説明

遊星歯車機構

【課題】回転効率の低下が抑制された遊星歯車機構を提供することを課題とする。
【解決手段】遊星歯車機構は、第1太陽歯車と、前記第1太陽歯車に噛合う複数の第1遊星歯車と、前記複数の第1遊星歯車が回転可能に連結した第1キャリアと、を備え、前記第1太陽歯車は、該第1太陽歯車の回転の中心軸上に第1係合部を有し、前記第1キャリアは、該第1キャリアの回転の中心軸上に設けられ、前記第1係合部に対して相対回転可能に係合する第1被係合部を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊星歯車機構に関する。
【背景技術】
【0002】
遊星歯車機構は、互いに対向し同軸上に配置された太陽歯車とキャリアとを備えているものがある。特許文献1には、このような遊星歯車機構に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−299310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
太陽歯車の中心軸とキャリアの中心軸とのずれを抑制するために、従来から数々の方法が提案されている。例えば、太陽歯車とキャリアとをモータの回転軸に貫通させることにより、太陽歯車とキャリアとのそれぞれの中心軸のずれを抑制する。しかしながら、このような場合、太陽歯車と、太陽歯車を貫通するモータの回転軸とは、異なる回転速度で回転する。このため、太陽歯車とモータの回転軸との接触面積が大きいと、摺動抵抗が大きくなって回転効率が低下するおそれがある。
【0005】
そこで本発明は、回転効率の低下が抑制されると同時に同軸度も改善される遊星歯車機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、第1太陽歯車と、前記第1太陽歯車に噛合う複数の第1遊星歯車と、前記複数の第1遊星歯車が回転可能に連結した第1キャリアと、を備え、前記第1太陽歯車は、該第1太陽歯車の回転の中心軸上に第1係合部を有し、前記第1キャリアは、該第1キャリアの回転の中心軸上に設けられ、前記第1係合部に対して相対回転可能に係合する第1被係合部を有する、遊星歯車機構によって達成できる。
【0007】
第1太陽歯車の中心軸上に設けられた第1係合部と第1キャリアの中心軸上に設けられた第1被係合部とが係合することにより、第1太陽歯車と第1キャリアとの中心軸の位置ずれを抑制できると共に、第1太陽歯車と第1キャリアとが摺接する部分の面積を小さくできる。これにより、回転効率の低下が抑制される。また、第1太陽歯車と第1キャリアとの同軸度も改善される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、回転効率の低下が抑制された遊星歯車機構を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、遊星歯車機構の断面図である。
【図2】図2(A)、2(B)は、キャリアの説明図である。
【図3】図3は、凸部と凹部との周囲の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、遊星歯車機構Aの断面図である。遊星歯車機構Aは、内歯車40、内歯車40の前方側に固定されたカバーFC、内歯車40の後方側に固定されたカバーRC、カバーFCから突出したキャリア70の出力軸部78、を含む。カバーFC、RC、内歯車40は、ネジS1により固定されている。カバーFCには出力軸部78を回転可能に保持する軸受FBが固定されている。
【0011】
カバーRCは、ほぼ円形の板状であり、その中心部には開口部が設けられている。開口部から露出するように、回転部材10が配置されている。カバーRCの包囲部RC1は、回転部材10の周囲を囲っている。回転部材10の基端側には、モータの出力軸が嵌合する嵌合孔11が形成されている。回転部材10の先端側には太陽歯車部16が形成されている。太陽歯車部16は、第1太陽歯車の一例である。回転部材10と対向するようにキャリア20が配置されている。キャリア20は、第1キャリアの一例である。キャリア20は、略円板状の円板部22、円板部22から基端側に突出した複数の支軸部24、複数の支軸部24にそれぞれ回転可能に連結された複数の遊星歯車25、円板部22の先端側に設けられた太陽歯車部26を含む。複数の遊星歯車25は、複数の第1遊星歯車の一例である。太陽歯車部26は、第2太陽歯車の一例である。複数の遊星歯車25は、回転部材10の太陽歯車部16と噛合っている。
【0012】
内歯車40には内歯部45が形成されており、複数の遊星歯車25は内歯部45とも噛合っている。回転部材10の太陽歯車部16は複数の遊星歯車25とも噛合っているため、回転部材10が回転することにより複数の遊星歯車25が回転し、複数の遊星歯車25は内歯車40内で自転しながら公転する。複数の遊星歯車25が公転することによりキャリア20が回転する。
