過電流保護素子の製造方法
【課題】 電子回路の短絡等により温度が室温よりも上昇した場合には、良好なトリップ特性により絶縁性を向上させる過電流保護素子の製造方法を提供する。
【解決手段】 シート層1を一対の導電板2に挟持させ、シート層1を、高分子マトリクスと、この高分子マトリクス中に含有される複数の導電性粒子とから形成する。そして、各導電性粒子の表面を、高分子マトリクスとは異なり、しかも、相溶性のない有機材料により部分的に被覆する。各導電性粒子の表面を熱膨張率の高い有機材料により部分的に被覆するので、電子回路の短絡時に良好なトリップ特性を得ることができ、絶縁性を向上させることができる。
【解決手段】 シート層1を一対の導電板2に挟持させ、シート層1を、高分子マトリクスと、この高分子マトリクス中に含有される複数の導電性粒子とから形成する。そして、各導電性粒子の表面を、高分子マトリクスとは異なり、しかも、相溶性のない有機材料により部分的に被覆する。各導電性粒子の表面を熱膨張率の高い有機材料により部分的に被覆するので、電子回路の短絡時に良好なトリップ特性を得ることができ、絶縁性を向上させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器・電子機器に内蔵されてその回路や部品等を保護する過電流保護素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の過電流保護素子は、図示しないが、高分子マトリクス中に導電性粒子が配合されたシート層と、このシート層を挟持する一対の導電板とを備えて形成され、自己制御型発熱体や温度センサとして携帯電話等の電子回路に組み込まれる。シート層の高分子マトリクスとしては、ポリエチレン樹脂等が使用され、導電性粒子としては、導電性、DBP吸油量、ストラクチャーの大きいカーボン粒子やグラファイト等が大量に使用される。
【0003】
このような過電流保護素子は、電子回路の短絡等により温度が室温よりも上昇すると、トリップ特性を示して抵抗値を急激に増大させ、過電流の通電を規制して電子回路やその半導体素子を保護する。そして、逆に温度が低下すると、元の抵抗値に復帰する(特許文献1、2参照)。
【0004】
なお、この種の過電流保護素子は、電子回路に直列接続される場合には、(1)室温における抵抗値が十分に低いこと、(2)室温における抵抗値と動作時の抵抗値の変化率が十分に大きいこと、(3)繰り返し動作時の抵抗値の変化が小さいことが特性として求められる。
【特許文献1】米国特許第3243753号
【特許文献2】特開2005‐197660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来における過電流保護素子は、以上のように構成され、高分子マトリクス中に導電性粒子が単に配合されるに止まるので、電子回路の短絡時に良好なトリップ特性を示さず、絶縁性を向上させることができないという問題がある。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたもので、電子回路の短絡等により温度が室温よりも上昇した場合には、良好なトリップ特性により絶縁性を向上させることのできる過電流保護素子の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては上記課題を解決するため、複数の導電性粒子と有機材料とを有機材料の軟化点以上の温度で加熱混練して各導電性粒子の一部を有機材料により被覆し、有機材料により被覆された複数の導電性粒子と高分子マトリクスとを加圧混練して混練物を調製し、この混練物をシート層に形成するとともに、このシート層を複数の導電体に挟んで加熱加圧し、その後、シート層と複数の導電体とに放射線を照射することを特徴としている。
なお、複数の導電性粒子の重量に対して有機材料を10〜30wt%配合し、有機材料を高分子マトリクスと相溶性のない材料とすることができる。
【0008】
また、高分子マトリクスを熱可塑性樹脂とし、各導電性粒子をカーボン粒子とすることができる。
また、有機材料を、変性エラストマーEPR、SBR樹脂、あるいはSBS樹脂とすることができる。
また、高分子マトリクスの重量に対して複数の導電性粒子を36〜57wt%配合して加圧混練することが好ましい。
【0009】
また、シート層を複数の導電体に挟み持たせたものであって、シート層は、高分子マトリクスと、この高分子マトリクス中に含有される複数の導電性粒子とを含み、各導電性粒子の一部を、高分子マトリクスと相溶性のない有機材料により被覆したことを特徴としても良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電子回路の短絡等により温度が室温よりも上昇した場合には、良好なトリップ特性により絶縁性を向上させることができるという効果がある。
