説明

運転支援装置

【課題】操舵力制御と制駆動力制御との制御分担比を適切に設定する運転支援装置を提供する。
【解決手段】自車両前方の環境情報に基づいて自車両を操向する運転支援装置を、自車両前方の環境を認識する環境認識手段110と、環境認識手段を用いて自車両の目標操向量を算出する目標操向量算出手段140と、操舵輪タイヤが発生するタイヤ力を算出するタイヤ力算出手段170と、操舵輪タイヤの限界タイヤ力を推定する限界タイヤ力推定手段167と、操舵機構に付与される操舵力を制御する操舵力制御手段200と、左右輪の制駆動力差を制御する制駆動力制御手段190と、目標操向量を所定の制御分担比で割り振ることにより操舵力制御手段の目標操舵力及び制駆動力制御手段の目標制駆動力差を設定するとともに、タイヤ力の限界タイヤ力への接近に応じて、制駆動力制御手段の操舵力制御手段に対する制御分担比を増加させる制御分担比設定手段180とを備える構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両を操向する運転支援装置に関し、特に操舵機構への操舵力付与制御及び左右輪の制駆動力差によるヨーモーメント制御の制御分担比を適切に設定するものに関する。
【背景技術】
【0002】
自車両前方の環境情報に基づいて車両を操向する運転支援装置として、車線逸脱防止装置、車線維持支援装置等が知られている。
車線逸脱防止装置は、自車両の走行車線からの逸脱傾向を判定した場合に、自車両を車線中央側へ戻す方向への操向を行うものである。
車線維持支援装置は、走行車線内に目標走行位置を設定し、自車両が目標走行位置に沿って走行するように操向を行うものである。
このような車両の操向は、例えばアクチュエータによって操舵機構に操舵力を付与して前輪を転舵したり、左右車輪に制駆動力差を与えてヨーモーメントを発生させることによって行う。
【0003】
例えば、特許文献1には、自車両が走行車線から逸脱する可能性があると判断されたときに、操舵制御と制動力制御との制御量をそれぞれ算出して操舵トルクと各輪の制動力とを制御する車線逸脱防止装置において、カーブの曲率度合、車線逸脱度合、路面勾配、路面μにより、修正の少ない場合には操舵トルク制御の分担を増し、修正の多い場合には制動力制御の分担を増すことによってドライバへの違和感を軽減することが記載されている。
【特許文献1】特開2005−178743号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
左右輪に制駆動力差を発生させる制駆動力制御を用いると、例えば路面μが低い場合や高速コーナリング中のように操舵輪タイヤのグリップ力がタイヤ力の限界に接近しており、舵角付与によって車両を操向する余裕が乏しい場合であっても、ヨーモーメントの発生を行うことができる。しかし、一般に制駆動力制御によってヨーモーメントを発生させると、車速の加減速が生じてドライバに違和感を与える場合がある。
上述した特許文献1に記載された技術の場合、走行場面や環境状態毎に制御分担が変化するため、制御による車両の動きが安定せず、また、車両限界に十分余裕のある状態であっても制動力制御を行う場合があり、ドライバに違和感を与えてしまう。
本発明の課題は、操舵力制御と制駆動力制御との制御分担比を適切に設定する運転支援装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1の発明は、自車両前方の環境情報に基づいて自車両を操向する運転支援装置において、自車両前方の環境を認識する環境認識手段と、前記環境認識手段を用いて自車両の目標操向量を算出する目標操向量算出手段と、操舵輪タイヤが発生するタイヤ力を算出するタイヤ力算出手段と、前記操舵輪タイヤの限界タイヤ力を推定する限界タイヤ力推定手段と、操舵機構に付与される操舵力を制御する操舵力制御手段と、左右輪の制駆動力差を制御する制駆動力制御手段と、前記目標操向量を所定の制御分担比で割り振ることにより前記操舵力制御手段の目標操舵力及び前記制駆動力制御手段の目標制駆動力差を設定するとともに、前記タイヤ力の前記限界タイヤ力への接近に応じて、前記制駆動力制御手段の前記操舵力制御手段に対する制御分担比を増加させる制御分担比設定手段とを備えることを特徴とする運転支援装置である。
【0006】
請求項2の発明は、前記制御分担比設定手段は、前記タイヤ力が前記限界タイヤ力よりも小さく設定される閾値をオーバーした場合にのみ前記制駆動力制御手段により前記制駆動力差を発生させることを特徴とする請求項1に記載の運転支援装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、タイヤ力の限界タイヤ力への接近に応じて、操舵力制御手段に対する制駆動力制御手段の制御分担比を増加させることによって、タイヤ力に十分な余裕がある状態では主に操舵力制御で車両を操向し、制駆動力制御の介入によって加減速が生じドライバに違和感を与えることを防止できる。また、タイヤ力に余裕が乏しい場合には、制駆動力制御の制御分担比を増加させて車両を確実に操向することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、操舵力制御と制駆動力制御との制御分担比を適切に設定する運転支援装置を提供する課題を、操舵輪タイヤの摩擦円限界へのタイヤ力の接近に応じて、制駆動力制御の制御分担比を増加させることによって解決した。
