説明

過熱保護素子及びその製造方法

【課題】 室温域では低抵抗値化を図り、回路の発熱時等には急激なトリップ挙動により電流を遮断できる過熱保護素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 導電材料を含有しない高分子マトリクス1を相対向する一対の金属箔2間に挟持させ、高分子マトリクス1に接触する一対の金属箔2の接触面3をそれぞれ粗く形成し、一対の金属箔2同士を常温時には接触させて通電可能とし、高温時には高分子マトリクス1の膨張に基づき離隔させ、通電を遮断する。高分子マトリクス1の両面に適度に粗面化した金属箔2をそれぞれ圧着するので、安定した初期抵抗値を得ることができ、しかも、急峻なトリップ特性をも得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気電子機器の回路、電池、部品等を保護する過熱保護素子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子マトリクスに導電性粒子を分散させた過熱保護素子は、図示しないが、電気電子機器の分野では既に知られている(特許文献1参照)。この種の過熱保護素子は、特に室温抵抗値が十分低いこと、室温抵抗値と動作時の抵抗値の変化率が十分大きいこと、繰り返し動作時における抵抗値の変化が小さいことが特性として求められる。
【特許文献1】特開2004‐103848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、高分子マトリクスに導電性粒子を分散させた従来の過熱保護素子は、動作の繰り返しにより室温抵抗値が上昇したり、導電性の高分子マトリクスを一対の導電体間に挟持させる構造上、通電時に高分子マトリクス自体が回路内の抵抗になるという問題がある。
【0004】
係る問題を解消する手段としては、電極になる導電体同士を直接接触させ、回路の過熱時には熱の検知により導電体同士を離隔させ、通電を遮断する方法が考えられる。
しかし、導電体同士の接触面が平面の場合には、高分子マトリクスの成形時の歪等により、周囲温度の上昇時に膨張の偏りが僅かに発生し、その結果、回路の過熱時に電流を遮断するトリップ温度が過熱保護素子毎に異なるおそれが少なくない。また、トリップ温度近辺でチャタリング等が発生するおそれもある。
【0005】
また、上記特許文献には、一対の導電体間に挟持させたエラストマーやシリコーンゴムの膨張・収縮を利用する過熱保護素子が開示され、一対の導電体間に、高分子マトリクスに導電性粒子を分散させたPTC樹脂を挟持させ、安定性を維持するタイプが実施例に示されている。
このタイプの過熱保護素子は、安定性を得ることができるが、構造が複雑になり、これに伴い製造方法が煩雑化してコストが上昇してしまうという問題が生じる。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたもので、室温域では低抵抗値化を図り、回路の発熱時等には急激なトリップ挙動により電流を遮断することのできる過熱保護素子及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては上記課題を解決するため、高分子マトリクスを対向する複数の導電体間に挟んだものであって、
高分子マトリクスに接触する複数の導電体の接触面をそれぞれ粗く形成し、複数の導電体同士を常温時には接触させて通電可能とし、高温時には高分子マトリクスの膨張に基づき離隔(離れ隔てる)させるようにしたことを特徴としている。
【0008】
なお、高分子マトリクスは、結晶性の熱可塑性ポリマーを70wt%以上含み、マレイン酸変性EPRを1wt%以上配合してなることが好ましい。
また、導電体をニッケル、銅、及び又は複数の合金としてその接触面の粗さをRa0.5〜5μmとすることが好ましい。
【0009】
また、本発明においては上記課題を解決するため、高分子マトリクスを対向する複数の導電体間に挟んで使用する製造方法であって、
高分子マトリクスに接触する複数の導電体の接触面をそれぞれ粗く形成し、複数の導電体同士を常温時には接触させて通電可能とし、高温時には高分子マトリクスの膨張に基づき離隔させることを特徴としている。
