説明

遠心分離用容器、遠心分離用容器の姿勢保持用アダプター及び遠心分離用用具

【課題】汎用の設備で安価なディスポーザブル容器を使用し、細胞懸濁液から無菌的に細胞を分離・洗浄可能で、閉鎖系システムを採用するに適した遠心分離用容器、同容器の姿勢保持用アダプター及び遠心分離用用具を提供する。
【解決手段】遠心機に、姿勢保持用アダプターを介してセットされる遠心分離用容器で、
被遠心物を収容可能な密閉された内部空間を有する容器本体と、内部空間と外部とが連通可能なポートを備え、
容器本体は、大きな容積の第1の収容部と、第1の収容部と連通し、遠心沈殿物を収容する相対的に小さな容積の第2の収容部とからなり、
ポートは、第1の収容部側に開口部を有し、
第1の収容部と第2の収容部との境界部若しくはその近傍の容器壁が柔軟性を有し、当該境界部若しくはその近傍で対向する容器壁を密着させ、第2の収容部とポートの開口部とが非連通状態となるように隔離可能に構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心分離用容器、遠心分離用容器の姿勢保持用アダプター及び遠心分離用用具に関し、特に、培養細胞等を含む細胞懸濁液等からの細胞等の分離及び洗浄を容易にするのに適した遠心分離用容器、遠心分離用容器の姿勢保持用アダプター及び遠心分離用用具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞等(以下、単に「細胞」という。)を分離及び洗浄する方法としては、遠心機を利用する方法、遠心ボウルを使用する方法、フィルターを使用する濾過分離法、さらには、細胞の電荷を利用した電気的分離法、細胞表面に存在する抗原の親和性を利用したアフィニティ分離法等が行われている。
【0003】
一方、分離及び洗浄された細胞の医療用途としては、造血幹細胞移植、養子免疫療法、遺伝子治療等の細胞を用いた治療に用いられるようなり、無菌的に細胞を分離及び洗浄することが重要な課題となりつつある。
【0004】
さらに、医療用として一般化されるようになると、廉価で細胞を洗浄及び分離するコスト、すなわち、細胞を分離及び洗浄するための設備導入等のイニシャルコスト、細胞を分離及び洗浄に使用するために、都度使用するディスポーザブル製品のコストを廉価に抑えることが重要な課題となりつつある。
【0005】
一般の遠心機を利用した方法は、安価に、大量の細胞を処理することが可能な方法として知られている。その方法は、目的物である細胞懸濁液等(以下、「細胞懸濁液」という。)を遠心カップに移し替え、この遠心カップを遠心機に掛けて遠心し、遠心後、遠心カップの底に沈殿物を残したまま、上澄を除去することによって、細胞を分散媒、すなわち、培地または洗浄液から分離し、さらに洗浄液を加えて再度細胞懸濁液とした後で、前記と同様に遠心し、上澄を除去することによって、細胞を洗浄するものであり、汎用性の高い遠心機と、安価な遠心カップにより行うことができる。
【0006】
この遠心機を利用した方法では、通常、目的物である細胞懸濁液を遠心カップに移し変える段階、上澄を除去する段階、洗浄液に再懸濁する段階等の複数の段階で、目的物が大気に開放されるために、細胞を無菌的に維持することが困難である。これを、改善しようとすると、すなわち、細胞の無菌性を確実に維持しようとすると、遠心機はもちろんのこと、細胞調整室全体を含めた無菌システムの構築が必要となり、大がかりで高価な装置を必要とするものであった。
【0007】
遠心ボウルを使用する方法は、大量の細胞を、自動的に、且つ、無菌的に処理できる方法として知られている。(特許文献1)
【0008】
この遠心ボウルを使用する方法は、自らの中心軸を中心に回転する遠心ボウルと呼ばれる容器の中に、目的物である細胞懸濁液を導入し、回転する遠心ボウルのボウル内に生じる遠心力より細胞と分散媒を分離するもので、連続して細胞懸濁液を遠心ボウルのボウル内に導入し、分散媒または細胞を連続して取り出すことで、大量の細胞懸濁液を処理できる連続遠心分離システムである。この方法によれば、閉鎖系での分離・洗浄が可能となる。
