説明

運動用衣服

【課題】快適なランニングのフォームを導くことができる運動用衣服を提供する。
【解決手段】本発明の運動用衣服10は、身体にほぼ密着した状態で着用される運動用衣服であり、運動用衣服10は、少なくとも腰部から大腿部の上部までを被覆する部分を有し、伸縮性を有する生地で構成されており、運動用衣服10は、緊締力の強い緊締部を有し、上記緊締部が、臀部下辺部に沿って大腿外側部、大腿前面部の近位1/3を含む領域に配置された緊締部Aと、腰椎からウエストラインに沿って上前腸骨稜を通り臍下腹部に至る領域に配置された緊締部Bとを含み、緊締部Bにおいて、腰部の緊締部B2が腹部の緊締部B1より高い位置に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腰部から大腿部の上部までを被覆する部分を有する運動用衣服に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、スポーツウェアについて、適切な素材を用いることで、運動をサポートする機能を持たせる研究が進められてきている。また、近年では、緊締力が強い部分を形成し、運動をサポートする機能を向上させたスポーツウェアが提案されている。例えば、特許文献1には、伸縮部と、伸縮部より緊締力が大きく伸縮性を有する緊締部を有し、上記緊締部が上記伸縮部から連続して一体に形成され身体の所望の部位に当接しサポートする所定の形状に形成されている運動用被服が開示されている。また、特許文献2には、仙骨を固定するとともに股関節に外旋をかけてヒップを寄せるための第1サポート領域と、ヒップを上方に持ち上げるための第2サポート領域と、少なくとも大腿に圧力を加えるための第3サポート領域と、少なくとも内股に圧力を加えるための第4サポート領域とを含む着圧領域が設けられたトレンカが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−48332号公報
【特許文献2】実用新案登録第3161697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1〜2に記載のスポーツウェアは、緊締部や着圧領域により、股関節や膝関節などの関節を安定に保っているが、ランニング時の快適なフォームのためにさらに改善することが望まれる。
【0005】
本発明は、上記従来の問題を解決するため、快適なランニングのフォームを導くことができる運動用衣服を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の運動用衣服は、身体にほぼ密着した状態で着用される運動用衣服であり、上記運動用衣服は、少なくとも腰部から大腿部の上部までを被覆する部分を有し、伸縮性を有する生地で構成されており、上記運動用衣服は、緊締力の強い緊締部を有し、上記緊締部が、臀部下辺部に沿って大腿外側部と大腿前面部の近位1/3を含む領域に配置された緊締部Aと、腰椎からウエストラインに沿って上前腸骨稜を通り臍下腹部に至る領域に配置された緊締部Bとを含み、上記緊締部Bにおいて、腰部の緊締部が腹部の緊締部より高い位置に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の運動用衣服は、臀部下辺部に沿って大腿外側部と大腿前面部の近位1/3を含む領域に配置された緊締部Aと、腰椎からウエストラインに沿って上前腸骨稜を通り臍下腹部に至る領域に配置された緊締部Bとを含み、上記緊締部Bにおいて、腰部の緊締部が腹部の緊締部より高い位置に配置されていることにより、骨盤を前傾させることができ、ランニング時に足が前に進みやすくなる。また、ランニング時に、足接地位置が身体の重心より前にあるとブレーキになる可能性があるが、本発明の運動用衣服は、上記のように骨盤を前傾させることで足接地位置と身体の重心位置を近接させ、力をより効果的に地面に伝え、足をスムーズに前に進めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1Aは本発明の運動用衣服の一実施態様の正面図であり、図1Bは同背面図であり、図1Cは同外側面図である。
