運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法及び評価用キット、並びに、物質のスクリーニング方法
【課題】被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価する方法等を提供する。
【解決手段】被験物質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物から採取した体液における7種のマーカー物質の少なくとも1つの濃度を基準値と比較することにより、前記被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価する。マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体にマーカー物質を捕捉して、体液中のマーカー物質の濃度を算出する構成が推奨される。該評価方法を用いる物質のスクリーニング方法、該評価方法を簡便に行うことができるキットも提供される。
【解決手段】被験物質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物から採取した体液における7種のマーカー物質の少なくとも1つの濃度を基準値と比較することにより、前記被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価する。マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体にマーカー物質を捕捉して、体液中のマーカー物質の濃度を算出する構成が推奨される。該評価方法を用いる物質のスクリーニング方法、該評価方法を簡便に行うことができるキットも提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法及び評価用キット、並びに、物質のスクリーニング方法に関し、さらに詳細には、被験物質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物から採取した体液におけるマーカー物質の濃度を基準値と比較し、被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価する運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法、当該方法に用いる評価用キット、並びに、当該方法を用いて所望の運動機能の向上・維持・回復効果を有する物質をスクリーニングする物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の健康志向の増大に伴い、運動に対する関心が高まっている。継続的・習慣的な運動が疾病予防や健康維持に有用であることは、経験的に明らかである。また、運動機能に関係する食品素材としてホエイタンパク質(whey protein)が知られており、ホエイタンパク質を含有する筋強化剤や筋肉疲労改善剤が開発されている(特許文献1,2)。
【0003】
ホエイタンパク質と運動機能との関係については、動物を用いて科学的に調べられている。例えば非特許文献1には、ホエイタンパク質の摂取はカゼイン摂取、大豆タンパク質摂取に比べてトレッドミル運動負荷ラットの肝臓グリコーゲン含量を有意に増加させた旨が記載されている。また、そのメカニズムとして、グリコーゲン構成に関わる糖転移酵素の変動の可能性が示唆されている。また非特許文献2には、ホエイタンパク質を摂取させたラットはカゼインを摂取させたラットに比べて、水泳運動負荷ラットの肝臓及び筋肉中のグリコーゲン含量を有意に増加させた旨が記載されている。さらに非特許文献3には、ホエイタンパク質を摂取させたラットはカゼインを摂取させたラットに比べて、水泳運動負荷ラットの肝臓及び筋肉における脂肪酸合成を促進させた旨が記載されている。これらの結果は、ホエイタンパク質の摂取と継続的な運動とを組み合わせが、より高い運動機能の向上効果や維持・回復効果を生じさせることを示している。すなわち、運動負荷をかけると共にホエイタンパク質を摂取させた動物においては、運動機能(運動能力、運動パフォーマンス等)が特に高い状態となる。
【0004】
一方、運動機能と相関する体液中のマーカー物質に関する報告は見当たらず、ホエイタンパク質のような物質の摂取と継続的な運動との組み合わせによりもたらされる運動機能の変動(向上、維持、回復など)を反映するマーカー物質についても知られていない。もしそのようなマーカー物質が特定されれば、ホエイタンパク質と同様の作用を有する物質のスクリーニング等に有用である。
【0005】
【特許文献1】特開2002−65212号公報
【特許文献2】特開2004−182630号公報
【非特許文献1】モリフジ(Morifuji)ら,エクスペリメンタル・バイオロジー・アンド・メディシン(Experimental Biology and Medicine),2004年,第230巻,第1号,p23−30
【非特許文献2】モリフジ(Morifuji)ら,ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ニュートリション(British Journal of Nutrition),2005年,第93巻,第1号,p439−445
【非特許文献3】モリフジ(Morifuji)ら,ニュートリション(Nutrition),2005年,第21巻,第10号,p1052−1058
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、運動機能や筋肉の状態を反映するマーカー物質を特定し、該マーカー物質を指標とした運動機能の向上効果や維持・回復効果を有する物質のスクリーニングに有用な一連の技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するための請求項1に記載の発明は、被験物質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物から採取した体液における下記マーカー物質(A1)〜(A7)の少なくとも1つの濃度を基準値と比較することにより、前記被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価することを特徴とする運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法である。
(A1)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約5280のイオンピークを生じるタンパク質、
(A2)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約6830のイオンピークを生じるタンパク質、
(A3)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約7010のイオンピークを生じるタンパク質、
(A4)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約7920のイオンピークを生じるタンパク質、
(A5)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約13700のイオンピークを生じるタンパク質、
(A6)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約13900のイオンピークを生じるタンパク質、
(A7)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約47100のイオンピークを生じるタンパク質。
【0008】
本発明は物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法に係るものであり、被験物質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物から採取した体液における上記マーカー物質(A1)〜(A7)の少なくとも1つの濃度を基準値と比較することにより、被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価するものである。上記マーカー物質(A1)〜(A7)は、運動負荷をかけると共にホエイタンパク質を摂取させた動物の体液中で有意に増減するタンパク質であり、継続的な運動とホエイタンパク質摂取との併用によってもたらされる運動機能(運動能力、運動パフォーマンス等)の変動(向上、維持、回復など)を反映するものである。本発明によれば、被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を容易かつ高精度に評価することができる。なお、「動物」には、マウス等の飼育可能な動物の他、ヒトも含むものとする。
【0009】
ここで「運動機能の向上効果」とは、正常レベルにある運動機能をさらに向上させる効果をいう。物質が有する運動機能の向上効果を評価することにより、例えば、運動機能のさらなる向上を目指すアスリートに適した食品素材等のスクリーニングを行うことができる。また「運動機能の維持効果」とは、運動機能の低下を抑えて正常レベルに維持しようとする効果をいう。物質が有する運動機能の維持効果を評価することにより、例えば、運動機能の低下を予防したい高齢者に適した食品素材等のスクリーニングを行うことができる。また「運動機能の回復効果」とは、低下した運動機能を正常レベルに戻そうとする効果をいう。物質が有する運動機能の回復効果を評価することにより、例えば、リハビリテーションによって運動機能の回復を目指す負傷者に適した食品素材等のスクリーニングを行うことができる。そして「運動機能の向上・維持・回復効果」とは、運動機能の向上効果、維持効果、及び回復効果のうちの少なくとも1つの効果を指すものとする。
【0010】
ここで、各マーカー物質における質量/電荷比(以下、「m/z」と略記することもある。)の「約5280」、「約13700」、「約47100」等の値は、質量分析における測定値の誤差範囲を考慮した値であり、概ね±0.2%の幅を有する。すなわち、約5280は概ね5280±0.2%、約13700は概ね13700±0.2%、約647100は概ね47100±0.2%を表す。他の質量/電荷比についても全く同様に、概ね±0.2%の幅を有する。また、これらのマーカー物質はいずれも主に血液中に存在するタンパク質である。被験物質が運動機能の向上・維持・回復効果を有する場合、動物の体液中のマーカー物質(A1)、(A4)、及び(A7)の濃度はより高値を示し、(A2)、(A3)、(A5)、及び(A6)の濃度はより低値を示す。
【0011】
請求項2に記載の発明は、下記(1)〜(5)の少なくとも1つを満たすことを特徴とする請求項1に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法である。
(1)マーカー物質(A3)はアポリポタンパク質C1又はその修飾体である、
(2)マーカー物質(A4)はアポリポタンパク質A2又はその修飾体である、
(3)マーカー物質(A5)はトランスサイレチン又はその修飾体である、
(4)マーカー物質(A6)はトランスサイレチン又はその修飾体である、
(5)マーカー物質(A7)はβ2−グリコプロテイン1又はその修飾体である。
【0012】
アポリポタンパク質C1、アポリポタンパク質A2、トランスサイレチン、及びβ2−グリコプロテイン1はいずれも物理化学的性質がよく知られているので、本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法によればマーカー物質(A3)、(A4)、(A5)、(A6)、(A7)の解析が容易である。
【0013】
「タンパク質の修飾体」の代表例は、当該タンパク質を構成するアミノ酸残基の少なくとも1つが修飾されたタンパク質である。「修飾」には化合物や官能基の付加(例:リン酸化)のみならず、脱離(例:脱リン酸化)も含まれる。また「タンパク質又はその修飾体」には、当該タンパク質のアイソフォームが含まれる。さらに「タンパク質又はその修飾体」には、当該タンパク質の1次構造において数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたような実質的に同一のタンパク質が含まれる。またさらに、「タンパク質又はその修飾体」には、プロテアーゼによる切断を受けた当該タンパク質由来のタンパク質断片が含まれる。なお、複合体タンパク質の場合には「タンパク質又はその修飾体」にはそのサブユニットも含まれるものとする。
【0014】
同様の課題を解決するための請求項3に記載の発明は、被験物質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物から採取した体液における下記マーカー物質(B1)〜(B4)のいずれかに属する少なくとも1つの濃度を基準値と比較することにより、前記被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価することを特徴とする運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法である。
(B1)アポリポタンパク質C1又はその修飾体、
(B2)アポリポタンパク質A2又はその修飾体、
(B3)トランスサイレチン又はその修飾体、
(B4)β2−グリコプロテイン1又はその修飾体。
【0015】
本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法は、被験物質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物から採取した体液における上記マーカー物質(B1)〜(B4)のいずれかに属する少なくとも1つの濃度を基準値と比較することにより、被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価するものである。上記マーカー物質(B1)〜(B4)は、ホエイタンパク質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物の体液中で有意に増減するタンパク質であり、継続的な運動とホエイタンパク質摂取との併用によってもたらされる運動機能(運動能力、運動パフォーマンス等)の変動(向上、維持、回復など)を反映するものである。本発明によれば、被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を容易かつ高精度に評価することができる。さらに、アポリポタンパク質C1、アポリポタンパク質A2、トランスサイレチン、及びβ2−グリコプロテイン1はいずれも物理化学的性質がよく知られているので、解析が容易である。なお本発明においても、「動物」には、マウス等の飼育可能な動物の他、ヒトも含むものとする。
【0016】
(B1)〜(B4)に属するマーカー物質は、いずれも主に血液中に存在する。被験物質がホエイタンパク質と同様の運動機能の向上・維持・回復効果を有する場合、動物の体液中のマーカー物質(B2)及び(B5)の濃度はより高値を示し、(B1)、(B3)、及び(B4)の濃度はより低値を示す。
【0017】
本発明においても「タンパク質の修飾体」の代表例は、当該タンパク質を構成するアミノ酸残基の少なくとも1つが修飾されたタンパク質であり、「修飾」には化合物や官能基の付加のみならず、脱離も含まれる。また「タンパク質又はその修飾体」には、当該タンパク質のアイソフォーム、当該タンパク質の1次構造において数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたような実質的に同一のタンパク質、並びに、プロテアーゼによる切断を受けた当該タンパク質由来のタンパク質断片が含まれる。さらに、複合体タンパク質の場合には「タンパク質又はその修飾体」にはそのサブユニットも含まれるものとする。
【0018】
請求項4に記載の発明は、前記基準値は、下記(I)及び/又は(II)であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法である。
(I)前記被験物質を摂取させずに運動負荷をかけた動物から採取した体液における前記マーカー物質の濃度、
(II)運動負荷をかけずに前記被験物質を摂取させた動物から採取した体液における前記マーカー物質の濃度。
【0019】
かかる構成により、被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を、より容易かつ高精度に評価することができる。
【0020】
請求項5に記載の発明は、前記体液は、血液であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法である。
【0021】
かかる構成により、測定試料となる体液を簡単に採取でき、より簡便かつ迅速に、被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価することができる。
【0022】
請求項6に記載の発明は、前記被験物質は、食品素材であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法である。
【0023】
かかる構成により、機能性食品の開発を目的として、被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価することができる。
【0024】
請求項7に記載の発明は、前記体液又は体液成分を、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体に接触させて、体液中の前記マーカー物質を担体上に捕捉し、捕捉された前記マーカー物質の量に基づいて体液中の前記マーカー物質の濃度を算出することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法である。
【0025】
本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法においては、マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を使用する。そして、該担体に体液又は体液成分を接触させて、体液又は体液成分に含まれるマーカー物質を、マーカー物質に対する親和性を有する物質を介して担体上に捕捉し、捕捉されたマーカー物質の量に基づいて体液中のマーカー物質の濃度を算出する。本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法によれば、担体上に捕捉されたマーカー物質を測定対象とするので、測定試料中に含まれる夾雑物質の影響を低減させることができ、より高感度かつ高精度でマーカー物質の濃度を測定することができる。なお、体液成分の例としては、体液が血液である場合の血清又は血漿が挙げられる。
【0026】
請求項8に記載の発明は、前記担体は平面部分を有し、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、該平面部分の一部に固定化されていることを特徴とする請求項7に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法である。
【0027】
本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法では、平面部分を有する担体を用い、マーカー物質に対する親和性を有する物質は該平面部分の一部に固定化されている。かかる構成により、マーカー物質に対する親和性を有する物質を、担体上の複数箇所にスポット的に固定化することができる。その結果、1個の担体で複数の測定試料を同時処理することや、1個の担体で複数のマーカー物質の濃度を同時測定することが可能となり、作業効率がよい。さらに、各スポットの面積を小さくすることにより、微量の測定試料からでもマーカー物質の濃度を測定することができる。なお、平面部分を有する担体の例としては、チップ等の基板が挙げられる。
【0028】
請求項9に記載の発明は、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、イオン交換体又は抗体であることを特徴とする請求項7又は8に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法である。
【0029】
本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法においては、マーカー物質に対する親和性を有する物質としてイオン交換体又は抗体を用い、イオン交換体又は抗体を介して測定試料中のマーカー物質を担体上に捕捉する。当該物質がイオン交換体の場合は各種のものが入手容易であり、マーカー物質を捕捉するための担体を容易に調製することができる。また、当該物質が抗体の場合は、より特異的にマーカー物質を捕捉することができる。捕捉されたマーカー物質の量を測定する方法としては、質量分析、イムノアッセイ(抗体の場合)が挙げられる。
【0030】
請求項10に記載の発明は、請求項1〜9のいずれか1項に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法によって被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価し、当該評価結果に基づいて所望の運動機能の向上・維持・回復効果を有する物質をスクリーニングすることを特徴とする物質のスクリーニング方法である。
【0031】
本発明は物質のスクリーニング方法にかかり、動物の体液中における上記(A1)〜(A7)の各マーカー物質および上記(B1)〜(B5)に属する各マーカー物質の少なくとも1つの濃度を基準値と比較し、所望の運動機能の向上・維持・回復効果を有する物質をスクリーニングするものである。上記(A1)〜(A7)の各マーカー物質および上記(B1)〜(B5)に属する各マーカー物質は、いずれもホエイタンパク質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物の体液中で有意に増減するタンパク質であり、継続的な運動とホエイタンパク質摂取との併用によってもたらされる運動機能(運動能力、運動パフォーマンス等)の変動(向上、維持、回復など)を反映するものである。本発明の物質のスクリーニング方法によれば、所望の運動機能の向上・維持・回復効果を有する物質を、容易かつ高精度にスクリーニングすることができる。特に、被験物質が食品素材の場合は、運動機能の向上・維持・回復効果を有する機能性食品の開発に有用な食品素材をスクリーニングすることができる。
