説明

過熱異常監視方法及び過熱異常監視装置

【課題】電線等の過熱異常検知対象物が存在する監視区域内の過熱異常の発生を正確に検知可能な過熱異常監視方法及び装置の提供。
【解決手段】電気絶縁物の加熱により放出される揮発性物質のうち、電気絶縁物の添加剤として用途が限定されており、一般環境中から検出されない物質であること、及び過熱異常と判断される温度の前後で検出量に大きな差が生じる物質であること、の条件を満たす揮発性物質を選定する工程(A)と、電線等の過熱異常検知対象物が存在する監視区域内に、前記揮発性物質を検出可能なセンサを配置し、該センサによって空気中の前記揮発性物質の存在又はその量を監視し、前記揮発性物質が検出されたこと又はその量が予め設定しておいた上限値に達した時点で、監視区域内の前記過熱異常検知対象物に過熱異常が生じていることを検知する工程(B)とを含む過熱異常監視方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線等の過熱異常検知対象物が存在する監視区域内において、電線被覆材や碍子カバー等の電気絶縁物を加熱した時に放出される揮発性物質を検知し、監視区域内の過熱異常検知対象物の過熱異常の発生を監視する過熱異常監視方法及び過熱異常監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、変圧器、電気配電盤、制御板等の電磁開閉器、電磁接触器等の電気機器に組み込んで使用されている導線、又はこれらを接続する接続用電線の絶縁物から発生するガスや蒸気を早期に検知し、電気絶縁物の過熱異常を検出する方法として、例えば特許文献1に開示された技術が提案されている。
【0003】
特許文献1には、電気絶縁物の過熱異常状態に基づいて発生するフェノール系有機化合物のガス、又は蒸気を、きわめて発生初期段階において、フェノール系含酸素有機化合物に敏感な熱線型半導体式ガスセンサで検知し、電気絶縁物の過熱異常を早期に検出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−186188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された従来技術は、電気絶縁物から発生したフェノール系有機化合物、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノールを検出し、電気絶縁物の過熱異常を早期に検出するようにしている。しかしながら、フェノール系有機化合物は、電気絶縁物以外の物品中にも存在し、過熱電線以外の放出源も考えられることから、検知対象には不向きであり、それを検知対象とした保安装置は誤報を生じやすく、精度が低いという問題がある。
【0006】
また、電線の被覆材は種類が多く、過熱時に放出される揮発性物質も電線の種類ごとに異なる。従って、フェノール系有機化合物のみを検知の指標とした場合には、異なる揮発性物質が生じる電線の過熱異常を検知することができないという問題がある。
【0007】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、各種の電気絶縁物から過熱異常発生時に放出される揮発性物質を正確に検知し、電線等の過熱異常検知対象物が存在する監視区域内における過熱異常の発生を正確に検知可能な過熱異常監視方法及び装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を達成するため、本発明は、電気絶縁物の加熱により放出される揮発性物質のうち、
(1)電気絶縁物の添加剤として用途が限定されており、一般環境中から検出されない物質であること、及び
(2)過熱異常と判断される温度の前後で検出量に大きな差が生じる物質であること、
の条件を満たす揮発性物質を選定する工程(A)と、
電線等の過熱異常検知対象物が存在する監視区域内に、前記揮発性物質を検出可能なセンサを配置し、該センサによって空気中の前記揮発性物質の存在又はその量を監視し、前記揮発性物質が検出されたこと又はその量が予め設定しておいた上限値に達した時点で、監視区域内の前記過熱異常検知対象物に過熱異常が生じていることを検知する工程(B)とを含むことを特徴とする過熱異常監視方法を提供する。
【0009】
本発明の過熱異常監視方法において、前記揮発性物質を2種類以上選定し、各揮発性物質の存在又はそれらの量をセンサで監視することが好ましい。
【0010】
本発明の過熱異常監視方法において、前記揮発性物質は、イソシアヌル酸トリアリルを含んでいることが好ましい。
【0011】
本発明の過熱異常監視方法において、前記揮発性物質は、アセトフェノンを含んでいることが好ましい。
【0012】
