説明

運転支援装置、運転支援方法、及び運転支援プログラム

【課題】カーブの勾配に応じて変化する車両の挙動やカーブの状況を考慮した適切な運転支援を行うことができる、運転支援装置、運転支援方法、及び運転支援プログラムを提供すること。
【解決手段】運転支援装置50は、車両の進行方向に存在するカーブの勾配及び旋回方向を特定し、当該特定した勾配及び旋回方向に基づき、カーブを走行する車両が当該カーブの走行車線から逸脱する可能性の高い逸脱方向を特定する逸脱方向特定部53aと、逸脱方向特定部53aが特定した逸脱方向におけるカーブの状況を特定し、当該特定した状況に基づき支援内容を決定し、当該決定した内容の支援を行う支援部53bとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転支援装置、運転支援方法、及び運転支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の運行状態を記録し、当該記録を利用して車両の運行管理を行う運行管理システムが知られている。この運行管理システムは、例えば運行状態として車両の走行速度や車輪の回転速度等を記録し、これらの運行状態に基づき車両が危険な状況にあるか否かの判定を行っていた。そして、車両の走行速度が法定速度を所定速度超えている場合や車輪のロックを検出した場合等に車両が危険な状況にあると判定すると、車両から管制センタへ通信を行い、当該管制センタからドライバに注意喚起や走行ルートの変更等の運行管理を行っていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−042288号公報(段落0032〜0034、0054〜0056)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、カーブを走行する際の車両の挙動は、例えばカーブの勾配に応じて車両前後の荷重バランスが変動することにより、カーブの旋回時に車両が当該カーブの外側へ向く挙動(アンダーステア)と、カーブの内側へ向く挙動(オーバーステア)との間で変化する。このカーブにおける車両の挙動と、当該カーブの旋回方向とに応じて、ドライバに注意を喚起すべきカーブの状況が異なると考えられる。
【0005】
しかし、上述の如き従来のシステムでは、車両の運行状態に基づいて当該車両が危険な状況にあるか否かを判定しているのみに過ぎず、カーブの勾配や旋回方向等を考慮していなかった。従って、カーブの勾配に応じて変化する車両の挙動についても考慮することができず、当該車両の挙動やカーブの状況に応じた適切な支援を行えない可能性があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、カーブの勾配に応じて変化する車両の挙動やカーブの状況を考慮した適切な運転支援を行うことができる、運転支援装置、運転支援方法、及び運転支援プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1に記載の運転支援装置は、車両の進行方向に存在するカーブの勾配及び旋回方向を特定し、当該特定した勾配及び旋回方向に基づき、前記カーブを走行する前記車両が当該カーブの走行車線から逸脱する可能性の高い逸脱方向を特定する逸脱方向特定手段と、前記逸脱方向特定手段が特定した逸脱方向における前記カーブの状況を特定し、当該特定した状況に基づき支援内容を決定し、当該決定した内容の支援を行う支援手段と、を備える。
【0008】
また、請求項2に記載の運転支援装置は、請求項1に記載の運転支援装置において、前記支援手段は、前記状況が、前記車両の対向車両の走行が予測される状況、前記車両の並走車両の走行が予測される状況、又は車両が走行不可能な状況の何れに該当するかを特定し、当該特定した状況に基づき支援内容を決定する。
【0009】
また、請求項3に記載の運転支援装置は、請求項1又は2に記載の運転支援装置において、前記逸脱方向特定手段は、前記カーブの周辺で前記車両が対向車両とすれ違うか否かを判定し、当該対向車両とすれ違うと判定した場合に、前記逸脱方向を特定する。
【0010】
また、請求項4に記載の運転支援方法は、車両の進行方向に存在するカーブの勾配及び旋回方向を特定し、当該特定した勾配及び旋回方向に基づき、前記カーブを走行する前記車両が当該カーブの走行車線から逸脱する可能性の高い逸脱方向を特定する逸脱方向特定ステップと、前記逸脱方向特定ステップで特定した逸脱方向における前記カーブの状況を特定し、当該特定した状況に基づき支援内容を決定し、当該決定した内容の支援を行う支援ステップと、を含む。