【0010】
なお、高分子マトリクスは、結晶性の熱可塑性ポリマーを70wt%以上含み、マレイン酸変性EPRを1wt%以上配合してなると良い。
また、導電体をニッケル、銅、及び又は複数の合金としてその接触面の粗さをRa0.5〜5μmとすると良い。
【0011】
ここで、特許請求の範囲における高分子マトリクスは、導電材料を含有しないものであれば、一種類でも複数種でも良い。過熱保護素子は、少なくとも一次電池、二次電池、自動車のモータ、スピーカ、携帯電話の充電電池、コンピュータ回路の保護等に利用することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、室温域では低抵抗値化を図り、回路の発熱時等には急激なトリップ挙動により電流を遮断することができるという効果がある。
また、導電体をニッケル、銅、及び又は複数の合金としてその接触面の粗さをRa0.5〜5μmとすれば、優れた導電性を安価に得ることができるし、しかも、導通状態と絶縁状態が交互するチャタリングを招くこともない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における過熱保護素子及びその製造方法は、図1に示すように、導電材料を含有しない高分子マトリクス1を相対向する一対の金属箔2間に挟持させ、各金属箔2をコンピュータ回路の電極となるリード端子として利用するようにしている。
【0014】
高分子マトリクス1は、例えば高密度ポリエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン等からなる結晶性の熱可塑性ポリマーが70wt%(重量%)以上含有されるとともに、マレイン酸変性EPRが1wt%以上配合され、矩形の薄いシート形に成形される。
【0015】
金属箔2は、例えば圧延された安価なニッケル、銅、及び又は複数の合金からなり、高分子マトリクス1に接触する接触面3が粗い凹凸に形成されており、この接触面3の粗さがRa=0.5〜5μmの範囲に設定される。このような一対の金属箔2は、常温時には相互に噛合接触して電流を通電させ、回路の発熱等に伴う高温時には高分子マトリクス1の膨張に基づき離れ、通電を遮断するよう機能する。
【0016】
上記によれば、高分子マトリクス1の両面に平坦な金属箔2を単に圧着するのではなく、適度に粗面化した金属箔2をそれぞれ圧着するので、安定した初期抵抗値を得ることができ、しかも、急峻なトリップ特性をも得ることができる。
【実施例】
【0017】
以下、本発明に係る過熱保護素子及びその製造方法の実施例を比較例と共に説明する。実施例‐1
先ず、結晶性ポリマーであるポリエチレン〔出光石油化学製:商品名548B〕97wt%、及びマレイン酸変性EPR〔三井デュポン・ポリケミカル製:商品名NO903HC〕3wt%を原料としたペレットをジェットミルにより、16〜100meshの粒度に調製し、この原料をスーパーミキサー〔カワタ製〕により混合撹拌し、180℃の温度に調整された加圧ニーダーにより混練して混練物を得た。こうして混練物を得たら、この混練物をカレンダー加工機にセットしてシーティングし、厚さ50μmのシートを成形した。
【0018】
次いで、成形したシートをRa:1.0μmに粗面化した一対の金属箔に挟んでプレス成形機にセットし、加熱(250℃)、加圧(10kgf/cm、なお、10kgf/cm=0.98MPa)して総厚250μmのラミネート物を得た。金属箔は厚さ125μmのニッケル箔とした。そして、得られたラミネート物に5MRadの電子線を電子線架橋装置により照射して高分子配合物を架橋させ、その後、5mm×12mmの大きさに裁断して過熱保護素子を製造した。
【0019】
実施例‐2
基本的には実施例‐1と同様であるが、Ra:3.0μmに粗面化した一対の金属箔を使用した。
比較例‐1
基本的には実施例‐1と同様であるが、原料を、ポリエチレン〔出光石油化学製:商品名548B〕93wt%、及びマレイン酸変性EPR〔三井デュポン・ポリケミカル製:商品名NO903HC〕7wt%とした。また、Ra:0.2μmに粗面化した一対の金属箔を使用した。
【0020】
比較例‐2
基本的には実施例‐1と同様であるが、Ra:6.0μmに粗面化した一対の金属箔を用いた。
