説明

過塩基性サリチル酸カルシウムグリース

過塩基性サリチル酸カルシウム、カルサイト形態のコロイド分散炭酸カルシウム固体粒子を含むグリース状非ニュートン組成物を形成する方法および組成物が開示され、この場合、方法は、油性媒質中で、過塩基性サリチル酸カルシウムと、非晶質炭酸カルシウムと、炭素原子12〜24個の脂肪酸を含む転換剤を加熱する工程と、次に、十分量の水、アルコール、二酸化炭素を混合物に添加し、非晶質炭酸カルシウムのカルサイトへの転換を完了する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(1.発明の分野)
本発明は、高性能過塩基性サリチル酸カルシウムグリース、これらグリースおよび中間体の調製に関する。さらに特に、本発明は、過塩基性サリチル酸カルシウムおよびカルサイトの形態のコロイド分散炭酸カルシウム固体粒子を含むグリース状非ニュートン油組成物の形成法であって、当該方法が、過塩基性サリチル酸カルシウム、非晶質炭酸カルシウム、および、油性ビヒクル中に炭素原子12〜24個の脂肪酸を含む転換剤を加熱し、その後、十分量の二酸化炭素を添加し、非晶質炭酸カルシウムのカルサイトへの転換を完了する工程を含む形成法に関する。
【背景技術】
【0002】
(2.関連技術の説明)
米国特許第4,560,489号に指摘されるように、チキソトロープ(揺変性)グリースまたはグリース様過塩基性スルホン酸カルシウム組成物は、腐蝕抑制性を有し、例えば、自動車およびトラックのボディーの下塗りなど、多彩な用途に、また、技術上周知の様々な他の目的に使用され、各種出版物や、米国特許第3,242,079号、第3,372,115号、第3,376,223号、第3,377,283号、第3,523,898号、第3,661,622号、第3,671,012号、第3,746,643号、第3,730,895号、第3,816,310号、および、第3,492,231号などの特許に開示されている。当該グリースまたはグリース様組成物は、それ自体として汎用され、あるいは、他成分と混合されて、多様な環境で使用される組成物を生成するようになっており、一般的に言えば、当該グリースまたはグリース様組成物は、適度に良好な極圧および耐磨耗特性、高滴点、機械的分解や塩水噴霧および水腐蝕に対する適度に良好な耐性、高温での熱安定性、および、他の所望の特性を特徴とする。
【0003】
周知のように、グリースは、グリースの柔軟性に応じて、各種柔軟度が販売されている。グリースが柔らかいほど、流動性が高い。典型的には、これらのグリースは、加工後円錐貫入範囲(worked cone penetration range)に基づいて、評価、等級付けされる。例えば、グレードゼロに指定されて販売されているグリースは、ほぼ355〜385の円錐貫入数を有し、310〜340の円錐貫入範囲を有するグリースは、グレード1と称され、最も広く販売されているグリースは、265〜295の円錐貫入範囲を有し、グレード2と称される。グリースのグレードが低いほど、油性ビヒクルは比較的高価でなく、グリースは安い。本発明の目的上、円錐貫入は、ASTM円錐貫入試験(D217)によって測定される。貫入は、標準円錐が所定条件下でグリース内に沈む1ミリメートルの1/10の単位の深度である。よって、当該円錐がサンプル中により深く沈んでしまったため、高めの貫入数が、より柔らかいグリースを示す。
【0004】
米国特許第4,560,489号に開示されているグリースは、1段階または2段階法によって調製されることができる。1段階法では、中性スルホン酸カルシウム、石灰、潤滑油、非晶質炭酸カルシウムを結晶炭酸カルシウムに転換できる転換剤、および、中性スルホン酸化ウシウムの炭酸化の促進に適したメタノールなどの触媒が炭酸化され、非ニュートン高過塩基性スルホン酸カルシウム溶液を形成する。次に、追加のオイルストック、石灰、水、ホウ酸、および、脂肪酸が添加され、過塩基性スルホン酸カルシウムグリースの生成を完成する。