【実施例】
【0009】
以下、本発明を適用した運転支援装置の実施例について説明する。
実施例の運転支援装置は、例えば、前2輪を操舵する乗用車等の4輪自動車に備えられる。本実施例において、車両は、例えば、所定のベーストルク配分により前後にトルク配分を行いかつ差動制限クラッチを有するセンターディファレンシャルを備えた4輪駆動車である。
図1は、実施例の運転支援装置を含む車両のシステム構成を示す図である。この運転支援装置は、操舵機構10に操舵トルク(操舵力)を付与し、また、左右輪の制動力差を生じさせることによって車両にヨーモーメントを発生させることによって車両を操向するものである。
操舵機構10は、前輪FWを支持するハウジングHを所定の操向軸線(キングピン)回りに回転させて操舵を行うものである。
【0010】
操舵機構10は、ステアリングホイール11、ステアリングシャフト12、ステアリングギアボックス13、タイロッド14等を備えて構成されている。
ステアリングホイール11は、ドライバが操舵操作を入力する環状の操作部材である。
ステアリングシャフト12は、ステアリングホイール11の回転をステアリングギアボックス13に伝達する回転軸である。
ステアリングギアボックス13は、ステアリングシャフト12の回転運動を車幅方向の直進運動に変換するラックアンドピニオン機構を備えている。
タイロッド14は、一方の端部をステアリングギアボックス13のラックに連結され、他方の端部をハウジングHのナックルアームに連結された軸状の部材である。タイロッド14は、ハウジングHのナックルアームを押し引きすることによって、ハウジングHを回転させ、操舵を行う。
【0011】
また、車両は、電動パワーステアリング(EPS)制御ユニット20、操安制御ユニット30、エンジン制御ユニット40、トランスミッション制御ユニット50、車両統合ユニット60等を備えている。
【0012】
EPS制御ユニット20は、ドライバの操舵操作に応じて操舵アシスト力を発生する電動パワーステアリング装置を統括的に制御するものである。EPS制御ユニット20には、電動アクチュエータ21、トルクセンサ22等が接続されている。
電動アクチュエータ21は、例えば、ステアリングシャフト12の途中に設けられ、減速機構を介して操舵機構10に対して操舵トルク(操舵力)を付与する電動モータである。
トルクセンサ22は、電動アクチュエータ21とステアリングホイール11との間でステアリングシャフト12に挿入され、ステアリングシャフト12に作用するトルクを検出するものである。通常、トルクセンサ22が検出するトルクは、ドライバがステアリングホイール11に入力する操舵トルクと実質的に等しくなる。
【0013】
操安制御ユニット30は、各車輪のブレーキの制動力を個別に制御する車両操安性制御及びABS制御を行うものである。車両操安性制御は、アンダーステア又はオーバーステアの発生時に、旋回内輪側と外輪側の制動力を異ならせて復元方向のヨーモーメントを発生させるものである。ABS制御(アンチロックブレーキ制御)は、車輪のロック傾向を検出した際に、当該車輪の制動力を低減して回復させるものである。
操安制御ユニット30には、ハイドロリックコントロールユニット(HCU)31、車速センサ32、ヨーレートセンサ33、横加速度(横G)センサ34、舵角センサ35等が接続されている。
【0014】
HCU31は、各車輪の液圧式サービスブレーキに付与されるブレーキフルード液圧を個別に制御する装置である。HCU31は、ブレーキフルードを加圧するモータポンプ、及び、各車輪のキャリパシリンダへ付与される圧力を調整するソレノイドバルブ等を備えている。
車速センサ32は、各車輪のハブベアリングを保持するハウジングに設けられ、車輪速に応じた車速パルス信号を出力する。この車速パルス信号は、所定の処理を施すことによって、車両の走行速度を求めることができる。
ヨーレートセンサ33及び横Gセンサ34は、車体の鉛直軸回りの回転速度及び横方向の加速度をそれぞれ検出するMEMSセンサを備えている。
舵角センサ35は、ステアリングシャフト12の角度位置(ステアリングホイール11の角度位置と実質的に等しい)を検出するエンコーダを備えている。
【0015】
エンジン制御ユニット40は、車両の走行用動力源であるエンジン及びその補器類を統括的に制御するものである。
エンジン制御ユニット40には、電子制御スロットル制御装置(ETC)41、スロットル開度センサ42、エンジン(E/G)回転数センサ43等が接続されている。
ETC41は、図示しないエンジンの出力を調整するスロットルバルブを駆動するスロットルアクチュエータを制御するものである。ETC41は、エンジン制御ユニット40が図示しないアクセルペダルの操作量等に基づいて設定する目標スロットル開度に応じて、スロットルアクチュエータを駆動する。
スロットル開度センサ42は、スロットルバルブの現在の開度θthを検出し、エンジン制御ユニット40に伝達するものである。
