説明

遠心分離容器

【課題】赤血球のような比較的比重の大きな粒子の有無にかかわらず、上清の排出時の細胞層からの細胞の舞い上がりを確実に防いで上清のみを排出する。
【解決手段】先細の底部2bを有し細胞懸濁液を収容する容器本体2と、細胞懸濁液に含まれる分離すべき細胞の粒径より小さい孔径を有し、底部2bの内部を深さ方向に区画するフィルタ3と、該フィルタ3の上方に該フィルタ3から間隔を空けて配置された上清吸引口4cを有する配管4とを備える遠心分離容器1を提供する。
1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心分離容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞を遠心分離する遠心分離容器において、細胞層と上清との界面の上方に上清吸引口を有する配管を備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。この遠心分離容器によれば、上清吸引口から上清を吸引したときの吸引の勢いによる細胞の舞い上がりを抑制し、上清とともに細胞も排出されてしまうことを防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−189282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、赤血球のような細胞より比重の大きい粒子が細胞と混在している場合、遠心分離したときにこの粒子の層が細胞層の下側に形成される。すなわち、細胞層と上清吸引口との距離が近くなるため、上清吸引口から上清を排出したときに細胞が舞い上げられて排出されてしまい、最終的な細胞の回収率が低下してしまうという不都合がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、赤血球のような比較的比重の大きな粒子の有無にかかわらず、上清の排出時の細胞層からの細胞の舞い上がりを確実に防いで上清のみを排出することができる遠心分離容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、先細の底部を有し細胞懸濁液を収容する容器本体と、前記細胞懸濁液に含まれる分離すべき細胞の粒径より小さい孔径を有し、前記底部の内部を深さ方向に区画するフィルタと、該フィルタの上方に該フィルタから間隔を空けて配置された上清吸引口を有する配管とを備える遠心分離容器を提供する。
【0007】
本発明によれば、容器本体を遠心回転させることにより、目的の細胞をフィルタの上端面上に沈降させることができる。また、この後に上清吸引口から配管を介して上清を吸引することにより、細胞を沈降させた状態のまま上清を選択的に排出することができる。
【0008】
この場合に、細胞懸濁液に含まれる、細胞に比べて大きな比重と小さな粒径とを有する粒子は、遠心分離時にフィルタを透過して該フィルタの下側に分画され、一方細胞はフィルタの上側に分画される。すなわち、このような粒子が混在していても細胞層と上清吸引口との間に確実に距離が確保される。これにより、上清の排出時の細胞層からの細胞の舞い上がりを確実に防いで上清のみを排出することができる。
【0009】
上記発明においては、前記底部の内部において前記フィルタの下側に区画された空間に収容され、前記細胞の粒径より小さい粒径を有する粒子を捕捉する捕捉材を備えていてもよい。
このようにすることで、フィルタを透過させられた粒子が捕捉材によって捕捉されるので、例えば、上清の排出後にフィルタの上面に残された細胞に操作を加えたときに、粒子が舞い上げられてフィルタを逆行し細胞に再混入することを防ぐことができる。
【0010】
上記発明においては、前記捕捉材が、前記細胞の比重以上であり前記粒子の比重より小さい比重を有するゲルであってもよい。
このようにすることで、遠心分離したときにフィルタと粒子の層との間にゲルの層が形成され、粒子がゲル層の下側に捕捉される。これにより、遠心分離後に細胞に操作を加えたときに、その操作が粒子の層に伝わることを防止し、粒子の舞い上がりを防ぐことができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記捕捉材が、前記細胞の粒径より小さい孔径を有し互いに連通した多数の細孔が形成された多孔質体であってもよい。
このようにすることで、遠心分離時に粒子が多孔質体の内部に侵入することにより多孔質体に捕捉されるので、遠心分離後に細胞を操作したときの粒子の舞い上がりを防ぐことができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記底部の先端近傍に開口した排出ポートを備えていてもよい。
