説明

過給機

【課題】タービンスクロール流路を区画形成する壁部のうち、舌部近傍の耐久性の低下を防止する。
【解決手段】過給機1は、ベアリングハウジング2に形成された挿通孔2a、および、タービンハウジング4に形成され挿通孔に対向する固定穴4aの双方に、ベアリングハウジング側から挿通される固定部材3によって、ベアリングハウジングにタービンハウジングが固定される過給機であって、タービンハウジングには、排気ガスを回転方向に周回させつつ、径方向内側に位置するタービンインペラ8に導くタービンスクロール流路14を区画形成する壁部15が設けられ、壁部は、タービンスクロール流路のうち、排気ガスの導入方向上流側に位置する部分14bと最下流部分14cとを区画する舌部15aを有し、固定穴は、舌部に対してタービンインペラの径方向もしくはタービン軸の回転方向にずらして配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービン軸の周方向に旋回するタービンスクロール流路を排気ガスが流通する過給機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一端にタービンインペラが設けられ他端にコンプレッサインペラが設けられたタービン軸が、ベアリングハウジングに回転自在に保持された過給機が知られている。こうした過給機は、ベアリングハウジングの一端面に、タービンインペラが収容されるタービンハウジングが固定され、ベアリングハウジングの他端面に、コンプレッサインペラが収容されるコンプレッサハウジングが固定される。
【0003】
特許文献1に記載されているように、タービンハウジングの内部には、タービンインペラよりもタービン軸の径方向外側で当該タービン軸の回転方向に周回し、排気ガスを回転方向に周回させつつ、径方向内側に位置するタービンインペラに導くタービンスクロール流路が形成されている。このタービンスクロール流路のうち、導入直後の排気ガスが流通する部分と、1周した後の排気ガスが流通する最下流部分とは径方向に重なり、この重なり部分が舌部と呼ばれる壁部によって区画されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−144664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、過給機の起動時、上述した舌部は、導入直後の排気ガスおよび1周した後の排気ガスによって両面が急激に加熱されるため、舌部と舌部近傍の温度差が大きくなり熱応力が生じてしまう。そして、舌部と舌部近傍は、過給機の起動や停止を繰り返すことで繰り返し応力がかかることとなるため、疲労し易い部位となる。
【0006】
ところで、タービンハウジングとベアリングハウジングは、ボルトおよびボルト穴で固定される。このうち、タービンハウジング側に設けられるボルト穴が、舌部の近くまで穿孔されると、ボルト穴の周囲が、上述した理由によって疲労してしまい、例えば、ボルト穴の先端等の応力集中部分の耐久性が低下してしまうおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、タービンスクロール流路を区画形成する壁部のうち、舌部近傍の耐久性の低下を防止することができる過給機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の過給機は、一端にタービンインペラが設けられたタービン軸と、前記タービン軸を回転自在に保持するベアリングハウジングと、前記ベアリングハウジングに固定され、前記タービンインペラが収容されるタービンハウジングと、を備え、前記ベアリングハウジングに形成された挿通孔、および、前記タービンハウジングに形成され前記挿通孔に対向する固定穴の双方に、前記ベアリングハウジング側から挿通される固定部材によって、タービンハウジングが前記ベアリングハウジングに固定される過給機であって、前記タービンハウジングには、前記タービンインペラよりも前記タービン軸の径方向外側で当該タービン軸の回転方向に周回し、排気ガスを前記回転方向に周回させつつ、前記径方向内側に位置するタービンインペラに導くタービンスクロール流路を区画形成する壁部が設けられ、前記壁部は、前記タービンスクロール流路のうち、前記排気ガスの導入方向上流側に位置する部分と最下流部分とを前記径方向に区画する舌部を有し、前記固定穴は、前記舌部に対して前記タービンインペラの径方向もしくは前記タービン軸の回転方向にずらして配置されていることを特徴とする。
【0009】
前記固定穴は、前記タービン軸の回転方向に複数設けられ、前記舌部の最も近傍に位置する固定穴を除く他の固定穴は、前記タービン軸の回転方向に等間隔に配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、タービンスクロール流路を区画形成する壁部のうち、舌部近傍の耐久性の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】過給機の断面図である。
【図2】過給機の正面図である。
【図3】過給機の斜視断面図である。
【図4】舌部と従来の固定穴との位置関係を説明するための説明図である。
【図5】本実施形態の舌部と固定穴との位置関係を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0013】
図1は、過給機1の断面図であり、図2は、過給機1の正面図である。以下では、図1に示す矢印F方向を過給機1の前側とし、矢印R方向を過給機1の後側として説明する。図1に示すように、過給機1は、ベアリングハウジング2と、ベアリングハウジング2の前側にボルト等の固定部材3によって固定されるタービンハウジング4と、ベアリングハウジング2の後側に同じくボルト等の固定部材5によって固定されるコンプレッサハウジング6と、が一体化されて形成されている。
