説明

過敏性腸症候群治療剤

【課題】アデノシン取り込み阻害作用を有する化合物を有効成分として含有する過敏性腸症候群治療剤、三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する過敏性腸症候群治療剤等の提供。
【解決手段】以下の式


で表される化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アデノシン取り込み阻害作用を有する化合物を有効成分として含有する過敏性腸症候群治療剤、三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する過敏性腸症候群治療剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
アデノシンは、虚血等の酸素供給低下時あるいは炎症時等の細胞障害が起こるような条件下において、血中あるいは組織中で濃度が上昇することが知られている。アデノシン受容体として、A1受容体、A2A受容体、A2B受容体、A3受容体が知られており、アデノシンはこれら受容体を介して、徐脈、脂肪分解抑制、糸球体濾過量低下、鎮痛、交感神経及び副交感神経活性減少、神経の過分極、大脳基底核の感覚運動統合調節、血小板凝集抑制、多核白血球抑制、血管弛緩、虚血性障害の防御、知覚神経活性刺激、血管平滑筋弛緩、腸管平滑筋弛緩、単球及びマクロファージ機能の抑制、細胞障害抑制等、種々の生理作用を示す。アデノシン受容体は、細胞膜に存在するため、生理作用発現のためには細胞外アデノシン濃度が重要である。正常状態においてアデノシンは、細胞内でS-アデノシルホモシステイン(S-adenosylhomocysteine: SAH)からSAHヒドロラーゼにより産生される。一方、虚血、外傷、ストレス、炎症等の病的状態では、アデノシン三リン酸(adenosine triphosphate: ATP)の代謝産物であるアデノシン一リン酸(adenosine monophosphate: AMP)から細胞外5’-ヌクレオチダーゼにより、細胞外でアデノシンが産生されることが知られている。アデノシンは、主に細胞内外にあるアデノシンデアミナーゼによって分解されるが、細胞外アデノシンの消失経路として、ヌクレオシドトランスポーターを介した細胞内取り込み機構が重要な役割を担っていることが知られている。ヌクレオシドトランスポーターは、拡散型(equilibrative nucleoside transporter: ENT)と濃縮型(concentrative nucleoside transporter: CNT)の2種類に大別され、それぞれENT-1、2及び3、CNT-1、2及び3の3つのサブタイプが知られている。多くの細胞においてENTが発現しており、アデノシンは濃度勾配に従って細胞内外を移動する。従って、病的条件のように、細胞外でアデノシンが産生される条件では、アデノシンはENTを介して細胞内に取り込まれる。アデノシンは細胞外に存在する受容体を介して作用するため、産生されたアデノシンの作用は短時間で消失するか、あるいは十分なアデノシン濃度が維持できずに作用が減弱する。全身的なアデノシンあるいはアデノシンアゴニストの投与により種々の薬理効果が期待できるが、望ましくない効果も同時に認められる。ENT阻害によりアデノシン取り込み阻害作用を有する化合物は、細胞外アデノシン産生が亢進しているような病的組織においてのみ作用するため、ある種の病的状態に対する有用な予防/治療剤となりうる可能性がある[ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー(European Journal of Pharmacology)、第495巻、1頁(2004年)]。
【0003】
一方、過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome: IBS)は、明らかな腸の器質的異常がないにも関わらず、排便と関連する腹部不快感あるいは腹痛と便通異常を呈する症候群で、機能性腸疾患の一つである。その病態の形成には、消化管運動異常、消化管知覚異常、心理社会的要因(ストレス)が関わることが知られている。症状は、下痢、腹痛、腹満感、便秘等で、主とする症状によって、下痢型、便秘型、下痢便秘交替型に分類される。また、精神状態としては、不安、過敏、緊張、焦燥、抑うつ等を伴うことがある。消化器機能は高度に神経調節されており、また多様に受容体が存在しており、腹痛、下痢、便秘等の消化器症状に対して抗コリン剤、止瀉剤、下剤がそれぞれ投与されており、必要に応じて抗うつ薬や抗不安薬が用いられている。また、下痢型IBS治療剤としてセロトニン5-HT3受容体遮断薬alosetron HClが知られているが、重篤な胃腸障害、特に虚血性大腸炎(ischemic colitis)と重篤な便秘が認められるため、重症な女性患者にのみ適応されている。また、便秘型IBS治療剤として、セロトニン5-HT4受容体作働薬tegaserod maleateが知られているが、女性患者のみの適応である。また、下痢型及び便秘型IBSの両方の治療剤として高吸水性ポリマーであるポリカルボフィルCaが知られている。しかしながら、IBS治療の選択肢は限られている。そこで現在、薬効に性差が無い、新規なIBS治療剤が求められている[レビューズ・イン・ガストロエンテロロジカル・ディスオーダーズ(Reviews in Gastroenterological Disorders)、第1巻、第1号、2頁(2001年);ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・クリニカル・ファーマコロジー(British Journal of Clinical Pharmacology)、第56巻、362頁(2003)]。
【0004】
三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする尿失禁治療剤(特許文献1及び2参照)、過活動膀胱治療剤(特許文献3参照)、膀胱知覚過敏治療剤(特許文献4参照)、前立腺肥大症に伴う膀胱刺激症状治療剤(特許文献5参照)、脳血管障害に伴う過活動膀胱治療剤(特許文献6参照)、そう痒治療剤(特許文献7参照)、鎮咳剤(特許文献8参照)、疼痛治療剤(特許文献9参照)、気管支喘息治療剤(特許文献10参照)が知られている。
【特許文献1】国際公開第97/14672号パンフレット
【特許文献2】国際公開第98/46587号パンフレット
【特許文献3】国際公開第02/078710号パンフレット
【特許文献4】国際公開第02/078711号パンフレット
【特許文献5】国際公開第02/078712号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2005/000293号パンフレット
【特許文献7】国際公開第03/041704号パンフレット
【特許文献8】国際公開第2004/087131号パンフレット
【特許文献9】国際公開第2005/007154号パンフレット
【特許文献10】国際公開第2005/011674号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、アデノシン取り込み阻害作用を有する化合物を有効成分として含有する過敏性腸症候群治療剤、三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する過敏性腸症候群治療剤等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の(1)〜(77)に関する。
(1)アデノシン取り込み阻害作用を有する化合物を有効成分として含有する過敏性腸症候群治療剤。
(2)アデノシン取り込み阻害作用を有する化合物を有効成分として含有する止瀉剤。
(3)アデノシン取り込み阻害作用を有する化合物を有効成分として含有する下剤。
(4)式(I)
【0007】
【化3】

【0008】
{式中、Lは酸素原子、硫黄原子、-N(R9)-(式中、R9は水素原子または置換もしくは非置換の低級アルキルを表す)、-NHC(=O)-または-C(=O)NH-を表し、
R1は水素原子、ハロゲン、置換もしくは非置換の低級アルキルまたは置換もしくは非置換の低級アルコキシを表し、
X1-X2-X3は、CR5=CR6-CR7=CR8[式中、R5、R6、R7及びR8は、同一または異なって水素原子、ハロゲン、ヒドロキシ、ニトロ、アミノ、モノ(低級アルキル)置換アミノ、ジ(低級アルキル)置換アミノ、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換の低級アルコキシまたは置換もしくは非置換の低級アルカノイルアミノを表す]、N(O)m=CR6-CR7=CR8(式中、R6、R7及びR8はそれぞれ前記と同義であり、mは0または1を表す)、CR5=CR6-N(O)m=CR8(式中、R5、R6、R8及びmはそれぞれ前記と同義である)、CR5=CR6-CR7=N(O)m(式中、R5、R6、R7及びmはそれぞれ前記と同義である)、CR5=CR6-O(式中、R5及びR6はそれぞれ前記と同義である)、CR5=CR6-S(式中、R5及びR6はそれぞれ前記と同義である)、O-CR7=CR8(式中、R7及びR8はそれぞれ前記と同義である)、S-CR7=CR8(式中、R7及びR8はそれぞれ前記と同義である)またはO-CR7=N(式中、R7は前記と同義である)を表し、
Yは-CH2S-、-CH2SO-、-CH2SO2-、-CH2O-、-CH=CH-、-(CH2)p-(式中、pは0〜2の整数を表す)、-SCH2-、-SOCH2-、-SO2CH2-または-OCH2-を表し、
R2は水素原子、アミノ、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換の低級アルケニル、置換もしくは非置換の低級アルコキシ、モノ(置換もしくは非置換の低級アルキル)置換アミノ、ジ(置換もしくは非置換の低級アルキル)置換アミノ、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、置換もしくは非置換のアラルキルアミノ、置換もしくは非置換のアリールアミノまたは置換もしくは非置換の複素環基を表す}で表される三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する過敏性腸症候群治療剤。
【0009】
(5)前記(4)に記載の三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する止瀉剤。
(6)前記(4)に記載の三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する下剤。
(7)前記(4)に記載の三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するアデノシン取り込み阻害剤。
(8)式(Ia)
【0010】
【化4】