【0032】
請求項11に記載の発明は、請求項1〜9のいずれか1項に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法に用いるためのキットであって、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含むことを特徴とする運動機能の向上・維持・回復効果の評価用キットである。
【0033】
本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価用キットは、マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含む。かかる構成により、マーカー物質の濃度測定に際して当該担体を別途用意する必要がなく、きわめて簡便にマーカー物質の濃度を測定することができる。
【0034】
請求項12に記載の発明は、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、イオン交換体であることを特徴とする請求項11に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価用キットである。
【0035】
かかる構成により、マーカー物質をより確実に担体上に捕捉することができる。
【0036】
運動機能の向上・維持・回復効果を有する物質をスクリーニングするために使用される構成が推奨される(請求項13)。
【発明の効果】
【0037】
本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法によれば、被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を容易かつ高精度に評価することができる。
【0038】
本発明の物質のスクリーニング方法によれば、所望の運動機能の向上・維持・回復効果を有する物質を容易かつ高精度にスクリーニングすることができる。
【0039】
本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価用キットによれば、マーカー物質の濃度測定に際して当該担体を別途用意する必要がなく、きわめて簡便にマーカー物質の濃度を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0041】
本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法は2つの様相を含む。1つの様相では、運動負荷をかけると共に被験物質を摂取させた動物から採取した体液における下記マーカー物質(A1)〜(A7)の少なくとも1つの濃度を基準値と比較することにより、前記被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価する。
(A1)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約5280のイオンピークを生じるタンパク質、
(A2)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約6830のイオンピークを生じるタンパク質、
(A3)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約7010のイオンピークを生じるタンパク質、
(A4)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約7920のイオンピークを生じるタンパク質、
(A5)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約13700のイオンピークを生じるタンパク質、
(A6)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約13900のイオンピークを生じるタンパク質、
(A7)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約47100のイオンピークを生じるタンパク質。
【0042】
これらのマーカー物質はいずれも主に血液中に存在するタンパク質であり、ホエイタンパク質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物の体液中で有意に増減し、継続的な運動とホエイタンパク質摂取との併用によってもたらされる運動機能(運動能力、運動パフォーマンス等)の変動(向上、維持、回復など)を反映するものである。被験物質がホエイタンパク質と同様の運動機能の向上・維持・回復効果を有する場合、動物の体液中のマーカー物質(A1)、(A4)、及び(A7)(以下、これらのマーカー物質からなるグループを「グループ1」と称することがある。)の濃度はより高値を示し、(A2)、(A3)、(A5)、及び(A6)(以下、これらのマーカー物質からなるグループを「グループ2」と称することがある。)の濃度はより低値を示す。
【0043】
ある条件のペプチドマッピングによれば、マーカー物質(A3)、(A4)、及び(A7)は、それぞれアポリポタンパク質C1、アポリポタンパク質A2、及びβ2−グリコプロテイン1と同定され得る。また、マーカー物質(A5)と(A6)は、いずれもトランスサイレチンに特異的な抗体に対する反応性を有する。すなわち、ある実施形態では、下記(1)〜(5)の少なくとも1つを満たす。
(1)マーカー物質(A3)はアポリポタンパク質C1又はその修飾体である、
(2)マーカー物質(A4)はアポリポタンパク質A2又はその修飾体である、
(3)マーカー物質(A5)はトランスサイレチン又はその修飾体である、
(4)マーカー物質(A6)はトランスサイレチン又はその修飾体である、
(5)マーカー物質(A7)はβ2−グリコプロテイン1又はその修飾体である。
【0044】
本発明の他の様相では、運動負荷をかけると共に被験物質を摂取させた動物から採取した体液における下記マーカー物質(B1)〜(B4)のいずれかに属する少なくとも1つの濃度を基準値と比較することにより、前記被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価する。
(B1)アポリポタンパク質C1又はその修飾体、
(B2)アポリポタンパク質A2又はその修飾体、
(B3)トランスサイレチン又はその修飾体、
(B4)β2−グリコプロテイン1又はその修飾体。
【0045】
タンパク質の修飾の例としては、N末端αアミノ基やリジンεアミノ基のメチル化、アセチル化、アデニリル化、ミリスチル化等;セリン・スレオニン・アスパラギンへの糖又は糖鎖の付加;セリン・スレオニン・チロシン・アルギニン・ヒスチジンのリン酸化;システインのシステイニル化、ホモシステイニル化、スルホニル化等;グルタミン酸のγ−カルボキシル化;N末端グルタミン酸のピログルタミン酸への変換、等が挙げられる。また、これらの修飾の脱離(脱メチル化、糖又は糖鎖の脱離、脱リン酸化等)も「修飾」に含まれる。
【0046】
「タンパク質又はその修飾体」には、当該タンパク質のアイソフォームが含まれる。アイソフォームとしては、前記した各種の修飾の他、選択的スプライシングによって生じたタンパク質が挙げられる。さらに、「タンパク質又はその修飾体」には、当該タンパク質の1次構造において数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたような実質的に同一のタンパク質が含まれる。またさらに、「タンパク質又はその修飾体」には、プロテアーゼによる切断を受けた当該タンパク質由来のタンパク質断片が含まれる。例えば、当該タンパク質由来と認められうる長さのタンパク質断片、例えば20個以上のアミノ酸残基からなるタンパク質断片、分子量が2千以上のタンパク質断片、等が挙げられる。また、複合体タンパク質の場合には「タンパク質又はその修飾体」にはそのサブユニットも含まれるものとする。
【0047】
例えば、シグナル配列が切断された後のアポリポタンパク質C1(配列番号1,マウス由来)のN末端アミノ酸配列は「Ala−Pro」から始まるが、これら2つのアミノ酸は切断され得ることが報告されている(Oleg Chertov et al., Proteomics, Vol. 4, No. 4, 2004)。このようなN末端の2アミノ酸が欠損したアポリポタンパク質C1の断片は「アポリポタンパク質C1の修飾体」に含まれる。
【0048】
同様に、シグナル配列が切断された後のアポリポタンパク質A2(配列番号2,マウス由来)は78アミノ酸からなるが、これのN末端側70アミノ酸(配列番号3)からなるタンパク質断片は「アポリポタンパク質A2の修飾体」に含まれる。
【0049】
トランスサイレチン(transthyretin;プレアルブミンとも呼ばれる)は血漿タンパク質の一種であり、分子量約1万4千のサブユニット4個からなる複合タンパク質である。マウス由来およびヒト由来のトランスサイレチンのアミノ酸配列は、それぞれ配列番号4と5に示すとおりであり、システイン残基を1つ有している。この唯一のシステイン残基のチオール基(−SH)は修飾可能であり、システイン残基への修飾の種類が異なる複数種のトランスサイレチンの修飾体が知られている(例えば、リム(Lim)ら,ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(Journal of Biological Chemistry),2003年,第278巻,p49707−49713;リム(Lim)ら,プロテイン・サイエンス(Protein Science),2003年,第12巻,p1775−1785;ゲリック(Gericke)ら,ビー・エム・シー・キャンサー(BMC Cancer),2005年,5:133)。具体的には、システイン残基にスルホン基、システイン、ホモシステイン、システイニルグリシン、又はグルタチオンが付加されたトランスサイレチンの修飾体が知られている。例えばこれらのトランスサイレチンの修飾体が本発明におけるマーカー物質になり得る。なお、本明細書においてはトランスサイレチンのサブユニットについても単に「トランスサイレチン」と呼ぶこととし、複合体とサブユニットとを特に区別しない。
【0050】
β2−グリコプロテイン1(β2-glycoprotein1;アポリポタンパク質Hとも呼ばれる)についても、その修飾体には上記で例示した各修飾体が含まれる。マウス由来のβ2−グリコプロテイン1のアミノ酸配列を配列番号6に示す。
【0051】
本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法では、(A1)〜(A7)の各マーカー物質並びに(B1)〜(B5)に属する書くマーカー物質の1つだけを用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
動物に運動負荷をかける方法としては、通常の生活で行われる運動以上の負荷がかけられる方法であれば特に限定はなく、例えば、トレッドミルを用いることができる。運動負荷をかける時間や頻度についても特に限定はなく、負荷の内容等によって適宜選択すればよい。例えば、1回あたり数分〜数十分の運動負荷を1日に1回以上与え、これを1週間あたり5日以上実施することが挙げられる。
【0053】
本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法では、動物の体液におけるマーカー物質の濃度を基準値と比較する。好ましい実施形態では、当該基準値が下記(I)及び/又は(II)である。
(I)前記被験物質を摂取させずに運動負荷をかけた動物から採取した体液における前記マーカー物質の濃度、
(II)運動負荷をかけずに前記被験物質を摂取させた動物から採取した体液における前記マーカー物質の濃度。
被験物質が運動機能の向上・維持・回復効果を有する場合、動物の体液におけるグループ1に属するマーカー物質の濃度は(I)、(II)より高い値を示し、グループ2に属するマーカー物質の濃度は(I)、(II)より低い値を示す。なお(I)と(II)の基準値はどちらか一方のみを使用してもよいし、併用してもよい。
【0054】
基準値は予め設定することもできる。例えば、運動機能の向上・維持・回復効果を有する既知物質(例えば、ホエイタンパク質)を用いて事前に動物実験を行い、その蓄積されたデータを元にマーカー物質ごとの基準値(固定値)を決定することができる。すなわち、各種の臨床検査で設定されている基準値(カットオフ値など)と同様の取り扱いが可能である。
【0055】
本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法において使用する動物としては特に限定はなく、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ブタ等を採用することができる。
【0056】
本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法において使用する動物の体液としては、血液が好ましく用いられる。特に、血液から調製した血清又は血漿(体液成分)を測定試料とすることが好ましい。血清又は血漿は遠心分離等の公知の方法で血液から調製することができる。
【0057】
本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法における被験物質としては、食品素材、医薬原体などが挙げられる。特に、食品素材を評価対象とする場合は、機能性食品の開発に役立てることができる。
【0058】
本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法において、マーカー物質の濃度を測定する方法は、そのマーカー物質の濃度を特異的に測定できる方法であれば、タンパク質の定量に一般に用いられている方法をそのまま用いることができる。例えば、各種のイムノアッセイ、質量分析(MS)、クロマトグラフィー、電気泳動等を用いることができる。
【0059】
イムノアッセイによれば、夾雑物質の多い試料のままでも正確にマーカー物質の濃度を測定することができる。イムノアッセイの例としては、抗原抗体結合物を直接的又は間接的に測定する沈降反応、凝集反応、溶血反応などの古典的な方法や、標識法と組み合わせて検出感度を高めたエンザイムイムノアッセイ(EIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)等の方法が挙げられる。なお、これらのイムノアッセイに用いるマーカー物質に特異的な抗体は、モノクローナルでもよいし、ポリクローナルでもよい。
【0060】
質量分析によれば、各マーカー物質由来のイオンピークを特定し、そのイオンピーク強度をもって各マーカー物質の量(濃度)を測定することができる。質量分析によってマーカー物質の濃度を測定する場合のイオン化の方法としては、マトリクス支援レーザーイオン化(matrix-assisted laser desorption/ionization、MALDI)、エレクトロスプレーイオン化(electrospray ionization、ESI)のいずれも適用可能であるが、多価イオンの生成が少ないMALDIが好ましい。特に、飛行時間質量分析計(time-of-flight mass spectrometer、TOF)と組み合わせたMALDI−TOF−MSによれば、より正確にマーカー物質由来のイオンピークを特定することができる。
【0061】
電気泳動によりマーカー物質の濃度を測定する場合は、例えば、検査材料をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)に供して目的のマーカー物質を分離し、適宜の色素や蛍光物質でゲルを染色し、目的のマーカー物質に相当するバンドの濃さや蛍光強度を測定すればよい。SDS−PAGEだけではマーカー物質の分離が不十分な場合は、等電点電気泳動(IEF)と組み合わせた2次元電気泳動を用いることもできる。さらに、ゲルから直接検出するのではなく、ウエスタンブロッティングを行って膜上のマーカー物質の量を測定することもできる。
【0062】
クロマトグラフィーによってマーカー物質の濃度を測定する場合は、例えば、液体高速クロマトグラフィー(HPLC)による方法を用いることができる。すなわち、試料をHPLCに供して目的のマーカー物質を分離し、そのクロマトグラムのピーク面積を測定することにより試料中のマーカー物質の濃度を測定することができる。
【0063】
好ましい実施形態では、マーカー物質を担体上に捕捉し、その捕捉されたマーカー物質を測定対象とする。すなわち、マーカー物質に対する親和性を有する物質を担体に固定化し、その親和性を有する物質を介してマーカー物質を担体上に捕捉する。そして、捕捉された前記マーカー物質の量に基づいて体液中の前記マーカー物質の濃度を算出する。本実施形態によれば、試料中に含まれる夾雑物質の影響を低減させることができ、より高感度かつ高精度でマーカー物質の濃度を測定することができる。本実施形態において用いることができる担体の例としては、ビーズ、金属、ガラス、樹脂等のような一般的なものの他、基板のような、平面部分を有する担体を用いることができる。基板を用いる場合は、その平面部分の一部にマーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化することが好ましい。例としては、基板としてチップを用い、その表面の複数箇所にスポット的にマーカー物質に親和性を有する物質を固定化した担体が挙げられる。なお「親和性」の例としては、イオン結合、金属キレート体とタンパク質中のヒスチジン残基等とのアフィニティ、抗原と抗体、酵素と基質、若しくはホルモンとレセプターのようなバイオアフィニティ、及び、疎水性相互作用のような化学的な相互作用、が挙げられる。
【0064】
イオン結合によってマーカー物質を担体に捕捉する場合は、イオン交換体を担体に固定化する。この場合、イオン交換体には陽イオン交換体、陰イオン交換体のいずれも用いることができ、さらに、強陽イオン交換体、弱陽イオン交換体、強陰イオン交換体、弱陰イオン交換体のいずれも用いることができるが、強陰イオン交換体と弱陽イオン交換体が好ましく用いられる。強陰イオン交換体の例としては、4級アンモニウム(トリメチルアミノメチル)(QA)、4級アミノエチル(ジエチル,モノ・2−ヒドロキシブチルアミノエチル)(QAE)、4級アンモニウム(トリメチルアンモニウム)(QMA)等の強陰イオン交換基を有するものが挙げられる。また、弱陽イオン交換体の例としては、カルボキシメチル(CM)等の弱陽イオン交換基を有するものが挙げられる。また、強陽イオン交換体の例としては、スルホプロピル(SP)等の強陽イオン交換基を有するものが挙げられる。さらに、弱陰イオン交換体の例としては、ジメチルアミノエチル(DE)、ジエチルアミノエチル(DEAE)等の弱陰イオン交換基を有するものが挙げられる。
【0065】
金属キレート体を介してマーカー物質を捕捉する場合は、例えば、Cu2+、Zn2+、Ni2+、Co2+、Al3+、Fe3+、Ga3+等の金属キレート体を固定化した担体を用いることができる。
【0066】
抗体によってマーカー物質を担体に捕捉する場合は、マーカー物質に特異的な抗体を担体に固定化すればよい。
【0067】
疎水性相互作用によってマーカー物質を担体に捕捉する場合は、担体に疎水基をもつ物質を固定化する。疎水基の例としては、C4〜C20のアルキル基、フェニル基等が挙げられる。
【0068】
本実施形態においてマーカー物質の測定方法にイムノアッセイを用いる場合は、抗体を固定化した担体を用いることが好ましい。このようにすれば、担体に固定化された抗体を1次抗体としたイムノアッセイの系を簡単に構築することができる。例えば、マーカー物質に特異的でエピトープの異なる2種類の抗体を用意し、一方を1次抗体として担体に固定化し、他方を2次抗体として酵素標識し、サンドイッチEIAの系を構築することができる。その他、結合阻止法や競合法によるイムノアッセイの系も構築可能である。さらに、担体として基板を用いる場合は、抗体チップによるイムノアッセイが可能である。抗体チップによれば、複数のマーカー物質の濃度を同時に測定でき、迅速な測定が可能である。
【0069】
一方、本実施形態において質量分析を用いる場合は、例えば、抗体の他、イオン交換体、金属キレート体又は疎水基を固定化した担体を用いることができる。なお、これらの物質による結合は抗原と抗体等のバイオアフィニティほどの特異性がないので、これらの物質を固定化した担体を用いる場合はマーカー物質以外の物質も担体上に捕捉されうるが、質量分析によれば分子量を反映した質量分析計スペクトルによって定量するので、問題はない。特に、担体として基板を用い、表面エンハンス型レーザー脱離イオン化(surface-enhanced laser desorption/ionization)−飛行時間質量分析(time-of-flight mass spectrometry)(以下、「SELDI−TOF−MS」と称する)を行うことにより、マーカー物質の濃度をより正確に測定することができる。使用できる基板の種類としては、陽イオン交換基板、陰イオン交換基板、順相基板、逆相基板、金属イオン基板、抗体基板等を用いることができるが、陽イオン交換基板、特に弱陽イオン交換基板と、陰イオン交換基板、特に強陰イオン交換基板が好ましく用いられる。
【0070】
本発明の物質のスクリーニング方法は、本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法によって被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価し、所望の運動機能の向上・維持・回復効果を有する物質をスクリーニングするものである。本発明の物質のスクリーニング方法においても、上記した本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法の実施形態と全く同様の実施形態をとることができる。
【0071】
