説明

過敏性腸症候群の予防または治療用組成物

本発明は、過敏性腸症候群の治療または予防に有用な組成物、及び過敏性腸症候群を治療または予防する方法に関するものである。本発明は、過敏性腸症候群の治療または予防のために、Atractylodes japonica根茎抽出物、望ましくはAtractylodes japonica根茎のエタノール水溶液抽出物、さらに望ましくはAtractylodes japonica根茎の35〜65v/v%エタノール水溶液抽出物を有効成分として利用する。Atractylodes japonicaの抽出物は、内臓の過敏性抑制、及びストレスや腸過敏性による排便の異常に対する改善に卓越した効果がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過敏性腸症候群を治療または予防するための薬学組成物、及びこのような薬学組成物の医薬用途に関する。
【背景技術】
【0002】
過敏性腸症候群とは、器質的原因がなく、長期間繰り返す腹部膨満感などの腹部違和感及び腹痛と共に、下痢、便秘などの排便習慣の変化を伴う慢性疾患であり、その症状が精神的な要因やストレスによっても悪化する。症状に従って、下痢優位型、便秘優位型、及び痛症優位型に分けて薬物治療をしており、韓国内患者のうち下痢型が30.8%、便秘型が24.6%、下痢と便秘を交互に繰り返す交替型が44.6%を占める。
【0003】
過敏性腸症候群を治療するための薬物療法は、過敏性腸症候群の全般的な症状を改善する薬剤と、単一症状に対する薬剤とに分けられる。腹痛に対する薬物としては、平滑筋弛緩剤、抗うつ剤、オピオイド作動薬(opioid agonist)などが使用され、便秘優位型の過敏性腸症候群に対する薬剤としては、繊維製剤、緩和剤、5‐HT4作用剤などが使用されており、下痢優位型の過敏性腸症候群に対する薬剤としては、下痢止め剤、5‐HT3拮抗剤などが使用される。しかし、既存の5‐HT系列の薬物は副作用があることからその使用が制限されているので、現在まで過敏性腸症候群に対する薬物療法は非常に制限的である。従って、対症療法に対する依存度が高くて満足できないのが現状である[TT. Ashburn外, Nat. Rev. Drug Discov., 5(2), p99〜100, 2006;MJG Farthing, BMJ., 330, p429〜430, 2005;及びMJG. Farthing, Best Pract. Res. Clin. Gastroenterol., 18(4), p773〜786, 2004]。
【0004】
一方、ニューロキニン受容体(Neurokinin receptor;NK)は、NK1、NK2及びNK3の亜類型に分けられ、中枢神経系と末梢神経系とに作用する神経ペプチド(neuropeptide)である物質(substance)P(SP)、ニューロキニンA、ニューロキニンBなどのタキキニン(tachykinin)ファミリーが結合する受容体である[S. Harrison外, Int. J. Biochem. Cell Biol., 33:p555〜576, 2001]。このようなNK受容体は、脳の扁桃体、海馬、視床下部、線条体及び脊髄のような中枢神経系や皮膚、炎症細胞、消化系、呼吸系、心血管系などの末梢神経系に均一に分布しており、腸運動性及び腸過敏性と密接な関連がある[JH. La外, World J. Gastroenterol., 11(2), p237〜241, 2005;MS Kramer, Science, 281(5383) p1624〜1625. 1998;及びG. J. Sanger., Br. J. Pharmacol., 141, p1303〜1312, 2004]。最近、このような生理学的機能に基づいて、過敏性腸症候群の治療剤を見出すための手段として、NK受容体の拮抗剤に対する研究が活発に行われている[R. A. Duffy, Expert Opin. Emerg. Drugs, 9(1), 2004;M. Camilleri, Br. J. Pharmacol., 141, p1237〜1248, 2004;G. J. Sanger., Br. J. Pharmacol., 141, p1303〜1312, 2004;及びA. Lecci外, Br. J. Pharmacol., 141, p1249〜1263, 2004]。
【0005】