このようにすることで、遠心分離後にフィルタの下側に分画された粒子を排出ポートから排出することにより、その後の細胞の操作における粒子の細胞への再混入をさらに確実に防ぐことができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記フィルタが、5〜10μmの孔径を有していてもよい。
このようにすることで、粒子として赤血球をフィルタの下側に分画することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、赤血球のような比較的比重の大きな粒子の有無にかかわらず、上清の排出時の細胞層からの細胞の舞い上がりを確実に防いで上清のみを排出することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る遠心分離容器の全体構成図である。
【図2】図1の遠心分離容器を用いて懸濁液を遠心分離した後の状態を示す図である。
【図3】図1の遠心分離容器の変形例であり、フィルタの下側にゲルを収容した構成を示す図である。
【図4】図3の遠心分離容器を用いて懸濁液を遠心分離した後の状態を示す図である。
【図5】図1の遠心分離容器のもう1つの変形例であり、ポケット部内に多孔質体が充填された構成を示す図である。
【図6】図1の遠心分離容器のもう1つの変形例であり、赤血球排出用ポートを設けた構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の一実施形態に係る遠心分離容器1ついて図1〜図6を参照して説明する。なお、本実施形態においては、ヒトの組織から抽出した細胞の懸濁液から、該懸濁液に混在する赤血球(粒子)を除去し、細胞の濃縮液を生成する場合について説明する。
本実施形態に係る遠心分離容器1は、図1に示されるように、円筒状の側壁2aおよび該側壁2aの一端を閉塞する底部2bを有する容器本体2と、底部2bの内部空間を深さ方向に区画するフィルタ3と、容器本体2内に挿入された配管4とを備えている。
【0017】
容器本体2の側壁2aの他端側は、蓋体2cによって密閉されている。容器本体2の底部2bは、先端に向かって漸次径寸法が小さくなるように形成されたテーパ部2dと、該テーパ部2dの先端に設けられた凹状の内面を有するポケット部2eとからなる。
【0018】
フィルタ3は、容器本体2を正立させたときに略水平方向に配置されるように、ポケット部2e内に設けられている。フィルタ3は、回収すべき細胞の粒径よりも小さく赤血球の粒径よりも大きい孔径のもの、具体的には、5〜10μm程度の孔径のものが用いられる。例えば、フィルタ3として、親水性のアクリル系ポリマなどの高分子からなる不織布フィルタを好適に用いることができる。
【0019】
配管4は、外管4aと該外管4a内に挿入された内管4bとからなる2重構造を有しており、内管4bの内部、および、外管4aの内周面と内管4bの外周面との間に形成された隙間が流路になっている。配管4は、蓋体2cの略中央を厚さ方向に貫通して容器本体2内に挿入されている。
【0020】
外管4aは、先端において内管4bとの隙間が閉塞されているとともに、テーパ部2dとポケット部2eとの境界近傍において側壁に上清吸引口4cが開口している。外管4aの、蓋体2cの外側に配置される端部には、チューブなどが接続可能な上清排出用ポート4dが設けられている。
【0021】
内管4bは、先端部が外管4aの先端から突出しており、細胞吸引口4eが開口した先端面がフィルタ3の上端面近傍に配置されている。また、内管4bの、蓋体2cの外側に配置されている端部には、例えば、シリンジなどの吸引手段が接続可能な細胞回収用ポート4fが設けられている。符号4gは、細胞回収用ポート4fを閉塞するキャップである。
【0022】
このように構成された遠心分離容器1の作用について、以下に説明する。
本実施形態に係る遠心分離容器1を用いて懸濁液から細胞の濃縮液を生成するためには、懸濁液を遠心分離容器1に収容して該遠心分離容器1を遠心回転させる。このときに、図2に示されるように、懸濁液中の、細胞Bよりも比重が大きい赤血球Aがフィルタ3を透過してポケット部2eの底面に沈降し、一方細胞Bはフィルタ3の上端面上に沈降する。
【0023】
次に、上清排出用ポート4dにチューブなどを接続して外管4aと内管4bとの隙間を吸引することにより、上清吸引口4cから上清Cを排出する。このときに、上清Cの界面位置が上清吸引口4cの高さまで降下したときに上清Cの排出が停止する。次に、細胞回収用ポート4fにシリンジなどを接続して、該シリンジなどにより吸引と吐出とを穏やかに数回繰り返すことにより、ポケット部2e内に残された上清Cと細胞Bとをピペッティングする。その後、シリンジなどで吸引することにより、少量の上清Cによって懸濁された細胞Bの濃縮液を得ることができる。
