説明

過充電防止剤、非水電解液、及び、リチウムイオン二次電池

【課題】サイクル特性を損なうことなく、過充電時の急激な発熱や発火を抑制することができる過充電防止剤、その過充電防止剤を用いた非水電解液を提供する。
【解決手段】式(1)及び/又は、式(2)で表される化合物からなる過充電防止剤。




(R〜R10は、−H、−CH、−OR11、−R12−O−R13、又は、−O−R12−O−R13であり、R11〜R13は、アルキル基、含フッ素アルキル基又はアルキレン基であり、R及びR15は、炭素数1〜6のアルキル基である)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過充電防止剤、その過充電防止剤を用いた非水電解液、及び、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池用の非水電解液に対する要求特性は年々厳しくなってきている。そうした要求特性の1つとして、過充電時の安全性(たとえば不燃性や耐破壊性など)の確保の問題を解決することが求められている。
【0003】
この問題の解決方法として、ビフェニル、シクロヘキシルベンゼン、トルエン、t−アルキルベンゼン誘導体などの化合物を過充電防止剤として非水電解液に添加することが知られている(特許文献1〜12)。
【0004】
特に、特許文献13には、ベンゼン、トルエン、キシレン、アニソールまたはビフェニルの水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換された含フッ素芳香族化合物、たとえばモノフルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、パーフルオロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、ジフルオロトルエン、ジフルオロアニソールまたはフルオロビフェニルが耐酸化性に優れ、過充電防止に効果があることが記載されている。
【0005】
一方、非水電解液としての性能を落とさずに不燃性(難燃性)を高めるために、フッ素系溶媒を添加することも提案されている(特許文献14〜24)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2005/048391号パンフレット
【特許文献2】特開2004−311442号公報
【特許文献3】特開2005−267966号公報
【特許文献4】国際公開第2005/074067号パンフレット
【特許文献5】特開2003−77478号公報
【特許文献6】特開2004−63114号公報
【特許文献7】特開2003−132950号公報
【特許文献8】特開2004−134261号公報
【特許文献9】特開2005−142157号公報
【特許文献10】特開2005−259680号公報
【特許文献11】特開平08−037024号公報
【特許文献12】国際公開第2002/029922号パンフレット
【特許文献13】国際公開第2010/013739号パンフレット
【特許文献14】特開平09−097627号公報
【特許文献15】特開平11−026015号公報
【特許文献16】特開2000−294281号公報
【特許文献17】特開2001−052737号公報
【特許文献18】特開平11−307123号公報
【特許文献19】特開平10−112334号公報
【特許文献20】国際公開第2006/088009号パンフレット
【特許文献21】国際公開第2006/106655号パンフレット
【特許文献22】国際公開第2006/106656号パンフレット
【特許文献23】国際公開第2006/106657号パンフレット
【特許文献24】国際公開第2008/007734号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の過充電防止剤は、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を低下させることがあった。
近年の電気製品の軽量化、小型化にともない、高いエネルギー密度をもつリチウムイオン二次電池等の開発が進められている。特に今後、リチウムイオン二次電池を車載用等に適用する場合、安全性及び電池特性はますます重要となる。
【0008】
本発明は、サイクル特性を損なうことなく、過充電時の急激な発熱や発火を抑制することができる過充電防止剤、その過充電防止剤を用いた非水電解液、及び、リチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、式(1):
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、R〜R10は、同じか又は異なり、いずれも−H、−CH、−OR11、−R12−O−R13、又は、−O−R12−O−R13であり、R11は炭素数1〜6のアルキル基又は含フッ素アルキル基であり、R12は炭素数1〜3のアルキレン基であり、R13は炭素数1〜4のアルキル基又は含フッ素アルキル基である)で表される化合物、及び/又は、式(2):
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、R14及びR15は、同じか又は異なり、いずれも炭素数1〜6のアルキル基である)で表される化合物からなることを特徴とする過充電防止剤である。
【0014】
上記式(1)で表される化合物において、R、R、R、R及びRのうち1〜3個、並びに、R、R、R、R及びR10のうち1〜3個が、同じか又は異なり、いずれも−CH、−OR11、−R12−O−R13、又は、−O−R12−O−R13であり、R11は炭素数1〜6のアルキル基であり、R12は炭素数1〜3のアルキレン基であり、R13は炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましい。
更に、上記式(1)で表される化合物において、R、R、R、R及びRのうち1〜3個、並びに、R、R、R、R及びR10のうち1〜3個が、同じか又は異なり、いずれも−CH、−OR11、又は、−O−R12−O−R13であり、R11は炭素数1〜4のアルキル基であり、R12は炭素数1〜3のアルキレン基であり、R13は炭素数1〜4のアルキル基であることがより好ましい。
上記式(2)で表される化合物において、R14及びR15は、同じか又は異なり、いずれも炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましい。
【0015】
本発明はまた、上述の過充電防止剤、非水溶媒、及び、電解質塩を含むことを特徴とする非水電解液でもある。
本発明はまた、正極と、負極と、上述の非水電解液とを備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池でもある。
本発明はまた、式(1):
【0016】
【化3】

【0017】
(式中、R〜R10は、同じか又は異なり、いずれも−H、−CH、−OR11、−R12−O−R13、又は、−O−R12−O−R13であり、R11は炭素数1〜6のアルキル基又は含フッ素アルキル基であり、R12は炭素数1〜3のアルキレン基であり、R13は炭素数1〜4のアルキル基又は含フッ素アルキル基である)で表される化合物、及び/又は、式(2):
【0018】
【化4】