また、有機材料を、変性エラストマーEPR、SBR樹脂、あるいはSBS樹脂とすれば、電子回路の短絡等で温度が上昇すると、有機材料が膨張して導電性粒子同士を引き離すので、良好なトリップ特性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における過電流保護素子は、図1に示すように、シート層1を一対の導電板2に挟持させ、シート層1を、高分子マトリクスと、この高分子マトリクス中に含有される複数の導電性粒子とから形成し、各導電性粒子の表面を、高分子マトリクスとは異なり、しかも、相溶性のない有機材料により部分的に被覆するようにしている。
【0012】
シート層1は、平面矩形、多角形、円形、あるいは楕円形等の任意の形に薄く成形される。このシート層1の高分子マトリクスは、熱可塑性樹脂が使用され、具体的にはポリエチレン樹脂やEBA樹脂等が使用される。また、各導電性粒子としては、導電性の有機材料、具体的には導電性に優れる安価なカーボン粒子が使用される。
【0013】
有機材料は、各導電性粒子に共有結合した後に高分子マトリクスに対して反応性を示さない材料、具体的には熱膨張率が高い変性エラストマーEPR(マレイン酸変性EPR)、SBR樹脂、あるいはSBS樹脂等が使用される。
【0014】
一対の導電板2は、例えばシート層1と同じ大きさを有する一対のニッケル箔や銅箔等が使用され、各導電板2の表面には、携帯電話の電子回路接続用のリード線3が接続されており、各導電板2のシート層1に接触する裏面には、アンカー効果を発揮する粗い凹凸が粗面化処理により選択的に形成される。
【0015】
上記において、過電流保護素子を製造する場合には、先ず、高分子マトリクス、導電性粒子、及び高分子マトリクスと相溶性のない有機材料をジェットミル等の粉砕機によりそれぞれ別々に粉砕し、これらのうち複数の導電性粒子と有機材料とを所定の温度に加熱したバッチ式の加圧ニーダに投入し、複数の導電性粒子と有機材料とを有機材料の軟化点以上の温度(例えば、180℃以上)で加熱混練して各導電性粒子の表面を有機材料により部分的に被覆する。
【0016】
この際、複数の導電性粒子と有機材料の配合量は、各導電性粒子を有機材料により部分的にコーティングできるよう調整される。具体的には、複数の導電性粒子の重量に対して有機材料を10〜30wt%、好ましくは12〜28wt%配合する。有機材料の配合量を10〜30wt%の範囲とするのは、10wt未満の場合には、トリップ特性が低下し、逆に30wtを超える場合には、導電性が損なわれて抵抗値が必要以上に上昇するからである。
【0017】
また、複数の導電性粒子と有機材料とは、単に加熱混練するのではなく、有機材料の軟化点以上の温度で加熱混練しなければ、優れた絶縁性を得ることができないので、留意する必要がある。
【0018】
こうして各導電性粒子の表面を有機材料により部分的に被覆したら、加圧ニーダに高分子マトリクスを新たに投入して複数の導電性粒子と高分子マトリクスとを加圧混練し、混練物を調製する。この際、高分子マトリクスと複数の導電性粒子とは、高分子マトリクスの重量に対して複数の導電性粒子を36〜57wt%配合する。複数の導電性粒子の配合量を36〜57wt%の範囲とするのは、この範囲から外れる場合には、温度の低下時に元の抵抗値に容易に復帰せず、抵抗値が安定しないからである。
【0019】
次いで、混練物をカレンダー加工機にセットして薄いシート層1に成形するとともに、このシート層1を一対の導電板2に挟んでプレス成形機により加熱加圧し、この一体化したシート層1と一対の導電板2とに安価なγ線、電子線、X線等からなる放射線を電子線架橋装置により照射して高分子を架橋し、その後、各導電板2の表面にリード線3を接続すれば、過電流保護素子を製造することができる。
【0020】
上記によれば、高分子マトリクス中に導電性粒子を単に配合するのではなく、各導電性粒子の表面を熱膨張率の高い有機材料により部分的にコーティングするので、電子回路の短絡時に有機材料が膨張して導電性粒子同士を離隔させ、良好なトリップ特性を得ることができ、絶縁性を著しく向上させることができる。また、各導電性粒子の表面を有機材料により全面的にコーティングするのではなく、部分的にコーティングして残部を露出させるので、室温では優れた低抵抗値を得ることができる。
【0021】