【0011】
また、請求項5に記載の運転支援プログラムは、請求項4に記載の方法をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の運転支援装置、請求項4に記載の運転支援方法、及び請求項5に記載の運転支援プログラムによれば、カーブの勾配及び旋回方向に基づき車両がカーブの走行車線から逸脱する可能性の高い逸脱方向を特定し、その逸脱方向におけるカーブの状況に基づき支援内容を決定するので、カーブの勾配に応じて変化する車両の挙動とカーブの旋回方向とに応じて異なる注意すべきカーブの状況に基づき、適切な支援を行うことができる。
【0013】
また、請求項2に記載の運転支援装置によれば、逸脱方向におけるカーブの状況が、車両の対向車両の走行が予測される状況、車両の並走車両の走行が予測される状況、又は車両が走行不可能な状況の何れに該当するかを特定し、当該特定した状況に基づき支援内容を決定するので、車両の逸脱方向においてカーブにて起こり得る状況に応じた適切な支援を行うことができる。
【0014】
また、請求項3に記載の運転支援装置によれば、カーブの周辺で車両が対向車両とすれ違うか否かを判定し、対向車両とすれ違うと判定した場合に逸脱方向を特定するので、必要性が高い場合にのみ支援を行うことができ、過剰な支援を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】運転支援システムを例示するブロック図である。
【図2】逸脱方向テーブルに格納されている情報を例示した表である。
【図3】支援内容テーブルに格納されている情報を例示した表である。
【図4】運転支援システムにより実行される運転支援処理のフローチャートである。
【図5】支援内容決定処理のフローチャートである。
【図6】車両、対向車両、及びすれ違い地点の関係を概略的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る運転支援装置の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。ただし、実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0017】
(構成)
まず、運転支援システムの構成を説明する。図1は、運転支援システムを例示するブロック図である。図1に示すように、この運転支援システム1は、車速センサ10、ステアリングセンサ20、現在位置検出処理部30、通信部40、及び運転支援装置50を備えている。
【0018】
(構成−車速センサ)
車速センサ10は、車軸の回転数に比例する車速パルス信号等を運転支援装置50に出力するものであり、公知の車速センサを用いることができる
【0019】
(構成−ステアリングセンサ)
ステアリングセンサ20は、車両のステアリングホイールの操舵角を検出し、当該検出値を運転支援装置50に出力するものであり、公知のステアリングセンサを用いることができる。
【0020】
(構成−現在位置検出処理部)
現在位置検出処理部30は、運転支援システム1が搭載されている車両の現在位置を検出する現在位置検出手段である。具体的には、現在位置検出処理部30は、GPS、地磁気センサ、距離センサ、又はジャイロセンサ(いずれも図示省略)の少なくとも一つを有し、現在の車両の位置(座標)及び方位等を公知の方法にて検出する。
【0021】
(構成−通信部)
通信部40は、他車両や管制センタ等から送信された情報を受信すると共に、運転支援装置50から入力された情報を送信する送信手段であり、公知の無線通信装置を用いることができる。
【0022】
(構成−運転支援装置)
運転支援装置50は、ディスプレイ51、スピーカ52、制御部53、及びデータ記録部54を備えている。
【0023】
(構成−運転支援装置−ディスプレイ及びスピーカ)
ディスプレイ51は、制御部53の制御に基づいて画像を表示する表示手段である。ディスプレイ51の具体的な構成は任意であり、公知の液晶ディスプレイや有機ELディスプレイの如きフラットパネルディスプレイを使用することができる。また、スピーカ52は、制御部53の制御に基づいて各種の音声を出力する出力手段である。なお、スピーカ52より出力される音声の具体的な態様は任意であり、必要に応じて生成された合成音声や、予め録音された音声を出力することができる。
【0024】
(構成−運転支援装置−制御部)