【0019】
(式中、R14及びR15は、同じか又は異なり、いずれも炭素数1〜6のアルキル基である)で表される化合物を含む非水電解液を調製する工程、上記非水電解液を備えるリチウムイオン二次電池を作製する工程、並びに、上記リチウムイオン二次電池を充電する工程、を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池の過充電時における発熱抑制方法でもある。
以下に本発明を詳細に説明する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、式(1)の化合物、及び/又は、式(2)の化合物が、特異的に過充電による高温時にも反応せず、優れた過充電防止効果を奏する。また、サイクル特性を損なうこともない。このため、本発明の過充電防止剤を含む非水電解液は、サイクル特性に優れ、かつ、高い安全性を有するリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】試験1で作製するラミネートセルの概略組立て斜視図である。
【図2】試験1で作製するラミネートセルの概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の過充電防止剤は、
式(1):
【0023】
【化5】

【0024】
(式中、R〜R10は、同じか又は異なり、いずれも−H、−CH、−OR11、−R12−O−R13、又は、−O−R12−O−R13であり、R11は炭素数1〜6のアルキル基又は含フッ素アルキル基であり、R12は炭素数1〜3のアルキレン基であり、R13は炭素数1〜4のアルキル基又は含フッ素アルキル基である)で表される化合物、及び/又は、式(2):
【0025】
【化6】

【0026】
(式中、R14及びR15は、同じか又は異なり、いずれも炭素数1〜6のアルキル基である)で表される化合物からなる。
このため、本発明の過充電防止剤を用いた二次電池は、サイクル特性を損なうことなく、過充電時における急激な発熱や発火等を防止することができ、安全性に優れたものとすることができる。
【0027】
式(1)で表される化合物において、R〜R10は、同じか又は異なり、いずれも−H、−CH、−OR11、−R12−O−R13、又は、−O−R12−O−R13であり、R11は炭素数1〜6のアルキル基又は含フッ素アルキル基であり、R12は炭素数1〜3のアルキレン基であり、R13は炭素数1〜4のアルキル基又は含フッ素アルキル基である。
なお、含フッ素アルキル基は、アルキル基の水素原子の一部又は全部をフッ素原子で置換した基である。
【0028】
なかでも、サイクル特性に優れ、かつ、過充電時の急激な発熱や発火を抑制できる二次電池が得られる点で、式(1)の化合物は、式中、R、R、R、R及びRのうち1〜3個と、R、R、R、R及びR10のうち1〜3個とが、同じか又は異なり、いずれも−CH、−OR11、−R12−O−R13、又は、−O−R12−O−R13であり、R11は炭素数1〜6のアルキル基であり、R12は炭素数1〜3のアルキレン基であり、R13は炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましい。
【0029】
更に、式(1)の化合物は、式中、R、R、R、R及びRのうち1〜3個と、R、R、R、R及びR10のうち1〜3個とは、同じか又は異なり、いずれも−CH、−OR11、又は、−O−R12−O−R13であり、R11は炭素数1〜4のアルキル基であり、R12は炭素数1〜3のアルキレン基であり、R13は炭素数1〜4のアルキル基であることがより好ましい。
【0030】
式(1)の化合物としては、具体的には、例えば、以下の化学式で表される化合物が挙げられる。
【0031】
【化7】

【0032】
なかでも、高いサイクル特性が維持できる点で、以下の化合物が好ましい。
【0033】
【化8】

【0034】
式(1)の化合物は、以下の方法により合成することができる。
前駆体となる芳香環化合物を酸触媒のものでヘキサフルオロケトンと反応させることで合成することができる。また、フェノール、ベンジルアルコールをヘキサフルオロケトンと反応させたのち、アルコールとハロゲン化アルキルやビニル化合物を反応させることで合成することができる。
また、式(1)の化合物として、市販品を用いてもよい。
【0035】
式(2)の化合物において、R14及びR15は、炭素数1〜6のアルキル基である。
上記炭素数は、サイクル特性に優れ、かつ、過充電時の発熱が抑制された二次電池を得ることができる点で、1〜4であることが好ましい。
14及びR15は、同じであってもよいし、異なっていてもよいが、合成が容易である点で、同じであることが好ましい。
【0036】
式(2)の化合物としては、高いサイクル特性が付与できる点で、以下の化合物が好ましい。
【0037】
【化9】