なお、本実施形態の過電流保護素子は、携帯電話のバッテリに使用しても良いが、何らこれに限定されるものではなく、例えばインバータ、火災報知器、自動車、スイッチング電源、制御装置等にも使用することができる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明に係る過電流保護素子の製造方法の実施例を比較例と共に説明する。
実施例1
先ず、形態がペレットの高分子マトリクス(ポリエチレン:出光石油化学製、商品名548B)37.4wt%、導電性粒子(コロンビアンカーボン製、商品名Raven410U)56.6wt%、及び高分子マトリクスと相溶性のない有機材料(マレイン酸変性EPR:JSR製、商品名T−7741P)6.0wt%をジェットミルによりそれぞれ別々に粉砕して16〜100meshの粒子径に調整した。
【0023】
こうして粉砕が完了したら、複数の導電性粒子と有機材料とを180℃の温度に加熱したバッチ式の加圧ニーダに投入し、複数の導電性粒子と有機材料とを有機材料の軟化点以上の温度で30分間加熱混練して各導電性粒子の表面を有機材料により部分的に被覆した。
【0024】
次いで、加熱状態の加圧ニーダ中に高分子マトリクスを新たに投入して複数の導電性粒子と高分子マトリクスとを180℃のまま20分間加圧混練し、混練物を調製した。混練物を調製したら、この混練物をカレンダー加工機にセットして厚さ50μmのシート層を成形し、このシート層を一対の導電板に挟んでプレス成形機により加熱加圧した。各導電板としては、粗さRaが2.0μmで125μmの厚さを有するニッケル箔を使用した。また、プレス成形機の加熱加圧は、加熱が250℃、加圧が10kgf/cm2の条件で実施した。
【0025】
そして、250μmの総厚で一体化したシート層と一対の導電板とに10MRadの電子線を電子線架橋装置により照射して高分子を架橋した後、各導電板の表面にリード線を接続して過電流保護素子を製造した。
【0026】
実施例2
高分子マトリクス(ポリエチレン:出光石油化学製、商品名548B)34.4wt%、導電性粒子(コロンビアンカーボン製、商品名Raven410U)56.6wt%、及び高分子マトリクスと相溶性のない有機材料(マレイン酸変性EPR:JSR製、商品名T−7741P)9.0wt%をジェットミルによりそれぞれ別々に粉砕して16〜100meshの粒子径に調整した。その他の部分については、実施例1と同様とした。
【0027】
実施例3
高分子マトリクス(ポリエチレン:出光石油化学製、商品名548B)31.4wt%、導電性粒子(コロンビアンカーボン製、商品名Raven410U)56.6wt%、及び高分子マトリクスと相溶性のない有機材料(マレイン酸変性EPR:JSR製、商品名T−7741P)12.0wt%をジェットミルによりそれぞれ別々に粉砕して16〜100meshの粒子径に調整した。その他の部分については、実施例1と同様とした。
【0028】
実施例4
高分子マトリクス(ポリエチレン:出光石油化学製、商品名548B)28.4wt%、導電性粒子(コロンビアンカーボン製、商品名Raven410U)56.6wt%、及び高分子マトリクスと相溶性のない有機材料(マレイン酸変性EPR:JSR製、商品名T−7741P)15.0wt%をジェットミルによりそれぞれ別々に粉砕して16〜100meshの粒子径に調整した。その他の部分については、実施例1と同様とした。
【0029】
実施例5
高分子マトリクス(ポリエチレン:出光石油化学製、商品名548B)26.4wt%、導電性粒子(コロンビアンカーボン製、商品名Raven410U)56.6wt%、及び高分子マトリクスと相溶性のない有機材料(マレイン酸変性EPR:JSR製、商品名T−7741P)17.0wt%をジェットミルによりそれぞれ別々に粉砕して16〜100meshの粒子径に調整した。その他の部分については、実施例1と同様とした。
【0030】
比較例1
先ず、形態がペレットの高分子マトリクス(ポリエチレン:出光石油化学製、商品名548B)38.4wt%、導電性粒子(コロンビアンカーボン製、商品名Raven410U)56.6wt%、及び高分子マトリクスと相溶性のない有機材料(マレイン酸変性EPR:JSR製、商品名T−7741P)5.0wt%をジェットミルによりそれぞれ別々に粉砕して16〜100meshの粒子径に調整した。
【0031】
こうして粉砕が完了したら、高分子マトリクス、導電性粒子、及び有機材料をスーパーミキサ(カワタ製)により混合攪拌して180℃の温度に加熱した加圧ニーダに投入し、高分子マトリクス、導電性粒子、及び有機材料を混練して混練物を調製した。