本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法を簡便に行なうために、必要な試薬類をまとめて評価用キットを構築することができる。当該評価用キットとしては、例えば、マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含むものが挙げられる。特に、担体として、CM等の弱陽イオン交換体、あるいはQAやQAE等の強陰イオン交換体を固定化した基板を含めた評価用キットによれば、SELDI−TOF−MS等を簡便に行なうことができる。本キット中には他の試薬類、例えば、標準物質、前処理用の各種緩衝液等を含めてもよい。なお本キットは、所望の運動機能の向上・維持・回復効果を有する物質をスクリーニングするためのキットとしても使用できる。本発明のキットの構成例を以下に挙げる。
【0072】
〔キットの構成例〕
・弱陽イオン交換基板:1枚
・強陰イオン交換基板:1枚
・基板洗浄用バッファーA(pH3.0):適量
・基板洗浄用バッファーB(pH9.0):適量
・各マーカー物質の標準品:各適量
【0073】
以下に、本発明によって被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価する具体的手順の一例を挙げる。この例では、4群のマウスを用い、体液として血液、マーカー物質の測定にSELDI−TOF−MSを採用する。
【0074】
マウスを4群に分け、以下の条件で飼育する。
第1群(SC):運動負荷なし(S)+対照食摂取(C)
第2群(TC):運動負荷あり(T)+対照食摂取(C)
第3群(TP):運動負荷あり(T)+被験物質含有食摂取(P)
第4群(SP):運動負荷なし(S)+被験物質含有食摂取(P)
対照食は運動機能の向上・維持・回復効果を有する物質(例えば、ホエイタンパク質)を一切含まず、運動機能の向上・維持・回復効果を有さないことがわかっている成分(例えば、カゼイン)のみで構成する。被験物質含有食は、被験物質を含有する以外は対照食と基本的に同じ組成とする。第2群と第3群にはトレッドミルによる運動負荷を継続的にかける。
【0075】
一定期間飼育後の各群のマウスから血液を採取し、血漿サンプルを調製する。界面活性剤等で変性処理をした後、強陰イオン交換カラムにアプライし、pH9.0、pH5.0、pH3.0の各バッファー、並びに有機溶媒で順次溶出して分画する。
【0076】
pH9.0の溶出画分を弱陽イオン交換基板にスポットし、次いでpH3.0のバッファーで洗浄する。このとき、マーカー物質(A3)、(A5)、(A6)及び(A7)が基板上に捕捉される。また、pH3.0の溶出画分を弱陽イオン交換基板にスポットし、次いでpH3.0のバッファーで洗浄する。このとき、マーカー物質(A2)及び(A4)が基板上に捕捉される。また、有機溶媒の溶出画分を強陰イオン交換基板にスポットし、次いでpH9.0のバッファーで洗浄する。このとき、マーカー物質(A1)が基板上に捕捉される。各基板をSELDI−TOF−MSに供し、生じたイオンピークから各マーカー物質の濃度を算出する。
【0077】
マーカー物質ごとに第1群〜第4群の濃度値を横に並べ、増減パターンを解析する。「第1群−第2群−第3群−第4群」の値について、グループ1に属するマーカー物質の場合は「低−低−高−低」のパターンを示したときに、グループ2に属するマーカー物質の場合は「高−高−低−高」のパターンを示したときに、当該被験物質は運動機能の向上・維持・回復効果を有すると評価する。なお第2群と第4群の値は、それぞれ上記した(I)と(II)の基準値に相当する。この際、いずれか1つのマーカー物質を指標としてもよいし、複数のマーカー物質を指標としてもよい。
【0078】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0079】
1.動物の飼育と体液試料の調製
8週齢の雄性C57BL/6J系統マウス(日本エスエルシー社)を予備飼育し、4群に分けた。各群の個体数は7以上とした。
【0080】
〔各群の飼育条件〕
第1群(SC):運動負荷なし(S)+対照食摂取(C)
第2群(TC):運動負荷あり(T)+対照食摂取(C)
第3群(TP):運動負荷あり(T)+ホエイタンパク質含有食摂取(P)
第4群(SP):運動負荷なし(S)+ホエイタンパク質含有食摂取(P)
【0081】
〔飼料等〕
・対照食:AIN93
・ホエイタンパク質含有食(明治製菓株式会社製):対照食に含まれるカゼインをホエイタンパク質に置換した組成を有する。
・水と飼料は自由摂取
【0082】
〔飼育期間〕
・4週間
〔明暗、室温〕
・明時:8時〜20時,暗時:20時〜8時
・室温:22±2℃
【0083】
〔運動負荷〕
トレッドミル運動負荷を採用した。飼育1週目は15m/分で15分間、傾斜なしの条件から始め、徐々にスピードと運動時間を上げて慣れさせた。飼育2週目から飼育終了までは22m/分で30分、傾斜なしの条件で運動負荷を与えた。頻度は1日に1回、1週間あたり5日とし、2日以上の休息期間が生じないようにした。
【0084】
飼育終了後に各群のマウスから血液を採取した。採取した血液から血漿を調製し、体液試料とした。
【0085】
2.プロテインチップによる解析とイオンピークの選抜
各体液試料20μLに、変性バッファー(9M 尿素、2% CHAPS、50mM Tris−HCl(pH9.0))30μLを加えて前処理を行い、タンパク質を変性させた。次に、前処理した各体液試料を強陰イオン交換樹脂カラム(Q−Sepharose、GEヘルスケア社)にアプライした。次いで、pH9.0の緩衝液(50mM Tris−HCl(pH9.0)、0.1%(w/v)1−o−N−オクチル−β−D−グルコピラノシド(以下、「OGP」と称する。))、pH5.0の緩衝液(100mM 酢酸ナトリウム(pH5.0)、0.1%(w/v)OGP)、pH3.0の緩衝液(50mM クエン酸ナトリウム(pH3.0)、0.1%(w/v)OGP)、及び有機溶媒(0.1%トリフルオロ酢酸、50.0%アセトニトリルからなる混合液)各200μLで順に溶出させ、画分1(pH9.0で溶出、素通り)、画分2(pH5.0で溶出)、画分3(pH3.0で溶出)、画分4(有機溶媒で溶出)の4つの粗分画画分を得た。
【0086】
得られた各画分10μLをpH3.0のプロテインチップ結合バッファー(50mM クエン酸ナトリウム)で10倍希釈した後、弱陽イオン交換チップCM10(バイオラッド社)に添加した。同様に、得られた各画分10μLをpH9.0のプロテインチップ結合バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0))で10倍希釈した後、強陰イオン交換チップQ10(バイオラッド社)に添加した。各チップを各結合バッファーで3回洗浄した後に脱イオン水で1回洗浄し、乾燥させた。次に、エネルギー吸収分子であるシナピン酸(SPA−H、SPA−L)又はα−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(CHCA)を添加し、プロテインチップリーダーModel PBS IIc(バイオラッド社)を用いて、SELDI−TOF−MSを行なった。なお、測定分子量範囲(m/z)は、3000〜200000の範囲で行なった。また、測定は2連で行い、m/zの平均値を算出した。データ解析は、Protein Chip Software、CiphergenExpress Data Manager、及びBiomarker Patterns Software(いずれもバイオラッド社)を用いて行なった。具体的には、ベースライン補正、分子量校正、スペクトルの正規化処理を行なった後、シングルマーカー解析及び数本のマーカーを組み合わせたマルチフロー解析を行なった。その結果、粗分画画分の種類、プロテインチップの種類、チップの洗浄条件等の組み合わせによって多数のピークが検出された。各ピークについて、p値(Mann−Whitney検定法)、ROC面積、及びイオンピーク強度を算出した。これらの情報を元にして以下の手順S1〜S4にてピークを絞り込んだ。
【0087】
S1:運動マウス同士を比較した場合にホエイタンパク質摂取により発現量が増減したピークを選抜した。具体的には、第2群(TC)と第3群(TP)との間でイオン強度に有意差(p<0.05)があるピークを選抜した。この段階で57個の候補ピークが選抜された。
S2:57個のピークから運動により(a)の増減が抑制されたピークを除去した。具体的には、第1群(SC)と第2群(TC)との間でイオン強度に有意差(p<0.05)があるマーカーを除去した。これにより、43個の候補ピークに絞られた。
S3:43個の候補ピークからアーティファクト(2価イオン、ノイズ等)を除去した。これにより、22個の候補ピークに絞られた。
S4:22個の候補ピークから、ホエイタンパク質を摂取したマウス同士を比較した場合に運動により発現量が増減したピークを選抜した。具体的には、第3群(TP)と第4群(SP)との間でイオン強度に有意差(p<0.05または0.1)があるマーカーを選抜した。これにより、7個の候補ピークが最終的に選抜された。
なお、最終的に選抜されたピークの増減パターンは、いずれも第3群のみが高値または低値を示し、第1群、第2群および第4群の間ではあまり差がないものであった。
【0088】
3.マーカー物質(A1)の特定
画分4(有機溶媒)を弱陽イオン交換チップCM10に接触させ、pH3.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:CHCA)を行なった場合に、質量/電荷比が5280(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第2群および第4群で低値を示し、第3群で高値を示した。図1に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。図中、髭の上端と下端はそれぞれ最大値と最小値、箱の上辺と下辺はそれぞれ第3四分位(75パーセンタイル)と第1四分位(25パーセンタイル)、箱の中の線は中央値である(図2以降も同じ)。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0089】
ROC面積(第2群vs第3群):0.774
p値(第2群vs第3群):0.009
ROC面積(第1群vs第2群):0.667
p値(第1群vs第2群):0.184
ROC面積(第1群vs第4群):0.506
p値(第1群vs第4群):0.918
ROC面積(第3群vs第4群):0.735
p値(第3群vs第4群):0.031
【0090】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約5280のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(A1))が、運動負荷をかけると共にホエイタンパク質を摂取させた動物の体液中で有意に増減するものであり、継続的な運動とホエイタンパク質摂取との併用によってもたらされる運動機能(運動能力、運動パフォーマンス等)の変動(向上、維持、回復など)を反映するマーカーとなり得ることが分かった。これにより、被験物質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物の体液中におけるマーカー物質(A1)の濃度を指標として、被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果の評価が行なえることが示された。例えば、被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約5280のピークを生じるタンパク質の濃度が第1群〜第4群にかけて「低−低−高−低」のパターンを示したとき、当該被験物質はホエイタンパク質と同様の運動機能の向上・維持・回復効果を有する、と評価することができる。
【0091】
4.マーカー物質(A2)の特定
画分3(pH3.0)を強陰イオン交換チップQ10に接触させ、pH9.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:CHCA)を行なった場合に、質量/電荷比が6829(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第2群および第4群で高値を示し、第3群で低値を示した。図2に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0092】
ROC面積(第2群vs第3群):0.810
p値(第2群vs第3群):0.010
ROC面積(第1群vs第2群):0.639
p値(第1群vs第2群):0.225
ROC面積(第1群vs第4群):0.536
p値(第1群vs第4群):0.537
ROC面積(第3群vs第4群):0.658
p値(第3群vs第4群):0.089
【0093】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約6830のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(A2))が、運動負荷をかけると共にホエイタンパク質を摂取させた動物の体液中で有意に増減するものであり、継続的な運動とホエイタンパク質摂取との併用によってもたらされる運動機能(運動能力、運動パフォーマンス等)の変動(向上、維持、回復など)を反映するマーカーとなり得ることが分かった。これにより、被験物質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物の体液中におけるマーカー物質(A2)の濃度を指標として、被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果の評価が行なえることが示された。例えば、被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約6830のピークを生じるタンパク質の濃度が第1群〜第4群にかけて「高−高−低−高」のパターンを示したとき、当該被験物質はホエイタンパク質と同様の運動機能の向上・維持・回復効果を有する、と評価することができる。
【0094】
5.マーカー物質(A3)の特定
画分1(pH9.0)を弱陽イオン交換チップCM10に接触させ、pH3.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:SPA−L)を行なった場合に、質量/電荷比が7011(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第2群および第4群で高値を示し、第3群で低値を示した。図3に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0095】
ROC面積(第2群vs第3群):0.810
p値(第2群vs第3群):0.003
ROC面積(第1群vs第2群):0.583
p値(第1群vs第2群):0.564
ROC面積(第1群vs第4群):0.732
p値(第1群vs第4群):0.057
ROC面積(第3群vs第4群):は0.684
p値(第3群vs第4群):0.039
【0096】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約7010のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(A3))が、運動負荷をかけると共にホエイタンパク質を摂取させた動物の体液中で有意に増減するものであり、継続的な運動とホエイタンパク質摂取との併用によってもたらされる運動機能(運動能力、運動パフォーマンス等)の変動(向上、維持、回復など)を反映するマーカーとなり得ることが分かった。これにより、被験物質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物の体液中におけるマーカー物質(A3)の濃度を指標として、被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果の評価が行なえることが示された。例えば、被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約7010のピークを生じるタンパク質の濃度が第1群〜第4群にかけて「高−高−低−高」のパターンを示したとき、当該被験物質はホエイタンパク質と同様の運動機能の向上・維持・回復効果を有する、と評価することができる。
【0097】
6.マーカー物質(A4)の特定
画分3(pH3.0)を弱陽イオン交換チップCM10に接触させ、pH3.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:CHCA)を行なった場合に、質量/電荷比が7924(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第2群および第4群で低値を示し、第3群で高値を示した。図4に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0098】
ROC面積(第2群vs第3群):0.714
p値(第2群vs第3群):0.035
ROC面積(第1群vs第2群):は0.611
p値(第1群vs第2群):0.488
ROC面積(第1群vs第4群):0.542
p値(第1群vs第4群):0.643
ROC面積(第3群vs第4群):0.760
p値(第3群vs第4群):0.019
【0099】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約7920のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(A4))が、運動負荷をかけると共にホエイタンパク質を摂取させた動物の体液中で有意に増減するものであり、継続的な運動とホエイタンパク質摂取との併用によってもたらされる運動機能(運動能力、運動パフォーマンス等)の変動(向上、維持、回復など)を反映するマーカーとなり得ることが分かった。これにより、被験物質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物の体液中におけるマーカー物質(A4)の濃度を指標として、被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果の評価が行なえることが示された。例えば、被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約7920のピークを生じるタンパク質の濃度が第1群〜第4群にかけて「低−低−高−低」のパターンを示したとき、当該被験物質はホエイタンパク質と同様の運動機能の向上・維持・回復効果を有する、と評価することができる。
【0100】
7.マーカー物質(A5)の特定
画分1(pH9.0)を弱陽イオン交換チップCM10に接触させ、pH3.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:SPA−HJ)を行なった場合に、質量/電荷比が13678(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第2群および第4群で高値を示し、第3群で低値を示した。図5に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0101】
ROC面積(第2群vs第3群):0.899
p値(第2群vs第3群):0.001
ROC面積(第1群vs第2群):0.667
p値(第1群vs第2群):0.225
ROC面積(第1群vs第4群):0.780
p値(第1群vs第4群):0.027
ROC面積(第3群vs第4群):0.684
p値(第3群vs第4群):0.081
【0102】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約13700のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(A5))が、運動負荷をかけると共にホエイタンパク質を摂取させた動物の体液中で有意に増減するものであり、継続的な運動とホエイタンパク質摂取との併用によってもたらされる運動機能(運動能力、運動パフォーマンス等)の変動(向上、維持、回復など)を反映するマーカーとなり得ることが分かった。これにより、被験物質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物の体液中におけるマーカー物質(A5)の濃度を指標として、被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果の評価が行なえることが示された。例えば、被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約13700のピークを生じるタンパク質の濃度が第1群〜第4群にかけて「高−高−低−高」のパターンを示したとき、当該被験物質はホエイタンパク質と同様の運動機能の向上・維持・回復効果を有する、と評価することができる。
【0103】
8.マーカー物質(A6)の特定
画分1(pH9.0)を弱陽イオン交換チップCM10に接触させ、pH3.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:SPA−HJ)を行なった場合に、質量/電荷比が13881(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第2群および第4群で高値を示し、第3群で低値を示した。図6に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0104】
ROC面積(第2群vs第3群):0.810
p値(第2群vs第3群):0.003
ROC面積(第1群vs第2群):0.639
p値(第1群vs第2群):0.248
ROC面積(第1群vs第4群):0.780
p値(第1群vs第4群):0.021
ROC面積(第3群vs第4群):0.760
p値(第3群vs第4群):0.019
