説明

運行データ収集装置

【課題】だれでもエレベータの運行の状態を確認できるようかごの振動データを収集し加工し表示する運行データ収集装置を提供する。
【解決手段】運行データ収集装置は、エレベータのかご内に配置され上記エレベータの乗り心地に係わる運行データを収集する運行データ収集装置において、全開から閉まり始める位置の上記かごの扉を検出する近接センサと、上記エレベータが良好な乗り心地に調整されたとき収集した運行データと乗り心地の調整の必要性を判断するために収集した運行データとの差分を上記近接センサからの信号に基づいて決められる収集を開始する時点を一致させて求め、且つ求めた差分を表示する本体と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、運行されるエレベータのかごの移動に係わるデータを収集する運行データ収集装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレベータの乗り心地の評価では、エレベータを停止状態から加速走行、定速走行および減速走行させた後、停止させる間のエレベータのかご振動の加速度を測定する。評価項目が加速走行時および減速走行時のエレベータのかご振動の最大加速度である場合は、加速度の絶対値が最大のものを抽出する。操作者がかご振動の加速度波形の中の所定の範囲での評価を指定した場合は、その範囲でのかご振動の加速度波形の中の極小点と極大点間の加速度差をそれぞれ演算して、予め記憶しておいた前記指定した範囲に対応する評価項目の規定値と比較して、エレベータの乗り心地を評価する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、エレベータの乗り心地を加速度を用いて評価する装置は、エレベータの加速度を計測する加速度検出器と、この加速度検出器により計測される加速度を記録する加速度記録手段と、前記加速度検出器により計測される加速度の時間的変化を計測する変化計測手段と、この手段により計測される加速度の時間的変化を所定の値と比較する比較手段と、この比較手段により、加速度の時間的変化が増加し第1の所定値に達した時点の第1の所定時間前から、加速度の時間的変化が減少し第2の所定値より下がった時点の第2の所定時間後までの前記加速度記録手段により記録されたエレベータの加速度を走行特性データとして抽出するデータ抽出手段とから成る(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平09−77406号公報
【特許文献2】特開2002−348060号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、かご振動の加速度波形の中の所定の範囲を指定したり、指定した範囲に対応する評価項目の規定値を設定したりするためには専門的な知識が必要でありだれでもエレベータの乗り心地を評価できるものではないという問題がある。
【0006】
この発明の目的は、だれでもエレベータの運行の状態を確認できるようかごの運行データを収集し加工し表示する運行データ収集装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る運行データ収集装置は、エレベータのかご内に配置され上記エレベータの乗り心地に係わる運行データを収集する運行データ収集装置において、全開から閉まり始める位置の上記かごの扉を検出する近接センサと、上記エレベータが良好な乗り心地に調整されたとき収集した運行データと乗り心地の調整の必要性を判断するために収集した運行データとの差分を上記近接センサからの信号に基づいて決められる収集を開始する時点を一致させて求め、且つ求めた差分を表示する本体と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
この発明に係る運行データ収集装置の効果は、扉に近接する近接センサからの信号に従って決まる運行データの収集開始時点と収集終了時点とがそれぞれ他の運行データの収集開始時点と収集終了時点とに重なるようにして、良好な乗り心地に調整されたときに収集した運行データと現時点で収集した運行データとの差分を求めて液晶表示パネルに表示するので、運行データに関する特徴がつまびらかでなくても、乗り心地が悪くなって調整が必要であるか否かを判断することができることである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、この発明に係る実施の形態1による運行データ収集装置が収集時にエレベータのかごに配置される様子を示す図である。図2は、この発明に係る実施の形態1による運行データ収集装置の本体の構成を示す構成図である。図3は、この発明に係る実施の形態1による運行データ収集装置の本体を正面から見た図である。図4は、この発明に係る実施の形態1による運行データ収集装置の本体を側面から見た図である。
