説明

運転管理装置、運転管理方法および運転管理プログラム

【課題】HP式給湯機の経済的な運転を実現することを課題とする。
【解決手段】給湯機の運転を管理する運転管理装置は、所定の開始時刻から各時刻までに消費された過去の給湯需要の実績データに基づいて、前記各時刻までに消費される給湯需要の予測累積量を算出し、前記各時刻までに消費された過去の電力需要の実績データに基づいて、前記各時刻までに消費される電力需要の予測累積量を算出し、前記各時刻までに消費された過去の発電出力の実績データおよび天候データに基づいて、前記各時刻までの発電出力の予測値を算出し、前記給湯需要の予測累積量、前記電力需要の予測累積量、および前記発電出力の予測値に基づいて、前記各時刻で維持すべき前記給湯機の蓄熱量をそれぞれ算出し、算出した前記蓄熱量が維持されるように前記給湯機の運転を制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転管理装置、運転管理方法および運転管理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
今後、太陽光発電(PV:Photovoltaic power generation)などの分散型電源の需要家への普及に伴い、分散型電源が大量に配電系統へ連系されることによる電力品質への影響などが懸念されている。この懸念に対し、ループコントローラや系統運用管理システムなどによる系統側からの制御を行うだけでなく、需要家側でもある程度の対策を行うことで、系統全体の運用や即応性を考慮した需給一体型の運用制御が提案されている。
【0003】
この需給一体型の運用制御では、需要家側において、例えば、需給インタフェースを用いて、ヒートポンプ式給湯機などの負荷機器の運転制御を行うことが提案されている。例えば、需要家側では、需給インタフェースにより、ヒートポンプ式給湯機の太陽光の出力抑制時間帯にヒートポンプ式給湯機を運転するなどの運転パターンを決定して制御を行う。このように、需要家側で、ヒートポンプ式給湯機などの負荷機器の運転を出力抑制時間帯にシフトできれば、需要家において逆潮流による発電出力の抑制を回避でき、電力品質への影響を小さくできる可能性がある。
【0004】
しかし、家庭の電力需要や給湯需要は日々の変動が大きく更に太陽光発電の出力も変動することから、需要家において、ヒートポンプ式給湯機などの負荷機器の運転パターンを決定することは困難である。そこで、太陽光発電の出力予想に合わせて、逆潮流が予め決められた許容値以下となるようなヒートポンプ式給湯機の運転計画が提案されている。この運転計画では、各時刻の給湯需要や電力需要を予測し、この予測値を基に各時刻にヒートポンプ式給湯機で生成する湯量を決定する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】浅利真宏、所健一 「需要家機器との連系制御を用いた太陽光発電逆潮流抑制方式」、電力中央研究所報告:R08025、[online]、2010年8月、[2011年4月1日検索]、インターネット<http://criepi.denken.or.jp/jp/kenkikaku/report/detail/R08025.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した給湯需要などは不確実性が高いので正確な予測を行うことは難しい。このため、上述した運転計画では、需要家における実績需要が予測より少ない日もあり、給湯機のタンクに十分な量の湯が残っているのにもかかわらず、さらに湯を追加してしまうという無駄が生じる場合がある。つまり、上述した運転計画では、ヒートポンプ式給湯機の経済的な運転を実現困難であるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、電力品質への影響を考慮しつつ、ヒートポンプ式給湯機の経済的な運転を実現することが可能な運転管理装置、運転管理方法および運転管理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、給湯機の運転を管理する運転管理装置であって、所定の開始時刻から各時刻までに消費された過去の給湯需要の実績データに基づいて、前記各時刻までに消費される給湯需要の予測累積量を算出する給湯需要予測部と、前記各時刻までに消費された過去の電力需要の実績データに基づいて、前記各時刻までに消費される電力需要の予測累積量を算出する電力需要予測部と、前記給湯需要予測部により算出された給湯需要の予測累積量、および前記電力需要予測部により算出された電力需要の予測累積量に基づいて、前記各時刻で維持すべき前記給湯機の蓄熱量をそれぞれ算出する蓄熱量算出部と、前記蓄熱量算出部により算出された前記蓄熱量が維持されるように、前記給湯機の運転を制御する運転制御部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ヒートポンプ式給湯機の経済的な運転を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、実施例1に係る配電系統の一例を示す図である。
【図2】図2は、実施例1に係る需要家に設置されている設備の一例を示す図である。
【図3】図3は、実施例1に係る運転管理装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図4】図4は、実施例1に係る給湯需要の累積量の分布の一例を示す図である。
【図5】図5は、実施例1に係る運転管理装置による給湯機の運転制御方法の一例を示す図である。
【図6】図6は、実施例1に係る運転管理装置による処理の流れを示す図である。
【図7】図7は、平均給湯需要の時系列変化を示す図である。
【図8】図8は、平均電力需要の時系列変化を示す図である。
【図9】図9は、従来手法による需要家Xの電気代と実施例1による制御手法による需要家Xの電気代との比較図である。
【図10】図10は、従来手法による需要家Yの電気代と実施例1による制御手法による需要家Yの電気代との比較図である。
【図11】図11は、従来手法による需要家Zの電気代と実施例1による制御手法による需要家Zの電気代との比較図である。
【図12】図12は、従来手法による需要家Xにおける抑制量と実施例1による制御手法による需要家Xにおける抑制量との比較図である。
【図13】図13は、従来手法による需要家Yにおける抑制量と実施例1による制御手法による需要家Yにおける抑制量との比較図である。
【図14】図14は、従来手法による需要家Zにおける抑制量と実施例1による制御手法による需要家Zにおける抑制量との比較図である。
【図15】図15は、実施例1に係る運転管理装置によるヒートポンプ式給湯機の制御結果と、従来の制御手法によるヒートポンプ式給湯機の制御結果との比較一覧を示す図である。
【図16】図16は、運転管理プログラムを実行する電子機器の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、図面を参照しつつ、本願が開示する運転管理装置、運転管理方法および運転管理プログラムの一実施形態について詳細に説明する。後述する各実施例は一実施形態にすぎず、本願の開示する運転管理装置、運転管理方法および運転管理プログラムを限定するものではない。また、後述する各実施例は処理内容に矛盾を生じさせない範囲で適宜組み合わせることもできる。
【実施例1】
【0012】
[概要と特徴(実施例1)]
