説明

運転席前部のフロア構造

【課題】相手車が自車のフロントサイドメンバよりも車両外側部分に衝突した場合でも、運転者の足首が小さくなることを抑制できる運転席前部のフロア構造を提供する。
【解決手段】ペダル後方に且つ車両前後方向に配置され上方へ「く」の字型に屈曲自在な帯状の基板部5と、基板部5の上面に設置され上面に運転者の足が載置される踏み板部7とを備え、前突時に、フロントサイドメンバ23、及びフロントサイドメンバ23よりも車両外側部分の少なくとも一方に衝撃力が加わった場合、その衝撃力によって基板部5が上方へ「く」の字型に屈曲することにより、踏み板部7の前部側を持ち上げて踏み板部7をその後端部を中心に回動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両フロア構造に係り、特にアクセルペダルやブレーキペダル付近後方のフロア構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車においては、ダッシュボードの後方にペダル(アクセルペダル、ブレーキペダル等)やフットレストが配置され、前突時にダッシュボードが押されて車両後方に移動すると、ペダルやフットレストの上に足の載せていた運転者は、爪先側が押圧されて、足首の角度が小さくなる方向に足首が曲げられ、違和感を感じる。
【0003】
このような事態を防ぐ一つの対策として、フットレストの場合、前突時に、フットレストの前部側(爪先側)が後部側(踵側)よりも大きく潰れることにより、運転者の足首が、足首の角度が小さくなる方向に曲げられるのを防ぐように構成されたフロア構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−208348号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、実際の前突においては、相手車両と自車が真正面で衝突する場合もあれば、相手車と自車が互いに左右にずれた状態で衝突する場合もある。また、左右にずれた状態で衝突する場合は、相手車の左側(または右側)のフロントサイドメンバが自車の左右のフロントサイドメンバ間に位置しているときと、相手車のフロントサイドメンバが自車のフロントサイドメンバの外側(つまり相手車が自車のフロントサイドメンバよりも車両外側部分)に位置しているときの2通りがある。
【0005】
そして、相手車と自車が互いに左右にずれた状態で衝突する場合であって、特に後者の場合、衝突エネルギーがフロントサイドメンバに効率よく伝達されず、つまりフロントサイドメンバ周辺はあまり変形せずに、フロントピラー周辺が大きく変形するおそれがある。
【0006】
このようにフロントピラー周辺が大きく変形すると、上記特許文献1のフロア構造では、フットレストの前部側が大きく潰れずに、前突時に、運転者の足首の角度を小さくすることを抑制できないおそれがある。
【0007】
本発明の課題は、相手車が自車のフロントサイドメンバよりも車両外側部分に衝突した場合でも、運転者の足首が小さくなることを抑制できる運転席前部のフロア構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、ペダル後方に且つ車両前後方向に配置され上方へ「く」の字型に屈曲自在な基板部と、前記基板部の上面に設置され上面に運転者の足が載置される踏み板部とを備え、前突時の衝撃力によって前記基板部が上方へ「く」の字型に屈曲することにより、前記踏み板部の前部側を持ち上げて該踏み板部をその後部を中心に回動させることを特徴としている。
【0009】
上記構成によれば、アクセルペダルやブレーキペダルの後方に基板部を設けたので、前突時に、フロントサイドメンバに衝撃力が加わった場合は勿論、フロントサイドメンバよりも車両外側部分に衝撃力が加わった場合でも、基板部は上方へ「く」の字型に屈曲し、この屈曲動作に伴って、踏み板部はその前部側が持ち上げられて全体が傾斜する。これにより、運転者の足首が小さくなることを抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、相手車が自車のフロントサイドメンバよりも車両外側部分に衝突した場合でも、運転者の足首が小さくなることを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施例を図面に従って説明する。
【実施例1】
【0012】
図1及び図2は本発明に係る運転席前部のフロア構造を示しており、図1はその平面図、図2は図1を矢印A方向から見た側面図である。
【0013】
図1及び図2において、1はエンジン室2と車室3と仕切るダッシュパネルである。車室3内にはダッシュパネル1の下部付近にアクセルペダルやブレーキペダル等のペダル4(図7参照)が設けられている。1Aはフロントピラーである。
【0014】