【0011】
[式中、R1及びX1-X2-X3はそれぞれ前記と同義であり、Yaは-CH2SO2-、-SCH2-、-SOCH2-、-SO2CH2-または-OCH2-を表し、
Yaが-CH2SO2-、-SCH2-、-SOCH2-または-SO2CH2-であるときに、
R2aは水素原子、アミノ、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換の低級アルケニル、置換もしくは非置換の低級アルコキシ、モノ(置換もしくは非置換の低級アルキル)置換アミノ、ジ(置換もしくは非置換の低級アルキル)置換アミノ、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、置換もしくは非置換のアラルキルアミノ、置換もしくは非置換のアリールアミノ、置換もしくは非置換の脂環式複素環基または置換もしくは非置換の含窒素複素環基を表し、
Yaが-OCH2-であるときに、
R2aは水素原子、アミノ、トリフルオロメチル、置換もしくは非置換の低級アルケニル、置換もしくは非置換の低級アルコキシ、モノ(置換もしくは非置換の低級アルキル)置換アミノ、ジ(置換もしくは非置換の低級アルキル)置換アミノ、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、置換もしくは非置換のアラルキルアミノ、置換もしくは非置換のアリールアミノ、置換もしくは非置換の脂環式複素環基、置換もしくは非置換の含窒素複素環基または式(II)
【0012】
【化5】

(式中、nは0または1であり、R3及びR4は、同一または異なって水素原子、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換の環状アルキル、置換もしくは非置換のアリールまたは置換もしくは非置換のアラルキルを表すか、R3及びR4が隣接する炭素原子と一緒になって環状アルキルを形成してもよく、Qはハロゲン、アミノ、ヒドロキシまたは置換もしくは非置換の低級アルコキシを表す)を表す]で表される三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する過敏性腸症候群治療剤。
【0013】
(9)Yaが-CH2SO2-、-SCH2-、-SOCH2-または-SO2CH2-である前記(8)記載の過敏性腸症候群治療剤。
(10)Yaが-OCH2-である前記(8)記載の過敏性腸症候群治療剤。
(11)R1が水素原子、ハロゲンまたは置換もしくは非置換の低級アルコキシである前記(8)〜(10)のいずれかに記載の過敏性腸症候群治療剤。
(12)R1が水素原子である前記(8)〜(10)のいずれかに記載の過敏性腸症候群治療剤。
(13)Yaが-CH2SO2-、-SO2CH2-または-OCH2-である前記(8)、(11)及び(12)のいずれかに記載の過敏性腸症候群治療剤。
(14)Yaが-CH2SO2-または-SO2CH2-である前記(8)、(11)及び(12)のいずれかに記載の過敏性腸症候群治療剤。
(15)Yaが-CH2SO2-である前記(8)、(11)及び(12)のいずれかに記載の過敏性腸症候群治療剤。
(16)X1-X2-X3がS-CR7=CR8(式中、R7及びR8はそれぞれ前記と同義である)である前記(8)〜(15)のいずれかに記載の過敏性腸症候群治療剤。
(17)X1-X2-X3がCR5=CR6-CR7=CR8(式中、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ前記と同義である)である前記(8)〜(15)のいずれかに記載の過敏性腸症候群治療剤。
(18)R2aが式(II)
【0014】
【化6】

(式中、n、R3、R4及びQはそれぞれ前記と同義である)である前記(8)〜(17)のいずれかに記載の過敏性腸症候群治療剤。
【0015】
(19)nが0である前記(18)記載の過敏性腸症候群治療剤。
(20)R3がメチルであり、R4がトリフルオロメチルであり、Qがヒドロキシである前記(19)記載の過敏性腸症候群治療剤。
(21)R1が水素原子であり、Yaが-CH2SO2-であり、X1-X2-X3がS-CR7=CR8(式中、R7及びR8はそれぞれ前記と同義である)であり、R2aが式(III)
【0016】
【化7】

である前記(8)記載の過敏性腸症候群治療剤。
【0017】
(22)前記(8)〜(21)のいずれかに記載の三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する止瀉剤。
(23)前記(8)〜(21)のいずれかに記載の三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する下剤。
(24)前記(8)〜(21)のいずれかに記載の三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するアデノシン取り込み阻害剤。
(25)式(Ib)
【0018】
【化8】

[式中、R1及びX1-X2-X3はそれぞれ前記と同義であり、Ybは-CH2O-、-CH2S-、-CH2SO-、-CH=CH-または-(CH2)p-(式中、pは前記と同義である)を表し、R2bは式(III)
【0019】
【化9】

を表す]で表される三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する過敏性腸症候群治療剤。
【0020】
(26)X1-X2-X3がCR5=CR6-CR7=CR8(式中、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ前記と同義である)またはCR5=CR6-CR7=N(式中、R5、R6及びR7はそれぞれ前記と同義である)である前記(25)記載の過敏性腸症候群治療剤。
(27)X1-X2-X3がCR5=CR6-O(式中、R5及びR6はそれぞれ前記と同義である)またはCR5=CR6-S(式中、R5及びR6はそれぞれ前記と同義である)である前記(25)記載の過敏性腸症候群治療剤。
(28)X1-X2-X3がO-CR7=CR8(式中、R7及びR8はそれぞれ前記と同義である)またはS-CR7=CR8(式中、R7及びR8はそれぞれ前記と同義である)である前記(25)記載の過敏性腸症候群治療剤。
(29)Ybが-CH2O-である前記(25)〜(28)のいずれかに記載の過敏性腸症候群治療剤。
(30)Ybが-(CH2)p-(式中、pは前記と同義である)である前記(25)〜(28)のいずれかに記載の過敏性腸症候群治療剤。
(31)pが0である前記(30)記載の過敏性腸症候群治療剤。
(32)pが2である前記(30)記載の過敏性腸症候群治療剤。
(33)Ybが-CH=CH-である前記(25)〜(28)のいずれかに記載の過敏性腸症候群治療剤。
(34)Ybが-CH2S-または-CH2SO-である前記(25)〜(28)のいずれかに記載の過敏性腸症候群治療剤。
(35)前記(25)〜(34)のいずれかに記載の三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する止瀉剤。
(36)前記(25)〜(34)のいずれかに記載の三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する下剤。
(37)前記(25)〜(34)のいずれかに記載の三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するアデノシン取り込み阻害剤。
(38)式(Ic)
【0021】
【化10】

[式中、L1は酸素原子または硫黄原子を表し、
R1cは水素原子または置換もしくは非置換の低級アルキルを表し、
X1c-X2c-X3cはO-CR7=CR8(式中、R7及びR8はそれぞれ前記と同義である)またはS-CR7=CR8(式中、R7及びR8はそれぞれ前記と同義である)を表し、
Ycは-CH2S-、-CH2SO-または-CH2SO2-を表し、
R2cは置換もしくは非置換の低級アルキルを表す]で表される三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩。
【0022】
(39)R1cが水素原子であり、
X1c-X2c-X3cがS-CR7c=CR8c(式中、R7c及びR8cは同一または異なって水素原子または置換もしくは非置換の低級アルキルを表す)であり、
Ycが-CH2SO2-であり、
R2cが置換もしくは非置換のベンジルである前記(38)記載の三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩。
(40)前記(38)または(39)記載の三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する医薬。
(41)前記(38)または(39)記載の三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する過敏性腸症候群治療剤。
(42)前記(38)または(39)記載の三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する止瀉剤。
(43)前記(38)または(39)記載の三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する下剤。
(44)前記(38)または(39)記載の三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するアデノシン取り込み阻害剤。
(45)式(Id)
【0023】
【化11】