エンジン回転数センサ43は、エンジンの出力軸であるクランクシャフトの回転数(エンジン回転数)Neを検出し、エンジン制御ユニット40に伝達するものである。
【0016】
トランスミッション制御ユニット50は、エンジンの出力を変速して駆動軸のディファレンシャルギアへ伝達するオートマティックトランスミッションを統括的に制御するものである。トランスミッション制御ユニット50は、現在の変速段におけるギヤ比、トルクコンバータのタービン回転数Nt等のトランスミッション出力トルクの演算に必要な情報を操向支援制御ユニット100のタイヤ力余裕度演算手段160に提供する。
車両統合ユニット60は、上記各ユニットに関連する以外の車両の電装品を統括的に制御するものである。
【0017】
また、実施例の運転支援装置は、以下説明する操向支援制御ユニット100を備えている。操向支援制御ユニット100は、操舵機構10への操舵トルクの付与、及び、HCU31による左右輪制動力差の付与によって車両を操向し、車両逸脱防止制御等の車両の操向制御を行うものである。
操向支援制御ユニット100は、上述したEPS制御ユニット20、操安制御ユニット30、エンジン制御ユニット40、トランスミッション制御ユニット50、車両統合ユニット60と、例えばCAN通信システム等の車載LANを介して接続され、各種情報や信号を取得可能となっている。
【0018】
また、操向支援制御ユニット100は、環境認識手段110、目標走行位置設定手段120、自車進行路推定手段130、目標操向量設定手段140、路面μ推定手段150、タイヤ力余裕度演算手段160、制御分担比設定手段180、左右輪制動力差制御手段190、操舵力制御手段200等を備えている。なお、これらの各手段は、それぞれ独立したハードウェアとして構成されてもよく、また、一部又は全部を共通したハードウェアとした構成としてもよい。
【0019】
環境認識手段110は、自車両前方を撮像した画像情報に基づいて、自車両の走行車線の形状等を認識するものである。
環境認識手段110は、ステレオカメラ111、画像処理部112等が接続されている。
ステレオカメラ111は、例えば車両のフロントウインドウ上端部のルームミラー基部付近に設けられた一対のメインカメラ及びサブカメラを備えている。メインカメラ及びサブカメラは、それぞれCCDカメラを有して構成されている。メインカメラ及びサブカメラは、車幅方向に離間して設置されている。メインカメラ及びサブカメラは、それぞれ基準画像及び比較画像を撮像し、これらに係る画像データを画像処理部112に出力する。
画像処理部112は、ステレオカメラ111が出力した基準画像及び比較画像の画像データをA/D変換した後、所定の画像処理を施して環境認識手段110に出力するものである。この画像処理には、例えば、各カメラの取付位置誤差の補正や、ノイズ除去、階調の適切化などが含まれる。デジタル化された画像は、例えば、垂直方向及び水平方向にマトリクス状に配列された複数の画素を有する。これらの各画素は、それぞれ被写体の明るさに応じた輝度値を有する。
【0020】
環境認識手段110は、基準画像及び比較画像のデータに基づいて、基準画像上の任意の画素又は複数の画素からなるブロックである画素群の視差を検出する。この視差は、ある画素又は画素群の基準画像上の位置と比較画像上の位置とのずれ量である。この視差を用いると、三角測量の原理により、自車両から当該画素に対応する被写体までの距離を算出することができる。
【0021】
また、環境認識手段110は、自車両前方の車線両端部に配置された白線の形状等を認識する。なお、本明細書、特許請求の範囲等において、白線とは、車線の幅方向における端部に引かれた連続線又は破線を示すものとし、実際の色彩が白色以外(例えば燈色など)の線も含むものとする。
環境認識手段110は、基準画像のデータから画素の輝度データに基づいて白線部分の画素群を検出する。自車両に対する白線部分の画素群の方位は、画像データ上の画素位置に基づいて検出される。具体的には、垂直方向における画素位置が路面上に相当する領域を水平方向に走査し、輝度値が急変する箇所を白線の輪郭として認識する。そして、当該白線部分の画素群の距離を算出することによって、白線の位置を検出する。
そして、環境認識手段110は、白線位置の検出を連続的に行なって車両の進行方向に複数の車線候補点を設定し、整合のとれない車線候補点を無視するとともに、車線候補点を設定できなかった領域は所定の補完処理を行うことによって、自車両前方の車線形状を認識する。
【0022】
目標走行位置設定手段120は、環境認識手段110が設定した自車両の走行車線の幅方向における中央に目標走行位置Xcを設定する。
【0023】
自車進行路推定手段130は、環境認識手段110からの情報、車速センサ32、ヨーレートセンサ33、舵角センサ35等によって検出される車両の走行状態、及び、既知の車両諸元等に基づいて、自車進行路を推定するものである。
自車進行路の推定は、例えば、車両前方の注視距離Zにおける自車両OVの横位置Xeを算出することによって行う。
自車両OVの重心位置を原点とし、車幅方向へ延びるX軸、及び、車体前方側へ延びるZ軸を有する座標系を用いて以下説明する。
注視距離Zにおける自車両重心の推定横位置Xeは、ハンドル角度αを用いて、以下の式1によって求められる。
【数1】