【0032】
次いで、調製した混練物をカレンダー加工機にセットして厚さ50μmのシート層を成形し、このシート層を一対の導電板に挟んでプレス成形機により加熱加圧した。各導電板としては、粗さRaが2.0μmで125μmの厚さを有するニッケル箔を使用した。また、プレス成形機の加熱加圧は、加熱が250℃、加圧が10kgf/cm2の条件で実施した。
【0033】
そして、250μmの総厚で一体化したシート層と一対の導電板とに10MRadの電子線を電子線架橋装置により照射して高分子を架橋した後、各導電板の表面にリード線を接続して過電流保護素子を製造した。
【0034】
比較例2
高分子マトリクス(ポリエチレン:出光石油化学製、商品名548B)23.4wt%、導電性粒子(コロンビアンカーボン製、商品名Raven410U)56.6wt%、及び高分子マトリクスと相溶性のない有機材料(マレイン酸変性EPR:JSR製、商品名T−7741P)20.0wt%をジェットミルによりそれぞれ別々に粉砕して16〜100meshの粒子径に調整した。その他の部分については、比較例1と同様とした。
【0035】
比較例3
高分子マトリクス(ポリエチレン:出光石油化学製、商品名548B)43.4wt%、及び導電性粒子(コロンビアンカーボン製、商品名Raven410U)56.6wt%をジェットミルによりそれぞれ別々に粉砕して16〜100meshの粒子径に調整した。その他の部分については、比較例1と同様とした。
【0036】
過電流保護素子の特性の測定
過電流保護素子の一のリード線を抵抗測定器に接続して初期抵抗値を測定し、この過電流保護素子をオーブンにセットして温度‐抵抗曲線の測定を開始した。具体的には、20℃から順次10℃毎に昇温して抵抗値を測定し、160℃(トリップ時の抵抗値)まで昇温するとともに、160℃に達したら、温度を順次10℃毎に降温して20℃まで測定を続けた。この20℃に戻った時の抵抗値を緩和抵抗値と呼ぶこととした。
【0037】
こうして過電流保護素子を製造し、特性を測定したら、導電性粒子と有機材料の配合、初期抵抗値、160℃抵抗値、緩和抵抗値、緩和率を表1にまとめた。
【0038】
【表1】
【0039】
表1から明らかなように、実施例の過電流保護素子は、初期抵抗値が低く、トリップ時の抵抗値である160℃抵抗値が高く、緩和抵抗値も低く、実用上優れた素子であるのを確認した。
【0040】
これに対し、比較例の過電流保護素子は、同量の導電性粒子を配合している実施例と比較して初期抵抗値が同等ではあるが、トリップ時の抵抗値である160℃抵抗値が低く、しかも、緩和率も高いので、一般的に言われている緩和率の使用限界である120%を超えてしまう様子が伺える。これをグラフ化したものが図2であり、この図2によれば、実施例を踏襲する範囲では良好なPTC特性を示すが、踏襲範囲から逸脱すると、PTC特性が急激に悪化する様子を伺い知ることができる。
【0041】
以上のように実施例によれば、各導電性粒子の表面を熱膨張性の大きい有機材料により部分的に被覆しているので、過電流保護素子の昇温時には、複数の導電性粒子の間の導電経路が破壊されやすくなり、良好なトリップ状態を得ることができるとともに、抵抗の緩和時には、初期抵抗値に近い値を保つことが可能となり、良好な過電流保護素子としての機能が期待できることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る過電流保護素子の製造方法の実施形態における過電流保護素子を模式的に示す説明図である。
【図2】本発明に係る過電流保護素子の製造方法の実施例における過電流保護素子のPTC特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0043】
1 シート層
2 導電板
3 リード線
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器・電子機器に内蔵されてその回路や部品等を保護する過電流保護素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の過電流保護素子は、図示しないが、高分子マトリクス中に導電性粒子が配合されたシート層と、このシート層を挟持する一対の導電板とを備えて形成され、自己制御型発熱体や温度センサとして携帯電話等の電子回路に組み込まれる。シート層の高分子マトリクスとしては、ポリエチレン樹脂等が使用され、導電性粒子としては、導電性、DBP吸油量、ストラクチャーの大きいカーボン粒子やグラファイト等が大量に使用される。