【0038】
式(2)の化合物は、例えば、以下の方法により合成することができる。
芳香環とヘキサフルオロケトンを酸触媒のもとで反応させる。このときにヘキサフルオロケトンの量を多くすることでアルコール体が合成できる。そのアルコールとハロゲン化アルキルまたはビニル化合物を反応させることで合成できる。
【0039】
本発明の過充電防止剤は、上述した式(1)の化合物及び/又は式(2)の化合物からなるものであるが、更に、他の従来の過充電防止剤も含んでいてもよい。
従来の過充電防止剤としては、例えば、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、トリアミルベンゼン、フルオロベンゼン、パーフルオロベンゼンなどが挙げられる。
従来の過充電防止剤を併用する場合、その種類および含有量は、本発明の効果、特に過充電防止効果に本質的な影響を与えない適度に適宜調整するとよいが、含有量は、一般に、0.01〜3質量%であることが好ましい。
【0040】
このような本発明の過充電防止剤を用いれば、高いサイクル特性を維持したまま、過充電時の急激な発熱や発火を防止することができ、安全性に優れた二次電池を得ることができる。このような本発明の過充電防止剤は、例えば、リチウムイオン二次電池に好適に適用することができる。
本発明の過充電防止剤を二次電池に適用する場合、本発明の過充電防止剤を含む非水電解液を調製し、これを用いて二次電池を製造するとよい。
【0041】
以下に、本発明の過充電防止剤を用いた非水電解液について詳細に説明する。
このような非水電解液もまた本発明の一つである。
【0042】
本発明の非水電解液は、式(1)で表される化合物、及び/又は、式(2)で表される化合物からなる過充電防止剤(I)、非水溶媒(II)、並びに、電解質塩(III)を含む。
【0043】
式(1)で表される化合物、及び/又は、式(2)で表される化合物からなる過充電防止剤(I)は、上述の、本発明の過充電防止剤である。
このような過充電防止剤を含むため、本発明の非水電解液を用いれば、サイクル特性に優れ、かつ、過充電時の発熱等が抑制された、安全性の高い二次電池を製造することができる。
【0044】
過充電防止剤(I)の含有量は、非水電解液中0.1〜6質量%であることが好ましい。過充電防止剤(I)の含有量が少なすぎると、過充電防止能が低くなるおそれがあり、多すぎると電池特性が悪化するおそれがある。過充電防止剤(I)の含有量は、0.2質量%以上がより好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0045】
非水溶媒(II)としては、フッ素系溶媒、及び、非フッ素系溶媒を挙げることができる。フッ素系溶媒を含有させることにより、電解液を難燃化する作用や、低温特性を改善する作用、さらにはレート特性の向上、耐酸化性の向上といった効果が得られる。
上記フッ素系溶媒としては、含フッ素エーテル、含フッ素エステル、含フッ素鎖状カーボネート、及び、含フッ素環状カーボネートを挙げることができる。
【0046】
上記含フッ素エーテルとしては、例えば、特開平08−037024号公報、特開平09−097627号公報、特開平11−026015号公報、特開2000−294281号公報、特開2001−052737号公報、特開平11−307123号公報などに記載された化合物が例示できる。
【0047】
なかでも、適切な沸点を有し、かつ、他溶媒との相溶性が良好である点で、式(IIA):
RfORf(IIA)
(式中、Rfは炭素数3〜6の含フッ素アルキル基、Rfは炭素数2〜6の含フッ素アルキル基)で表される含フッ素エーテルが好ましい。
【0048】
Rfとしては、例えば、HCFCFCH−、HCFCFCFCH−、HCFCFCFCFCH−、CFCFCH−、CFCFHCFCH−、HCFCF(CF)CH−、CFCFCHCH−、などの炭素数3〜6の含フッ素アルキル基が例示できる。
Rfとしては、例えば、−CFCFH、−CFCFHCF、−CFCFCFH、−CHCHCF、−CHCFHCF、−CHCHCFCFなどの炭素数2〜6の含フッ素アルキル基が例示できる。
なかでも、Rfは炭素数3〜4の含フッ素アルキル基であり、Rfは炭素数2〜3の含フッ素アルキル基であることが、イオン伝導性が良好な点から特に好ましい。
【0049】
式(IIA)で表される含フッ素エーテルの具体例としては、例えば、HCFCFCHOCFCFH、CFCFCHOCFCFH、HCFCFCHOCFCFHCF、CFCFCHOCFCFHCF、HCFCFCHOCHCFHCF、CFCFCHOCHCFHCFなどが挙げられる。
