説明

過酸化物の還元方法

【課題】高転化率及び高収率下に実施することができる過酸化物の還元方法を提供する。
【解決手段】遷移金属を含有する触媒の存在下、過酸化物と一酸化炭素を反応させる過酸化物の還元方法。遷移金属としては、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、レニウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金などが挙げられるが、過酸化物を効率的に還元するという観点から周期律表の7族〜10族の金属が好ましい。過酸化物としては過酸化水素、有機ハイドロパーオキサイド、過酸化ジアルキル、過カルボン酸、過酸エステル、過酸化ジアシルなどがあげられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化物の還元方法に関するものである。更に詳しくは、本発明は、高転化率及び高収率下に実施することができる過酸化物の還元方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エチルベンゼンハイドロパーオキサイドやクメンハイドロパーオキサイド等の過酸化物をプロピレンと反応させてプロピレンオキサイドを得る方法は公知である。しかしながら、それらの方法においてプロピレンオキサイドを得たエポキシ化反応液中に残存する過酸化物は、その後の工程で望ましくない化合物に転化したり、その他の望ましくない副反応の原因となることが知られている。そのため通常はエポキシ化反応液中に残存する過酸化物を最小限にするために、触媒が活性低下した場合はエポキシ化の反応温度をあげたり触媒を交換したりする対応が行われている。
【0003】
望ましくない副反応などを抑制しながらエポキシ化反応液中に残存する過酸化物を転化する方法が特許文献1、特許文献2等に記されているが、該特許公報に記されている方法は、効率的及び/又は長期的に安定して過酸化物を転化させるという観点では十分とは言い難いものである。また過酸化物を触媒を用いて水素で還元する方法は公知であるが、炭素−炭素二重結合を有する化合物が共存している場合は、過酸化物の還元と同時に炭素−炭素二重結合の水素化も同時に起こるという問題がある。
【0004】
【特許文献1】米国特許第4059598号明細書
【特許文献2】特開平2003−160572号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる現状において、本発明が解決しようとする課題は、過酸化物の還元方法に関するものである。更に詳しくは、本発明は、高転化率及び高収率下に実施することができる過酸化物の還元方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、遷移金属を含有する触媒の存在下、過酸化物と一酸化炭素を反応させる過酸化物の還元方法に係るものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、高転化率及び高収率下に実施することができる過酸化物の還元方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
遷移金属を含有する触媒に含まれる遷移金属としては、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、レニウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金などがあげられるが、過酸化物を効率的に還元するという観点から周期律表の7族〜10族の金属が好ましい。また遷移金属の価数や状態は本質的に一酸化炭素を過酸化物の還元に対して活性化できさえすれば、特に限定されるものではない。
【0009】
遷移金属を含有する触媒は過酸化物又は過酸化物を含む溶液に溶けても(均一触媒)、溶けなくても(固体触媒)構わないが、本反応を簡便及び効率的に実施するという観点では固体触媒である方が好ましい。均一触媒としては鉄ペンタカルボニル、トリルテニウムドデカカルボニル、ジコバルトオクタカルボニルなどの遷移金属カルボニル錯体やその他の遷移金属錯体などがあげられる。固体触媒としては、遷移金属をシリカ、アルミナ、チタニア、活性炭などの担体に担持させたもの、例えば鉄−シリカ、鉄−アルミナや、ラネー鉄、ラネーコバルト、アンモニア合成用の溶融鉄、一酸化炭素転化用の鉄−クロム、エチルベンゼン脱水素用の鉄−K−Ce−Mo、オゾン分解用の鉄−マンガン、ホルマリン製造用の鉄−モリブデンなどの多孔質遷移金属などがあげられる。固体触媒の形状は錠剤、押し出し、ペレット、球、リングなどいずれの形状であってもよい。そのままの形状で反応などに用いてもよいし、適当な大きさに破砕して用いてもよい。