【0003】
このような過電流保護素子は、電子回路の短絡等により温度が室温よりも上昇すると、トリップ特性を示して抵抗値を急激に増大させ、過電流の通電を規制して電子回路やその半導体素子を保護する。そして、逆に温度が低下すると、元の抵抗値に復帰する(特許文献1、2参照)。
【0004】
なお、この種の過電流保護素子は、電子回路に直列接続される場合には、(1)室温における抵抗値が十分に低いこと、(2)室温における抵抗値と動作時の抵抗値の変化率が十分に大きいこと、(3)繰り返し動作時の抵抗値の変化が小さいことが特性として求められる。
【特許文献1】米国特許第3243753号
【特許文献2】特開2005‐197660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来における過電流保護素子は、以上のように構成され、高分子マトリクス中に導電性粒子が単に配合されるに止まるので、電子回路の短絡時に良好なトリップ特性を示さず、絶縁性を向上させることができないという問題がある。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたもので、電子回路の短絡等により温度が室温よりも上昇した場合には、良好なトリップ特性により絶縁性を向上させることのできる過電流保護素子の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては上記課題を解決するため、複数の導電性粒子と有機材料とを有機材料の軟化点以上の温度で加熱混練して各導電性粒子の一部を有機材料により被覆し、有機材料により被覆された複数の導電性粒子と高分子マトリクスとを加圧混練して混練物を調製し、この混練物をシート層に形成するとともに、このシート層を複数の導電体に挟んで加熱加圧し、その後、シート層と複数の導電体とに放射線を照射することを特徴としている。
なお、複数の導電性粒子の重量に対して有機材料を10〜30wt%配合し、有機材料を高分子マトリクスと相溶性のない材料とすることができる。
【0008】
また、高分子マトリクスを熱可塑性樹脂とし、各導電性粒子をカーボン粒子とすることができる。
また、有機材料を、変性エラストマーEPR、SBR樹脂、あるいはSBS樹脂とすることができる。
また、高分子マトリクスの重量に対して複数の導電性粒子を36〜57wt%配合して加圧混練することが好ましい。
【0009】
また、シート層を複数の導電体に挟み持たせたものであって、シート層は、高分子マトリクスと、この高分子マトリクス中に含有される複数の導電性粒子とを含み、各導電性粒子の一部を、高分子マトリクスと相溶性のない有機材料により被覆したことを特徴としても良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電子回路の短絡等により温度が室温よりも上昇した場合には、良好なトリップ特性により絶縁性を向上させることができるという効果がある。
また、有機材料を、変性エラストマーEPR、SBR樹脂、あるいはSBS樹脂とすれば、電子回路の短絡等で温度が上昇すると、有機材料が膨張して導電性粒子同士を引き離すので、良好なトリップ特性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における過電流保護素子は、図1に示すように、シート層1を一対の導電板2に挟持させ、シート層1を、高分子マトリクスと、この高分子マトリクス中に含有される複数の導電性粒子とから形成し、各導電性粒子の表面を、高分子マトリクスとは異なり、しかも、相溶性のない有機材料により部分的に被覆するようにしている。
【0012】
シート層1は、平面矩形、多角形、円形、あるいは楕円形等の任意の形に薄く成形される。このシート層1の高分子マトリクスは、熱可塑性樹脂が使用され、具体的にはポリエチレン樹脂やEBA樹脂等が使用される。また、各導電性粒子としては、導電性の有機材料、具体的には導電性に優れる安価なカーボン粒子が使用される。
【0013】
有機材料は、各導電性粒子に共有結合した後に高分子マトリクスに対して反応性を示さない材料、具体的には熱膨張率が高い変性エラストマーEPR(マレイン酸変性EPR)、SBR樹脂、あるいはSBS樹脂等が使用される。
【0014】
一対の導電板2は、例えばシート層1と同じ大きさを有する一対のニッケル箔や銅箔等が使用され、各導電板2の表面には、携帯電話の電子回路接続用のリード線3が接続されており、各導電板2のシート層1に接触する裏面には、アンカー効果を発揮する粗い凹凸が粗面化処理により選択的に形成される。