2段階法では、ニュートン高過塩基性スルホン酸カルシウム溶液が、最初に、酢酸、プロピオン酸または、アルコールなどの転換剤での当該ニュートン高過塩基性スルホン酸カルシウム溶液の初期処理によって、増粘中間体非ニュートン生成物に転換される。次に、その後、昇温させながら、熱水、石灰もしくは水酸化カルシウムおよび石鹸形成脂肪族モノカルボン酸もしくはC12〜C24酸などの脂肪酸と混合された、あるいは、それらに溶解もしくは部分溶解されたホウ酸が、当該溶液に添加される。1段階法、2段階法の両方法で、石鹸形成脂肪族モノカルボン酸もしくは炭素原子12〜24個を含有する脂肪酸が、カルサイト状態の炭酸カルシウム含有の前記非ニュートン高過塩基性スルホン酸カルシウム溶液に添加される。
【0005】
米国特許第5,308,514号は、約28重量%までの過塩基性スルホン酸カルシウムグリース、基本的にカルサイト状態のコロイド分散炭酸カルシウム固体粒子、炭素原子12〜24個の脂肪酸のカルシウム石鹸、および、油性ビヒクルを含む高性能過塩基性スルホン酸カルシウムであって、約28重量%の過塩基性スルホン酸カルシウム濃度で、前記グリースが約295よりも少ない加工円錐貫入度を有する高性能過塩基性スルホン酸カルシウムを開示している。
【0006】
米国特許第5,338,467号は、過塩基性スルホン酸カルシウムとカルサイト形態のコロイド分散炭酸カルシウム固体粒子を含むグリース状の非ニュートン油組成物の形成法であって、過塩基性スルホン酸カルシウムと、非晶質炭酸カルシウムと、油性媒質に炭素原子12〜24個の脂肪酸を含む転換剤の加熱を含む形成法を開示している。
【0007】
前記の開示内容は、参照することによって本明細書にそのまま組み入れられている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要約)
ある態様では、本発明は、過塩基性サリチル酸カルシウム、非晶質炭酸カルシウム、炭素原子12〜24個の脂肪酸、および、油性媒質を含む非ニュートン組成物である。
【0009】
第二の態様では、本発明は、過塩基性サリチル酸塩、カルサイト結晶質固体状態のコロイド分散炭酸カルシウムを含むグリース状非ニュートン組成物の形成法であって、当該方法が、過塩基性サリチル酸カルシウムと非晶質炭酸カルシウムと油性ビヒクルと、炭素原子12〜24個の脂肪酸を含む転換剤を加熱し、十分量の水、アルコール、および、二酸化炭素を当該組成物に添加し、非晶質炭酸カルシウムのカルサイトへの転換を完了する工程を含む非ニュートン組成物の形成法を含む。
【0010】
さらに特に、本発明は、過塩基性サリチル酸塩とカルサイト状のコロイド分散炭酸カルシウム固体粒子を含むグリース状非ニュートン組成物の形成法であって、当該方法が、油性媒質中で過塩基性サリチル酸カルシウムと非晶質炭酸カルシウムと炭素原子12〜24個の脂肪酸を含む転換剤を加熱する工程と、十分量の水、アルコール、および、二酸化炭素を前記混合物に添加し、非晶質炭酸カルシウムのカルサイトへの転換を完了する工程を含む非ニュートン組成物の形成法に向けられるものである。
【0011】
別の態様では、本発明は、過塩基性サリチル酸塩、カルサイト状のコロイド分散炭酸カルシウム固体粒子およびホウ酸カルシウムを含むグリース状非ニュートン組成物の形成法であって、
当該方法が、
(1) 油性ビヒクル中で、過塩基性サリチル酸カルシウムと非晶質炭酸カルシウムと水とアルコールと二酸化炭素と炭素原子12〜24個の脂肪酸の配合物を、カルサイト結晶形態の炭酸カルシウム結晶の形成に有利な条件下で加熱する工程と、
(2) 前記の工程1の生成物を、ホウ酸化合物を含む成分と反応させ、グリース様特性を発現させる工程の
前記2工程を含む、グリース状非ニュートン組成物の形成法に向けられるものである。
【0012】
なおも別の態様では、本発明は、油性媒質中に過塩基性サリチル酸塩、非晶質炭酸カルシウムおよび炭素原子12〜24個の脂肪酸を含む非ニュートン組成物に向けられるものである。
【0013】
(好ましい実施態様の説明)