なかでも、他溶媒との相溶性やレート特性が良好な点で、HCFCFCHOCFCFH、CFCFCHOCFCFH、HCFCFCHOCFCFHCF、CFCFCHOCFCFHCFが、好ましい。
【0050】
上記含フッ素エステルとしては、式(IIB):
RfCOORf (IIB)
(式中、Rfは、炭素数1〜2のアルキル基又は含フッ素アルキル基であり、Rfは、炭素数1〜4のアルキル基又は含フッ素アルキル基であり、Rf及びRfのうち少なくとも一方は含フッ素アルキル基である)で示される含フッ素エステルが、難燃性が高く、かつ、他溶媒との相溶性が良好な点から好ましい。
【0051】
Rfとしては、具体的には、例えば、HCF−、CF−、CFCF−、HCFCF−、CHCF−、CFCH−、CH−、CHCH−、などが挙げられる。なかでも、レート特性が良好な点から、CF−、HCF−が好ましい。
【0052】
Rfとしては、具体的には、例えば、−CF、−CFCF、−CHCF、−CHCHCF、−CH(CF、−CHCFCFHCF、−CH、−CHCFCFH、−CHCH、−CHCFCF、−CHCFCFCFなどの含フッ素アルキル基;−CH、−C、−C、−CH(CH)CHなどのアルキル基が挙げられる。
なかでも、他溶媒との相溶性が良好な点で、−CHCF、−CH、−CH(CF、−CHCFCFH、−CH、−Cが、好ましい。
【0053】
式(IIB)で表される含フッ素エステルの具体例としては、例えば、以下の<1>〜<3>が挙げられる。
<1> Rf及びRfが含フッ素アルキル基であるもの:
CFC(=O)OCHCF、CFC(=O)OCHCFCF、CFC(=O)OCHCFCFH、HCFC(=O)OCHCF、HCFC(=O)OCHCFCF、HCFC(=O)OCFCF
<2> Rfが含フッ素アルキル基であるもの:
CFC(=O)OCH、CFC(=O)OCHCH、HCFC(=O)OCH、HCFC(=O)OCHCH、CHCFC(=O)OCH、CHCFC(=O)OCHCH、CFCFC(=O)OCH、CFCFC(=O)OCHCH
<3> Rfが含フッ素アルキル基であるもの:
CHC(=O)OCHCF、CHC(=O)OCHCFCF、CHC(=O)OCHCFCFH、CHCHC(=O)OCHCF、CHCHC(=O)OCHCFCF、CHCHC(=O)OCHCFCF
【0054】
なかでも、<2> Rfが含フッ素アルキル基であるもの、および、<3> Rfが含フッ素アルキル基であるものが好ましく、他溶媒との相溶性およびレート特性が良好な点から、CFC(=O)OCH、CFC(=O)OCHCH、HCFC(=O)OCH、HCFC(=O)OCHCH、CHC(=O)OCHCF、CHC(=O)OCHCFCFがより好ましい。
【0055】
上記含フッ素鎖状カーボネートとしては、式(IIC):
RfOCOORf (IIC)
(式中、Rfは、炭素数1〜4の含フッ素アルキル基、Rfは、炭素数1〜4のアルキル基又は含フッ素アルキル基)で示される含フッ素鎖状カーボネートが、難燃性が高く、かつレート特性が良好な点から好ましい。
【0056】
Rfとしては、例えば、CF−、C−、(CFCH−、CFCH−、CCH−、HCFCFCH−、CFCFHCFCH−などが挙げられる。
Rfとしては、例えば、CF−、C−、(CFCH−、CFCH−、CCH−、HCFCFCH−、CFCFHCFCH−などの含フッ素アルキル基、又は、−CH、−C、−C、−CH(CH)CHなどのアルキル基が例示できる。
なかでも、粘性が適切で、他溶媒との相溶性及びレート特性が良好である点で、Rfは、CFCH−、CCH−であることが好ましく、Rfは、CFCH−、CCH−、−CH、−Cであることが好ましい。
【0057】
式(IIC)で表される含フッ素鎖状カーボネートの具体例としては、例えば、CFCHOCOOCHCF、CFCFCHOCOOCHCFCF、CFCFCHOCOOCH、CFCHOCOOCH、CFCHOCOOCHCHなどの含フッ素鎖状カーボネートが挙げられる。
なかでも、CFCHOCOOCHCF、CFCFCHOCOOCHCFCF、CFCHOCOOCH、CFCHOCOOCHCHが、粘性が適切で、難燃性、他溶媒との相溶性及びレート特性が良好な点から特に好ましい。
また、例えば、特開平06−21992号公報、特開2000−327634号公報、特開2001−256983号公報などに記載された化合物も例示できる。
【0058】
上記含フッ素環状カーボネートとしては、式(IID):
【0059】
【化10】