本発明の過熱異常監視方法は、前記工程(A)において、前記電気絶縁物の加熱温度と揮発性物質の放出量との関係を予め調べておき、前記(B)工程で前記揮発性物質の量を調べることによって、過熱異常発生時に前記過熱異常検知対象物の温度を推定することができる。
【0013】
本発明の過熱異常監視方法は、前記工程(B)において、監視区域内の適所に多数のセンサを配置し、該センサによって空気中の前記揮発性物質の存在又はその量を監視し、これらのうち、前記揮発性物質が検出されたこと又はその量が予め設定しておいた上限値に達したセンサを検知し、監視区域内のいずれの位置に過熱異常が発生したか否かを推定することもできる。
【0014】
また本発明は、電気絶縁物の加熱により放出される揮発性物質のうち、
(1)電気絶縁物の添加剤として用途が限定されており、一般環境中から検出されない物質であること、及び
(2)過熱異常と判断される温度の前後で検出量に大きな差が生じる物質であること、
の条件を満たすように選定された揮発性物質を検出可能であり、電線等の過熱異常検知対象物が存在する監視区域内に配置されたセンサと、
前記揮発性物質の放出データを記憶したデータベースと、
前記センサからの検出信号を入力し、前記データベースの記憶データを参照し、前記揮発性物質が検出されたこと又はその量が予め設定しておいた上限値に達した時点で、監視区域内の前記過熱異常検知対象物に過熱異常が生じていると判断する中央演算装置とを備えていることを特徴とする過熱異常監視装置を提供する。
【0015】
本発明の過熱異常監視装置において、前記揮発性物質を2種類以上選定し、各揮発性物質の存在又はそれらの量をセンサで監視することが好ましい。
【0016】
本発明の過熱異常監視装置において、前記揮発性物質は、イソシアヌル酸トリアリルを含んでいることが好ましい。
【0017】
本発明の過熱異常監視装置において、前記揮発性物質は、アセトフェノンを含んでいることが好ましい。
【0018】
本発明の過熱異常監視装置は、前記電気絶縁物の加熱温度と揮発性物質の放出量との関係を予め調べておき、前記揮発性物質の量を調べることによって、過熱異常発生時に前記過熱異常検知対象物の温度を推定する構成としてもよい。
【0019】
本発明の過熱異常監視装置は、監視区域内の適所に多数のセンサを配置し、該センサによって空気中の前記揮発性物質の存在又はその量を監視し、これらのうち、前記揮発性物質が検出されたこと又はその量が予め設定しておいた上限値に達したセンサを検知し、監視区域内のいずれの位置に過熱異常が発生したか否かを推定する構成としてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の過熱異常監視方法は、電線絶縁物や碍子などの電気絶縁物を加熱した際に放出される揮発性物質のうち、一般環境中から検出されず、過熱異常と判断される温度を超えると放出量が増大する特定の揮発性物質を選定する工程(A)と、電線等の過熱異常検知対象物が存在する監視区域内に、前記揮発性物質を検出可能なセンサを配置し、該センサによって空気中の前記揮発性物質の存在又はその量を監視し、前記揮発性物質が検出されたこと又はその量が予め設定しておいた上限値に達した時点で、監視区域内の前記過熱異常検知対象物に過熱異常が生じていることを検知する工程(B)とを含む構成なので、監視区域内の過熱異常検知対象物に過熱異常が生じた場合には、揮発性物質を検出することで確実に過熱異常の発生を検知することができ、誤報の発生頻度が少なくなる。
【0021】
本発明の過熱異常監視装置は、電線絶縁物や碍子などの電気絶縁物を加熱した際に放出される揮発性物質のうち、一般環境中から検出されず、過熱異常と判断される温度を超えると放出量が増大する特定の揮発性物質を検出可能であり、電線等の過熱異常検知対象物が存在する監視区域内に配置されたセンサと、前記揮発性物質の放出データを記憶したデータベースと、前記センサからの検出信号を入力し、前記データベースの記憶データを参照し、前記揮発性物質が検出されたこと又はその量が予め設定しておいた上限値に達した時点で、監視区域内の前記過熱異常検知対象物に過熱異常が生じていると判断する中央演算装置とを備えた構成なので、監視区域内の過熱異常検知対象物に過熱異常が生じた場合には、揮発性物質を検出することで確実に過熱異常の発生を検知することができ、誤報の発生頻度が少なくなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の過熱異常監視装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】実施例において実施した揮発性物質のサンプリング方法を説明するための概略構成図である。
【図3】実施例において実施した揮発性物質の検出結果を示し、25℃においた碍子カバーから放出される揮発性物質のGS/MS分析結果を示すグラフである。