【0024】
また、自車進行路推定手段130は、上述したハンドル角度を用いた横位置の推定に代えて、以下の式2の通り、ヨーレートセンサ33が検出したヨーレートを用いて横位置を推定することができる。

Xe=Zγ/2V ・・・(式2)
Xe:注視距離Zにおける自車両重心の推定横位置[m]
Z:注視距離[m]
γ:車両のヨーレート[rad/sec]
【0025】
目標操向量設定手段140は、環境認識手段110、目標走行位置設定手段120、自車進行路推定手段130等を用いて、自車両の目標操向量(例えば、目標ヨーレート等)を設定するものである。目標操向量設定手段140は、例えば、目標走行位置設定手段120が設定した目標走行位置Xcに対する自車進行路推定手段130が推定した自車両の横位置Xeの偏差に応じて、この偏差を低減する方向への目標操向量を設定する。
この目標操向量設定手段140は、本発明にいう目標操向量算出手段として機能する。
【0026】
路面μ推定手段150は、自車両が現在走行中の路面の摩擦係数μを推定するものである。ここで、路面μを推定する手法は特に限定されないが、例えば、車速、舵角、横加速度、ヨーレート等の車両の各状態量と、車両モデルとに基づいて路面μを推定することができる。
【0027】
タイヤ力余裕度演算手段160は、車両の各タイヤの摩擦円限界及びタイヤ力を演算し、さらに摩擦円限界に対するタイヤ力の接近度合(タイヤ余裕度)を演算するものである。
タイヤ力余裕度演算手段160は、エンジントルク演算部161、トランスミッション出力トルク演算部162、総駆動力演算部163、前後接地荷重演算部164、左輪荷重比率演算部165、各輪接地荷重演算部166、各輪摩擦円限界値演算部167、各輪前後力演算部168、各輪横力演算部169、各輪タイヤ合力演算部170、各輪タイヤ力余裕度演算部171等を備えて構成されている。
【0028】
エンジントルク演算部161は、スロットル開度センサ42が検出したスロットル開度θth、及び、エンジン回転数センサ43が検出したエンジン回転数Neを用いて、既知のエンジン特性より設定しておいたマップを参照して現在発生しているエンジントルクTegを求めるものである。
【0029】
トランスミッション出力トルク演算部162は、エンジン回転数Ne、トランスミッションのギヤ比i、トルクコンバータのタービン回転数Nt、エンジントルクTeg等を用いて、トランスミッションの出力トルクを演算するものである。
トランスミッションの出力トルクTtは、以下の式3によって求めることができる。

Tt=Teg・t・i ・・・(式3)

Teg:エンジン出力トルク
t:トルクコンバータトルク比
i:トランスミッションギヤ比

ここで、トルクコンバータのトルク比tは、タービン回転数Ntとエンジン回転数Neとの回転速度比Nt/Neと、トルクコンバータのトルク比tとのマップを参照することによって求めることができる。
【0030】
総駆動力演算部163は、各タイヤから路面へ伝達される総駆動力Fxを演算するものである。総駆動力Fxは、以下の式4によって求められる。

Fx=Tt・η・if/Rt ・・・(式4)

