説明

遊星歯車装置

【課題】自動調心ころ軸受の保持器の設計、並びに強度を、従来設計のまま変更することなく、遊星歯車装置の構成によって前記保持器に作用する荷重を低減し、前記保持器の耐久性、寿命を向上することが出来、ひいては遊星歯車装置としての高出力化、耐久性、寿命を向上させることができる遊星歯車装置提供する。
【解決手段】自動調心ころ軸受で自転を回転支持する遊星歯車装置において、運転中に前記遊星歯車装置が公転によって受ける遠心力が、遊星歯車の接線荷重の1.0倍以上になるような質量を遊星歯車装置が持つことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械、例えば、大型ダンプ、ホイールローダ、油圧ショベル、およびブルドーザ等に使用されている遊星歯車減速機の遊星歯車装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、大型ダンプ、ホイールローダ、油圧ショベル、およびブルドーザ等に代表される建設機械の走行減速機、トランスミッション、または終減速機には、例えば、遊星歯車減速機が採用されている。遊星歯車減速機は、入力軸と、出力軸と、入力軸に固定された太陽歯車と、ハウジングに固定された内歯車と、太陽歯車および内歯車の双方に噛合う複数の遊星歯車と、出力軸に固定され、軸受を介して遊星歯車を支持する遊星キャリアとを備える。上記構成の遊星歯車減速機は、入力軸と出力軸とを同軸上に配置できるので減速機をコンパクト化することが可能となると共に、高トルク、高効率といった特徴を備えている。
【0003】
上記構成の遊星歯車減速機において、遊星歯車を支持する軸受としては、厚み寸法を削減するために針状ころ軸受が使用される。しかし、大型で重荷重低速回転下において使用される場合には、高負荷容量の自動調心ころ軸受が用いられることがある。遊星歯車を支持する自動調心ころ軸受は、内輪と、外輪と、内輪および外輪の間に複列に配置された複数の球面ころと、複数の球面ころの間隔を保持する保持器とを備える。上記構成の自動調心ころ軸受は、他の軸受と比較して定格荷重が高く、また、歯車の噛み合いによって生じる軸の撓みに対して調心性を有しているので、建設機械用遊星歯車減速機の遊星歯車を支持する軸受として好適である。
【0004】
近年、建設機械の高出力化および耐久性向上の要求が高まっている。遊星歯車減速機に接続する駆動装置を高出力化した場合、遊星歯車を支持する軸受に負荷される荷重が増大する。これにより、従来の自動調心ころ軸受では、負荷容量不足による軸受寿命の低下が問題となる。なお、この問題は、遊星歯車減速機に接続する駆動装置を高出力化した場合に留まらず、従来と荷重条件の同じ自動調心ころ軸受をコンパクト化しようとする場合にも生じ得る。
【0005】
この部分の改善の先行技術としては、例えば引用文献1がある。その構成は、保持器形状の工夫により保持器の機能を維持しつつ球面ころ配置間隔を狭め、収容本数を増加して高負荷容量化を達成するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−19922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、先行技術には、以下の点に課題がある。すなわち、上記文献の技術では、球面ころから保持器に作用する荷重の大きさが変化しないにも関わらず、保持器薄肉化、省スペース化により保持器強度は低下するので、保持器破損の懸念がある。
【0008】
本発明は、上記を考慮し、保持器の設計、並びに強度を、従来設計のまま変更することなく、遊星歯車の構成によって保持器に作用する荷重を低減し、保持器の耐久性、寿命を向上することが出来、ひいては遊星歯車装置としての高出力化、耐久性、寿命を向上させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の遊星歯車装置は、自動調心ころ軸受で自転を回転支持する遊星歯車装置において、運転中に遊星歯車装置が公転によって受ける遠心力が、遊星歯車の接線荷重の1.0倍以上になるような質量を遊星歯車装置が持つことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、保持器の設計、並びに強度を、従来設計のまま変更することなく、遊星歯車の構成によって保持器に作用する荷重を低減し、保持器の耐久性、寿命を向上することが出来、ひいては遊星歯車装置としての高出力化、耐久性、寿命を向上させることができる遊星歯車装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る遊星歯車装置の側面図である。
【図2】保持器負荷荷重の解析計算結果(最高運転速度)のグラフである。
【図3】本発明に係る遊星歯車装置の第1実施形態の一部断面図である。
【図4】本発明に係る遊星歯車装置の第2実施形態の一部断面図である。