【0009】
その遠心ボウルを使用する方法を実施するには、遠心ボウル、複数のバッグ、及び、それらを機能的に連結する複数のチューブ回路からなる滅菌されたディスポーザブルな分離・洗浄用キットと、遠心ボウルを回転させるための専用の遠心機、洗浄用キットの内部で液体を輸送するためのポンプ、及び、それらを制御する専用の制御システムとが必要となり、設備導入のためのイニシャルコストが高価なばかりでなく、煩雑な構成のディスポーザブルな洗浄用キットも高価となり、分離・洗浄のコストを大幅に上げてしまう。
【0010】
フィルターを使用する濾過分離法は、目的細胞を含む細胞懸濁液をフィルター部材に通過させて目的細胞を濾別し、次いで、フィルター部材に細胞懸濁液を通過させたのと逆方向から液体を通過させてフィルター部材に捕捉されている目的細胞を含む細胞懸濁液をフィルター部材から除去し、回収する方法である。この方法は、大量の細胞を、自動的に、且つ、無菌的な処理を可能にする方法としても知られている。
【0011】
そのフィルターを使用する濾過分離方法は、目的細胞を不要な細胞や液体成分から大量に迅速に分離する方法として適しているが、目的細胞の回収率が低いという欠点がある。この欠点は、フィルター部材の細孔の径が一連の処理作業過程において一定であることに由来する。
【0012】
さらには、フィルターを使用する方法は大量の細胞を自動的に、且つ、無菌的な処理に使用とすると、遠心ボウルの場合と同じように、設備導入のためのイニシャルコストが高価なばかりでなく、高価で煩雑な構成のディスポーザブルな洗浄用キットも必要となり、分離・洗浄のコストを大幅に上げてしまう。
【0013】
このため、安価な又は汎用の設備により処理可能で、安価なディスポーザブル容器を使用した、単純で短時間作業により、無菌的に、細胞を分離・洗浄可能な、細胞分離・洗浄用容器乃至は細胞分離・洗浄システムが要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平07−000857
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明が解決しようとする課題は、安価な又は汎用の設備で、安価なディスポーザブル容器を使用し、単純で、短時間作業により、細胞懸濁液から、無菌的に、細胞を分離・洗浄可能な、細胞分離・洗浄用容器及び同容器を使用した細胞分離・洗浄システムを構築することが可能な遠心分離用容器、遠心分離用容器の姿勢保持用アダプター及び遠心分離用用具を提供することにある。
【0016】
さらに詳しく述べると、閉鎖系システムを採用するのに適し、また、培養細胞等を含む細胞懸濁液等からの細胞等の分離及び洗浄を容易にするに適した遠心分離用容器、遠心分離用容器の姿勢保持用のアダプター及び遠心分離用用具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1に係る発明は、遠心機に、姿勢保持用アダプターを介してセットされる遠心分離用容器であって、
被遠心物を収容可能な密閉された内部空間を有する容器本体と、前記内部空間と外部とが連通可能なポートを備え、
前記容器本体は、上部側の大きな容積を有する第1の収容部と、前記第1の収容部と連通し、遠心沈殿物を収容する下部側の相対的に小さな容積を有する第2の収容部とからなり、
前記ポートは、前記第1の収容部側に開口部を有し、
前記第1の収容部と前記第2の収容部との境界部若しくはその近傍の容器壁が柔軟性を有し、当該境界部若しくはその近傍において、対向する容器壁を密着させることにより前記第2の収容部と前記ポートの前記開口部とが非連通状態となるように隔離可能であることを特徴とする。
【0018】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載する構成に加え、前記第1の収容部の下部側にはテーパ部が設けられており、前記第1の収容部は、前記テーパ部を介して前記第2の収容部と連通し、
