説明

過酸化水素分解装置及び過酸化水素の分解方法

【課題】粒状の分解材を充填した分解材層に被処理水を通水して過酸化水素を分解するにおいて、過酸化水素分解時に発生するガスが分解材層から排出するのを促進し、分解材層内にガスの気泡が滞留することによる分解効率の低下を抑制する
【解決手段】過酸化水素を含んだ被処理水が通水され、過酸化水素を水と酸素に分解する粒状又は網状の分解材が充填された分解材層と、前記分解材層を上向き流れで通過するように被処理水を供給する供給装置と、前記分解材層中に配置され、分解材層の下面から上面を突出するまで延びるガス抜き整流棒と、を備えた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理水に含まれる過酸化水素を分解する装置及び方法に関し、特に、粒状又は網状の分解材が充填された分解材層に被処理水を通水して過酸化水素を分解する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素を含む水溶液(以下、単に「過酸化水素水」と称する)は、酸化剤,殺菌剤,漂白剤として広く利用されている。過酸化水素は、最終的には無害な水と酸素に分解するため、環境にやさしい工業薬品として用途が拡大している。主な用途としては、船舶から排出されるバラスト水の処理装置の装置内洗浄、飲料水や化粧品の製造過程における消毒処理、半導体の製造過程における洗浄処理、製紙の際のパルプ漂白、一般廃水及び工業廃水処理などが一例として挙げられる。
【0003】
各用途にて発生する過酸化水素を含んだ廃水は、過酸化水素を分解させるための装置で処理され、排出基準を満たすものは最終的に放流される。従来においては、アルカリ性の薬品を添加して廃水のpHを上げることによって過酸化水素を分解したり、活性炭塔に通水して過酸化水素を分解したりすることが行われている。しかしながら、前者の薬品を添加する方法は、廃水のpHを上げるための薬品と、アルカリ性となった廃水をさらに中和するための薬品が必要となってしまう。
【0004】
一方、後者の活性炭を使用する方法の場合、高濃度の過酸化水素処理は高流速でも低流速度でも困難であり、低濃度の過酸化水素処理でも高流速の処理は困難である。加えて、粒状の活性炭を充填した活性炭塔の場合、過酸化水素の分解時に発生する酸素ガスの気泡が充填層内に滞留し、過酸化水素と活性炭の接触を阻害する問題がある。過酸化水素と活性炭の接触が阻害されると、結果として装置の分解効率が低下する。
【0005】
また、充填層内に気泡が滞留すると充填槽内において局所的に流速が増加し、活性炭層を局所的に押し上げたり、活性炭の粒が塔外に流出したりする原因となる。そのため装置に供給する流量が制限されてしまう。流量が制限されることは、結果として装置の小型化を図ることを難しくする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−211487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、粒状又は網状の分解材を充填した分解材層に被処理水を通水して過酸化水素を分解するにおいて、過酸化水素分解時に発生するガスが分解材層から排出するのを促進し、分解材層内にガスの気泡が滞留することによる分解効率の低下を抑制できる過酸化水素分解装置及び分解方法を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、高濃度の過酸化水素を含む被処理水にも適用することができ、しかも短時間で過酸化水素を分解できる過酸化水素分解装置及び分解方法を提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、分解材層に供給する被処理水の流量を多くしても、分解ガスに同伴して分解材が装置外に流出するのを抑制でき、結果として装置の小型化を図ることのできる過酸化水素分解装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の過酸化水素分解装置は、被処理水に含まれる過酸化水素を分解処理する装置であって、過酸化水素を含んだ被処理水が通水され、過酸化水素を水と酸素に分解する粒状又は網状の分解材が充填された分解材層と、前記分解材層を上向き流れで通過するように被処理水を供給する供給装置と、前記分解材層中に配置され、分解材層の下面から上面を突出するまで延びるガス抜き整流棒と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