今まで様々な天然生薬(例えば、木香、白茯苓、当帰、白芍薬、山薬、ゴシュユ、カラタチなど)が過敏性腸症候群に効くと知られているが、過敏性腸症候群の代表的な評価モデルであるCRD(Colorectal Distension)モデルなどで有意義な効果を示さなかった。過敏性腸症候群は、様々な症状、すなわち腹痛、腹部膨満感などと共に、便秘、下痢などの排便異常が伴われる慢性疾患であることから、単なる腹痛、下痢、便秘などとは差別化される。従って、過敏性腸症候群の治療効果を評価するためには、上述の多様な症状、すなわち腸過敏性状態における痛症抑制効果、排便異常の改善効果などが総合的に評価されなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明が解決しようとする技術的課題は、過敏性腸症候群の治療または予防に有用な組成物、及び有効な過敏性腸症候群の治療または予防方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記技術的課題を達成するために、本発明は、Atractylodes japonica根茎(rhizome)抽出物を有効成分として含有することを特徴とする過敏性腸症候群の治療または予防用薬学組成物、及びAtractylodes japonica根茎抽出物の治療学的に有効な量を過敏性腸症候群の治療または予防が必要な個体に投与することを含む過敏性腸症候群の治療または予防方法を提供する。
【0008】
本発明者らは、Atractylodes japonica根茎抽出物が、内臓痛に対する過敏性を抑制し、ストレスまたは腸過敏性による排便異常の改善効果を現すことを確認し、これを通じて過敏性腸症候群の治療または予防のために有用に使用できることを確認して本発明を完成するに至った。これは、腸神経系(enteric nervous system)で有害刺激の侵害受容経路(nociceptive pathway)を通じた侵害受容伝達及び膓運動性に関与するNK受容体を阻害(inhibition)することに起因すると考えられるが、本発明はこのようなメカニズムに限定されるのではない。
【0009】
特に本発明は、Atractylodes macrocephala、Atractylodes lanceaなどのAtractylodes属(genus)植物のうちAtractylodes japonicaの抽出物の過敏性腸症候群の治療効果がはるかに優れているという驚くべき発見に基づく。
【0010】
本発明によるAtractylodes japonica根茎抽出物は、本発明が属する分野で通常の知識を持つ者によく知られた抽出方法を利用して製造され得る。すなわち、根茎を陰干しして粉砕した後、抽出溶媒を根茎の1ないし20倍体積量加えて抽出した後、選択的に(減圧)濃縮、乾燥または精製過程を経て本発明による抽出物を製造できる。より具体的に、上述の方法のように抽出溶媒を加えて有効成分物質を抽出するが、(a)冷却コンデンサーを設置して溶媒の蒸発を防止した状態で50〜100℃の温度条件で1〜20時間加熱して抽出するか、(b)5〜37℃の温度条件で0.5〜15日間沈積させることによって有効成分を抽出できる。本発明の抽出物は、撹拌抽出、還流冷却抽出、冷浸抽出、超音波抽出、超臨界抽出などの抽出方法を使用して製造できる。
【0011】
本発明の抽出物製造のための溶媒としては、通常の抽出溶媒、例えば炭素数1〜4の低級アルコールまたは低級アルコールの水溶液;グリセリン、ブチレングリコール、プロピレングリコールなどの多価アルコール;メチルアセテート、エチルアセテート、アセトン、ベンゼン、ヘキサン、ジエチルエーテル、ジクロロメタンなどの炭化水素系溶媒;またはこれらの混合溶媒が使用され得るが、過敏性腸症候群の治療効果面からは、抽出溶媒としてエタノール水溶液(例えば、5〜95(v/v)%のエタノール水溶液)が望ましく、さらに望ましくは20〜80(v/v)%のエタノール水溶液、さらに一層望ましくは35〜65(v/v)%のエタノール水溶液を使用して抽出されたAtractylodes japonica根茎抽出物の過敏性腸症候群の治療効果が、他の溶媒または他の混合比の混合溶媒を使用して抽出された抽出物よりもはるかに卓越している。
【0012】
本発明の組成物は、組成物の全体重量に対してAtractylodes japonica根茎抽出物を1〜90重量%、望ましくは10〜60重量%含むことができる。
【0013】
本発明による過敏性腸症候群の治療または予防用組成物は、医薬品及び機能性食品の形態として製造できる。このような医薬品及び機能性食品は薬剤学的に許容される賦形剤または添加剤を含み得る。本発明の組成物は、単独で、或いは何れの便利な運搬体、賦形剤などと共に混合して投与され得、そのような投与剤形は単回投与または反復投与剤形であり得る。