本願が開示する運転管理装置は、ヒートポンプ式(以下、適宜HP式と記載する。)の給湯機の運転を管理することを概要とする。特に、この運転管理装置は、太陽光発電(PV:Photovoltaic power generation、以下、適宜PVと記載する。)による出力予測に合わせて、逆潮流が所定の許容値以下となるようなHP式給湯機の経済的な運転を行うことを概要とする。そして、本願が開示する運転管理装置は、以下に説明する点に特徴がある。
【0013】
すなわち、本願が開示する運転管理装置は、例えば、24時間を1時間区切りとした各時刻までの給湯需要および電力需要の予測累積値と、PVの出力の予測値とに基づいて、各時刻でHP式給湯機が維持すべき蓄熱量を算出する。そして、本願が開示する運転管理装置は、算出した蓄熱量が維持されるようにHP式給湯機の運転を制御する。
【0014】
従来は、各時刻に対する給湯需要や電力需要の予測を行っていたが、予測される値の分散が大きく、HP式給湯機の経済的な運転が実現困難である。これに対して、本願が開示する運転管理装置は、給湯需要や電力需要について、各時刻ごとに各時刻に到達するまでの需要の累積値を予測する。これにより、本願が開示する運転管理装置は、給湯需要や電力需要について予測する値の分散を小さく抑えることができ、各時刻でHP式給湯機が維持すべき蓄熱量を精度良く算出することができる。そして、本願が開示する運転管理装置は、この蓄熱量が維持されるようにHP式給湯機の運転を制御する結果、HP式給湯機の経済的な運転が実現可能となる。
【0015】
[実施例1の構成]
図1は、実施例1に係る配電系統の一例を示す図である。図1に示すように、配電線2を介して、配電用変電所1と各需要家(家庭)3とが、連系されている。各需要家(家庭)3には、PVの為の設備が設置されている。なお、配電系統内にループコントローラが設置されている場合でも、以下に説明する実施例1を同様に適用できる。
【0016】
図2は、実施例1に係る需要家に設置されている設備の一例を示す図である。図2に示すように、需要家3には、太陽光発電装置5、蓄電池6、ヒートポンプ式給湯機7、負荷機器類8、インタフェース9が設置されている。太陽光発電装置5は、所定の太陽電池モジュール、パワーコンディショナー、分電盤および電力量計などを有し、太陽光を受けて生成した電気を需要家3などに供給する装置である。蓄電池6は、太陽光発電装置5により生成された電気を蓄える装置である。
【0017】
ヒートポンプ式給湯機7(以下、適宜給湯機7と記載する。)は、太陽光発電装置5により生成される電力、または配電線から供給される系統電力を利用して湯を生成する装置である。なお、給湯機7には、生成した湯を蓄える貯湯タンクを有し、貯湯タンクの底部や側部などの各所に、貯湯タンクの蓄熱量(蓄えられたお湯による熱量)を推定するための熱電対が設置される。負荷機器類8は、冷蔵庫や洗濯機、照明、テレビ、IH(Induction Heating)クッキングヒーターなど、給湯機7以外で、太陽光発電装置5により生成された電力、または配電線から供給される系統電力を利用する需要家3内の機器である。インタフェース9は、後述する運転管理装置100により利用される中継装置であり、例えば、需要家3に設置された給湯機7などの運転の制御に利用される。
【0018】
図3は、実施例1に係る運転管理装置の構成を示す機能ブロック図である。なお、以下では、例えば、運転管理装置が、各時刻に到達するまでに予測される給湯需要および電力需要の予測累積量、および各時刻のPV出力の予測値に基づいて、翌日の給湯機7の運転を制御する場合を説明する。図3に示すように、運転管理装置100は、給湯需要実績取得部101と、給湯需要実績データ記憶部102と、給湯需要累積予測量算出部103を有する。また、図3に示すように、運転管理装置100は、電力需要実績取得部104と、電力需要実績データ記憶部105と、電力需要累積予測量算出部106とを有する。また、図3に示すように、運転管理装置100は、発電出力実績取得部107と、発電出力実績データ記憶部108と、天候情報取得部109と、発電出力予測値算出部110とを有する。また、図3に示すように、運転管理装置100は、電気価格取得部111と、最適蓄熱量算出部112と、給湯機運転制御部113とを有する。
【0019】
なお、給湯需要実績データ記憶部102、電力需要実績データ記憶部105および発電出力実績データ記憶部108は、例えば、RAM(Random Access Memory)やフラッシュメモリ(flash memory)などの半導体メモリ素子を用いて実装できる。
【0020】
なお、給湯需要実績取得部101や給湯需要累積予測量算出部103、電力需要実績取得部104や電力需要累積予測量算出部106は、例えば、電子回路や集積回路により実装できる。同様に、発電出力実績取得部107、天候情報取得部109および発電出力予測値算出部110は、例えば、電子回路や集積回路により実装できる。同様に、電気価格取得部111、最適蓄熱量算出部112および給湯機運転制御部113は、例えば、電子回路や集積回路により実装できる。上述した電子回路としては、例えば、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)がある。また、上述した集積回路としては、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などがある。
【0021】
給湯需要実績取得部101は、例えば、午前0時をスタートとして翌日の午前0時までの1時間おきの各時刻(以下、適宜各時刻と記載する。)ごとに、需要家3において消費された湯量を給湯需要の実績データとして取得する。例えば、給湯需要実績取得部101は、インタフェース9を介して、給湯機7による給湯量のデータを給湯需要の実績データとして取得する。また、給湯需要実績取得部101は、給湯需要の実績データを取得すると、その都度、取得したデータを取得日時に対応付けて給湯需要実績データ記憶部102に格納する。なお、給湯需要実績取得部101は、給湯需要の実績データを取得するたびに、給湯需要実績データ記憶部102に記憶されている実績データを上書き更新してもよいし、上書きせずに過去のデータとともにそのまま格納してもよい。給湯需要実績データ記憶部102は、給湯需要実績取得部101により取得された給湯需要の実績データを各時刻ごとに記憶する。
【0022】
給湯需要累積予測量算出部103は、給湯需要実績データ記憶部102に記憶されている給湯需要の実績データを用いて、翌日の各時刻に至るまでの給湯需要の予測累積量を算出する。
【0023】
具体的には、給湯需要累積予測量算出部103は、給湯需要実績データ記憶部102に記憶されている給湯需要の実績データを取得し、各時刻に至るまでの給湯需要の累積値の分布をそれぞれ算出する。ここで、各時刻に至るまでの給湯需要の累積値の分布は、ガンマ分布に近い性質を有することが分かっている。図4は、実施例1に係る給湯需要の累積量の分布の一例を示す図である。図4は、例えば、ある需要家の20時における給湯需要の累積量の分布の一例を示している。図4に示すように、20時における給湯需要の累積量の分布を指数関数で近似した場合、20時における給湯需要の累積量の分布はガンマ分布に近い分布であることが分かる。そこで、給湯需要累積予測量算出部103は、各時刻に至るまでの給湯需要の累積量の分布がガンマ分布に従うものと仮定し、各時刻に至るまでの給湯需要の累積量の分布について、分布のパラメータ(形状母数および尺度母数)をそれぞれ算出する。そして、給湯需要累積予測量算出部103は、算出した分布のパラメータに基づいて、0時をスタートとして、1時間おきの各時刻に至るまでの翌日の給湯需要の予測累積量をそれぞれ算出する。例えば、給湯需要累積予測量算出部103は、各時刻のガンマ分布の平均を予測累積量として算出する。