[式中、R9は前記と同義であり、
R1dは水素原子または置換もしくは非置換の低級アルキルを表し、
X1d-X2d-X3dはO-CR7=CR8(式中、R7及びR8はそれぞれ前記と同義である)またはS-CR7=CR8(式中、R7及びR8はそれぞれ前記と同義である)を表し、
Ydは-CH2S-、-CH2SO-または-CH2SO2-を表し、
R2dは置換もしくは非置換の低級アルキルまたは置換もしくは非置換のアリールを表す]で表される三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩。
【0024】
(46)R1dが水素原子であり、
X1d-X2d-X3dがS-CR7d=CR8d(式中、R7d及びR8dは同一または異なって水素原子または置換もしくは非置換の低級アルキルを表す)であり、
Ydが-CH2SO2-であり、
R9が水素原子である前記(45)記載の三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩。
(47)R2dが置換もしくは非置換の低級アルキルである前記(46)記載の三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩。
(48)R2dが置換もしくは非置換のアリールである前記(46)記載の三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩。
(49)前記(45)〜(48)のいずれかに記載の三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する医薬。
(50)前記(45)〜(48)のいずれかに記載の三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する過敏性腸症候群治療剤。
(51)前記(45)〜(48)のいずれかに記載の三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する止瀉剤。
(52)前記(45)〜(48)のいずれかに記載の三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する下剤。
(53)前記(45)〜(48)のいずれかに記載の三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するアデノシン取り込み阻害剤。
【0025】
(54)アデノシン取り込み阻害作用を有する化合物の有効量を投与する工程を含む、過敏性腸症候群の治療方法。
(55)アデノシン取り込み阻害作用を有する化合物の有効量を投与する工程を含む、下痢の治療方法。
(56)アデノシン取り込み阻害作用を有する化合物の有効量を投与する工程を含む、便秘の治療方法。
(57)前記(4)、(8)〜(21)及び(25)〜(34)のいずれかに記載の三環式化合物の有効量を投与する工程を含む、過敏性腸症候群の治療方法。
(58)前記(4)、(8)〜(21)及び(25)〜(34)のいずれかに記載の三環式化合物の有効量を投与する工程を含む、下痢の治療方法。
(59)前記(4)、(8)〜(21)及び(25)〜(34)のいずれかに記載の三環式化合物の有効量を投与する工程を含む、便秘の治療方法。
(60)前記(38)または(39)記載の三環式化合物の有効量を投与する工程を含む、過敏性腸症候群の治療方法。
(61)前記(38)または(39)記載の三環式化合物の有効量を投与する工程を含む、下痢の治療方法。
(62)前記(38)または(39)記載の三環式化合物の有効量を投与する工程を含む、便秘の治療方法。
(63)前記(45)〜(48)のいずれかに記載の三環式化合物の有効量を投与する工程を含む、過敏性腸症候群の治療方法。
(64)前記(45)〜(48)のいずれかに記載の三環式化合物の有効量を投与する工程を含む、下痢の治療方法。
(65)前記(45)〜(48)のいずれかに記載の三環式化合物の有効量を投与する工程を含む、便秘の治療方法。
【0026】
(66)過敏性腸症候群治療剤の製造のための、アデノシン取り込み阻害作用を有する化合物の使用。
(67)止瀉剤の製造のための、アデノシン取り込み阻害作用を有する化合物の使用。
(68)下剤の製造のための、アデノシン取り込み阻害作用を有する化合物の使用。
(69)過敏性腸症候群治療剤の製造のための、前記(4)、(8)〜(21)及び(25)〜(34)のいずれかに記載の三環式化合物の使用。
(70)止瀉剤の製造のための、前記(4)、(8)〜(21)及び(25)〜(34)のいずれかに記載の三環式化合物の使用。
(71)下剤の製造のための、前記(4)、(8)〜(21)及び(25)〜(34)のいずれかに記載の三環式化合物の使用。
(72)過敏性腸症候群治療剤の製造のための、前記(38)または(39)記載の三環式化合物の使用。
(73)止瀉剤の製造のための、前記(38)または(39)記載の三環式化合物の使用。
(74)下剤の製造のための、前記(38)または(39)記載の三環式化合物の使用。
(75)過敏性腸症候群治療剤の製造のための、前記(45)〜(48)のいずれかに記載の三環式化合物の使用。
(76)止瀉剤の製造のための、前記(45)〜(48)のいずれかに記載の三環式化合物の使用。
(77)下剤の製造のための、前記(45)〜(48)のいずれかに記載の三環式化合物の使用。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、アデノシン取り込み阻害作用を有する化合物を有効成分として含有する過敏性腸症候群治療剤、三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する過敏性腸症候群治療剤等が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、式(I)で表される化合物を、化合物(I)という。他の式番号で表される化合物についても同様である。
式(I)の各基の定義において、低級アルキルとしては、例えば直鎖または分岐状の炭素数1〜8のアルキル、より具体的にはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、1,2,2-トリメチルプロピル、ヘプチル、オクチル等が挙げられる。
【0029】
ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素の各原子を意味する。
低級アルコキシ、モノ(低級アルキル)置換アミノ及びジ(低級アルキル)置換アミノにおける低級アルキル部分は、前記低級アルキルと同義である。
低級アルカノイルアミノにおける低級アルカノイルとしては、例えば炭素数1〜6のアルカノイル、より具体的にはホルミル、アセチル、プロパノイル、ブタノイル、ペンタノイル、2,2-ジメチルプロパノイル、ヘキサノイル等が挙げられる。
【0030】
低級アルケニルとしては、例えば直鎖または分岐状の炭素数2〜6のアルケニル、より具体的にはビニル、アリル、1-プロペニル、メタクリル、1-ブテニル、クロチル、ペンテニル、ヘキセニル等が挙げられる。
アリール及びアリールアミノのアリール部分としては、例えばフェニル、ナフチル等が挙げられ、ヘテロアリールとしては、例えばピリジル、フリル、チエニル、キノリル、イミダゾリル、ベンゾイミダゾリル、チアゾリル等が挙げられる。
【0031】
アラルキルアミノのアラルキル部分としては、例えば炭素数7〜12のアラルキル、より具体的にはベンジル、フェネチル、ナフチルメチル等が挙げられる。
複素環基としては、例えば脂環式複素環基、含窒素複素環基等が挙げられる。脂環式複素環基としては、例えばテトラヒドロフリル、テトラヒドロチエニル、クロマニル等が挙げられる。含窒素複素環基は、例えば1〜2の窒素原子をその環内に含む複素環基であり、さらに酸素、硫黄等のヘテロ原子を含んでいてもよく、例えばピロリジニル、ピペコリニル、ピペラジニル、ピペリジル、モルホリニル、チオモルホリニル、オキサゾリル等が挙げられる。
【0032】
置換低級アルキル、置換低級アルコキシ、モノ(置換低級アルキル)置換アミノ、ジ(置換低級アルキル)置換アミノ、置換低級アルカノイルアミノ及び置換低級アルケニルにおける置換基としては、同一または異なって、置換数1〜置換可能な数の(好ましくは1〜6の、より好ましくは1〜4の)、例えばハロゲン、ヒドロキシ、ニトロ、アミノ、モノ(低級アルキル)置換アミノ、ジ(低級アルキル)置換アミノ、環状アルキル、置換環状アルキル[該置換環状アルキルにおける置換基としては、同一または異なって例えば置換数1〜3の、ハロゲン、ヒドロキシ、ニトロ、アミノ、モノ(低級アルキル)置換アミノ、ジ(低級アルキル)置換アミノ、低級アルコキシ等が挙げられる]、アリール、置換アリール(該置換アリールにおける置換基は、後記の置換アリールにおける置換基と同義である)、アラルキル、置換アラルキル(該置換アラルキルにおける置換基は、後記の置換アラルキルにおける置換基と同義である)、低級アルコキシ、置換低級アルコキシ[該置換低級アルコキシにおける置換基としては、同一または異なって例えば置換数1〜3の、ハロゲン、ヒドロキシ、ニトロ、アミノ、モノ(低級アルキル)置換アミノ、ジ(低級アルキル)置換アミノ、低級アルコキシ等が挙げられる]、低級アルコキシカルボニル、置換低級アルコキシカルボニル[該置換低級アルコキシカルボニルにおける置換基としては、同一または異なって例えば置換数1〜3の、ハロゲン、ヒドロキシ、ニトロ、アミノ、モノ(低級アルキル)置換アミノ、ジ(低級アルキル)置換アミノ、低級アルコキシ等が挙げられる]等が挙げられる。また、上記の置換低級アルキルにおいては、該低級アルキルにおける同一炭素原子上に2つの置換基を有し、該2つの置換基が該炭素原子と一緒になって脂肪族環を形成していてもよい。なお置換低級アルキルが置換メチルまたは置換エチルである場合は、その置換基は、さらに同一または異なって例えば置換数1〜3の、低級アルキルまたは置換低級アルキル[該置換低級アルキルにおける置換基としては、同一または異なって例えば置換数1〜3の、ハロゲン、ヒドロキシ、ニトロ、アミノ、モノ(低級アルキル)置換アミノ、ジ(低級アルキル)置換アミノ、低級アルコキシ等が挙げられる]であってもよい。
【0033】
ここで、ハロゲンは前記と同義であり、低級アルキル、モノ(低級アルキル)置換アミノ、ジ(低級アルキル)置換アミノ、低級アルコキシカルボニル及び低級アルコキシにおける低級アルキル部分は、前記低級アルキルと同義であり、アリールは前記と同義である。環状アルキル及び脂肪族環の環状アルキル部分としては、例えば炭素数3〜8の環状アルキル、より具体的にはシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル等が挙げられる。アラルキルとしては、例えば炭素数7〜12のアラルキル、より具体的にはベンジル、フェネチル、ナフチルメチル等が挙げられる。
【0034】
置換アリール、置換ヘテロアリール、置換アラルキルアミノ及び置換アリールアミノにおける置換基としては、同一または異なって例えば置換数1〜3の、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、低級アルキル等が挙げられる。
ここで、ハロゲン及び低級アルキルはそれぞれ前記と同義である。
置換複素環基における置換基としては、同一または異なって例えば置換数1〜3の、ハロゲン、ヒドロキシ、低級アルキル等が挙げられる。
【0035】
ここで、ハロゲン及び低級アルキルはそれぞれ前記と同義である。
式(Ia)、(Ib)、(Ic)及び(Id)の各基の定義において、低級アルキルとしては、例えば直鎖または分岐状の炭素数1〜6のアルキル、より具体的にはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、1,2,2-トリメチルプロピル等が挙げられる。
【0036】
ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素の各原子を意味する。
低級アルコキシ、モノ(低級アルキル)置換アミノ及びジ(低級アルキル)置換アミノにおける低級アルキル部分は、前記低級アルキルと同義である。
低級アルケニルとしては、例えば直鎖または分岐状の炭素数2〜6のアルケニル、より具体的にはビニル、アリル、1-プロペニル、メタクリル、1-ブテニル、クロチル、ペンテニル、ヘキセニル等が挙げられる。
【0037】
アリール及びアリールアミノのアリール部分としては、例えばフェニル、ナフチル等が包含され、ヘテロアリールとしては、例えばピリジル、フリル、チエニル、キノリル、イミダゾリル、ベンゾイミダゾリル、チアゾリル等が挙げられる。
アラルキル及びアラルキルアミノのアラルキル部分としては、例えば炭素数7〜12のアラルキル、より具体的にはベンジル、フェネチル、ナフチルメチル等が挙げられる。
【0038】
脂環式複素環基としては、例えばテトラヒドロフリル、テトラヒドロチエニル、クロマニル等が挙げられる。含窒素複素環基は、例えば1〜2の窒素原子をその環内に含む複素環基であり、さらに酸素、硫黄等のヘテロ原子を含んでいてもよく、且つその環内の窒素原子が隣接するカルボニル基と結合している複素環基を表し、例えばピロリジニル、ピペコリニル、ピペラジニル、ピペリジル、モルホリニル、チオモルホリニル、オキサゾリル等が挙げられる。
【0039】
環状アルキルとしては、例えば炭素数3〜8の環状アルキル、より具体的にはシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル等が挙げられる。
置換低級アルキル、置換低級アルコキシ、モノ(置換低級アルキル)置換アミノ、ジ(置換低級アルキル)置換アミノ、置換低級アルケニル及び置換環状アルキルにおける置換基としては、同一または異なって例えば置換数1〜3の、ハロゲン、ヒドロキシ、ニトロ、アミノ、モノ(低級アルキル)置換アミノ、ジ(低級アルキル)置換アミノ、低級アルコキシ、置換低級アルコキシ[該置換低級アルコキシにおける置換基としては、同一または異なって例えば置換数1〜3の、ハロゲン、ヒドロキシ、ニトロ、アミノ、モノ(低級アルキル)置換アミノ、ジ(低級アルキル)置換アミノ、低級アルコキシ等が挙げられる]、低級アルコキシカルボニル、置換低級アルコキシカルボニル[該置換低級アルコキシカルボニルにおける置換基としては、同一または異なって例えば置換数1〜3の、ハロゲン、ヒドロキシ、ニトロ、アミノ、モノ(低級アルキル)置換アミノ、ジ(低級アルキル)置換アミノ、低級アルコキシ等が挙げられる]等が挙げられる。
【0040】
また置換低級アルキルが、置換メチルまたは置換エチルである場合は、その置換基は、さらに同一または異なって例えば置換数1〜3の、低級アルキル、置換低級アルキル[該置換低級アルキルにおける置換基としては、同一または異なって例えば置換数1〜3の、ハロゲン、ヒドロキシ、ニトロ、アミノ、モノ(低級アルキル)置換アミノ、ジ(低級アルキル)置換アミノ、低級アルコキシ等が挙げられる]、環状アルキル、置換環状アルキル[該置換環状アルキルにおける置換基としては、同一または異なって例えば置換数1〜3の、ハロゲン、ヒドロキシ、ニトロ、アミノ、モノ(低級アルキル)置換アミノ、ジ(低級アルキル)置換アミノ、低級アルコキシ等が挙げられる]、アリール、置換アリール[該置換アリールにおける置換基としては、同一または異なって例えば置換数1〜3の、ハロゲン、ヒドロキシ、ニトロ、アミノ、モノ(低級アルキル)置換アミノ、ジ(低級アルキル)置換アミノ、低級アルコキシ等が挙げられる]、アラルキル、置換アラルキル[該置換アラルキルにおける置換基としては、同一または異なって例えば置換数1〜3の、ハロゲン、ヒドロキシ、ニトロ、アミノ、モノ(低級アルキル)置換アミノ、ジ(低級アルキル)置換アミノ、低級アルコキシ等が挙げられる]等であってもよい。さらに置換メチルまたは置換エチルの、メチルまたはエチルにおける同一炭素原子上に2つの置換基を有し、該2つの置換基が該炭素原子と一緒になって脂肪族環を形成していてもよい。
【0041】
ここで、ハロゲン、環状アルキル、アリール及びアラルキルはそれぞれ前記と同義であり、低級アルキル、モノ(低級アルキル)置換アミノ、ジ(低級アルキル)置換アミノ、低級アルコキシカルボニル及び低級アルコキシにおける低級アルキル部分は、前記低級アルキルと同義であり、脂肪族環の環状アルキル部分は前記環状アルキルと同義である。
置換アリール、置換ヘテロアリール、置換アラルキル、置換ベンジル、置換アラルキルアミノ及び置換アリールアミノにおける置換基としては、同一または異なって例えば置換数1〜3の、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、低級アルキル等が挙げられる。
【0042】
ここで、ハロゲン及び低級アルキルはそれぞれ前記と同義である。
置換脂環式複素環基及び置換含窒素複素環基における置換基としては、同一または異なって例えば置換数1〜3の、ハロゲン、ヒドロキシ、低級アルキル等が挙げられる。
ここで、ハロゲン及び低級アルキルはそれぞれ前記と同義である。
化合物(I)、(Ia)、(Ib)、(Ic)及び(Id)の薬理学的に許容される塩としては、薬理学的に許容される酸付加塩が挙げられ、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、安息香酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、グリオキシル酸塩、アスパラギン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられる。
【0043】
本発明で用いられる三環式化合物は、前記刊行物に開示された方法、またはそれらに準じて製造することができ、有機合成化学で常用される精製法、例えば中和、濾過、抽出、洗浄、乾燥、濃縮、再結晶、各種クロマトグラフィー等に付して単離・精製することができる。
本発明で用いられる三環式化合物の塩を取得したいとき、当該三環式化合物が塩の形で得られる場合には、そのまま精製すればよく、また、遊離塩基の形で得られる場合には、当該遊離塩基を適当な溶媒に溶解または懸濁し、酸を加えて塩を形成させれば良い。
【0044】
なお、本発明で用いられる三環式化合物の中には光学異性体が存在し得るものもあるが、全ての可能な立体異性体及びそれらの混合物も、本発明の過敏性腸症候群治療剤またはアデノシン取り込み阻害剤の有効成分として用いることができる。
また、本発明で用いられる三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩は、水または各種溶媒との付加物の形で存在することもあるが、これら付加物も本発明の過敏性腸症候群治療剤またはアデノシン取り込み阻害剤の有効成分として用いることができる。
【0045】
本発明のアデノシン取り込み阻害剤は、例えば虚血性疾患(例えば、虚血性心疾患、虚血性脳疾患、脊髄損傷等)、臓器移植に伴う免疫反応、てんかん、血栓症、不整脈、不眠症、疼痛、炎症性疾患(例えば、糸球体腎炎、急性膵炎、関節リウマチ、炎症性腸疾患、浮腫等)、IBS、視神経障害、糖尿病、ウイルス疾患、腫瘍、高血圧、ライ症候群、痙攣、創傷、睡眠時無呼吸症候群、脳外傷、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病等の治療剤、抗癌剤の作用増強剤、育毛剤、脂肪分解剤等として有用であると考えられる。
【0046】
アデノシン取り込み阻害作用を有する化合物として、例えばDilazep、Draflazine、KF24345、Dipyridamole、S6-(4-nitrobenzyl)mercaptopurine riboside(Nitrobenzyl thioinosine)、Lidoflazine、Mioflazine、Soluflazine、R75231、Nimodipine、Diazepam、Clonazepam、Midazolam、Propentofylline、Cilostazol等が知られている[ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー(European Journal of Pharmacology)、第495巻、1頁(2004年)]。
【0047】
本発明で用いられる三環式化合物としては、例えば表1〜6に記載の化合物が挙げられる。表中、Me及びEtはそれぞれメチル及びエチルを表す。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
【表4】