前記テーパ部と前記第2の収容部との境界部若しくはその近傍の容器壁が柔軟性を有し、当該境界部若しくはその近傍において、対向する容器壁を密着させることにより前記第2の収容部と前記ポートの前記開口部とが非連通状態となるように隔離可能であることを特徴とする。
【0019】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載する構成に加え、前記第2の収容部の容積が、前記第1の収容部の容積の10%以下であることを特徴とする。
【0020】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3の何れかに記載する構成に加え、前記容器本体が、重ね合わせた柔軟性を有するシートまたはフィルムの周縁をシールすることによって形成されていることを特徴とする。
【0021】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至3の何れかに記載する構成に加え、前記容器本体が、ブロー成形法により、柔軟性を有する樹脂から形成されていることを特徴とする。
【0022】
請求項6に係る発明は、請求項1乃至5の何れかに記載する構成に加え、前記容器本体の内部空間と連通可能な柔軟性を有する流体移送用チューブが前記ポートに取り付けられていることを特徴とする。
【0023】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載する構成に加え、前記移送用チューブが、溶断シール可能で、且つ、無菌接合装置により連通可能に取り付けられていることを特徴とする。
【0024】
請求項8に係る発明は、被遠心物を収容可能な密閉された内部空間を有する容器本体を備え、
前記容器本体は、上部側の大きな容積を有する第1の収容部と、前記第1の収容部と連通し、遠心沈殿物を収容する下部側の相対的に小さな容積を有する第2の収容部とからなり、
前記第1の収容部と前記第2の収容部との境界部若しくはその近傍の容器壁が柔軟性を有する遠心分離用容器を遠心機のバケットにセットするための遠心分離用容器の姿勢保持用アダプターであって、
上面に前記遠心分離用容器を収容するための開口を備え、
前記上面側に前記第1の収容部が収容される第1の収容空間を、底面側に前記第2の収容部が収容される第2の収容空間を備えるとともに、前記第1の収容空間における前記第2の収容空間側には、前記第1の収容部を保持する保持部を備え、
遠心時に、前記遠心分離用容器の離脱を防止する周壁を備えたことを特徴とする。
【0025】
請求項9に係る発明は、被遠心物を収容可能な密閉された内部空間を有する容器本体を備え、
前記容器本体は、上部側の大きな容積を有する第1の収容部と、前記第1の収容部と連通し、遠心沈殿物を収容する下部側の相対的に小さな容積を有する第2の収容部とからなり、
前記第1の収容部の下部側にはテーパ部が設けられており、前記第1の収容部は、前記テーパ部を介して前記第2の収容部と連通し、
前記テーパ部と前記第2の収容部との境界部若しくはその近傍の容器壁が柔軟性を有する遠心分離用容器を遠心機のバケットにセットするための遠心分離用容器の姿勢保持用アダプターであって、
上面に前記遠心分離用容器を収容するための開口を備え、
前記上面側に前記第1の収容部が収容される第1の収容空間を、底面側に前記第2の収容部が収容される第2の収容空間を備えるとともに、前記第1の収容空間における前記第2の収容空間側には、前記テーパ部を保持するすり鉢状の保持部を備え、
遠心時に、前記遠心分離用容器の離脱を防止する周壁を備えたことを特徴とする。
【0026】
請求項10に係る発明は、請求項9に記載する構成に加え、前記すり鉢状の保持部の傾斜角度が、45°〜80°であることを特徴とする。
【0027】
請求項11に係る発明は、請求項8乃至10のいずれかに記載する構成に加え、前記遠心分離用容器の姿勢保持用アダプターが、上下方向に延在する分割面を有する略半分割可能であって、前記分割面の密着及び離間が可能であることを特徴とする。