【0060】
(式中、X、X、X及びXは同じ又は異なり、いずれも−H、−F、−CF、−CHF、−CHF、−OCH、−OCHCFCHF、−CF(CF、−C又は−CHCFであり、ただし、X、X、X及びXの少なくとも1つは−F、−CF、−OCH、−OCHCFCHF、−CF(CF、−C又は−CHCFである)で表される含フッ素環状カーボネートが、静電容量が大きく、耐電圧も高い点から好ましい。
【0061】
上記含フッ素環状カーボネートとしては、具体的には、例えば以下の化合物が挙げられる。
【0062】
【化11】

【0063】
なかでも、以下の化合物が好ましい。
【0064】
【化12】

【0065】
そのほか、リチウムイオン二次電池用の非水溶媒(II)としては、公知のフッ素系溶媒を併用してもよい。
【0066】
上記フッ素系溶媒の含有量は、非水溶媒中10〜90体積%であることが好ましい。
フッ素系溶媒の含有量が上述の範囲内であると、難燃性、低温特性、レート特性、及び、耐酸化性に優れた電解液とすることができる。
上記含有量は、安全性が特に向上することから、20体積%以上がより好ましく、30体積%以上が更に好ましく、60体積%以下がより好ましく、50体積%以下が更に好ましく、45体積%以下が特に好ましい。
【0067】
上記非フッ素系溶媒としては、非フッ素化環状カーボネート、非フッ素化鎖状カーボネート、エステル、ラクトン、スルホン、スルホランなどが挙げられる。
なかでも、低温特性及びサイクル特性が良好な点から、非フッ素化環状カーボネート、及び、非フッ素化鎖状カーボネートが好ましい。
【0068】
非フッ素化環状カーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ビニレンカーボネート(VC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネートなどが挙げられる。
なかでも、誘電率が高く、電解質塩の溶解性やレート特性に優れる点で、エチレンカーボネート(EC)、ビニレンカーボネート(VC)、プロピレンカーボネート(PC)、及び、ブチレンカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
非フッ素化環状カーボネートとして、上述した化合物の1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。非フッ素化環状カーボネートの含有量は、非水電解液中0〜50質量%であることが好ましく、非水電解液中0〜40質量%であることがより好ましい。
【0069】
非フッ素化鎖状カーボネートとしては、例えば、CHCHOCOOCHCH(ジエチルカーボネート;DEC)、CHCHOCOOCH(メチルエチルカーボネート;MEC)、CHOCOOCH(ジメチルカーボネート;DMC)、CHOCOOCHCHCH(メチルプロピルカーボネート)などの炭化水素系鎖状カーボネートの1種または2種以上があげられる。これらのうち粘性が低く、かつ低温特性が良好なことから、DEC、MEC、DMCが好ましい。非フッ素化鎖状カーボネートの含有量は、非水電解液中0〜85質量%であることが好ましく、非水電解液中0〜80質量%であることがより好ましい。
【0070】
非フッ素化環状カーボネートと非フッ素化鎖状カーボネートとを併用する場合、その含有比(非フッ素化環状カーボネート/非フッ素化鎖状カーボネート)は、体積比で1/15〜2/1であることが好ましい。
非フッ素化環状カーボネートの割合が小さすぎると、溶媒全体の誘電率が低下し、電池特性を損なうおそれがある。
【0071】
非水溶媒(II)は、なかでも、レート特性、サイクル特性が優れる点で、非フッ素化環状カーボネートと非フッ素化鎖状カーボネートとの組み合わせ、非フッ素化環状カーボネートと非フッ素化鎖状カーボネートと含フッ素エーテルとの組み合わせ、含フッ素化環状カーボネートと非フッ素鎖状カーボネートと含フッ素エーテルとの組み合わせ、又は、フッ素化環状カーボネートと含フッ素鎖状カーボネートと含フッ素エーテルとの組み合わせが好ましい。
【0072】
電解質塩(III)としては、二次電池用の電解液に使用することができる任意のものを用いることができるが、なかでも、リチウム塩が好ましい。
上記リチウム塩としては、例えば、LiClO、LiPF及びLiBF等の無機リチウム塩;LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiPF(CF、LiPF(C、LiPF(CFSO、LiPF(CSO、LiBF(CF、LiBF(C、LiBF(CFSO、LiBF(CSO、リチウムジフルオロ(オキサレート)ボレート、リチウムビス(オキサレート)ボレート、及び、式:LiPF(C2n+16−a(式中、aは0〜5の整数であり、nは1〜6の整数である)で表される塩等の含フッ素有機酸リチウム塩等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0073】
なかでも、上記リチウム塩は、非水電解液を高温保存した後の劣化を抑制することができる点で、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、リチウムジフルオロ(オキサレート)ボレート、リチウムビス(オキサレート)ボレート、及び、式:LiPF(C2n+16−a(式中、aは0〜5の整数であり、nは1〜6の整数である)で表される塩からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0074】
式:LiPF(C2n+16−aで表される塩としては、例えば、LiPF(CF、LiPF(C、LiPF(C、LiPF(C、LiPF(CF、LiPF(C、LiPF(C、LiPF(C(ただし、式中のC、Cで表されるアルキル基は、直鎖、分岐構造のいずれであってもよい。)等が挙げられる。
【0075】
非水電解液中の上記電解質塩の濃度は、0.5〜3モル/リットルが好ましい。この範囲外では、電解液の電気伝導率が低くなり、電池性能が低下してしまう傾向がある。
上記電解質塩の濃度は、0.9モル/リットル以上がより好ましく、1.5モル/リットル以下がより好ましい。
【0076】
本発明の非水電解液は、更に、重量平均分子量が2000〜4000であり、末端に−OH、−OCOOH、又は、−COOHを有するポリエチレンオキシドを含有することが好ましい。
このような化合物を含有することにより、電極界面の安定性が向上し、電池特性を向上させることができる。
上記ポリエチレンオキシドとしては、例えば、ポリエチレンオキシドモノオール、ポリエチレンオキシドカルボン酸、ポリエチレンオキシドジオール、ポリエチレンオキシドジカルボン酸、ポリエチレンオキシドトリオール、ポリエチレンオキシドトリカルボン酸等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なかでも、電池特性がより良好となる点で、ポリエチレンオキシドモノオールとポリエチレンオキシドジオールの混合物、及び、ポリエチレンカルボン酸とポリエチレンジカルボン酸の混合物であることが好ましい。