【0024】
なお、給湯需要累積予測量算出部103は、1日の始まりの時刻、例えば、午前0時については、給湯需要の累積値とはならない。累積でない各時刻の給湯需要の分布は指数分布に近い形となることが分かっている。そこで、その時刻における給湯需要の分布が指数分布に従うものと仮定して指数分布のパラメータを算出し、このパラメータを基に翌日0時の給湯需要の予測量を計算する。
【0025】
電力需要実績取得部104は、各時刻ごとに、需要家3における消費電力のデータを電力需要の実績データとして取得する。例えば、電力需要実績取得部104は、インタフェース9を介して、需要家3に設置されている電力量計のデータを取得し、各時刻の消費電力量を実績データとして算出する。また、電力需要実績取得部104は、電力需要の実績データを算出すると、その都度、算出したデータを算出日時に対応付けて電力需要実績データ記憶部105に格納する。なお、電力需要実績取得部104は、電力需要の実績データを取得するたびに、電力需要実績データ記憶部105に記憶されている実績データを上書き更新してもよいし、上書きせずに過去のデータとともにそのまま格納してもよい。電力需要実績データ記憶部105は、電力需要実績取得部104により取得された電力需要の実績データを各時刻ごとに記憶する。
【0026】
電力需要累積予測量算出部106は、電力需要実績データ記憶部105に記憶されている電力需要の実績データを用いて、翌日の各時刻に至るまでの電力需要の予測累積量を算出する。電力需要は、給湯需要とは異なり、冷蔵庫など、常時電力を消費する負荷機器類8があるため、需要が0となることはない。しかし、1時間程度の時間間隔で見た場合、電力需要の各時刻までの累積量の分布は、給湯需要と同様にガンマ分布に近い分布となることが分かっている。そこで、電力需要累積予測量算出部106は、上述した給湯需要累積予測量算出部103と同様の方法で、各時刻までの電力需要の予測累積量を算出する。
【0027】
具体的には、電力需要累積予測量算出部106は、電力需要実績データ記憶部105に記憶されている電力需要の実績データを取得し、例えば、午前0時をスタートとして翌日の午前0時までの1時間おきの各時刻に至るまでの給湯需要の累積値の分布をそれぞれ算出する。続いて、電力需要累積予測量算出部106は、各時刻に至るまでの電力需要の累積量の分布について、分布のパラメータをそれぞれ算出する。そして、電力需要累積予測量算出部106は、算出した分布のパラメータに基づいて、各時刻に至るまでの翌日の電力需要の予測累積量をそれぞれ算出する。
【0028】
発電出力実績取得部107は、インタフェース9を介して、各時刻ごとに、太陽光発電装置5による発電出力の実績データを取得する。なお、電力需要実績取得部104は、発電出力の実績データを取得すると、その都度、取得したデータを取得日時に対応付けて発電出力実績データ記憶部108に格納する。なお、発電出力実績取得部107は、発電出力の実績データを取得するたびに、発電出力実績データ記憶部108に記憶されている実績データを上書き更新してもよいし、上書きせずに過去のデータとともにそのまま格納してもよい。発電出力実績データ記憶部108は、発電出力実績取得部107により取得された発電出力の実績データを、取得した日時に対応付けて各時刻ごとに記憶する。
【0029】
天候情報取得部109は、後述する発電出力予測値算出部110からの要求に応じ天候情報を取得する。例えば、天候情報取得部109は、ネットワークなどを介して行われる通信などにより、所定のウェブサイトなどから、需要家3の住所近傍の天候に関する情報を取得する。なお、天候情報取得部109は、天候に関する情報として、例えば、晴れや曇りなどの時間帯ごとの天候や予想される日照量や気温などを取得する。
【0030】
発電出力予測値算出部110は、発電出力実績データ記憶部108に記憶されている発電出力の実績データおよび天候情報取得部109により取得された天気に関する情報を用いて、翌日の各時刻ごとの発電出力の予測値を算出する。
【0031】
具体的には、発電出力予測値算出部110は、発電出力実績データ記憶部108に記憶されている発電出力の実績データを取得する。続いて、発電出力予測値算出部110は、発電出力の実績データに対応付けられた日時に対応する分の天候情報および翌日の天候情報を天候情報取得部109に要求し、要求した天候情報を天候情報取得部109から取得する。続いて、発電出力予測値算出部110は、発電出力の実績データを、実績データに対応付けられた日時に対応する天候ごとにグループ分けし、さらに時刻ごとにグループ分けする。続いて、発電出力予測値算出部110は、天候ごと、各時刻ごとにグループ分けされた発電出力の分布が正規分布に従うものと仮定して、各グループの発電出力の平均値を算出する。そして、発電出力予測値算出部110は、各時刻の翌日の天候情報に対応したグループの発電出力の平均値を取得し、翌日の各時刻ごとの発電出力の予測値を算出する。
【0032】
電気価格取得部111は、ネットワークなどを介して行われる通信などにより、需要家3を連系する電力会社のウェブサイトなどから、現時点での買電価格、売電価格のデータを取得する。
【0033】
最適蓄熱量算出部112は、実績データを用いて、翌日の各時刻に至るまでの給湯需要および電力需要の累積予測量、発電出力の予測値、買電価格および売電価格などに基づいて、翌日の各時刻で給湯機7が維持すべき最適な蓄熱量を算出する。なお、最適蓄熱量算出部112は、給湯需要、電力需要および発電出力の実績データを利用する場合、全実績データの平均値、先月のデータの平均値、昨日の実績データなどいずれのデータを用いてもよい。ここで、給湯機7の蓄熱量を算出する際に発電出力を考慮する必要があるのは、需要家の太陽光発電による逆潮流を制約する場合に、太陽光発電による発電出力と給湯機7の運転との間に密接な関係があるためである。すなわち、貯湯タンクの容量などの関係で、貯湯タンクに湯を蓄えることができなくなった場合には、発電した電気で湯を生成することができなくなり、逆潮流制約を超える発電出力を抑制しなければならない事態が起こりうるためである。
【0034】
(仮定条件)
最適蓄熱量算出部112は、以下の仮定条件の下で、給湯機7が各時刻で維持すべき最適な蓄熱量を算出する。給湯機7のCOP(Coefficient Of Performance:成績係数)は、外気温度や入水温度、湯の沸上げ温度などにより変化する。そこで、給湯機7のCOPは、次の線形式、「COP=a×気温−a×入水温度−a×湯の沸上げ温度+a」により算出されるものと仮定する。なお、a〜aは、例えば、給湯機7のカタログデータに記載のCOPデータから推定が可能である。また、実際の給湯機7では、沸上げ温度が離散的な値となるが、単純化するため、65℃以上、90℃以下の連続値がとれるものと仮定する。なお、給湯機7に設けられる貯湯タンクに蓄えられた熱の一定割合が放熱により失われるものと仮定してもよく、温度成層や対流などの影響は考慮しない。
【0035】
続いて、最適蓄熱量算出部112は、給湯機7が翌日の各時刻で維持すべき最適な蓄熱量を算出するために、1日の電気代を最小にするときの時刻tにおける蓄熱量を求めるという最適化問題として定式化する。例えば、最適蓄熱量算出部112は、1日の電気代を、t(tは1〜24の整数)を時刻として、以下の式(1)で表わすことができる。
【数1】