【0052】
【表5】

【0053】
【表6】

【0054】
次に、本発明で用いられる化合物の薬理作用を試験例で説明する。
試験例1:HEK293細胞におけるアデノシン取り込み阻害作用
Leungらの方法[バイオケミカル・ファーマコロジー(Biochemical Pharmacology)、70巻、355-362頁(2005年)]に従い試験を行った。HEK293細胞(ATCC、登録番号CRL-1537)を、ウシ胎仔血清10%を含むDulbecco’s modified Eagle’s培地(Invitrogen社製)中でポリLリジンコートした10 cmディッシュ(旭テクノグラス社製)を用いて、CO2インキュベーターで継代培養した。ポリLリジンコートした24ウェルプレート(旭テクノグラス社製)に細胞を播種しコンフルエントになるまで培養した。細胞を0.5 mLのNa+-フリーバッファー{140 mmol/L N-methyl-D-glucose、5 mmol/L HEPES[4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid]、5 mmol/L KH2PO4、11 mmol/L CaCl2、1 mmol/L MgCl2、10 mmol/L glucose pH 7.4}でウェルを2回洗浄し、各化合物を終濃度50 nmol/L及び500 nmol/Lになるように溶解したNa+-フリーバッファーを各ウェル0.2 mLずつ添加した(n=2)。室温で15分間インキュベーションした後、100 nmol/Lの[3H]アデノシン(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)と50 nmol/L及び500 nmol/Lの各化合物を含むNa+-フリーバッファーを各ウェル0.2 mLずつ添加した。1分経過後、反応液をアスピレーターで除去し、0.5 mLの氷冷PBS(phosphate-buffered saline)で2回洗浄した。各ウェルに0.5 mLの5% Triton X-100を含むPBSを加え、スクレイパーで細胞を剥がした後、20Gの注射針に10回通すことでホモジナイズを行い、4 mLのクリアゾル(ナカライテスク社製)が入ったシンチレーションバイアルに移した。さらに0.5 mLの5% Triton X-100を含むPBSでウェルを洗浄し、同じバイアルに加えた。よく撹拌した後に液体シンチレーションカウンター(アロカ社、LSC-3500)で放射活性を測定した。コントロールの取り込み量を100%としたときの相対値をパーセントで表示した。
【0055】
結果を表7-1及び7-2に示す。
【0056】
【表7】