制御部53は、運転支援装置50を制御する制御手段であり、具体的には、CPU、当該CPU上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)、及びプログラムや各種のデータを格納するためのRAMの如き内部メモリを備えて構成されるコンピュータである。特に、本実施の形態に係る運転支援プログラムは、任意の記録媒体又はネットワークを介して運転支援装置50にインストールされることで、制御部53の各部を実質的に構成する。
【0025】
この制御部53は、機能概念的に、逸脱方向特定部53a、及び支援部53bを備えている。逸脱方向特定部53aは、カーブを走行する車両が当該カーブの走行車線から逸脱する可能性の高い逸脱方向を特定する逸脱方向特定手段である。ここで、「走行車線」とは、車両が走行している車線を意味する。支援部53bは、運転に関する支援内容を決定し、当該決定した内容の支援を行う支援手段である。これらの制御部53の各構成要素によって実行される処理の詳細については後述する。
【0026】
(構成−運転支援装置−データ記録部)
データ記録部54は、運転支援装置50の動作に必要なプログラム及び各種のデータを記録する記録手段であり、例えば、外部記憶装置としてのハードディスク(図示省略)を用いて構成されている。ただし、ハードディスクに代えてあるいはハードディスクと共に、磁気ディスクの如き磁気的記録媒体、又はDVDやブルーレイディスクの如き光学的記録媒体を含む、その他の任意の記録媒体を用いることができる。
【0027】
このデータ記録部54は、地図情報データベース(以下、データベースを「DB」と称する)54a、逸脱方向テーブル54b、及び支援内容テーブル54cを備えている。地図情報DB54aは、地図情報を格納する地図情報格納手段である。「地図情報」は、例えば道路データ(ノード番号、リンク番号、道路座標、道路種別、道路形状、勾配、バンク、車線数、制限速度、道路番号等)、地物データ(信号機、道路標識、ガードレール、建物等)、地形データ(道路外の状況、例えば壁、崖、山肌等)、地図をディスプレイ51に表示するための地図表示データ等を含んで構成されている。なお、地物データ及び地形データは、地物や地形の種類(例えば「信号機」や「壁」等)と当該地物や地形の位置を示す座標とを相互に対応付けた情報として構成されている。
【0028】
逸脱方向テーブル54bは、カーブの旋回方向及び勾配と、当該カーブを走行する車両が当該カーブの走行車線から逸脱する可能性の高い逸脱方向とを相互に対応付けるテーブルであり、逸脱方向特定部53aが逸脱方向を特定する際に参照するためのものである。図2は逸脱方向テーブル54bに格納されている情報を例示した表である。図2に示すように、逸脱方向テーブル54bは、テーブル項目として「旋回方向」及び「勾配」を備え、これらの「旋回方向」や「勾配」の内容(図2では「旋回方向」について「左カーブ」「右カーブ」、「勾配」について「登り」「下り」)に対応する逸脱方向を特定する情報(図2では「左方向」「右方向」)が格納されている。
【0029】
支援内容テーブル54cは、支援部53bが支援内容を決定する際に参照するためのテーブルである。図3は支援内容テーブル54cに格納されている情報を例示した表である。図3に示すように、支援内容テーブル54cは、テーブル項目として「逸脱方向状況」「条件」「支援内容」を備え、これらに対応する情報が相互に対応付けて格納されている。項目「逸脱方向状況」に対応して格納される情報は、車両の走行車線からの逸脱方向におけるカーブの状況を特定するための情報である(図3では「対向車線」「並走車線」「走行不可能」)。項目「条件」に対応して格納される情報は、支援内容を特定するための条件を示す情報である(図3では「すれ違いまでの時間t≦3秒」、「並走車両あり」等)。この支援内容テーブル54cに格納されている情報の詳細については後述する。
【0030】
(処理)
次に、このように構成される運転支援システム1によって実行される運転支援処理について説明する。図4は運転支援システム1により実行される運転支援処理のフローチャートである(以下の各処理の説明ではステップを「S」と略記する)。この処理は、例えば運転支援システム1への電源投入後に、所定の周期で繰り返し起動される。
【0031】
運転支援処理の起動後、支援部53bは、車両に関する情報を取得する(SA1)。例えば、車速センサ10から入力された車速パルス信号に基づく車速情報、ステアリングセンサ20から入力された検出値に基づく操舵角情報、あるいは現在位置検出処理部30から入力された現在位置情報等を取得する。
【0032】
