説明

過酸化水素を含有する気体環境中の微生物の存在の試験方法

【課題】過酸化水素を含有する気体環境における微生物の存在を試験する方法、およびカセット含むキットの提供。
【解決手段】工程:(i)ピルビン酸の塩を含有する寒天生育培地に過酸化水素を含有する気体環境を接触させる(ii)微生物のコロニーの生育に好都合な環境に生育培地を置くこと(iii)工程(ii)の間に生育した微生物のコロニーの存在を測定する。カセットはピルビン酸の塩を含有する寒天生育培地を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は過酸化水素を含有する気体環境中の微生物の存在の試験方法、並びに本方法において実施されるように適合された寒天生育培地を有するカセットに関する。
【背景技術】
【0002】
特定の工業的工程、特に製薬工程の実施のためには、限定された製造領域、例えば外界から分離され無菌化されている単離装置において、種々の作業や操作を実施しなければならないことはよく知られている。
【0003】
上記した限定された領域に存在する気体環境、通常は空気、の無菌性を試験するためには、微生物、細菌、酵母または黴を含有する可能性のある気体試料を採取し、これらを容器またはカセット内に充填された寒天の層に適用し、そして次にこれらの微生物が裸眼で目視可能なコロニーを形成するような温度で所定時間容器をインキュベートすることが一般的に行なわれている。即ち分析された空気中に存在する微生物のコロニーを可視化し、計数し、そして適宜同定することが可能である。
【0004】
これらの限定された領域を滅菌するためには、気体状態の特定の過酸化水素を使用することが可能である。無菌性を目的として気体環境中に導入された過酸化水素は本明細書中では「外来性過酸化水素」と称する。
【0005】
即ち、特に単離装置の滅菌のためには、以下の3工程、即ち:
* 約15から20分間単離装置の周囲空気を乾燥するための脱湿工程;
* 特定の量の過酸化水素を単離装置の内部環境に接触させるための気化工程;および、
* 過酸化水素を除くための通気工程;
を実施するのが一般的である。
【0006】
この滅菌サイクルの終了時に、単離装置内の空気のサンプルを採取して微生物濃度の試験を行なうことにより、その滅菌性を確認する。
【0007】
しかしなお、特に通気工程において注意を払ったにも関わらず、気体環境がかなりの量の残存過酸化水素を含んでおり、微生物量の試験結果をゆがめ、これにより虚偽陰性結果を与える可能性があることを我々は発見した。
【0008】
従って我々は、虚偽陰性の危険性を回避するためにかなりの量の過酸化水素の存在下で限定された領域の微生物の存在および/または量を試験する際の問題点を解決するための方法を開発することを模索した。
【0009】
ストレス下にある微生物はそれらがなお活性ではあるが生育培地中で増殖できないという状態に入る場合あることも知られている。とりわけ、ストレスによりこれらの微生物はそのカタラーゼおよびスーパーオキシドジスムターゼ活性を失う。即ち富栄養培地に置かれた場合に、培養時に自ら生産する、または、生育培地中に存在する特定の化合物の光化学反応または自己酸化により形成される過酸化物、特に過酸化水素を排除するために利用できる手段をもはや有さない。以下の記述においては、「内因性過酸化水素」とは微生物自身により、或いは、生育培地を構成する化合物の関与する反応の結果として形成される過酸化水素を指すものとする。
【0010】
一部の研究者等は、ストレス現象にも関わらず環境中に存在する微生物を同定および/または計数することを目的として、カタラーゼのような内因性過酸化水素を分解することが知られている化合物、またはα−ケトグルタール酸、3,3’−チオジプロピオン酸およびピルビン酸ナトリウムのような非酵素化合物を生育培地に添加することを提案している。
【0011】
即ち、R.M.Lee等はJournal of Food Protection, Vol.52, Feb. 1989, pp.119−121において、食品および水の試料からの大腸菌類の回収率を増大させるために寒天生育培地にピルビン酸ナトリウムを漸増量で添加することを記載している。
【0012】
J.P.Calabrese等はCan.J.Microbiol., Vol.36, 1990, pp.544−550において、カタラーゼ、ピルビン酸ナトリウムまたはその組み合わせを添加することにより、酸性の水によるストレスを受けた大腸菌群の回収率を増大させることができることを報告している。S.Czechowicz等のInternational Journal of Food Microbiology 33 (1996), pp275−284およびY.Mizunoe等のArch Microb. (1990) 172:63−67によれば、カタラーゼ、α−ケトグルタール酸、3,3’−チオジプロピオン酸およびピルビン酸ナトリウムを用いることにより、食料の枯渇または熱ストレスの何れかにより衰退したEscherichia coliの回収率が増大する。