【0036】
また、最適蓄熱量算出部112は、上記式(1)において、時刻tにおける電気代を以下の式(2)で表すことができる。
【数2】

【0037】
また、最適蓄熱量算出部112は、上記式(2)において、時刻tにおける買電量を以下の式(3)で表すことができる。
【数3】

【0038】
また、最適蓄熱量算出部112は、上記式(2)において、時刻tにおける売電量を以下の式(4)で表すことができる。
【数4】

【0039】
また、最適蓄熱量算出部112は、上記式(3)および(4)において、時刻tにおける消費電力を以下の式(5)で表すことができる。なお、式(5)におけるPV発電量予測値は、発電出力予測値算出部110により算出された発電出力の予測値に該当する。また、式(5)における累積電力需要予測値は、電力需要累積予測量算出部106により算出された電力需要の累積予測量に該当する。
【数5】

【0040】
また、最適蓄熱量算出部112は、上記式(5)において、時刻tにおける給湯機7の消費電力を以下の式(6)で表すことができる。なお、式(6)における累積給湯需要予測値は、給湯需要累積予測量算出部106により算出された給湯需要の累積予測量に該当する。
【数6】

【0041】
そして、最適蓄熱量算出部112は、上記式(1)〜(6)により表される最適化問題に対し、次の(A)〜(D)の制約条件を設定する。(A)逆潮流による制約、(B)給湯機7のタンク容量による制約、(C)給湯機7の湯切れによる制約、および(D)給湯機7の出力による制約を加える。
【0042】
(A)逆潮流による制約は、最適化問題に対し、配電系統への逆潮流を考慮した制約が加えられるものであり、この制約を以下の式(7)のように表わすことができる。
【数7】

【0043】
(B)給湯機7のタンク容量による制約は、最適化問題に対し、給湯機7のタンクの容量以上のお湯は蓄えることができない点を考慮した制約が加えられるものであり、この制約を以下の式(8)のように表すことができる。
【数8】

【0044】
(C)給湯機7の湯切れによる制約は、最適化問題に対し、給湯機7の運転を行う場合に、湯切れを生じさせないようにする点を考慮した制約が加えられるものであり、この制約を以下の式(9)のように表すことができる。
【数9】

【0045】
(D)給湯機7の出力による制約は、最適化問題に対し、給湯機7で単位時間に生成できる湯量には限界がある点を考慮した制約を加えるものであり、この制約を以下の式(10)のように表すことができる。
【数10】