【0024】
この場合に、本実施形態によれば、細胞Bよりも比重の大きな赤血球Aが懸濁液中に含まれていても、細胞Bの沈殿物が同一の深さ方向の位置に形成される。すなわち、細胞Bの沈殿物と上清吸引口4cとの距離が確実に十分に確保されるので、上清Cを排出したときに吸引の流れによって細胞Bが舞い上げられて上清Cとともに排出されてしまう不都合を防ぐことができる。また、赤血球Aを除去するために別途操作をしなくても、一度の遠心分離で赤血球Aが除去された純度の高い細胞Bの濃縮液を得ることができる。
【0025】
なお、上記実施形態においては、図3に示されるように、ポケット部2e内の、フィルタ3によって区画されて下側の空間に細胞Bの比重よりも大きく赤血球Aの比重よりも小さいゲル(捕捉材)Dが収容されていてもよい。ゲルとしては、例えば、コラーゲンゲルやペプチドハイドロゲルを好適に用いることができる。
【0026】
このようにすることで、遠心分離したときに、図4に示されるように、赤血球Aの層の上にゲルDの層が形成されるので、上清Cの排出後にピペッティングをしたときに、液の流れが赤血球Aの層に伝わることが防止される。これにより、ピペッティングによって赤血球Aが舞い上げられてフィルタ3を逆行し細胞Bと再混合されてしまうことを防ぐことができる。
【0027】
また、ゲルDに代えて、図5に示されるように、多孔質体(捕捉材)5をポケット部2e内の下側の空間に配置してもよい。多孔質体5は、細胞Bの粒径よりも小さく赤血球Aの粒径よりも大きな孔径の連通孔が多数形成されたものが用いられる。
【0028】
このようにすることで、遠心分離したときに、赤血球Aが多孔質体5の連通孔内に侵入して多孔質体5内に捕捉され、一方細胞Bは多孔質体5の上端面上に沈降する。このようにしても、赤血球Aの有無にかかわらず細胞Bの沈殿物が同一の位置に形成されるので、上清Cの排出時に細胞Bも排出されてしまう不都合を防止できる。
なお、図5には、フィルタ3が省略された構成を例示したが、多孔質体5の上方にフィルタ3を設けてもよい。
【0029】
また、上記実施形態においては、図6に示されるように、ポケット部2eの底面に、赤血球Aを排出する赤血球排出用ポート(排出ポート)6を設けてもよい。赤血球排出用ポート6は、例えば、ゴム栓体7によって塞がれおり、遠心分離後にゴム栓体7に注射針を穿刺してシリンジでポケット部2e内の赤血球Aを吸引できるようになっている。
このようにすることで、遠心分離後に赤血球排出用ポート6から赤血球Aを排出することにより、上清Cの排出時およびピペッティング時の赤血球Aの舞い上がりや細胞Bへの再混入をさらに確実に防止することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 遠心分離容器
2 容器本体
2a 側壁
2b 底部
2c 蓋体
2d テーパ部
2e ポケット部
3 フィルタ
4 配管
4a 外管
4b 内管
4c 上清吸引口
4d 上清排出用ポート
4e 細胞吸引口
4f 細胞回収用ポート
4g キャップ
5 多孔質体(捕捉体)
6 赤血球排出用ポート(排出ポート)
7 ゴム栓体
A 赤血球
B 細胞
C 上清
D ゲル(捕捉体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先細の底部を有し細胞懸濁液を収容する容器本体と、
前記細胞懸濁液に含まれる分離すべき細胞の粒径より小さい孔径を有し、前記底部の内部を深さ方向に区画するフィルタと、
該フィルタの上方に該フィルタから間隔を空けて配置された上清吸引口を有する配管とを備える遠心分離容器。
【請求項2】
前記底部の内部において前記フィルタの下側に区画された空間に収容され、前記細胞の粒径より小さい粒径を有する粒子を捕捉する捕捉材を備える請求項1に記載の遠心分離容器。
【請求項3】
前記捕捉材が、前記細胞の比重以上であり前記粒子の比重より小さい比重を有するゲルである請求項2に記載の遠心分離容器。
【請求項4】
前記捕捉材が、前記細胞の粒径より小さい孔径を有し互いに連通した多数の細孔が形成された多孔質体である請求項2に記載の遠心分離容器。
【請求項5】
前記底部の先端近傍に開口した排出ポートを備える請求項1に記載の遠心分離容器。
【請求項6】
前記フィルタが、5〜10μmの孔径を有する請求項1に記載の遠心分離容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−44876(P2012−44876A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187205(P2010−187205)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】