【0105】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約13900のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(A6))が、運動負荷をかけると共にホエイタンパク質を摂取させた動物の体液中で有意に増減するものであり、継続的な運動とホエイタンパク質摂取との併用によってもたらされる運動機能(運動能力、運動パフォーマンス等)の変動(向上、維持、回復など)を反映するマーカーとなり得ることが分かった。これにより、被験物質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物の体液中におけるマーカー物質(A6)の濃度を指標として、被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果の評価が行なえることが示された。例えば、被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約13900のピークを生じるタンパク質の濃度が第1群〜第4群にかけて「高−高−低−高」のパターンを示したとき、当該被験物質はホエイタンパク質と同様の運動機能の向上・維持・回復効果を有する、と評価することができる。
【0106】
9.マーカー物質(A7)の特定
画分1(pH9.0)を弱陽イオン交換チップCM10に接触させ、pH3.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:SPA−HJ)を行なった場合に、質量/電荷比が47095(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第2群および第4群で低値を示し、第3群で高値を示した。図7に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0107】
ROC面積(第2群vs第3群):0.786
p値(第2群vs第3群):0.009
ROC面積(第1群vs第2群):0.500
p値(第1群vs第2群):0.954
ROC面積(第1群vs第4群):0.655
p値(第1群vs第4群):0.136
ROC面積(第3群vs第4群)は0.760
p値(第3群vs第4群)は0.015
【0108】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約47100のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(A7))が、運動負荷をかけると共にホエイタンパク質を摂取させた動物の体液中で有意に増減するものであり、継続的な運動とホエイタンパク質摂取との併用によってもたらされる運動機能(運動能力、運動パフォーマンス等)の変動(向上、維持、回復など)を反映するマーカーとなり得ることが分かった。これにより、被験物質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物の体液中におけるマーカー物質(A7)の濃度を指標として、被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果の評価が行なえることが示された。例えば、被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約47100のピークを生じるタンパク質の濃度が第1群〜第4群にかけて「低−低−高−低」のパターンを示したとき、当該被験物質はホエイタンパク質と同様の運動機能の向上・維持・回復効果を有する、と評価することができる。
【実施例2】
【0109】
1.マーカー物質(A3)の精製と同定
強陰イオン交換樹脂Q−Sepharose HP(GEヘルスケア社)を充填したスピンカラム(1mL)を平衡化バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0),1M 尿素,0.22% CHAPS)にて平衡化した。C57BLマウス血清(清水実験材料社)500μLに対して変性バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0),9M 尿素,2% CHAPS)を750μL加えて変性処理し、平衡化した前記カラムに添加した。非吸着画分を回収し、SELDI−TOF−MSにて精製度を確認した。
【0110】
回収した画分の一部をアセトン沈殿処理した後、ポリペプチド分離用ゲル(15−20%)NTH−5A0T(DRC社)を用いてSDS−PAGEを行った。図8に結果を示す。図8中、レーン1〜6はいずれも回収画分、Mは分子量マーカーである。分離された約7.0kDaのバンド(図8の矢印)を切り出してタンパク質を抽出し、SELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(A3)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した(図9のa)。
【0111】
あらためて同様のSDS−PAGEを行って約7.0kDaのバンドを切り出し、還元アルキル化処理した後、0.01μg/μLのトリプシン溶液(50mM 炭酸水素アンモニウム(pH8.0)に溶解)を作用させてゲル内で消化した。消化したサンプル1μLを金属プレート上に滴下し、飽和CHCA溶液0.4μLをさらに滴下して乾燥させた後、質量分析計Proteomics Analyzer 4700(アプライドバイオシステムズ社)で測定したところ、少なくとも3個のピークが検出され、それらの精密質量は、「1279.70」、「1299.71」、及び「1042.53」と算出された。これらのデータを元にMascotデータベース(マトリックスサイエンス社)によって既知タンパク質を検索し、ペプチドマスフィンガープリンティングを行ったところ、精密質量「1279.70」、「1299.71」、及び「1042.53」のペプチドはそれぞれ配列番号7〜9で表わされるアミノ酸配列のペプチドと一致し、目的のタンパク質は99%以上の確率で「アポリポタンパク質C1」と同定された。各ペプチドの精密質量、アミノ酸配列、及び配列番号の対応関係を第1表に示す。既報のアポリポタンパク質C1のアミノ酸配列は配列番号1に示すとおりである。
【0112】
【表1】
【0113】
なお、図9に示すように、SELDI−TOF−MS分析においてマーカー物質(A3)よりも小さい質量(約6.8kDa)を示すピークも検出された(図9のb)。これら2種のタンパク質は性質が非常に似ていること、並びに、質量の値の比較から、ピークbのタンパク質はアポリポタンパク質C1(配列番号1)のN末端の2アミノ酸(Ala−Pro)が欠損した「アポリポタンパク質C1の修飾体」であると考えられた。アミノ酸配列から計算される質量は、ピークaが6993Da、ピークbが6825Daであった。
【0114】
2.マーカー物質(A4)の精製と同定
強陰イオン交換樹脂Q−Sepharose HP(GEヘルスケア社)を充填したスピンカラム(1mL)を平衡化バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0),1M 尿素,0.22% CHAPS)にて平衡化した。C57BLマウス血清(清水実験材料社)1mLに対して変性バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0),9M 尿素,2% CHAPS)を1.5mL加えて変性処理し、平衡化した前記カラムに添加した。50mM Tris−HCl(pH9.0),100mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)、及び50mM クエン酸ナトリウムバッファー(pH3.0)にてカラムを順次洗浄した後、溶出バッファー(33.3% イソプロパノール,16.7% アセトニトリル,0.1% TFA)にて溶出した。溶出画分の精製度をSELDI−TOF−MSにて確認した。
【0115】
回収した画分の一部をアセトン沈殿処理した後、2次元電気泳動(1次元目:Immobiline DryStrip(GEヘルスケア社)pH4−7,7cm;2次元目:ポリペプチド分離用ゲル(15−20%)NTH−5A2T(DRC社))に供した。結果を図10に示す。分離された約7.9kDaのバンド(図10の矢印)を切り出してタンパク質を抽出し、SELDI−TOF−MS分析を行った。マーカー物質(A4)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した(図11)。
【0116】
あらためて同様の条件で2次元電気泳動を行って約7.9kDaのバンド(図10の矢印)を切り出し、上記1と同様にしてゲル内消化及び質量分析を行ったところ、少なくとも5個のピークが検出され、それらの精密質量は「3239.45」、「3454.62」、「2832.46」、「1831.99」、及び「1193.67」と算出された。これらのデータを元に上記1と同様にしてペプチドマスフィンガープリンティングを行ったところ、精密質量「3239.45」、「3454.62」、「2832.46」、「1831.99」、及び「1193.67」のペプチドは、それぞれ配列番号10〜14で表わされるアミノ酸配列のペプチドと一致し、目的のタンパク質は99%以上の確率で「アポリポタンパク質A2」と同定された。各ペプチドの精密質量、アミノ酸配列、及び配列番号の対応関係を第2表に示す。さらに、アポリポタンパク質A2(配列番号2、78アミノ酸、等電点4.94、分子量8736)のN末端側70アミノ酸に相当するタンパク質断片の予想される等電点が5.13、分子量が7925であり、これらの値がマーカー物質(A4)の物性とよく一致した。これにより、マーカー物質(A4)はアポリポタンパク質A2の断片(配列番号3)と最終的に同定された。
【0117】
【表2】
【0118】
3.マーカー物質(A5)と(A6)の同定
C57BLマウス血清(清水実験材料社)を実施例1と同様にして変性処理とカラム精製に供し、4つの画分を得た。画分1(pH9.0、素通り)をSDS−PAGEにて分離した後、抗ヒトトランスサイレチン抗体(サンタクルーズ社)を用いたウエスタンブロッティングを行った。図12に結果を示す。図12中、レーン1はヒトトランスサイレチン標品(陽性対照)、レーン2はサンプル50μL相当、レーン3はサンプル100μL相当、である。その結果、レーン2,3において約13.7kDaのバンドが反応した。
【0119】
図13(a)に実施例1の第3群(TP)の画分1、図13(b)に本実施例で調製した画分1のSELDI−TOF−MS分析の結果をそれぞれ示す。これらのイオンピークのパターンはよく似ており、マーカー物質(A5)に相当する約13.7kDaのピークと、マーカー物質(A6)に相当する約13.8kDaのピークが検出された。
【0120】
トランスサイレチンには、システイン残基への修飾の種類が異なる種々の修飾体が存在することが知られている。各分子量の値から、マーカー物質(A5)は非修飾のトランスサイレチン、マーカー物質(A6)はSPAが結合した修飾トランスサイレチンであると考えられた。
【0121】
4.マーカー物質(A7)の精製と同定
強陰イオン交換樹脂Q−Sepharose HP(GEヘルスケア社)を充填したスピンカラム(5mL)を平衡化バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0),1M 尿素,0.22% CHAPS)にて平衡化した。C57BLマウス血清(清水実験材料社)1.5mLを20,000G、4℃で10分間遠心し、上清を回収した。回収した上清1.0mLに対して変性バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0),9M 尿素,2% CHAPS)を1.5mL加えて変性処理した。さらに平衡化バッファー2.5mLを加えて希釈した後、平衡化した前記カラムに添加した。50mM Tris−HCl(pH9.0)でカラムを洗浄した後、50mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)で2段階に分けて溶出した。溶出画分の精製度をSELDI−TOF−MSにて確認した。
【0122】
HiTrap SP HP(GEヘルスケア社)(1mL)を50mM MES−NaOH(pH6.0)にて平衡化した。前記溶出画分2mLを50mM MES−NaOH(pH6.0)で5倍希釈した後、平衡化した前記カラムに添加した。50,70,80,90,又は100mM NaClを含有する各50mM MES−NaOH(pH6.0)にてカラムを順次洗浄した後、1M NaClを含有する50mM MES−NaOH(pH6.0)にて溶出した。回収した溶出画分の精製度をSELDI−TOF−MSにて確認した。
【0123】
回収した画分の一部をAmicon Ultra(5kDaカット;ミリポア社)にて脱塩および濃縮した後、SDS−PAGE(7.5%ポリアクリルアミドゲル使用)を行った。結果を図14に示す。図14中、レーン4〜6が回収画分、Mは分子量マーカーである。分離された約47kDaのバンド(図14の矢印)を切り出してタンパク質を抽出し、SELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(A7)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した(図15)。
【0124】
あらためて同様のSDS−PAGEを行って約42kDaのバンドを切り出し、上記1と同様にしてゲル内消化及び質量分析を行ったところ、少なくとも7個のピークが検出され、それらの精密質量は「2306.08」、「1822.90」、「1545.82」、「1876.83」、「1105.60」、「1325.63」、及び「1038.54」と算出された。これらのデータを元に上記1と同様にしてペプチドマスフィンガープリンティングを行ったところ、精密質量「2306.08」、「1822.90」、「1545.82」、「1876.83」、「1105.60」、「1325.63」、及び「1038.54」のペプチドはそれぞれ配列番号15〜21で表わされるアミノ酸配列のペプチドと一致し、目的のタンパク質は99%以上の確率で「β−2−グリコプロテイン1」と同定された。各ペプチドの精密質量、アミノ酸配列、及び配列番号の対応関係を第3表に示す。既報のβ2−グリコプロテイン1のアミノ酸配列は配列番号6に示すとおりである。
【0125】
【表3】
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】質量/電荷比が5280(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図2】質量/電荷比が6829(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図3】質量/電荷比が7011(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図4】質量/電荷比が7924(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図5】質量/電荷比が13678(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図6】質量/電荷比が13881(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図7】質量/電荷比が47095(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図8】マーカー物質(A3)の精製過程で行ったSDS−PAGEの結果を示す写真である。
【図9】マーカー物質(A3)の精製過程で行ったSELDI−TOF−MS分析の結果を示すイオンピーク図である。
【図10】マーカー物質(A4)の精製過程で行った2次元電気泳動の結果を示す写真である。
【図11】マーカー物質(A4)の精製過程で行ったSELDI−TOF−MS分析の結果を示すイオンピーク図である。
【図12】実施例2で行ったウエスタンブロッティングの結果を表す写真である。
【図13】(a)は実施例1の第3群(TP)の画分1をSELDI−TOF−MS分析に供した結果を表すイオンピーク図、(b)は実施例2で調製した画分1をSELDI−TOF−MS分析に供した結果を表すイオンピーク図である。
【図14】マーカー物質(A7)の精製過程で行ったSDS−PAGEの結果を示す写真である。
【図15】マーカー物質(A7)の精製過程で行ったSELDI−TOF−MS分析の結果を示すイオンピーク図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法及び評価用キット、並びに、物質のスクリーニング方法に関し、さらに詳細には、被験物質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物から採取した体液におけるマーカー物質の濃度を基準値と比較し、被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価する運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法、当該方法に用いる評価用キット、並びに、当該方法を用いて所望の運動機能の向上・維持・回復効果を有する物質をスクリーニングする物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の健康志向の増大に伴い、運動に対する関心が高まっている。継続的・習慣的な運動が疾病予防や健康維持に有用であることは、経験的に明らかである。また、運動機能に関係する食品素材としてホエイタンパク質(whey protein)が知られており、ホエイタンパク質を含有する筋強化剤や筋肉疲労改善剤が開発されている(特許文献1,2)。
【0003】
ホエイタンパク質と運動機能との関係については、動物を用いて科学的に調べられている。例えば非特許文献1には、ホエイタンパク質の摂取はカゼイン摂取、大豆タンパク質摂取に比べてトレッドミル運動負荷ラットの肝臓グリコーゲン含量を有意に増加させた旨が記載されている。また、そのメカニズムとして、グリコーゲン構成に関わる糖転移酵素の変動の可能性が示唆されている。また非特許文献2には、ホエイタンパク質を摂取させたラットはカゼインを摂取させたラットに比べて、水泳運動負荷ラットの肝臓及び筋肉中のグリコーゲン含量を有意に増加させた旨が記載されている。さらに非特許文献3には、ホエイタンパク質を摂取させたラットはカゼインを摂取させたラットに比べて、水泳運動負荷ラットの肝臓及び筋肉における脂肪酸合成を促進させた旨が記載されている。これらの結果は、ホエイタンパク質の摂取と継続的な運動とを組み合わせが、より高い運動機能の向上効果や維持・回復効果を生じさせることを示している。すなわち、運動負荷をかけると共にホエイタンパク質を摂取させた動物においては、運動機能(運動能力、運動パフォーマンス等)が特に高い状態となる。
【0004】
一方、運動機能と相関する体液中のマーカー物質に関する報告は見当たらず、ホエイタンパク質のような物質の摂取と継続的な運動との組み合わせによりもたらされる運動機能の変動(向上、維持、回復など)を反映するマーカー物質についても知られていない。もしそのようなマーカー物質が特定されれば、ホエイタンパク質と同様の作用を有する物質のスクリーニング等に有用である。
【0005】
【特許文献1】特開2002−65212号公報
【特許文献2】特開2004−182630号公報
【非特許文献1】モリフジ(Morifuji)ら,エクスペリメンタル・バイオロジー・アンド・メディシン(Experimental Biology and Medicine),2004年,第230巻,第1号,p23−30
【非特許文献2】モリフジ(Morifuji)ら,ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ニュートリション(British Journal of Nutrition),2005年,第93巻,第1号,p439−445
【非特許文献3】モリフジ(Morifuji)ら,ニュートリション(Nutrition),2005年,第21巻,第10号,p1052−1058
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、運動機能や筋肉の状態を反映するマーカー物質を特定し、該マーカー物質を指標とした運動機能の向上効果や維持・回復効果を有する物質のスクリーニングに有用な一連の技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するための請求項1に記載の発明は、被験物質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物から採取した体液における下記マーカー物質(A1)〜(A7)の少なくとも1つの濃度を基準値と比較することにより、前記被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価することを特徴とする運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法である。
(A1)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約5280のイオンピークを生じるタンパク質、
(A2)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約6830のイオンピークを生じるタンパク質、
(A3)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約7010のイオンピークを生じるタンパク質、
(A4)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約7920のイオンピークを生じるタンパク質、
(A5)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約13700のイオンピークを生じるタンパク質、
(A6)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約13900のイオンピークを生じるタンパク質、
(A7)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約47100のイオンピークを生じるタンパク質。
【0008】