【0046】
そして、最適蓄熱量算出部112は、上述した(7)〜(10)で表される制約条件(A)〜(D)の元で、上述した式(1)〜(6)で表される最適化問題の最適解、すなわち、1日の電気代を最小にするときの時刻tにおける蓄熱量を算出する。これにより、最適蓄熱量算出部112は、翌日の各時刻で給湯機7が維持すべき最適な蓄熱量を算出する。
【0047】
給湯機運転制御部113は、上述した各時刻に到達すると、その都度、最適蓄熱量算出部112から該当時刻にて給湯機7の貯湯タンクが維持すべき蓄熱量を取得し、取得した蓄熱量が維持されるように給湯機7の運転(給湯機7による湯の生成)を制御する。具体的には、給湯機運転制御部113は、午前0時をスタートとして午前0時、午前1時、午前2時などの各時刻に到達すると、インタフェース9を介して、給湯機7の貯湯タンクに設置されている熱電対の情報を取得する。そして、給湯機運転制御部113は、取得した熱電対の情報に基づいて、各時刻における貯湯タンクの蓄熱量を推定する。
【0048】
続いて、給湯機運転制御部113は、最適蓄熱量算出部112から、該当時刻にて給湯機7の貯湯タンクが維持すべき蓄熱量を取得する。そして、給湯機運転制御部113は、給湯機7の貯湯タンクに現在蓄えられている蓄熱量と、該当時刻で給湯機7の貯湯タンクに維持すべき蓄熱量(必要蓄熱量)とを比較する。そして、給湯機運転制御部113は、給湯機7の貯湯タンクに現在蓄えられている蓄熱量と必要蓄熱量との比較結果に応じて、給湯機7の運転(給湯機7による湯の生成)を制御する。以下、図5を参照しつつ、給湯機運転制御部113による給湯機7の運転制御方法の一例を説明する。図5は、実施例1に係る運転管理装置による給湯機の運転制御方法の一例を示す図である。図5に示す折れ線グラフは、各時刻において給湯タンクに維持すべき最低湯量の推移を示し、図5に示す棒グラフは、各時刻において給湯タンク内の湯量(残湯量、あるいは残湯量と生成湯量との和)を示す。
【0049】
給湯機運転制御部113は、給湯機7の貯湯タンクに現在蓄えられている湯量(残湯量)が最低湯量よりも多い場合(消費湯量が予測よりも少ない場合)には、湯の生成を行わないように給湯機7に指示を送信する。例えば、図5に示すように、18時〜23時では、給湯機7の貯湯タンクに現在蓄えられている湯量(残湯量)が最低湯量を大きく上回っている。このような場合には、給湯機運転制御部113は、湯の生成を行わないように給湯機7に指示を送信する。また、図5に示すように、8時、9時、23時についても、給湯機7の貯湯タンクに現在蓄えられている湯量(残湯量)が最低湯量を大きく上回っているので、給湯機運転制御部113は、湯の生成を行わないように給湯機7に指示を送信する。このようにすることで、給湯機運転制御部113は、無駄な湯の生成を回避する。一方、給湯機運転制御部113は、給湯機7の貯湯タンクに現在蓄えられている湯量が最低湯量よりも少ない場合(消費湯量が予測よりも多い場合)には、貯湯タンクの湯量が最低湯量を満足するのに必要な湯量を算出する。そして、給湯機運転制御部113は、算出した湯量分の湯を生成するように給湯機7に指示を送信する。例えば、図5に示すように、給湯機運転制御部113は、6時、7時において、給湯タンクに現在蓄えられている湯量(残湯量)が最低湯量を大きく下回っている。このような場合には、給湯機運転制御部113は、貯湯タンクの湯量が最低湯量を満足するのに必要な湯量を算出し、算出した湯量分の湯を生成するように給湯機7に指示を送信する。また、図5に示すように、1時、11時〜16時、24時についても、6時や7時の時と同様に、給湯タンクに現在蓄えられている湯量(残湯量)が最低湯量を下回っているので、給湯機運転制御部113は、貯湯タンクの湯量が最低湯量を満足するのに必要な湯量を算出し、算出した湯量分の湯を生成するように給湯機7に指示を送信する。このようにすることで、給湯機運転制御部113は、貯湯タンクの湯切れを回避する。
【0050】
また、給湯機運転制御部113は、貯湯タンクの表面温度から貯湯タンクの蓄熱量を推定し、給湯機7の運転を制御することもできる。具体的には、給湯機運転制御部113は、所定の時刻に到達すると、インタフェース9を介して、給湯機7の貯湯タンクの底部および側部の表面温度を取得する。続いて、給湯機運転制御部113は、給湯機7から取得した表面温度に基づいて、給湯機7の貯湯タンクの推定蓄熱量(湯による熱量)を算出する。
【0051】
続いて、給湯機運転制御部113は、最適蓄熱量算出部112から、該当時刻にて給湯機7の貯湯タンクが維持すべき蓄熱量を取得する。続いて、給湯機運転制御部113は、給湯機7の貯湯タンクが維持すべき蓄熱量と、給湯機7の貯湯タンクの推定蓄熱量とを比較する。続いて、給湯機運転制御部113は、給湯機7の貯湯タンクが維持すべき蓄熱量よりも、給湯機7の貯湯タンクの推定蓄熱量が小さい場合には、給湯機7に予め設定温度で所定量の湯を生成するように給湯機7に指示を送信する。以後、給湯機運転制御部113は、給湯機7の貯湯タンクの底部および側部の表面温度を逐次取得して、給湯機7の貯湯タンクの推定蓄熱量を算出し、推定蓄熱量を算出するたびに、給湯機7の貯湯タンクが維持すべき蓄熱量と比較する。そして、給湯機運転制御部113は、推定蓄熱量が給湯機7の貯湯タンクが維持すべき蓄熱量以上となった時点で、給湯機7に湯の生成を停止するように指示を送信する。
【0052】
なお、給湯機運転制御部113は、給湯機7の貯湯タンクの推定蓄熱量が、給湯機7の貯湯タンクが維持すべき蓄熱量よりも小さくない場合には、給湯機7の貯湯タンクに必要湯量が蓄えられているものと判定する。そして、給湯機運転制御部113は、湯の生成を行わないように給湯機7に指示を送信する。
【0053】
また、給湯機運転制御部113は、貯湯タンクの湯面の高さおよび貯湯タンクの表面温度に基づいて、給湯機7の運転を制御することもできる。具体的には、給湯機運転制御部113は、所定の時刻に到達すると、インタフェース9を介して、給湯機7の貯湯タンクに現在蓄えられている湯面の高さおよび貯湯タンクの表面温度を取得する。続いて、給湯機運転制御部113は、給湯機7から取得した湯面の高さおよび表面温度に基づいて、給湯機7の貯湯タンクに現在蓄えられている湯量および推定蓄熱量を算出する。
【0054】
続いて、給湯機運転制御部113は、最適蓄熱量算出部112から、該当時刻にて給湯機7の貯湯タンクが維持すべき蓄熱量を取得する。続いて、給湯機運転制御部113は、給湯機7の貯湯タンクの現在の推定蓄熱量が所定の閾値を下回っているか否かを判定する。給湯機運転制御部113は、所定の閾値を下回っている場合には、続いて、貯湯タンクの湯量が規定湯量を満足しているか否かを判定する。なお、規定湯量とは、湯切れを防止する為に予め設定された湯量とする。判定の結果、貯湯タンクの湯量が規定湯量に満たない場合には、給湯機運転制御部113は、給湯機7の貯湯タンクが維持すべき蓄熱量および貯湯タンクの規定湯量を満足するために、何℃の湯がどれくらい必要であるかを算出する。そして、給湯機運転制御部113は、算出結果に従って湯を生成するように給湯機7に指示を送信する。
【0055】
一方、貯湯タンクの蓄熱量が規定湯量を満足している場合には、給湯機運転制御部113は、給湯機7の貯湯タンクが維持すべき蓄熱量を満足するために必要な湯の温度を算出する。そして、給湯機運転制御部113は、算出した温度となるように、貯湯タンクの湯の過熱指示を給湯機7に送信する。
【0056】
なお、給湯機運転制御部113は、給湯機7の貯湯タンクの推定蓄熱量が所定の閾値を下回っていない場合には、給湯機7に現在蓄えられている湯量は規定湯量を満足しているものとする。そして、給湯機運転制御部113は、湯の生成を行わないように給湯機7に指示を送信する。
【0057】
[運転管理装置による処理(実施例1)]
図6は、実施例1に係る運転管理装置による処理の流れを示す図である。なお、図6に示す処理は、例えば、翌日の給湯機7の運転を制御するために、前日の午後11時から午前0時(23時から24時)までに行われるものとする。
【0058】
図6に示すように、最適蓄熱量算出部112は、処理開始のタイミング(午後11時を超過)となるまで、S101の判定結果をNoとして、S101の判定を繰り返す。そして、最適蓄熱量算出部112は、処理開始のタイミング(午後11時を超過)となると(S101、YES)、給湯需要累積予測量算出部103から給湯需要の予測累積量を読み込む(S102)。続いて、最適蓄熱量算出部112は、電力需要累積予測量算出部106から電力需要の累積予測量を読み込む(S103)。続いて、最適蓄熱量算出部112は、発電出力予測値算出部110から発電出力の予測値を読み込む(S104)。続いて、最適蓄熱量算出部112は、電気価格取得部111から買電価格および売電価格を読み込む(S105)。
【0059】
続いて、最適蓄熱量算出部112は、時刻t(tは1〜24の整数)の蓄熱量を変数とし、S102からS105で読み込んだデータを入力データとして、1日の電気代を表す数式を作成する(S106)。なお、S106で作成する数式は、上述した式(1)から式(6)で表される。