【図4】実施例において実施した揮発性物質の検出結果を示し、150℃に加熱した碍子カバーから放出される揮発性物質のGS/MS分析結果を示すグラフである。
【図5】実施例において実施した揮発性物質の検出結果を示し、碍子カバーから放出されるイソシアヌル酸トリアリルの加熱温度によるピーク面積の変化を示すグラフである。
【図6】実施例において実施した揮発性物質の検出結果を示し、電線被覆材から放出されるアセトフェノンの加熱温度によるピーク面積の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の過熱異常監視方法は、電気絶縁物の加熱により放出される揮発性物質のうち、
(1)電気絶縁物の添加剤として用途が限定されており、一般環境中から検出されない物質であること、及び
(2)過熱異常と判断される温度の前後で検出量に大きな差が生じる物質であること、
の条件を満たす揮発性物質を選定する工程(A)と、
電線等の過熱異常検知対象物が存在する監視区域内に、前記揮発性物質を検出可能なセンサを配置し、該センサによって空気中の前記揮発性物質の存在又はその量を監視し、前記揮発性物質が検出されたこと又はその量が予め設定しておいた上限値に達した時点で、監視区域内の前記過熱異常検知対象物に過熱異常が生じていることを検知する工程(B)とを含むことを特徴とする。
【0024】
本発明の過熱異常監視方法において、前記揮発性物質は、電線被覆材や碍子カバーなどの電気絶縁物に含まれる成分、例えば、可塑剤、難燃剤などの添加剤、又はその過熱分解物質などが挙げられ、一般環境中から検出されない物質の中から選択される。ここで、一般環境中から検出されない物質とは、電線被覆材や碍子カバーなどの電気絶縁物以外の樹脂製品には殆ど含まれておらず、電線や碍子などの過熱異常検知対象物が過熱異常時、例えば、100℃以上の温度で放出量が増大するような物質が挙げられる。
【0025】
一方、電線被覆材やプリント基板などの電気絶縁物からは、フェノールなどの一般環境中からも検出される可能性のある揮発性物質が放出されるが、例えばフェノールなどは、監視区域内にある建材や接着剤などに使用されているフェノール樹脂等からも微量ながら放出されている可能性が考えられることから、フェノールなどの揮発性物質を検出対象とした場合には、その過熱異常監視システムのセンサが過熱異常でない時でも揮発性物質を検出してしまう可能性があり、誤報が生じ易くなる。
【0026】
本発明の過熱異常監視方法において、前記揮発性物質を選定するためには、電線被覆材や碍子カバーなどの電気絶縁物をチャンバー内で所定温度で加熱し、加熱された該電気絶縁物から放出される揮発性物質を捕集し、ガスクロマトグラフィー/質量分析計(以下、GC/MSと略記する)分析を行って、揮発性物質を同定する。次に、検出された複数種類の揮発性物質のうち、前記(1)、(2)の条件を満たす揮発性物質を決定する。ここで、揮発性物質は、1種類でもよいし、2種類以上であってもよい。電気絶縁物から放出される揮発性物質を捕集するための簡便な方法として、チャンバー内にホットプレート等の加熱手段を配置し、ホットプレート上に分析対象の電気絶縁物を載せ、該チャンバー内に無臭空気を供給しつつ、ホットプレートで電気絶縁物を所定温度に加熱し、チャンバーに取り付けたSPMEファイバーによって揮発性物質を捕集し、これをGC/MS分析にかける固相マイクロ抽出法(SPME法)を好適に用いることができる。
【0027】
本発明の過熱異常監視方法の好ましい実施形態において、前記揮発性物質としては、シリコーンゴム製碍子カバーから放出されるイソシアヌル酸トリアリル、電線被覆材から放出されるアセトフェノンが挙げられる。イソシアヌル酸トリアリル及びアセトフェノンは、電線被覆材の添加剤として用いられ、一般環境中には殆ど存在せず、また碍子カバーや電線被覆材を100℃以上、好ましくは125℃以上に加熱した時に、放出量が急激に増加する特性を有していることから、前記揮発性物質として好適である。
【0028】
本発明の過熱異常監視方法は、前述したように選定した揮発性物質を特異的に検出可能なセンサを用いる。
【0029】
本発明の過熱異常監視方法は、電線等の過熱異常検知対象物が存在する監視区域内に、前記揮発性物質を検出可能なセンサを配置し、該センサによって空気中の前記揮発性物質の存在又はその量を監視し、前記揮発性物質が検出されたこと又はその量が予め設定しておいた上限値に達した時点で、監視区域内の前記過熱異常検知対象物に過熱異常が生じていることを検知する。
【0030】
本発明の過熱異常監視方法において、前記工程(A)で前記電気絶縁物の加熱温度と揮発性物質の放出量との関係を予め調べておき、前記(B)工程で前記揮発性物質の量を調べることによって、過熱異常発生時に前記過熱異常検知対象物の温度を推定することができる。