ガス抜き整流棒は、ガス抜き整流棒の水平断面積の合計をS1(m)、分解材が充填される空塔の水平断面積をS2(m)としたときに、S2/S1=10〜2000の範囲内となるように、設置本数を決めることが好ましい。複数のガス抜き整流棒は、分解材層内に均等に配列することができる。
【0012】
上記構成の過酸化水素分解装置は、分解材層の空塔容積をQ1(m)、被処理水の流量をQ2(m/hr)としたとき、分解材層の空塔速度(SV)が10〜500hr−1までの高速処理を行うことができる。このとき、高い流速の被処理水によって分解材層が局所的に押し上げられたり、分解材の粒が装置外に流出したりするのを防止するために、真比重が2.5(g/cm)以上の分解材を用いることができる。分解材としては、二酸化マンガン(MnO)の粉末を粒状の担体の表面に担持させたものを用いることができる。
【0013】
特に、高濃度且つ高速処理の条件下においては、過酸化水素の分解時に分解材が破損したり、触媒が担体から剥がれたりする場合がある。このように分解材から脱離した微粉を放流しないように、上記の過酸化水素分解装置は、分解材層を通過した被処理水が供給され、過酸化水素分解時に脱離した分解材の微粉を回収する固液分離装置をさらに備えた構成とすることができる。
【0014】
本発明の過酸化水素の分解方法は、被処理水に含まれる過酸化水素を分解する方法であって、粒状又は網状の分解材が充填された分解材層に、前記分解材層を上向き流れで通過するように被処理水を供給して、過酸化水素を水と酸素に分解すると共に、前記分解材層の下面から上面を突出するまで延びるように分解材層に配置されたガス抜き整流棒によって、過酸化水素分解時に発生したガスの排出を促進させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、粒状又は網状の分解材を充填した分解材層に被処理水を通水して過酸化水素を分解するにおいて、分解材層を上向き流れで通過するように被処理水を供給すると共に、分解材層の下面から上面を突出するまで延びるガス抜き整流棒を分解材層に配置したことにより、過酸化水素の分解時に発生したガスを速やかに分解材層から排出することができる。その結果、発生したガスの気泡によって分解材と過酸化水素の接触効率が低下するのを抑制でき、安定した分解効率を維持することが可能となる。
【0016】
さらに本発明によれば、過酸化水素分解時に発生するガスの量が多くなっても、ガス抜き整流棒によって分解材層から速やかに排出できるので、高濃度の過酸化水素を含む水を被処理水とすることができる。
【0017】
さらに本発明によれば、過酸化水素分解時に発生するガスをガス抜き整流棒によって速やかに排出できるので、分解材層内に気泡が滞留することに因る流量制限を緩和することができる。そのため空塔速度(SV)を高く設定することができ、結果として装置の小型化を実現することができる。空塔速度を高くすると分解材層の持ち上がりや分解材の流出が懸念される。その対策として、真比重が大きい分解材を用いることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態に従う過酸化水素分解装置の全体構成を示す。
【図2】上記過酸化水素分解装置の分解塔の内部構造を示す斜視図である。
【図3】過酸化水素分解処理時における分解塔内の様子を模式的に示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態に従う過酸化水素分解装置の全体構成を示す。
【図5】分解塔内に充填する分解材を網状にした変形例である。
【図6】本発明の効果を確認するために行った試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施形態に従う過酸化水素分解装置及び分解方法について、添付図面を参照しながら詳しく説明する。但し、以下に説明する実施形態によって本発明の技術的範囲は何ら限定解釈されることはない。
【0020】
(第1実施形態)