Tt:トランスミッション出力トルク
η:駆動系の伝達効率
if:最終減速比
Rt:タイヤ半径
【0031】
前後接地荷重演算部164は、総駆動力演算部163等を用いて、前輪接地荷重Fzf、及び、後輪接地荷重Fzrを演算するものである。
前輪接地荷重Fzf及び後輪接地荷重Fzrは、それぞれ以下の式5、式6によって求められる。

Fzf=Wf−((m・(dx/dt)・h)/L ・・・(式5)
Fzr=W−Fzf ・・・(式6)

Wf:前輪静荷重
m:車両質量
x/dt:前後加速度(=Fx/m)
h:車両重心高さ
L:ホイールベース
W:車両重量(=m・G(Gは重力加速度))
【0032】
左輪荷重比率演算部165は、前後輪の軸重のうち左側のタイヤにかかっている荷重の比率である左輪荷重比率WR_lを演算するものである。左輪荷重比率WR_lは、以下の式7によって求められる。

WR_l=0.5−((dy/dt)/G)・(h/Ltred) ・・・(式7)
WR_l:左輪荷重比率
y/dt:横加速度
G:重力加速度
h:車両重心高さ
Ltred:前輪と後輪のトレッド平均値
【0033】
各輪接地荷重演算部166は、前後接地荷重演算部164及び左輪荷重比率演算部165を用いて、以下の式8〜式11によって、左前輪接地荷重Fzf_l、右前輪接地荷重Fzf_r、左後輪接地荷重Fzr_l、右後輪接地荷重Fzr_rを演算するものである。

Fzf_l=Fzf・WR_l ・・・(式8)
Fzf_r=Fzf・(1−WR_l) ・・・(式9)
Fzr_l=Fzr・WR_l ・・・(式10)
Fzr_r=Fzr・(1−WR_l) ・・・(式11)
【0034】
各輪摩擦円限界値演算部167は、各輪接地荷重演算部166及び路面μ推定手段150を用いて、各タイヤの摩擦円限界値を演算するものである。
図3は、タイヤの摩擦円限界とタイヤ力との関係を示す図である。横軸は前後方向タイヤ力を示し、縦軸は横方向タイヤ力を示している。
摩擦円は、路面の摩擦係数μ及びタイヤの接地荷重Fzによって定まる円である。摩擦円の半径である摩擦円限界値は、タイヤの接地荷重Fzに摩擦係数μを乗じた値となる。タイヤ接地面で発生する横方向力と前後方向力との合力は、摩擦円を超えない(摩擦円の外側には出ない)ということが知られている。すなわち、以下の式12が成立する。

Fy+Fx≦(μ・Fz) ・・・(式12)
Fy:横方向力
Fx:前後方向力
μ:摩擦係数
Fz:タイヤ接地荷重

この各輪摩擦円限界値演算部167は、本発明にいう限界タイヤ力推定手段として機能する。
【0035】
各輪前後力演算部168は、各タイヤが発生する前後力を演算するものである。各輪前後力演算部168は、トランスミッション出力トルク演算部162が出力するトランスミッション出力トルクTt、トランスミッション制御ユニット50が出力するセンターディファレンシャルにおける差動制限クラッチの締結トルクTLSD、総駆動力演算部163が出力する総駆動力Fx、及び、各輪接地荷重演算部166が出力する各輪の接地荷重Fzf_l、Fzf_r、Fzr_l、Fzr_r等に基づいて、左前輪前後力Fxf_l、右前輪前後力Fxf_r、左後輪前後力Fxr_l、右後輪前後力Fxr_rを演算する。
【0036】
以下、左前輪前後力Fxf_l、右前輪前後力Fxf_r、左後輪前後力Fxr_l、右後輪前後力Fxr_rの演算手順の一例を説明する。
まず前輪荷重配分率WR_fを以下の式13によって求める。

WR_f=Fzf/W ・・・(式13)
WR_f:前輪荷重配分率
Fzf:前輪接地荷重
W:車両重量
【0037】
次に、最小前輪前後トルクTfminと最大前輪前後トルクTfmaxを、以下の式14、式15によって求める。

Tfmin=Tt・Rf_cd−TLSD(≧0) ・・・(式14)
Tfmax=Tt・Rf_cd+TLSD(≧0) ・・・(式15)

Rf_cd:センタディファレンシャルベーストルク配分
LSD:差動制限クラッチの締結トルク
【0038】
次に、最小前輪前後力Fxfminと最大前輪前後力Fxfmaxとを、以下の式16、式17によって求める。

Fxfmin=Tfmin・η・if/Rt ・・・(式16)
Fxfmax=Tfmax・η・if/Rt ・・・(式17)