【図2】図2Aは本発明の運動用衣服の他の一実施態様の正面図であり、図2Bは同背面図であり、図2Cは同外側面図である。
【図3】図3は本発明の運動用衣服の一実施態様における前身頃のパターンを説明する図である。
【図4】図4は本発明の運動用衣服を着用した場合、腰部の緊締部が腹部の緊締部より高い位置に形成されていることにより骨盤が前傾することを説明する模式図である。
【図5】図5は本発明の運動用衣服を着用すると、骨盤が後傾した際に後傾を抑制することを説明する模式図である。
【図6】図6は本発明の運動用衣服を着用すると、膝がニーアウトした際にニーアウトを抑制することを説明する模式図である。
【図7】図7は本発明の運動用衣服を着用すると、膝がニーインした際にニーインを抑制することを説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において、「伸縮性を有する」とは、運動用衣服を構成する生地の身体の短軸方向における伸長率及び/又は身体の長軸方向における伸長率が0%を超えることを意味する。なお、本発明において、伸長率とは、JIS L 1096に準じて測定したものをいい、具体的には、荷重をかけていない状態の生地片の長さをL1とし、15Nの荷重をかけた状態の生地片の長さをL2とした場合、(L2−L1)/L1×100で算出したものである。
【0010】
また、本発明において、「ほぼ密着」の状態を作るには、人体の裸のサイズに対して、周囲方向は50〜110%、より好ましくは70〜95%、丈は75〜100%、より好ましくは85〜100%として運動用衣服を形成する。もちろん人体のサイズは個人差があるので、前記の比率は目安である。より具体的には、JASPO規格に従ってサイズを決める。
【0011】
本発明の運動用衣服は、少なくとも腰部から大腿部の上部までを被覆する部分を有すればよく、特に限定されないが、例えば腰部から膝上までを覆うように形成されていてもよく、腰部から膝下までを覆うように形成されていてもよく、腰部から足首までを覆うように形成されていてもよく、腰部から足甲までを覆うように形成されていてもよい。下半身全体にサポート感を与えるという観点から、腰部から足首までを覆うように形成されたランニングタイツ又は腰部から足甲までを覆うように形成されたランニングタイツであることが好ましい。
【0012】
本発明の運動用衣服は、緊締力の強い緊締部を有する。通常、生地の伸長率が低いほど緊締力が強くなり、緊締力が強いとは、伸長率が低いことを意味する。上記緊締部を構成する生地の身体の長軸方向における伸長率(以下、単に長軸伸長率と記す。)が、緊締部を除くその他の部位(以下において、単に他の部位とも記す。)を構成する生地の長軸伸長率より、30%以上低いことが好ましく、50%以上低いことがより好ましく、75〜100%低いことがさらに好ましい。上記緊締部を構成する生地の長軸伸長率と他の部位を構成する生地の長軸伸長率の差が30%以上であることにより、緊締部によるサポート感(緊締差感)を感じることができ、50%以上であると、緊締部によるサポート感に優れる。
【0013】
また、上記緊締部を構成する生地の長軸伸長率は、10〜120%であることが好ましく、20〜100%であることがより好ましい。緊締部によるサポート感に優れるうえ、圧迫感がなく着用感にも優れるからである。
【0014】
以下、図面に基づいて、本発明の運動用衣服を説明する。図1Aは本発明の運動用衣服の一実施態様の正面図であり、図1Bは同背面図であり、図1Cは同外側面図である。また、図2Aは本発明の運動用衣服の他の一実施態様の正面図であり、図2Bは同背面図であり、図2Cは同外側面図である。
【0015】
