説明

過酸化水素分解触媒剤及びその製造方法

【課題】金属塩触媒を使用することなく、酸素発生流量の経時変化がなくかつ触媒の有効期間を長くし、多用途に用いることのできる過酸化水素分解触媒剤及びその製造方法を提供する。
【解決手段】潮解性を示す塩結晶とカタラーゼを接触させ、前記塩結晶の潮解により、前記塩結晶にカタラーゼを浸透させ、乾燥させ、粉体にしたことを特徴とする過酸化水素分解触媒剤の構成とした、塩化ナトリウム結晶とカタラーゼを接触させ、前記塩化ナトリウムの潮解により、前記塩化ナトリウム結晶にカタラーゼを浸透させ、乾燥させ、粉体にしたことを特徴とする過酸化水素分解触媒剤の製造方法の構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化水素から酸素を発生させるための過酸化水素分解触媒剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素は、過酸化水素を分解することにより得ることができる。その際、分解反応速度を上げるため、触媒が使用される。触媒としては、二酸化マンガン、酵素の一種であるカタラーゼなどを使用することが従来から知られている。
【0003】
酸素生成の触媒としては、特許文献1に記載の「酸素発生剤」が公開され、製品化され画期的で高い評価を得ている。過酸化物粒子を表面処理してマイクロカプセル化し、さらにその外表面に特殊な触媒を付着させることにより、酸素の発生量および発生持続時間を自在にコントロールするとともに、反応液の汚濁ならびにその有害性を取り除き、簡便、安価、安全、確実な酸素発生剤を得ることを目的に、「酸素発生剤は、過酸化物粒子に対し、水溶性皮膜を施してマイクロカプセル化するとともに、その外表面にカタラーゼまたはレオネットを付着させて粉体状とし、あるいはこれを錠剤化もしくは顆粒化させ、これにより従来のように酸素発生剤と触媒とを別個に分包する必要がなく、単に水中に投入するだけの簡単な操作で、長時間にわたり安定した酸素供給が可能となるほか、反応液の汚濁がなく、しかも動植物に対する有害性も全くない。」というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−107401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の発明は、酸素発生効力の有効期間が1年程度であり、高地や緊急酸素供給で使用するために備蓄するには期間が短く、酸素発生器と酸素発生剤を同梱する際の交換作業の煩雑さ、設置費用や船便による輸送などを考慮すると、少なくとも3年以上の有効期間が必要であるという課題がある。
【0006】
他方、触媒として二酸化マンガン、硫酸マンガンなどの金属塩を用いた場合、長期保管、安定的酸素供給も可能であるが、反応液には有害物が残り、廃棄すると動植物に悪影響を及ぼすことから、酸素供給手段としては安全面から不向きであった。
【0007】
そこで、本発明は、金属塩触媒を使用することなく、酸素発生流量の経時変化がなくかつ触媒の有効期間を長くし、多用途に用いることのできる過酸化水素分解触媒剤及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、潮解性を示す塩結晶とカタラーゼを接触させ、前記塩結晶の潮解により、前記塩結晶にカタラーゼを浸透させ、乾燥させ、粉体にしたことを特徴とする過酸化水素分解触媒剤の構成、前記塩結晶が、塩化ナトリウム結晶であることを特徴とする過酸化水素分解触媒剤の構成、前記粉体を、顆粒化又は錠剤化したことを特徴とする前記何れかに記載の過酸化水素分解触媒剤の構成とした。さらに、塩化ナトリウム結晶とカタラーゼを接触させ、前記塩化ナトリウムの潮解により、前記塩化ナトリウム結晶にカタラーゼを浸透させ、乾燥させ、粉体にしたことを特徴とする過酸化水素分解触媒剤の製造方法の構成とした。
【0009】
潮解とは、物質が空気中の水(水蒸気)を取り込み自発的に水溶液化する現象のことである。潮解は、物質の結晶表面に微小量の飽和水溶液があるとき、その飽和蒸気圧が大気中の水蒸気圧より小さい場合に起こる。大気中の水蒸気が飽和水溶液表面に取り込まれ、飽和水溶液は薄まる。しかし結晶の物質量は十分に大きく多少の水が結晶を溶かしても結晶が溶け尽くすことはない。よって、飽和水溶液の量は増え続け、やがてすべての結晶を溶かし、さらにその溶液の水蒸気圧が大気中の水蒸気圧と等しくなるまで薄まっていく。そうなると、それ以上の水の吸収は停止する。本発明では、全ての結晶が軟化するまで潮解させる。
【0010】
潮解性を示す物質としては、クエン酸 、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウムなどがある。特に、塩化ナトリウムが、入手し易く、安全であるので、本発明に最適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、塩化ナトリウム結晶などの潮解性を活用し、その結晶にカタラーゼ、或いはカタラーゼ製剤を浸透(含浸も含む)させ、乾燥させることで、触媒の活性力を長期間保持し、有効期間を3年以上にすることができる。
【0012】
また、乾燥して得た粉体をさらに顆粒化、錠剤化し、さらに硬度、溶解性を他の製剤、製造方法によって調整することにより、本願発明の製剤を水と接触させた場合、過酸化水素分解反応速度を制御して、酸素の発生量、発生継続時間を自在にコントロールすることができる。尚、反応液が汚濁、有害物を生成することもなく、逆に、微生物に汚染された水であっても殺菌する作用があり、動植物に対して無害である。