次に、支援部53bは、SA1で取得した車両の現在位置情報と、地図情報DB54aに格納されている道路データとに基づき、車両の進行方向における道路形状を特定する(SA2)。
【0033】
続いて、SA1で取得した車両に関する情報と、SA2で特定した車両の進行方向における道路形状とに基づき、車両の進行方向において所定距離内にカーブがあるか否かを判定する(SA3)。例えば、SA1で取得した車速情報に基づき特定される車速をVとした場合、車速Vで10秒間走行した場合の走行距離内の道路形状がカーブを含むか否かを判定する。カーブを含むか否かの判定基準は任意であり、例えば道路の一部が一定以上の曲率を有する場合にカーブを含むと判定する。ここで「カーブ」とは、一定の曲率の曲線路が連続する区間であって、当該一定の曲率の曲線路の始点と終点とを結ぶ区間をいうものとする。
【0034】
その結果、車両の進行方向において所定距離内にカーブが無いと判定した場合(SA3、No)、支援を行う必要性が低いものとし、支援部53bは運転支援処理を終了する。
【0035】
一方、所定距離内にカーブがあると判定した場合(SA3、Yes)、支援部53bは支援を行う必要があるものとし、支援内容を決定するための支援内容決定処理を実行する(SA4)。
【0036】
ここで、支援内容決定処理について説明する。図5は支援内容決定処理のフローチャートである。図5に示すように、支援内容決定処理が起動されると、逸脱方向特定部53aは、車両と同一道路を走行する他車両に関する他車両情報を取得する(SB1)。「他車両情報」は、例えば他車両の現在位置、車速、走行車線等を特定する情報を含む。この他車両情報は、例えば通信部40を介して車車間通信により他車両から受信することができ、あるいは路車間通信により信号機等に設置された通信装置から受信することができる。
【0037】
続いて、逸脱方向特定部53aは、SB1で取得した他車両情報に基づき、車両の進行方向に対向車両が存在するか否かを判定する(SB2)。例えば、車車間通信により対向車両から他車両情報を受信した場合や、路車間通信により信号機等に設置された通信装置から対向車両についての他車両情報を受信した場合は、対向車両が存在すると判定する。また、地図情報DB54aに格納されている道路データに基づき、車両が走行している道路が一方通行の道路であることが特定された場合は、対向車両が存在しないと判定する。
【0038】
その結果、対向車両が存在しないと判定した場合(SB2、No)、支援部53bは支援を行う必要性が低いものとして支援内容を「待機」として決定して(SB3)、支援内容決定処理を終了し、メインルーチンに戻る。
【0039】
一方、対向車両が存在すると判定した場合(SB2、Yes)、逸脱方向特定部53aは、対向車両と車両とがすれ違う地点(以下、「すれ違い地点」と表記する)を推定する(SB4)。図6は、車両、対向車両、及びすれ違い地点の関係を概略的に示した図である。例えば、図6に示したように、車両2の車速をV、対向車両3の車速をVt、車両2と対向車両3との間の走行距離をSとした場合、車両2と対向車両3とがすれ違うまでの時間Tは、T=S/(V+Vt)として算出される。また、車両2からすれ違い地点までの距離Spは、Sp=T×Vとして算出される。この様に算出されたSpと、車両2の現在位置とに基づき、すれ違い地点を推定することができる。
【0040】
図5に戻り、逸脱方向特定部53aは、カーブで車両2が対向車両3とすれ違うか否かを判定する(SB5)。例えば、SB4で推定したすれ違い地点が、車両2の進行方向に存在するカーブを構成する一定曲率の曲線路の始点と終点との間に位置している場合に、当該カーブで車両2が対向車両3とすれ違うと判定する。なお、すれ違い地点が位置しているカーブを、以下の説明では「すれ違いカーブ」と表記する。
【0041】
その結果、カーブで車両2が対向車両3とすれ違わないと判定した場合(SB5、No)、支援部53bは支援を行う必要性が低いものとして支援内容を「待機」として決定して(SB3)、支援内容決定処理を終了し、メインルーチンに戻る。
【0042】
一方、SB5において、カーブで車両2が対向車両3とすれ違うと判定した場合(SB5、Yes)、逸脱方向特定部53aは、車両2の進行方向に存在するすれ違いカーブの勾配及び旋回方向を特定する(SB6)。例えば、逸脱方向特定部53aは、図4のSA2で特定した車両2の進行方向における道路データ(道路形状)に基づきすれ違いカーブの旋回方向を特定する。また、SA1で取得した車両2の現在位置情報と、地図情報DB54aに格納されている道路データ(勾配)とに基づき、当該すれ違いカーブの勾配を特定する。