【0014】
本発明の組成物を含む医薬品または機能性食品は、固形製剤または液状製剤であり得る。固形製剤としては、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、座剤などがあるが、これに限定されるのではない。固形製剤には、賦形剤、着香剤、結合剤、防腐剤、崩解剤、滑沢剤、充填剤などが含まれ得るが、これに限定されるのではない。液状製剤としては、水、プロピレングリコール溶液のような溶液剤、懸濁剤、乳剤などがあるが、これに限定されるのではなく、適当な着色剤、着香剤、安定化剤、粘性化剤などを添加して製造し得る。
【0015】
例えば、散剤は、本発明のAtractylodes japonica抽出物と、ラクトース、澱粉、微結晶セルロースなどの薬剤学的に許容される適当な賦形剤を単純混合することで製造され得る。顆粒剤は、本発明のAtractylodes japonica抽出物;薬剤学的に許容される適当な賦形剤;及びポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロースなどの薬剤学的に許容される適当な結合剤を混合した後、水、エタノール、イソプロパノールなどの溶媒を利用した湿式顆粒法、または圧縮力を利用した乾式顆粒法を利用して製造され得る。また錠剤は、上記顆粒剤をステアリン酸マグネシウムなどの薬剤学的に許容される適当な滑沢剤と混合した後、打錠機を利用して打錠することで製造され得る。
【0016】
本発明の組成物は、治療すべき疾患及び個体の状態に従って、経口剤、注射剤(例えば、筋肉注射、腹腔注射、静脈注射、注入(infusion)、皮下注射、インプラント)、吸入剤、鼻腔内投与剤、膣剤、直腸投与剤、舌下剤、経皮剤、局所(topical)剤などで投与され得るが、これに限定されるのではない。投与経路に従って通常使用され非毒性である、薬剤学的に許容される運搬体、添加剤、ビヒクル(vehicle)を含む適した投与ユニット剤形への製剤化ができる。一定時間にわたって薬物を持続的に放出できるデポー(depot)剤形も本発明の範囲に含まれる。
【0017】
過敏性腸症候群の治療、予防または改善という本発明の目的を達成するために、Atractylodes japonica抽出物を毎日約10mg/kgないし約2400mg/kg投与することができ、約100mg/kgないし約1200mg/kgの1日投与用量が望ましい。しかし、上記投与量は、Atractylodes japonica抽出物の精製程度、患者の状態(年齢、性別、体重など)、治療している状態の深刻性などによって多様である。必要に応じては、便宜を図るために1日の総投与量を分け、一日に数回に分けて投与し得る。
【0018】
本発明による組成物を使用して治療、改善または予防できる過敏性腸症候群は、下痢型過敏性腸症候群、便秘型過敏性腸症候群、または痛症優位型過敏性腸症候群から選択された何れか一つ以上である。
【0019】
本発明はまた、Atractylodes japonica抽出物を人間を含む動物に投与することを特徴とするNK2受容体を阻害する方法を提供する。本発明はまた、Atractylodes japonica抽出物とNK2受容体を発現する細胞とを接触させることを特徴とするNK2受容体を阻害する方法を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、有効成分としてAtractylodes japonica根茎抽出物を含有することで過敏性腸症候群の治療または予防に有用な組成物を提供する。本発明はまた、Atractylodes japonica根茎抽出物の治療学的に有効な量を過敏性腸症候群の治療または予防が必要な個体に投与することを含む過敏性腸症候群の治療または予防方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】Atractylodes japonica根茎抽出物のHPLCクロマトグラムの結果である。
【図2】Atractylodes japonica根茎抽出物の薄層クロマトグラフィー(Thin-Layer Chromatography、TLC)の結果である。
【図3】Atractylodes japonica根茎抽出物のCRDモデルにおける効果を示すグラフである。
【図4】Atractylodes japonica根茎抽出物の拘束ストレス誘発排便様相モデル(Restraint stress‐induced fecal pellet output model)における効果を示すグラフである。