【0057】
【表8】

【0058】
上記の結果から、化合物(I)がアデノシン取り込み阻害作用を有することがわかる。
なお以下の表8に示すように、HEK293細胞でのアデノシン取り込みは、ENT-1のみを阻害する濃度(100 nmol/L)[ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー、第275巻、第12号、8375-8381頁(2000年)]のニトロべンジルチオイノシンによりほぼ完全に抑制されることがわかった。従って、化合物(I)のアデノシン取り込み阻害作用は主にENT-1阻害作用によるものであると考えられる。
【0059】
【表9】

【0060】
試験例2:拘束ストレス誘発排便に対する作用
実験は、Kishibayashiらの方法[ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー(Japanese Journal of Pharmacology)、第63巻、第4号、495-502頁(1993年)]に準じて行った。
実験には、雄性Wistar系ラット6〜7週齢(日本チャールスリバー供給)を使用した。ラットは室温19〜25 ℃、湿度30〜70%、一日12時間照明(午前7時〜午後7時)の飼育室にて、金属ケージに5〜7匹ずつ収容し、市販の固形飼料と水を自由に摂取させて飼育した。
【0061】
ラットをジエチルエーテルにより軽麻酔し、胸部及び上腕部をテープで巻き、軽度ストレスをかけた。ストレス負荷後1時間の便湿重量を測定した。各薬液は、拘束ストレス負荷の1時間前に経口投与した。なお、試験化合物は、0.5w/v%メチルセルロース400cP水溶液で2 mg/mLの濃度に懸濁し、5 mL/kgの容量で経口投与した(投与用量10 mg/kg)。コントロールには0.5w/v%メチルセルロース400cP水溶液を投与した。また、ラットは各群10匹ずつ用いた。既存のアデノシン取り込み阻害剤であるDilazep、Draflazine、KF24345及びDipyridamole[ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー(European Journal of Pharmacology)、第495巻、1頁(2004年)]はそれぞれ、300、100、10及び300 mg/kgを経口投与した。過敏性腸症候群治療剤として申請中であるセロトニン5-HT3受容体遮断薬YM060[ザ・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー・アンド・エクスペリメンタル・セラピューティクス(The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics)、第259巻、第2号、815-819頁(1991年);アステラス製薬株式会社、online、インターネット〈URL : http://www.astellas.com/jp/company/news/2006/pdf/060131.pdf〉]は0.1 mg/kgで投与した。結果を表9に示す。
【0062】
【表10】