【0013】
上記した通り明らかにされている問題点を解決するという観点から、出願人は当初はカタラーゼを添加した寒天生育培地の使用を意図した。
【0014】
しかしながら、これは、前述した文献が遭遇したことのない、外来性の過酸化水素を含有する気体環境中の微生物の存在および量の試験の問題点に特有であると思われる困難に遭遇することになった。即ち、上記した一部の研究者に習って出願人は当初はカタラーゼを生育培地に添加していた。しかしながら実際には、カタラーゼによる過酸化水素の分解によりかなりの量の酸素気泡が生育培地の寒天の表面および内部に形成され、これらの気泡が微生物コロニーの可視化を極めて困難にしていることが判明した。さらにまた、8000IU/プレート(即ち寒天生育培地当たり)までの量でカタラーゼを使用することは、後に定義する微生物回収率を60%のオーダー程度の比較的低値とするだけであった。より高濃度のカタラーゼは出願人の意図するものではなかった。その理由は、それが微生物コロニーの可視化をなおより困難にするか、不可能にするような量の酸素気泡の形成をもたらすと考えられたためである。更にまたカタラーゼは、経済的見地からは大量に使用することは避けたい高額な製品であり、それが回収率を改善するという保証も無い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】R.M.Lee等、Journal of Food Protection, Vol.52, Feb. 1989, pp.119−121
【非特許文献2】J.P.Calabrese等、Can.J.Microbiol., Vol.36, 1990, pp.544−550
【非特許文献3】S.Czechowicz等、International Journal of Food Microbiology 33 (1996), pp275−284
【非特許文献4】Y.Mizunoe等、Arch Microb. (1990) 172:63−67
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
出願人は研究を継続し、本発明の第1の観点を構成する方法を用いることにより上記した問題を解決できることを発見した。
【0017】
即ち、本発明は下記工程:
(i)ピルビン酸の塩を含有する寒天生育培地に過酸化水素を含有する気体環境を接触させること;
(ii)微生物のコロニーの生育に好都合な環境に生育培地を置くこと;
(iii)工程(ii)の間に生育した微生物のコロニーの存在を測定すること;
を包含することを特徴とする過酸化水素を含有する気体環境における微生物の存在の試験方法である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
ピルビン酸の塩は虚偽陰性の危険性を伴うことなく、気体環境に存在する微生物の存在の試験を実行可能とする。
【0019】
更にまた、そしてカタラーゼの使用により観察することができたものとは対照的に、ピルビン酸の塩は微生物のコロニーの測定を妨げず、高値の回収率を可能にする。
【0020】
このことが予測できなかった理由は、上記した研究者の一部は内因性の過酸化水素の存在下で微生物のコロニーの生育を可能とするために、カタラーゼまたはピルビン酸ナトリウムが添加されている生育培地を無計画に使用していたためである。
【0021】
本発明を以下の記述および図面により、これより詳細に説明する。
【0022】
図1は微生物の回収率に対する過酸化水素0.3ppmの濃度の作用を示す棒グラフである。
【0023】
図2は微生物の回収率に対する8ppmの濃度の過酸化水素の存在下におけるピルビン酸ナトリウムの作用を示す棒グラフである。
【0024】
図3は微生物の回収率に対するγ線照射による滅菌後のピルビン酸ナトリウムの作用を示す棒グラフである。
【0025】
図4は微生物の回収率に対する3ppmの過酸化水素の存在下の漸増濃度のカタラーゼの作用を示す棒グラフである。
【0026】
図5は微生物の回収率に対する過酸化水素非存在下の2.5%から10%のTSA寒天生育培地中漸増重量濃度のピルビン酸ナトリウムの作用を示す棒グラフである。
【0027】
図6は微生物の回収率に対する5ppmから15ppmの過酸化水素の存在下の1%から5%のTSA寒天生育培地中漸増重量濃度のピルビン酸ナトリウムの作用を示す棒グラフである。