【図5】Atractylodes macrocephala Koidzumi抽出物とAtractylodes japonica Koidzumi抽出物とのCRDモデルにおける効果を比較したグラフである。
【図6】Atractylodes lancea抽出物とAtractylodes japonica抽出物とのCRDモデルにおける効果を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の理解を助けるために実施例などを挙げて詳しく説明する。しかし、本発明による実施例は多様な形態に変形され得、本発明の範囲が下記実施例に限定されると解釈されてはいけない。本発明の実施例は当業界で平均的な知識を持つ者に本発明をより完全に説明するために提供されるのである。
【0023】
<Atractylodes japonica根茎抽出物の製造>
Atractylodes japonica根茎のエタノール水溶液抽出物を製造した。根茎100gを陰干し後細切し、それぞれ0.7Lの30、50、70または90(v/v)%エタノール水溶液を加えてよく撹拌しながら4時間に亘って2回還流冷却抽出した。上記抽出物を濾過後濃縮して乾燥し、これを下記実験の試料として使用した。
【0024】
Atractylodes japonica根茎の水抽出物は、下記のように製造した。根茎100gを薬湯器(デウン薬湯器、model DWP5000M)に入れ、精製水1.5Lを注いだ後一番煎じスイッチを押して150分間1次抽出した。その後、同量の精製水を入れ二番煎じスイッチを押して120分間2次抽出した。上記抽出物を濾過後濃縮して乾燥し、下記実験の試料として使用した。
【0025】
<抽出物の成分差評価>
HPLC利用評価
図1は、Atractylodes japonica根茎の水抽出物及び50%エタノール水溶液抽出物のHPLCクロマトグラムの結果である[システム Agilent 1200 Series;コラム C18 コラム(250×4.6mm ID, S‐5μm, 12nm);検出波長 210nm]。水抽出物からは、50%エタノール水溶液を使用した抽出物とは異なり、Rt60分後のピークが確認できなかった。
【0026】
TLC利用評価
図1から見られた抽出物間の成分差を観察するために、薄層クロマトグラフィー(TLC)を実施した。それぞれの抽出物にノルマルヘキサンを添加して100mg/mLの濃度にした後、15分間超音波処理(sonication)し、不溶性物質は濾過して除去し、これを試験溶液にした。試験溶液をシリカゲル板(Silica gel 60F 254, Merck)に点滴し、ノルマルヘキサンとエチルアセテートとを10:1(v/v)で混合した展開溶媒を使用して展開した。その後、乾燥されたシリカゲル板に現われた斑点(spot)の色及び位置を紫外線(約254nm)で比較確認した。肉眼で観察するために、ワニリン硫酸溶液(5%硫酸エタノール溶液、1%ワニリンエタノール溶液)を噴霧し、110℃で約5〜10分間乾燥した。その後、発色させて観察した。その結果を図2に示した。
【0027】
図2に示すように、水抽出物からは、UV及び発色試薬を使用した二つの場合に両方とも原点(Rf=0)付近での微弱な斑点を除いては特徴的な斑点は観察されなかったが、50%エタノール水溶液抽出物からは、UV(254nm)上でRf0〜0.34付近にかけて多様な斑点が観察され、発色試薬を使用した結果Rf0.15付近で藍色と紫色、Rf0.62付近でピンク色の特徴的な斑点が確認できた。このような結果は、Atractylodes japonica根茎抽出物を製造するにおいて、抽出溶媒に従って抽出される成分の差が大きいことを示す。
【0028】
<CRDモデルを通じた内臓痛抑制効果の測定>
Atractylodes japonica根茎抽出物の内臓過敏性抑制効果を評価するために、過敏性腸症候群の薬物評価に使用される直腸拡張テスト(CRD)[JH. La外, World J. Gastroenterol., Dec., 9(12):p2791〜2795, 2003]を下記のように実施した。
【0029】
体重250〜300gのスプラーグドーリーラット(Sprague‐Dawley rat)(Charles River)雄を利用した。温度25℃、湿度50%、昼‐夜サイクル12:12時間に調節された動物室で1ケージ当たり二匹ずつ飼育した。飲水及び飼料は自由に接近できるようにし、5日間適応させた後、結腸炎を誘発した。結腸炎を誘発させる24時間前に飼料供給を中断し、エーテルを使用して呼吸麻酔後、ゴムカテーテル(PE 50)を肛門から内側8cm長さで直腸を通じて挿入した。