本発明の総合的な目的は、過塩基性サリチル酸塩とカルサイト状のコロイド分散炭酸カルシウム固体粒子を含むグリース状非ニュートン組成物の形成法であって、当該方法が、過塩基性サリチル酸カルシウムと非晶質炭酸カルシウムと油性ビヒクルと炭素原子12〜24個の脂肪酸を含む転換剤を加熱する工程と、その後、十分量の水、アルコール、および、二酸化炭素を前記の加熱された混合物に添加し、非晶質炭酸カルシウムのカルサイトへの転換を完了する工程を含む非ニュートン組成物の形成法によって達成されることができる。次に、好ましくは、ホウ酸化によって、当該グリースの完全な特性が発現される。
【0014】
前記カルサイト結晶形は、非ニュートン流体を生じ、グリースの収率を高め、高温特性を増大させる。
【0015】
グレード2のグリースは、転換工程において、脂肪酸を使って35重量%よりも少ない過塩基性サリチル酸カルシウムを含有する本発明の方法によって調製されることができる。
【0016】
つまり、本発明のグリースは、油性媒質中で過塩基性サリチル酸カルシウムと非晶質炭酸カルシウムと炭素原子12〜24個の脂肪酸を含む転換剤を加熱し、非晶質炭酸カルシウムをカルサイト結晶に転換するのに十分量の水、アルコールおよび二酸化炭素を添加し、その後、好ましくは、そこにホウ酸化合物を添加し、その場でホウ酸カルシウムを形成することによって形成されることができる。
【0017】
本発明の方法は、好ましくは、洗浄剤スルホン酸の存在下で実施される。前記サリチル酸カルシウムの生産に有用な、適切な洗浄剤スルホン酸は、油溶性であり、アルキルラジカルがほぼ炭素原子12〜40個を含有するモノおよびジアルキルベンゼンの混合物、一般にはアルキルラジカルの混合物、などの線状鎖または枝分れアルキルベンゼンであることが最も一般的な供給原料をスルホン化することによって生成されることができる。前記スルホン酸は、一般に、Varsolもしくはナフサもしくはミネラルスピリットなどの揮発性不活性有機溶媒中溶液として生産される。本発明の実施において、炭素原子12〜40個を含有するアルキルベンゼンスルホン酸、または、アルキルラジカルとして主に炭素原子12〜40個を含有する混合物を用いるのが特に有利である。しかし、一般に、同等の油溶性スルホン酸が使用されることができる。
【0018】
本発明の過塩基性サリチル酸カルシウムは、本技術分野で用いられる技術のいずれかによって調製されることができる。典型的には、これらの材料は、中性サリチル酸カルシウム、油性ビヒクル、消石灰、および、メタノールなどの炭酸化プロモーターを炭酸化温度まで加熱し、所望のTBNを有する過塩基性サリチル酸カルシウムを生成するのに十分量の二酸化炭素を添加することによって調製されることができる。本発明の目的上、当該過塩基性サリチル酸カルシウムは、約4対20の金属比を有することができる。
【0019】
炭素原子12〜24個の石鹸形成脂肪族または脂肪酸は、ドデカン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リシノール酸、12−ヒドロキシステアリン酸を含む。ヒドロキシ脂肪酸、特にヒドロキシステアリン酸が好ましい。それは、当該ヒドロキシ脂肪酸が非置換脂肪酸よりも高い増粘性を提供するからである。
【0020】
適切な塩形成酸(錯体形成酸)は、塩酸、オルソリン酸、ピロリン酸、亜硫酸などの鉱酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、吉草酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、ベンゼンスルホン酸などの炭素原子1〜7個の有機酸を含む。最良のグリース特性を有するため、ホウ酸およびホウ酸フォーマー(formers)が好ましい。本発明で有用な転換剤は、とりわけ、水;メタノール、イソプロピルアルコール、イソブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、n−ペンタノール、および、その他多数などのアルコール、または、前記アルコールの混合物もしくはアルコールの水との混合物;アルキレングリコール;エチレングリコールのモノメチルエーテル(methyl Cellosolve)などのアルキレングリコールのモノ低級アルキルエーテル;酢酸およびプロピオン酸を典型例とする低級脂肪族カルボン酸などのその他多数;ケトン;アルデヒド;アミン;リン酸;アルキルおよび芳香族アミン;特定のイミダゾリン;アルカノールアミン;ホウ酸を含むホウ素酸;テトラホウ酸;代謝酸;前記ホウ素酸のエステル;および、二酸化炭素それ自体または、さらに好ましくは水の配合された二酸化炭素を含む。