第1実施形態に従う過酸化水素分解装置について、図1を参照しながら説明する。本実施形態に従う過酸化水素分解装置は、高濃度の過酸化水素を含む被処理水を処理可能な装置の一例である。図1に示すように、過酸化水素分解装置1は、被処理水を貯留するタンク2と、通水される被処理水の過酸化水素を分解する分解塔3と、タンク2内の被処理水を移送及び循環して分解塔3に供給する供給装置4と、被処理水中に混入した分解材の微粉を分離回収する固液分離装置5を備えている。
【0021】
タンク2と分解塔3は供給装置4を介して例えば配管等の流路(供給ライン)41で連結されており、供給装置4を稼働させることによってタンク2内の被処理水が連続的に分解塔3に供給される構成である。さらに分解塔3とタンク2は固液分離装置5を介して例えば配管等の流路(循環ライン)42で連結されており、分解塔3から排出された被処理水が固液分離装置5を介してタンク2に戻される構成である。供給ライン41は途中で排出ライン43に分岐されており、バルブ44a,44bの開閉によってラインの切り替えが可能となっている。
【0022】
供給装置4は、例えばポンプなどを用いることができる。移送及び循環を行うために、定量ポンプやインバータ装置を備えたポンプなどを用いることができる。流量調整は、配管に設置した流量調整バルブ等(不図示)によって行うようにしてもよい。また、固液分離装置5は、例えばサイクロンなどの遠心分離器、濾過器、サンドセパレーターなどを用いることができる。その中でも、サイクロンが好ましい。
【0023】
分解塔3は、例えば密閉構造の円筒形の塔本体31を有している。塔本体31の底部及び上部には、被処理水の供給ノズル31a及び排出ノズル31bがそれぞれ配置されており、前述の供給ライン41及び循環ライン42がそれぞれ接続されている。分解塔3内には、過酸化水素を水と酸素に分解する粒状の分解材が充填されて分解材層32を形成している。分解材層32は、例えば層厚が300〜1500mm、好ましくは400〜800mmの範囲内となるように粒状の分解材が充填されている。
【0024】
分解材層32は、塔内に配置した支持部材(例えば目皿)33によって支持されている。支持部材33の面内には、上下に貫通する通水孔33aの複数が形成されており、被処理水は、これら通水孔33aを通じて分解材層32に分散供給される。通水孔33aから分解材が落下しないよう、通水孔33aの上面に落下防止用のストレーナー33bを設置している。ストレーナー33bは、キャップ状の部材の側面に分解材の粒径より幅の狭いスリット33cの複数を形成した構成が一例として挙げられる。但し、必ずしもストレーナー33bを設ける必要はなく、通水孔33aの径を分解材の粒径より小さく設計するようにしてもよい。通水孔33a,ストレーナー33b,スリット33cの数及び配列は、分解塔3の内径や処理流量などに応じて決めることができる。
【0025】
分解材は、過酸化水素に対する分解能を備えた触媒を、粒状の担体の表面に担持させたものを用いることができる。担持方法は特に制限されることはなく、液浸法やバインダーなどを用いた公知の担持方法を採用することができる。触媒としては、二酸化マンガン(MnO)などから選択される1種以上の金属化合物が一例として挙げられる。その中でも、二酸化マンガン(MnO)が好ましい。分解材の有効表面積を大きくするために、触媒は、例えば平均粒径が30〜40μmの粉末を用いることが好ましい。このような触媒を担持させる担体は、過酸化水素に耐性を有する材料であればよく、特に材料が制限されることはない。担体の具体例としては、ガーネット、セラミックス、サクランダム、シリカなどから選択される1種以上が一例として挙げられる。また他の一例として、鉄、ステンレス、真鍮などの金属が挙げられる
【0026】
なお、分解材の流出を防止しながらの高速処理を実現するためには、分解材の真比重が2.5(g/cm)以上、好ましくは3.5〜4.5(g/cm)であり、さらに、分解ガスの抜けが速やかになるように分解材の嵩比重が1.5(g/cm)以上、好ましくは1.5〜2.5(g/cm)となる担体を用いるのが好ましい。そのような担体としては、ガーネットが好適である。また、分解材の粒度は、例えば0.5〜3.0であることが好ましい。
【0027】
