説明

遠心分離容器

【課題】細胞懸濁液から濃縮分離される生体組織由来細胞内から赤血球を取り除き、濃度の高い生体組織由来細胞を濃縮分離する。
【解決手段】一端に先細に閉塞された底部2aを有し、他端に細胞懸濁液Aの導入口5を有する筒状の容器本体2と、該容器本体2内を長手方向に底部側空間7と導入口側空間8とに区画する第1の区画壁3と、底部側空間7を容器本体2の内面に沿う第1空間11と、該第1空間11よりも内側の第2空間12とに区画する第2の区画壁4とを備え、第1の区画壁3に、導入口側空間8と第2空間12とを連絡し、流動する細胞懸濁液Aにファーレウス・リンドクイスト効果を発生させる口径の主流路9と、該主流路9の途中位置において壁面近傍の流れを分岐して、第1空間11に連絡する分岐流路10a,10bとが設けられている遠心分離容器1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心分離容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、脂肪組織を消化して得られた細胞懸濁液を遠心分離することにより、比重の大きな脂肪由来細胞を濃縮して分離する装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2005−519883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の細胞処理装置では、脂肪由来細胞をそれより比重の軽い上清等から分離することはできるものの、比重が同等の赤血球を分離することはできないという不都合がある。そして、最終的に回収される脂肪由来細胞に赤血球が多量に含まれる場合には、治療効果が低下する虞がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、細胞懸濁液から濃縮分離される生体組織由来細胞内から赤血球を取り除き、濃度の高い生体組織由来細胞を濃縮分離することができる遠心分離容器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、一端に先細に閉塞された底部を有し、他端に細胞懸濁液の導入口を有する筒状の容器本体と、該容器本体内を長手方向に底部側空間と導入口側空間とに区画する第1の区画壁と、前記底部側空間を前記容器本体の内面に沿う第1空間と、該第1空間よりも内側の第2空間とに区画する第2の区画壁とを備え、前記第1の区画壁に、前記導入口側空間と前記第2空間とを連絡し、流動する細胞懸濁液にファーレウス・リンドクイスト効果を発生させる口径の主流路と、該主流路の途中位置において壁面近傍の流れを分岐して、前記第1空間に連絡する分岐流路とが設けられている遠心分離容器を提供する。
【0007】
本発明によれば、導入口から導入口側空間に細胞懸濁液を供給し、底部が半径方向外方に向かうように回転させると、細胞懸濁液には底部に向かう方向に遠心力が作用し、第1の区画壁に押し付けられる。そして、細胞懸濁液は、第1の区画壁に設けられた主流路に流入し、その流動途中において分岐流路に分岐させられる。主流路は底部側空間を区画する第2の区画壁によって形成された第2空間に連絡し、分岐流路は第1空間に連絡しているので、主流路を流れた液体と分岐流路を流れた液体とは別々の空間に分類される。
【0008】
この場合において、主流路を流動する細胞懸濁液にはファーレウス・リンドクイスト効果が発生し、主流路の中心部における流速が周辺部より高められることにより、粒径の小さい赤血球が主流路の中心部に集まり、それより粒径の大きな細胞は主流路の周辺部を流動するようになる。そして、主流路の中央部分を流動した白血球を多く含む細胞懸濁液は、そのまま主流路を流れて第2空間に流入し、主流路の周辺部分を流動していた細胞は主流路の途中位置から分岐する分岐流路に入りって第1空間に流入するようになる。
【0009】
その結果、第2の区隔壁によって区画された第2空間には赤血球を多く含む細胞懸濁液が集められるので、第1空間に集められた細胞懸濁液からは赤血球が除かれていることになる。そして、第1空間に集められた細胞懸濁液は、遠心力によって比重の大きさに従って層状に分離される。これにより、遠心分離容器の底部に、比重の大きな細胞を赤血球を除去された状態で濃縮分離することができる。
【0010】
上記発明においては、前記容器本体が円筒状に形成され、前記第1の区画壁が、複数の楔形状の流路部材を周方向に接合して円板状に形成され、各前記流路部材に、幅方向に沿って前記主流路および前記分岐流路が形成されていてもよい。
このようにすることで、複数の同一の楔形状の流路部材を組み合わせて、円筒状の容器本体の内部を底部側空間と導入口側空間とに区画するとともに、両空間を連絡する複数の主流路と分岐流路とを有する第1の区画壁を簡易に構成できる。
【0011】
また、上記発明においては、前記第2空間の中央部に、前記第1空間に連絡する中央空間が設けられ、前記容器本体の半径方向内方において前記主流路から分岐する分岐流路が、前記中央空間に連絡していてもよい。
このようにすることで、主流路から容器本体の半径方向内方と半径方向外方の両方に、分岐流路を分岐させ、分岐流路に分岐させた細胞を、第1空間に、より効率的に回収することができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記導入口側空間、前記第1の区画壁および前記中央空間を貫通して、前記底部近傍に吸引口を配置した吸引管が設けられていてもよい。