【0010】
この発明に係る実施の形態1による運行データ収集装置1は、エレベータの乗り心地を良好に維持するためにエレベータのかご2が動くときの加速度や騒音などかご2の運行に関するデータ(以下、「運行データ」と称す)を収集するときなどに用いられる。
この発明に係る実施の形態1による運行データ収集装置1は、図1に示すように、エレベータのかご2の床3に運行データの収集のとき配置される本体4、およびかご2の扉5に近接して床3に配置される近接センサ6を備える。
近接センサ6は、扉5が全開しているときには扉5を検知しないので戸開閉信号のレベルをLOWに保ち、扉5が閉まり始まると扉5を検知するので戸開閉信号のレベルをHIGHに変化する。このように近接センサ6を配置すると、扉5が閉まりだした収集開始時点と、扉5が全開した収集終了時点との間を、収集の時間帯に設定できる。
【0011】
本体4は、図2に示すように、処理装置10、かご2の加速度を計測する加速度センサ11、音を拾うマイク12、時計13、音データを増幅するアンプ14、アンプ14で増幅された音を鳴らすスピーカ15、収集に係わる情報を外部から入力するためのテンキー16、処理装置10で処理した結果を表示する液晶表示パネル17、収集したデータを携帯記憶媒体としてのメモリカード18に書き込むとともにメモリカード18からデータを読み取る書込読取装置19、および、本体全体に電源を供給する電源20を備える。
【0012】
加速度センサ11は、3軸方向のかご2の加速度に比例する加速度信号を発生し処理装置10に送る。なお、以下の説明ではかご2の昇降する方向の加速度信号を対象にして説明するが他の方向の加速度信号に対しても同様に処理することができる。
マイク12は、かご内の音の音量に比例する音信号を発生し処理装置10に送る。
【0013】
本体4の正面には、図3に示すように、液晶表示パネル17、マイク12、電源スイッチ8、テンキー16が配置されている。
液晶表示パネル17には、メモリカード18から読み取った加速度データまたは音データを横軸に時間、縦軸に加速度または音量が示されるようにして表示する比較領域17a、収集した加速度データまたは音データを横軸に時間、縦軸に加速度または音量が示されるようにして表示する収集領域17b、算出した加速度差分データまたは音差分データを横軸に時間、縦軸に加速度差分または音量差分が表示されるようにして表示する差分領域17cが設定されている。
【0014】
本体4の一側面には、図4に示すように、書込読取装置19のスロット9、スピーカ15が配置されている。
アンプ14は、収集された音データを音として再生するとき音データをアナログ信号に変換し増幅してスピーカ15を駆動する。スピーカ15から再生された音が聞こえる。
【0015】
図5は、この発明に係る実施の形態1による処理装置の機能ブロック図である。
処理装置10は、図5に示すように、運行データを収集する運行データ収集手段31、新規に収集した運行データをメモリカード18に記憶する運行データ記憶手段32、以前良好な乗り心地に調整したときに収集しメモリカード18に記憶した運行データが存在するかご2の新たに収集した運行データとメモリカード18に記憶した運行データとの差分を算出する差分算出手段33、収集した運行データが一旦記憶されるデータ記憶部34、液晶表示パネル17に運行データおよび運行データの収集に係わる情報を表示する表示手段35、および、音データを再生する騒音再生手段36を有する。
なお、処理装置10は、CPU、ROM、RAM、インターフェース回路を有するコンピュータから構成され、ROMに記憶されているプログラムを読み出してCPUでデータが処理される。
【0016】
運行データ収集手段31は、近接センサ6からの戸開閉信号のレベルがHIGHに変化したことから検知される扉5の閉じ始めから戸開閉信号のレベルがLOWに変化したことから検知される扉5の全開までの間に亘って、加速度センサ11からの加速度信号およびマイク12からの音信号を取り込み、取り込んだ加速度信号および音信号をサンプリング周期で量子化してデジタルの加速度データおよび音データに変換し、変換した加速度データおよび音データをデータ記憶部34に記憶する。
運行データ記憶手段32は、収集した運行データが新規のときデータ記憶部34から読み出してメモリカード18に記憶する。
【0017】
差分算出手段33は、メモリカード18に運行データが記憶されている同じエレベータの同じ条件の運行データを収集したとき、メモリカード18から読み取った加速度データからデータ記憶部34に記憶された加速度データを減算して加速度差分データを求め、またはメモリカード18から読み取った音データからデータ記憶部34に記憶された音データを減算して音差分データを求める。なお、デジタルの2つのデータの減算を行うときには、他方のデータの符号を変えてから加算することにより容易に演算することができる。
【0018】