【0060】
続いて、最適蓄熱量算出部112は、S106の数式の解を求める場合の制約条件を設定する(S107)。なお、S107で設定する制約条件は、上述した式(7)から式(10)で表される。
【0061】
続いて、最適蓄熱量算出部112は、S107で設定した制約条件の元で、S106で作成した数式で表わされる1日の電気代が最小となる時の蓄熱量を算出する(S108)。
【0062】
そして、給湯機運転制御部113は、S108にて最適蓄熱量算出部112により算出された蓄熱量が維持されるように、給湯機7の運転を制御し(S109)、処理を終了する。
【0063】
[実施例1による制御手法と従来の制御手法との比較]
以下、図7〜図15を用いて、実際の家庭で計測した給湯需要や電力需要のデータを用いて、上述してきた実施例1に係る運転管理装置100によるヒートポンプ式給湯機の制御と、従来の制御手法によるヒートポンプ式給湯機の制御との比較結果を説明する。なお、従来の制御手法は、例えば、上述した非特許文献1「需要家機器との連系制御を用いた太陽光発電逆潮流抑制方式」によるものとする。
【0064】
図7は、平均給湯需要の時系列変化を示す図である。図8は、平均電力需要の時系列変化を示す図である。図7および図8は、需要家X、需要家Yおよび需要家Zである各家庭にて実測した、ある月の給湯需要データおよび電力需要データを用いて計算した。なお、需要家X、需要家Yおよび需要家Zの各家庭には3キロワットの太陽光発電モジュール、および熱出力4.5キロワットのヒートポンプ式給湯機が設置されているものとした。また、発電出力については日射量に基づいて推定し、給湯機のCOPの変化は、「COP=0.175×気温−0.1322×入水温度−0.0394×沸き上げ温度+6.637」に従うものとした。また、貯湯タンクから24時間で1割の熱が放熱により失われるものとした。
【0065】
(電気代の比較)
まず、図9〜図11を用いて、実施例1に係る運転管理装置100によるヒートポンプ式給湯機の制御を行った場合と、従来の制御手法によるヒートポンプ式給湯機の制御を行った場合との電気代の比較を行う。図9は、従来手法による需要家Xの電気代と実施例1による制御手法による需要家Xの電気代との比較図である。図10は、従来手法による需要家Yの電気代と実施例1による制御手法による需要家Yの電気代との比較図である。図11は、従来手法による需要家Zの電気代と実施例1による制御手法による需要家Zの電気代との比較図である。
【0066】
需要家Xでは、図9に示すように、全ての日で、実施例1に係る運転管理装置100によるヒートポンプ式給湯機の制御を行った場合の方が従来の制御手法よりも電気代が削減されるという結果が得られた。なお、削減額は日によって異なるが、平均306円(最大427円、最小93円)、23日間合計で704円の電気代が削減された。
【0067】
需要家Yでは、図10に示すように、実施例1に係る運転管理装置100によるヒートポンプ式給湯機の制御を行った場合の方が従来の制御手法よりも電気代が高くなる日があるという結果が得られた。しかしながら、全体で評価すれば、実施例1に係る運転管理装置100によるヒートポンプ式給湯機の制御を行った場合の方が従来の制御手法よりも平均129円(最大275円、最小−128円)、23日間合計で284.3円の電気代が削減された。
【0068】
需要家Zでは、図11に示すように、実施例1に係る運転管理装置100によるヒートポンプ式給湯機の制御を行った場合の方が従来の制御手法よりも電気代が高くなる日が1日だけあるという結果が得られた。しかしながら、他の22日間では、実施例1に係る運転管理装置100によるヒートポンプ式給湯機の制御を行った場合の方が従来の制御手法よりも電気代が45円安く、平均で28.8円(最大42.8円、最低−45円)、23日間の合計で634.1円の電気代が削減された。
【0069】
(抑制量の比較)
まず、図12〜図14を用いて、実施例1に係る運転管理装置100によるヒートポンプ式給湯機の制御を行った場合と、従来手法によるヒートポンプ式給湯機の制御を行った場合との発電出力の抑制量の比較を行う。図12は、従来手法による需要家Xにおける抑制量と実施例1による制御手法による需要家Xにおける抑制量との比較図である。図13は、従来手法による需要家Yにおける抑制量と実施例1による制御手法による需要家Yにおける抑制量との比較図である。図14は、従来手法による需要家Zにおける抑制量と実施例1による制御手法による需要家Zにおける抑制量との比較図である。なお、以下では、逆潮流制約の1キロワットを超えた電力量を抑制量と定義し、1日の抑制量の合計を比較した。
【0070】
需要家Xでは、図12に示すように、実施例1に係る運転管理装置100によるヒートポンプ式給湯機の制御を行った場合の方が従来の制御手法よりも抑制量が大きくなる日が1日だけあるという結果が得られた。抑制量の差は1日の抑制量の合計で0.03キロワット/時である。それ以外の日は、実施例1に係る運転管理装置100によるヒートポンプ式給湯機の制御を行った場合の方が従来の制御手法よりも抑制量が小さかった。評価期間全体では、実施例1に係る運転管理装置100によるヒートポンプ式給湯機の制御により、1日平均0.6キロワット/時(最大1.5キロワット/時、最小−0.03キロワット/時)の抑制量の削減となった。そして、評価期間全体では、合計14.0キロワット/時の抑制量の削減となった。
【0071】
需要家Yでは、図13に示すように、実施例1に係る運転管理装置100によるヒートポンプ式給湯機の制御を行った場合の方が従来の制御手法よりも抑制量が大きくなる日が2日あるという結果が得られた。抑制量の差は、0.03キロワット/時と3.2キロワット/時である。評価期間全体では、実施例1に係る運転管理装置100によるヒートポンプ式給湯機の制御により、1日平均0.53キロワット/時の抑制量の削減となった。そして、評価期間全体では、合計11.6キロワット/時の抑制量の削減となった。
【0072】
需要家Zでは、図14に示すように、実施例1に係る運転管理装置100によるヒートポンプ式給湯機の制御を行った場合の方が従来の制御手法よりも抑制量が大きくなる日はないという結果が得られた。実施例1に係る運転管理装置100によるヒートポンプ式給湯機の制御により、1日平均0.67キロワット/時(最大1.6キロワット/時)の抑制量の削減となった。そして、評価期間全体では、合計14.8キロワット/時の抑制量の削減となった。
【0073】
(まとめ)
図15に、実施例1に係る運転管理装置100によるヒートポンプ式給湯機の制御結果と、従来の制御手法によるヒートポンプ式給湯機の制御結果との比較一覧を示す。図15は、実施例1に係る運転管理装置によるヒートポンプ式給湯機の制御結果と、従来の制御手法によるヒートポンプ式給湯機の制御結果との比較一覧を示す図である。図15に示すように、実施例1に係る運転管理装置100によるヒートポンプ式給湯機の制御(提案手法)の方が、従来の制御手法(既存手法)よりも、電気代および発電出力(PV出力)の両面で良好な結果が得られた。
【0074】
[実施例1による効果]
上述してきたように、実施例1に係る運転管理装置100は、実績データから給湯需要および電力需要の予測累積量を算出し、天候情報から発電出力の予測値を算出する。続いて、実施例1に係る運転管理装置100は、給湯需要および電力需要の予測累積量と、発電出力の予測値とに基づいて給湯機が維持すべき最適な蓄熱量を算出する。このようなことから、実施例1によれば、給湯需要などについて、各時刻までの累積値を推定することで、推定される値の分散を小さく抑えることができるので、各時刻でHP式給湯機が維持すべき蓄熱量を精度良く算出することができる。さらに、実施例1に係る運転管理装置100は、給湯機が維持すべき最適な蓄熱量に基づいて給湯機の湯量を調整する。このようなことから、実施例1によれば、上述した図9〜15にも示すように、従来の制御手法よりも、HP式給湯機の経済的な運転を実現できる。
【0075】
また、実施例1によれば、給湯機7の貯湯タンクに現在蓄えられている湯量が必要湯量よりも多い場合には、湯の生成を行わないようにするので、無駄な湯の生成を回避できる結果、HP式給湯機の経済的な運転を維持できる。実施例1によれば、給湯機7の貯湯タンクに現在蓄えられている湯量が必要湯量よりも少ない場合には、貯湯タンクの湯量を必要湯量とするのに必要な湯量分の湯を生成するようにするので、HP式給湯機の経済的な運転を維持しつつ、湯切れを回避できる。
【0076】
また、上述してきた実施例1では,式(1)で計算される1日の電気代が最小となる最適な蓄熱量を計算したが、以下に示す式(11)を用いて、1日の消費電力量が最小となる蓄熱量を求めることも可能である。式(11)の時刻tの消費電力量は、上述の式(5)により算出する。
【0077】
【数11】