図1及び図2に示しているように、運動用衣服10は、臀部下辺部に沿って大腿外側部と大腿前面部の近位1/3を含む領域に配置された緊締部Aと、腰椎からウエストラインに沿って上前腸骨稜を通り臍下腹部に至る領域に配置された緊締部Bとを有する。本発明において、「大腿前面部の近位1/3」とは、身体前面から見た大腿部の体長方向における大腿部の付け根から始まって膝関節までの距離のおよそ3分の1までの範囲をいう。なお、運動用衣服10において、緊締部Aと緊締部Bは繋がっていてもよい。
【0016】
運動用衣服10において、緊締部Aの身体の長軸方向における幅は3cm以上であることが好ましく、5.5〜12cmであることがより好ましい。サポート感に優れるうえ、圧迫感がなく着用感にも優れるからである。なお、本発明において、緊締部Aの身体の長軸方向における幅とは、大腿外側部において測定するものであり、図1〜2に示しているように、臀部下辺部から下方に向けて形成された緊締部Aの身体の長軸方向における縫製ライン上の幅Yをいう。
【0017】
また、図1及び図2に示しているように、緊締部Bにおいて、腰部の緊締部B2が、腹部の緊締部B1より高い位置に形成されている。これにより、ランニング時に、骨盤を前傾させることができ、それゆえ足接地位置と身体の重心位置を近接させることもできる。また、運動用衣服10は、股ぐり線上において、前身頃のウエストの上部ラインから内股までの縫製線XIの長さが、後身頃のウエストの上部ラインから内股までの縫製線XIIの長さより、3〜8cm短いことが好ましく、3〜7.5cm短いことがより好ましい。腰部及び腹部に対するサポート感に優れるうえ、圧迫感がなく着用感にも優れるからである。
【0018】
運動用衣服10において、股ぐり線から体の外側に向けて平行6cm幅まで且つウエストの上部ラインから下25cmまでの領域内で、腹部の緊締部B1に対する腰部の緊締部B2の面積割合B2/B1(以下において、単に腹部の緊締部に対する腰部の緊締部の面積割合と記す。)が、50〜75%であることが好ましく、55〜70%であることがより好ましい。腰部及び腹部に対するサポート感に優れるうえ、圧迫感がなく着用感にも優れるからである。
【0019】
図4は、本発明の運動用衣服を着用した場合、腰部の緊締部が腹部の緊締部より高い位置に形成されていることにより骨盤が前傾することを説明する模式図である。図4において、Mは緊締部により骨盤にかかる力の方向を示し、Nは緊締部により骨盤にかかるトルクを示している。図4に示しているように、本発明の運動用衣服を着用すると、緊締部により矢印Mで示す方向の力が骨盤にかかることにより、骨盤に矢印Nで示すトルクがかかり、骨盤が前傾することになる。
【0020】
図5は、本発明の運動用衣服を着用すると、骨盤が後傾した際に後傾を抑制することを説明する模式図である。図5において、矢印Oは骨盤が後傾した際に緊締部によって骨盤にかかる前側の力の大きさを示し、矢印Pは骨盤が後傾した際に緊締部によって骨盤にかかる後側の力の大きさを示している。図5に示しているように、骨盤が後傾した際、矢印Oで示す骨盤にかかる前側の力の大きさは、矢印Pで示す緊締部によって骨盤にかかる後側の力の大きさより大きく、骨盤が後傾することを抑制できる。
【0021】
また、運動用衣服10において、着用感の観点から、股部には緊締部が配置されていないことが好ましい。
【0022】
また、運動用衣服10において、図2に示しているように、膝の両側に緊締部Cが配置されていることが好ましい。これにより、ランニング時に膝を真直ぐに前方向に屈折させることができ、余分なニ−イン(Knee−in)又はニ−アウト(Knee−out)によって生じ得る膝への負担を軽減できる。
【0023】
図6は、本発明の運動用衣服を着用すると、膝がニーアウトした際にニーアウトを抑制することを説明する模式図である。図6において、矢印Qはニーアウトした際に緊締部によって膝の外側にかかる力の大きさを示し、矢印Rはニーアウトした際に緊締部によって膝の内側にかかる力の大きさを示し、矢印Sはニーアウトした際に緊締部によって膝にかかる力の方向を示している。図6に示しているように、ニーアウトした際には、矢印Qで示すニーアウトした際に緊締部によって膝の外側にかかる力の大きさが、矢印Rで示すニーアウトした際に緊締部によって膝の内側にかかる力の大きさより大きく、結果的に膝には矢印Sで示す力がかかることになり、膝のニーアウトを抑制する。