【0010】
過酸化物としては過酸化水素、有機ハイドロパーオキサイド、過酸化ジアルキル、過カルボン酸、過酸エステル、過酸化ジアシルなどがあげられるが、本還元方法は有機ハイドロパーオキサイドの還元に好適に用いられる。有機ハイドロパーオキサイドとしてはエチルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイドなどがあげられ、クメンハイドロパーオキサイドが更に好ましい。
【0011】
本還元方法は過酸化物あるいは過酸化物を含む溶液を用いて行うことができるが、炭素−炭素二重結合を有する化合物の共存下で好適に行うことができる。従来知られている水素による方法では過酸化物の還元と同時に炭素−炭素二重結合の水素化も同時に起こるという問題があるが、一酸化炭素を還元剤として用いることにより炭素−炭素二重結合の反応を抑制し過酸化物の還元を選択的に行うことができる。炭素−炭素二重結合を有する化合物は、非環式、単環式、二環式又は多環式化合物であってよく、炭素−炭素二重結合が2つ以上ある場合には、これは共役結合又は非共役結合であってよい。炭素原子2〜60個の化合物が一般に好ましい。このような化合物の例にはエチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブチレン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、3−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、スチレン、シクロヘキセン、ブタジエン、イソプレンがあげられる。なかでもプロピレンが更に好ましい。また、炭素−炭素二重結合を有する化合物には置換基が存在してもよいが、置換基は比較的安定な基であることが好ましい。その置換基の例にはハロゲン原子があげられ、更にまた、酸素、硫黄、窒素原子を、水素及び/又は炭素原子と共に含有する種々の置換基が存在してもよい。好ましい化合物は炭素−炭素二重結合を有するアルコール、及びハロゲンで置換された炭素−炭素二重結合を有する化合物であり、その例にはアリルアルコール、クロチルアルコール、塩化アリルがあげられる。
【0012】
本還元方法に用いられる一酸化炭素は精製物であってもよいし、所望の還元反応以外の望ましくない副反応が許容できる範囲であるならば水素などの不純物を含む混合物でもよい。また窒素などの不活性ガスで希釈して用いることもできる。更には遷移金属に配位した一酸化炭素も本還元反応に使用することができる。
【0013】
用いる一酸化炭素は過酸化物を還元するのに必要な理論モル数以上であればよいが、反応を効率的に進めるために過剰量の一酸化炭素を用いることが好ましい。過剰量の一酸化炭素を用いた場合は、未反応の一酸化炭素を回収してリサイクルすることもできる。
【0014】
反応温度は一般に0〜200℃であるが、50〜150℃の温度が好ましい。一般に圧力は10〜10000kPaであることが有利である。
【0015】
過酸化物の転化率は80%以上であることが好ましく、90%以上であることが更に好ましい。
【0016】
本還元方法は回分法、半連続法、連続法等によって実施できる。固体触媒を用いる場合には、スラリー又は固定床の形式で反応に用いられ、大規模な工業的操作の場合には、固定床を用いるのが好ましい。
【0017】
本還元方法は、触媒存在下、炭素−炭素二重結合を有する化合物と過酸化物とを反応させてオキシラン化合物を製造した際に得られる液に含有されている過酸化物を還元するのに好適に用いられる。
【0018】
本還元方法は、下記の工程を含むオキシラン化合物の製造方法の一部として行われ得る。
酸化工程:アルキルベンゼンを酸化することにより、アルキルベンゼンハイドロパーオキサイドを得る工程
エポキシ化工程:エポキシ化触媒の存在下、炭素−炭素二重結合を有する化合物と酸化工程で得られたアルキルベンゼンハイドロパーオキサイドとを反応させることによりオキシラン化合物及びアルコールを得る工程
ハイドロパーオキサイド還元工程:エポキシ化工程後の反応液中に含まれているアルキルベンゼンハイドロパーオキサイドを前記の本発明の方法で還元する工程
【0019】