分解材は過酸化水素を水と酸素に分解するので、酸素がガス化する際の膨張によって分解材が破損等する場合がある。そのため、サイクロン等の固液分離装置5を配置して分解材の微粉を回収するようにしているが、使用する分解材自体の磨滅率(測定方法;JWWA A 103-1988)が2.0%以下であることが好ましい。
【0028】
前述したように、分解材を構成する触媒と担体には、二酸化マンガン(触媒)とガーネット(担体)の組み合わせが好適である。この組み合わせにおける分解材の成分表を下記に示す。成分表中のMnOが触媒の割合であり、SiO,Al及びFeが担体の主成分である。
【0029】
【表1】

【0030】
分解材層32内には、上下方向(すなわち、被処理水の流れ方向)に延びる棒状部材34が複数本配置されている。この棒状部材34を配置することによってガスの排出が促進されるので、本明細書においては「ガス抜き整流棒」と称する。ガス抜き整流棒34は、分解材層32の下面から上面を突出するまで延びる長さとなっている。詳しくは図2に示すように、ガス抜き整流棒34は、支持部材33の表面に立設することができる。このとき、支持部材33の水平面内においてガス抜き整流棒34が均等に配列されることが好ましい。
【0031】
図2には、5本のガス抜き整流棒34を配置した構成を一例として示しているが、ガス抜き整流棒34の設置本数は、分解材層32の水平断面積に占めるガス抜き整流棒34の面積の割合に基づいて決定することが好ましい。具体的には、ガス抜き整流棒34の水平断面積の合計をS1(m)、分解材が充填される空塔の水平断面積をS2(m)としたときに、S2/S1=10〜2000、好ましくは50〜1000、さらに好ましくは100〜1000となるように設置本数を決めることが好ましい。S2/S1の値が小さ過ぎると、ガス抜きの効果が十分に得られない場合がある。反対に、S2/S1の値が大き過ぎると、水の流れが良くなるだけで分解材と過酸化水素の接触効率が低下する場合がある。なお、前述の範囲内におけるS2/S1の最適値は、被処理水中の過酸化水素濃度,流速,目標とする分解濃度などの処理条件によって変わるので、これらの設定値を考慮してS2/S1を決定するのが好ましい。なお、分解材が充填される空塔の水平断面積とは、ガス抜き整流棒34を設置していないときの分解材層32の水平断面積に相当する。図1の例では、塔本体31の内径の断面積でもある。
【0032】
ガス抜き整流棒34は、例えば外径が10〜100mmの円柱形の棒状部材を用いるのが好ましい(棒状部材には、内部が空洞のものも含まれる)。外径が小さ過ぎると強度不足や設置本数が多くなり過ぎる場合がある。反対に、外径が大き過ぎると1本あたりのガス抜き作用は大きいが、S2/S1の値によっては塔径や塔重量の増加になる場合がある。但し、棒状部材の断面形状が限定されることはなく、三角形、正方形、長方形、楕円、多角形など、種々の形状とすることも可能である。また、ガス抜き整流棒34を構成する棒状部材は、過酸化水素に耐性を有していればよく、材料が特に制限されることはない。材料の一例としては、例えばSTPGなどの一般鋼材、SUSなどの特殊鋼材、塩化ビニルなどの樹脂などを挙げることができる。棒状部材としてパイプを使用する場合は、被処理水が浸入しないように端部を封止する。また、表面抵抗を減らすための棒状部材の表面にコーティングを施すようにしてもよい。
【0033】
ガス抜き整流棒34の配置本数、距離は、処理原水の過酸化水素濃度や処理速度によって設定するが、ガス抜き整流棒34の直径の5〜100倍、好ましくは10〜50倍の距離で、分解材が充填された塔内に均等に配置することが好ましい。
【0034】
(作用)
続いて、図1に示す過酸化水素分解装置を用いて、被処理水に含まれる過酸化水素を分解する方法について説明する。被処理水は主として廃水であり、その中には過酸化水素以外の成分や不純物等が含まれているが、本実施形態においては過酸化水素を含んだ水であれば特に水質が制限されることはない。過酸化水素の濃度は、1000mg/lまでの低濃度〜中濃度のものから、1000〜100000mg/lといった従来技術では処理できない高濃度のものまで適用可能である。さらに、本実施形態の分解材は、過酢酸の分解もできるので、例えば半導体の洗浄過程において添加されることがある過酢酸が含まれていてもよい。実際に分解試験を行ったところ、SV=20hr−1において200mg/lの過酢酸が検出値以下まで分解できたことを確認している。
【0035】