表示手段35は、メモリカード18から読み取ったときに、メモリカード18から読み取った加速度データまたは音データを液晶表示パネル17の比較領域17aに収集開始時点が表示開始点、収集終了時点が表示終了点になるよう表示する。
また、表示手段35は、データ記憶部34に記憶されたときに、データ記憶部34に記憶された加速度データまたは音データを液晶表示パネル17の収集領域17bに収集開始時点が表示開始点、収集終了時点が表示終了点になるよう表示する。
また、表示手段35は、差分算出手段33により求められた加速度差分データまたは音差分データを算出したとき、差分算出手段33により求められた加速度差分データまたは音差分データを液晶表示パネル17の差分領域17cに収集開始時点が表示開始点、収集終了時点が表示終了点に表示するようにし、且つ加速度差分データまたは音差分データのP−P値が所定の値になるよう表示する。
【0019】
騒音再生手段36は、テンキー16の再生釦21が操作者により押下されて再生信号が入力されると、メモリカード18から読み取った音データをアンプ14に送り、次に、データ記憶部34に記憶された音データをアンプ14に送る。その結果、操作者は実際の音として聞いて違いを確認することもできる。
【0020】
次に、この発明に係る実施の形態1による運行データ収集装置1の動作について説明する。図6は、この発明に係る実施の形態1による運行データ収集装置1の動作を示すフローチャートである。
運行データ収集装置1によりかご2の運行に係わるデータを収集するとき、床3に本体4を置き、全開している扉5の内端面に近い内側に近接センサ6を配置しケーブルで本体4と接続する。
このよう運行データ収集装置1が操作者により配置され、電源スイッチがONされる。
ステップS1にて、書込読取装置19にメモリカード18がセットされているか確認する。メモリカード18がセットされていないとき「メモリカードを挿入して下さい」と液晶表示パネル17に表示して挿入を待つ。メモリカード18がセットされているときステップS2に進む。
操作者によりテンキー16を用いて運行データを収集する対象のエレベータを指定する指定記号、出発階および到着階、運行データ収集日が入力される。
ステップS2にて、入力された対象のエレベータおよび出発階、到着階が同じ運行データがメモリカード18に記憶されているか判断する。メモリカード18に運行データが記憶されているときステップS3に進み、メモリカード18に運行データが記憶されていないときステップS4に進む。
ステップS3にて、メモリカード18に記憶されている運行データおよびエレベータの指定記号、運行データ収集日、出発階、到着階を液晶表示パネル17の比較領域17aに表示してステップS5に進む。
ステップS4にて、記憶データ無フラグを設定しステップS5に進む。
ステップS5にて、近接センサ6からの信号入力を許可しステップS6に進む。
操作者により図示しないかご内操作盤などから出発階から到着階までの一行程の運転モードがセットされる。
ステップS6にて、扉5が戸閉方向に移動を開始したか判断し、開始したと判断したときステップS7に進み、開始したと判断しないときステップS6を繰り返す。
ステップS7にて、加速度信号を取り込み、取り込んだ加速度信号を1msのサンプリング間隔でサンプリングしデジタルデータに変換し、変換したデジタルデータをデータ記憶部34に記憶してステップS8に進む。
ステップS8にて、扉5が全開したか判断し、扉5が全開したと判断したときステップS9に進み、扉5が全閉に至っていないと判断したときステップS7に戻る。
ステップS9にて、データ記憶部34に記憶されたデジタルデータをエレベータの指定記号、運行データ収集日、出発階、および到着階と合わせて液晶表示パネル17の収集領域17bに表示してステップS10に進む。
ステップS10にて、記憶データ無フラグが設定されているか判断し、設定されているときステップS11に進み、設定されていないときステップS12に進む。
ステップS11にて、データ記憶部34に記憶されたデジタルデータをエレベータの指定記号、運行データ収集日、出発階、および到着階と合わせてメモリカード18に記憶して動作を終了する。
ステップS12にて、メモリカード18から読み取った比較対象の運行データとデータ記憶部34に記憶されたデジタルデータとの差分を求め、求めた差分データを液晶表示パネル17の差分領域17cに表示して動作を終了する。
【0021】
この発明に係る実施の形態1による運行データ収集装置1は、扉5に近接する近接センサ6からの信号に従って決まる運行データの収集開始時点と収集終了時点とがそれぞれ他の運行データの収集開始時点と収集終了時点とに重なるようにして、良好な乗り心地に調整されたときに収集した運行データと現時点で収集した運行データとの差分を求めて液晶表示パネル17に表示するので、運行データに関する特徴がつまびらかでなくても、乗り心地が悪くなって調整が必要であるか否かを判断することができる。
【0022】
実施の形態2.