【0043】
続いて、逸脱方向特定部53aは、車両2の進行方向に存在するすれ違いカーブを走行する場合における当該車両2の横加速度Gを算出する(SB7)。例えば、SA1で取得した車速情報に基づき特定される車両2の車速車速Vと、図4のSA2で特定した車両2の進行方向における道路形状に基づき特定されるすれ違いカーブの曲率半径Rとに基づき、横加速度Gは、G=V/Rとして算出される。
【0044】
次に、支援部53bは、逸脱方向特定部53aがSB7で算出した横加速度Gが閾値(例えば0.2[G])以上か否かを判定する(SB8)。その結果、横加速度Gが閾値以上ではなかった場合(SB8、No)、車両2がすれ違いカーブの走行車線から逸脱する可能性は低いものとし、支援部53bは支援内容を「待機」と決定して(SB3)、支援内容決定処理を終了し、メインルーチンに戻る。
【0045】
一方、横加速度Gが閾値以上であった場合(SB8、Yes)、逸脱方向特定部53aは、逸脱方向テーブル54bを参照し、SB4で特定した車両2の進行方向に存在するすれ違いカーブの勾配及び旋回方向に基づき、車両2がすれ違いカーブの走行車線から逸脱する可能性の高い逸脱方向を特定する(SB9)。
【0046】
例えば、車両2の進行方向に存在するすれ違いカーブの勾配が「登り」の場合、登り勾配の道路を走行する車両2の後輪に加わる荷重が前輪と比較して大きくなるため、当該車両2の運動特性はアンダーステアになる傾向が強い。従って、走行車線からの逸脱方向として、すれ違いカーブの旋回円の外側に向かう方向が特定される。すなわち旋回方向が左のすれ違いカーブ(図2では「左カーブ」)については走行車線の右側(図2では「右方向」)が逸脱方向として特定され、旋回方向が右のすれ違いカーブ(図2では「右カーブ」)については走行車線の左側(図2では「左方向」)が逸脱方向として特定される。
【0047】
一方、車両2の進行方向に存在するすれ違いカーブの勾配が「下り」の場合、下り勾配の道路を走行する車両2の前輪に加わる荷重が後輪と比較して大きくなるため、当該車両2の運動特性はオーバーーステアになる傾向が強い。従って、走行車線からの逸脱方向はすれ違いカーブの旋回円の内側に向かう方向、すなわち旋回方向が左のすれ違いカーブ(図2では「左カーブ」)については走行車線の左側(図2では「左方向」)が逸脱方向として特定され、旋回方向が右のすれ違いカーブ(図2では「右カーブ」)については走行車線の右側(図2では「右方向」)が逸脱方向として特定される。
【0048】
続いて、支援部53bはSB9で逸脱方向特定部53aが特定した逸脱方向におけるすれ違いカーブの状況を特定する(SB10)。ここで、「逸脱方向におけるすれ違いカーブの状況」とは、車両2が走行している走行車線外におけるすれ違いカーブ及び当該すれ違いカーブ周辺の状況であり、例えば、車両2の対向車両3の走行が予測される状況、車両2の並走車両の走行が予測される状況、及び車両2が走行不可能な状況を含む概念である。「車両2の対向車両3の走行が予測される状況」とは、例えば逸脱方向に対向車線が存在する状況が挙げられる。また、「車両2の並走車両の走行が予測される状況」とは、例えば逸脱方向に並走車線が存在する状況が挙げられる。また、「車両2が走行不可能な状況」とは、例えば逸脱方向に崖や山肌等が存在する状況が挙げられる。支援部53bは、例えば地図情報に含まれる道路データや地形データに基づき、これらの逸脱方向におけるすれ違いカーブの状況を特定する。
【0049】
そして、支援部53bは支援内容テーブル54cを参照し、SB10で特定したすれ違いカーブの状況や、SB1で取得した他車両情報、SB3で推定したすれ違い地点、あるいはすれ違いカーブに対応する道路データ等に基づき、支援内容を決定する(SB11)。
【0050】
例えば、図3の例では、車両2が走行車線から逸脱する方向に対向車線がある場合(図3において「逸脱方向状況」が「対向車線」)は、以下のように支援内容を決定する。SB3ですれ違い地点を推定する際に算出したすれ違うまでの時間Tが3秒未満であった場合は(図3において「条件」が「すれ違いまでの時間T<3秒」)、車両2が走行車線から対向車線に逸脱して対向車両3と接触等する可能性があり、回避のための時間も短いことから、車両2の自動減速制御を支援内容として決定する(図3において「支援内容」が「自動減速制御」)。また、すれ違うまでの時間Tが3秒以上である場合は(図3において「条件」が「すれ違いまでの時間T≧3秒」)、車両2が走行車線から対向車線に逸脱して対向車両3と接触等する可能性があるものの、回避のための時間があることから、例えば対向車線に逸脱しないように減速を促す旨の警告出力を支援内容として決定する(図3において「支援内容」が「警告出力」)。