【0014】
より詳細には、ベアリングハウジング2の外周近傍には、タービンハウジング4に対向する方向に貫通する挿通孔2aが形成されている。一方、タービンハウジング4の外周近傍には、ベアリングハウジング2の挿通孔2aに対向するとともに、タービンハウジング4におけるベアリングハウジング2との対向面から、一定の深さを有する固定穴4aが形成されている。そして、固定部材3が、ベアリングハウジング2側から挿通孔2aに挿通され、固定穴4aに螺合されることによって、ベアリングハウジング2とタービンハウジング4とが固定される。
【0015】
同様に、ベアリングハウジング2とコンプレッサハウジング6の対向面のうち、ベアリングハウジング2側には、対向方向に貫通する挿通孔2bが形成されており、コンプレッサハウジング6側のうち、挿通孔2bに対向する位置には、対向方向に貫通する挿通孔6aが形成されている。そして、固定部材5が、コンプレッサハウジング6側から挿通孔6aに挿通され、挿通孔2bに螺合されることによって、ベアリングハウジング2とコンプレッサハウジング6とが固定される。
【0016】
ベアリングハウジング2には、過給機1の前後方向に貫通する軸受孔2cが形成されており、この軸受孔2cにタービン軸7がベアリングを介して回転自在に支持されている。タービン軸7の前端部(一端)にはタービンインペラ8が一体的に連結されており、このタービンインペラ8がタービンハウジング4内に回転自在に収容されている。また、タービン軸7の後端部(他端)にはコンプレッサインペラ9が一体的に連結されており、このコンプレッサインペラ9がコンプレッサハウジング6内に回転自在に収容されている。
【0017】
コンプレッサハウジング6には、過給機1の後側に開口するとともに不図示のエアクリーナに接続される吸気口10が形成されている。また、固定部材5によってベアリングハウジング2とコンプレッサハウジング6とが連結された状態では、これら両ハウジング2、6の対向面によって、空気を圧縮して昇圧するディフューザ流路11が形成される。このディフューザ流路11は、タービン軸7(コンプレッサインペラ9)の径方向内側から外側に向けて環状に形成されており、上記の径方向内側において、コンプレッサインペラ9を介して吸気口10に連通している。
【0018】
また、コンプレッサハウジング6には、ディフューザ流路11よりもタービン軸7(コンプレッサインペラ9)の径方向外側に位置する環状のコンプレッサスクロール流路12が設けられている。コンプレッサスクロール流路12は、エンジンの吸気口と連通するとともに、ディフューザ流路11にも連通している。したがって、コンプレッサインペラ9が回転すると、吸気口10からコンプレッサハウジング6内に流体が吸気されるとともに、当該吸気された流体は、ディフューザ流路11およびコンプレッサスクロール流路12で昇圧されてエンジンの吸気口に導かれることとなる。
【0019】
タービンハウジング4には、過給機1の前側に向かって開口するとともに不図示の排気ガス浄化装置に接続される吐出口13が形成されている。また、タービンハウジング4内には、タービンインペラ8の径方向外側に位置するタービンスクロール流路14が設けられている。
【0020】
図3は、図2のIII‐III線断面を示す斜視断面図である。ただし、説明の便宜上、図3においては、タービンハウジング4の一部、タービン軸7、およびタービンインペラ8を取り除いている。
【0021】
図3に示すように、タービンスクロール流路14は、図1に示すタービン軸7の回転方向に周回し、例えば、エンジンの排気ガスを回転方向に周回させつつ、径方向内側に位置するタービンインペラ8に導く。
【0022】
具体的には、タービンスクロール流路14は、例えば、エンジン等から排出される排気ガスが導かれるガス流入口14a(図2、図3に示す)と連通する。そして、ガス流入口14aからタービンスクロール流路14に排気ガスが導かれると、当該排気ガスがガス流入口14aからタービンスクロール流路14に沿ってタービン軸7の回転方向に周回しながら、当該タービンスクロール流路14の径方向内側に導かれる。このようにしてタービンスクロール流路14の径方向内側に導かれた排気ガスは、タービンインペラ8を介して吐出口13に導かれるとともに、その流通過程においてタービンインペラ8を回転させることとなる。そして、上記のタービンインペラ8の回転力は、タービン軸7を介してコンプレッサインペラ9に伝達されることとなり、コンプレッサインペラ9の回転力によって、上記のとおりに、流体が昇圧されてエンジンの吸気口に導かれることとなる。
【0023】
壁部15は、タービンハウジング4の一部であって、タービンスクロール流路14を区画形成する壁となる部分である。そして、壁部15は、図3に示すように、タービンスクロール流路14のうち、排気ガスの導入方向上流側に位置する部分14bと最下流部分14cとをタービン軸7の径方向に区画する舌部15aを有する。
【0024】
舌部15aは、タービンスクロール流路14に対して両面(両部分14b、14c)が接している。舌部15aおよびその近傍は、タービンスクロール流路14に対して片面しか接していない壁部15の他の部分に比べて、過給機1の起動時に排気ガスの熱によって急激に昇温されてしまい、温度差による熱応力が生じる。そのため、過給機1の起動や停止が繰り返されると、舌部15aおよびその近傍は、熱応力を繰り返し受けることとなり疲労し易い。
【0025】