【0077】
上記ポリエチレンオキシドの重量平均分子量が小さすぎると、酸化分解されやすくなるおそれがある。上記重量平均分子量は、3000〜4000がより好ましい。
上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によるポリスチレン換算により測定することができる。
【0078】
上記ポリエチレンオキシドの含有量は、非水電解液中1×10−6〜1×10−2mol/kgであることが好ましい。上記ポリエチレンオキシドの含有量が多すぎると、電池特性を損なうおそれがある。
上記ポリエチレンオキシドの含有量は、5×10−6mol/kg以上であることがより好ましい。
【0079】
本発明の非水電解液は、更に、不飽和環状カーボネート、フッ素化環状カーボネート、及び、環状スルホン酸化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含有していてもよい。これらの化合物を含有することにより、電池特性の低下を抑制することができる。
【0080】
上記不飽和環状カーボネートは、不飽和結合を含む環状カーボネートであり、具体的には、例えば、ビニレンカーボネート、1−メチルビニレンカーボネート、1,2−ジメチルビニレンカーボネート等を挙げることができる。
上記フッ素化環状カーボネートは、フッ素原子が付加した環状カーボネートであり、具体的には、例えば、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート等を挙げることができる。
上記環状スルホン酸化合物としては、例えば、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、1,3−プロペンスルトン等が挙げられる。
なかでも、高温特性を向上させることができる点で、本発明の非水電解液は、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトンを含有することが好ましい。
【0081】
これらの化合物の含有量は、非水電解液中0.1〜10質量%であることが好ましく、1質量%以上がより好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0082】
本発明の非水電解液は、本発明の効果を損なわない範囲で、不燃(難燃)化剤、界面活性剤、高誘電化添加剤、サイクル特性及びレート特性改善剤等の他の添加剤を更に含有していてもよい。
【0083】
上記不燃(難燃)化剤としては、リン酸エステルが挙げられる。上記リン酸エステルとしては、例えば、含フッ素アルキルリン酸エステル、非フッ素系アルキルリン酸エステル、アリールリン酸エステル等が挙げられる。なかでも、少量で不燃効果を発揮できる点で、含フッ素アルキルリン酸エステルであることが好ましい。
【0084】
上記含フッ素アルキルリン酸エステルとしては、具体的には、特開平11−233141号公報に記載された含フッ素ジアルキルリン酸エステル、特開平11−283669号公報に記載された環状のアルキルリン酸エステル、又は、含フッ素トリアルキルリン酸エステル等が挙げられる。
【0085】
上記難燃化剤としては、(CHO)P=O、(CFCHO)P=O等が挙げられる。
【0086】
上記界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれでもよいが、サイクル特性、レート特性が良好となる点から、フッ素原子を含むものであることが好ましい。
【0087】
このようなフッ素原子を含む界面活性剤としては、例えば、下記式(3):
RfCOO (3)
(式中、Rfは炭素数3〜10のエーテル結合を含んでいてもよい含フッ素アルキル基;MはLi、Na、K又はNHR’(R’は同じか又は異なり、いずれもH又は炭素数が1〜3のアルキル基)である)で表される含フッ素カルボン酸塩や、下記式(4):
RfSO (4)
(式中、Rfは炭素数3〜10のエーテル結合を含んでいてもよい含フッ素アルキル基;MはLi、Na、K又はNHR’(R’は同じか又は異なり、いずれもH又は炭素数が1〜3のアルキル基)である)で表される含フッ素スルホン酸塩等が好ましい。
【0088】
上記界面活性剤の含有量は、充放電サイクル特性を低下させずに電解液の表面張力を低下させることができる点から、非水電解液中0.01〜2質量%であることが好ましい。
【0089】
上記高誘電化添加剤としては、例えば、スルホラン、メチルスルホラン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、アセトニトリル、プロピオニトリル等が挙げられる。
【0090】
上記サイクル特性及びレート特性改善剤としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等が挙げられる。
【0091】
本発明の非水電解液は、フッ酸を0.5〜70ppm含有することが好ましい。フッ酸を含有することにより、添加剤の被膜形成を促進させることができる。
フッ酸の含有量は、50ppm以下がより好ましく、30ppm以下が更に好ましい。
フッ酸の含有量は、中和滴定法により測定することができる。
【0092】
本発明の非水電解液は、上述した成分を用いて、任意の方法で調製するとよい。
【0093】
本発明の非水電解液は、このように特定の過充電防止剤を含有するものである。このため、本発明の非水電解液を用いて、サイクル特性及び安全性に優れた二次電池を製造することができる。
以下に、本発明の非水電解液を用いた電池の例として、リチウムイオン二次電池について説明する。このような本発明の非水電解液を備えたリチウムイオン二次電池もまた、本発明の一つである。
【0094】
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極、及び、上述の非水電解液を備える。
【0095】
正極は、正極の材料である正極活物質を含む正極合剤と、集電体とから構成される。
【0096】
上記正極活物質としては、特に、高電圧を産み出すリチウム含有遷移金属複合酸化物が好ましい。
上記リチウム含有遷移金属複合酸化物としては、例えば、
式(5):LiMn2−b(式中、0.9≦a;0≦b≦1.5;MはFe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、Si及びGeよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属)で表されるリチウム・マンガンスピネル複合酸化物、
式(6):LiNi1−c(式中、0≦c≦0.5;MはFe、Co、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、Si及びGeよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属)で表されるリチウム・ニッケル複合酸化物、又は、