【0063】
【表11】

【0064】
【表12】

【0065】
【表13】

【0066】
【表14】

【0067】
【表15】

【0068】
【表16】

【0069】
【表17】

【0070】
【表18】

【0071】
【表19】

【0072】
【表20】

【0073】
以上の結果から、化合物(I)が拘束ストレス誘発排便を改善することが示された。この結果は、化合物(I)が下痢型IBS患者の排便症状を改善することを示唆している。
試験例3:ロペラミド誘発便秘に対する作用
以下の方法により、本願化合物の便秘治療作用を評価した。試験化合物として化合物1-1を用いた。
【0074】
IBS患者は腸管運動が亢進しており、腹痛を伴う痙攣性便秘の症状を呈する。痙攣性便秘は、モルヒネ、ロペラミド等のオピオイド投与によっても誘発されることが知られており、便秘型IBSのモデルとしてオピオイド誘発便秘が用いられる[ザ・ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー(The Japanese Journal of Pharmacology)、第86巻、第3号、281-288頁(2001年);同、第89巻、第2号、133-141頁(2002年)]。
【0075】
化合物1-1に、0.5 w/v%メチルセルロース 400(MC、和光純薬工業)を加えて、ミキサー(TTM-1, 柴田科学)で軽く混和した。その後、超音波洗浄器(Sine Sonic UA100, 日立国際電気エンジニアリング)を用いて超音波処理(1分間)し、再度ミキサーにて混和することにより懸濁させ、濃度0.2 mg/mLの懸濁液を調製した。この懸濁液を0.5 w/v% MCでさらに希釈することにより、0.02、0.002及び0.0002 mg/mLの濃度の溶液を調製した。
【0076】
塩酸ロぺラミド(以下、ロぺラミド;Sigma-Aldrich)に蒸留水を加え、マグネティック・スターラーにて混和して、1 mg/mLの溶液を調製した。この溶液を5 mL/kgの容量で経口投与した。
試験は、雄性SD系ラット(日本チャールス・リバー)を用いて行った。同ラットはロぺラミドにより排便量が減少することが報告されている[ザ・ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー(The Japanese Journal of Pharmacology)、第89巻、第2号、133-141頁(2002年)]。同ラットを6週齢で購入し、1週間以上の馴化の後、7週齢で使用した。ラットは室温19〜25 ℃、湿度30〜70%、1日12時間照明(午前7時〜午後7時)の飼育室にて、金属ケージに5、6匹ずつ収容し、市販の固型飼料(F-2、船橋農場)と水を自由に摂取させた。採便の際には、個別飼育用の金属ケージに1匹ずつ収容し、絶食下・自由飲水とした。試験には外見上に異常が認められず、試験の前日及び当日に下痢が認められない(肛門周囲に汚れがない)個体を使用した。
【0077】
試験前日、個体識別用のためラットの尾に番号付けし、体重を測定した。同時に肛門周囲の汚れや便の性状を確認した。試験当日の朝、0.5 w/v% MCあるいは化合物1-1を経口投与した。投与1時間後にロぺラミドを経口投与した。正常群には蒸留水を経口投与した。いずれの投与液も注射筒及びゾンデを用いて、強制経口投与した。ロぺラミドまたは蒸留水投与後、ラットを個別飼育用のケージに移して採便を開始した。ロぺラミドまたは蒸留水投与8時間後に便を採集した。採集した便を乾燥機(SH42、ヤマト科学)を用いて乾燥(100 ℃, 6時間)した後に電子天秤(AB54, Mettler-Toledo)で重量を測定した。
【0078】
群構成(各群n=15)は以下の通りである。
正常群:0.5 w/v% MC 5 mL/kg+蒸留水 5 mL/kg
コントロール群:0.5 w/v% MC 5 mL/kg+ロぺラミド5 mg/kg
化合物1-1 0.001 mg/kg群:化合物1-1 0.001 mg/kg+ロぺラミド 5 mg/kg
化合物1-1 0.01 mg/kg群:化合物1-1 0.01 mg/kg+ロぺラミド 5 mg/kg
化合物1-1 0.1 mg/kg群:化合物1-1 0.1 mg/kg+ロぺラミド 5 mg/kg
化合物1-1 1 mg/kg群:化合物1-1 1 mg/kg+ロぺラミド 5 mg/kg
排便量は、乾燥重量を用い、0〜8時間の排便量を測定パラメータとした。便は、予め重量を測定しておいた風袋(アルミホイル)に採集し、風袋込み重量から風袋重量を減ずることにより計算した。
【0079】
統計学的解析は、統計解析ソフトSAS(Release 9.1.3, SAS Institute Inc.)を用いて行った。正常群とコントロール群間の排便量の比較時にはF検定を行った。F検定で有意差が認められなかった場合にはStudent’s t-testを行い、F検定で有意差が認められた場合にはAspin-Welch testを行った。
コントロール群と化合物1-1投与群の比較時には、Bartlett testを行った。Bartlett testで有意差が認められなかった場合には、一元配置分散分析で有意差を確認した後にDunnett testを行った。Bartlett testで有意差が認められた場合には、Kruskal-Wallis testを行った。P<0.05を有意差ありと判断した。
【0080】
ロぺラミド投与後0〜8時間の排便量を図1に示した。コントロール群の排便量は、正常群に比べて有意に低値を示した。
化合物1-1は、ロぺラミド投与後の排便量減少を、0.01、0.1及び1 mg/kgの用量で有意に抑制した。
以上の結果から、化合物1-1がロぺラミド誘発便秘を抑制することが示された。この結果は、化合物(I)が便秘型IBS患者の排便症状を改善することを示唆している。
【0081】
試験例4:カプサイシン誘発内臓痛モデルに対する作用
カプサイシンを結腸内に投与すると内臓痛が誘起されることが報告されている[ペイン(Pain)、第92巻、第3号、335-342頁(2001年)]。
化合物1-1は、0.5 w/v% MCでメノウ乳鉢を用いて懸濁液とした。
カプサイシン(Sigma-Aldrich)は、10% ethanol(関東化学)及び10% polyoxyethylene (20) sorbitan monooleate (Tween 80、和光純薬工業)を含む生理食塩液に溶解して用いた。試験化合物は、10 mL/kgの容量で経口投与し、対照群にはMCを同量投与した。
ddY系雄性マウス(日本エスエルシー)を体重27から29 gで購入し実験に用いた。2日間以上の検疫・馴化の後、体重増加が順調、かつ外見上に異常が認められない個体を用いた。動物は室温19〜25 ℃、湿度30〜70%、一日12時間照明(午前7時〜午後7時)の飼育室にて、市販の固形飼料(FR-2, 船橋農場)と水を自由に摂取させて飼育した。
【0082】
化合物1-1あるいは0.5 w/v% MCを経口投与(p.o.)後、ケージに入れ放置した。30分後、0.1%カプサイシンまたは溶媒を肛門より4 cmの結腸内にマウス当たり50 μL投与した。アクリルケージ(縦8×横8×高さ15 cm)に1匹ずつマウスを入れ、ビデオ(ソニー)で1時間撮影した。撮影終了後カプサイシン誘発内臓痛の指標とする以下の4つの行動及び症状を5分間毎に計測した。結果は60分間の累計をグラフにまとめた。
【0083】
(1)腹部舐め行動
(2)ストレッチング
(3)腹部の床への押し付け
(4)腹部の強い収縮
1群10匹とし、全ての結果は平均値±標準誤差で示した。統計学的解析は、統計解析ソフトSAS(Release 8.2, SAS Institute Inc, Cary, NC, USA)を用いて行った。コントロール群と化合物投与群間の比較は、枝分かれ型分散分析で有意差の有無を確認した後、Bartlett testにて分散の差を検定した。等分散の場合には一元配置分散分析を行い、有意差が認められた場合にはDunnett testを行った。等分散でなかった場合はKruskal-Wallis testを行い、有意差が認められた場合にはSteel testを用いて検定を行った。P<0.05を有意差ありと判断した。
【0084】
結果を図2に示した。0.1%カプサイシンの50 μL結腸内投与群(コントロール群)では、溶媒投与群(正常群)に比べて、疼痛関連行動が増加した。化合物1-1は、3及び30 mg/kg, p.o.で疼痛関連行動を抑制した。
以上の結果から、化合物1-1がカプサイシン誘発内臓痛に有効であることが示された。この結果は、化合物(I)がIBS患者の腹痛の治療に有効であることを示唆している。
試験例1によって、化合物(I)がアデノシン取り込み阻害作用を有することがわかる。また、試験例2によって、化合物(I)がストレス誘発排便を減少する作用を有すること、試験例3によって、化合物(I)が便秘の抑制作用を有すること、試験例4によって、化合物(I)が腹痛の治療に有効であることがわかり、これらの結果から化合物(I)はIBS治療剤として有用であることが示される。さらに、アデノシン取り込み阻害作用を有する化合物が、5-HT3受容体遮断薬と同様に過敏性腸症候群治療剤として有用であることが示された。
【0085】
試験例5:急性毒性試験
雄性dd系マウス(体重20±1 g)を1群3匹用い、試験化合物を経口または腹腔内投与した。投与後7日目の死亡状況を観察し、最小致死量(MLD)値を求めた。
その結果、試験化合物のMLDは、経口投与で>1000 mg/kgであった。
化合物(I)またはその薬理学的に許容される塩はそのままあるいは各種の製薬形態で使用することができる。本発明の製薬組成物は、活性成分として、有効な量の化合物(I)またはその薬理学的に許容される塩を薬理学的に許容される担体と均一に混合して製造できる。これらの製薬組成物は、例えば経口または非経口(静脈内を含む)等の投与に対して適する単位服用形態にあることが望ましい。
【0086】
経口服用形態にある組成物の調製においては、何らかの有用な薬理学的に許容される担体が使用できる。例えば懸濁剤及びシロップ剤のような経口液体調製物は、水、シュークロース、ソルビトール、フラクトース等の糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、ゴマ油、オリーブ油、大豆油等の油類、p-ヒドロキシ安息香酸エステル類等の防腐剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミント等のフレーバー類等を使用して製造できる。カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤等は、ラクトース、グルコース、シュークロース、マンニトール等の賦形剤、でん粉、アルギン酸ソーダ等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン等の結合剤、脂肪酸エステル等の表面活性剤、グリセリン等の可塑剤等を用いて製造できる。錠剤及びカプセル剤は、投与が容易であるという理由で、最も有用な単位経口投与剤である。錠剤やカプセル剤を製造する際には固体の製薬担体が用いられる。
【0087】
また、注射剤は、例えば蒸留水、塩溶液、グルコース溶液または塩水とグルコース溶液の混合物からなる担体を用いて調製することができる。この際、常法に従い適当な助剤を用いて、溶液、懸濁液または分散液として調製される。
化合物(I)またはその薬理学的に許容される塩は、上記製薬形態で経口的にまたは注射剤等として非経口的に投与することができ、その有効用量及び投与回数は、投与形態、患者の年齢、体重、症状等により異なるが、1〜900mg/60kg/日、好ましくは1〜200mg/60kg/日が適当である。
【0088】
以下、参考例及び実施例によって本発明の態様を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
以下の化合物はWO98/46587記載の各化合物と同一の化合物であり、その合成もWO98/46587記載の方法に従って行った。
化合物1-1:WO98/46587記載の化合物1-25
化合物1-2:WO98/46587記載の化合物3-19
化合物1-3:WO98/46587記載の化合物3-12
化合物1-5:WO98/46587記載の化合物2-1
化合物1-6:WO98/46587記載の化合物3-6
化合物1-7:WO98/46587記載の化合物3-24
化合物1-8:WO98/46587記載の化合物3-22
化合物2-1:WO98/46587記載の化合物1-5
化合物2-2:WO98/46587記載の化合物1-7
化合物2-3:WO98/46587記載の化合物1-11
化合物2-4:WO98/46587記載の化合物1-3
化合物2-5:WO98/46587記載の化合物1-24
化合物2-6:WO98/46587記載の化合物1-19
化合物3-1:WO98/46587記載の化合物1-35
化合物3-2:WO98/46587記載の化合物1-33
化合物3-4:WO98/46587記載の化合物1-29
化合物4はWO98/46587の参考例14または15に従って合成した。
【0089】
参考例1:5,5-ジオキソ-9-(2-エチル-2-ヒドロキシブタノイルアミノ)-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン(化合物1-4)
工程1:9-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン
9-アミノ-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン(WO98/46587)(20 g)のテトラヒドロフラン(THF)(40 mL)溶液に、ジ-tert-ブチルジカルボナート(35.3 g)を加え、還流下、約16時間攪拌した。ジ-tert-ブチルジカルボナート(17.7 g)を再度加え、還流下約24時間攪拌した。反応混合物を室温まで冷却し、シリカゲルを加え、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(へキサン/酢酸エチル=10/1)により精製した。得られた粗結晶にヘキサンを加え、室温で攪拌後、濾取しへキサンで洗浄後、減圧下乾燥させ標記化合物(26.75 g)を得た。
工程2:9-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-5,5-ジオキソ-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン
工程1で得られた9-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン(26.68 g)の酢酸エチル(534 mL)溶液を5 ℃まで氷冷し、10 ℃以下に保ちながらm-クロロ過安息香酸(66.26 g)を徐々に加えた。氷冷下、5分間攪拌後、室温で約24時間攪拌した。氷冷下、反応混合物に1 mol/L亜硫酸ナトリウム水溶液(940 mL)を滴下した。混合物を氷冷下で40分間、室温で約17時間攪拌後、酢酸エチル(300 mL)、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(300 mL)を加え抽出した。水層をさらに酢酸エチル(300 mL)で2回抽出した後、有機層を合わせ飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水、飽和食塩水の順で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。残渣をアセトンに溶解させ、シリカゲルを加え減圧下溶媒を留去した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(へキサン/酢酸エチル=2/1)により精製し、得られた粗結晶にジイソプロピルエーテルを加え室温で攪拌した。結晶を濾取しジイソプロピルエーテルで洗浄後、減圧下乾燥させ標記化合物(27.74 g)を得た。
【0090】
工程3:9-アミノ-5,5-ジオキソ-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン
トリフルオロ酢酸(227 mL)を窒素気流下、-7 ℃まで氷冷し、工程2で得られた9-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-5,5-ジオキソ-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン(27.68 g)を徐々に加え、-7 ℃から0 ℃で約3時間攪拌した。反応混合物を氷水(1 L)に注ぎ、室温で攪拌し10 mol/L 水酸化ナトリウム水溶液を加えpH 10に調整した後、酢酸エチル、アセトンを加え抽出した。有機層を水、飽和食塩水の順で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた粗結晶にアセトン(590 mL)を加え還流し溶解させた後、還流下、水(590 mL)を徐々に加え結晶を析出させた。室温まで冷却した後、氷冷下3時間攪拌し、結晶を濾取し水で洗浄後、減圧下乾燥させ標記化合物の粗結晶(18.54 g)を得た。この粗結晶をアセトンから再結晶し、標記化合物を得た。
工程4:化合物1-4
2-エチル-2-ヒドロキシブタン酸(44.1 g, 334 mmol)をジメチルアセトアミド(DMA)(416 mL)に溶解し、-13 ℃で塩化チオニル(22.3 mL, 306 mmol)を加え、同温度で1時間攪拌した。同温度で、工程3で得られた9-アミノ-5,5-ジオキソ-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン(20.7 g, 74.2 mmol)を加え、室温で終夜攪拌した。先と同様に調製した酸クロリドを再び加え、室温で終夜攪拌した。反応混合物に水(416 mL)を滴下し(1.5時間)、0 ℃で2.5時間攪拌した。析出した固体を濾取し、70%エタノール水溶液(100 mL)で洗浄することにより、化合物1-4(27.8 g, 95.1%)を得た。
1H-NMR (300 MHz, DMSO-d6, δ) δ: 0.79 (t, J = 7.3 Hz, 6H), 1.46-1.78 (m, 4H), 7.18 (d, J = 5.0 Hz, 1H), 7.80-7.88 (m, 2H), 8.09 (d, J = 5.0 Hz, 1H), 8.44 (dd, J = 7.2, 2.6 Hz, 1H), 10.6 (br, 1H).
ESI-MS m/z 392 (M-H)-
【0091】
参考例2:5,5-ジオキソ-9-[(5-メチルピラゾール-3-イルカルボニル)アミノ]-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン(化合物1-9)
工程1:5-メチルピラゾール-3-カルボン酸
5-メチルピラゾール-3-カルボン酸メチル(1.00 g, 6.49 mmol)をメタノール(6.5 mL)に溶解し、室温で3.5 mol/L水酸化ナトリウム水溶液(6.5 mL)を加え、1.5時間攪拌した。反応混合物に水を加え、ジエチルエーテルで洗浄し、1 mol/L塩酸を加えpHを1に調整した後、酢酸エチルで抽出した。有機層を水及び飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた白色結晶をジエチルエーテルで洗浄し、標記化合物(0.25 g, 31%)を得た。
工程2:9-[(5-メチルピラゾール-3-イルカルボニル)アミノ]-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン
工程1で得た5-メチルピラゾール-3-カルボン酸(0.13 g, 1.03 mmol)をDMA(5 mL)に溶解し、氷−メタノール浴上で、塩化チオニル(0.07 mL, 0.96 mmol)を加え、1時間攪拌した。次いで、同温度でDMAに溶解した9-アミノ-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン(WO98/46587)(120 mg, 0.52 mmol)を加え、室温で1時間攪拌した。反応混合物に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、攪拌した後、1 mol/L塩酸を加えた。反応混合物を酢酸エチルで抽出し、有機層を水及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/へキサン=2/1)で精製し、標記化合物(103 mg, 55.6%)を得た。
【0092】
工程3:化合物1-9