【0030】
3.5%酢酸(acetic acid in 0.9% saline)1mlをカテーテルを通じて結腸のルーメン(lumen)に投与した後、溶液が漏れないように肛門を塞いだ。30秒後に0.9%の生理食塩水(saline)1mlを同一のカテーテルを通じて結腸のルーメンに入れて酢酸溶液を洗い出した。
【0031】
実験動物の直腸に長さ2cmのゴム風船を挿入した後、0.1mlから1.0mlまで段階的に風船内に37℃の水を入れて脹らまし、このとき現れる動物の痛症反応を測定した。CRDのとき、実験動物の特徴的行動であるAWR(abdominal withdrawal reflex)を間接的に定量化するために、各姿勢ごとに点数が付与されるAWRスコアで内臓痛反応を確認した。表1によるAWRスコア[E. D. Al‐Chaer外, Gastroenterology, Nov., 119(5), p1276〜1285. 2000]を記録した。
【0032】
【表1】

【0033】
結腸炎誘発後7日目のラットでCRDを実施して内臓過敏性(visceral hypersensitivity)の有無を確認し、これを通じてIBS類似症状モデル動物を選別した[JH. La 外, World J. Gastroenterol., Dec., 9(12):p2791〜2795, 2003]。それぞれのAtractylodes japonica根茎抽出物を0.5%のカルボキシメチルセルロース(CMC)水溶液に溶かして200mg/kgの濃度で経口投与し、陽性対照群であるアロセトロン(alosetron HCL;Jiangyin Yongda Chemical Co., Ltd.)は20mg/kgで経口投与した。その後、約1時間にわたって安定化させた後CRD実験を行ってAWRスコアを記録した。ビヒクル投与群、陽性対照群、及び抽出物投与群に対した反応結果を定量化するために、拡張体積(Distension volume, ml)によるAWRスコア及びこれのAUC(area under the curve)を求めた。統計処理はスチューデントのt検定(Student's t‐test)を利用してp<0.01(**)またはp<0.001(***)レベルで行い、ビヒクル投与群対比有意性を検定した。その結果を図3に示した(mean±S.E., n≧5)。
【0034】
図3において、「Normal」は結腸炎を誘発させなかった正常群、「Vehicle」は結腸炎を誘発させた実験動物にビヒクルのみを経口投与した群、「Alosetron」は結腸炎を誘発させた実験動物にアロセトロンを20mg/kg経口投与した陽性対照群、「00E」は水抽出物200mg/kgを経口投与した群、「30E」、「50E」、「70E」及び「90E」はそれぞれ30%、50%、70%及び90%のエタノール抽出物200mg/kgを経口投与した群を示す。
【0035】
図3に示すように、50%エタノール水溶液抽出物は、結腸炎によって誘発された腸過敏性状態で現れる内臓痛に対して強力な抑制効果を示し、これは、陽性対照群であるアロセトロン20mg/kg対比同等のレベルであった。これに反して、水抽出物は阻害活性が殆どなく、30%エタノール抽出物及び90%エタノール抽出物ではある程度の阻害活性が現れたが、その効果は50%エタノール水溶液抽出物に比べて非常に弱かった。したがって、本発明によるAtractylodes japonica根茎抽出物は、35ないし65%エタノール水溶液抽出物であることが最も望ましい。
【0036】
<拘束ストレスによる排便モデルにおける効果評価>
上記実験で大腸過敏性抑制効果が最も優れた50%エタノール抽出物の過敏性腸症候群治療効果を、拘束ストレスによる排便モデル[S. Kobayashi外, Jpn. J. Pharmcaol., 86, p281〜288, 2001]を利用して評価した。
【0037】
体重250〜300gのスプラーグドーリーラット雄を利用した。温度25℃、湿度50%、昼‐夜サイクル12:12時間に調節された動物室で1ケージ当たり二匹ずつ飼育した。飲水及び飼料は自由に接近できるようにし、5日間適応させた後、拘束実験をした。
【0038】
実験当日拘束ケージ(restraint cage)を使用してラットの拘束ストレスによる排便様相(Restraint‐induced fecal pellet output)を測定した。50%エタノール水溶液抽出物を0.5%のCMC水溶液に溶かして300mg/kgの濃度で経口投与し、陽性対照群であるアロセトロンは20mg/kgの濃度に経口投与した後、実験動物を拘束ケージに入れた。このとき、動物が投与によるストレスを受けないように気を付けた。拘束ケージの中で動けなくなれば動物は拘束ストレスを受けるようになり、排便活動を始めるようになる。