【0024】
図7は本発明の運動用衣服を着用すると、膝がニーインした際にニーインを抑制することを説明する模式図である。図7において、矢印Tはニーインした際に緊締部によって膝の内側にかかる力の大きさを示し、矢印Uはニーインした際に緊締部によって膝の外側にかかる力の大きさを示し、矢印Vはニーインした際に緊締部によって膝にかかる力の方向を示している。図7に示しているように、ニーインした際には、矢印Tで示すニーインした際に緊締部によって膝の内側にかかる力の大きさが、矢印Uで示すニーインした際に緊締部によって膝の外側にかかる力の大きさより大きく、結果的に膝には矢印Vで示す力がかかることになり、膝のニーインを抑制する。
【0025】
また、運動用衣服10は、図3に示しているように、前身頃のパターンにおいて、ウエストからソケイ部中央付近にかけて前切り替え線11があり、前切り替え線11とウエスト上端部の交点をDとし、股ぐリ線と内股切り替え線の交点Hから地の目に直行する線Iと前切り替え線11との交点をJとし、交点Jから下に引いた垂直線12と前裾から水平に引かれた直線13の交点をFとし、交点Jと交点F間の直線12上において交点Jからの距離が交点Jと交点F間の距離の2/5に該当する位置から水平に引かれた直線14と前切り替え線11の交点をEとした場合、交点D、J及びEでなす角度Gが160〜175°の範囲であることが好ましく、165〜170°であることがより好ましい。腰に対するサポート感に優れるうえ、圧迫感がなく着用感に優れるからである。
【0026】
本発明において、生地としては、伸縮性を有するものであればよく、特に限定されず、例えば織物、編物などの通常の衣服用生地を用いることができる。織物としては、例えば平織、斜文織、朱子織、変化平織、変化斜文織、変化朱子織、変わり織、紋織、片重ね織、二重組織、多重組織、経パイル織、緯パイル織、絡み織などが挙げられる。編物としては、例えば丸編、緯編、経編(トリコット編、ラッセル編を含む)、パイル編、平編、天竺編、リブ編、スムース編(両面編)、ゴム編、パール編、デンビー組織、コード組織、アトラス組織、鎖組織、挿入組織などが挙げられる。上記生地は、目付けが120〜280g/m2の範囲が好ましく、より好ましくは140〜250g/m2の範囲、さらに好ましくは160〜230g/m2の範囲である。上記の範囲であれば、運動機能を損なわず、耐久性も良く、軽くて動きやすい利点がある。また、上記生地は、エラストマー樹脂又はゴムにより含浸或いはプレス処理されたものでもよい。エラストマー樹脂としては、ウレタン系エラストマー、軟質塩化ビニル系エラストマー、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、アミド系エラストマー、塩素化ポリエチレン系エラストマー、Syn−1,2−ポリブタジエン系エラストマー、Trans−1,4−ポリイソプレン系エラストマー、フッ素系エラストマー等が挙げられる。ゴムとしては、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、合成ゴム、天然ゴム等が挙げられる。また、上記生地は一枚であってもよく、異なる伸長率の二枚の生地を重ねたものであってもよい。
【0027】
上記生地を構成する繊維としては、特に限定されず、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル繊維、ポリウレタン繊維、ポリアミド繊維、アセテート繊維、コットン繊維、レーヨン繊維、エチレンビニルアルコール繊維、ナイロン繊維などを用いることができる。
【0028】