工程2で得た9-[(5-メチルピラゾール-3-イルカルボニル)アミノ]-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン(87.8 mg, 0.25 mmol)を酢酸エチル(10 mL)に溶解し、室温でm-クロロ過安息香酸(170 mg, 0.985 mmol)を加え、終夜攪拌した。反応混合物にチオ硫酸ナトリウム水溶液を加え、室温で攪拌した後、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水及び飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/へキサン=2/1)で精製し、化合物1-9(51.3 mg, 36.8%)を得た。
ESI-MS m/z 386 (M-H)-
以下の化合物は、それぞれに対応するカルボン酸及びアミンを用い、参考例2の工程2及び工程3に準じて合成することができる。
5,5-ジオキソ-9-(2,2-ジメチル-3-オキソブタノイルアミノ)-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン(化合物1-10):ESI-MS m/z : 390 (M-H)-
5,5-ジオキソ-9-(2-ヒドロキシ-3,3,3-トリフルオロプロパノイルアミノ)-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン(化合物1-11):ESI-MS m/z 404 (M-H)-
6-ブロモ-5,5-ジオキソ-9-(3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパノイルアミノ)-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン(化合物3-3)
【実施例1】
【0093】
5,5-ジオキソ-9-フェニルアミノ-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン(化合物5-1)
工程1:9-フェニルアミノ-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン
9-アミノ-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン(WO98/46587)(200 mg, 0.81 mmol)及びフェニルホウ酸(0.4 g, 3.3 mmol)を塩化メチレン(5 mL)に溶解し、酢酸銅(0.44 g, 2.4 mmol)及びトリエチルアミン(0.5 mL)を加え、室温で終夜攪拌した。酢酸銅(0.29 g, 1.6 mmol)及びトリエチルアミン(0.23 mL)を再度加え、室温で4.5時間攪拌した。反応混合物を減圧濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/へキサン=1/4)で精製し、標記化合物(236 mg, 90%)を得た。
工程2:化合物5-1
工程1で得た9-フェニルアミノ-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オンを用い、参考例2の工程3に準じて化合物5-1を得た。
ESI-MS m/z 356 (M-H)-
【実施例2】
【0094】
9-(5-クロロ-2-ヒドロキシフェニルアミノ)-5,5-ジオキソ-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン(化合物5-2)
工程1:9-[5-クロロ-2-(メトキシメチルオキシ)フェニルアミノ]-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン
アルゴン雰囲気下、炭酸セシウム(0.73 g, 2.2 mmol)、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(46 mg, 0.080 mmol)、2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル(75 mg, 0.12 mmol)、9-アミノ-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン(WO98/46587)(474 mg, 1.92 mmol)及び5-クロロ-2-(メトキシメチルオキシ)ブロモベンゼン(400 mg, 1.60 mmol)をトルエン(6 mL)に加え、110 ℃で4時間攪拌した。炭酸セシウム(0.52 g, 1.60 mmol)及び5-クロロ-2-(メトキシメチルオキシ)ブロモベンゼン(400 mg, 1.60 mmol)を加え、110 ℃で終夜攪拌した。反応混合物を減圧濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/へキサン=1/4)で精製し、標記化合物(313 mg, 47%)を得た。
工程2:9-(5-クロロ-2-ヒドロキシフェニルアミノ)-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン
工程1で得た9-[5-クロロ-2-(メトキシメチルオキシ)フェニルアミノ]-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン(244 mg, 0.58 mmol)をTHF(2 mL)に溶解し、1 mol/L塩酸(2 mL)を加え、70 ℃で終夜攪拌した。反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を水及び飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/へキサン=1/4)で精製し、標記化合物(187 mg, 86.3%)を得た。
工程3:化合物5-2
工程2で得た9-(5-クロロ-2-ヒドロキシフェニルアミノ)-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オンを用い、参考例2の工程3に準じて化合物5-2を得た。
ESI-MS m/z 404 (M-H)-
【実施例3】
【0095】
9-ベンジルアミノ-5,5-ジオキソ-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン(化合物5-3)
工程1:9-フルオロ-5,5-ジオキソ-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン
9-フルオロ-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン(特開2000-053580)(5.0 g, 20.0 mmol)をアセトニトリル(200 mL)及び水(100 mL)に溶解し、モノ過硫酸水素カリウム複塩(オキソン(登録商標))(61.5 g, 100 mmol)を加え、60 ℃で終夜撹拌した。この混合物を室温まで冷却し、1 mol/Lチオ硫酸ナトリウム水溶液(100 mL)を加え室温にて30分撹拌後、酢酸エチルで抽出した。有機層を水及び飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた固体をエタノールで洗浄し、標記化合物(4.43 g, 78%)を得た。
工程2:化合物5-3
工程1で得た9-フルオロ-5,5-ジオキソ-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン(150 mg, 0.530 mmol)をベンジルアミン(1.5 mL)に加え、室温で4.5時間攪拌した。反応混合物に1 mol/L塩酸を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/へキサン=3/10)で精製した後、ジイソプロピルエーテルから結晶化させ、化合物5-3(174 mg, 88.7%)を得た。
ESI-MS m/z 370 (M+H)+
化合物5-4は、2-メトキシベンジルアミンを用い、実施例3の工程2に準じて合成した。
5,5-ジオキソ-9-(2-メトキシベンジルアミノ)-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン(化合物5-4):ESI-MS m/z 400 (M+H)+
【実施例4】
【0096】
5,5-ジオキソ-9-エトキシカルボニルメチルアミノ-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン(化合物5-5)
工程1:9-エトキシカルボニルメチルアミノ-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン
9-フルオロ-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン(特開2000-053580)(100 mg, 0.39 mmol)を1-メチル-2-ピロリジノン(3 mL)に溶解し、グリシンエチルエステル塩酸塩(540 mg, 3.87 mmol)及びトリエチルアミン(1.1 mL)を加え、80 ℃で3時間、90 ℃で2.5時間攪拌した。トリエチルアミン(1.1 mL)を加え、110 ℃で終夜攪拌した。グリシンエチルエステル塩酸塩(540 mg, 3.87 mmol)及びトリエチルアミン(1.1 mL)を加え、110 ℃で終夜攪拌した。反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を水及び飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/へキサン=1/5)で精製し、標記化合物(63.7 mg, 49.0%)を得た。
工程2:化合物5-5
工程1で得た9-エトキシカルボニルメチルアミノ-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン(54.7 mg, 0.16 mmol)をアセトニトリル(4 mL)及び水(2 mL)に溶解し、オキソン(登録商標)(0.49 g, 0.80 mmol)を加え、50 ℃で1時間攪拌した。反応混合物にチオ硫酸ナトリウムを加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を水及び飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。残渣を分取薄層クロマトグラフィーで精製し、化合物5-5(37.5 mg, 64.1%)を得た。
ESI-MS m/z 366 (M+H)+
【実施例5】
【0097】
5,5-ジオキソ-9-[1-(エトキシカルボニル)エチルアミノ]-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン(化合物5-6)
実施例3の工程1で得た9-フルオロ-5,5-ジオキソ-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン(250 mg, 0.890 mmol)を1-メチル-2-ピロリジノン(8 mL)に溶解し、DL-アラニンエチルエステル塩酸塩(4.0 g, 26 mmol)及びトリエチルアミン(5.0 mL)を加え、50 ℃で終夜攪拌した。反応混合物に水及び1 mol/L塩酸を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を水及び飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/へキサン=1/2)で精製し、化合物5-6(159 mg, 51.4%)を得た。
ESI-MS m/z 380 (M+H)+
以下の化合物は、対応するアミンを用い実施例5に準じて合成した。
5,5-ジオキソ-9-{[1-(メトキシカルボニル)-3-メチルブチル]アミノ}-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン(化合物5-7):ESI-MS m/z 408 (M+H)+
5,5-ジオキソ-9-{[1-(メトキシカルボニル)-2-フェニルエチル]アミノ}-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン(化合物5-8):ESI-MS m/z 442 (M+H)+
【実施例6】
【0098】
9-ベンジルチオ-5,5-ジオキソ-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン(化合物6-1)
カリウムtert-ブトキシド(48 mg, 0.43 mmol)をTHF(2.0 mL)に懸濁し、氷冷下、ベンジルメルカプタン(0.05 mL, 0.43 mmol)のTHF(1.0 mL)溶液を滴下後、氷冷下、30分攪拌した。この混合物に、実施例3の工程1で得た9-フルオロ-5,5-ジオキソ-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン(100 mg, 0.35 mmol)のTHF(1.0 mL)溶液を加え、室温にて2時間攪拌した。反応混合物に飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた固体を2-プロパノールで洗浄し、化合物6-1(74 mg, 45%)を得た。
ESI-MS m/z 387 (M+H)+; 1H-NMR (300 MHz, CDCl3, δ): 4.13 (s, 2H), 4.55 (s, 2H), 6.97 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 7.17-7.26 (m, 5H), 7.55 (t, J= 7.5 Hz, 1H), 7.67 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 7.76 (d, J = 7.5 Hz, 1H), 7.91 (d, J = 7.5 Hz, 1H).
ESI-MS m/z 387 (M+H)+
【実施例7】
【0099】
9-ベンジルオキシ-5,5-ジオキソ-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン(化合物6-2)
工程1:メチル 2-ジメチルチオカルバモイルオキシ-6-メトキシベンゾエート
メチル 2-ヒドロキシ-6-メトキシベンゾエート(16.9 g, 89.2 mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(150 mL)に溶解し、ジメチルチオカルバモイルクロリド(16.3 g, 132 mmol)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(18.5 g, 165 mmol)を加え、室温で終夜攪拌した。混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を水及び飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、標記化合物(20.7 g, 86%)を得た。
工程2:メチル 2-ジメチルカルバモイルスルファニル-6-メトキシベンゾエート
工程1で得たメチル 2-ジメチルチオカルバモイルオキシ-6-メトキシベンゾエート (20.0 g, 74.3 mmol)にジフェニルエーテル(30 mL)を加え、220 ℃にて30分間攪拌した。混合物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、標記化合物(20.0 g, 定量的)を得た。
工程3:メチル 2-メトキシ-6-(チオフェン-3-イルメチルスルファニル)ベンゾエート
工程2で得たメチル 2-ジメチルカルバモイルスルファニル-6-メトキシベンゾエート(20.0 g, 74.3 mmol)をメタノール(300 mL)に溶解し、28%ナトリウムメトキシド/メタノール溶液(43 g, 223 mmol)を加え、室温にて2時間攪拌した。混合物を氷浴にて冷却し、チオフェン-3-メチルクロリド(15.3 g, 127 mmol)のメタノール(30 mL)溶液を加え、0 ℃にて30分間攪拌した。反応混合物に飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、析出した固体をろ取し、固体を水、n-ヘキサンにて洗浄することにより、標記化合物(19.5 g, 89%)を得た。
【0100】
工程4:2-メトキシ-6-(チオフェン-3-イルメチルスルファニル)安息香酸リチウム
工程3で得たメチル 2-メトキシ-6-(チオフェン-3-イルメチルスルファニル)ベンゾエート(19.5 g, 66.2 mmol)をメタノール(300 mL)に溶解し、1 mol/L水酸化リチウム(306 mL, 306 mmol)を加え、室温にて48時間攪拌した。反応混合物に水を加え、析出した固体をろ取し、標記化合物(18.0 g, 97%)を得た。
工程5:9-メトキシ-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン
工程4で得た2-メトキシ-6-(チオフェン-3-イルメチルスルファニル)安息香酸リチウム(18.0 g, 64.3 mmol)を塩化メチレン(300 mL)に懸濁し、0 ℃にてトリフルオロ酢酸無水物(10.0 mL, 70.7 mmol)を加え、室温にて終夜攪拌した。混合物に1 mol/L塩酸を加え、塩化メチレンで抽出した。有機層を水及び飽和食塩水にて洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、標記化合物(15.2 g, 90%)を得た。
工程6:9-ヒドロキシ-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン
工程5で得た9-メトキシ-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オン(15.2 g, 57.8 mmol)に、酢酸(150 mL)、臭化水素酸(100 mL)を加え、24時間加熱還流した。反応混合物を室温まで冷却後、減圧濃縮し、残渣に水を加え、塩化メチレンで抽出した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液及び飽和食塩水にて洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、標記化合物(12.9 g, 90%)を得た。
【0101】
工程7:9-ヒドロキシ-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-5,5,10-トリオン
工程6で得た9-ヒドロキシ-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン10-オン(1.0 g, 4.03 mmol)をアセトニトリル(100 mL)及び水(50 mL)に溶解し、オキソン(登録商標)(9.90 g, 16.1 mmol)を加え、60 ℃にて3時間攪拌した。反応混合物に飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液を加え、室温で攪拌した後、酢酸エチルにて抽出した。有機層を水及び飽和食塩水にて洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた固体をアセトンにて洗浄し、標記化合物(0.79 g, 74%)を得た。
工程8:化合物6-2
工程7で得た9-ヒドロキシ-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-5,5,10-トリオン(0.1 g, 0.357 mmol)をDMF(2 mL)に溶解し、炭酸カリウム(0.1 g, 0.714 mmol)及びベンジルブロミド(0.047 mL, 0.428 mmol)を加え、室温にて終夜攪拌した。反応混合物に水を加え、酢酸エチルにて抽出した。有機層を飽和食塩水にて洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、化合物6-2(0.042 g, 32%)を得た。
ESI-MS m/z 371 (M+H)+; 1H-NMR (270 MHz, CDCl3,δ): 4.68 (s, 2H), 5.21 (s, 2H), 7.12 (d, J = 5.0 Hz, 1H), 7.23-7.43 (m, 6H), 7.69-7.73 (m, 2H), 8.10 (d, J= 7.3 Hz, 1H).
ESI-MS m/z 371 (M+H)+
【実施例8】
【0102】
製剤例1:錠剤
常法により、次の組成からなる錠剤を調製した。
250 gの化合物1-1、マンニトール1598.5 g、でん粉グリコール酸ナトリウム100 g、軽質無水ケイ酸10 g、ステアリン酸マグネシウム40 g及び黄色三二酸化鉄1.5 gを常法により混合した。この混合物を用い、径8 mmの杵を有する打錠機(菊水社製Purepress Correct-12型)で打錠を行って、錠剤(1錠あたり活性成分25 mgを含有する)を得た。処方を表10に示す。
【0103】
【表21】