図7は、この発明に係る実施の形態2によるテンキーを示す図である。図8は、この発明に係る実施の形態2による処理装置の機能ブロック図である。
この発明に係る実施の形態2による運行データ収集装置は、この発明に係る実施の形態1による運行データ収集装置1と本体4のうちの処理装置10Bおよびテンキー16Bが異なりそれ以外は同様であるので同様な部分に同じ符号を付記し説明は省略する。
この発明に係る実施の形態2によるテンキー16Bは、図7に示すように、左手方向に動かす記号が描かれた釦(以下、「左移動釦」と称す)41aおよび右手方向に動かす記号が描かれた釦(以下、「右移動釦」と称す)41bを含んでいる。
【0023】
この発明に係る実施の形態2による処理装置10Bは、この発明に係る実施の形態1による処理装置10にデータ移動手段37を追加したことが異なる。そしてそれに伴って表示手段35Bおよび差分算出手段33が異なる。
データ移動手段37は、操作者によりテンキー16Bの左移動釦41aまたは右移動釦41bが押下されると、データ記憶部34に記憶された加速度データまたは音データを読み出し、収集開始時点および収集終了時点を進めるまたは遅らしてデータ記憶部34に上書きする。なお、収集開始時点または収集終了時点を進めたり遅らしたりすることにより運行データがない範囲では運行データに零をセットする。
【0024】
表示手段35Bは、データ移動手段37により運行データがデータ記憶部34に上書きされると、上書きされた運行データを読み出して液晶表示パネル17の収集領域17bに収集開始時点が表示開始点、収集終了時点が表示終了点になるよう表示する。
差分算出手段33Bは、データ移動手段37により運行データがデータ記憶部34に上書きされると、メモリカード18から読み取った加速度データからデータ記憶部34に上書きされた加速度データを減算して加速度差分データを求め、またはメモリカード18から読み取った音データからデータ記憶部34に上書きされた音データを減算して音差分データを求める。
表示手段35Bは、運行データの差分が再度算出されると、算出された差分データを液晶表示パネル17の差分領域17cに収集開始時点が表示開始点、収集終了時点が表示終了点に表示するようにし、且つ差分データのピークとピークの間の値が所定の値になるよう表示する。
【0025】
この発明に係る実施の形態2による運行データ収集装置は、収集した運行データの収集開始時点を移動することができるので、近接センサ6の配置位置のばらつきなどによる差分を小さくして実際に乗り心地に関係する差分だけを表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明に係る実施の形態1による運行データ収集装置が収集時にエレベータのかごに配置される様子を示す図である。
【図2】この発明に係る実施の形態1による運行データ収集装置の本体の構成を示す構成図である。
【図3】この発明に係る実施の形態1による運行データ収集装置の本体を正面から見た図である。
【図4】この発明に係る実施の形態1による運行データ収集装置の本体を側面から見た図である。
【図5】この発明に係る実施の形態1による処理装置の機能ブロック図である。
【図6】この発明に係る実施の形態1による運行データ収集装置1の動作を示すフローチャートである。
【図7】この発明に係る実施の形態2によるテンキーを示す図である。
【図8】この発明に係る実施の形態2による処理装置の機能ブロック図である。
【符号の説明】
【0027】
1 運行データ収集装置、2 かご、3 床、4 本体、5 扉、6 近接センサ、8 電源スイッチ、9 スロット、10、10B 処理装置、11 加速度センサ、12 マイク、13 時計、14 アンプ、15 スピーカ、16、16B テンキー、17 液晶表示パネル、17a 比較領域、17b 収集領域、17c 差分領域、18 メモリカード、19 書込読取装置、20 電源、21 再生釦、31 運行データ収集手段、32 運行データ記憶手段、33、33B 差分算出手段、34 データ記憶部、35、35B 表示手段、36 騒音再生手段、37 データ移動手段、41a 左移動釦、41b 右移動釦。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータのかご内に配置され上記エレベータの乗り心地に係わる運行データを収集する運行データ収集装置において、
全開から閉まり始める位置の上記かごの扉を検出する近接センサと、
上記エレベータが良好な乗り心地に調整されたとき収集した運行データと乗り心地の調整の必要性を判断するために収集した運行データとの差分を上記近接センサからの信号に基づいて決められる収集を開始する時点を一致させて求め、且つ求めた差分を表示する本体と、
を備えることを特徴とする運行データ収集装置。
【請求項2】
上記本体は、上記乗り心地の調整の必要性を判断するために収集した運行データを時間軸上で所定の時間移動した後で上記差分を求めることを特徴とする請求項1に記載の運行データ収集装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−7143(P2009−7143A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−172016(P2007−172016)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】