式(7):LiCo1−d(式中、0≦d≦0.5;MはFe、Ni、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、Si及びGeよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属)で表されるリチウム・コバルト複合酸化物が挙げられる。
【0097】
なかでも、エネルギー密度が高く、高出力なリチウムイオン二次電池を提供できる点から、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiMn、LiNi0.8Co0.15Al0.05、またはLiNi1/3Co1/3Mn1/3が好ましい。
【0098】
その他の上記正極活物質として、LiFePO、LiNi0.8Co0.2、Li1.2Fe0.4Mn0.4、LiNi0.5Mn0.5、LiV、LiNi0.5Mn1.5等が挙げられる。
【0099】
本発明のリチウムイオン二次電池が、ハイブリッド自動車用や分散電源用の大型リチウムイオン二次電池として使用される場合、高出力が要求されるため、上記正極活物質の粒子は二次粒子が主体となることが好ましい。
上記正極活物質の粒子は、二次粒子の平均粒子径が40μm以下で、かつ、平均一次粒子径が1μm以下の微粒子を、0.5〜7.0体積%含むものであることが好ましい。平均一次粒子径が1μm以下の微粒子を含有させることにより、電解液との接触面積が大きくなり、電極と電解液との間でのリチウムイオンの拡散をより速くすることができ、その結果、電池の出力性能を向上させることができる。
【0100】
上記正極活物質の含有量は、電池容量が高い点で、正極合剤の50〜99質量%が好ましく、80〜99質量%がより好ましい。
【0101】
上記正極合剤は、更に、結着剤、増粘剤、導電材を含むことが好ましい。
上記結着剤としては、電極製造時に使用する溶媒や電解液に対して安全な材料であれば、任意のものを使用することができ、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体等が挙げられる。
【0102】
上記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン等が挙げられる。
【0103】
上記導電材としては、グラファイト、カーボンブラック等の炭素材料等が挙げられる。
【0104】
上記溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、メチルイソブチルケトン、キシレン等が挙げられる。なかでも、N−メチル−2−ピロリドンが好ましい。
【0105】
正極用集電体の材質としては、アルミニウム、チタンもしくはタンタル等の金属、又は、その合金が挙げられる。なかでも、アルミニウム又はその合金が好ましい。
【0106】
正極の製造は、常法によればよい。例えば、上記正極活物質に、上述した結着剤、増粘剤、導電材、溶媒等を加えてスラリー状の正極合剤とし、これを集電体に塗布し、乾燥した後にプレスして高密度化する方法が挙げられる。
【0107】
負極は、負極材料を含む負極合剤と、集電体とから構成される。
【0108】
上記負極材料としては、様々な熱分解条件での有機物の熱分解物や人造黒鉛、天然黒鉛等のリチウムを吸蔵・放出可能な炭素質材料;酸化錫、酸化ケイ素等のリチウムを吸蔵・放出可能な金属酸化物材料;リチウム金属;種々のリチウム合金等を挙げることができる。これらの負極材料は、2種以上を混合して用いてもよい。
【0109】
リチウムを吸蔵・放出可能な炭素質材料としては、種々の原料から得た易黒鉛性ピッチの高温処理によって製造された人造黒鉛もしくは精製天然黒鉛、又は、これらの黒鉛にピッチ、その他の有機物で表面処理を施した後炭化して得られるものが好ましい。
【0110】
上記負極合剤は、更に、結着剤、増粘剤、導電材を含むことが好ましい。
上記結着剤としては、上述した、正極に用いることができる結着剤と同様のものが挙げられる。
上記増粘剤としては、上述した、正極に用いることができる増粘剤と同様のものが挙げられる。
【0111】
負極の導電材としては、銅やニッケル等の金属材料;グラファイト、カーボンブラック等の炭素材料等が挙げられる。
【0112】
負極用集電体の材質としては、銅、ニッケルまたはステンレス等が挙げられる。なかでも、薄膜に加工しやすいという点、及び、コストの点から銅箔が好ましい。
【0113】
負極の製造は、常法によればよい。例えば、上記負極材料に、上述した結着剤、増粘剤、導電材、溶媒等を加えてスラリー状の負極合剤とし、集電体に塗布し、乾燥した後にプレスして高密度化する方法が挙げられる。
【0114】
本発明のリチウムイオン二次電池は、更に、セパレータを備えることが好ましい。
上記セパレータの材質や形状は、電解液に安定であり、かつ、保液性に優れていれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。
なかでも、上記セパレータは、電解液の浸透性やシャットダウン効果が良好である点で、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを原料とする多孔性シート又は不織布等であることが好ましい。
【0115】
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は任意であり、例えば、円筒型、角型、ラミネート型、コイン型、大型等の形状が挙げられる。なお、正極、負極、セパレータの形状及び構成は、それぞれの電池の形状に応じて変更して使用することができる。
【0116】
このように、本発明の過充電防止剤を用いたリチウムイオン二次電池は、過充電時の急激な発熱や発火を抑制することができ、安全性に優れたものである。
すなわち、本発明はまた、式(1)で表される化合物、及び/又は、式(2)で表される化合物を含む非水電解液を調製する工程、上記非水電解液を備えるリチウムイオン二次電池を作製する工程、並びに、上記リチウムイオン二次電池を充電する工程、を有するリチウムイオン二次電池の過充電時における発熱抑制方法でもある。
【0117】
上記式(1)で表される化合物、及び/又は、式(2)で表される化合物を含む非水電解液を調製する工程は、上述した本発明の非水電解液を調製する方法と同様の方法により行うことができる。
上記非水電解液を備えるリチウムイオン二次電池を作製する工程は、上述した本発明のリチウムイオン二次電池を作製する方法と同様の方法により行うことができる。
上記リチウム二次電池を充電する工程は、特に限定されず、一般に公知のリチウム二次電池を充電する方法と同様の方法により行うことができる。
【実施例】
【0118】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0119】
実施例1〜3及び7、比較例1〜2
攪拌翼の付いた縦型の混合槽を用いて、これにまず表1に記載の環状カーボネートと鎖状カーボネートとを所定量混合し、これに、表1に記載の過充電防止剤、フルオロエーテル、電解質塩、及び、他の添加剤を添加して、表1に記載の組成の電解液を調製した。
なお、表1に示す各成分は以下のとおりである。
(A)過充電防止剤
A1:
【0120】
【化13】