本発明は物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法に係るものであり、被験物質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物から採取した体液における上記マーカー物質(A1)〜(A7)の少なくとも1つの濃度を基準値と比較することにより、被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価するものである。上記マーカー物質(A1)〜(A7)は、運動負荷をかけると共にホエイタンパク質を摂取させた動物の体液中で有意に増減するタンパク質であり、継続的な運動とホエイタンパク質摂取との併用によってもたらされる運動機能(運動能力、運動パフォーマンス等)の変動(向上、維持、回復など)を反映するものである。本発明によれば、被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を容易かつ高精度に評価することができる。なお、「動物」には、マウス等の飼育可能な動物の他、ヒトも含むものとする。
【0009】
ここで「運動機能の向上効果」とは、正常レベルにある運動機能をさらに向上させる効果をいう。物質が有する運動機能の向上効果を評価することにより、例えば、運動機能のさらなる向上を目指すアスリートに適した食品素材等のスクリーニングを行うことができる。また「運動機能の維持効果」とは、運動機能の低下を抑えて正常レベルに維持しようとする効果をいう。物質が有する運動機能の維持効果を評価することにより、例えば、運動機能の低下を予防したい高齢者に適した食品素材等のスクリーニングを行うことができる。また「運動機能の回復効果」とは、低下した運動機能を正常レベルに戻そうとする効果をいう。物質が有する運動機能の回復効果を評価することにより、例えば、リハビリテーションによって運動機能の回復を目指す負傷者に適した食品素材等のスクリーニングを行うことができる。そして「運動機能の向上・維持・回復効果」とは、運動機能の向上効果、維持効果、及び回復効果のうちの少なくとも1つの効果を指すものとする。
【0010】
ここで、各マーカー物質における質量/電荷比(以下、「m/z」と略記することもある。)の「約5280」、「約13700」、「約47100」等の値は、質量分析における測定値の誤差範囲を考慮した値であり、概ね±0.2%の幅を有する。すなわち、約5280は概ね5280±0.2%、約13700は概ね13700±0.2%、約647100は概ね47100±0.2%を表す。他の質量/電荷比についても全く同様に、概ね±0.2%の幅を有する。また、これらのマーカー物質はいずれも主に血液中に存在するタンパク質である。被験物質が運動機能の向上・維持・回復効果を有する場合、動物の体液中のマーカー物質(A1)、(A4)、及び(A7)の濃度はより高値を示し、(A2)、(A3)、(A5)、及び(A6)の濃度はより低値を示す。
【0011】
請求項2に記載の発明は、下記(1)〜(5)の少なくとも1つを満たすことを特徴とする請求項1に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法である。
(1)マーカー物質(A3)はアポリポタンパク質C1又はその修飾体である、
(2)マーカー物質(A4)はアポリポタンパク質A2又はその修飾体である、
(3)マーカー物質(A5)はトランスサイレチン又はその修飾体である、
(4)マーカー物質(A6)はトランスサイレチン又はその修飾体である、
(5)マーカー物質(A7)はβ2−グリコプロテイン1又はその修飾体である。
【0012】
アポリポタンパク質C1、アポリポタンパク質A2、トランスサイレチン、及びβ2−グリコプロテイン1はいずれも物理化学的性質がよく知られているので、本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法によればマーカー物質(A3)、(A4)、(A5)、(A6)、(A7)の解析が容易である。
【0013】
「タンパク質の修飾体」の代表例は、当該タンパク質を構成するアミノ酸残基の少なくとも1つが修飾されたタンパク質である。「修飾」には化合物や官能基の付加(例:リン酸化)のみならず、脱離(例:脱リン酸化)も含まれる。また「タンパク質又はその修飾体」には、当該タンパク質のアイソフォームが含まれる。さらに「タンパク質又はその修飾体」には、当該タンパク質の1次構造において数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたような実質的に同一のタンパク質が含まれる。またさらに、「タンパク質又はその修飾体」には、プロテアーゼによる切断を受けた当該タンパク質由来のタンパク質断片が含まれる。なお、複合体タンパク質の場合には「タンパク質又はその修飾体」にはそのサブユニットも含まれるものとする。
【0014】
同様の課題を解決するための請求項3に記載の発明は、被験物質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物から採取した体液における下記マーカー物質(B1)〜(B4)のいずれかに属する少なくとも1つの濃度を基準値と比較することにより、前記被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価することを特徴とする運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法である。
(B1)アポリポタンパク質C1又はその修飾体、
(B2)アポリポタンパク質A2又はその修飾体、
(B3)トランスサイレチン又はその修飾体、
(B4)β2−グリコプロテイン1又はその修飾体。
【0015】
本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法は、被験物質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物から採取した体液における上記マーカー物質(B1)〜(B4)のいずれかに属する少なくとも1つの濃度を基準値と比較することにより、被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価するものである。上記マーカー物質(B1)〜(B4)は、ホエイタンパク質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物の体液中で有意に増減するタンパク質であり、継続的な運動とホエイタンパク質摂取との併用によってもたらされる運動機能(運動能力、運動パフォーマンス等)の変動(向上、維持、回復など)を反映するものである。本発明によれば、被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を容易かつ高精度に評価することができる。さらに、アポリポタンパク質C1、アポリポタンパク質A2、トランスサイレチン、及びβ2−グリコプロテイン1はいずれも物理化学的性質がよく知られているので、解析が容易である。なお本発明においても、「動物」には、マウス等の飼育可能な動物の他、ヒトも含むものとする。
【0016】
(B1)〜(B4)に属するマーカー物質は、いずれも主に血液中に存在する。被験物質がホエイタンパク質と同様の運動機能の向上・維持・回復効果を有する場合、動物の体液中のマーカー物質(B2)及び(B5)の濃度はより高値を示し、(B1)、(B3)、及び(B4)の濃度はより低値を示す。
【0017】
本発明においても「タンパク質の修飾体」の代表例は、当該タンパク質を構成するアミノ酸残基の少なくとも1つが修飾されたタンパク質であり、「修飾」には化合物や官能基の付加のみならず、脱離も含まれる。また「タンパク質又はその修飾体」には、当該タンパク質のアイソフォーム、当該タンパク質の1次構造において数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたような実質的に同一のタンパク質、並びに、プロテアーゼによる切断を受けた当該タンパク質由来のタンパク質断片が含まれる。さらに、複合体タンパク質の場合には「タンパク質又はその修飾体」にはそのサブユニットも含まれるものとする。
【0018】
請求項4に記載の発明は、前記基準値は、下記(I)及び/又は(II)であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法である。
(I)前記被験物質を摂取させずに運動負荷をかけた動物から採取した体液における前記マーカー物質の濃度、
(II)運動負荷をかけずに前記被験物質を摂取させた動物から採取した体液における前記マーカー物質の濃度。
【0019】
かかる構成により、被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を、より容易かつ高精度に評価することができる。
【0020】
請求項5に記載の発明は、前記体液は、血液であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法である。
【0021】
かかる構成により、測定試料となる体液を簡単に採取でき、より簡便かつ迅速に、被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価することができる。
【0022】
請求項6に記載の発明は、前記被験物質は、食品素材であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法である。
【0023】
かかる構成により、機能性食品の開発を目的として、被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価することができる。
【0024】
請求項7に記載の発明は、前記体液又は体液成分を、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体に接触させて、体液中の前記マーカー物質を担体上に捕捉し、捕捉された前記マーカー物質の量に基づいて体液中の前記マーカー物質の濃度を算出することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法である。
【0025】
本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法においては、マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を使用する。そして、該担体に体液又は体液成分を接触させて、体液又は体液成分に含まれるマーカー物質を、マーカー物質に対する親和性を有する物質を介して担体上に捕捉し、捕捉されたマーカー物質の量に基づいて体液中のマーカー物質の濃度を算出する。本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法によれば、担体上に捕捉されたマーカー物質を測定対象とするので、測定試料中に含まれる夾雑物質の影響を低減させることができ、より高感度かつ高精度でマーカー物質の濃度を測定することができる。なお、体液成分の例としては、体液が血液である場合の血清又は血漿が挙げられる。
【0026】
請求項8に記載の発明は、前記担体は平面部分を有し、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、該平面部分の一部に固定化されていることを特徴とする請求項7に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法である。
【0027】
本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法では、平面部分を有する担体を用い、マーカー物質に対する親和性を有する物質は該平面部分の一部に固定化されている。かかる構成により、マーカー物質に対する親和性を有する物質を、担体上の複数箇所にスポット的に固定化することができる。その結果、1個の担体で複数の測定試料を同時処理することや、1個の担体で複数のマーカー物質の濃度を同時測定することが可能となり、作業効率がよい。さらに、各スポットの面積を小さくすることにより、微量の測定試料からでもマーカー物質の濃度を測定することができる。なお、平面部分を有する担体の例としては、チップ等の基板が挙げられる。
【0028】
請求項9に記載の発明は、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、イオン交換体又は抗体であることを特徴とする請求項7又は8に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法である。
【0029】
本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法においては、マーカー物質に対する親和性を有する物質としてイオン交換体又は抗体を用い、イオン交換体又は抗体を介して測定試料中のマーカー物質を担体上に捕捉する。当該物質がイオン交換体の場合は各種のものが入手容易であり、マーカー物質を捕捉するための担体を容易に調製することができる。また、当該物質が抗体の場合は、より特異的にマーカー物質を捕捉することができる。捕捉されたマーカー物質の量を測定する方法としては、質量分析、イムノアッセイ(抗体の場合)が挙げられる。
【0030】
請求項10に記載の発明は、請求項1〜9のいずれか1項に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法によって被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価し、当該評価結果に基づいて所望の運動機能の向上・維持・回復効果を有する物質をスクリーニングすることを特徴とする物質のスクリーニング方法である。
【0031】
本発明は物質のスクリーニング方法にかかり、動物の体液中における上記(A1)〜(A7)の各マーカー物質および上記(B1)〜(B5)に属する各マーカー物質の少なくとも1つの濃度を基準値と比較し、所望の運動機能の向上・維持・回復効果を有する物質をスクリーニングするものである。上記(A1)〜(A7)の各マーカー物質および上記(B1)〜(B5)に属する各マーカー物質は、いずれもホエイタンパク質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物の体液中で有意に増減するタンパク質であり、継続的な運動とホエイタンパク質摂取との併用によってもたらされる運動機能(運動能力、運動パフォーマンス等)の変動(向上、維持、回復など)を反映するものである。本発明の物質のスクリーニング方法によれば、所望の運動機能の向上・維持・回復効果を有する物質を、容易かつ高精度にスクリーニングすることができる。特に、被験物質が食品素材の場合は、運動機能の向上・維持・回復効果を有する機能性食品の開発に有用な食品素材をスクリーニングすることができる。
【0032】
請求項11に記載の発明は、請求項1〜9のいずれか1項に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法に用いるためのキットであって、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含むことを特徴とする運動機能の向上・維持・回復効果の評価用キットである。
【0033】
本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価用キットは、マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含む。かかる構成により、マーカー物質の濃度測定に際して当該担体を別途用意する必要がなく、きわめて簡便にマーカー物質の濃度を測定することができる。
【0034】
請求項12に記載の発明は、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、イオン交換体であることを特徴とする請求項11に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価用キットである。
【0035】
かかる構成により、マーカー物質をより確実に担体上に捕捉することができる。
【0036】
運動機能の向上・維持・回復効果を有する物質をスクリーニングするために使用される構成が推奨される(請求項13)。
【発明の効果】
【0037】
本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法によれば、被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を容易かつ高精度に評価することができる。
【0038】
本発明の物質のスクリーニング方法によれば、所望の運動機能の向上・維持・回復効果を有する物質を容易かつ高精度にスクリーニングすることができる。
【0039】
本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価用キットによれば、マーカー物質の濃度測定に際して当該担体を別途用意する必要がなく、きわめて簡便にマーカー物質の濃度を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0041】
本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法は2つの様相を含む。1つの様相では、運動負荷をかけると共に被験物質を摂取させた動物から採取した体液における下記マーカー物質(A1)〜(A7)の少なくとも1つの濃度を基準値と比較することにより、前記被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価する。
(A1)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約5280のイオンピークを生じるタンパク質、
(A2)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約6830のイオンピークを生じるタンパク質、
(A3)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約7010のイオンピークを生じるタンパク質、
(A4)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約7920のイオンピークを生じるタンパク質、
(A5)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約13700のイオンピークを生じるタンパク質、
(A6)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約13900のイオンピークを生じるタンパク質、
(A7)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約47100のイオンピークを生じるタンパク質。
【0042】
これらのマーカー物質はいずれも主に血液中に存在するタンパク質であり、ホエイタンパク質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物の体液中で有意に増減し、継続的な運動とホエイタンパク質摂取との併用によってもたらされる運動機能(運動能力、運動パフォーマンス等)の変動(向上、維持、回復など)を反映するものである。被験物質がホエイタンパク質と同様の運動機能の向上・維持・回復効果を有する場合、動物の体液中のマーカー物質(A1)、(A4)、及び(A7)(以下、これらのマーカー物質からなるグループを「グループ1」と称することがある。)の濃度はより高値を示し、(A2)、(A3)、(A5)、及び(A6)(以下、これらのマーカー物質からなるグループを「グループ2」と称することがある。)の濃度はより低値を示す。
【0043】
ある条件のペプチドマッピングによれば、マーカー物質(A3)、(A4)、及び(A7)は、それぞれアポリポタンパク質C1、アポリポタンパク質A2、及びβ2−グリコプロテイン1と同定され得る。また、マーカー物質(A5)と(A6)は、いずれもトランスサイレチンに特異的な抗体に対する反応性を有する。すなわち、ある実施形態では、下記(1)〜(5)の少なくとも1つを満たす。
(1)マーカー物質(A3)はアポリポタンパク質C1又はその修飾体である、
(2)マーカー物質(A4)はアポリポタンパク質A2又はその修飾体である、
(3)マーカー物質(A5)はトランスサイレチン又はその修飾体である、
(4)マーカー物質(A6)はトランスサイレチン又はその修飾体である、
(5)マーカー物質(A7)はβ2−グリコプロテイン1又はその修飾体である。
【0044】
本発明の他の様相では、運動負荷をかけると共に被験物質を摂取させた動物から採取した体液における下記マーカー物質(B1)〜(B4)のいずれかに属する少なくとも1つの濃度を基準値と比較することにより、前記被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価する。
(B1)アポリポタンパク質C1又はその修飾体、
(B2)アポリポタンパク質A2又はその修飾体、
(B3)トランスサイレチン又はその修飾体、
(B4)β2−グリコプロテイン1又はその修飾体。
【0045】
タンパク質の修飾の例としては、N末端αアミノ基やリジンεアミノ基のメチル化、アセチル化、アデニリル化、ミリスチル化等;セリン・スレオニン・アスパラギンへの糖又は糖鎖の付加;セリン・スレオニン・チロシン・アルギニン・ヒスチジンのリン酸化;システインのシステイニル化、ホモシステイニル化、スルホニル化等;グルタミン酸のγ−カルボキシル化;N末端グルタミン酸のピログルタミン酸への変換、等が挙げられる。また、これらの修飾の脱離(脱メチル化、糖又は糖鎖の脱離、脱リン酸化等)も「修飾」に含まれる。
【0046】
「タンパク質又はその修飾体」には、当該タンパク質のアイソフォームが含まれる。アイソフォームとしては、前記した各種の修飾の他、選択的スプライシングによって生じたタンパク質が挙げられる。さらに、「タンパク質又はその修飾体」には、当該タンパク質の1次構造において数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたような実質的に同一のタンパク質が含まれる。またさらに、「タンパク質又はその修飾体」には、プロテアーゼによる切断を受けた当該タンパク質由来のタンパク質断片が含まれる。例えば、当該タンパク質由来と認められうる長さのタンパク質断片、例えば20個以上のアミノ酸残基からなるタンパク質断片、分子量が2千以上のタンパク質断片、等が挙げられる。また、複合体タンパク質の場合には「タンパク質又はその修飾体」にはそのサブユニットも含まれるものとする。