【0051】
また、車両2が走行車線から逸脱する方向に並走車線がある場合(図3において「逸脱方向状況」が「並走車線」)は、以下のように支援内容を決定する。SB1で取得した他車情報に基づき、並走車線において車両2と並走している並走車両が存在すると特定される場合(図3において「条件」が「並走車両あり」)、車両2が走行車線から並走車線に逸脱して並走車両と接触等する可能性があることから、例えば並走車線に逸脱しないように減速を促す旨の警告出力を支援内容として決定する(図3において「支援内容」が「警告出力」)。一方、SB1で取得した他車情報に基づき、並走車線において車両2と並走している並走車両が存在しないと特定される場合(図3において「条件」が「並走車両なし」)、支援を行う必要性が低いものとして支援内容を「待機」として決定する。
【0052】
また、車両2が走行車線から逸脱する方向に崖や山肌等があり、走行不可能な状況である場合(図3において「逸脱方向状況」が「走行不可能」)は、車両2が走行車線から走行不可能な領域に逸脱して山肌に接触等する可能性があり、回避動作も困難であることから、車両2の自動減速制御を支援内容として決定する。
【0053】
図5に戻り、SB11で上述のように支援内容を決定した後、支援部53bは支援内容決定処理を終了し、メインルーチンに戻る。
【0054】
図4に戻り、SA4で支援内容決定処理を実行した後、支援部53bは支援内容決定処理で決定した内容の支援を行う(SA5)。例えば、支援内容が車両2の自動減速制御の場合は、公知のブレーキアクチュエータ(図示省略)を制御し、ブレーキを動作させて車両2の減速を行う。また、支援内容が警告出力の場合は、支援内容決定処理で決定された内容の警告を、ディスプレイ51やスピーカ52を介して出力させる。また、通信部40を介して他車両に警告信号を送信してもよい。支援を実行した後、支援部53bは運転支援処理を終了する。
【0055】
(効果)
このように実施の形態によれば、カーブの勾配及び旋回方向に基づき車両2がカーブの走行車線から逸脱する可能性の高い逸脱方向を特定し、その逸脱方向におけるカーブの状況に基づき支援内容を決定するので、カーブの勾配に応じて変化する車両2の挙動とカーブの旋回方向とに応じて異なる注意すべきカーブの状況に基づき、適切な支援を行うことができる。
【0056】
また、逸脱方向におけるカーブの状況が、車両2の対向車両3の走行が予測される状況、車両2の並走車両の走行が予測される状況、又は車両2が走行不可能な状況の何れに該当するかを特定し、当該特定した状況に基づき支援内容を決定するので、車両2の逸脱方向においてカーブにて起こり得る状況に応じた適切な支援を行うことができる。例えば、車両2の逸脱方向における対向車両3、並走車両、あるいは崖や山肌等の有無に応じた適切な支援を行うことができる。
【0057】
また、カーブの周辺で車両2が対向車両3とすれ違うか否かを判定し、対向車両3とすれ違うと判定した場合に逸脱方向を特定するので、必要性が高い場合にのみ支援を行うことができ、過剰な支援を防止することができる。
【0058】
〔実施の形態に対する変形例〕
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明の具体的な構成及び手段は、特許請求の範囲に記載した各発明の技術的思想の範囲内において、任意に改変及び改良することができる。以下、このような変形例について説明する。
【0059】
(解決しようとする課題や発明の効果について)
まず、発明が解決しようとする課題や発明の効果は、上述の内容に限定されるものではなく、発明の実施環境や構成の細部に応じて異なる可能性があり、上述した課題の一部のみを解決したり、上述した効果の一部のみを奏することがある。
【0060】
(支援内容決定処理について)
上述の実施の形態では、カーブで車両2が対向車両3とすれ違う場合を前提として車両2の走行車線からの逸脱方向を特定し、支援内容を決定すると説明したが、対向車両3の現在位置からすれ違い地点までの間に分岐路が存在する場合には支援内容を「待機」として決定し、具体的な支援を行わないようにしてもよい。これにより、分岐路に対向車両3が進入したために当該対向車両3とすれ違うことがない場合に、過剰な支援を行うことを防止できる。
【0061】