【0028】
本発明の意味においては、「微生物の回収率」とは、一方で既知数の微生物(cfu)を含有する水性懸濁液が適用された特定の気体環境に事前に曝露された寒天生育培地上に形成された微生物のコロニー数(cfu)と、一方で同じ水性微生物懸濁液が適用された寒天生育培地上、ただしこの寒天栄養培地は予め滅菌雰囲気中に維持されており特定の気体環境には曝露されていないがそれ以外は同等であるもの、に形成された微生物のコロニー数(cfu)との、間の比を意味するものとする。
【0029】
過酸化水素は一般的には、気体環境中において蒸気化または噴霧される。
【0030】
意外にも出願人は過酸化水素を蒸気化した場合よりも噴霧した場合のほうが微生物の生育の抑制が高度になることを発見した。
【0031】
通常過酸化水素を含有する気体環境は周囲空気、特に単離装置のような限定された領域内の周囲空気である。
【0032】
気体環境中の過酸化水素の濃度は1ppm(百万分の一部)から400ppm、好ましくは、0.1ppmから20ppm、より好ましくは0.2ppmから10ppmであってよい。過酸化水素1ppmは1.4mg過酸化水素/mに相当する。
【0033】
寒天生育培地は、寒天以外に、カゼイン、植物粉または酵母エキスのような蛋白の酵素消化産物を含有してよい。
【0034】
寒天生育培地は下記成分:
* カゼインの膵液消化物 15g
* 大豆粉のパパイン消化物 5g
* 塩化ナトリウム 5g
* 寒天 15g
* 水 全容を1000mLとする量
を含有するTSA(トリプトン大豆寒天)培地よりなる。
【0035】
適切なTSA生育培地は236950という参照番号の下にDIFCO社より販売されている。
【0036】
寒天生育培地はピルビン酸塩の少なくとも1種を0.1重量%から3重量%、好ましくは0.5重量%から1.5重量%含有してよい。
【0037】
本発明の趣旨において使用することのできるピルビン酸塩はナトリウムまたはカリウムのようなアルカリ金属の塩、カルシウムまたはマグネシウムのようなアルカリ土類金属の塩、またはこれらの塩の2種以上の混合物であってよい。好ましくは、ピルビン酸ナトリウムを使用する。
【0038】
高濃度または極めて高濃度、即ち15ppmから300ppm、更には400ppmの過酸化水素の使用により特に強力な滅菌を望む場合も本発明の方法を適用することができる。このような高濃度の過酸化水素は必要以上に短い時間で滅菌サイクルを実施する場合にも生じる。これはユーザーがこのような滅菌サイクルの実施に際して指示書を遵守しなかったり、ユーザーが過酸化水素含量を適切にモニタリングしない場合に生じる。
【0039】
このような条件下、気体環境中に高濃度の過酸化水素が存在する場合、寒天生育培地中の大量のピルビン酸塩を本発明の方法に従って用いることにより、生育微生物の回収が良好に行なえる。即ちピルビン酸塩の量は1重量%より多く5重量%まで、好ましくは3重量%から5重量%であることができる。
【0040】
このように大量のピルビン酸塩の使用が可能であることは、当該分野においてはこのことが生育微生物の回収に対して有利であるよりはむしろ抑制的であると考えられていたことを考慮すると、意外なことであった。
【0041】
更に意外な点は、微生物の生育が、上記した通りの生育微生物回収を抑制する高濃度の過酸化水素の存在下で、このような量のピルビン酸塩を用いた場合にも生じ得るという点である。
【0042】
寒天生育培地は好ましくは1mmから20mm、好ましくは5mmから8mmの厚みを有する。
【0043】
生育培地は単にその構成成分を混合することにより当業者の知る方法で調製してよい。
【0044】
本発明の方法によれば、寒天生育培地の表面を過酸化水素を含有する気体環境の制御された、実質的に一定の流量を有している流動に好都合に接触させる。このように制御された流動を所定時間適用することにより、寒天生育培地表面に適用することが望ましく、そしてそれにより本発明の方法に再現性を付与するような、空気または他の気体環境の量を選択することができる。
【0045】
このように制御された流動はポンプのような吸引手段並びに寒天生育培地を設置するカセットまたはボックスを保持する手段を包含し、これにより空気を寒天の表面に接触できるようにしたサンプル採取装置を用いることにより達成してよい。
【0046】
このような装置はMillipore S.A.の仏国特許出願9807299号および9805166号に記載されており、その開示内容は参照により本明細書に組み込まれる。このような装置はまた、商標M Air TTM Isolatorの下にMilliporeより販売されている。
【0047】