比較例‐3
基本的には実施例‐1と同様であるが、原料を、ポリエチレン〔出光石油化学製:商品名548B〕60wt%、及びマレイン酸変性EPR〔三井デュポン・ポリケミカル製:商品名NO903HC〕40wt%とした。また、Ra:1.0μmに粗面化した一対の金属箔を用いた。
【0021】
実施例、比較例の過熱保護素子をそれぞれ製造したら、各過熱保護素子のPTC特性を測定した。具体的には、過熱保護素子に電線の一端部を接合して他方の他端部を抵抗測定器に接続し、この過熱保護素子をオーブンに入れて抵抗値の測定を開始した。
【0022】
測定に際しては、20℃から順次10℃ごとに昇温して抵抗値を測定し、160℃まで昇温し、160℃に達したら、逆に10℃ごとに冷却して抵抗値を測定し、20℃まで冷却した。それぞれの測定温度に達したら、10分間その温度を保持してその時の抵抗値を測定した。20℃での抵抗測定後、1時間20℃に保持して1時間後の抵抗値を測定し、この抵抗値を最終的な復帰抵抗値とした。
【0023】
実施例、比較例の初期抵抗(昇温前の20℃での抵抗値)、復帰抵抗、復帰率を測定したら、これらを表1、表2にまとめた。また、実施例、比較例のPTC特性を図2、図3のグラフにまとめた。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
実施例‐1、2の過熱保護素子によれば、それぞれ良好なPTC特性を得ることができた。
これに対し、比較例‐1、2の過熱保護素子の場合には、常温状態からトリップ温度までの間において、導通状態と絶縁状態とが交互するチャタリングが確認された。さらに、比較例‐3の過熱保護素子の場合には、温度上昇に対する抵抗値の上昇が低く、トリップする様子が見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る過熱保護素子及びその製造方法の実施形態を模式的に示す断面説明図である。
【図2】本発明に係る過熱保護素子の実施例における実施例の過熱保護素子の抵抗値‐温度曲線を示すグラフである。
【図3】本発明に係る過熱保護素子の実施例における比較例の過熱保護素子の抵抗値‐温度曲線を示すグラフである。
【符号の説明】
【0028】
1 高分子マトリクス
2 金属箔(導電体)
3 接触面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子マトリクスを対向する複数の導電体間に挟んだ過熱保護素子であって、高分子マトリクスに接触する複数の導電体の接触面をそれぞれ粗く形成し、複数の導電体同士を常温時には接触させて通電可能とし、高温時には高分子マトリクスの膨張に基づき離隔させるようにしたことを特徴とする過熱保護素子。
【請求項2】
高分子マトリクスは、結晶性の熱可塑性ポリマーを70wt%以上含み、マレイン酸変性EPRを1wt%以上配合してなる請求項1記載の過熱保護素子。
【請求項3】
導電体をニッケル、銅、及び又は複数の合金としてその接触面の粗さをRa0.5〜5μmとした請求項1又は2記載の過熱保護素子。
【請求項4】
高分子マトリクスを対向する複数の導電体間に挟んで使用する過熱保護素子の製造方法であって、
高分子マトリクスに接触する複数の導電体の接触面をそれぞれ粗く形成し、複数の導電体同士を常温時には接触させて通電可能とし、高温時には高分子マトリクスの膨張に基づき離隔させることを特徴とする過熱保護素子の製造方法。
【請求項5】
高分子マトリクスは、結晶性の熱可塑性ポリマーを70wt%以上含み、マレイン酸変性EPRを1wt%以上配合してなる請求項4記載の過熱保護素子の製造方法。
【請求項6】
導電体をニッケル、銅、及び又は複数の合金としてその接触面の粗さをRa0.5〜5μmとする請求項4又は5記載の過熱保護素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−210046(P2006−210046A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−18169(P2005−18169)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】