【0013】
キャリア20の先端側にはキャリア70が配置されている。キャリア70は、第2キャリアの一例である。キャリア70は、略円板状の円板部72、円板部72から基端側に突出した複数の支軸部74、複数の支軸部74にそれぞれ回転可能に連結された複数の遊星歯車75、円板部72から先端側に延びた回転軸部78を含む。複数の遊星歯車75は、キャリア20の太陽歯車部26及び内歯車40の内歯部45と噛合う。複数の遊星歯車75は、複数の第2遊星歯車の一例である。キャリア20が回転することにより、遊星歯車75が内歯車40内を自転しながら公転し、キャリア70の回転軸部78が回転する。
【0014】
以上のようにして、回転部材10が回転することにより、回転速度が減速されてキャリア70の出力軸部78が回転する。遊星歯車機構Aは、プラネタリー型の遊星歯車機構である。
【0015】
回転部材10の太陽歯車部16の先端側にはキャリア20に向けて突出した凸部17が形成されている。キャリア20の円板部22の基端側には凹部23が形成されている。凸部17は、回転部材10の中心軸上に形成されている。凹部23は、キャリア20の中心軸上に形成されている。凸部17と凹部23とが係合している。これにより、回転部材10の中心軸とキャリア20の中心軸とのずれが抑制される。なお、回転部材10の回転速度とキャリア20との回転速度とは異なっているので、凸部17と凹部23とは互いに異なる回転速度で摺接する。凸部17は、第1係合部の一例であり、凹部23は第1係合部に対して相対回転可能に係合する第1被係合部の一例である。
【0016】
キャリア20の太陽歯車部26の先端側にはキャリア70に向けて突出した凸部27が形成されている。キャリア70の円板部72の基端側には凹部73が形成されている。凸部27と凹部73とが係合している。これにより、キャリア20の中心軸とキャリア70の中心軸とのずれが抑制される。凸部27は、第2係合部の一例であり、凹部73は第2係合部に対して相対回転可能に係合する第2被係合部の一例である。
【0017】
このように、回転部材10の凸部17とキャリア20の凹部23とが係合し、キャリア20の凸部27とキャリア70の凹部73とが係合する。このため、回転部材10、キャリア20、70のそれぞれの中心軸のずれが抑制される。ここで、回転部材10、キャリア20、70は、それぞれ互いに異なる速さで回転している。このため、凸部17と凹部23とは相対的に回転しながら摺接し、凸部27と凹部73とも相対的に回転しながら摺接する。
【0018】
このように異なる速度で回転する2種の部材の摺接する部分の面積が大きいと、摺動抵抗によって回転効率が低下するおそれがある。例えば、モータの出力軸がこれらキャリア20、70を貫通することによりキャリア20、70の中心軸の位置ずれを抑制する構成の場合、モータの出力軸とキャリア20、70との摺接する部分の面積が大きくなる。摺接する部分の面積が大きくなることにより、摺動抵抗も大きくなり、回転効率が低下するおそれがある。
【0019】
本実施例の場合、回転部材10の凸部17はキャリア20を貫通せず、キャリア20の凸部27もキャリア70を貫通しておらず、凸部17、凹部23、凸部27、凹部73の係合により、回転部材10、キャリア20、70のそれぞれの中心軸のずれが抑制される。これにより、回転部材10とキャリア20とが摺接する部分の面積、及びキャリア20とキャリア70とが摺接する部分の面積を小さくできる。よって、回転部材10、キャリア20、70の回転効率の低下を抑制できる。また、モータの出力軸がキャリア20、70を貫通することによりこれらの中心軸の位置ずれを抑制する場合には、出力軸が比較的長いモータを採用しなければならず、高コストのモータを採用することが強いられるおそれがある。本実施例の場合には、出力軸の短いモータを採用でき、低コスト、低出力のモータを採用できる。
【0020】
また、回転部材10、キャリア20、70のそれぞれの中心軸のずれが抑制され、即ち、これら部材の同軸度が改善される。
【0021】
また、回転部材10の凸部17はキャリア20に向けて凸状であり、キャリア20の凸部27はキャリア30に向けて凸状である。従って、遊星歯車機構Aの組立作業において、回転部材10の上にキャリア20を配置し、キャリア20の上にキャリア70を配置することが容易である。これにより、遊星歯車機構Aの組立作業性が向上する。
【0022】
図2(A)、2(B)は、キャリア20の説明図である。キャリア20の凸部27は、凸部27の先端側に従って径が小さくなっている円錐面271を含む。凸部27の先端は、キャリア20の中心軸に垂直な平坦面273が形成されている。尚、凸部27の先端は平坦でなくてもよく、鋭角であってもよい。太陽歯車部26は、凸部27の周囲に位置している平坦な面265を有している。凸部27は、面265から突出するように形成されている。
【0023】