酸化工程は、アルキルベンゼンを酸化することによりアルキルベンゼンハイドロパーオキサイドを得る工程である。アルキルベンゼンの酸化は、通常、空気や酸素濃縮空気などの含酸素ガスによる自動酸化で行われる。酸化工程の排ガスは有効成分を回収した後、貴金属等の触媒を用いて燃焼処理することが好ましく、連続的な処理を行う場合は燃焼処理用の触媒を切替式にすることが好ましい。この酸化反応は添加剤を用いずに実施してもよいし、アルカリのような添加剤を用いてもよい。通常の反応温度は50〜200℃であり、反応圧力は大気圧から5MPaの間である。添加剤を用いた酸化法の場合、アルカリ性試薬としては、NaOH、KOHのようなアルカリ金属化合物や、アルカリ土類金属化合物又はNa2CO3、NaHCO3のようなアルカリ金属炭酸塩又はアンモニア及び(NH42CO3、アルカリ金属炭酸アンモニウム塩等が用いられる。アルカリ金属やアルカリ土類金属の化合物は後工程に悪影響を及ぼす可能性があるため、それらは水洗によって除去することが好ましい。水洗にはミキサーとセトラーを用いることができ、また油水分離を効率的に行うためにコアレッサ−を用いることができる。水洗を多段で行うことにより効率的に除去することができる。水洗の温度は0〜120℃が好ましく、20〜90℃が更に好ましい。水洗の際の油と水の重量割合(O/W)は1〜50が好ましく、2〜30が更に好ましい。
【0020】
エポキシ化工程は、エポキシ化触媒の存在下、炭素−炭素二重結合を有する化合物と酸化工程で得られたアルキルベンゼンハイドロパーオキサイドとを反応させることによりオキシラン化合物及びアルコールを得る工程である。
【0021】
エポキシ化触媒としては、目的物を高収率及び高選択率下に得る観点から、チタン含有珪素酸化物からなる触媒が好ましい。これらの触媒は、珪素酸化物と化学的に結合したTiを含有する、いわゆるTi−シリカ触媒が好ましい。たとえば、Ti化合物をシリカ担体に担持したもの、共沈法やゾルゲル法で珪素酸化物と複合したもの、あるいはTiを含むゼオライト化合物などをあげることができる。チタン含有珪素酸化物を用いる場合には、スラリー又は固定床の形で反応に用いられる。大規模な工業的操作の場合には、固定床を用いるのが好ましい。また、回分法、半連続法、連続法等によって実施できる。
【0022】
エポキシ化工程の原料物質として使用されるアルキルベンゼンハイドロパーオキサイドは、希薄又は濃厚な精製物又は非精製物であってよい。
【0023】
エポキシ化反応は、炭素−炭素二重結合を有する化合物とアルキルベンゼンハイドロパーオキサイドをエポキシ化触媒に接触させることで行われる。反応は、溶媒を用いて液相中で実施される。溶媒は、反応時の温度及び圧力のもとで液体であり、かつ反応体及び生成物に対して実質的に不活性なものでなければならない。溶媒は使用されるアルキルベンゼンハイドロパーオキサイド溶液中に存在する物質からなるものであってよい。例えばクメンハイドロパーオキサイドがその原料であるクメンとからなる混合物である場合には、特に溶媒を添加することなく、これを溶媒の代用とすることも可能である。その他、有用な溶媒としては、芳香族の単環式化合物(たとえばベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン)及びアルカン(たとえばオクタン、デカン、ドデカン)などがあげられる。
【0024】
エポキシ化反応温度は一般に0〜200℃であるが、25〜150℃の温度が好ましい。圧力は、反応混合物を液体の状態に保つのに充分な圧力でよい。一般に圧力は100〜10000kPaであることが有利である。
【0025】
エポキシ化工程へ供給される炭素−炭素二重結合を有する化合物/アルキルベンゼンハイドロパーオキサイドのモル比は2/1〜50/1であることが好ましい。該比が過小であると反応速度が低下して効率が悪く、一方該比が過大であるとリサイクルされる炭素−炭素二重結合を有する化合物の量が過大となり、回収工程において多大なエネルギーを必要とする。炭素−炭素二重結合を有する化合物の回収は蒸留によって行うことができる。炭素−炭素二重結合を有する化合物がプロピレンである場合には、2本の蒸留塔を用いて生成物から分離、回収することができる。この時、1本目の蒸留塔の圧力が、2本目の蒸留塔の圧力より高いことが好ましい。回収効率を向上させるために2本目の蒸留塔の出口プロピレンガスを1本目の蒸留塔にリサイクルすることができる。回収工程において、蓄積した水分が分離する可能性があるところでは装置腐食が問題となる場合があるが、生成物であるプロピレンオキサイド等を添加することにより水が分液するのを回避することができる。また、蒸留塔操作温度の調節を目的に生成物であるプロピレンオキサイド等を塔底部にフィードすることもできる。