【0021】
転換工程では、25重量%の石鹸形成C12〜C24脂肪酸が用いられることができ、残りは、転換されたグリースに添加される。当該脂肪酸の分割は、約28〜35%過塩基性サリチル酸カルシウムを含有するグレード2グリースの生産を可能にする。
【0022】
本発明の高性能過塩基性サリチル酸カルシウム/炭酸カルシウム複合グリースは、好ましくは、カルサイトの形態の炭酸カルシウム、油性ビヒクル、重量換算で低割合の(a)ミネラルまたは短鎖の、炭素原子1〜7個のカルシウム塩、好ましくはホウ酸カルシウム、および、(b)少なくとも炭素原子12個を含有する石鹸形成脂肪族モノカルボン酸のカルシウム石鹸を含み、前記(a)および(b)成分は、前記複合グリースに基本的に均質に分布されており、好ましい実施態様は、カルシウム石鹸として、ヒドロキシC12〜C24脂肪酸、特に12−ヒドロキシステアリン酸、のカルシウム石鹸を利用しており、(a)成分は、前記グリース中でその場で(in situ)形成されるのが特に有利で、好ましくは、(b)成分の少なくとも一部が、非晶質炭酸カルシウムのカルサイト形態結晶へ炭酸カルシウムへの転換剤として使用され、当該(b)成分の一部は、非晶質炭酸カルシウムのカルサイトへの転換後にその場で形成される。前記グリースの過塩基性サリチル酸カルシウムの含量は、上述の方法によって生産される場合、下述の具体的な特定実施例によって示されるように、一般に、約28〜35%の重量範囲内である。当該グリースの非揮発油、特に鉱物油または潤滑油含量は、一般に、約60〜約70%の範囲内であり、前記非揮発油の前記割合は、全油、即ち、添加非揮発油+過塩基性サリチル酸カルシウム組成物中に存在するもの、である。ホウ素酸またはホウ酸成分は、本発明の好ましいグリース中では、一般に、約0.6〜約3.5%の範囲内で、特に好ましい範囲は約1.2〜約3.0%である。少なくとも12個〜約24個の炭素原子を含有する石鹸形成脂肪族モノカルボン酸もしくはヒドロキシ脂肪酸、望ましくはC12〜C18ヒドロキシ脂肪酸(市販ヒドロキシステアリン酸など)の石鹸の生産に使用されるカルシウム石鹸または石鹸形成脂肪族モノカルボン酸(12−ヒドロキシステアリン酸など)の含量は、一般に、約1〜約5%の範囲内で、特に好ましい範囲は、約1.3〜約4%である。添加される石灰または水酸化カルシウム、(ホウ酸および石鹸形成脂肪族モノカルボン酸)と反応する酸成分、は、グリースの重量換算で、約0.5〜約4%の範囲内である。しかし、ある場合、過塩基性サリチル酸カルシウム組成物または溶液の調製において、前記組成物または溶液中には、炭酸化工程後、または、非晶質炭酸カルシウムのカルサイトへの転換後、遊離分散石灰または水酸化カルシウムが約1%〜1.5%の規模の量で存在することが多く、これが、好ましいホウ酸カルシウム、および、石鹸形成脂肪族モノカルボン酸のカルシウム石鹸の形成のための追加的酸化カルシウムまたは石灰の添加を不必要にし、この場合、石灰または水酸化カルシウムの範囲は、グリースの重量換算で、0%〜約5%である。本発明の好ましいグリース組成物中のホウ酸カルシウムまたはその複合反応混合物の含量は、一般に、約1.1〜約6.7%の範囲であり、脂肪族モノカルボン酸または脂肪酸のカルシウム石鹸の含量は、約1.1〜約6.5%の範囲である。本発明の好ましいグリースの生産に用いられるホウ酸、石灰または水酸化カルシウムと石鹸形成脂肪族モノカルボン酸の比率の関係は、最適な品質または有効なグリースの生産に明確な役割を果たす。前記グリースは、本発明の方法または方法群に従って生産されるため、前述のパーセンテージは、すべて、前記グリースの重量に基づいた重量%換算である。