廃水としては、既述したように、船舶から排出されるバラスト水の処理装置の装置内洗浄廃水、飲料水や化粧品の製造過程における消毒処理を行った廃水、半導体の製造過程における洗浄処理を行った廃水、製紙の際のパルプ漂白を行った廃水、一般廃水及び工業廃水などが一例として挙げられる。
【0036】
タンク2に貯留された被処理水は、ポンプ等の供給装置4を駆動させることによって分解塔3に供給される。被処理水の供給量は、分解材層32の空塔容積をQ1(m)、被処理水の流量をQ2(m/hr)としたとき、分解材層32の空塔速度(SV=Q2/Q1)が10〜500hr−1、好ましくは10〜200hr−1、さらに好ましくは10〜100hr−1となる範囲内に流量調整することが好ましい。但し、流量が限定されることはなく、処理する過酸化水素の濃度や目標とする分解濃度、並びに目標とする処理時間など総合的な処理条件に応じて変えることができる。
【0037】
分解塔3内に供給された被処理水は、支持部材33の通水孔33a及びストレーナー33bのスリット33cを通じて分解材層32内に分散供給され、さらに上向き流れで分解材層32を通過する。このとき、分解材層32と過酸化水素が接触し、過酸化水素が水と酸素に分解されるが、ガス化した酸素による大量の気泡が発生する。分解材層32を通過した被処理水は、排出ノズル31bを介して塔外に排出される。過酸化水素が1000mg/lを超える高濃度の場合、1パスの通水では目標値(例えば、検出値以下)にまで分解しきれない。そのため、塔外に排出された被処理水は、循環ライン42を介してタンク2に戻し、再び分解塔3に供給する。このような循環処理を繰り返して目標値にまで過酸化水素が分解されると、バルブ44a,44bによって排出ライン43に切り替えて処理後の水を装置外に排出する。ラインの切り替えは、予め決めた時間が経過したときに行ってもよく、サンプリングした被処理水の分析結果に基づいて行うようにしてもよい。
【0038】
ここで、ガス抜き整流棒34を配置することによってガスの排出が促進される理由について、図3を参照しながら説明する。まず、例えば図1に示した分解塔3において粒状の分解材を充填しないで通水した場合、塔壁面との摩擦が原因となって中央部の方が水が流れやすい。これに対して、粒状の分解材を充填すると、図3(a)に模式的に示すように、中央よりも塔の内周面側の方が水が流れやすくなる。そのため、分解材層32の中央部を流れる水の量が減り、分解材層32の中央で発生するガスの排出が停滞する。大量に発生するガスの気泡は瞬く間に分解材層32内に充満し(図のハッチングの部分である)、中央部の水の流れをさらに悪化させる。こうして分解材層32内に充満する気泡は、接触効率の低下や分解材層32の中央を持ち上げる原因となる。
【0039】
一方、本実施形態のようにガス抜き整流棒34を設置すると、図3(b)に模式的に示すように、ガス抜き整流棒34の外周で水の流れがよくなるので、図3(a)の中央部のような水の流れが減る領域を少なくすることができる。これにより、分解材層32内の水の流れが均一化され、ガスの排出が促進されることとなる。
【0040】
以上のように、本実施形態によれば、粒状の分解材を充填した分解材層32を上向き流れで通過するように被処理水を供給すると共に、分解材層32の下面から上面を突出するまで延びるガス抜き整流棒34の複数を分解材層32に配置したことにより、過酸化水素の分解時に発生したガスを速やかに分解材層32から排出することができる。その結果、発生したガスの気泡によって分解材と過酸化水素の接触効率が低下するのを抑制でき、安定した分解効率を維持することが可能となる。
【0041】
さらに本実施形態によれば、過酸化水素分解時に発生するガスをガス抜き整流棒34によって速やかに排出できるので、分解材層32内に気泡が滞留することに因る流量制限を緩和することができる。そのため空塔速度(SV)を高く設定することができ、結果として装置の小型化を実現することができる。空塔速度を高くすると分解材層の持ち上がりや分解材の流出が懸念される。しかし、真比重が好ましくは2.5〜4.5(g/cm)の分解材を用いることによって、例えばSV=100以上に設定しても分解材層32の持ち上がりや流出を防止することが可能である。
【0042】