【0078】
また、以下に示す式(12)を用いて、1日のPV発電出力抑制量が最小となる最適な蓄熱量を計算することも可能である。
【0079】
【数12】

【0080】
なお、上述してきた実施例1では、給湯需要の予測累積量、電力需要の予測累積値および発電出力の予測値に基づいて、上述した式(1)から式(10)により、給湯機7が各時刻で維持すべき最適な蓄熱量を算出する場合を説明した。しかしながら、これに限定されるものではなく、例えば、給湯需要の予測累積量および電力需要の予測累積値に基づいて、給湯機7が各時刻で維持すべき最適な蓄熱量を算出することもできる。このようにすれば、発電出力の予測値を算出するための機能を削減でき、計算負荷を減少させつつ、最適な蓄熱量を得ることができる。
【実施例2】
【0081】
以下、本発明にかかる運転管理装置、運転管理方法および運転管理プログラムの他の実施形態として実施例2を説明する。
【0082】
(1)装置構成等
図3に示した運転管理装置100の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、運転管理装置100の分散または統合の具体的形態は図示のものに限られず、例えば、最適蓄熱量算出部112と給湯機運転制御部113とが機能的または物理的に統合されていてもよい。このように、運転管理装置100の各構成要素の全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。
【0083】
(2)運転管理プログラム
また、実施例1で説明した運転管理装置100の各種の処理(例えば、図6等参照)は、あらかじめ用意されたプログラムをパーソナルコンピュータやワークステーションなどの電子機器で実行することによって実現することができる。そこで、以下では、図16を用いて、実施例1で説明した運転管理装置100と同様の機能を有する運転管理プログラムを実行する電子機器の一例を説明する。図16は、運転管理プログラムを実行する電子機器の一例を示す図である。
【0084】
図16に示すように、運転管理装置100が有する機能と同様の機能を有する電子機器200は、メモリ201と、CPU(Central Processing Unit)202を有する。また、コンピュータ200は、図16に示すように、ハードディスクドライブインタフェース203と、光ディスクドライブインタフェース204を有する。また、コンピュータ200は、図16に示すように、シリアルポートインタフェース205と、ビデオアダプタ206と、ネットワークインタフェース207を有する。そして、コンピュータ200は、これらの各部201〜207をバス208によって接続する。
【0085】
メモリ201は、図16に示すように、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を含む。ROMは、例えば、BIOS(Basic Input Output System)等のブートプログラムを記憶する。ハードディスクドライブインタフェース203は、図16に示すように、ハードディスクドライブ209に接続される。光ディスクドライブインタフェース204は、図16に示すように、光ディスクドライブ210に接続される。例えば、光ディスクドライブ210には、光ディスク等の着脱可能な記憶媒体が挿入される。シリアルポートインタフェース205は、図16に示すように、例えば、マウス300およびキーボード400に接続される。ビデオアダプタ206は、図16に示すように、例えば、ディスプレイ500に接続される。
【0086】
ここで、図16に示すように、ハードディスクドライブ209は、例えば、OS(Operating System)、アプリケーションプログラム、プログラムモジュール、プログラムデータを記憶する。
【0087】
すなわち、開示の技術に係る運転管理プログラムは、コンピュータ200によって実行される指令が記述されたプログラムモジュールとして、例えばハードディスクドライブ209に記憶される。つまり、上述の実施例で説明した運転管理装置100と同様の処理を実行する手順が記述されたプログラムモジュールが、ハードディスクドライブ209に記憶される。例えば、このプログラムモジュールには、上述した図6などに示す処理と同様の処理を実行する手順が記述されている。
【0088】
また、運転管理プログラムによる処理に用いられるデータは、プログラムデータとして、例えばハードディスクドライブ209に記憶される。例えば、このプログラムデータは、上述の実施例1で説明した給湯需要実績データ記憶部102、電力需要実績データ記憶部105および発電出力実績データ記憶部108などに記憶される各種情報に対応する。
【0089】
そして、CPU202が、ハードディスクドライブ209に記憶されたプログラムモジュールやプログラムデータを必要に応じてRAMに読み出し、上述の実施例1で説明したものと同様の処理(図6など)を実行するための手順を実行する。
【0090】
なお、運転管理プログラムに係るプログラムモジュールやプログラムデータは、ハードディスクドライブ209に記憶される場合に限られるものではなく、例えば、着脱可能な記憶媒体である光ディスクドライブ210等に記憶されていてもよい。この場合には、CPU202が、光ディスクドライブ210を介して、運転管理プログラムに係るプログラムモジュールやプログラムデータを読み出す。
【0091】
あるいは、運転管理プログラムに係るプログラムモジュールやプログラムデータは、ネットワーク(LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)等)を介して接続された他のコンピュータに記憶されていてもよい。この場合には、CPU202が、ネットワークインタフェース207を介して、運転管理プログラムに係るプログラムモジュールやプログラムデータを他のコンピュータから読み出す。
【0092】
なお、プログラムによりCPU202が動作して各種処理を行う代わりに、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などの電子回路を用いて処理を行うこともできる。また、メモリ201として、フラッシュメモリ(flash memory)などを用いることもできる。
【0093】
(3)運転管理方法
実施例1で説明した運転管理装置100により、以下のような運転管理方法が実現される。
【0094】
すなわち、コンピュータが、所定の開始時刻から各時刻までに消費された過去の給湯需要の実績データに基づいて、前記各時刻までに消費される給湯需要の予測累積量を算出し(図6のS102)、前記各時刻までに消費された過去の電力需要の実績データに基づいて、前記各時刻までに消費される電力需要の予測累積量を算出し(図6のS103)、前記各時刻までに消費された過去の発電出力の実績データおよび天候データに基づいて、前記各時刻までの発電出力の予測値を算出し(図6のS104)、前記給湯需要の予測累積量、前記電力需要の予測累積量、および前記発電出力の予測値に基づいて、前記各時刻で維持すべき前記給湯機の蓄熱量をそれぞれ算出し(図6のS108)、算出した前記蓄熱量が維持されるように前記給湯機の運転を制御する(図6のS109)、各処理を実行する運転管理方法が実現される。
【符号の説明】
【0095】
1 配電用変電所
2 配電線
3 各需要家(家庭)
5 太陽光発電装置
6 蓄電池
7 ヒートポンプ式給湯機
8 負荷機器類
9 インタフェース
100 運転管理装置
101 給湯需要実績取得部
102 給湯需要実績データ記憶部
103 給湯需要累積予測量算出部
104 電力需要実績取得部
105 電力需要実績データ記憶部
106 電力需要累積予測量算出部
107 発電出力実績取得部
108 発電出力実績データ記憶部
109 天候情報取得部
110 発電出力予測値算出部
111 電気価格取得部
112 最適蓄熱量算出部
113 給湯機運転制御部
200 電子機器
201 メモリ
202 CPU
203 ハードディスクドライブインタフェース
204 光ディスクドライブインタフェース
205 シリアルポートインタフェース
206 ビデオアダプタ
207 ネットワークインタフェース
208 バス
209 ハードディスクドライブ
210 光ディスクドライブ
300 マウス
400 キーボード
500 ディスプレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給湯機の運転を管理する運転管理装置であって、
所定の開始時刻から各時刻までに消費された過去の給湯需要の実績データに基づいて、前記各時刻までに消費される給湯需要の予測累積量を算出する給湯需要予測部と、
前記各時刻までに消費された過去の電力需要の実績データに基づいて、前記各時刻までに消費される電力需要の予測累積量を算出する電力需要予測部と、
前記給湯需要予測部により算出された給湯需要の予測累積量、および前記電力需要予測部により算出された電力需要の予測累積量に基づいて、前記各時刻で維持すべき前記給湯機の蓄熱量をそれぞれ算出する蓄熱量算出部と、
前記蓄熱量算出部により算出された前記蓄熱量が維持されるように前記給湯機の運転を制御する運転制御部と
を有することを特徴とする運転管理装置。
【請求項2】
前記各時刻までに消費された過去の発電出力の実績データおよび天候データに基づいて、前記各時刻までの発電出力の予測値を算出する発電出力予測部をさらに有し、
前記蓄熱量算出部は、前記給湯需要予測部により算出された給湯需要の予測累積量、前記電力需要予測部により算出された電力需要の予測累積量、および前記発電出力予測部により算出された前記発電出力の予測値に基づいて、前記各時刻で維持すべき前記給湯機の蓄熱量をそれぞれ算出することを特徴とする請求項1に記載の運転管理装置。
【請求項3】
前記運転制御部は、前記蓄熱量算出部により算出された前記蓄熱量に相当する必要湯量を算出して前記給湯機に残存する湯量と比較し、比較の結果、前記給湯機に残存する湯量が前記必要湯量以下である場合には、該必要湯量となるまで湯の生成を行うように前記給湯機の運転を制御する一方で、前記給湯機に残存する湯量が前記必要湯量よりも多い場合には、湯の生成を行わないように前記給湯機の運転を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の運転管理装置。
【請求項4】
前記蓄熱量算出部は、時刻tのときの前記蓄熱量を変数とし、下記の式(1)から式(6)を用いて表される1日の電気代が最小となるときの最適解を所定の制約条件の下で導出することにより前記蓄熱量を算出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の運転管理装置。
【数1】