【0039】
便の様相及び個数を60分間隔で4時間にわたって測定し、その結果を図4に示した。統計処理はスチューデントのt検定を利用してp<0.01(**)またはp<0.001(***)レベルで有意性を検定した。
【0040】
50%エタノール抽出物300mg/kg処理群は拘束によって発生する排便数(fecal pellet output)がビヒクル群の7.9個対比5.2個に減少した。これは、拘束ストレスによる排便異常を本発明の抽出物が改善することを意味する。このような結果から、本発明によるAtractylodes japonica根茎抽出物は、拘束ストレスによる排便異常にその活性を現わすことが確認できた。
【0041】
<ニューロキニン受容体の阻害活性評価>
ニューロキニン受容体を過発現している細胞株(U‐373MG glioma cell line)を韓国細胞株銀行から購入した。培養液(RPMI 1640 90%, fetal bovine serum 10%, penicillin 100IU/ml, streptomycin 100μg/ml, L‐glutamine 2mM、及びsodium pyruvate 1.0mM)を使用して上記細胞株を培養(5% CO)し、0.25%トリプシン(trypsin)溶液を利用して6〜8日ごとに継代培養した。
【0042】
細胞数を多様に希釈して24ウェルプレートにシーディング(seeding)した。48時間後にプローブ(probe)が結合された物質(substance)P(SP)を濃度ごとに処理した。反応時間後、蛍光光度計を利用して蛍光プローブが結合されたSP(Oregon Green488 conjugate, Molecular Probes, Eugene, OR)が受容体に結合された程度を、細胞数及び濃度ごとの差に従って測定して最適の条件を確立した[VJ. Bennett 外, BMCChem. Biol., 1:1, 2001]。受容体に選択的に結合する非ペプチド性の拮抗剤(non‐peptide antagonist)であるL‐733060(estimated affinity=0.8nM)を対照群として使用した[R. Bang 外, J. Pharmacol. Exp. Ther., 305, p31〜39, 2003]。
【0043】
Atractylodes japonica根茎の50%エタノール水溶液抽出物をDMSO(最終濃度0.1%以内)に溶解させた後、蒸留水で希釈した。次いで、メンブレイン(millipore membrane, 0.22μm, Millex‐GV, U.S.A.)を通過させて無菌状態にした後、濃度(10μg/ml及び50μg/ml)を異ならせて投与した。対照群の細胞にはビヒクル(0.1% DMSO)処理後、SPの代わりに精製水で処理した。SPのみを処理する群にはビヒクル(0.1% DMSO)で前処理後、50nMのSPを処理した。抽出物投与群は1時間前に抽出物を処理し、その後50nMのSPを処理した。L‐733060投与群は50nMのL‐733060処理後SPが50nMになるように処理した。培養器で1時間にわたって反応させた後、無血清媒質で洗浄した。その後、5%のTriton X‐100に細胞を溶かし、黒色の不透明な96ウェルプレートを利用して蛍光度(Ex 485/Em 528)を測定した。一回の実験につき各試料の数は2個であり(n=2)、独立して3回行って、その結果を下記表2に示した。
【0044】
【表2】

【0045】
上記表2のように、50%エタノール抽出物10μg/ml及び50μg/ml群においてニューロキニン受容体に対してそれぞれ33%及び45%の抑制活性を現わすことが確認できた。上述のような結果から、本発明によるAtractylodes japonica根茎抽出物は、有害刺激の侵害受容経路を通じた侵害受容伝達及び膓運動性に関与するNK受容体を阻害することによって腸過敏性及び排便異常に対する改善効果を有すると考えられるが、本発明はこのような薬理メカニズムに限定されるのではない。
【0046】
<Atractylodes macrocephalaとAtractylodes japonicaとの比較評価>