【0031】
また、本発明の過熱異常監視方法において、監視区域内の適所に多数のセンサを配置し、該センサによって空気中の前記揮発性物質の存在又はその量を監視し、これらのうち、前記揮発性物質が検出されたこと又はその量が予め設定しておいた上限値に達したセンサを検知し、監視区域内のいずれの位置に過熱異常が発生したか否かを推定することもできる。
【0032】
本発明の過熱異常監視方法は、電線絶縁物や碍子などの電気絶縁物を加熱した際に放出される揮発性物質のうち、一般環境中から検出されず、過熱異常と判断される温度を超えると放出量が増大する特定の揮発性物質を選定する工程(A)と、電線等の過熱異常検知対象物が存在する監視区域内に、前記揮発性物質を検出可能なセンサを配置し、該センサによって空気中の前記揮発性物質の存在又はその量を監視し、前記揮発性物質が検出されたこと又はその量が予め設定しておいた上限値に達した時点で、監視区域内の前記過熱異常検知対象物に過熱異常が生じていることを検知する工程(B)とを含む構成なので、監視区域内の過熱異常検知対象物に過熱異常が生じた場合には、揮発性物質を検出することで確実に過熱異常の発生を検知することができ、誤報の発生頻度が少なくなる。
【0033】
次に、図面を参照して本発明の過熱異常監視装置の実施形態を説明する。
図1は、本発明の過熱異常監視装置の一例を示す概略構成図である。本例の過熱異常監視装置1は、電気絶縁物の加熱により放出される揮発性物質のうち、
(1)電気絶縁物の添加剤として用途が限定されており、一般環境中から検出されない物質であること、及び
(2)過熱異常と判断される温度の前後で検出量に大きな差が生じる物質であること、
の条件を満たすように選定された前記揮発性物質を検出可能であり、電線等の過熱異常検知対象物が存在する監視区域3内に配置されたセンサ2…と、前記揮発性物質の放出データを記憶したデータベース5と、前記センサ2…からの検出信号を入力し、前記データベース5の記憶データを参照し、前記揮発性物質が検出されたこと又はその量が予め設定しておいた上限値に達した時点で、監視区域3内の前記過熱異常検知対象物に過熱異常が生じていると判断する中央演算装置4(以下、CPUと記す)と、CPU4からの警報信号によって過熱異常を表示し、あるいは警報器等の警告手段を駆動させる通報手段6とを備えて構成されている。
【0034】
前記センサ2…は、前述したように選定した揮発性物質、例えばイソシアヌル酸トリアリルやアセトフェノンを特異的に検出可能なセンサを用いる。検出すべき揮発性物質について専用のセンサを配置することが好ましく、2種類以上の揮発性物質を検出する場合には、各揮発性物質の検出用の2種類以上のセンサを配置することが好ましい。このセンサ2…の配置個数、配置間隔、設置場所などは特に限定されず、監視を行う監視区域3の広さ、過熱異常検知対象物の配置状態などを勘案して適切に配置される。
【0035】
前記データベース5は、前記イソシアヌル酸トリアリルやアセトフェノンなどの検出対象とする揮発性物質の放出データ、例えば、加熱温度と検出量との関係を示す演算式などが記憶されている。該揮発性物質の検出量は、前記センサ2…によって検出されCPU4に送られる揮発性物質の検出信号の強度から算出される。検出するべき揮発性物質が2種類以上ある場合には、それぞれの揮発性物質の加熱温度と検出量との関係を示す演算式を記憶させておく。
【0036】
このように構成された過熱異常監視装置1は、監視区域3内に配置されたセンサ2…からの揮発性物質の検出信号をCPU4に入力しておくことで、監視区域3内の電線等の過熱異常検知対象物に過熱異常が生じているか否かを監視することができる。過熱異常検知対象物に過熱異常が生じていない状態では、センサ2…からは揮発性物質の検出信号が送信されず、CPU4は「異常無し」と判定し、必要があれば通報手段6の表示装置に「異常なし」を表示する。
【0037】
万一、監視区域3内の過熱異常検知対象物に過熱異常が生じた場合、過熱異常検知対象物の温度上昇により、その電気絶縁物から予め検出対象とした揮発性物質が放出される。そして、センサ2…が放出された揮発性物質を検出すると、検出信号をCPU4に送信する。CPU4は、前記揮発性物質が検出されたこと又はその量が予め設定しておいた上限値に達したセンサ2を検知し、監視区域3内のいずれの箇所に過熱異常が生じていると判断し、通報手段6に警報信号を送り、通報手段6の表示装置に監視区域3内の特定箇所に過熱異常が発生したことを表示すると共に、警報器等の警告手段を駆動させる。
【0038】