【数2】

【数3】

【数4】

【数5】

【数6】

なお、tは1〜24の整数である。
【請求項5】
給湯機の運転を管理するコンピュータによる運転管理方法であって、
前記コンピュータが、
所定の開始時刻から各時刻までに消費された過去の給湯需要の実績データに基づいて、前記各時刻までに消費される給湯需要の予測累積量を算出し、
前記各時刻までに消費された過去の電力需要の実績データに基づいて、前記各時刻までに消費される電力需要の予測累積量を算出し、
前記給湯需要の予測累積量および前記電力需要の予測累積量に基づいて、前記各時刻で維持すべき前記給湯機の蓄熱量をそれぞれ算出し、
算出した前記蓄熱量が維持されるように前記給湯機の運転を制御する
各処理を実行することを特徴とする運転管理方法。
【請求項6】
前記コンピュータが、
前記各時刻までに消費された過去の発電出力の実績データおよび天候データに基づいて、前記各時刻までの発電出力の予測値をさらに算出し、
前記給湯需要の予測累積量、前記電力需要の予測累積量および前記前記発電出力の予測値に基づいて、前記各時刻で維持すべき前記給湯機の蓄熱量をそれぞれ算出することを特徴とする請求項5に記載の運転管理方法。
【請求項7】
給湯機の運転を管理する処理をコンピュータに実行させる運転管理プログラムであって、
前記コンピュータに、
所定の開始時刻から各時刻までに消費された過去の給湯需要の実績データに基づいて、前記各時刻までに消費される給湯需要の予測累積量を算出する手順と、
前記各時刻までに消費された過去の電力需要の実績データに基づいて、前記各時刻までに消費される電力需要の予測累積量を算出する手順と、
前記給湯需要の予測累積量および前記電力需要の予測累積量に基づいて、前記各時刻で維持すべき前記給湯機の蓄熱量をそれぞれ算出する手順と、
算出した前記蓄熱量が維持されるように前記給湯機の運転を制御する手順と
を実行させることを特徴とする運転管理プログラム。
【請求項8】
前記コンピュータに、
前記各時刻までに消費された過去の発電出力の実績データおよび天候データに基づいて、前記各時刻までの発電出力の予測値を算出する手順をさらに実行させ、
前記給湯機の蓄熱量をそれぞれ算出する手順は、前記給湯需要の予測累積量、前記電力需要の予測累積量および前記前記発電出力の予測値に基づいて、前記各時刻で維持すべき前記給湯機の蓄熱量をそれぞれ算出することを特徴とする請求項7に記載の運転管理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−2794(P2013−2794A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137753(P2011−137753)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)