気体環境に接触させた生育培地の培養は温度制御インキュベーターのような如何なる適切な装置で行なってもよい。
【0048】
一般的に、本発明の方法の工程(iii)の終了時において、コロニー数を計数し、および/または、コロニーを構成する微生物の性質を当業者の知る方法で同定する。
【0049】
一般に、コロニーの計数を容易にするために、寒天生育培地が充填されたグリッド型のカセットまたはボックスを用いることができる。
【0050】
本発明の他の観点によれば、この発明は、ピルビン酸塩を含む寒天生育培地が配備され、前述のように、空気または他の気体環境のサンプルを採取するための装置への連結手段が設置されたカセットまたはボックスから成る。
【0051】
従来の寒天生育培地を含有するこのようなカセットはそれ自体知られている。これは商標M air TTMの下にMillipore社から販売されている。
【0052】
本発明のカセットは上記した方法において使用してよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は微生物の回収率に対する過酸化水素0.3ppmの濃度の作用を示す棒グラフである。
【図2】図2は微生物の回収率に対する8ppmの濃度の過酸化水素の存在下におけるピルビン酸ナトリウムの作用を示す棒グラフである。
【図3】図3は微生物の回収率に対するγ線照射による滅菌後のピルビン酸ナトリウムの作用を示す棒グラフである。
【図4】図4は微生物の回収率に対する3ppmの過酸化水素の存在下の漸増濃度のカタラーゼの作用を示す棒グラフである。
【図5】図5は微生物の回収率に対する過酸化水素非存在下の2.5%から10%のTSA寒天生育培地中漸増重量濃度のピルビン酸ナトリウムの作用を示す棒グラフである。
【図6】図6は微生物の回収率に対する5ppmから15ppmの過酸化水素の存在下の1%から5%のTSA寒天生育培地中漸増重量濃度のピルビン酸ナトリウムの作用を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下の実施例の目的は本発明を説明することである。
【0055】
実施例1(非本発明)
種々の微生物のコロニーの形成に対する気体過酸化水素の痕跡の影響を試験するために、滅菌環境を与え、過酸化水素非含有である層流空気フード内で空気1mの試料を先ず採取した。この方法で得た空気試料を236950の参照番号でDIFCO社より販売されているTSA生育培地の表面に充満させた。
【0056】
生育培地の表面に所定数の微生物を含有する水性懸濁液を塗布した。
【0057】
次にTSA生育培地を温度制御されたインキュベーター中にいれ、微生物のコロニーが生育できるようにした。
【0058】
0.3ppmの噴霧過酸化水素を含有する気体1mを充満させたTSA生育培地を用いた以外は上記の通り試験を反復した。
【0059】
得られた結果は図1に示すとおりであり、ここでx軸は寒天生育培地の表面に生育した微生物の性質を示し、y軸は回収率、即ち、過酸化水素存在下中で測定されたcfu数と滅菌環境中で測定されたcfu数の間の比を示す。
【0060】
得られた結果によれば、低い過酸化水素含有量は微生物コロニー形成を抑制し、このため虚偽陰性結果をもたらしている。
【0061】
実施例2(非本発明)
今回は漸増量のカタラーゼ(0から8000IU/プレート)を添加したTSA生育培地上に充満させた(0.3ppmではなく)3ppmの過酸化水素を含有する空気1mを用いた以外は実施例1と同様に行なった。使用した唯一の微生物はスタフイロコッカス・アウレウスであった。
【0062】
得られた結果は図4に示す通りであり、ここでx軸はカタラーゼの量、y軸は回収率を示す。
【0063】
高用量(8000IU/プレート)で使用したカタラーゼは最大回収率60%を与えたが、スタフィロコッカス・アウレウスでの120%にもなった回収率をもたらした本発明の方法で得られた結果より有意に低値であった。
【0064】
更にまたカタラーゼはcfuの計数を困難にする酸素気泡の形成をもたらした。
【0065】
実施例3
第1にTSA生育培地上に、そして第2にピルビン酸ナトリウム塩1重量%を添加したTSA培地上に充満させた8ppmの(噴霧過酸化水素ではなく)過酸化水素蒸気を含有する空気1mを用いた以外は実施例1と同様に行なった。
【0066】
得られた結果は図2に示す通りであり、ここでx軸は微生物の性質、y軸は回収率を示す。
【0067】
ピルビン酸ナトリウムが微生物コロニーの形成と計数を可能にしたのに対し、これを含有しない生育培地は微生物コロニーの形成をもたらさなかった。
【0068】
更にまた、回収率は対象となる微生物に関わらず常時80%以上であったため、極めて良好であったことがわかった。