以上のように、過酸化水素分解装置1は、高濃度且つ高速の処理を実現できる特長がある。勿論、低濃度−低速,高濃度−低速,又は低濃度−高速の処理にも適用可能である。さらに、過酸化水素分解装置1は、ガス抜きによる分解効率の維持および装置の小型化に加えて、過酸化水素を分解するための薬品を使用しないという特長がある。その結果、本実施形態による過酸化水素分解装置1は、コンパクトな装置で環境にやさしい過酸化水素の分解処理を実現している。例えば、バラスト水処理装置に適用する場合、装置を船舶内に設置することもある。しかし、本実施形態による過酸化水素分解装置1にあっては、装置の小型化が可能であるため、船舶内に設置しても船舶の動力モーターにかかる負荷を著しく増加させることが抑えられる。
【0043】
(第2実施形態)
本実施形態の過酸化水素分解装置は、例えば過酸化水素が1000mg/l以下の低濃度から中濃度の被処理水に適用される装置の一例である。すなわち、1パスの通水で目標値(例えば、検出値以下)にまで分解できる場合、図1のような循環ライン42を省略することもできる。図4は、循環ライン42を省略した本実施形態に従う過酸化水素分解装置6の構成を示している。なお、第1実施形態と同じ構成については同じ符号を付すことによって詳しい説明を省略する。
【0044】
本実施形態の過酸化水素分解装置6によっても、過酸化水素の分解時に発生したガスを速やかに分解材層32から排出することができる。その結果、発生したガスの気泡によって分解材と過酸化水素の接触効率が低下するのを抑制でき、安定した分解効率を維持することが可能となる。なお、過酸化水素が低濃度から中濃度の被処理水の場合、例えばSV=10〜50hr−1の範囲内となるように被処理水の供給量を設定してもよい。
【0045】
サイクロン等の固液分離装置5は、図4のように排出ライン43の途中に設けている。しかし、過酸化水素が低濃度である場合、酸素ガスの発生量も減少するので分解材の破損等も軽減される。加えて、空塔速度(SV)を低く設定した場合には分解材の流出も起こり難い。従って、サイクロン等の固液分離装置5を省略することも可能である。
【0046】
ここまでは粒状の分解材を用いた実施形態を説明した。しかし、分解材は粒状に限らず、網状であってもよい。網状の分解材としては、網状部材の表面に触媒の粉末を担持させた分解材を用いることができる。網状部材は、例えば鉄、ステンレス、真鍮などの金属で形成された金網を用いることができる。また、触媒は、例えば既述の粒状の分解材と同様の触媒を用いることができる。
【0047】
図5は、網状の分解材を充填して構成した分解材層32の一例を示す。図5の例は、予め触媒が担持されている平面状の網状部材7の複数を、支持部材33上に積層することによって分解材層を構成している。この場合、ストレーナー33bを省略してもよい。網状部材7は、面内にガス抜き整流棒を通す穴71が形成され、外周が円形に形成されている。塔本体31の水平断面形状が四角形の場合には、外周が四角形の網状部材を用いる。網状部材7の積層数は、粒状の分解材と同様に、例えば分解材層32の層厚が300〜1500mm、好ましくは400〜800mmの範囲内となるように設定することができる。このような網状の分解材7を用いても、粒状の分解材を用いた実施形態と同様の作用・効果を得ることができる。
【実施例】
【0048】
(実施例1)
続いて、本発明の効果を確認するために行った実施例について説明する。本例は、透明の樹脂材料で製作したろ過カラムに分解材を充填し、第1実施形態の循環方式で過酸化水素を分解処理した実施例である。処理する被処理水の過酸化水素濃度は、18900mg/l(実験1),21500mg/l(実験2),17800mg/l(実験3)、19600mg/l(実験4)であった。その他の詳しい試験条件を以下に示し、試験の結果を表2に示す。
・ろ過カラム:内径75mm、高さ1000mm
・分解材:ガーネットの表面にMnOを担持させた分解材
・分解材層:層厚500mm
・SV=100hr−1
・ガス抜き整流棒:直径1mm、5本
【表2】

【0049】
表2の結果から明らかなように、17800mg/l以上の高濃度の被処理水であっても、150minの短い処理時間で目標値(検出値以下)まで分解できている。図6(a)の写真は、実験1のろ過カラムを撮影したものである。図6(a)から分かるように、ガス抜き整流棒を設けることによってガスの滞留が防止されている。実験2−4も同様にガスの滞留が防止されていた。これに対し、ガス抜き整流棒を設けなかった場合には、図6(b)のように分解材層内に気泡が充満してしまう。