運動用衣服10は、伸長率が異なる生地をそれぞれ用いて緊締部と他の部位を構成してもよく、所定の伸長率の一種類の生地で衣服を作製した後、上記所定の伸長率と伸長率が異なる生地を裏打ちして緊締部を形成してもよい。また、“セーレンビスコマジック”(セーレン株式会社製)などのナイロン繊維糸とポリエステル繊維糸を引き揃えた特殊な生地を用いて、ポリエステル繊維のみを所定の位置で特殊溶剤にて溶かすことにより緊締部を形成してもよい。また、島精機製作所の“ホールガーメント”専用機を用いて、緊締部と他の部位を異なる繊維組成で編むことにより作製してもよい。中でも、着用感がより良好になるという観点から、運動用衣服10は、“セーレンビスコマジック”(セーレン株式会社製)などの特殊な生地や島精機製作所の“ホールガーメント”専用機を用いて形成することが好ましい。
【実施例】
【0029】
以下実施例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
緊締部には長軸伸長率が25%、身体の短軸方向における伸長率(以下、単に短軸伸長率と記す。)が60%、目付けが270g/m2であるトリコット経編地(ポリエステル繊維38質量%、ナイロン繊維30質量%、ポリウレタン繊維32質量%)を用い、他の部位には長軸伸長率が130%、短軸伸長率が90%、目付けが180g/m2であるトリコット経編地(ポリエステル繊維54質量%、ポリウレタン繊維46質量%)を用い、図2に示したようなランニングタイツを作製した。
【0031】
(比較例1)
長軸伸長率が220%、短軸伸長率が100%、目付けが180g/m2であるトリコット経編地(ポリエステル繊維85質量%、ポリウレタン繊維15質量%)を用いて、緊締部を有しない図2に示したようなランニングタイツを作製した。
【0032】
実施例1及び比較例1のランニングタイツを、それぞれ10名の被験者に着用させ、ランニング時の各関節角度、進行方向成分における身体の重心と踵間の距離を下記のように測定し、その結果を下記表1に示した。
【0033】
(関節角度)
速度10km/hでランニング中の骨盤角度及び膝角度を、右足を基準として測定した。具体的には、骨盤角度は、ソールが全面接地した状態における矢状面での仙骨と上前腸骨稜を結ぶ角度と定義しており、角度が大きい程骨盤が前傾していることになる。膝角度は、ソールが全面接地した状態における前額面での大転子と膝と足首を結ぶ角度と定義しており、膝を角度中心とした。なお、静止立位の角度を基準にした場合、プラスがニ−アウト、マイナスがニ−インとなる。
【0034】
(身体の重心と踵間の距離)
速度10km/hでランニング中の右足踵接地直後における重心と踵との進行方向成分の距離を測定した。
【0035】
【表1】

【0036】
上記表1の結果から分かるように、全ての被験者において、実施例のランニングタイツを着用したほうが、ランニング時の骨盤角度が大きく、骨盤が前傾している。また、骨盤が前傾することにより、身体の重心と踵間の距離が小さくなっており、すなわち足接地位置が身体の重心により近接しており、地面への力が伝わりやすく、スムーズな走りができる。また、地面への力が伝わりやすいことで、促進力が増し速く走ることもできると思われる。また、全ての被験者において、実施例のランニングタイツを着用したほうが、ランニング時の膝角度が0に近く、静止立位時の角度との差が少なく、余分なニーイン及び/又はニーアウトを防ぐことができ、膝の故障を抑制し得る。
【0037】
(実施例2〜5)
下記表2に示した長軸伸長率を有する生地を、それぞれ緊締部及び他の部位に用い、実施例1と同様にして、実施例2〜5のランニングタイツを作製した。なお、実施例2〜5において、緊締部に用いた生地の短軸伸長率はいずれも60%であり、他の部位に用いた生地の短軸伸長率はいずれも90%であった。
【0038】
実施例1〜5のランニングタイツを、それぞれ10名の被験者に着用させ、ランニング時に緊締部による緊締差を感じるかを、以下のような5段階の基準で官能評価し、その結果を下記表2に示した。なお、表2には、各実施例における10名の被験者の平均を示した。
【0039】
<緊締差感の官能評価>
1 悪い
2 やや悪い
3 普通
4 良い
5 非常に良い
【0040】
【表2】

【0041】