【0069】
実施例4
実施例3と同様に行なったが、第1に、γ線照射による滅菌を行なわないピルビン酸ナトリウム1重量%添加の同様のTSA生育培地上に先ず充満させた8ppm過酸化水素を含有する空気1mのサンプルを採取した。第2に、上と同じ試験を繰返したが、ここでは、γ線照射の作用により滅菌した同じ生育培地について試験した。
【0070】
得られた結果は図3に示すとおりであり、ここでx軸は微生物の本質、y軸は回収率を示す。
【0071】
生育培地がγ線照射により滅菌されているか否かに関わらず、ピルビン酸ナトリウムはその作用を維持していることがわかる。
【0072】
実施例5
気体環境中過酸化水素の存在下または非存在下において、高濃度のピルビン酸塩(≧1%)を用いて実施例3と同じ条件下に行なった。
【0073】
1 ピルビン酸塩漸増濃度に対する微生物ミクロコッカス・ルテウスとシュードモナス・アエルギノーサの寛容性(試験は過酸化水素非存在下にて実施):
2.5%、5%および10%のピルビン酸塩濃度を与えたTSA培地上に生育するミクロコッカス・ルテウスとシュードモナス・アエルギノーサの回収率を実施例3の対照群を用いて過酸化水素非存在下でモニタリングした。
【0074】
ミクロコッカス・ルテウスとシュードモナス・アエルギノーサの回収率(%比)は寒天生育培地に添加したピルビン酸塩の種々の濃度との相関として図5の棒グラフでそれぞれ記載する。
【0075】
両方の場合において、ピルビン酸塩濃度が寒天培地の5重量%を超えた場合にミクロコッカス・ルテウスとシュードモナス・アエルギノーサの回収に対する有意な抑制作用が観察されている。
【0076】
2 気体環境中5ppmから15ppmの過酸化水素の存在下におけるピルビン酸塩の漸増濃度に対向する微生物ミクロコッカス・ルテウスとシュードモナス・アエルギノーサの寛容性:
5ppmから15ppmの過酸化水素の存在下で上記した試験と同様に行なった。TSA寒天生育培地にはそれぞれ、ピルビン酸塩1%、2%、3%、4%および5%を添加した。
【0077】
各例におけるミクロコッカス・ルテウスとシュードモナス・アエルギノーサの双方の回収率を図6の棒グラフで示す。
【0078】
3 気体環境中300ppmまで過酸化水素を増量し、そして、ピルビン酸塩の濃度を寒天生育培地の5重量%までのとした場合の過酷な条件下におけるミクロコッカス・ルテウスの寛容性:
過酸化水素の濃度をそれぞれ100ppmおよび300ppmとし、TSA寒天生育培地に対するピルビン酸塩の濃度を1重量%から5重量%とした場合のミクロコッカス・ルテウスの生育をモニタリングした。
【0079】
これらの条件下で得られた結果を表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
表1からわかる通り、高濃度の過酸化水素(300ppm)および重要な濃度のピルビン酸塩(5%)の双方があることにより、ミクロコッカス・ルテウスの生育が可能となることがわかる。
【0082】
実施例5に示した結果を総合すると、高濃度のピルビン酸塩は高濃度の過酸化水素の存在下における微生物生育の抑制を軽減する強力な能力を有することがわかる。
【0083】
したがって、本発明によれば、高濃度の過酸化水素を含有する気体環境中の微生物の存在を試験することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気または他の気体環境のサンプルを採取するための装置への連結手段を含み、1重量%より多く、5重量%までのピルビン酸の塩を含有する寒天生育培地が設置されているカセットまたはボックス。
【請求項2】
過酸化水素を含有する気体環境における微生物の存在を試験するためのキットであって、
(i)気体環境のサンプルを採取するための装置への連結手段を含むカセットおよび(ii)1重量%より多く、5重量%までのピルビン酸の塩を含有する寒天生育培地を含む前記キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−75206(P2010−75206A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275102(P2009−275102)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【分割の表示】特願2002−346986(P2002−346986)の分割
【原出願日】平成14年11月29日(2002.11.29)
【出願人】(390019585)ミリポア・コーポレイション (212)
【氏名又は名称原語表記】MILLIPORE CORPORATION
【Fターム(参考)】