【0015】
上記において、過電流保護素子を製造する場合には、先ず、高分子マトリクス、導電性粒子、及び高分子マトリクスと相溶性のない有機材料をジェットミル等の粉砕機によりそれぞれ別々に粉砕し、これらのうち複数の導電性粒子と有機材料とを所定の温度に加熱したバッチ式の加圧ニーダに投入し、複数の導電性粒子と有機材料とを有機材料の軟化点以上の温度(例えば、180℃以上)で加熱混練して各導電性粒子の表面を有機材料により部分的に被覆する。
【0016】
この際、複数の導電性粒子と有機材料の配合量は、各導電性粒子を有機材料により部分的にコーティングできるよう調整される。具体的には、複数の導電性粒子の重量に対して有機材料を10〜30wt%、好ましくは12〜28wt%配合する。有機材料の配合量を10〜30wt%の範囲とするのは、10wt未満の場合には、トリップ特性が低下し、逆に30wtを超える場合には、導電性が損なわれて抵抗値が必要以上に上昇するからである。
【0017】
また、複数の導電性粒子と有機材料とは、単に加熱混練するのではなく、有機材料の軟化点以上の温度で加熱混練しなければ、優れた絶縁性を得ることができないので、留意する必要がある。
【0018】
こうして各導電性粒子の表面を有機材料により部分的に被覆したら、加圧ニーダに高分子マトリクスを新たに投入して複数の導電性粒子と高分子マトリクスとを加圧混練し、混練物を調製する。この際、高分子マトリクスと複数の導電性粒子とは、高分子マトリクスの重量に対して複数の導電性粒子を36〜57wt%配合する。複数の導電性粒子の配合量を36〜57wt%の範囲とするのは、この範囲から外れる場合には、温度の低下時に元の抵抗値に容易に復帰せず、抵抗値が安定しないからである。
【0019】
次いで、混練物をカレンダー加工機にセットして薄いシート層1に成形するとともに、このシート層1を一対の導電板2に挟んでプレス成形機により加熱加圧し、この一体化したシート層1と一対の導電板2とに安価なγ線、電子線、X線等からなる放射線を電子線架橋装置により照射して高分子を架橋し、その後、各導電板2の表面にリード線3を接続すれば、過電流保護素子を製造することができる。
【0020】
上記によれば、高分子マトリクス中に導電性粒子を単に配合するのではなく、各導電性粒子の表面を熱膨張率の高い有機材料により部分的にコーティングするので、電子回路の短絡時に有機材料が膨張して導電性粒子同士を離隔させ、良好なトリップ特性を得ることができ、絶縁性を著しく向上させることができる。また、各導電性粒子の表面を有機材料により全面的にコーティングするのではなく、部分的にコーティングして残部を露出させるので、室温では優れた低抵抗値を得ることができる。
【0021】
なお、本実施形態の過電流保護素子は、携帯電話のバッテリに使用しても良いが、何らこれに限定されるものではなく、例えばインバータ、火災報知器、自動車、スイッチング電源、制御装置等にも使用することができる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明に係る過電流保護素子の製造方法の実施例を比較例と共に説明する。
実施例1
先ず、形態がペレットの高分子マトリクス(ポリエチレン:出光石油化学製、商品名548B)37.4wt%、導電性粒子(コロンビアンカーボン製、商品名Raven410U)56.6wt%、及び高分子マトリクスと相溶性のない有機材料(マレイン酸変性EPR:JSR製、商品名T−7741P)6.0wt%をジェットミルによりそれぞれ別々に粉砕して16〜100meshの粒子径に調整した。
【0023】
こうして粉砕が完了したら、複数の導電性粒子と有機材料とを180℃の温度に加熱したバッチ式の加圧ニーダに投入し、複数の導電性粒子と有機材料とを有機材料の軟化点以上の温度で30分間加熱混練して各導電性粒子の表面を有機材料により部分的に被覆した。
【0024】
次いで、加熱状態の加圧ニーダ中に高分子マトリクスを新たに投入して複数の導電性粒子と高分子マトリクスとを180℃のまま20分間加圧混練し、混練物を調製した。混練物を調製したら、この混練物をカレンダー加工機にセットして厚さ50μmのシート層を成形し、このシート層を一対の導電板に挟んでプレス成形機により加熱加圧した。各導電板としては、粗さRaが2.0μmで125μmの厚さを有するニッケル箔を使用した。また、プレス成形機の加熱加圧は、加熱が250℃、加圧が10kgf/cm2の条件で実施した。
【0025】
そして、250μmの総厚で一体化したシート層と一対の導電板とに10MRadの電子線を電子線架橋装置により照射して高分子を架橋した後、各導電板の表面にリード線を接続して過電流保護素子を製造した。