本発明に係るフロア構造は、ペダル後方に且つ車両前後方向に配置され上方へ「く」の字型に屈曲自在な帯状の基板部5と、基板部5の上面に設置され基板部5の前記屈曲動作に伴って前部側が持ち上げられるとともに、上面に運転者の足6(図7参照)が載置される踏み板部7とを備えている。
【0015】
基板部5は、前部側の前基板5Aと、後部側の後基板5Bとを有し、これら両基板5A,5Bは中央ヒンジ8で互いに連結されている。前基板5Aの前端は、ダッシュパネル1の下部に取り付けられた筒状の保持部材9に嵌合されている(図4参照)。前基板5Aの前端と保持部材9とはスプライン結合している。保持部材9は前部ヒンジ10を介して固定部材11に連結され、固定部材11はボルト12によってダッシュパネル1に固定されている。
【0016】
一方、後基板5Bの後端は、後部ヒンジ13を介して固定部材14に連結されている。固定部材14はボルト15によってセカンドクロスメンバ16の前部側面に固定されている。なお、セカンドクロスメンバ16は、ダッシュパネル1の下部に延設されたフロアパネル17上に配置されている。
【0017】
後基板5Bの上面には結合部材18が前後2箇所に設けられ、これら結合部材18を介して踏み板部7は後基板5Bに結合されている。踏み板部7は前基板5Aには結合されていない。また、踏み板部7は基板部5上面の広さのほぼ2倍の広さを有しており、基板部5が踏み板部7の片側(車幅方向外側)に位置するよう踏み板部7が配置されている。
【0018】
また、ダッシュパネル1には車室3側にアーム19が設けられている。アーム19の上端はアームヒンジ20を介して固定部材21に連結され、この固定部材21はボルト22によってダッシュパネル1に固定されている。すなわち、アーム19はその下部側がアームヒンジ20を中心に車室内側へ回動自在となっている。なお、アームヒンジ20は、エンジン室2内のフロントサイドメンバ23よりも上方位置に配置されている。
【0019】
アーム19の下部はダッシュパネル1の形状に沿って車両後方へ折り曲げられ、その後端部に基板跳ね上げ部材19Aが設けられている。そして、基板跳ね上げ部材19Aは、図3に示すように、車幅方向外側に向かって延設されており、その端部は前基板5Aの底面に取り付けられた取付部24に連結されている。なお、取付部24は、基板跳ね上げ部材19Aの軸周りに回動自在となっている。取付部24には固定ピン25が取り付けられている。
【0020】
基板跳ね上げ部材19Aの端部が前基板5Aの底面に取り付けられた様子を、図4に拡大して示す。図4に示すように、前基板5Aには車両前後方向に沿って長孔5aが形成され、この長孔5a内には、基板跳ね上げ部材19Aに連結された取付部24に設けられた固定ピン25が嵌合している。
【0021】
次に、本実施例における作用について、図5及び図6を用いて説明する。
【0022】
先ず、前突時に、フロントサイドメンバ23に衝撃力が加わった場合、図5に示すように、フロントサイドメンバ23に押されてダッシュパネル1が変形する。すると、アーム19がアームヒンジ20を中心に矢印B方向に回動し、アーム19下部先端の基板跳ね上げ部材19Aが取付部24(つまり前基板5A)を後方へ押すとともに上方に跳ね上げる。前基板5Aの後部は中央ヒンジ18を介して後基板5Bに連結され、さらに後基板5Bは後部ヒンジ13を介して固定部材14に接続されているので、基板跳ね上げ部材19Aによって前基板5Aが後方へ押され且つ上方に跳ね上げられると、基板部5全体は中央ヒンジ8を中心にして上方へ「く」の字型に屈曲する。そして、この屈曲動作に伴って、踏み板部7はその前端側が持ち上げられて全体が傾斜する。これにより、運転者の足首が小さくなることを抑制することができる。
【0023】
なお、このとき、基板跳ね上げ部材19A先端の取付部24に設けられた固定ピン25は、図6に示すように、前基板5Aに形成された長孔5a内を前部側から後部側に移動することにより、基板部5全体は上方へ「く」の字型に容易に屈曲できる。また、このとき、前基板5Aの前端部はダッシュパネル1下部の筒状の保持部材9との嵌合が解かれ、つまり保持部材9から外れ、これにより、基板部5全体は上方へ「く」の字型に一層容易に屈曲できる。
【0024】
また、前突時に、相手車と自車が互いに左右にずれていてフロントサイドメンバ23よりも車両外側部分に衝撃力が加わった場合、フロントサイドメンバ23はあまり変形せず、フロントピラー1Aが大きく変形する。この場合は、ボルト12によって固定された固定部材11が大きく後方へ移動し、その結果、基板部5全体は中央ヒンジ8を中心にして上方へ「く」の字型に屈曲する。そして、この屈曲動作に伴って、踏み板部7はその前端側が持ち上げられて全体が傾斜する。そして、この場合も、運転者の足首が小さくなることを抑制することができる。
【0025】
本実施例によれば、アクセルペダルやブレーキペダル等の後方に基板部5を設けたので、前突時に、フロントサイドメンバ23に衝撃力が加わった場合は勿論、フロントピラー1Aに衝撃力が加わった場合でも、基板部は上方へ「く」の字型に屈曲し、この屈曲動作に伴って踏み板部7を跳ね上がることができる。