【0121】
A2:
【0122】
【化14】

【0123】
A3:シクロヘキシルベンゼン
【0124】
A4:
【0125】
【化15】

【0126】
A5:
【0127】
【化16】

【0128】
A6:
【0129】
【化17】

【0130】
A7:
【0131】
【化18】

【0132】
(B)環状カーボネート
B1:エチレンカーボネート(EC)
B2:ビニレンカーボネート(VC)
B3:フルオロエチレンカーボネート(FEC)
【0133】
(C)鎖状カーボネート
C1:メチルエチルカーボネート(MEC)
C2:CFCHOCOOCH
【0134】
(D)電解質塩
D1:LiPF
【0135】
得られた非水電解液を用いて、ラミネートセルを作製し、サイクル特性と安全性について評価した。
【0136】
試験1(ラミネートセルの作製)
LiNi1/3Co1/3Mn1/3とカーボンブラックとポリフッ化ビニリデン(呉羽化学(株)製。商品名KF−1000)を92/3/5(質量%比)で混合した正極活物質を、N−メチル−2−ピロリドンに分散してスラリー状のものを得た。これを正極集電体(厚さ15μmのアルミニウム箔)上に均一に塗布し、乾燥して、正極合剤層を形成した。そして、これをローラプレス機により圧縮成形した後、切断し、リード体を溶接して、帯状の正極を作製した。
【0137】
別途、人造黒鉛粉末(日立化成(株)製。商品名MAG−D)に、蒸留水で分散させたスチレン−ブタジエンゴムを固形分で6質量%となるように加え、ディスパーザーで混合してスラリー状のものを得た。これを負極集電体(厚さ10μmの銅箔)上に均一に塗布し、乾燥して、負極合剤層を形成した。そして、これをローラプレス機により圧縮成形し、切断した後、乾燥し、リード体を溶接して、帯状の負極を作製した。
【0138】
図1の概略組立て斜視図に示すように、上記帯状の正極1を40mm×72mm(10mm×10mmの正極端子4付)に切り取り、また上記帯状の負極2を42mm×74mm(10mm×10mmの負極端子5付)に切り取り、各端子にリード体を溶接した。また、厚さ20μmの微孔性ポリエチレンフィルムを78mm×46mmの大きさに切ってセパレータ3とし、セパレータ3を挟むように正極と負極をセットした。これらを図2に示すように、アルミニウムラミネート包装材6内に入れ、ついで包装材6中に、実施例および比較例で調製した電解液を2mlずつ入れて密封して、容量約80mAhのラミネートセルを作製した。
【0139】
(サイクル特性)
得られたラミネートセルにおいて、充電放電は、1.0Cで4.35Vにて充電電流が1/10Cになるまで充電し、0.2C相当の電流で3.0Vまで放電し、引き続き、1.0Cで4.35Vにて充電電流が1/10Cになるまで充電するサイクルで行った。温度は60℃とした。
充電/放電を1サイクルとし、5サイクル後の放電容量と100サイクル後の放電容量を測定し、5サイクル後の放電容量に対する100サイクル後の放電容量の割合を容量維持率(%)として算出した。
【0140】
(安全性)
得られたラミネートセルを室温で1C電流にて それぞれ1CmA相当の電流値で3.0Vまで放電した後ガラスウールで電池を巻き、12Vを上限電圧として1CmA相当の電流値での過充電を行い、発火・発煙の有無を調べた。発火・発煙が発生した場合を×、発生しなかった場合を○とする。
【0141】
実施例4〜6、比較例3
表1に記載の組成となるように、実施例1と同様にして電解液を調製し、次いで、ラミネートセルを得て、サイクル特性と安全性とを評価した。
サイクル特性の評価においては、LiNi1/3Co1/3Mn1/3の代わりにLiNi0.5Mn1.5を用いて正極を作製し、充電放電を、1.0Cで4.35Vの代わりに、1.0Cで4.95Vで行った点以外は、実施例1と同様にして評価した。
安全性については、実施例1と同様にして評価した。
得られた結果を表1に示した。
【0142】
【表1】

【0143】
表1より、本発明の過充電防止剤を含む電解液を用いると、サイクル特性に優れ、かつ、過充電時の安全性に優れることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明の過充電防止剤は、リチウムイオン二次電池用非水電解液、リチウムイオン二次電池に好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0145】
1 正極
2 負極
3 セパレータ
4 正極端子
5 負極端子
6 アルミニウムラミネート包装材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】

(式中、R〜R10は、同じか又は異なり、いずれも−H、−CH、−OR11、−R12−O−R13、又は、−O−R12−O−R13であり、R11は炭素数1〜6のアルキル基又は含フッ素アルキル基であり、R12は炭素数1〜3のアルキレン基であり、R13は炭素数1〜4のアルキル基又は含フッ素アルキル基である)で表される化合物、及び/又は、
式(2):
【化2】

(式中、R14及びR15は、同じか又は異なり、いずれも炭素数1〜6のアルキル基である)で表される化合物からなる
ことを特徴とする過充電防止剤。
【請求項2】
式(1)で表される化合物において、R、R、R、R及びRのうち1〜3個、並びに、R、R、R、R及びR10のうち1〜3個が、同じか又は異なり、いずれも−CH、−OR11、−R12−O−R13、又は、−O−R12−O−R13であり、R11は炭素数1〜6のアルキル基であり、R12は炭素数1〜3のアルキレン基であり、R13は炭素数1〜4のアルキル基である請求項1記載の過充電防止剤。
【請求項3】
式(1)で表される化合物において、R、R、R、R及びRのうち1〜3個、並びに、R、R、R、R及びR10のうち1〜3個が、同じか又は異なり、いずれも−CH、−OR11、又は、−O−R12−O−R13であり、R11は炭素数1〜4のアルキル基であり、R12は炭素数1〜3のアルキレン基であり、R13は炭素数1〜4のアルキル基である請求項1又は2記載の過充電防止剤。
【請求項4】
式(2)で表される化合物において、R14及びR15は、同じか又は異なり、いずれも炭素数1〜4のアルキル基である請求項1、2又は3記載の過充電防止剤。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4に記載の過充電防止剤、非水溶媒、及び、電解質塩を含むことを特徴とする非水電解液。
【請求項6】
正極と、負極と、請求項5記載の非水電解液とを備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
式(1):
【化3】

(式中、R〜R10は、同じか又は異なり、いずれも−H、−CH、−OR11、−R12−O−R13、又は、−O−R12−O−R13であり、R11は炭素数1〜6のアルキル基又は含フッ素アルキル基であり、R12は炭素数1〜3のアルキレン基であり、R13は炭素数1〜4のアルキル基又は含フッ素アルキル基である)で表される化合物、及び/又は、式(2):
【化4】

(式中、R14及びR15は、同じか又は異なり、いずれも炭素数1〜6のアルキル基である)で表される化合物を含む非水電解液を調製する工程、
前記非水電解液を備えるリチウムイオン二次電池を作製する工程、並びに、
前記リチウムイオン二次電池を充電する工程、を有する
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池の過充電時における発熱抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−93320(P2013−93320A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−221561(P2012−221561)
【出願日】平成24年10月3日(2012.10.3)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】