図3は、凸部27と凹部73との周囲の拡大図である。凸部27の円錐面271と同様に、凹部73も円錐面731を有している。円錐面731は、キャリア70の先端側に従って径が小さくなっている。このように円錐面271、731同士が当接する。これにより、キャリア20、70の中心軸の位置ずれが抑制される。尚、凸部17、凹部23についても同様に構成されている。
【0024】
凸部27と凹部73との間には、空間SPが形成されている。具体的には、凸部27の平坦面273と凹部73との間に空間SPが形成される。空間SP内には、グリースなどの潤滑剤Mが貯留されている。これにより、キャリア20とキャリア70との摺動抵抗を抑制できる。
【0025】
また、図3に示すように、キャリア20の太陽歯車部26の先端側の面265は、キャリア70の円板部72の基端側の面725と対向しており摺接し得る。面725は、凹部73の周囲に位置した平坦な面である。面265、725が摺接することにより、凸部27に負荷が集中することを防止できる。
【0026】
尚、凸部27の長さを変更することにより、面265、725が摺接しないようにしてもよい。面265、725が摺接しない場合には、キャリア20とキャリア70との摺接する部分の面積を減らすことができ、摺動抵抗を抑制できる。
【0027】
上記実施例においてプラネタリー型の遊星歯車機構を一例として説明したが、太陽歯車が固定され内歯車が駆動しキャリアが従動するソーラ型の遊星歯車機構であってもよいし、又は、キャリアが固定され太陽歯車が駆動し内歯車が従動するスター型の遊星歯車機構であってもよい。
【0028】
以上本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、変形・変更が可能である。
【0029】
回転部材10の太陽歯車部16に凹部を設け、キャリア20の円板部22に回転部材10の凹部と係合する凸部を設けてもよい。同様に、キャリア20の太陽歯車部26に凹部を設け、キャリア70の円板部72に太陽歯車部26の凹部と係合する凸部を設けてもよい。
【符号の説明】
【0030】
A 遊星歯車機構
10 回転部材
17、27 凸部
16、26 太陽歯車部
20、70 キャリア
23、73 凹部
25、75 遊星歯車
271、731 円錐面
40 内歯車
SP 空間



【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1太陽歯車と、
前記第1太陽歯車に噛合う複数の第1遊星歯車と、
前記複数の第1遊星歯車が回転可能に連結した第1キャリアと、を備え、
前記第1太陽歯車は、該第1太陽歯車の回転の中心軸上に第1係合部を有し、
前記第1キャリアは、該第1キャリアの回転の中心軸上に設けられ、前記第1係合部に対して相対回転可能に係合する第1被係合部を有する、遊星歯車機構。
【請求項2】
前記第1係合部は凸状であり前記第1被係合部は凹状である、又は、前記第1係合部は凹状であり前記第1被係合部は凸状である、請求項1の遊星歯車機構。
【請求項3】
前記第1係合部及び第1被係合部は、互いに摺接する円錐面を有している、請求項1又は2の遊星歯車機構。
【請求項4】
前記第1係合部及び第1被係合部が係合した状態で第1前記係合部と第1被係合部との間には、潤滑剤が貯留可能な空間が形成される、請求項1乃至3の何れかの遊星歯車機構。
【請求項5】
前記第1キャリアに連結された第2太陽歯車と、
前記第2太陽歯車に噛合う複数の第2遊星歯車と、
前記複数の第2遊星歯車が回転可能に連結した第2キャリアと、を備え、
前記第2太陽歯車は、該第2太陽歯車の回転の中心軸上に第2係合部を有し、
前記第2キャリアは、該第2キャリアの回転の中心軸上に設けられ、前記第2係合部に対して相対回転可能に係合する第2被係合部を有する、請求項1乃至4の何れかの遊星歯車機構。
【請求項6】
前記第1太陽歯車は、前記第1係合部の周囲に位置する第1面を有し、
前記第1キャリアは、前記第1被係合部の周囲に位置し前記第1面に対向した第2面を有し、
前記第1及び第2面は、当接し得る、請求項1乃至5の何れかの遊星歯車機構。
【請求項7】
前記第1太陽歯車は、前記第1係合部の周囲に位置する第1面を有し、
前記第1キャリアは、前記第1被係合部の周囲に位置し前記第1面に対向した第2面を有し、
前記第1及び第2面は、当接しない、請求項1乃至5の何れかの遊星歯車機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−247010(P2012−247010A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119491(P2011−119491)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000106944)シナノケンシ株式会社 (316)
【Fターム(参考)】