【0026】
実施例2
高分子マトリクス(ポリエチレン:出光石油化学製、商品名548B)34.4wt%、導電性粒子(コロンビアンカーボン製、商品名Raven410U)56.6wt%、及び高分子マトリクスと相溶性のない有機材料(マレイン酸変性EPR:JSR製、商品名T−7741P)9.0wt%をジェットミルによりそれぞれ別々に粉砕して16〜100meshの粒子径に調整した。その他の部分については、実施例1と同様とした。
【0027】
実施例3
高分子マトリクス(ポリエチレン:出光石油化学製、商品名548B)31.4wt%、導電性粒子(コロンビアンカーボン製、商品名Raven410U)56.6wt%、及び高分子マトリクスと相溶性のない有機材料(マレイン酸変性EPR:JSR製、商品名T−7741P)12.0wt%をジェットミルによりそれぞれ別々に粉砕して16〜100meshの粒子径に調整した。その他の部分については、実施例1と同様とした。
【0028】
実施例4
高分子マトリクス(ポリエチレン:出光石油化学製、商品名548B)28.4wt%、導電性粒子(コロンビアンカーボン製、商品名Raven410U)56.6wt%、及び高分子マトリクスと相溶性のない有機材料(マレイン酸変性EPR:JSR製、商品名T−7741P)15.0wt%をジェットミルによりそれぞれ別々に粉砕して16〜100meshの粒子径に調整した。その他の部分については、実施例1と同様とした。
【0029】
実施例5
高分子マトリクス(ポリエチレン:出光石油化学製、商品名548B)26.4wt%、導電性粒子(コロンビアンカーボン製、商品名Raven410U)56.6wt%、及び高分子マトリクスと相溶性のない有機材料(マレイン酸変性EPR:JSR製、商品名T−7741P)17.0wt%をジェットミルによりそれぞれ別々に粉砕して16〜100meshの粒子径に調整した。その他の部分については、実施例1と同様とした。
【0030】
比較例1
先ず、形態がペレットの高分子マトリクス(ポリエチレン:出光石油化学製、商品名548B)38.4wt%、導電性粒子(コロンビアンカーボン製、商品名Raven410U)56.6wt%、及び高分子マトリクスと相溶性のない有機材料(マレイン酸変性EPR:JSR製、商品名T−7741P)5.0wt%をジェットミルによりそれぞれ別々に粉砕して16〜100meshの粒子径に調整した。
【0031】
こうして粉砕が完了したら、高分子マトリクス、導電性粒子、及び有機材料をスーパーミキサ(カワタ製)により混合攪拌して180℃の温度に加熱した加圧ニーダに投入し、高分子マトリクス、導電性粒子、及び有機材料を混練して混練物を調製した。
【0032】
次いで、調製した混練物をカレンダー加工機にセットして厚さ50μmのシート層を成形し、このシート層を一対の導電板に挟んでプレス成形機により加熱加圧した。各導電板としては、粗さRaが2.0μmで125μmの厚さを有するニッケル箔を使用した。また、プレス成形機の加熱加圧は、加熱が250℃、加圧が10kgf/cm2の条件で実施した。
【0033】
そして、250μmの総厚で一体化したシート層と一対の導電板とに10MRadの電子線を電子線架橋装置により照射して高分子を架橋した後、各導電板の表面にリード線を接続して過電流保護素子を製造した。
【0034】
比較例2
高分子マトリクス(ポリエチレン:出光石油化学製、商品名548B)23.4wt%、導電性粒子(コロンビアンカーボン製、商品名Raven410U)56.6wt%、及び高分子マトリクスと相溶性のない有機材料(マレイン酸変性EPR:JSR製、商品名T−7741P)20.0wt%をジェットミルによりそれぞれ別々に粉砕して16〜100meshの粒子径に調整した。その他の部分については、比較例1と同様とした。
【0035】
比較例3
高分子マトリクス(ポリエチレン:出光石油化学製、商品名548B)43.4wt%、及び導電性粒子(コロンビアンカーボン製、商品名Raven410U)56.6wt%をジェットミルによりそれぞれ別々に粉砕して16〜100meshの粒子径に調整した。その他の部分については、比較例1と同様とした。
【0036】
過電流保護素子の特性の測定
過電流保護素子の一のリード線を抵抗測定器に接続して初期抵抗値を測定し、この過電流保護素子をオーブンにセットして温度‐抵抗曲線の測定を開始した。具体的には、20℃から順次10℃毎に昇温して抵抗値を測定し、160℃(トリップ時の抵抗値)まで昇温するとともに、160℃に達したら、温度を順次10℃毎に降温して20℃まで測定を続けた。この20℃に戻った時の抵抗値を緩和抵抗値と呼ぶこととした。