【0026】
ハイドロパーオキサイド還元工程は、エポキシ化工程後の反応液中に含まれているアルキルベンゼンハイドロパーオキサイドを前記の本発明の方法で還元する工程である。
【0027】
本工程によってアルキルベンゼンハイドロパーオキサイドは、主に対応するアルコールになる。その際、その他の副反応が同時あるいは逐次的に起こっても良いが、副反応の前後で化合物の炭素数に変化がないことが好ましい。例えばクメンハイドロパーオキサイドを還元する場合はクミルアルコールの他にα−メチルスチレンが好ましい生成物としてあげることができる。
【0028】
上記のオキシラン化合物の製造方法の好ましい具体例として、アルキルベンゼンがクメンであり、アルキルベンゼンハイドロパーオキサイドがクメンハイドロパーオキサイドであり、アルコールがクミルアルコールであり、かつ下記のクメン回収工程を含む製造方法をあげることができる。
クメン回収工程:エポキシ化工程及びハイドロパーオキサイド還元工程で得たクミルアルコール及び/又はα−メチルスチレンを、触媒の存在下、水素と反応させてクメンとし、該クメンを酸化工程の原料として酸化工程へリサイクルする工程
【0029】
クメン回収工程を用いることにより、クメンはオキシラン化合物の製造プロセス内を酸素キャリアーとして循環するので、大量の併産品が発生せずオキシラン化合物のみを得ることができるという利点を得ることができる。その場合、クメン回収工程の前にエポキシ化工程で生成したオキシラン化合物及び未反応の炭素−炭素二重結合を有する化合物は蒸留等の通常の方法により分離することが、オキシラン化合物及び未反応の炭素−炭素二重結合を有する化合物の損失を抑制するという観点から好ましい。
【0030】
クメン回収工程は、クミルアルコールの脱水によるα−メチルスチレンの生成、続くα−メチルスチレンの水素化によるクメンの製造及び/又はクミルアルコールの水素化分解によるクメンの製造によって行われる。反応は溶媒を用いて液相及び/又は気相中で実施できる。溶媒は使用されるクミルアルコール溶液中に存在する物質からなるものであってよい。その他、有用な溶媒はアルカン(たとえばオクタン、デカン、ドデカン)や、芳香族の単環式化合物(たとえばベンゼン、エチルベンゼン、トルエン)などがあげられる。
【0031】
クミルアルコールの脱水触媒としては、活性アルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカアルミナ、ゼオライト等の金属酸化物があげられるが、触媒寿命、選択性等の観点から活性アルミナが好ましい。
【0032】
α−メチルスチレンの水素化あるいはクミルアルコールの水素化分解触媒としては水素化能を有するいずれの触媒を用いることができる。好ましい触媒として周期律表10族又は11族の金属を含む触媒をあげることができ、具体的にはニッケル、パラジウム、白金、銅をあげることができるが、芳香環の核水添反応の抑制、高収率の観点からパラジウム又は銅が好ましく、なかでもパラジウムが最も好ましい。銅系触媒としては銅、ラネー銅、銅・クロム、銅・亜鉛、銅・クロム・亜鉛、銅・シリカ、銅・アルミナ等があげられる。パラジウム触媒としては、パラジウム・アルミナ、パラジウム・シリカ、パラジウム・カーボン等があげられる。
【0033】
クミルアルコールの脱水及び続くα−メチルスチレンの水素化によってクメンを製造する場合は、触媒として脱水能と水素化能を同時に有する触媒を用いることもできる。例えばパラジウムを活性アルミナに担持したもの等があげられる。
【0034】
クメン回収工程の反応温度は一般に0〜500℃であるが、30〜400℃の温度が好ましい。一般に圧力は100〜10000kPaであることが有利である。反応は、スラリー又は固定床の形の触媒を使用して有利に実施できる。
【0035】
上記の特徴的な方法とすることにより、本発明が解決しようとする課題が解決できる。
【実施例】
【0036】
実施例1〜7