【図5】本発明に係る遊星歯車装置の第3実施形態の一部断面図である。
【図6】本発明に係る遊星歯車装置の第4実施形態の一部断面図である。
【図7】従来の遊星歯車装置の一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る遊星歯車装置の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係る遊星歯車装置の側面図である。図1の遊星歯車装置1において、遊星歯車の内周面に自動調心ころ軸受3が取り付けられており、前記遊星歯車2はAの方向に自転し、前記遊星歯車装置1は、Bの方向に公転する。前記遊星歯車装置1は、前記自動調心ころ軸受2で自転を回転支持し、運転中に遊星歯車装置1が公転によって受ける遠心力Cが、常に歯車接線荷重Dの1.0倍以上になるような質量を遊星歯車装置1が持っている。
【0013】
次に保持器柱部が球面ころとの干渉によって受ける干渉力(負荷荷重)を、コンピュータシミュレーションによって幾何的に解析計算した。軸受は、ころ数は14×2列、ころ径19mm、外輪軌道球面曲率半径R67.5mmである。遊星歯車装置の最高運転速度時を計算条件とした。従来の遊星歯車設計では、遊星歯車への遠心力による軸受荷重は、遊星歯車接線力の0.5倍である。ここでは遊星歯車の質量を大きくして、倍率を2.0倍まで上昇させた計算を行った。計算結果を図2に示す。
【0014】
図2より接線力に対する遠心力の倍率を1.0にすることで、保持器負荷を半減することができる。保持器負荷荷重に対する応力の低減により、保持器の耐久性を向上させ、ひいては遊星歯車装置の耐久性向上、メンテナンス部品交換周期短縮が可能になる。また、保持器に過大な強度を持たせる必要がなくなるので、収容できる球面ころ本数は多くなり、負荷容量を維持したままの軸受サイズ縮小が可能になる。結果的に、遊星歯車装置全体のサイズ、質量を維持、あるいは縮小しつつ、保持器強度を向上させることが可能になる。更に好ましくは倍率を1.5倍以上にすることで、保持器負荷荷重を限界まで低減することが可能であるとわかる。以降の実施形態に示す方法をいくつか併用して実現するのが望ましい。
【0015】
図3は、本発明に係る遊星歯車装置1の第1実施形態の一部断面図である。図3の遊星歯車装置1は、図7の従来の遊星歯車装置に比べて、遊星歯車2径方向の厚みを厚くすることにより質量を増し、遠心力を増大させ、接線力に対する遠心力の倍率を1.0以上にしている。
【0016】
図4は、本発明に係る遊星歯車装置1の第2実施形態の一部断面図である。自動調心ころ軸受3は軸の傾きを拘束しないため、通常は2個以上の軸受を組み合わせて使用し、2個の自動調心ころ軸受の間に間座4を使用する。図4の遊星歯車装置1は、図7の従来の遊星歯車装置に比べて、間座4の径方向の厚みを厚くすることにより質量を増し、遠心力を増大させ、接線力に対する遠心力の倍率を1.0以上にしている。なお、間座4厚みは、軸と接触せず、組立性や潤滑油流通性などの諸機能を損なわない範囲で実施するのが望ましい。
【0017】
図5は、本発明に係る遊星歯車装置1の第3実施形態の一部断面図である。図5の遊星歯車装置1は、図7の従来の遊星歯車装置に比べて、自動調心ころ軸受3の外輪3aの径方向の厚みを厚くすることにより質量を増し、遠心力を増大させ、接線力に対する遠心力の倍率を1.0以上にしている。
【0018】
図6は、本発明に係る遊星歯車装置1の第4実施形態の一部断面図である。図6の遊星歯車装置1は、図7の従来の遊星歯車装置に比べて、質量の大きい付属物5をボルト6にて固定して質量を増し、遠心力を増大させ、接線力に対する遠心力の倍率を1.0以上にしている。
【0019】
上述の実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。本発明の主旨を外れない限り、他の実施形態にも適用出来る。
【符号の説明】
【0020】
1 遊星歯車装置
2 遊星歯車
3 自動調心ころ軸受
3a 外輪
4 間座
5 付属物
6 ボルト
A 遊星歯車の自転方向
B 遊星歯車装置の公転方向
C 遊星歯車装置に作用する遠心力
D 遊星歯車の接線荷重

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動調心ころ軸受で自転を回転支持する遊星歯車装置において、運転中に遊星歯車装置が公転によって受ける遠心力が、遊星歯車の接線荷重の1.0倍以上になるような質量を遊星歯車装置が持つことを特徴とする遊星歯車装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−113380(P2013−113380A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260356(P2011−260356)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】