【0023】
希望すれば、各種補助成分が、本発明のグリースに混入されることができる。当該補助成分の例は、フェニルアルファナフチルアミン(PAN)などの酸化抑制剤、数種のポリマー(Acryloid 155−C)を含むことができる粘度指数改良剤、および、グリースまたはグリース組成物中の特定、および、周知の特性のための他剤である。
【0024】
本発明のグリース組成物は、米国特許第4,560,489号に記述されている方法に類似した方法での一段階または二段階法によって調製されることができる。当該特許は、参照することによって本明細書に組み入れられている。
【0025】
好ましい二段階法は、過塩基性サリチル酸カルシウム、非晶質炭酸カルシウム、油性ビヒクル、および、炭素原子12〜24個の脂肪酸および水、アルコールおよび二酸化炭素を含む転換剤配合物を含むニュートン組成物の、バテライトではなくカルサイト結晶の形態の炭酸カルシウム結晶の形成に有利な条件下での加熱を含む。バテライト結晶は、避けることが必要である。一方、カルサイト結晶形態は、非ニュートン流体を導入し、収量を高め、前記グリースの高温特性を増加させるが、バテライト形態は、チキソトロープ性がはるかに低く、高温グリース特性を増強しない。従って、転換は、約100°F〜300°F(約38℃〜約149℃)、好ましくは145°〜285°F(約63℃〜約141℃)、および、85psiまでもしくはそれ以上、好ましくは自己圧下で実施される。次に、その後、そこへ、昇温で、熱水、石灰または水酸化カルシウムと混合または溶解もしくは部分溶解されたホウ酸化合物が添加され、さらに、C12〜C24ヒドロキシ脂肪酸などの石鹸形成脂肪族モノカルボン酸または脂肪酸が、任意の成分を補充しながら、または補充せずに、添加される。当該石鹸形成脂肪族モノカルボン酸または脂肪酸は、ホウ酸カルシウムにホウ酸を転換する転換工程、および、カルシウム石鹸に前記石鹸形成酸または酸群を転換する転換工程には使用されない。
【0026】
本発明のグリース組成物を生産する1段階法では、例えば、広義には、鉱物油中での高過塩基性非ニュートンサリチル酸カルシウム溶液の単一混合物の調製、この石灰または水酸化カルシウム、および、ホウ酸溶液、転換段階に使用されない石鹸形成脂肪族モノカルボン酸もしくは脂肪酸に、補充成分とともに、または、補充成分なしでの仕込み、および、当該混合物の十分な攪拌が含まれる。本発明のグリース組成物を生産する1段階法では、例えば、中性サリチル酸カルシウムの鉱物油溶液などの溶液は、基本的に1段階で過塩基化および転換され、非ニュートン過塩基性サリチル酸カルシウム溶液を生成し、これが、さらに、二酸化炭素、石灰、ホウ酸および12−ヒドロキシステアリン酸などの高分子量モノカルボン酸もしくは脂肪酸と反応し、過塩基性溶液の中間単離は行われないことが理解される。
【0027】
本発明の、好ましい最終の高性能多目的カルシウム複合チキソトロープグリースもしくはグリース組成物は、(1)主に、または、基本的にカルサイトの形態の極微粉砕(少なくとも主に約20Å以上、さらに特に、約50または約100〜約1000Åの範囲の各種粒度、あるいは、さらに約5,000Åまでの炭酸カルシウムを含有する油、特に鉱物油中に溶解された高分子量油溶性サリチル酸の高過塩基性サリチル酸カルシウムと、(2)カルシウム化合物(例、水酸化カルシウムもしくは炭酸カルシウム(カルサイトとして))とのホウ酸の反応によって形成される生成物、おそらくは、総じてグリースまたはグリース組成物に混ざり合った、または、ある種の錯体としてのホウ酸カルシウムもしくはホウ酸カルシウムと、(3)水酸化カルシウム/炭酸カルシウム(カルサイトとして)および石鹸形成脂肪族モノカルボン酸もしくは脂肪酸、特に12−ヒドロキシステアリン酸などの石鹸形成ヒドロキシ脂肪酸から形成される生成物であって、前記カルサイト粒子が石鹸形成脂肪酸の存在下で形成される生成物の、上記(1)(2)(3)の併用によって形成される生成物として広く定義されることができる。