同属植物であるAtractylodes macrocephalaとAtractylodes japonicaとの過敏性腸症候群の治療効果を比較評価した。Atractylodes japonica根茎はAtractylodes macrocephala根茎に比べて断面サイズが非常に小さいことから、肉眼でも確実に区別できる同属植物である。
【0047】
それぞれの根茎100gを陰干し後細切し、それぞれ0.7Lの50%エタノール水溶液を加えてよく撹拌しながら4時間に亘って2回還流冷却抽出した。得られた抽出物を濾過後濃縮して乾燥し、これを下記実験の試料として使用した。
【0048】
UPLC比較評価
Atractylodes japonica及びAtractylodes macrocephalaの50%エタノール水溶液抽出物の成分差をUPLCクロマトグラム[システム ACQUITY UPLC;コラム ACQUITY UPLC HSS T3 1.8um、2.1×150mm;検出波長 220nm]を利用して評価した。実験結果、原料植物の差に従って抽出される成分が相異なることが分かった。
【0049】
CRDモデルを利用した内臓痛抑制効果の比較
Atractylodes japonica根茎の50%エタノール抽出物(200mg/kg)及びAtractylodes macrocephala根茎の50%エタノール抽出物(200mg/kg)の過敏性腸症候群の治療効果をCRDモデルを利用して評価した。その結果を図5に示した。
【0050】
図5に示すように、Atractylodes japonica抽出物はビヒクルに対して有意義に腸過敏性状態での内臓痛を抑制する活性を示しているが、Atractylodes macrocephala抽出物は有意義な効果差を示していない。
【0051】
NK2受容体の阻害活性比較
Atractylodes japonica根茎の50%エタノール抽出物及びAtractylodes macrocephala根茎の50%エタノール抽出物を利用して、100μg/mlの濃度でNK2受容体に対する阻害活性を比較測定した。実験はMDS Pharma Servicesに依頼して行い、その結果を下記表3に示した。
【0052】
【表3】

【0053】
上記表3のように、Atractylodes macrocephala抽出物は阻害活性をほとんど示していないが、Atractylodes japonica抽出物はNK2受容体に対して50%以上の阻害効果を示している。
【0054】
<Atractylodes lanceaとAtractylodes japonicaとの比較評価>
同属植物であるAtractylodes lanceaとAtractylodes japonicaとの過敏性腸症候群の治療効果を比較評価した。それぞれの根茎100gを陰干し後細切し、それぞれ0.7Lの50%エタノール水溶液を加えてよく撹拌しながら4時間に亘って2回還流冷却抽出した。得られた抽出物を濾過後濃縮して乾燥し、これを下記実験の試料として使用した。
【0055】
それぞれの抽出物においてCRDモデルを利用した内臓痛抑制効果を比較評価した。Atractylodes japonica根茎の50%エタノール水溶液抽出物及びAtractylodes lancea根茎の50%エタノール水溶液抽出物は200mg/kgの用量でAWRスコア測定の1時間前に投与され、アロセトロンは20mg/kgの用量で経口投与された。その結果を図6に示した。
【0056】
図6に示すように、Atractylodes japonica抽出物はビヒクルに対して有意義な腸過敏性抑制活性を示しているが、Atractylodes lancea抽出物は有意義な効果差を示していない。
【0057】
<製剤化の実施例>
以下、本発明の抽出物を含有する組成物の製剤化(formulation)を例示的に説明するが、本発明はこのような例によって限定されるのではない。
【0058】
散剤の製造
成分:本発明の抽出物 20mg;ラクトース 100mg;及びタルク 10mg。
【0059】
上記成分を混合し気密袋に充填して散剤を製造した。
【0060】
錠剤の製造
成分:本発明の抽出物 10mg;とうもろこし澱粉 100mg;ラクトース 100mg;及びステアリン酸マグネシウム 2mg。
【0061】
上記成分を混合した後、通常の錠剤製造方法に従って打錠して錠剤を製造した。
【0062】
カプセル剤の製造
成分:本発明の抽出物 10mg;結晶性セルロース 3mg;ラクトース 14.8mg;及びステアリン酸マグネシウム 0.2mg。
【0063】
通常のカプセル剤製造方法に従って上記成分を混合しゼラチンカプセルに充電してカプセル剤を製造した。
【0064】
