徴とする布帛。

【公開番号】特開2010−18906(P2010−18906A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179983(P2008−179983)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】