【0028】
上記のように、円錐貫入度は、ASTM試験法(D217)に従って測定される。さらに具体的には、グリースサンプルが77°F(25℃)に達し、標準カップに移されると、未加工貫入度が測定される。貫入測定装置中の当該カップの表面は滑らかで、当該カップは、円錐形であり、その先端が平らなグリース表面にわずかに接触するように配置されている。当該円錐およびその可動式装置は、重量150gで、正確に5秒間で、グリース上に静置し、グリース中への落下することが可能である。その落下距離が測定される。
【0029】
多くのグリースは、操作時、稠度が大きく変化する。よって、未加工貫入度よりも加工貫入度が、挙動を扱うのに有意義であると考えられる。この試験の場合、グリースサンプルには、標準的作業員が、やはり77°F(25℃)で、60回の周回ストロークの攪拌を加える。サンプルから空気が排除され、その表面は滑らかであり、再度、コアの貫入度が測定される。
【0030】
以下の実施例から、本発明の長所および重要な特徴がさらに明らかになる。
【実施例】
【0031】
(実施例1)
本実施例は、高収量油溶性カルサイト−コア過塩基性サリチル酸カルシウムグリースの調製法を示す。
【0032】
過塩基性サリチル酸カルシウム380g、500 SUS粘度油600g、洗浄剤ドデシルベンゼンスルホン酸44g、12−ヒドロキシステアリン酸8gおよび水76gが、約175〜180°F(約79°〜約82℃)まで、2リットルビーカー中、攪拌下で加熱された。酢酸(2.6g)が1−メトキシ−2−プロパノール34gと予め混合され、この混合物は、ゆっくりと2リットルビーカーに添加された。当該反応混合物は、180〜200°F(約82°〜約93℃)で維持され、そこに、二酸化炭素が、増粘および非晶質炭酸カルシウムのカルサイトへの転換が、赤外で測定して完了が認められるまで、約30分に亘って300ミリリットルの割合で送達された。水50g中石灰26.4g、水50g中ホウ酸23.2gおよび12−ヒドロキシステアリン酸24gが添加された後、揮発性物質が、300°F(約149℃)で抜き取られた。当該混合物は、冷却され、トリム500 SUS粘度油約100gでグレード2に調整された。生成物は、重量1208gで、31.5%出発過塩基性サリチル酸カルシウムを含有し、265〜295の加工貫入度を有した。
【0033】
(比較実施例A)
この実施例は、高収量油溶性カルサイト−コア過塩基性スルホン酸カルシウムグリースの調製法を示し、本発明の油溶性カルサイトコア過塩基性サリチル酸カルシウムグリースの調製との差を明らかにする。
【0034】
過塩基性スルホン酸カルシウム380g、2000 SUS粘度油73g、500 SUS粘度油142g、洗浄剤ドデシルベンゼンスルホン酸21.5g、12−ヒドロキシステアリン酸31gおよび水38gが、約140〜145°F(約60°〜約63℃)まで、2リットルビーカー中で、攪拌しながら加熱された。酢酸4.5gがゆっくりと添加され、続いて、メタノール16.7gが添加された。反応は、150〜160°F(約66°〜約71℃)で、赤外で測定し、増粘および非晶質炭酸カルシウムのカルサイトへの転換の完了が認められるまで維持された。水50g中石灰26.4gおよび水50g中ホウ酸23.2gが添加された後、揮発性物質が、285°F(約141℃)で抜き取られ、フェニルα−ナフチルの混合物4.6gが添加された。当該混合物は、冷却され、トリム500 SUS粘度油約200gでグレード2に調整された。生成物は、重量1180gで、32.2%出発過塩基性サリチル酸カルシウムを含有し、265〜295の加工貫入度を有した。
【0035】
(実施例2)
この実施例は、比較実施例Aの調製法の使用結果を示すために提示されるものであるが、比較実施例Aで使用された過塩基性スルホン酸カルシウムに代えて過塩基性非晶質サリチル酸カルシウムを用いた。
【0036】
比較実施例Aに開示された調製法に過塩基性非晶質サリチル酸カルシウムが使用されると、カルサイトへの転換は起こらない。
【0037】
(実施例3)