この過熱異常監視装置1において、センサ2が揮発性物質を検出した場合、データベース5に記憶させておいた特定の揮発性物質の放出データを参照しながら、センサ2から送られる揮発性物質の検出信号の強度から、過熱異常発生時に前記過熱異常検知対象物の温度を推定することができる。
【0039】
また、過熱異常監視装置1において、監視区域3内の適所に多数のセンサ2…を配置し、該センサ2…によって空気中の前記揮発性物質の存在又はその量を監視し、これらのうち、前記揮発性物質が検出されたこと又はその量が予め設定しておいた上限値に達したセンサ2を検知し、監視区域3内のいずれの位置に過熱異常が発生したか否かを推定することができる。
【0040】
この過熱異常監視装置1は、監視区域3内の過熱異常検知対象物に過熱異常が生じた場合に、センサ2…によって前記揮発性物質を検出することで、確実に過熱異常の発生を検知することができ、誤報の発生頻度が少なくなる。
【実施例】
【0041】
電線被覆材及びシリコーンゴム製碍子カバーを試験対象とした。
試験装置の概要を図2に示す。チャンバー10には20Lのステンレス容器を使用した。チャンバー10内にホットプレート11を設置し、その上にアルミホイルを敷き、1cm×1cmにカットした試験片を50枚並べた。
チャンバー内に無臭空気を30分間通気して置換した後、150℃に加熱した。その後、容器上面から、SPMEファイバー12(シグマアルドリッチ社製:PDMS/DVB)を挿入し、容器内の空気に1分間接触させた後、GC/MSで定量分析を行った。
さらに、加熱温度を50℃、100℃、125℃として同様の試験を行い、加熱温度と揮発性物質のピーク面積との関係を調べた。
【0042】
図3は、25℃においた碍子カバーから放出される揮発性物質のGS/MS分析結果を示すグラフである。
図4は、150℃に加熱した碍子カバーから放出される揮発性物質のGS/MS分析結果を示すグラフである。
図3に示すように、常温(25℃)の碍子カバーからは、揮発性物質が殆ど検出されていない。これに対し、150℃に加熱した碍子カバーからは、図4に示す通り複数の揮発性物質が検出された。その中でも図4中に矢印で示すピークに着目し、その揮発性物質を同定した。その結果、該揮発性物質はイソシアヌル酸トリアリルであった。
同様に、電線被覆材についても揮発性物質を調べた結果、アセトフェノンが検出された。
【0043】
碍子カバーから検出されたイソシアヌル酸トリアリルについて加熱温度とピーク面積との関係を調べた。その結果、図5に示す通り、100℃を超えるとピーク面積が急激に高くなる傾向が見られた。
また、電線被覆材から検出されたアセトフェノンについても同様に加熱温度とピーク面積との関係を調べた。その結果、図6に示す通り、100℃を超えるとピーク面積が急激に高くなる傾向が見られた。
【0044】
加熱によって被覆材等から特徴的に放出される揮発性物質は、GC/MS分析において明確に検出され、前述した簡易分析により探索できることが確認できた。次に、これらを過熱異常の検知に利用する場合、誤報の可能性が少ない成分を選定することが必要である。例えば、一般環境中にも広く存在し、他の放出源も考えられるフェノール等は検知対象には不向きであると考えられる。
一方、用途が限定的で一般環境中からほとんど検出されないイソシアヌル酸トリアリル及びアセトフェノンは、検知対象に利用できる可能性がある。
また、検知したい温度の前後でピーク面積に大きな差が生じる揮発性物質を選定することも重要である。図5、図6から分かるように、イソシアヌル酸トリアリル及びアセトフェノンは、100℃付近から温度上昇に従って急激に放出量が増加しているので、検知温度を100〜150℃、好ましくは125〜150℃とした場合には検知に利用できる可能性がある。
【0045】
さらに、放出される成分が電線被覆材や碍子カバー等によって異なっていたことから、予め材質ごとに特徴的に放出される揮発性物質を把握しておくことにより、空気中の揮発性物質の分析によって過熱異常が発生している箇所を特定することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、電線等の過熱異常検知対象物が存在する監視区域内において、電線被覆材や碍子カバー等の各種の電気絶縁物から過熱異常発生時に放出される揮発性物質を正確に検知し、電線等の過熱異常検知対象物が存在する監視区域内における過熱異常の発生を正確に検知可能な過熱異常監視方法及び装置に関する。
【符号の説明】
【0047】
1 過熱異常監視装置
2 センサ
3 監視区域
4 CPU
5 データベース
6 通報手段
10 チャンバー
11 ホットプレート
12 SPMEファイバー
13 ポンプ
14 活性炭

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気絶縁物の加熱により放出される揮発性物質のうち、