【0013】
その結果、本願発明の過酸化水素分解触媒剤を利用した過酸化水素から酸素を生成装置は、携帯性がよく高山病対策用として、例えば海抜2000m以上の高地旅行者、登山者に最適である。さらに火災や急病などの緊急用酸素供給をはじめとして多用途に用いることができる。さらに、原材料が安価で安全性が高く、しかも長期間に酸素発生流量が保持されるなど種々の効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明である過酸化水素分解触媒剤の触媒活性を、経過年数の異なる本願発明の過酸化水素分解触媒剤を用いて、酸素発生量を測定し、比較した結果示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本願発明である過酸化水素分解触媒剤及びその製造方法を詳細に説明する。
【実施例1】
【0016】
過炭酸ソーダ(2NaCO・H)に、水を加えると、炭酸ナトリウムと過酸化水素水に解離する。ここで触媒が存在していると、過酸化水素水の分解速度が促進され、水と酸素が発生する。
【0017】
触媒として、塩化ナトリウム結晶に過酸化水素分解酵素であるカタラーゼを吹き付け又は噴霧し、塩化ナトリウムの潮解性を活用して充分に染み込ませ、その後、乾燥を行うことで粉体にした過酸化水素分解触媒剤を使用する。
【0018】
過炭酸ソーダを水中に投入すると徐々に溶解する。続けて過酸化水素分解触媒剤を過炭酸ソーダの溶解速度に適合した分量で投入すると、先に溶解する過炭酸ソーダとの反応を制御することが可能である。尚、一定量の酸素を一定時間安定的に発生し続けるようにすることもできる。
【0019】
また、過酸化水素分解触媒剤を顆粒化又は錠剤化した場合は、その硬度を調整することにより、ミクロン単位の粒子間の反応を安定的にコントロールして酸素発生剤の溶解速度を自由に調整することができる。
【0020】
使用する触媒剤の原料は、水中において過炭酸ソーダなどと反応しても反応液が汚濁するおそれがなく、しかも動植物に対する有害性も全くない。また、長期間保存が可能であり、簡便で安価であり、安全で確実に有効期間の長いものである。
【実施例2】
【0021】
触媒剤として、塩化ナトリウムを約5kgと、アスクスーパー(三菱ガス化学社製カタラーゼを主成分とする過酸化水素分解剤(液体))を約500g使用する。
【0022】
まず、塩化ナトリウム結晶を攪拌しながら、アスクスーパーを噴霧すると、約20分後には塩化ナトリウムが潮解して軟化し、約30分後にはカタラーゼ酵素が充分に浸透したことが目視できた。
【0023】
次に、5枚のトレイに均一に分割して取り出し、棚式の乾燥機において、約30℃の温風を循環させ、8時間以上の乾燥を行うことで、粉体の本願発明である過酸化水素分解触媒剤を得ることができた。
【実施例3】
【0024】
さらに、実施例2の粉体状の本願発明である過酸化水素分解触媒剤全量に対して、デキストリンを約130g加えて攪拌し、造粒機を用いて直径が約1.5mmで硬度4の球状に成型し、顆粒状の本願発明である過酸化水素分解触媒剤を得ることができた。
【実施例4】
【0025】
図1に示すように、実施例3で得られた本願発明である過酸化水素分解触媒剤(2004年10月9日製造/以下、「本願発明」という。)を製造後、異なる期間(図1(1)〜(6))、室温(20℃前後)に保管し、過炭酸ソーダ45g、本願発明14g、反応水150ccの反応組成にて、酸素の発生量(流量L/分)の径時変化(10〜360秒まで)を観測した。
【0026】
図1から明らかなように、本願発明である過酸化水素分解触媒剤は、1年以上、3年/図1(4)、5年/図1(5)経過しても、過酸化水素分解反応に基づく酸素生成量はほぼ一定であり、本願発明の高い触媒活性が低下せずに長期間維持される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潮解性を示す塩結晶とカタラーゼを接触させ、前記塩結晶の潮解により、前記塩結晶にカタラーゼを浸透させ、乾燥させ、粉体にしたことを特徴とする過酸化水素分解触媒剤。
【請求項2】
前記塩結晶が、塩化ナトリウム結晶であることを特徴とする請求項1に記載の過酸化水素分解触媒剤。
【請求項3】
前記粉体を、顆粒化又は錠剤化したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の過酸化水素分解触媒剤。
【請求項4】
塩化ナトリウム結晶とカタラーゼを接触させ、前記塩化ナトリウムの潮解により、前記塩化ナトリウム結晶にカタラーゼを浸透させ、乾燥させ、粉体にしたことを特徴とする過酸化水素分解触媒剤の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−236082(P2011−236082A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108862(P2010−108862)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(510129646)有限会社ウーズブレイクジャパン (1)
【Fターム(参考)】