また、上述の実施の形態では、支援として車両2の自動減速制御を行う場合やディスプレイ51やスピーカ52を介して警告出力を行う場合を説明したが、他車両との車車間通信における通信周期を短縮することを支援の内容としてもよい。例えば、支援部53bは、カーブの周辺で車両2が対向車両3とすれ違うと逸脱方向特定部53aが判定した場合に、対向車両3を含む他車両との間の通信周期を短縮する支援を行うようにしてもよい。さらに、すれ違いカーブにおいて車両2が走行車線から逸脱する方向に対向車線がある場合にのみ、対向車両3を含む他車両との間の通信周期を短縮する支援を行うようにしてもよい。これにより、すれ違いカーブにおいて車両2が走行車線から逸脱して対向車線にはみ出す可能性がある場合に、対向車両3の位置や速度等の情報をリアルタイムで取得することができ、当該対向車両3に車両2の速度や位置等の情報をリアルタイムで送信することができるので、衝突回避等に必要な情報の伝達確実性を高めることができる。また、カーブの周辺で対向車両3とすれ違うと判定した場合であって、車両2が走行車線から逸脱する方向に対向車線がある場合等、支援の必要性が高い場合にのみ通信周期を短縮する支援を行うので、衝突や接触の可能性の低い他車両との間の不要な混信を回避することができる。
【0062】
また、上述の実施の形態では、車両2の進行方向に対向車両3が存在しないと判定した場合は支援内容を「待機」として決定すると説明したが、車両2の進行方向に対向車両3が存在しない場合であっても車両2の走行車線からの逸脱方向を特定し、当該逸脱方向におけるカーブの状況に基づき、車両2の自動減速制御や警告出力等の支援を行うようにしてもよい。これにより、例えば対向車線を走行している対向車両3が車車間通信を行えないために当該対向車両3についての他車両情報を取得することができず、対向車両3が存在しないと判定されてしまった場合であっても、車両2を走行車線から逸脱させないような支援を行うことができる。
【符号の説明】
【0063】
1 運転支援システム
2 車両
3 対向車両
10 車速センサ
20 ステアリングセンサ
30 現在位置検出処理部
40 通信部
50 運転支援装置
51 ディスプレイ
52 スピーカ
53 制御部
53a 逸脱方向特定部
53b 支援部
54 データ記録部
54a 地図情報DB
54b 逸脱方向テーブル
54c 支援内容テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の進行方向に存在するカーブの勾配及び旋回方向を特定し、当該特定した勾配及び旋回方向に基づき、前記カーブを走行する前記車両が当該カーブの走行車線から逸脱する可能性の高い逸脱方向を特定する逸脱方向特定手段と、
前記逸脱方向特定手段が特定した逸脱方向における前記カーブの状況を特定し、当該特定した状況に基づき支援内容を決定し、当該決定した内容の支援を行う支援手段と、
を備える運転支援装置。
【請求項2】
前記支援手段は、
前記状況が、前記車両の対向車両の走行が予測される状況、前記車両の並走車両の走行が予測される状況、又は車両が走行不可能な状況の何れに該当するかを特定し、当該特定した状況に基づき支援内容を決定する、
請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項3】
前記逸脱方向特定手段は、
前記カーブの周辺で前記車両が対向車両とすれ違うか否かを判定し、当該対向車両とすれ違うと判定した場合に、前記逸脱方向を特定する、
請求項1又は2に記載の運転支援装置。
【請求項4】
車両の進行方向に存在するカーブの勾配及び旋回方向を特定し、当該特定した勾配及び旋回方向に基づき、前記カーブを走行する前記車両が当該カーブの走行車線から逸脱する可能性の高い逸脱方向を特定する逸脱方向特定ステップと、
前記逸脱方向特定ステップで特定した逸脱方向における前記カーブの状況を特定し、当該特定した状況に基づき支援内容を決定し、当該決定した内容の支援を行う支援ステップと、
を含む運転支援方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法をコンピュータに実行させる運転支援プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−237763(P2010−237763A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82315(P2009−82315)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】