η:駆動系の伝達効率
if:最終減速比
Rt:タイヤ半径
【0039】
そして、以下のように状態判定する。
(1)WR_f≦Fxfmin/Fxのときは、後輪側に差動制限トルクが増加されているものとして、判定値I=1とする。
(2)WR_f≧Fxfmax/Fxのときは、前輪側に差動制限トルクが増加されているものとして、判定値I=3とする。
(3)上記以外の場合は通常時と判定して、判定値I=2とする。
【0040】
そして、前輪前後力Fxfは、上述した判定値Iに応じて、以下の式18〜式20によって求められる。
(1)I=1の場合
Fxf=Tfmin・η・if/Rt ・・・(式18)
(2)I=2の場合
Fxf=Fx・WR_f ・・・(式19)
(3)I=3の場合
Fxf=Tfmax・η・if/Rt ・・・(式20)
また、後輪前後力Fxrは、以下の式21によって求められる。

Fxr=Fx−Fxf ・・・(式21)
【0041】
左前輪前後力Fxf_l、右前輪前後力Fxf_r、左後輪前後力Fxr_l、右後輪前後力Fxr_rは、以下の式22、式23によって求められる。

Fxf_l=Fxf_r=Fxf/2 ・・・(式22)
Fxr_l=Fxr_r=Fxr/2 ・・・(式23)
【0042】
各輪横力演算部169は、横加速度、車速、舵角、ヨーレート等に基づいて、各タイヤが発生する横力を演算するものである。
各輪横力演算部169には、横加速度センサ34が出力する横加速度(dy/dt)、車速センサ32が出力する各車輪速ωfl、ωfr、ωrl、ωrr、ヨーレートセンサ33が出力するヨーレートγ、左輪荷重比率演算部165が出力する左輪荷重比率WR_l等が入力される。
【0043】
前輪横力Fyf、後輪横力Fyrは、以下の式24、式25によって求められる。

Fyf=(Iz・(dγ/dt)+m・(dy/dt)・Lr)/L ・・・(式24)
Fyr=(−Iz・(dγ/dt)+m・(dy/dt)・Lf)/L ・・(式25)

Iz:車両のヨー慣性モーメント
Lf:前軸−重心間距離
Lr:後軸−重心間距離
m:車両質量
【0044】
また、左前輪横力Fyf_l、右前輪横力Fyf_r、左後輪横力Fyr_l、右後輪横力Fyr_rは、以下の式26〜式29によって求められる。

Fyf_l=Fyf・WR_l ・・・(式26)
Fyf_r=Fyf・(1−WR_l) ・・・(式27)
Fyr_l=Fyr・WR_l ・・・(式28)
Fyr_r=Fyr・(1−WR_l) ・・・(式29)
【0045】
各輪タイヤ合力演算部170は、各輪前後力演算部168が算出した前後力及び各輪横力演算部169が算出した横力の合力を演算するものである。
左前輪タイヤ合力F_fl、右前輪タイヤ合力F_fr、左後輪タイヤ合力F_rl、右後輪タイヤ合力F_rrは、以下の式30〜式33によって求められる。

F_fl=(Fxf_l+Fyf_l1/2 ・・・(式30)
F_fr=(Fxf_r+Fyf_r1/2 ・・・(式31)
F_rl=(Fxr_l+Fyr_l1/2 ・・・(式32)
F_rr=(Fxr_r+Fyr_r1/2 ・・・(式33)
【0046】
各輪タイヤ力余裕度演算部171は、各輪摩擦円限界値演算部167が演算した各タイヤの摩擦円限界値と、各輪タイヤ合力演算部170が演算した各タイヤのタイヤ合力との差分を各タイヤの余裕度として算出するものである。すなわち、タイヤ力余裕度は、当該タイヤが摩擦円をオーバーすることなく、さらに発生可能なタイヤ力を示している。
各タイヤの余裕度のうち、操舵輪である左右前輪に関する情報は、制御分担比設定手段180に提供される。
【0047】
制御分担比設定手段180は、タイヤ力余裕度演算手段160の各輪タイヤ力余裕度演算部171が出力する、左右前輪それぞれの摩擦円限界値とタイヤ合力との差分に基づいて、左右輪制動力差制御手段190と操舵力制御手段200との制御分担比RDYC:RSTR(RDYC+RSTR=1)を設定するものである。この制御分担比の設定については、後に詳しく説明する。
【0048】
左右輪制動力差制御手段190は、操安制御ユニット30を介してHCU31を制御し、左右輪のブレーキ制動力差を発生させることによって、車両にヨーモーメントを発生させるものである。ここで発生させる目標ヨーモーメントは、目標操向量設定手段140が設定した目標操向量、及び、制御分担比設定手段180が設定する制御分担比に基づいて設定される。
目標ヨーモーメントは、以下の式34によって求められる。
【数2】