(1)電気絶縁物の添加剤として用途が限定されており、一般環境中から検出されない物質であること、及び
(2)過熱異常と判断される温度の前後で検出量に大きな差が生じる物質であること、
の条件を満たす揮発性物質を選定する工程(A)と、
電線等の過熱異常検知対象物が存在する監視区域内に、前記揮発性物質を検出可能なセンサを配置し、該センサによって空気中の前記揮発性物質の存在又はその量を監視し、前記揮発性物質が検出されたこと又はその量が予め設定しておいた上限値に達した時点で、監視区域内の前記過熱異常検知対象物に過熱異常が生じていることを検知する工程(B)とを含むことを特徴とする過熱異常監視方法。
【請求項2】
前記揮発性物質を2種類以上選定し、各揮発性物質の存在又はそれらの量をセンサで監視することを特徴とする請求項1に記載の過熱異常監視方法。
【請求項3】
前記揮発性物質が、イソシアヌル酸トリアリルを含んでいることを特徴とする請求項1又は2に記載の過熱異常監視方法。
【請求項4】
前記揮発性物質がアセトフェノンを含んでいることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の過熱異常監視方法。
【請求項5】
前記工程(A)において、前記電気絶縁物の加熱温度と揮発性物質の放出量との関係を予め調べておき、前記(B)工程で前記揮発性物質の量を調べることによって、過熱異常発生時に前記過熱異常検知対象物の温度を推定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の過熱異常監視方法。
【請求項6】
前記工程(B)において、監視区域内の適所に多数のセンサを配置し、該センサによって空気中の前記揮発性物質の存在又はその量を監視し、これらのうち、前記揮発性物質が検出されたこと又はその量が予め設定しておいた上限値に達したセンサを検知し、監視区域内のいずれの位置に過熱異常が発生したか否かを推定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の過熱異常監視方法。
【請求項7】
電気絶縁物の加熱により放出される揮発性物質のうち、
(1)電気絶縁物の添加剤として用途が限定されており、一般環境中から検出されない物質であること、及び
(2)過熱異常と判断される温度の前後で検出量に大きな差が生じる物質であること、
の条件を満たすように選定された揮発性物質を検出可能であり、電線等の過熱異常検知対象物が存在する監視区域内に配置されたセンサと、
前記揮発性物質の放出データを記憶したデータベースと、
前記センサからの検出信号を入力し、前記データベースの記憶データを参照し、前記揮発性物質が検出されたこと又はその量が予め設定しておいた上限値に達した時点で、監視区域内の前記過熱異常検知対象物に過熱異常が生じていると判断する中央演算装置とを備えていることを特徴とする過熱異常監視装置。
【請求項8】
前記揮発性物質を2種類以上選定し、各揮発性物質の存在又はそれらの量をセンサで監視することを特徴とする請求項7に記載の過熱異常監視装置。
【請求項9】
前記揮発性物質が、イソシアヌル酸トリアリルを含んでいることを特徴とする請求項7又は8に記載の過熱異常監視装置。
【請求項10】
前記揮発性物質がアセトフェノンを含んでいることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の過熱異常監視装置。
【請求項11】
前記電気絶縁物の加熱温度と揮発性物質の放出量との関係を予め調べておき、前記揮発性物質の量を調べることによって、過熱異常発生時に前記過熱異常検知対象物の温度を推定する構成としたことを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載の過熱異常監視装置。
【請求項12】
監視区域内の適所に多数のセンサを配置し、該センサによって空気中の前記揮発性物質の存在又はその量を監視し、これらのうち、前記揮発性物質が検出されたこと又はその量が予め設定しておいた上限値に達したセンサを検知し、監視区域内のいずれの位置に過熱異常が発生したか否かを推定する構成としたことを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載の過熱異常監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−98085(P2012−98085A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244336(P2010−244336)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】