表2から分かるように、緊締部に用いた生地と他の部位に用いた生地の長軸伸長率の差が30%以上であると緊締差を感じることができ、50%以上であると緊締差感が良好になる。
【0042】
(実施例6〜11)
下記表3に示した長軸伸長率を有する生地を緊締部に用い、長軸伸長率が130%の生地を他の部位を用い、実施例1と同様にして、実施例6〜11のランニングタイツを作製した。なお、実施例6〜11において、緊締部に用いた生地の短軸伸長率はいずれも60%であり、他の部位に用いた生地の短軸伸長率はいずれも90%であった。
【0043】
実施例1及び実施例6〜11のランニングタイツを、それぞれ10名の被験者に着用させ、緊締部によるサポート感及び着脱と動き安さなどの着用感を、以下のような5段階の基準で官能評価し、その結果を下記表3に示した。なお、表3には、各実施例における10名の被験者の平均を示した。
【0044】
<サポート感の官能評価>
1 悪い
2 やや悪い
3 普通
4 良い
5 非常に良い
【0045】
<着用感の官能評価>
1 悪い
2 やや悪い
3 普通
4 良い
5 非常に良い
【0046】
【表3】

【0047】
表3から分かるように、緊締部に用いる生地の長軸伸長率が10〜120%であるとサポート感と着用感のいずれも良好であり、20〜100%であるとサポート感及び着用感が非常に良好になる。
【0048】
(実施例12〜18)
股ぐり線上において、前身頃のウエストの上部ラインから内股までの縫製線XIの長さと、後身頃のウエストの上部ラインから内股までの縫製線XIIの長さの差(以下において、「骨盤部における前後差」とも記す。)を、下記表4に示した値にした以外は、実施例1と同様にして、実施例12〜18のランニングタイツを作製した。なお、実施例1において、骨盤部における前後差は4.3cmであった。
【0049】
実施例1、12〜18のランニングタイツを、それぞれ10名の被験者に着用させ、腰部及び腹部の着用感及びサポート感を、上記のように官能評価し、その結果を下記表4に示した。なお、表4には、各実施例における10名の被験者の平均を示した。
【0050】
【表4】

【0051】
上記表4から分かるように、骨盤部における前後差が3〜8cmであると、腰部及び腹部のサポート感に優れ、3〜7.5cmであると腰部及び腹部のサポート感に優れるうえ着用感も良好である。
【0052】
(実施例19〜30)
緊締部Aの身体の長軸方向における幅を、下記表5に示した値にした以外は、実施例1と同様にして、実施例19〜30のランニングタイツを作製した。なお、実施例1において、緊締部Aの身体の長軸方向における幅は5.9cmであった。
【0053】
実施例1、19〜30のランニングタイツを、それぞれ10名の被験者に着用させ、臀部下辺部及び大腿部の着用感及びサポート感を、上記のように官能評価し、その結果を下記表5に示した。なお、表5には、各実施例における10名の被験者の平均を示した。
【0054】
【表5】

【0055】
上記表5から分かるように、緊締部Aの身体の長軸方向における幅が3cm以上であると、臀部下辺部及び大腿部のサポート感に優れるうえ着用感も良好であり、5.5〜12cmであると臀部下辺部及び大腿部の着用感とサポート感がより良好になる。
【0056】
(実施例31〜35)
腹部の緊締部B1に対する腰部の緊締部B2の面積割合B2/B1を、下記表6に示した値にした以外は、実施例1と同様にして、実施例31〜35のランニングタイツを作製した。なお、実施例1において、腹部の緊締部に対する腰部の緊締部の面積割合は55.6%であった。
【0057】
実施例1、31〜35のランニングタイツを、それぞれ10名の被験者に着用させ、腰部及び腹部における着用感及びサポート感を、上記のように官能評価し、その結果を下記表6に示した。なお、表6には、各実施例における10名の被験者の平均を示した。
【0058】
【表6】

【0059】
上記表6から分かるように、腹部の緊締部に対する腰部の緊締部の面積割合が50〜75%であると、腰部及び腹部のサポート感に優れるうえ着用感も良好であり、55〜70%であると腰部及び腹部の着用感とサポート感が非常に優れる。