このようにすることで、吸引管を介して、容器本体の底部に濃縮分離された細胞を容器本体外に取り出すことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、細胞懸濁液から濃縮分離される生体組織由来細胞内から赤血球を取り除き、濃度の高い生体組織由来細胞を濃縮分離することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る遠心分離容器を示す全体構成図である。
【図2】図1の遠心分離容器に備えられた第1の区画壁の一例を示す斜視図である。
【図3】図2の第1の区画壁を構成する流路部材に設けられた流路を説明する部分的な拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る遠心分離容器について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る遠心分離容器1は、図1に示されるように、略円筒状の容器本体2と、該容器本体2内を区画する第1の区画壁3および第2の区画壁4とを備えている。
【0016】
容器本体2の一端は先細の底部2aにより閉塞され、他端はキャップ2bによって閉塞されている。キャップ2bには、細胞懸濁液Aの導入管(導入口)5が貫通して固定されている。また、キャップ2bの中央部には、容器本体2の先端に集められた細胞を吸引するための吸引管6が貫通して固定されている。
【0017】
第1の区画壁3は、円板状に形成され、容器本体2の長手方向の途中位置に配置されて、容器本体2の内部空間を底部側空間7と導入口側空間8とに区画している。
第1の区画壁3は、図2に示されるように楔形の板状の流路部材3aを、厚さ方向に重ねて複数配列することにより、複数の流路部材3aが周方向に全周にわたって配列されて円板状に形成されている。これら流路部材3aを接着剤等によって相互に接合することにより一体的な円板状の第1の区画壁3が形成されている。
【0018】
この第1の区画壁3の外径寸法は、容器本体2の長さ方向の途中位置における内径寸法に一致し、容器本体2内に挿入すると、長さ方向の途中位置において、第1の区画壁3の外面が容器本体2の内面に液密状態に密着させられるようになっている。また、第1の区画壁3の中央部には、吸引管6を貫通させるように、厚さ方向に貫通する貫通孔3bが形成されている。貫通孔3bは吸引管6を密着状態に嵌合させる内径寸法を有している。
【0019】
各流路部材3aには、図1および図3に示されるように、該流路部材3aを幅方向に貫通して幅方向の両端面に開口する主流路9と、該主流路9の長手方向の途中位置から分岐して流路部材3aの幅方向の一端面に開口する分岐流路10a,10bとが設けられている。主流路9は、導入口側空間8から底部側空間7に向けて細胞懸濁液Aを流動させる際に、細胞懸濁液Aにファーレウス・リンドクイスト効果を発生させる口径を有している。
【0020】
すなわち、主流路9を流動させられる細胞懸濁液Aには、同等の比重を有するが、粒径の異なる細胞と赤血球とがそれぞれ含まれている。細胞懸濁液Aが導入口側空間8から底部側空間7に向かって主流路9を流動させられる間に、ファーレウス・リンドクイスト効果により、粒径の小さい赤血球が、流速の速い主流路9の中央近傍に、粒径の大きな細胞が、流速の遅い主流路9の周辺近傍を流れるようになっている。
【0021】
流路部材3aは、例えば、約65mmの幅寸法を有し、主流路9は、流路部材3aの長さ方向に、例えば、約70μmの内径寸法を有している。また、分岐流路10a,10bは、主流路9の導入口側空間8に配される流路部材3aの端面から約55mmの位置で主流路9から分岐している。分岐流路10a,10bは、主流路9の流路部材3aの長さ方向の両側から2本分岐し、それぞれ10μmの内径寸法を有している。分岐点において、主流路9はその口径を約50μmに減少させている。
【0022】
第2の区画壁4は、図1に示されるように、底部側空間7を容器本体2の内面に沿う第1空間11とそれよりも内側の第2空間12とに区画するようになっている。また、第1空間11は、容器本体2の中央部において、容器本体2の中心軸を含む円柱状の中央空間11aに連続する形状を有している。第1空間11の中央空間11aと第2空間12とを区画する部分の第2の区画壁4は、円筒状に形成されている。この第2の区画壁4の円筒状部分の内径寸法は、吸引管6の外径寸法より大きく、吸引管6の外面との間に円筒状の流路を形成している。
【0023】
第1の区画壁3に形成された主流路9の底部側空間7側の開口は、第2空間12内に配置されている。また、第2の区画壁4に形成された分岐流路10a,10bは、それぞれ第1空間11内に開口している。
吸引管6は、先端の吸引口6aを底部2a内面に微小隙間を空けて近接配置されている。これにより、吸引管6内を負圧に吸引することで、吸引口6aから底部2aに貯留した細胞を吸引して容器本体2の外部に取り出すことができるようになっている。
【0024】
このように構成された本実施形態に係る遠心分離容器1の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る遠心分離容器1を用いて細胞懸濁液Aから生体組織由来細胞を濃縮分離するには、遠心分離容器1を遠心分離機にセットし、導入管5を介して遠心分離容器1内に細胞懸濁液Aを供給する。