【0047】
例えば、シグナル配列が切断された後のアポリポタンパク質C1(配列番号1,マウス由来)のN末端アミノ酸配列は「Ala−Pro」から始まるが、これら2つのアミノ酸は切断され得ることが報告されている(Oleg Chertov et al., Proteomics, Vol. 4, No. 4, 2004)。このようなN末端の2アミノ酸が欠損したアポリポタンパク質C1の断片は「アポリポタンパク質C1の修飾体」に含まれる。
【0048】
同様に、シグナル配列が切断された後のアポリポタンパク質A2(配列番号2,マウス由来)は78アミノ酸からなるが、これのN末端側70アミノ酸(配列番号3)からなるタンパク質断片は「アポリポタンパク質A2の修飾体」に含まれる。
【0049】
トランスサイレチン(transthyretin;プレアルブミンとも呼ばれる)は血漿タンパク質の一種であり、分子量約1万4千のサブユニット4個からなる複合タンパク質である。マウス由来およびヒト由来のトランスサイレチンのアミノ酸配列は、それぞれ配列番号4と5に示すとおりであり、システイン残基を1つ有している。この唯一のシステイン残基のチオール基(−SH)は修飾可能であり、システイン残基への修飾の種類が異なる複数種のトランスサイレチンの修飾体が知られている(例えば、リム(Lim)ら,ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(Journal of Biological Chemistry),2003年,第278巻,p49707−49713;リム(Lim)ら,プロテイン・サイエンス(Protein Science),2003年,第12巻,p1775−1785;ゲリック(Gericke)ら,ビー・エム・シー・キャンサー(BMC Cancer),2005年,5:133)。具体的には、システイン残基にスルホン基、システイン、ホモシステイン、システイニルグリシン、又はグルタチオンが付加されたトランスサイレチンの修飾体が知られている。例えばこれらのトランスサイレチンの修飾体が本発明におけるマーカー物質になり得る。なお、本明細書においてはトランスサイレチンのサブユニットについても単に「トランスサイレチン」と呼ぶこととし、複合体とサブユニットとを特に区別しない。
【0050】
β2−グリコプロテイン1(β2-glycoprotein1;アポリポタンパク質Hとも呼ばれる)についても、その修飾体には上記で例示した各修飾体が含まれる。マウス由来のβ2−グリコプロテイン1のアミノ酸配列を配列番号6に示す。
【0051】
本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法では、(A1)〜(A7)の各マーカー物質並びに(B1)〜(B5)に属する書くマーカー物質の1つだけを用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
動物に運動負荷をかける方法としては、通常の生活で行われる運動以上の負荷がかけられる方法であれば特に限定はなく、例えば、トレッドミルを用いることができる。運動負荷をかける時間や頻度についても特に限定はなく、負荷の内容等によって適宜選択すればよい。例えば、1回あたり数分〜数十分の運動負荷を1日に1回以上与え、これを1週間あたり5日以上実施することが挙げられる。
【0053】
本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法では、動物の体液におけるマーカー物質の濃度を基準値と比較する。好ましい実施形態では、当該基準値が下記(I)及び/又は(II)である。
(I)前記被験物質を摂取させずに運動負荷をかけた動物から採取した体液における前記マーカー物質の濃度、
(II)運動負荷をかけずに前記被験物質を摂取させた動物から採取した体液における前記マーカー物質の濃度。
被験物質が運動機能の向上・維持・回復効果を有する場合、動物の体液におけるグループ1に属するマーカー物質の濃度は(I)、(II)より高い値を示し、グループ2に属するマーカー物質の濃度は(I)、(II)より低い値を示す。なお(I)と(II)の基準値はどちらか一方のみを使用してもよいし、併用してもよい。
【0054】
基準値は予め設定することもできる。例えば、運動機能の向上・維持・回復効果を有する既知物質(例えば、ホエイタンパク質)を用いて事前に動物実験を行い、その蓄積されたデータを元にマーカー物質ごとの基準値(固定値)を決定することができる。すなわち、各種の臨床検査で設定されている基準値(カットオフ値など)と同様の取り扱いが可能である。
【0055】
本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法において使用する動物としては特に限定はなく、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ブタ等を採用することができる。
【0056】
本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法において使用する動物の体液としては、血液が好ましく用いられる。特に、血液から調製した血清又は血漿(体液成分)を測定試料とすることが好ましい。血清又は血漿は遠心分離等の公知の方法で血液から調製することができる。
【0057】
本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法における被験物質としては、食品素材、医薬原体などが挙げられる。特に、食品素材を評価対象とする場合は、機能性食品の開発に役立てることができる。
【0058】
本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法において、マーカー物質の濃度を測定する方法は、そのマーカー物質の濃度を特異的に測定できる方法であれば、タンパク質の定量に一般に用いられている方法をそのまま用いることができる。例えば、各種のイムノアッセイ、質量分析(MS)、クロマトグラフィー、電気泳動等を用いることができる。
【0059】
イムノアッセイによれば、夾雑物質の多い試料のままでも正確にマーカー物質の濃度を測定することができる。イムノアッセイの例としては、抗原抗体結合物を直接的又は間接的に測定する沈降反応、凝集反応、溶血反応などの古典的な方法や、標識法と組み合わせて検出感度を高めたエンザイムイムノアッセイ(EIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)等の方法が挙げられる。なお、これらのイムノアッセイに用いるマーカー物質に特異的な抗体は、モノクローナルでもよいし、ポリクローナルでもよい。
【0060】
質量分析によれば、各マーカー物質由来のイオンピークを特定し、そのイオンピーク強度をもって各マーカー物質の量(濃度)を測定することができる。質量分析によってマーカー物質の濃度を測定する場合のイオン化の方法としては、マトリクス支援レーザーイオン化(matrix-assisted laser desorption/ionization、MALDI)、エレクトロスプレーイオン化(electrospray ionization、ESI)のいずれも適用可能であるが、多価イオンの生成が少ないMALDIが好ましい。特に、飛行時間質量分析計(time-of-flight mass spectrometer、TOF)と組み合わせたMALDI−TOF−MSによれば、より正確にマーカー物質由来のイオンピークを特定することができる。
【0061】
電気泳動によりマーカー物質の濃度を測定する場合は、例えば、検査材料をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)に供して目的のマーカー物質を分離し、適宜の色素や蛍光物質でゲルを染色し、目的のマーカー物質に相当するバンドの濃さや蛍光強度を測定すればよい。SDS−PAGEだけではマーカー物質の分離が不十分な場合は、等電点電気泳動(IEF)と組み合わせた2次元電気泳動を用いることもできる。さらに、ゲルから直接検出するのではなく、ウエスタンブロッティングを行って膜上のマーカー物質の量を測定することもできる。
【0062】
クロマトグラフィーによってマーカー物質の濃度を測定する場合は、例えば、液体高速クロマトグラフィー(HPLC)による方法を用いることができる。すなわち、試料をHPLCに供して目的のマーカー物質を分離し、そのクロマトグラムのピーク面積を測定することにより試料中のマーカー物質の濃度を測定することができる。
【0063】
好ましい実施形態では、マーカー物質を担体上に捕捉し、その捕捉されたマーカー物質を測定対象とする。すなわち、マーカー物質に対する親和性を有する物質を担体に固定化し、その親和性を有する物質を介してマーカー物質を担体上に捕捉する。そして、捕捉された前記マーカー物質の量に基づいて体液中の前記マーカー物質の濃度を算出する。本実施形態によれば、試料中に含まれる夾雑物質の影響を低減させることができ、より高感度かつ高精度でマーカー物質の濃度を測定することができる。本実施形態において用いることができる担体の例としては、ビーズ、金属、ガラス、樹脂等のような一般的なものの他、基板のような、平面部分を有する担体を用いることができる。基板を用いる場合は、その平面部分の一部にマーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化することが好ましい。例としては、基板としてチップを用い、その表面の複数箇所にスポット的にマーカー物質に親和性を有する物質を固定化した担体が挙げられる。なお「親和性」の例としては、イオン結合、金属キレート体とタンパク質中のヒスチジン残基等とのアフィニティ、抗原と抗体、酵素と基質、若しくはホルモンとレセプターのようなバイオアフィニティ、及び、疎水性相互作用のような化学的な相互作用、が挙げられる。
【0064】
イオン結合によってマーカー物質を担体に捕捉する場合は、イオン交換体を担体に固定化する。この場合、イオン交換体には陽イオン交換体、陰イオン交換体のいずれも用いることができ、さらに、強陽イオン交換体、弱陽イオン交換体、強陰イオン交換体、弱陰イオン交換体のいずれも用いることができるが、強陰イオン交換体と弱陽イオン交換体が好ましく用いられる。強陰イオン交換体の例としては、4級アンモニウム(トリメチルアミノメチル)(QA)、4級アミノエチル(ジエチル,モノ・2−ヒドロキシブチルアミノエチル)(QAE)、4級アンモニウム(トリメチルアンモニウム)(QMA)等の強陰イオン交換基を有するものが挙げられる。また、弱陽イオン交換体の例としては、カルボキシメチル(CM)等の弱陽イオン交換基を有するものが挙げられる。また、強陽イオン交換体の例としては、スルホプロピル(SP)等の強陽イオン交換基を有するものが挙げられる。さらに、弱陰イオン交換体の例としては、ジメチルアミノエチル(DE)、ジエチルアミノエチル(DEAE)等の弱陰イオン交換基を有するものが挙げられる。
【0065】
金属キレート体を介してマーカー物質を捕捉する場合は、例えば、Cu2+、Zn2+、Ni2+、Co2+、Al3+、Fe3+、Ga3+等の金属キレート体を固定化した担体を用いることができる。
【0066】
抗体によってマーカー物質を担体に捕捉する場合は、マーカー物質に特異的な抗体を担体に固定化すればよい。
【0067】
疎水性相互作用によってマーカー物質を担体に捕捉する場合は、担体に疎水基をもつ物質を固定化する。疎水基の例としては、C4〜C20のアルキル基、フェニル基等が挙げられる。
【0068】
本実施形態においてマーカー物質の測定方法にイムノアッセイを用いる場合は、抗体を固定化した担体を用いることが好ましい。このようにすれば、担体に固定化された抗体を1次抗体としたイムノアッセイの系を簡単に構築することができる。例えば、マーカー物質に特異的でエピトープの異なる2種類の抗体を用意し、一方を1次抗体として担体に固定化し、他方を2次抗体として酵素標識し、サンドイッチEIAの系を構築することができる。その他、結合阻止法や競合法によるイムノアッセイの系も構築可能である。さらに、担体として基板を用いる場合は、抗体チップによるイムノアッセイが可能である。抗体チップによれば、複数のマーカー物質の濃度を同時に測定でき、迅速な測定が可能である。
【0069】
一方、本実施形態において質量分析を用いる場合は、例えば、抗体の他、イオン交換体、金属キレート体又は疎水基を固定化した担体を用いることができる。なお、これらの物質による結合は抗原と抗体等のバイオアフィニティほどの特異性がないので、これらの物質を固定化した担体を用いる場合はマーカー物質以外の物質も担体上に捕捉されうるが、質量分析によれば分子量を反映した質量分析計スペクトルによって定量するので、問題はない。特に、担体として基板を用い、表面エンハンス型レーザー脱離イオン化(surface-enhanced laser desorption/ionization)−飛行時間質量分析(time-of-flight mass spectrometry)(以下、「SELDI−TOF−MS」と称する)を行うことにより、マーカー物質の濃度をより正確に測定することができる。使用できる基板の種類としては、陽イオン交換基板、陰イオン交換基板、順相基板、逆相基板、金属イオン基板、抗体基板等を用いることができるが、陽イオン交換基板、特に弱陽イオン交換基板と、陰イオン交換基板、特に強陰イオン交換基板が好ましく用いられる。
【0070】
本発明の物質のスクリーニング方法は、本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法によって被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価し、所望の運動機能の向上・維持・回復効果を有する物質をスクリーニングするものである。本発明の物質のスクリーニング方法においても、上記した本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法の実施形態と全く同様の実施形態をとることができる。
【0071】
本発明の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法を簡便に行なうために、必要な試薬類をまとめて評価用キットを構築することができる。当該評価用キットとしては、例えば、マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含むものが挙げられる。特に、担体として、CM等の弱陽イオン交換体、あるいはQAやQAE等の強陰イオン交換体を固定化した基板を含めた評価用キットによれば、SELDI−TOF−MS等を簡便に行なうことができる。本キット中には他の試薬類、例えば、標準物質、前処理用の各種緩衝液等を含めてもよい。なお本キットは、所望の運動機能の向上・維持・回復効果を有する物質をスクリーニングするためのキットとしても使用できる。本発明のキットの構成例を以下に挙げる。
【0072】
〔キットの構成例〕
・弱陽イオン交換基板:1枚
・強陰イオン交換基板:1枚
・基板洗浄用バッファーA(pH3.0):適量
・基板洗浄用バッファーB(pH9.0):適量
・各マーカー物質の標準品:各適量
【0073】
以下に、本発明によって被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価する具体的手順の一例を挙げる。この例では、4群のマウスを用い、体液として血液、マーカー物質の測定にSELDI−TOF−MSを採用する。
【0074】
マウスを4群に分け、以下の条件で飼育する。
第1群(SC):運動負荷なし(S)+対照食摂取(C)
第2群(TC):運動負荷あり(T)+対照食摂取(C)
第3群(TP):運動負荷あり(T)+被験物質含有食摂取(P)
第4群(SP):運動負荷なし(S)+被験物質含有食摂取(P)
対照食は運動機能の向上・維持・回復効果を有する物質(例えば、ホエイタンパク質)を一切含まず、運動機能の向上・維持・回復効果を有さないことがわかっている成分(例えば、カゼイン)のみで構成する。被験物質含有食は、被験物質を含有する以外は対照食と基本的に同じ組成とする。第2群と第3群にはトレッドミルによる運動負荷を継続的にかける。
【0075】
一定期間飼育後の各群のマウスから血液を採取し、血漿サンプルを調製する。界面活性剤等で変性処理をした後、強陰イオン交換カラムにアプライし、pH9.0、pH5.0、pH3.0の各バッファー、並びに有機溶媒で順次溶出して分画する。
【0076】
pH9.0の溶出画分を弱陽イオン交換基板にスポットし、次いでpH3.0のバッファーで洗浄する。このとき、マーカー物質(A3)、(A5)、(A6)及び(A7)が基板上に捕捉される。また、pH3.0の溶出画分を弱陽イオン交換基板にスポットし、次いでpH3.0のバッファーで洗浄する。このとき、マーカー物質(A2)及び(A4)が基板上に捕捉される。また、有機溶媒の溶出画分を強陰イオン交換基板にスポットし、次いでpH9.0のバッファーで洗浄する。このとき、マーカー物質(A1)が基板上に捕捉される。各基板をSELDI−TOF−MSに供し、生じたイオンピークから各マーカー物質の濃度を算出する。
【0077】
マーカー物質ごとに第1群〜第4群の濃度値を横に並べ、増減パターンを解析する。「第1群−第2群−第3群−第4群」の値について、グループ1に属するマーカー物質の場合は「低−低−高−低」のパターンを示したときに、グループ2に属するマーカー物質の場合は「高−高−低−高」のパターンを示したときに、当該被験物質は運動機能の向上・維持・回復効果を有すると評価する。なお第2群と第4群の値は、それぞれ上記した(I)と(II)の基準値に相当する。この際、いずれか1つのマーカー物質を指標としてもよいし、複数のマーカー物質を指標としてもよい。
【0078】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0079】
1.動物の飼育と体液試料の調製
8週齢の雄性C57BL/6J系統マウス(日本エスエルシー社)を予備飼育し、4群に分けた。各群の個体数は7以上とした。
【0080】
〔各群の飼育条件〕
第1群(SC):運動負荷なし(S)+対照食摂取(C)
第2群(TC):運動負荷あり(T)+対照食摂取(C)
第3群(TP):運動負荷あり(T)+ホエイタンパク質含有食摂取(P)
第4群(SP):運動負荷なし(S)+ホエイタンパク質含有食摂取(P)
【0081】
〔飼料等〕
・対照食:AIN93
・ホエイタンパク質含有食(明治製菓株式会社製):対照食に含まれるカゼインをホエイタンパク質に置換した組成を有する。
・水と飼料は自由摂取
【0082】
〔飼育期間〕
・4週間
〔明暗、室温〕
・明時:8時〜20時,暗時:20時〜8時
・室温:22±2℃
【0083】
〔運動負荷〕
トレッドミル運動負荷を採用した。飼育1週目は15m/分で15分間、傾斜なしの条件から始め、徐々にスピードと運動時間を上げて慣れさせた。飼育2週目から飼育終了までは22m/分で30分、傾斜なしの条件で運動負荷を与えた。頻度は1日に1回、1週間あたり5日とし、2日以上の休息期間が生じないようにした。
【0084】
飼育終了後に各群のマウスから血液を採取した。採取した血液から血漿を調製し、体液試料とした。
【0085】
2.プロテインチップによる解析とイオンピークの選抜
各体液試料20μLに、変性バッファー(9M 尿素、2% CHAPS、50mM Tris−HCl(pH9.0))30μLを加えて前処理を行い、タンパク質を変性させた。次に、前処理した各体液試料を強陰イオン交換樹脂カラム(Q−Sepharose、GEヘルスケア社)にアプライした。次いで、pH9.0の緩衝液(50mM Tris−HCl(pH9.0)、0.1%(w/v)1−o−N−オクチル−β−D−グルコピラノシド(以下、「OGP」と称する。))、pH5.0の緩衝液(100mM 酢酸ナトリウム(pH5.0)、0.1%(w/v)OGP)、pH3.0の緩衝液(50mM クエン酸ナトリウム(pH3.0)、0.1%(w/v)OGP)、及び有機溶媒(0.1%トリフルオロ酢酸、50.0%アセトニトリルからなる混合液)各200μLで順に溶出させ、画分1(pH9.0で溶出、素通り)、画分2(pH5.0で溶出)、画分3(pH3.0で溶出)、画分4(有機溶媒で溶出)の4つの粗分画画分を得た。
【0086】
得られた各画分10μLをpH3.0のプロテインチップ結合バッファー(50mM クエン酸ナトリウム)で10倍希釈した後、弱陽イオン交換チップCM10(バイオラッド社)に添加した。同様に、得られた各画分10μLをpH9.0のプロテインチップ結合バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0))で10倍希釈した後、強陰イオン交換チップQ10(バイオラッド社)に添加した。各チップを各結合バッファーで3回洗浄した後に脱イオン水で1回洗浄し、乾燥させた。次に、エネルギー吸収分子であるシナピン酸(SPA−H、SPA−L)又はα−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(CHCA)を添加し、プロテインチップリーダーModel PBS IIc(バイオラッド社)を用いて、SELDI−TOF−MSを行なった。なお、測定分子量範囲(m/z)は、3000〜200000の範囲で行なった。また、測定は2連で行い、m/zの平均値を算出した。データ解析は、Protein Chip Software、CiphergenExpress Data Manager、及びBiomarker Patterns Software(いずれもバイオラッド社)を用いて行なった。具体的には、ベースライン補正、分子量校正、スペクトルの正規化処理を行なった後、シングルマーカー解析及び数本のマーカーを組み合わせたマルチフロー解析を行なった。その結果、粗分画画分の種類、プロテインチップの種類、チップの洗浄条件等の組み合わせによって多数のピークが検出された。各ピークについて、p値(Mann−Whitney検定法)、ROC面積、及びイオンピーク強度を算出した。これらの情報を元にして以下の手順S1〜S4にてピークを絞り込んだ。