【0060】
(実施例36〜40)
角度Gを、下記表7に示した値にした以外は、実施例1と同様にして、実施例36〜40のランニングタイツを作製した。なお、実施例1において、角度Gは169.7°であった。
【0061】
実施例1、36〜40のランニングタイツを、それぞれ男女10名の被験者に着用させ、腰部の着用感及びサポート感を、上記のように官能評価し、その結果を下記表7に示した。なお、表7には、各実施例における10名の被験者の平均を示した。
【0062】
【表7】

【0063】
上記表7から分かるように、角度Gが160〜175°であると、腰部の着用感及びサポート感のいずれも良好であり、165〜170°であると腰部の着用感及びサポート感が非常に良好になる。
【符号の説明】
【0064】
10 運動用衣服
A、B、B1、B2、C 緊締部
XI、XII 縫製線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
身体にほぼ密着した状態で着用される運動用衣服であり、
前記運動用衣服は、少なくとも腰部から大腿部の上部までを被覆する部分を有し、伸縮性を有する生地で構成されており、
前記運動用衣服は、緊締力の強い緊締部を有し、
前記緊締部が、臀部下辺部に沿って大腿外側部と大腿前面部の近位1/3を含む領域に配置された緊締部Aと、腰椎からウエストラインに沿って上前腸骨稜を通り臍下腹部に至る領域に配置された緊締部Bとを含み、
前記緊締部Bにおいて、腰部の緊締部が腹部の緊締部より高い位置に形成されていることを特徴とする運動用衣服。
【請求項2】
前記緊締部Aの身体の長軸方向における幅が3cm以上である請求項1に記載の運動用衣服。
【請求項3】
前記緊締部を構成する生地の身体の長軸方向における伸長率が、前記緊締部を除くその他の部位を構成する生地の身体の長軸方向における伸長率より50%以上低い請求項1又は2に記載の運動用衣服。
【請求項4】
前記緊締部を構成する生地の身体の長軸方向における伸長率が10〜120%である請求項1〜3のいずれか1項に記載の運動用衣服。
【請求項5】
股ぐり線上において、前身頃のウエストの上部ラインから内股までの縫製線の長さが、後身頃のウエストの上部ラインから内股までの縫製線の長さより3〜7.5cm短い請求項1〜4のいずれか1項に記載の運動用衣服。
【請求項6】
股ぐり線から体側に向けて平行6cm幅まで且つウエストの上部ラインから下25cmまでの領域内で、前記腹部の緊締部に対する前記腰部の緊締部の面積割合が50〜75%である請求項1〜5のいずれか1項に記載の運動用衣服。
【請求項7】
股部には緊締部が配置されていない請求項1〜6のいずれか1項に記載の運動用衣服。
【請求項8】
さらに、膝の両側に緊締部Cが配置されている請求項1〜7のいずれか1項に記載の運動用衣服。
【請求項9】
前身頃のパターンにおいて、ウエストからソケイ部中央付近にかけて前切り替え線があり、前切り替え線とウエスト上端部の交点をDとし、
股ぐリ線と内股切り替え線の交点Hから地の目に直行する線Iと前切り替え線との交点をJとし、
交点Jから下に引いた垂直線と前裾から水平に引かれた直線の交点をFとし、交点Jと交点F間の直線上において交点Jからの距離が交点Jと交点F間の距離の2/5に該当する位置から水平に引かれた線と前記前切り替え線の交点をEとした場合、
交点D、J及びEでなす角度が160〜175°の範囲である請求項1〜8のいずれか1項に記載の運動用衣服。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−140742(P2012−140742A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−275606(P2011−275606)
【出願日】平成23年12月16日(2011.12.16)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【Fターム(参考)】