説明

遊離残留塩素測定用試薬

【課題】
本発明は、一剤で、しかも優れた経時的安定性を有する遊離残留塩素測定用試薬を提供することを目的とする。
【解決手段】
ジエチル−p−フェニレンジアミン硫酸塩を0.8〜1.5重量%、キレート化剤を0.1〜0.5重量%含有し、さらに所定量の水に溶解させたときに溶液のpHが6.0〜7.0の範囲の緩衝液になるように構成された燐酸系緩衝剤、及び賦形剤を含有する固体混合物であることを特徴とする遊離残留塩素測定用試薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水に含まれる遊離残留塩素測定用試薬に関し、安定にかつ簡便な遊離残留塩素測定方法に用いられる試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、プール水、水道水、用水、排水及びその他の水は目的に応じて塩素剤にて殺菌されており、種々の段階で遊離残留塩素の測定が行なわれている。ジエチル−p−フェニレンジアミン硫酸塩(以下、場合により、「DPD」と略称する)を発色剤とし、緩衝液を組み合わせたDPD法は簡便な遊離残留塩素の測定方法として採用されている(特許文献1、2参照)。
【0003】
しかし、従来のDPD法では、遊離残留塩素とDPDによる発色濃度がpHに影響を受けるため緩衝剤が必要であり、そのため発色剤と緩衝剤の二剤が用いられていたが、操作が煩雑になるという問題があった。従って、煩雑な調製することなく、被測定物に測定試薬を添加するだけで残留塩素濃度が測定できる試薬が望まれていたが、発色剤と緩衝剤を混合して一剤とした場合には、経時的な安定性が悪く、試薬が着色して正確な測定ができないという問題があった。
【特許文献1】特開2000−214153号公報
【特許文献2】特開2001−179264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、一剤で、しかも優れた経時的安定性を有する遊離残留塩素測定用試薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、燐酸緩衝液を構成する各成分の粒度及びDPD発色試薬との混合比率を適当に組み合わせることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明は、
(1)ジエチル−p−フェニレンジアミン硫酸塩を0.8〜1.5重量%、キレート化剤を0.1〜0.5重量%含有し、さらに所定量の水に溶解させたときに溶液のpHが6.0〜7.0の範囲の緩衝液になるように構成された燐酸系緩衝剤、及び、賦形剤を含有する固体混合物であることを特徴とする遊離残留塩素測定用試薬、
(2)ジエチル−p−フェニレンジアミン硫酸塩を1.0〜1.3重量%含有することを特徴とする(1)に記載の遊離残留塩素測定用試薬、
(3)キレート化剤が、トランス−1,2−シクロヘキサンジアミン四酢酸であることを特徴とする(1)または(2)に記載の遊離残留塩素測定用試薬、
(4)燐酸系緩衝剤が、リン酸水素二ナトリウム及びリン酸二水素カリウムからなることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の遊離残留塩素測定用試薬、
(5)燐酸水素二ナトリウムと燐酸二水素カリウムが粒度のほぼ等しい粉末であることを特徴とする(4)に記載の遊離残留塩素測定用試薬、
(6)賦形剤が、硫酸ナトリウムであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の遊離残留塩素測定用試薬、並びに、
(7)包装体に分包されてなる(1)〜(6)のいずれかに記載の遊離残留塩素測定用試薬、
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の遊離残留塩素測定用試薬は、一剤で測定可能であり、経時変化などで着色しないので、従来に比して、容易に残留塩素を測定することができ、産業上の利用価値は高いといえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の遊離残留塩素測定用試薬は、各成分の化合物を採用するに当たり、入手可能な工業用薬剤を用いることができ、これら工業用薬剤は、種々の許容できる不純物例えば結晶水などを含有しているが、これら不可避不純物の含有量は5%以内が望ましく、さらに結晶水等の水分はなるべく混入しない方が好ましい。例えば、燐酸緩衝液構成化合物として用いる燐酸水素二ナトリウム、賦形剤として用いられる硫酸ナトリウム等は、無水物を用いるのが好ましい。
【0009】
本発明の遊離残留塩素測定用試薬に用いられるDPDは、顆粒状でも、粉末状でもその形状は特に限定されないが、溶解性、発色性を向上させるために微粉末状が好ましい。DPDは、市販されている試薬をそのまま使用することができるが、発色の精度、試薬の安定性等を考慮した場合には、なるべく純度の高い試薬特級を用いるのが好ましい。用いる量は、0.8〜1.5重量%の範囲が好ましく、1.1〜1.3重量%の範囲がより好ましい。0.8重量%以下では、充分な発色が得られず、1.5重量%以上では、発色程度に差は見られず経済性も悪くなり、発色が悪くなる場合もある。
【0010】
本発明の遊離残留塩素測定用試薬に用いられるキレート化剤は、塩素イオン以外の夾雑イオンによる影響を抑えDPDの塩素イオンによる発色を安定させる効果があるキレート化剤であれば特に制限されない。具体的には、エチレンジアミン四酢酸等のアミノカルボン酸類又はその塩、クエン酸等のオキシカルボン酸類、縮合燐酸類等を例示することができる。なかでも、アミノカルボン酸類が好ましく、1,2−トランス−シクロヘキサンジアミン四酢酸(以下、「CyDTA」という場合がある)を特に好ましく用いることができる。キレート化剤の量は、DPDの発色に影響しない量であれば特に制限されず、具体的には0.1〜0.5重量%の範囲が好ましい。0.1重量%以下では、他の金属イオンの影響を排除することができず、0.5重量%以上ではその効果に大きな差はなく、経済的に好ましい。
【0011】