【0049】
操舵力制御手段200は、EPS制御ユニット20を介して電動アクチュエータ21を制御し、操舵機構10に操舵トルクを付与することによって車両を操向するものである。ここで付与される目標操舵トルクは、目標操向量設定手段140が設定した目標操向量、及び、制御分担比設定手段180が設定する制御分担比に基づいて設定される。
目標操舵トルクは、以下の式35によって求められる。
【数3】

【0050】
以下、本実施例の運転支援装置における左右輪制動力差制御手段190と操舵力制御手段200との制御分担比設定について説明する。
図4は、制御分担比設定時における運転支援装置の動作を示すフローチャートである。以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0051】
<ステップS01:タイヤ力演算>
タイヤ力余裕度演算手段160の各輪タイヤ合力演算部170は、操舵輪である左右前輪のタイヤ合力を演算する。
その後、ステップS02に進む。
【0052】
<ステップS02:タイヤ力の摩擦円限界値を演算>
タイヤ力余裕度演算手段160の各輪摩擦円限界値演算部167は、操舵輪である左右前輪の摩擦円限界値を演算する。
その後、ステップS03に進む。
【0053】
<ステップS03:タイヤ力が閾値をオーバーしているか判断>
タイヤ力余裕度演算手段160の各輪タイヤ力余裕度演算部171は、左右前輪の摩擦円限界値に対して所定の安全率a(0<a<1)を乗じた閾値を、タイヤ合力がオーバーしているか否か判断する。
左右前輪のタイヤ合力が、どちらも図3に示すタイヤ合力F1のように閾値をオーバーしていない場合は、タイヤ力に余裕があり操舵力制御のみによって目標操向量を得られるものとしてステップS04に進む。一方、左右前輪の少なくとも一方のタイヤ合力が、図3に示すタイヤ合力F2のように閾値をオーバーしている場合は、タイヤ力に余裕がなく、操舵力制御のみによって目標操向量を得ようとした場合にタイヤのグリップ限界を超える可能性が高いものとしてステップS05に進む。
【0054】
<ステップS04:操舵トルク制御のみ実行>
制御分担比設定手段180は、操舵力制御手段200の制御分担比RSTRを1(100%)に設定するとともに、左右輪制動力差制御手段190の制御分担比を0%に設定する。これによって、操舵力制御手段200は、操舵機構10への操舵力付与(舵角付与)のみによって目標操向量が得られるように、上述した式35を用いて電動アクチュエータ21の制御に用いる目標操舵トルクを設定する。
その後、処理を終了(リターン)する。
【0055】
<ステップS05:制動力制御及び操舵トルク制御実行>
制御分担比設定手段180は、左右輪制動力差制御手段190と操舵力制御手段200との制御分担比を、予め設定された所定の比率(RDYC>0)に設定する。
左右輪制動力差制御手段190及び操舵力制御手段200は、目標操向量を上述した制御分担比RDYC:RSTRで按分した操向量をそれぞれ得られるように、式34及び式35を用いて左右輪ブレーキの制動力差によるヨーモーメント及び操舵機構10に付与される操舵トルクをそれぞれ制御する。
その後、処理を終了(リターン)する。
【0056】
以上説明した実施例によれば、左右前輪いずれかのタイヤ合力が、摩擦円限界値に所定の安全率を乗じて得た閾値をオーバーした状態では、タイヤ力に余裕がないものとして、操舵機構への操舵トルクを付与するとともに左右輪制動力差によるヨーモーメントを発生させて車両を操向することにより、タイヤ力が摩擦円限界値を超えて車両が不安定となることを防止できるとともに、低μ路走行時や高速コーナリング時のようにタイヤ力に余裕がない状態であっても良好な操向制御を行うことができる。
また、左右前輪のタイヤ合力がいずれも閾値をオーバーしない状態では、タイヤ力に余裕があるものとして、操舵機構への操舵トルクの付与のみによって車両を操向することにより、制動力差制御によってドライバに違和感を生じさせることがない。
【0057】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)上述した実施例では、現在発生しているタイヤ力(摩擦円限界値)への接近に応じて制御分担比を変更しているが、本発明はこれに限らず、操向制御を行った場合に発生すると推定されるタイヤ力を推定し、この推定値の限界タイヤ力への接近に応じて制御分担比を変更する構成としてもよい。
(2)摩擦円限界値及びタイヤ力を演算する手法は、上述した実施例の手法に限定されず適宜変更することができる。
(3)上述した実施例では、摩擦円限界値とタイヤ力との差分が所定の閾値を境に変化した際に、操舵制御と制動力制御の制御分担比を段階的に変化させているが、差分の変化に応じて連続的に制御分担比を変化させるようにしてもよい。