【0087】
S1:運動マウス同士を比較した場合にホエイタンパク質摂取により発現量が増減したピークを選抜した。具体的には、第2群(TC)と第3群(TP)との間でイオン強度に有意差(p<0.05)があるピークを選抜した。この段階で57個の候補ピークが選抜された。
S2:57個のピークから運動により(a)の増減が抑制されたピークを除去した。具体的には、第1群(SC)と第2群(TC)との間でイオン強度に有意差(p<0.05)があるマーカーを除去した。これにより、43個の候補ピークに絞られた。
S3:43個の候補ピークからアーティファクト(2価イオン、ノイズ等)を除去した。これにより、22個の候補ピークに絞られた。
S4:22個の候補ピークから、ホエイタンパク質を摂取したマウス同士を比較した場合に運動により発現量が増減したピークを選抜した。具体的には、第3群(TP)と第4群(SP)との間でイオン強度に有意差(p<0.05または0.1)があるマーカーを選抜した。これにより、7個の候補ピークが最終的に選抜された。
なお、最終的に選抜されたピークの増減パターンは、いずれも第3群のみが高値または低値を示し、第1群、第2群および第4群の間ではあまり差がないものであった。
【0088】
3.マーカー物質(A1)の特定
画分4(有機溶媒)を弱陽イオン交換チップCM10に接触させ、pH3.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:CHCA)を行なった場合に、質量/電荷比が5280(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第2群および第4群で低値を示し、第3群で高値を示した。図1に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。図中、髭の上端と下端はそれぞれ最大値と最小値、箱の上辺と下辺はそれぞれ第3四分位(75パーセンタイル)と第1四分位(25パーセンタイル)、箱の中の線は中央値である(図2以降も同じ)。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0089】
ROC面積(第2群vs第3群):0.774
p値(第2群vs第3群):0.009
ROC面積(第1群vs第2群):0.667
p値(第1群vs第2群):0.184
ROC面積(第1群vs第4群):0.506
p値(第1群vs第4群):0.918
ROC面積(第3群vs第4群):0.735
p値(第3群vs第4群):0.031
【0090】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約5280のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(A1))が、運動負荷をかけると共にホエイタンパク質を摂取させた動物の体液中で有意に増減するものであり、継続的な運動とホエイタンパク質摂取との併用によってもたらされる運動機能(運動能力、運動パフォーマンス等)の変動(向上、維持、回復など)を反映するマーカーとなり得ることが分かった。これにより、被験物質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物の体液中におけるマーカー物質(A1)の濃度を指標として、被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果の評価が行なえることが示された。例えば、被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約5280のピークを生じるタンパク質の濃度が第1群〜第4群にかけて「低−低−高−低」のパターンを示したとき、当該被験物質はホエイタンパク質と同様の運動機能の向上・維持・回復効果を有する、と評価することができる。
【0091】
4.マーカー物質(A2)の特定
画分3(pH3.0)を強陰イオン交換チップQ10に接触させ、pH9.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:CHCA)を行なった場合に、質量/電荷比が6829(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第2群および第4群で高値を示し、第3群で低値を示した。図2に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0092】
ROC面積(第2群vs第3群):0.810
p値(第2群vs第3群):0.010
ROC面積(第1群vs第2群):0.639
p値(第1群vs第2群):0.225
ROC面積(第1群vs第4群):0.536
p値(第1群vs第4群):0.537
ROC面積(第3群vs第4群):0.658
p値(第3群vs第4群):0.089
【0093】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約6830のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(A2))が、運動負荷をかけると共にホエイタンパク質を摂取させた動物の体液中で有意に増減するものであり、継続的な運動とホエイタンパク質摂取との併用によってもたらされる運動機能(運動能力、運動パフォーマンス等)の変動(向上、維持、回復など)を反映するマーカーとなり得ることが分かった。これにより、被験物質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物の体液中におけるマーカー物質(A2)の濃度を指標として、被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果の評価が行なえることが示された。例えば、被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約6830のピークを生じるタンパク質の濃度が第1群〜第4群にかけて「高−高−低−高」のパターンを示したとき、当該被験物質はホエイタンパク質と同様の運動機能の向上・維持・回復効果を有する、と評価することができる。
【0094】
5.マーカー物質(A3)の特定
画分1(pH9.0)を弱陽イオン交換チップCM10に接触させ、pH3.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:SPA−L)を行なった場合に、質量/電荷比が7011(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第2群および第4群で高値を示し、第3群で低値を示した。図3に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0095】
ROC面積(第2群vs第3群):0.810
p値(第2群vs第3群):0.003
ROC面積(第1群vs第2群):0.583
p値(第1群vs第2群):0.564
ROC面積(第1群vs第4群):0.732
p値(第1群vs第4群):0.057
ROC面積(第3群vs第4群):は0.684
p値(第3群vs第4群):0.039
【0096】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約7010のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(A3))が、運動負荷をかけると共にホエイタンパク質を摂取させた動物の体液中で有意に増減するものであり、継続的な運動とホエイタンパク質摂取との併用によってもたらされる運動機能(運動能力、運動パフォーマンス等)の変動(向上、維持、回復など)を反映するマーカーとなり得ることが分かった。これにより、被験物質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物の体液中におけるマーカー物質(A3)の濃度を指標として、被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果の評価が行なえることが示された。例えば、被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約7010のピークを生じるタンパク質の濃度が第1群〜第4群にかけて「高−高−低−高」のパターンを示したとき、当該被験物質はホエイタンパク質と同様の運動機能の向上・維持・回復効果を有する、と評価することができる。
【0097】
6.マーカー物質(A4)の特定
画分3(pH3.0)を弱陽イオン交換チップCM10に接触させ、pH3.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:CHCA)を行なった場合に、質量/電荷比が7924(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第2群および第4群で低値を示し、第3群で高値を示した。図4に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0098】
ROC面積(第2群vs第3群):0.714
p値(第2群vs第3群):0.035
ROC面積(第1群vs第2群):は0.611
p値(第1群vs第2群):0.488
ROC面積(第1群vs第4群):0.542
p値(第1群vs第4群):0.643
ROC面積(第3群vs第4群):0.760
p値(第3群vs第4群):0.019
【0099】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約7920のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(A4))が、運動負荷をかけると共にホエイタンパク質を摂取させた動物の体液中で有意に増減するものであり、継続的な運動とホエイタンパク質摂取との併用によってもたらされる運動機能(運動能力、運動パフォーマンス等)の変動(向上、維持、回復など)を反映するマーカーとなり得ることが分かった。これにより、被験物質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物の体液中におけるマーカー物質(A4)の濃度を指標として、被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果の評価が行なえることが示された。例えば、被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約7920のピークを生じるタンパク質の濃度が第1群〜第4群にかけて「低−低−高−低」のパターンを示したとき、当該被験物質はホエイタンパク質と同様の運動機能の向上・維持・回復効果を有する、と評価することができる。
【0100】
7.マーカー物質(A5)の特定
画分1(pH9.0)を弱陽イオン交換チップCM10に接触させ、pH3.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:SPA−HJ)を行なった場合に、質量/電荷比が13678(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第2群および第4群で高値を示し、第3群で低値を示した。図5に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0101】
ROC面積(第2群vs第3群):0.899
p値(第2群vs第3群):0.001
ROC面積(第1群vs第2群):0.667
p値(第1群vs第2群):0.225
ROC面積(第1群vs第4群):0.780
p値(第1群vs第4群):0.027
ROC面積(第3群vs第4群):0.684
p値(第3群vs第4群):0.081
【0102】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約13700のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(A5))が、運動負荷をかけると共にホエイタンパク質を摂取させた動物の体液中で有意に増減するものであり、継続的な運動とホエイタンパク質摂取との併用によってもたらされる運動機能(運動能力、運動パフォーマンス等)の変動(向上、維持、回復など)を反映するマーカーとなり得ることが分かった。これにより、被験物質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物の体液中におけるマーカー物質(A5)の濃度を指標として、被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果の評価が行なえることが示された。例えば、被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約13700のピークを生じるタンパク質の濃度が第1群〜第4群にかけて「高−高−低−高」のパターンを示したとき、当該被験物質はホエイタンパク質と同様の運動機能の向上・維持・回復効果を有する、と評価することができる。
【0103】
8.マーカー物質(A6)の特定
画分1(pH9.0)を弱陽イオン交換チップCM10に接触させ、pH3.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:SPA−HJ)を行なった場合に、質量/電荷比が13881(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第2群および第4群で高値を示し、第3群で低値を示した。図6に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0104】
ROC面積(第2群vs第3群):0.810
p値(第2群vs第3群):0.003
ROC面積(第1群vs第2群):0.639
p値(第1群vs第2群):0.248
ROC面積(第1群vs第4群):0.780
p値(第1群vs第4群):0.021
ROC面積(第3群vs第4群):0.760
p値(第3群vs第4群):0.019
【0105】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約13900のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(A6))が、運動負荷をかけると共にホエイタンパク質を摂取させた動物の体液中で有意に増減するものであり、継続的な運動とホエイタンパク質摂取との併用によってもたらされる運動機能(運動能力、運動パフォーマンス等)の変動(向上、維持、回復など)を反映するマーカーとなり得ることが分かった。これにより、被験物質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物の体液中におけるマーカー物質(A6)の濃度を指標として、被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果の評価が行なえることが示された。例えば、被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約13900のピークを生じるタンパク質の濃度が第1群〜第4群にかけて「高−高−低−高」のパターンを示したとき、当該被験物質はホエイタンパク質と同様の運動機能の向上・維持・回復効果を有する、と評価することができる。
【0106】
9.マーカー物質(A7)の特定
画分1(pH9.0)を弱陽イオン交換チップCM10に接触させ、pH3.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:SPA−HJ)を行なった場合に、質量/電荷比が47095(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第2群および第4群で低値を示し、第3群で高値を示した。図7に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0107】
ROC面積(第2群vs第3群):0.786
p値(第2群vs第3群):0.009
ROC面積(第1群vs第2群):0.500
p値(第1群vs第2群):0.954
ROC面積(第1群vs第4群):0.655
p値(第1群vs第4群):0.136
ROC面積(第3群vs第4群)は0.760
p値(第3群vs第4群)は0.015
【0108】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約47100のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(A7))が、運動負荷をかけると共にホエイタンパク質を摂取させた動物の体液中で有意に増減するものであり、継続的な運動とホエイタンパク質摂取との併用によってもたらされる運動機能(運動能力、運動パフォーマンス等)の変動(向上、維持、回復など)を反映するマーカーとなり得ることが分かった。これにより、被験物質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物の体液中におけるマーカー物質(A7)の濃度を指標として、被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果の評価が行なえることが示された。例えば、被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約47100のピークを生じるタンパク質の濃度が第1群〜第4群にかけて「低−低−高−低」のパターンを示したとき、当該被験物質はホエイタンパク質と同様の運動機能の向上・維持・回復効果を有する、と評価することができる。
【実施例2】
【0109】
1.マーカー物質(A3)の精製と同定
強陰イオン交換樹脂Q−Sepharose HP(GEヘルスケア社)を充填したスピンカラム(1mL)を平衡化バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0),1M 尿素,0.22% CHAPS)にて平衡化した。C57BLマウス血清(清水実験材料社)500μLに対して変性バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0),9M 尿素,2% CHAPS)を750μL加えて変性処理し、平衡化した前記カラムに添加した。非吸着画分を回収し、SELDI−TOF−MSにて精製度を確認した。
【0110】
回収した画分の一部をアセトン沈殿処理した後、ポリペプチド分離用ゲル(15−20%)NTH−5A0T(DRC社)を用いてSDS−PAGEを行った。図8に結果を示す。図8中、レーン1〜6はいずれも回収画分、Mは分子量マーカーである。分離された約7.0kDaのバンド(図8の矢印)を切り出してタンパク質を抽出し、SELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(A3)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した(図9のa)。
【0111】
あらためて同様のSDS−PAGEを行って約7.0kDaのバンドを切り出し、還元アルキル化処理した後、0.01μg/μLのトリプシン溶液(50mM 炭酸水素アンモニウム(pH8.0)に溶解)を作用させてゲル内で消化した。消化したサンプル1μLを金属プレート上に滴下し、飽和CHCA溶液0.4μLをさらに滴下して乾燥させた後、質量分析計Proteomics Analyzer 4700(アプライドバイオシステムズ社)で測定したところ、少なくとも3個のピークが検出され、それらの精密質量は、「1279.70」、「1299.71」、及び「1042.53」と算出された。これらのデータを元にMascotデータベース(マトリックスサイエンス社)によって既知タンパク質を検索し、ペプチドマスフィンガープリンティングを行ったところ、精密質量「1279.70」、「1299.71」、及び「1042.53」のペプチドはそれぞれ配列番号7〜9で表わされるアミノ酸配列のペプチドと一致し、目的のタンパク質は99%以上の確率で「アポリポタンパク質C1」と同定された。各ペプチドの精密質量、アミノ酸配列、及び配列番号の対応関係を第1表に示す。既報のアポリポタンパク質C1のアミノ酸配列は配列番号1に示すとおりである。
【0112】
【表1】
【0113】
なお、図9に示すように、SELDI−TOF−MS分析においてマーカー物質(A3)よりも小さい質量(約6.8kDa)を示すピークも検出された(図9のb)。これら2種のタンパク質は性質が非常に似ていること、並びに、質量の値の比較から、ピークbのタンパク質はアポリポタンパク質C1(配列番号1)のN末端の2アミノ酸(Ala−Pro)が欠損した「アポリポタンパク質C1の修飾体」であると考えられた。アミノ酸配列から計算される質量は、ピークaが6993Da、ピークbが6825Daであった。
【0114】
2.マーカー物質(A4)の精製と同定
強陰イオン交換樹脂Q−Sepharose HP(GEヘルスケア社)を充填したスピンカラム(1mL)を平衡化バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0),1M 尿素,0.22% CHAPS)にて平衡化した。C57BLマウス血清(清水実験材料社)1mLに対して変性バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0),9M 尿素,2% CHAPS)を1.5mL加えて変性処理し、平衡化した前記カラムに添加した。50mM Tris−HCl(pH9.0),100mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)、及び50mM クエン酸ナトリウムバッファー(pH3.0)にてカラムを順次洗浄した後、溶出バッファー(33.3% イソプロパノール,16.7% アセトニトリル,0.1% TFA)にて溶出した。溶出画分の精製度をSELDI−TOF−MSにて確認した。
【0115】