【実施例9】
【0104】
製剤例2:注射剤
常法により、次の組成からなる注射剤を調製する。
1 gの化合物1-1及びD-マンニトール5 gを注射用蒸留水に添加して混合し、さらに塩酸及び水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを6に調整した後、注射用蒸留水で全量を1000 mLとする。得られた混合液をガラスバイアルに2 mLずつ無菌的に充填して、注射剤(1バイアルあたり活性成分2 mgを含有する)を得る。処方を表11に示す。
【0105】
【表22】

【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明により、アデノシン取り込み阻害作用を有する化合物を有効成分として含有する過敏性腸症候群治療剤、三環式化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する過敏性腸症候群治療剤等が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】図1は、試験例3の各投与群における、ロぺラミド投与後0〜8時間の排便量(g)を示す図である。縦軸は便乾燥重量(g)を表す。A:正常群B:コントロール群C:化合物1-1 0.001 mg/kg投与群D:化合物1-1 0.01 mg/kg投与群E:化合物1-1 0.1 mg/kg投与群F:化合物1-1 1 mg/kg投与群***:P<0.001 vs. 正常群†:P<0.05 vs. コントロール群††:P<0.01 vs. コントロール群
【図2】図2は、試験例4の各投与群における、疼痛関連行動の回数を示す図である。縦軸は疼痛関連行動の回数(回)、横軸は時間(分)を表す。○:正常群●:コントロール群△:化合物1-1 3 mg/kg投与群▲:化合物1-1 10 mg/kg投与群□:化合物1-1 30 mg/kg投与群*:P<0.05 vs. 正常群**:P<0.01 vs. 正常群***:P<0.001 vs. 正常群†:P<0.05 vs. コントロール群

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式
【化1】

で表される5,5-ジオキソ-9-(3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパノイルアミノ)-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オンまたはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する過敏性腸症候群治療剤。
【請求項2】
以下の式
【化2】

で表される(S)-(+)-5,5-ジオキソ-9-(3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパノイルアミノ)-4,10-ジヒドロチエノ[3,2-c][1]ベンゾチエピン-10-オンまたはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する過敏性腸症候群治療剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−67768(P2009−67768A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−24856(P2008−24856)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【分割の表示】特願2008−502065(P2008−502065)の分割
【原出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000001029)協和発酵キリン株式会社 (276)
【Fターム(参考)】