この実施例は、低収量油溶性カルサイトコア過塩基性サリチル酸カルシウムの調製法を示す。
【0038】
過塩基性サリチル酸カルシウム380g、500 SUS粘度油125g、洗浄剤ドデシルベンゼンスルホン酸21.5g、および、水38gが、約175〜180°F(約79°〜約82℃)まで、2リットルビーカー中で、攪拌しながら加熱された。酢酸(4.5g)が、1−メトキシ−2−プロパノール17gと予め混合され、当該混合物は、ゆっくりと2リットルビーカーに添加された。当該反応混合物は、180〜200°F(約82°〜約93℃)で維持され、そこに、二酸化炭素が、約120分に亘って300ミリリットルの速度で、増粘および非晶質炭酸カルシウムのカルサイトへの転換が赤外で測定して完了が認められるまで送達された。水50g中石灰26.4g、水50g中ホウ酸23.2gおよび12−ヒドロキシステアリン酸31gが添加された後、揮発性物質が、300°Fで抜き取られた。当該混合物は、冷却され、トリム500 SUS粘度油約500gでグレード2に調整された。生成物は、重量910gで、41.8%出発過塩基性サリチル酸カルシウムを含有し、265〜295の加工貫入度を有した。
【0039】
(比較実施例B)
この実施例は、低収量油溶性カルサイト−コア過塩基性スルホン酸カルシウムグリースの調製法を示し、本発明の油溶性カルサイトコア過塩基性サリチル酸カルシウムグリースの調製との差を明らかにする。
【0040】
過塩基性スルホン酸カルシウム380g、500 SUS粘度油125g、洗浄剤ドデシルベンゼンスルホン酸21.5g、および、水38gが、約140〜145°F(約60°〜約63℃)まで、2リットルビーカー中、攪拌下で加熱された。酢酸4.5gがゆっくりと添加され、続いて、メタノール16.7gが添加された。反応は、150〜160°F(約66°〜約71℃)で、増粘および非晶質炭酸カルシウムのカルサイトへの転換が赤外で測定して完了が認められるまで維持された。水50g中石灰26.4g、水50g中ホウ酸23.2g、および、12−ヒドロキシステアリン酸31gが添加された後、揮発性物質が、285°F(約141℃)で抜き取られ、フェニルα−ナフチルの混合物4.6gが添加された。フェニルα−ナフチルの混合物4.6gが添加された。当該混合物は、冷却され、トリム500 SUS粘度油約100gでグレード2に調整された。生成物は、重量910gで、41.8%出発過塩基性スルホン酸カルシウムを含有し、265〜295の加工貫入度を有した。

【0041】
(実施例4)
この実施例は、比較実施例Bの調製法の使用結果を示すために挙げたものであるが、比較実施例Bで使用された過塩基性スルホン酸カルシウムに代えて過塩基性非晶質サリチル酸カルシウムが用いられている。
【0042】
比較実施例Bで開示される調製法に過塩基性非晶質サリチル酸カルシウムが用いられると、カルサイトへの転換は起こらない。
【0043】
(要約)
(1)カルサイトへの転換に、過塩基性非晶質サリチル酸カルシウムは、二酸化炭素処理を必要とする。
(2)過塩基性非晶質スルホン酸カルシウムによる油溶性カルサイト形成条件下で、過塩基性非晶質サリチル酸カルシウムは、油溶性カルサイトの形態に転換しない。
(3)高過塩基性サリチル酸塩をカルサイトに転換するには、より高温が必要とされ、転換中、12−ヒドロキシステアリン酸が存在する。これとともに、より高沸点のアルコールが必要である。
(4)カルサイトを入手し、収量を最大にするには、12−ヒドロキシステアリン酸が転換前後に分離されなければならない(約25/75)。
【0044】
【表1】

【0045】
グリースが過塩基性スルホン酸カルシウム洗浄剤の代わりに過塩基性サリチル酸カルシウム洗浄剤を使って生産される場合、高温グリース性能の改善が見られる。例えば、過塩基性スルホン酸カルシウムを使って比較スルホン酸塩グリースと比較すると、ベアリング寿命(D3527)は、2倍以上である。ベアリング寿命は、グリース高温性能の重要な目安であり、適切な性能を提供するには、優れた機械的安定性、高滴点および優れた抗酸化能を必要とする。