【0025】
細胞懸濁液Aとしては、例えば、脂肪組織等の生体組織を消化酵素により分解して得られた生体組織由来細胞や赤血球等を含む混合液である。導入管5を介して遠心分離容器1内に導入される細胞懸濁液Aは、第1の区画壁3よりも導入管5側の導入口側空間8に一旦収容される。
【0026】
この状態で、遠心分離機を作動させて、遠心分離容器1を、その底面が半径方向外方に向かうように回転させることにより、遠心分離容器1内に収容されている細胞懸濁液Aにも遠心力が作用して、半径方向外方に配されている第1の区画壁3に押し付けられる。第1の区画壁3には、厚さ方向に貫通する主流路9が形成されているので、遠心力によって圧力が高められた細胞懸濁液Aは、導入口側空間8の開口から複数の主流路9に流れ込み、主流路9内を流動して、底部側空間7に流れ込む。
【0027】
この場合において、主流路9は、細胞懸濁液Aにファーレウス・リンドクイスト効果を発生させる寸法に構成されているので、細胞懸濁液A内の比較的粒径の小さい赤血球が、流速の速い主流路9の半径方向の中央部を流動させられ、比較的粒径の大きな生体組織由来細胞は、流速の遅い主流路9の半径方向外方の周辺部分を流動させられるようになる。
【0028】
そして、主流路9は、その長手方向の途中位置において、周辺部分の流れを分岐流路10a,10bに分岐させるので、主流路9の周辺部分を流動していた生体組織由来細胞を多く含む細胞懸濁液Bは分岐流路10a,10bへ分岐して流れ、主流路9の中央部分を流動していた赤血球を多く含む細胞懸濁液Cは、分岐流路10a,10bへ分岐されることなく、そのまま主流路9を流動し続けることになる。
【0029】
その結果、主流路9を流動した赤血球を多く含む細胞懸濁液Cは、第1の区画壁3を貫通すると、底部側空間7に第2の区画壁4によって区画されている第2空間12に吐出される。一方、分岐流路10a,10bを流動した生体組織由来細胞を多く含む細胞懸濁液Bは、第1の区画壁3から底部側空間7に出ると、第2の区画壁4によって区画されている第1空間11に吐出される。これにより、赤血球を多く含む細胞懸濁液Cが、生体組織由来細胞を多く含む細胞懸濁液Bから分離され、赤血球の濃度を低減された細胞懸濁液Bが、第1空間11に貯留されていくことになる。
【0030】
そして、さらに遠心分離容器1の回転を継続すると、第1空間11に貯留された細胞懸濁液Bが、遠心力を受けて、細胞懸濁液Bに含まれる成分が、比重に応じて分離される。上述したように、このときの細胞懸濁液Bからは赤血球の多くが取り除かれているので、最終的に容器本体2の底部2aには、高濃度に濃縮された生体組織由来細胞が分離される。そして、分離された生体組織由来細胞は、吸引管6を介して容器本体2から取り出すことができる。
【0031】
このように、本実施形態に係る遠心分離容器1によれば、遠心分離機に取り付けて回転させるだけで、導入した細胞懸濁液Aから赤血球を除去しつつ生体組織由来細胞を高濃度で濃縮分離することができるという利点がある。
なお、本実施形態においては、ファーレウス・リンドクイスト効果を発生させる主流路9の寸法を例示したが、これに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0032】
A 細胞懸濁液
1 遠心分離容器
2 容器本体
2a 底部
3 第1の区画壁
3a 流路部材
4 第2の区画壁
5 導入管(導入口)
6 吸引管
6a 吸引口
7 底部側空間
8 導入口側空間
9 主流路
10a,10b 分岐流路
11 第1空間
12 第2空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に先細に閉塞された底部を有し、他端に細胞懸濁液の導入口を有する筒状の容器本体と、
該容器本体内を長手方向に底部側空間と導入口側空間とに区画する第1の区画壁と、
前記底部側空間を前記容器本体の内面に沿う第1空間と、該第1空間よりも内側の第2空間とに区画する第2の区画壁とを備え、
前記第1の区画壁に、前記導入口側空間と前記第2空間とを連絡し、流動する細胞懸濁液にファーレウス・リンドクイスト効果を発生させる口径の主流路と、該主流路の途中位置において壁面近傍の流れを分岐して、前記第1空間に連絡する分岐流路とが設けられている遠心分離容器。
【請求項2】
前記容器本体が円筒状に形成され、
前記第1の区画壁が、複数の楔形状の流路部材を周方向に接合して円板状に形成され、
各前記流路部材に、幅方向に沿って前記主流路および前記分岐流路が形成されている請求項1に記載の遠心分離容器。
【請求項3】
前記第2空間の中央部に、前記第1空間に連絡する中央空間が設けられ、
前記容器本体の半径方向内方において前記主流路から分岐する分岐流路が、前記中央空間に連絡している請求項1または請求項2に記載の遠心分離容器。
【請求項4】
前記導入口側空間、前記第1の区画壁および前記中央空間を貫通して、前記底部近傍に吸引口を配置した吸引管が設けられている請求項3に記載の遠心分離容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−75603(P2012−75603A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222667(P2010−222667)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】