(4)上述した実施例では、左右の制動力差によってヨーモーメントを発生させているが、本発明はこれに限らず、駆動力を左右不均等配分する左右トルク配分装置を用いて、左右駆動輪に駆動力差を与えてヨーモーメントを発生させる駆動力制御と、操舵機構に操舵力を付与する操舵制御との制御分担比設定にも適用することができる。また、電気自動車やエンジン−電気ハイブリッド車両の場合には、制駆動力差を左右輪にそれぞれ設けられた駆動用モータの出力差又は回生ブレーキ力差によって発生させてもよい。
(5)実施例では、環境認識手段はステレオカメラを用いて車線形状を検出しているが、本発明はこれに限らず、例えばナビゲーション装置等のために準備された地図データ及び自車位置の測位情報に基づいて車線形状を検出するようにしてもよい。
(6)操舵機構に操舵トルクを付与するアクチュエータの構成は、実施例のようなコラムアシストタイプのものに限らず、例えば、ステアリングシャフトに接続されたピニオン軸を駆動するピニオンアシストタイプ、ステアリングシャフトに接続されたピニオンと独立したピニオンを駆動するダブルピニオンタイプ、ステアリングラック自体を直進方向に駆動するラック直動タイプ等であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明を適用した運転支援装置の実施例を備えた車両のシステム構成を示す図である。
【図2】図1の運転支援装置におけるタイヤ力余裕度演算手段の構成を示す図である。
【図3】タイヤの摩擦円限界とタイヤ力との関係を示す模式図である。
【図4】図1の運転支援装置における制御分担比の設定動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0059】
10 操舵機構 11 ステアリングホイール
12 ステアリングシャフト 13 ステアリングギアボックス
14 タイロッド FW 前輪
H ハウジング
20 電動パワーステアリング(EPS)制御ユニット
21 電動アクチュエータ 22 トルクセンサ
30 操安制御ユニット
31 ハイドロリックコントロールユニット(HCU)
32 車速センサ 33 ヨーレートセンサ
34 横加速度(横G)センサ 35 舵角センサ
40 エンジン制御ユニット
41 電子制御スロットル制御装置(ETC)
42 スロットル開度センサ 43 エンジン回転数センサ
50 トランスミッション制御ユニット
60 車両統合ユニット
100 操向支援制御ユニット 110 環境認識手段
111 ステレオカメラ 112 画像処理部
120 目標走行位置設定手段 130 自車進行路推定手段
140 目標操向量設定手段 150 路面μ推定手段
160 タイヤ力余裕度演算手段 161 エンジントルク演算部
162 トランスミッション出力トルク演算部
163 総駆動力演算部 164 前後接地荷重演算部
165 左輪荷重比率演算部 166 各輪接地荷重演算部
167 各輪摩擦円限界値演算部 168 各輪前後力演算部
169 各輪横力演算部 170 各輪タイヤ合力演算部
171 各輪タイヤ力余裕度演算部 180 制御分担比設定手段
190 左右輪制動力差制御手段 200 操舵力制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両前方の環境情報に基づいて自車両を操向する運転支援装置において、
自車両前方の環境を認識する環境認識手段と、
前記環境認識手段を用いて自車両の目標操向量を算出する目標操向量算出手段と、
操舵輪タイヤが発生するタイヤ力を算出するタイヤ力算出手段と、
前記操舵輪タイヤの限界タイヤ力を推定する限界タイヤ力推定手段と、
操舵機構に付与される操舵力を制御する操舵力制御手段と、
左右輪の制駆動力差を制御する制駆動力制御手段と、
前記目標操向量を所定の制御分担比で割り振ることにより前記操舵力制御手段の目標操舵力及び前記制駆動力制御手段の目標制駆動力差を設定するとともに、前記タイヤ力の前記限界タイヤ力への接近に応じて、前記制駆動力制御手段の前記操舵力制御手段に対する制御分担比を増加させる制御分担比設定手段と
を備えることを特徴とする運転支援装置。
【請求項2】
前記制御分担比設定手段は、前記タイヤ力が前記限界タイヤ力よりも小さく設定される閾値をオーバーした場合にのみ前記制駆動力制御手段により前記制駆動力差を発生させること
を特徴とする請求項1に記載の運転支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−69984(P2010−69984A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237765(P2008−237765)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】