【0046】
本発明は、特に本発明の好ましい実施態様を参照して詳細に説明されているが、当然、本発明の精神および範囲内で変形物および変更が実施されることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過塩基性サリチル酸カルシウム及びカルサイト形態のコロイド分散炭酸カルシウム固体粒子を含むグリース状非ニュートン組成物の形成法であって、前記方法が、過塩基性サリチル酸カルシウムと非晶質炭酸カルシウムと、油性媒質中に炭素原子12〜24個の脂肪酸を含む転換剤とを加熱し、次に、十分量の水、アルコール、および、二酸化炭素を前記組成物に添加し、非晶質炭酸カルシウムのカルサイトへの転換を完了する工程を含む非ニュートン組成物の形成法。
【請求項2】
前記脂肪酸がヒドロキシステアリン酸を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記非晶質炭酸カルシウムの前記カルサイトへの転換中に、グリース中の実質的にすべてのヒドロキシステアリン酸が存在することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
過塩基性サリチル酸カルシウム、カルサイト形態のコロイド分散炭酸カルシウム固体粒子およびホウ酸カルシウムを含むグリース状非ニュートン組成物の形成法であって、
前記方法が、
(1) 油性ビヒクル中に、過塩基性サリチル酸カルシウムと非晶質炭酸カルシウムと水とアルコールと二酸化炭素と、炭素原子12〜24個の脂肪酸の配合物を、カルサイト形態の炭酸カルシウム結晶の形成に有利な条件下で加熱する工程と、
(2) 前記の工程1の生成物を、ホウ酸化合物を含む成分と反応させ、グリース様特性を発現させる工程の
前記2工程を含む、グリース状非ニュートン組成物の形成法。
【請求項5】
前記脂肪酸がヒドロキシステアリン酸を含むことを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
高性能ホウ酸カルシウム改質過塩基性サリチル酸カルシウム/炭酸カルシウム複合グリースであって、過塩基性サリチル酸カルシウム、油性ビヒクル、カルサイト形態の炭酸カルシウム、ホウ酸カルシウム、および、少なくとも12個の炭素原子を含有する石鹸形成脂肪族モノカルボン酸のカルシウム石鹸を含み、
前記ホウ酸カルシウムと前記カルシウム石鹸が、前記グリース全体に実質的に均質に分布され、前記カルシウム石鹸の少なくとも一部が、カルサイト形態の結晶性炭酸カルシウムへの非晶質炭酸カルシウムの転換において、二酸化炭素とともに転換剤として作用する、高性能ホウ酸カルシウム改質過塩基性サリチル酸カルシウム/炭酸カルシウム複合グリース。
【請求項7】
前記石鹸形成脂肪族モノカルボン酸がヒドロキシステアリン酸を含むことを特徴とする、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
非ニュートン組成物であって、油性媒質中に過塩基性サリチル酸カルシウム、非晶質炭酸カルシウム、および、炭素原子12〜24個の脂肪酸を含む非ニュートン組成物。
【請求項9】
前記脂肪酸がヒドロキシステアリン酸を含むことを特徴とする、請求項8に記載の組成物。

【公表番号】特表2008−508393(P2008−508393A)
【公表日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−523568(P2007−523568)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【国際出願番号】PCT/US2005/022345
【国際公開番号】WO2006/023054
【国際公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(505365356)ケムチュア コーポレイション (50)
【出願人】(507028675)ケムチュア カナダ カンパニー/コンパニー (2)
【Fターム(参考)】