【0050】
(実施例2)
続いて、実施例2について説明する。本例は、透明の樹脂材料で製作したろ過カラムに分解材を充填し、第2実施形態の1パス方式で過酸化水素を分解処理した実施例である。処理する被処理水の過酸化水素濃度は、100mg/l(実験5),200mg/l(実験6),500mg/l(実験7)、1000mg/l(実験8)であった。さらに、実施例2では各実験においてSV=10,20,30,40,50のそれぞれに設定した。その他の条件についは実施例1と同様である。本例の試験結果は表3に示す。
【表3】

【0051】
以上、本発明を具体的な実施形態に則して詳細に説明したが、形式や細部についての種々の置換、変形、変更等が、特許請求の範囲の記載により規定されるような本発明の精神及び範囲から逸脱することなく行われることが可能であることは、当該技術分野における通常の知識を有する者には明らかである。従って、本発明の範囲は、前述の実施形態及び添付図面に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載及びこれと均等なものに基づいて定められるべきである。
【符号の説明】
【0052】
1 過酸化水素分解装置
2 タンク
3 分解塔
34 ガス抜き整流棒
4 供給装置
5 固液分離装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水に含まれる過酸化水素を分解処理する装置であって、
過酸化水素を含んだ被処理水が通水され、過酸化水素を水と酸素に分解する粒状又は網状の分解材が充填された分解材層と、
前記分解材層を上向き流れで通過するように被処理水を供給する供給装置と、
前記分解材層中に配置され、分解材層の下面から上面を突出するまで延びるガス抜き整流棒と、
を備えたことを特徴とする過酸化水素分解装置。
【請求項2】
前記ガス抜き整流棒の設置本数は、
前記ガス抜き整流棒の水平断面積の合計をS1(m)、分解材が充填される空塔の水平断面積をS2(m)としたときに、
S2/S1=10〜2000となっていることを特徴とする請求項1に記載の過酸化水素分解装置。
【請求項3】
分解材層の空塔容積をQ1(m)、被処理水の流量をQ2(m/hr)としたとき、
分解材層の空塔速度(SV=Q2/Q1)が10〜500hr−1であることを特徴とする請求項1又は2に記載の過酸化水素分解装置。
【請求項4】
過酸化水素を分解する触媒を粒状の担体の表面に担持させた分解材を用い、
前記分解材の真比重が2.5(g/cm)以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の過酸化水素分解装置。
【請求項5】
分解材層を通過した被処理水が供給され、過酸化水素分解時に脱離した分解材の微粉を回収する固液分離装置をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の過酸化水素分解装置。
【請求項6】
被処理水に含まれる過酸化水素を分解する方法であって、
粒状又は網状の分解材が充填された分解材層に、前記分解材層を上向き流れで通過するように被処理水を供給して、過酸化水素を水と酸素に分解すると共に、前記分解材層の下面から上面を突出するまで延びるように分解材層に配置されたガス抜き整流棒によって、過酸化水素分解時に発生したガスの排出を促進させたことを特徴とする過酸化水素の分解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−250172(P2012−250172A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124373(P2011−124373)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【特許番号】特許第4860008号(P4860008)
【特許公報発行日】平成24年1月25日(2012.1.25)
【出願人】(391023415)株式会社アサカ理研 (6)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】