注射剤の製造
成分:本発明の抽出物 10mg;マンニトール 180mg;注射用滅菌蒸留水 2974mg;及びNaHPO・12HO 26mg。
【0065】
通常の注射剤製造方法に従って1アンプル当たり(2ml)上記成分含量になるように注射剤を製造した。
【0066】
液剤の製造
成分:本発明の抽出物 20mg;異性化糖 10g;マンニトール 5g;及び精製水適量。
【0067】
通常の液剤製造方法に従って精製水にそれぞれの成分を加えて溶解させ、レモン香を適量加えた後、上記成分をまた混合した。それから、精製水を加えて全体体積が100mlになるようにした後、茶色ビンに充填し滅菌して液剤を製造した。
【0068】
健康食品の製造
成分:本発明の抽出物 1,000mg;ビタミン混合物適量;ビタミンAアセテート 70μg;ビタミンE 1.0mg;ビタミンB1 0.13mg;ビタミンB2 0.15mg;ビタミンB6 0.5mg;ビタミンB12 0.2μg;ビタミンC 10mg;ビオチン 10μg;ニコチン酸アミド 1.7mg;葉酸 50μg;パントテン酸カルシウム 0.5mg;無機質混合物適量;硫酸第一鉄 1.75mg;酸化亜鉛 0.82mg;炭酸マグネシウム 25.3mg;第一リン酸カリウム 15mg;第二リン酸カルシウム 55mg;クエン酸カリウム 90mg;炭酸カルシウム 100mg;及び塩化マグネシウム 24.8mg。
【0069】
通常の健康食品製造方法に従って上記成分を混合した後、顆粒を製造した。以後、通常の方法に従って錠剤またはカプセル剤形態の健康食品を製造できる。
【0070】
健康飲料の製造
成分:本発明の抽出物 1,000mg;クエン酸 1,000mg;オリゴ糖 100g;梅濃縮液 2g;タウリン 1g;及び精製水適量(全体900ml)。
通常の健康飲料製造方法に従って上記成分を混合した後、約1時間に亘って85℃で撹拌加熱した。以後、作られた溶液を濾過して滅菌された2Lの容器に入れ密封滅菌して本発明の健康飲料を製造した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Atractylodes japonica根茎抽出物を有効成分として含有することを特徴とする過敏性腸症候群の治療または予防用組成物。
【請求項2】
上記抽出物は、エタノール水溶液抽出物であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
上記エタノール水溶液は、35ないし65(v/v)%エタノール水溶液であることを特徴とする請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
治療学的に有効な量のAtractylodes japonica根茎抽出物を過敏性腸症候群の治療または予防が必要な個体に投与することを含む過敏性腸症候群の治療または予防方法。
【請求項5】
上記抽出物は、エタノール水溶液抽出物であることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
上記エタノール水溶液は、35ないし65(v/v)%エタノール水溶液であることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
過敏性腸症候群を治療または予防するためのAtractylodes japonica根茎抽出物の医薬用途。
【請求項8】
上記抽出物は、エタノール水溶液抽出物であることを特徴とする請求項7に記載の用途。
【請求項9】
上記エタノール水溶液は、35ないし65(v/v)%エタノール水溶液であることを特徴とする請求項8に記載の用途。
【請求項10】
Atractylodes japonica根茎抽出物を個体に投与することを含むNK2受容体を阻害する方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−527451(P2012−527451A)
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−511762(P2012−511762)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際出願番号】PCT/KR2010/003197
【国際公開番号】WO2010/134769
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(509060637)エスケー ケミカルズ カンパニー リミテッド (3)
【Fターム(参考)】