攪拌翼を装着した150mlオートクレーブに2重量%クメンハイドロパーオキサイドを含むクメン溶液を30g仕込み、そこに各種金属カルボニル錯体(Cr(CO)6(実施例1)、Mo(CO)6(実施例2)、W(CO)6(実施例3)、Mn2(CO)6(実施例4)、Fe(CO)5(実施例5)、Ru3(CO)12(実施例6)、Co2(CO)8(実施例7))を遷移金属が4mmolとなるように加えた。密封後、オートクレーブ内を窒素で置換し1MPaで加圧した後、500rpm攪拌下130℃のオイルバスに浸け1時間加熱した。冷却、脱圧後オートクレーブを開封して反応液を回収した、反応液はガスクロマトグラフィー及び液体クロマトグラフィーで分析し反応成績を求めた。有効成分であるクミルアルコールとα−メチルスチレンの収率は、48%から99%の範囲であった。
【0037】
実施例8
鉄ペンタカルボニル錯体の量を鉄が1mmolとなるように加える以外は実施例1〜7同様の操作を行った。有効成分であるクミルアルコールとα−メチルスチレンの収率はあわせて96%であった。
【0038】
実施例9
攪拌翼を装着した150mlオートクレーブに2重量%クメンハイドロパーオキサイドと8重量%のプロピレンオキサイドを含むクメン溶液を30g仕込み、そこに鉄ペンタカルボニル錯体を鉄が4mmolとなるように加えた。密封、窒素置換後プロピレンを17g加え、500rpm攪拌下130℃のオイルバスに浸け1時間加熱した。その後は実施例1〜7と同様の操作を行った。有効成分であるクミルアルコールとα−メチルスチレンの収率はそれぞれ93%と6%であった。この時、プロピレンは殆ど反応せず、またプロピレンオキサイドの転化率も1%程度であった。
実施例10
酸化鉄を水素で還元して得た触媒(3ml)をステンレス製の固定床リアクターに充填し、クメンハイドロパーオキサイド(1重量%)及び1−オクテン(50wt%)を含むクメン溶液を0.6g/分、一酸化炭素と窒素をそれぞれ10ml/分の速度で供給し、130℃で反応させた。反応液の分析を行ったところ、有効成分であるクミルアルコール及びα−メチルスチレンの収率はあわせて57%であった。
【0039】
比較例1
遷移金属無しで反応を行うことと、加熱時間を3時間とすること以外は実施例1〜7と同様の操作を行った。有効成分であるクミルアルコールとα−メチルスチレンの収率はあわせて29%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属を含有する触媒の存在下、過酸化物と一酸化炭素を反応させる過酸化物の還元方法。
【請求項2】
炭素−炭素二重結合を有する化合物の共存下、過酸化物の還元を行う請求項1記載の方法。
【請求項3】
炭素−炭素二重結合を有する化合物がプロピレンである請求項2記載の方法。
【請求項4】
過酸化物が有機ハイドロパーオキサイドである請求項1記載の方法。
【請求項5】
有機ハイドロパーオキサイドがクメンハイドロパーオキサイドである請求項4記載の方法。
【請求項6】
遷移金属が周期律表の7〜10族である請求項1記載の方法。
【請求項7】
遷移金属を含有する触媒が固体触媒である請求項1記載の方法。
【請求項8】
還元に供される過酸化物が、エポキシ化触媒の存在下、炭素−炭素二重結合を有する化合物と過酸化物とを反応させてオキシラン化合物を製造した際に得られる反応液に含有されている未反応の過酸化物である請求項1記載の方法。
【請求項9】
下記の工程を含むオキシラン化合物の製造方法。
酸化工程:アルキルベンゼンを酸化することにより、アルキルベンゼンハイドロパーオキサイドを得る工程
エポキシ化工程:エポキシ化触媒の存在下、炭素−炭素二重結合を有する化合物と酸化工程で得られたアルキルベンゼンハイドロパーオキサイドとを反応させることによりオキシラン化合物及びアルコールを得る工程
ハイドロパーオキサイド還元工程:エポキシ化工程後の反応液中に含まれているアルキルベンゼンハイドロパーオキサイドを請求項1の方法で還元する工程
【請求項10】
アルキルベンゼンがクメンであり、アルキルベンゼンハイドロパーオキサイドがクメンハイドロパーオキサイドであり、アルコールがクミルアルコールであり、かつ下記のクメン回収工程を含む請求項9記載の製造方法。
クメン回収工程:エポキシ化工程及びハイドロパーオキサイド還元工程で得たクミルアルコール及び/又はα−メチルスチレンを、触媒の存在下、水素と反応させてクメンとし、該クメンを酸化工程の原料として酸化工程へリサイクルする工程

【公開番号】特開2009−132679(P2009−132679A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259475(P2008−259475)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】