【0026】
また、本実施例によれば、中央ヒンジ8の位置(つまり、前基板5Aと後基板5Bとの長さの比)や、基板跳ね上げ部材19Aを前基板5Aに取り付ける取付部24の位置を変えることにより、踏み板部7の持ち上げ量を任意に調整することができる。
【実施例2】
【0027】
図7及び図8は実施例2を示している。本実施例では、実施例1におけるアーム19は設けられていない。そして、前基板5Aの底面には、運転者が足を踏み板部7の載せたときに、前基板5Aを安定に支持する支持部材30が取り付けられている。なお、図7及び図8において、4はアクセルペダルやブレーキペダル等のペダルであり、6は運転者の足である。
【0028】
上記構成において、前突時に、相手車と自車が互いに左右にずれていてフロントサイドメンバ23よりも車両外側部分に衝撃力が加わった場合は、上述したように、フロントピラー1A(図1参照)が大きく変形する。この場合は、ボルト12によって固定された固定部材11が大きく後方へ移動し、その結果、基板部5全体は中央ヒンジ8を中心にして上方へ「く」の字型に屈曲する。そして、この屈曲動作に伴って、踏み板部7はその前端側が持ち上げられて全体が傾斜する。これにより、運転者の足首が小さくなることを抑制することができる。
【0029】
以上、本発明の実施例を図面により詳述してきたが、上記各実施例は本発明の例示にしか過ぎないものであり、本発明は上記各実施例の構成にのみ限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、本発明に含まれることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1による運転席前部のフロア構造の平面図である。
【図2】図1を矢印A方向から見た側面図である。
【図3】アーム先端と前基板との連結部付近の平面図である。
【図4】アーム先端と前基板との連結部付近の断面図である。
【図5】図2の運転席前部のフロア構造において、前突時における状態を示した図である。
【図6】前基板の前端が筒状の保持部材から外れた様子を示す断面図である。
【図7】実施例2による運転席前部のフロア構造の断面図である。
【図8】図7の運転席前部のフロア構造において、前突時における状態を示した図である。
【符号の説明】
【0031】
1 ダッシュパネル
1A フロントピラー
4 ペダル
5 基板部
5A 前基板
5B 後基板
6 運転者の足
7 踏み板部
8 中央ヒンジ
9 保持部材
10 前部ヒンジ
13 後部ヒンジ
16 セカンドクロスメンバ
17 フロアパネル
18 結合部材
19 アーム
19A 基板跳ね上げ部材
20 アームヒンジ
23 フロントサイドメンバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペダル後方に且つ車両前後方向に配置され上方へ「く」の字型に屈曲自在な基板部と、
前記基板部の上面に設置され上面に運転者の足が載置される踏み板部とを備え、
前突時の衝撃力によって前記基板部が上方へ「く」の字型に屈曲することにより、前記踏み板部の前部側を持ち上げて該踏み板部をその後部を中心に回動させることを特徴とする運転席前部のフロア構造。
【請求項2】
ペダル後方に且つ車両前後方向に配置され上方へ「く」の字型に屈曲自在な基板部と、
前記基板部の上面に設置され上面に運転者の足が載置される踏み板部と、
上部がフロントサイドメンバ上方のダッシュパネルに回動自在に取り付けられ、下部が前記基板部の前部側下面に取り付けられたアーム部とを備え、
前突時の衝撃力によって前記基板部が上方へ「く」の字型に屈曲する一方、前記アーム部がその上部を中心に下部が車室内側へ回動して、前記基板部を跳ね上げて該基板部を上方へ「く」の字型に屈曲させることにより、前記踏み板部の前端側を持ち上げて該踏み板部をその後端部を中心に回動させることを特徴とする運転席前部のフロア構造。
【請求項3】
前記基板部は、その前端が前記ダッシュパネル下部に取り付けられた筒状の保持部材に嵌合され、上方へ「く」の字型に屈曲したときは、前記基板部の前端は前記保持部材との嵌合が解かれて、該保持部材から外れることを特徴とする請求項2に記載の運転席前部のフロア構造。
【請求項4】
前記基板は、その前端部、後端部及び中央部にそれぞれヒンジが設けられ、前記各ヒンジが回動することにより、上方へ「く」の字型に屈曲することを特徴とする請求項1又は2に記載の運転席前部のフロア構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−114729(P2008−114729A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−300051(P2006−300051)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】