回収した画分の一部をアセトン沈殿処理した後、2次元電気泳動(1次元目:Immobiline DryStrip(GEヘルスケア社)pH4−7,7cm;2次元目:ポリペプチド分離用ゲル(15−20%)NTH−5A2T(DRC社))に供した。結果を図10に示す。分離された約7.9kDaのバンド(図10の矢印)を切り出してタンパク質を抽出し、SELDI−TOF−MS分析を行った。マーカー物質(A4)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した(図11)。
【0116】
あらためて同様の条件で2次元電気泳動を行って約7.9kDaのバンド(図10の矢印)を切り出し、上記1と同様にしてゲル内消化及び質量分析を行ったところ、少なくとも5個のピークが検出され、それらの精密質量は「3239.45」、「3454.62」、「2832.46」、「1831.99」、及び「1193.67」と算出された。これらのデータを元に上記1と同様にしてペプチドマスフィンガープリンティングを行ったところ、精密質量「3239.45」、「3454.62」、「2832.46」、「1831.99」、及び「1193.67」のペプチドは、それぞれ配列番号10〜14で表わされるアミノ酸配列のペプチドと一致し、目的のタンパク質は99%以上の確率で「アポリポタンパク質A2」と同定された。各ペプチドの精密質量、アミノ酸配列、及び配列番号の対応関係を第2表に示す。さらに、アポリポタンパク質A2(配列番号2、78アミノ酸、等電点4.94、分子量8736)のN末端側70アミノ酸に相当するタンパク質断片の予想される等電点が5.13、分子量が7925であり、これらの値がマーカー物質(A4)の物性とよく一致した。これにより、マーカー物質(A4)はアポリポタンパク質A2の断片(配列番号3)と最終的に同定された。
【0117】
【表2】
【0118】
3.マーカー物質(A5)と(A6)の同定
C57BLマウス血清(清水実験材料社)を実施例1と同様にして変性処理とカラム精製に供し、4つの画分を得た。画分1(pH9.0、素通り)をSDS−PAGEにて分離した後、抗ヒトトランスサイレチン抗体(サンタクルーズ社)を用いたウエスタンブロッティングを行った。図12に結果を示す。図12中、レーン1はヒトトランスサイレチン標品(陽性対照)、レーン2はサンプル50μL相当、レーン3はサンプル100μL相当、である。その結果、レーン2,3において約13.7kDaのバンドが反応した。
【0119】
図13(a)に実施例1の第3群(TP)の画分1、図13(b)に本実施例で調製した画分1のSELDI−TOF−MS分析の結果をそれぞれ示す。これらのイオンピークのパターンはよく似ており、マーカー物質(A5)に相当する約13.7kDaのピークと、マーカー物質(A6)に相当する約13.8kDaのピークが検出された。
【0120】
トランスサイレチンには、システイン残基への修飾の種類が異なる種々の修飾体が存在することが知られている。各分子量の値から、マーカー物質(A5)は非修飾のトランスサイレチン、マーカー物質(A6)はSPAが結合した修飾トランスサイレチンであると考えられた。
【0121】
4.マーカー物質(A7)の精製と同定
強陰イオン交換樹脂Q−Sepharose HP(GEヘルスケア社)を充填したスピンカラム(5mL)を平衡化バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0),1M 尿素,0.22% CHAPS)にて平衡化した。C57BLマウス血清(清水実験材料社)1.5mLを20,000G、4℃で10分間遠心し、上清を回収した。回収した上清1.0mLに対して変性バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0),9M 尿素,2% CHAPS)を1.5mL加えて変性処理した。さらに平衡化バッファー2.5mLを加えて希釈した後、平衡化した前記カラムに添加した。50mM Tris−HCl(pH9.0)でカラムを洗浄した後、50mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)で2段階に分けて溶出した。溶出画分の精製度をSELDI−TOF−MSにて確認した。
【0122】
HiTrap SP HP(GEヘルスケア社)(1mL)を50mM MES−NaOH(pH6.0)にて平衡化した。前記溶出画分2mLを50mM MES−NaOH(pH6.0)で5倍希釈した後、平衡化した前記カラムに添加した。50,70,80,90,又は100mM NaClを含有する各50mM MES−NaOH(pH6.0)にてカラムを順次洗浄した後、1M NaClを含有する50mM MES−NaOH(pH6.0)にて溶出した。回収した溶出画分の精製度をSELDI−TOF−MSにて確認した。
【0123】
回収した画分の一部をAmicon Ultra(5kDaカット;ミリポア社)にて脱塩および濃縮した後、SDS−PAGE(7.5%ポリアクリルアミドゲル使用)を行った。結果を図14に示す。図14中、レーン4〜6が回収画分、Mは分子量マーカーである。分離された約47kDaのバンド(図14の矢印)を切り出してタンパク質を抽出し、SELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(A7)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した(図15)。
【0124】
あらためて同様のSDS−PAGEを行って約42kDaのバンドを切り出し、上記1と同様にしてゲル内消化及び質量分析を行ったところ、少なくとも7個のピークが検出され、それらの精密質量は「2306.08」、「1822.90」、「1545.82」、「1876.83」、「1105.60」、「1325.63」、及び「1038.54」と算出された。これらのデータを元に上記1と同様にしてペプチドマスフィンガープリンティングを行ったところ、精密質量「2306.08」、「1822.90」、「1545.82」、「1876.83」、「1105.60」、「1325.63」、及び「1038.54」のペプチドはそれぞれ配列番号15〜21で表わされるアミノ酸配列のペプチドと一致し、目的のタンパク質は99%以上の確率で「β−2−グリコプロテイン1」と同定された。各ペプチドの精密質量、アミノ酸配列、及び配列番号の対応関係を第3表に示す。既報のβ2−グリコプロテイン1のアミノ酸配列は配列番号6に示すとおりである。
【0125】
【表3】
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】質量/電荷比が5280(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図2】質量/電荷比が6829(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図3】質量/電荷比が7011(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図4】質量/電荷比が7924(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図5】質量/電荷比が13678(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図6】質量/電荷比が13881(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図7】質量/電荷比が47095(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図8】マーカー物質(A3)の精製過程で行ったSDS−PAGEの結果を示す写真である。
【図9】マーカー物質(A3)の精製過程で行ったSELDI−TOF−MS分析の結果を示すイオンピーク図である。
【図10】マーカー物質(A4)の精製過程で行った2次元電気泳動の結果を示す写真である。
【図11】マーカー物質(A4)の精製過程で行ったSELDI−TOF−MS分析の結果を示すイオンピーク図である。
【図12】実施例2で行ったウエスタンブロッティングの結果を表す写真である。
【図13】(a)は実施例1の第3群(TP)の画分1をSELDI−TOF−MS分析に供した結果を表すイオンピーク図、(b)は実施例2で調製した画分1をSELDI−TOF−MS分析に供した結果を表すイオンピーク図である。
【図14】マーカー物質(A7)の精製過程で行ったSDS−PAGEの結果を示す写真である。
【図15】マーカー物質(A7)の精製過程で行ったSELDI−TOF−MS分析の結果を示すイオンピーク図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験物質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物から採取した体液における下記マーカー物質(A1)〜(A7)の少なくとも1つの濃度を基準値と比較することにより、前記被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価することを特徴とする運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法。
(A1)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約5280のイオンピークを生じるタンパク質、
(A2)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約6830のイオンピークを生じるタンパク質、
(A3)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約7010のイオンピークを生じるタンパク質、
(A4)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約7920のイオンピークを生じるタンパク質、
(A5)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約13700のイオンピークを生じるタンパク質、
(A6)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約13900のイオンピークを生じるタンパク質、
(A7)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約47100のイオンピークを生じるタンパク質。
【請求項2】
下記(1)〜(5)の少なくとも1つを満たすことを特徴とする請求項1に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法。
(1)マーカー物質(A3)はアポリポタンパク質C1又はその修飾体である、
(2)マーカー物質(A4)はアポリポタンパク質A2又はその修飾体である、
(3)マーカー物質(A5)はトランスサイレチン又はその修飾体である、
(4)マーカー物質(A6)はトランスサイレチン又はその修飾体である、
(5)マーカー物質(A7)はβ2−グリコプロテイン1又はその修飾体である。
【請求項3】
被験物質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物から採取した体液における下記マーカー物質(B1)〜(B4)のいずれかに属する少なくとも1つの濃度を基準値と比較することにより、前記被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価することを特徴とする運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法。
(B1)アポリポタンパク質C1又はその修飾体、
(B2)アポリポタンパク質A2又はその修飾体、
(B3)トランスサイレチン又はその修飾体、
(B4)β2−グリコプロテイン1又はその修飾体。
【請求項4】
前記基準値は、下記(I)及び/又は(II)であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法。
(I)前記被験物質を摂取させずに運動負荷をかけた動物から採取した体液における前記マーカー物質の濃度、
(II)運動負荷をかけずに前記被験物質を摂取させた動物から採取した体液における前記マーカー物質の濃度。
【請求項5】
前記体液は、血液であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法。
【請求項6】
前記被験物質は、食品素材であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法。
【請求項7】
前記体液又は体液成分を、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体に接触させて、体液中の前記マーカー物質を担体上に捕捉し、捕捉された前記マーカー物質の量に基づいて体液中の前記マーカー物質の濃度を算出することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法。
【請求項8】
前記担体は平面部分を有し、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、該平面部分の一部に固定化されていることを特徴とする請求項7に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法。
【請求項9】
前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、イオン交換体又は抗体であることを特徴とする請求項7又は8に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法によって被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価し、当該評価結果に基づいて所望の運動機能の向上・維持・回復効果を有する物質をスクリーニングすることを特徴とする物質のスクリーニング方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法に用いるためのキットであって、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含むことを特徴とする運動機能の向上・維持・回復効果の評価用キット。
【請求項12】
前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、イオン交換体であることを特徴とする請求項11に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価用キット。
【請求項13】
運動機能の向上・維持・回復効果を有する物質をスクリーニングするために使用されることを特徴とする請求項11又は12に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価用キット。
【請求項1】
被験物質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物から採取した体液における下記マーカー物質(A1)〜(A7)の少なくとも1つの濃度を基準値と比較することにより、前記被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価することを特徴とする運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法。
(A1)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約5280のイオンピークを生じるタンパク質、
(A2)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約6830のイオンピークを生じるタンパク質、
(A3)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約7010のイオンピークを生じるタンパク質、
(A4)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約7920のイオンピークを生じるタンパク質、
(A5)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約13700のイオンピークを生じるタンパク質、
(A6)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約13900のイオンピークを生じるタンパク質、
(A7)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約47100のイオンピークを生じるタンパク質。
【請求項2】
下記(1)〜(5)の少なくとも1つを満たすことを特徴とする請求項1に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法。
(1)マーカー物質(A3)はアポリポタンパク質C1又はその修飾体である、
(2)マーカー物質(A4)はアポリポタンパク質A2又はその修飾体である、
(3)マーカー物質(A5)はトランスサイレチン又はその修飾体である、
(4)マーカー物質(A6)はトランスサイレチン又はその修飾体である、
(5)マーカー物質(A7)はβ2−グリコプロテイン1又はその修飾体である。
【請求項3】
被験物質を摂取させると共に運動負荷をかけた動物から採取した体液における下記マーカー物質(B1)〜(B4)のいずれかに属する少なくとも1つの濃度を基準値と比較することにより、前記被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価することを特徴とする運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法。
(B1)アポリポタンパク質C1又はその修飾体、
(B2)アポリポタンパク質A2又はその修飾体、
(B3)トランスサイレチン又はその修飾体、
(B4)β2−グリコプロテイン1又はその修飾体。
【請求項4】
前記基準値は、下記(I)及び/又は(II)であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法。
(I)前記被験物質を摂取させずに運動負荷をかけた動物から採取した体液における前記マーカー物質の濃度、
(II)運動負荷をかけずに前記被験物質を摂取させた動物から採取した体液における前記マーカー物質の濃度。
【請求項5】
前記体液は、血液であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法。
【請求項6】
前記被験物質は、食品素材であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法。
【請求項7】
前記体液又は体液成分を、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体に接触させて、体液中の前記マーカー物質を担体上に捕捉し、捕捉された前記マーカー物質の量に基づいて体液中の前記マーカー物質の濃度を算出することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法。
【請求項8】
前記担体は平面部分を有し、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、該平面部分の一部に固定化されていることを特徴とする請求項7に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法。
【請求項9】
前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、イオン交換体又は抗体であることを特徴とする請求項7又は8に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法によって被験物質が有する運動機能の向上・維持・回復効果を評価し、当該評価結果に基づいて所望の運動機能の向上・維持・回復効果を有する物質をスクリーニングすることを特徴とする物質のスクリーニング方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価方法に用いるためのキットであって、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含むことを特徴とする運動機能の向上・維持・回復効果の評価用キット。
【請求項12】
前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、イオン交換体であることを特徴とする請求項11に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価用キット。
【請求項13】
運動機能の向上・維持・回復効果を有する物質をスクリーニングするために使用されることを特徴とする請求項11又は12に記載の運動機能の向上・維持・回復効果の評価用キット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図11】
【図13】
【図15】
【図8】
【図10】
【図12】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図11】
【図13】
【図15】
【図8】
【図10】
【図12】
【図14】
【公開番号】特開2009−264932(P2009−264932A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−115002(P2008−115002)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(303058708)株式会社バイオマーカーサイエンス (27)
【出願人】(596156174)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(303058708)株式会社バイオマーカーサイエンス (27)
【出願人】(596156174)
【Fターム(参考)】
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