本発明の遊離残留塩素測定用試薬においては、固形混合物を検体である塩素含有溶液に溶解させたときに、DPDの発色を安定させるために、その溶液のpHを6.0〜7.0の範囲にするために、溶液状態で緩衝溶液となる固形成分を含有させたことを特徴とする。pHの範囲は上記範囲であれば、特に制限されないが、6.2〜6.5の範囲であるのが好ましい。
【0012】
用いる緩衝剤は、pHを上記範囲に制御できる燐酸系のものであれば特に制限されず、具体的には、リン酸二水素カリウム−四ホウ酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム−リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム−クエン酸、ホウ酸−クエン酸−リン酸三ナトリウム等の組み合わせを例示することができる。特に、リン酸二水素カリウム−リン酸水素二ナトリウムの組み合わせを用いるのが好ましい。
【0013】
用いるリン酸二水素カリウム−リン酸水素二ナトリウムの性状は、特に制限されないが、すばやく水に溶解させるため粉末状が好ましい。粒度は特に制限されないが、30メッシュ以上が好ましい。また、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウムの溶解速度を同等にするため、両者の粒度をほぼ同等にするのが好ましい。
【0014】
また、本発明の遊離残留塩素測定用試薬は、取扱いを容易にするため、またはDPDの経時安定性を向上させるために、賦形剤を含有することを特徴とする。賦形剤は、DPDの発色に影響を及ぼさない化合物であれば特に制限されないが、具体的には硫酸ナトリウム等を例示することができる。用いる量は、最終的に得られた固形混合物の取扱い等が容易になる範囲であれば特に制限はされず、使用方法等によって適宜選択することができる。また、水分の影響を少なくするため、なるべく無水の化合物を用いるのが好ましい。
【0015】
本発明の遊離残留塩素測定用試薬は、各成分を通常の方法で混合することにより製造することができ、例えば、各成分を粉末状にして混合し、または各成分を混合してから粉状に粉砕して製造することができる。
得られた試薬は、例えば、0.2gごとにアルミ箔と樹脂箔を張り合わせた機密性の包装袋に分包することができる。
【0016】
本発明の遊離残留塩素測定用試薬を使用するに当っては、例えば、10mlの検水に本発明の遊離残留塩素測定用試薬を約0.2g入れて溶解し、比色計などで標準色と比色して遊離残留塩素濃度を求める。
【実施例】
【0017】
以下実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【0018】
(実施例1)
DPD(和光純薬社製、試薬特級)1.2g、リン酸水素二ナトリウム6.0g、リン酸二水素カリウム11.5g、CyDTA0.3g、無水硫酸ナトリウム81.0gを混合粉砕し粉末状の遊離残留塩素測定用試薬100gを得た。リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウムは、40メッシュの粉末を用いた。この試薬を0.2gごとにアルミ箔と樹脂箔を張り合わせた機密性の包装袋に分包した。
【0019】
検水として水道水10mlに上記で得られた遊離残留塩素測定用試薬の一包を添加した。発色後直ちに標準色と比色して色調の濃度から遊離残留塩素量を測定した。残留塩素濃度は0.7ppmであった。この測定結果は、実用されている二剤法による測定結果と一致した。
【0020】
また、上記で得られた遊離残留塩素測定用試薬の100包を40℃にて1ヶ月保持した。その後、開封して外観を観察したところわずかに灰白色を呈していた。更に、これを前記と同様に水道水の遊離残留塩素測定に使用した結果、実用されている二剤法による測定結果と一致し、本発明の遊離残留塩素測定用試薬は遊離残留塩素測定試薬として支障がないことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエチル−p−フェニレンジアミン硫酸塩を0.8〜1.5重量%、キレート化剤を0.1〜0.5重量%含有し、さらに所定量の水に溶解させたときに溶液のpHが6.0〜7.0の範囲の緩衝液になるように構成された燐酸系緩衝剤、及び、賦形剤を含有する固体混合物であることを特徴とする遊離残留塩素測定用試薬。
【請求項2】
ジエチル−p−フェニレンジアミン硫酸塩を1.0〜1.3重量%含有することを特徴とする請求項1に記載の遊離残留塩素測定用試薬。
【請求項3】
キレート化剤が、トランス−1,2−シクロヘキサンジアミン四酢酸であることを特徴とする請求項1または2に記載の遊離残留塩素測定用試薬。
【請求項4】
燐酸系緩衝剤が、リン酸水素二ナトリウム及びリン酸二水素カリウムからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の遊離残留塩素測定用試薬。
【請求項5】
燐酸水素二ナトリウムと燐酸二水素カリウムが粒度のほぼ等しい粉末であることを特徴とする請求項4に記載の遊離残留塩素測定用試薬。
【請求項6】
賦形剤が、硫酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の遊離残留塩素測定用試薬。
【請求項7】
包装袋に分包されてなる請求項1〜6のいずれかに記載の遊離残留塩素測定用試薬。

【公開番号】特開2008−233108(P2008−233108A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−157004(P2008−157004)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【分割の表示】特願2002−248977(P2002−248977)の分割
【原出願日】平成14年8月28日(2002.8.28)
【出願人】(592155304)新富士化成薬株式会社 (1)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】