【0037】
こうして過電流保護素子を製造し、特性を測定したら、導電性粒子と有機材料の配合、初期抵抗値、160℃抵抗値、緩和抵抗値、緩和率を表1にまとめた。
【0038】
【表1】
【0039】
表1から明らかなように、実施例の過電流保護素子は、初期抵抗値が低く、トリップ時の抵抗値である160℃抵抗値が高く、緩和抵抗値も低く、実用上優れた素子であるのを確認した。
【0040】
これに対し、比較例の過電流保護素子は、同量の導電性粒子を配合している実施例と比較して初期抵抗値が同等ではあるが、トリップ時の抵抗値である160℃抵抗値が低く、しかも、緩和率も高いので、一般的に言われている緩和率の使用限界である120%を超えてしまう様子が伺える。これをグラフ化したものが図2であり、この図2によれば、実施例を踏襲する範囲では良好なPTC特性を示すが、踏襲範囲から逸脱すると、PTC特性が急激に悪化する様子を伺い知ることができる。
【0041】
以上のように実施例によれば、各導電性粒子の表面を熱膨張性の大きい有機材料により部分的に被覆しているので、過電流保護素子の昇温時には、複数の導電性粒子の間の導電経路が破壊されやすくなり、良好なトリップ状態を得ることができるとともに、抵抗の緩和時には、初期抵抗値に近い値を保つことが可能となり、良好な過電流保護素子としての機能が期待できることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る過電流保護素子の製造方法の実施形態における過電流保護素子を模式的に示す説明図である。
【図2】本発明に係る過電流保護素子の製造方法の実施例における過電流保護素子のPTC特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0043】
1 シート層
2 導電板
3 リード線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の導電性粒子と有機材料とを有機材料の軟化点以上の温度で加熱混練して各導電性粒子の一部を有機材料により被覆し、有機材料により被覆された複数の導電性粒子と高分子マトリクスとを加圧混練して混練物を調製し、この混練物をシート層に形成するとともに、このシート層を複数の導電体に挟んで加熱加圧し、その後、シート層と複数の導電体とに放射線を照射することを特徴とする過電流保護素子の製造方法。
【請求項2】
複数の導電性粒子の重量に対して有機材料を10〜30wt%配合し、有機材料を高分子マトリクスと相溶性のない材料とする請求項1記載の過電流保護素子の製造方法。
【請求項3】
高分子マトリクスを熱可塑性樹脂とし、各導電性粒子をカーボン粒子とした請求項1又は2記載の過電流保護素子の製造方法。
【請求項4】
有機材料を、変性エラストマーEPR、SBR樹脂、あるいはSBS樹脂とした請求項1、2、又は3記載の過電流保護素子の製造方法。
【請求項1】
複数の導電性粒子と有機材料とを有機材料の軟化点以上の温度で加熱混練して各導電性粒子の一部を有機材料により被覆し、有機材料により被覆された複数の導電性粒子と高分子マトリクスとを加圧混練して混練物を調製し、この混練物をシート層に形成するとともに、このシート層を複数の導電体に挟んで加熱加圧し、その後、シート層と複数の導電体とに放射線を照射することを特徴とする過電流保護素子の製造方法。
【請求項2】
複数の導電性粒子の重量に対して有機材料を10〜30wt%配合し、有機材料を高分子マトリクスと相溶性のない材料とする請求項1記載の過電流保護素子の製造方法。
【請求項3】
高分子マトリクスを熱可塑性樹脂とし、各導電性粒子をカーボン粒子とした請求項1又は2記載の過電流保護素子の製造方法。
【請求項4】
有機材料を、変性エラストマーEPR、SBR樹脂、あるいはSBS樹脂とした請求項1、2、又は3記載の過電流保護素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図2】
【公開番号】特開2008−41724(P2008−41724A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−210495(P2006−210495)
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】
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