図4は、舌部15aと従来の固定穴Hとの位置関係を説明するための説明図である。特に、図4(a)には、タービンハウジングTのベアリングハウジングとの対向面側を示し、図4(b)には、タービンハウジングTのベアリングハウジングとの対向面側に、内部のタービンスクロール流路14をハッチングで重畳して示し、図4(c)には、図4(a)のIV(c)‐IV(c)線断面を示す。
【0026】
固定穴Hは、タービンハウジングTにおけるタービンハウジングTのベアリングハウジングとの対向面に等間隔で複数設けられ、その先端部分tは、図4(b)、(c)に示すタービンスクロール流路14近くに位置する。
【0027】
特に、図4(a)、(b)に示すように、舌部15aに重なる位置に固定穴Hが配される場合、図4(c)に示すように、その固定穴Hの先端部分tは、舌部15a近傍に位置することとなる。この場合、舌部15a近傍が疲労していると、舌部15a近傍に位置する先端部分tに応力が集中し、舌部15a近傍の耐久性が低下してしまうおそれがある。
【0028】
図5は、本実施形態の舌部15aと固定穴4aとの位置関係を説明するための説明図である。特に、図5(a)には、タービンハウジング4のベアリングハウジング2との対向面側を示し、図5(b)には、タービンハウジング4のベアリングハウジング2との対向面側に、内部のタービンスクロール流路14をハッチングで重畳して示し、図5(c)には、図5(a)のV(c)‐V(c)線断面を示す。
【0029】
図5(a)、(b)に示すように、本実施形態のタービンハウジング4では、固定穴4aは、舌部15aに対してタービン軸7の回転方向にずらして配置されている。そのため、図5(c)に示すように、舌部15aの近傍には固定穴4aの先端部分4bが位置しない。
【0030】
本実施形態の過給機1は、固定穴4aと舌部15aとが十分に離れているため、舌部15aが疲労しても、舌部15a近傍、または固定穴4aの例えば先端部分4bの耐久性の低下を防止することが可能となる。
【0031】
また、固定穴4aは、図5(a)に示すように、タービン軸7の回転方向に複数設けられ、舌部15aの最も近傍に位置する固定穴4aを除く他の固定穴4aは、タービン軸7の回転方向に等間隔に配置されている。
【0032】
舌部15aの最も近傍に位置する固定穴4aを除き、少なくともその他の固定穴4aについては、回転方向に等間隔(等ピッチ)に配置することで、各固定部材3にかかる応力を均等化でき、一部の固定部材3に応力が集中して過給機1の耐久性が低下してしまう事態を回避可能となる。
【0033】
上述した実施形態では、固定穴4aは、舌部15aに対してタービン軸7の回転方向にずらして配置されているとしたが、固定穴4aは、タービンインペラ8の径方向にずらして配置されてもよい。
【0034】
また、上述した実施形態では、ベアリングハウジング2とタービンハウジング4とを固定する固定穴4aを、ベアリングハウジング2内の舌部15aに対してタービン軸7の回転方向または径方向にずらす構成を例に挙げた。さらに、過給機1は、ベアリングハウジング2とコンプレッサハウジング6とを固定する挿通孔6aを、コンプレッサハウジング6内の舌部に対してタービン軸7の回転方向または径方向にずらす構成であってもよい。
【0035】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、タービン軸の周方向に旋回するタービンスクロール流路を排気ガスが流通する過給機に利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 …過給機
4 …タービンハウジング
6 …コンプレッサハウジング
7 …タービン軸
8 …タービンインペラ
9 …コンプレッサインペラ
14 …タービンスクロール流路
14b …部分
14c …最下流部分
15 …壁部
15a …舌部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端にタービンインペラが設けられたタービン軸と、
前記タービン軸を回転自在に保持するベアリングハウジングと、
前記ベアリングハウジングに固定され、前記タービンインペラが収容されるタービンハウジングと、を備え、
前記ベアリングハウジングに形成された挿通孔、および、前記タービンハウジングに形成され前記挿通孔に対向する固定穴の双方に、前記ベアリングハウジング側から挿通される固定部材によって、前記タービンハウジングが前記ベアリングハウジングに固定される過給機であって、
前記タービンハウジングには、
前記タービンインペラよりも前記タービン軸の径方向外側で当該タービン軸の回転方向に周回し、排気ガスを前記回転方向に周回させつつ、前記径方向内側に位置するタービンインペラに導くタービンスクロール流路を区画形成する壁部が設けられ、
前記壁部は、
前記タービンスクロール流路のうち、前記排気ガスの導入方向上流側に位置する部分と最下流部分とを前記径方向に区画する舌部を有し、
前記固定穴は、
前記舌部に対して前記タービンインペラの径方向もしくは前記タービン軸の回転方向にずらして配置されていることを特徴とする過給機。
【請求項2】
前記固定穴は、前記タービン軸の回転方向に複数設けられ、
前記舌部の最も近傍に位置する固定穴を除く他の固定穴は、前記タービン軸の回転方向に等間隔に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の過給機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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