【0028】
請求項12に係る発明は、請求項8乃至11のいずれかに記載する構成に加え、前記遠心分離用容器のセット状況を外部から目視で確認可能な透明性を有することを特徴とする。
【0029】
請求項13に係る発明は、被遠心物を収容可能な密閉された内部空間を有する容器本体と、前記内部空間と外部とが連通可能なポートを備え、
前記容器本体は、上部側の大きな容積を有する第1の収容部と、前記第1の収容部と連通し、遠心沈殿物を収容する下部側の相対的に小さな容積を有する第2の収容部とからなり、
前記ポートは、前記第1の収容部側に開口部を有し、
前記第1の収容部と前記第2の収容部との境界部若しくはその近傍の容器壁が柔軟性を有し、当該境界部若しくはその近傍において、対向する容器壁を密着させることにより前記第2の収容部と前記ポートの前記開口部とが非連通状態となるように隔離可能である遠心分離用容器と、
上面に前記遠心分離用容器を収容するための開口を備え、
前記上面側に前記第1の収容部が収容される第1の収容空間を、底面側に前記第2の収容部が収容される第2の収容空間を備えるとともに、前記第1の収容空間における前記第2の収容空間側には、前記第1の収容部を保持する保持部を備え、
遠心時に、前記遠心分離用容器の離脱を防止する周壁を備えたことを特徴とする遠心分離用容器の姿勢保持用アダプターと、
を備えたことを特徴とする。
【0030】
請求項14に係る発明は、被遠心物を収容可能な密閉された内部空間を有する容器本体と、前記容器本体の密閉された内部空間を外部と連通可能なポートを備え、
前記容器本体は、上部側の大きな容積を有する第1の収容部と、遠心沈殿物を収容する下部側の相対的に小さな容積を有する第2の収容部とからなり、
前記第1の収容部の下部側にはテーパ部が設けられており、前記第1の収容部は、前記テーパ部を介して前記第2の収容部と連通し、
前記テーパ部と前記第2の収容部との境界部若しくはその近傍の容器壁が柔軟性を有し、当該境界部若しくはその近傍において、対向する容器壁を密着させることにより前記第2の収容部と前記ポートの前記開口部とが非連通状態となるように隔離可能である遠心分離用容器と、
上面に前記遠心分離用容器を収容するための開口を備え、
前記上面側に前記第1の収容部が収容される第1の収容空間を、底面側に前記第2の収容部が収容される第2の収容空間を備えるとともに、前記第1の収容空間における前記第2の収容空間側には、前記テーパ部を保持するすり鉢状の保持部を備え、
遠心時に、前記遠心分離用容器の離脱を防止する周壁を備えたことを特徴とする遠心分離用容器の姿勢保持用アダプターと、
を備えたことを特徴とする。
【0031】
請求項15に係る発明は、請求項14に記載する構成に加え、前記遠心分離用容器の姿勢保持用アダプターの前記すり鉢状の保持部の傾斜角度が、45°〜80°であることを特徴とする。
【0032】
請求項16に係る発明は、請求項13乃至15のいずれかに記載する構成に加え、前記遠心分離用容器の姿勢保持用アダプターが、上下方向に延在する分割面を有する略半分割可能であって、前記分割面の密着及び離間が可能であることを特徴とする。
【0033】
請求項17に係る発明は、請求項13乃至16のいずれかに記載する構成に加え、前記遠心分離用容器の姿勢保持用アダプターが、前記遠心分離用容器のセット状況を外部から目視で確認可能な透明性を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0034】
請求項1に係る遠心分離用容器によれば、上部側に大きな容積の第1の収容部を有し、下部側に遠心沈殿物を収容する相対的に小さな容積の第2の収容部を有しているため、遠心分離後、沈殿物は第2の収容部に集積されることになる。そして、遠心分離後、上澄を排出する際には、第1の収容部と第2の収容部との境界部若しくはその近傍の柔軟性を有する容器壁を密着させることにより、第2の収容部と第1の収容部側のポートの開口部とが非連通状態となるため、ポートから上澄を容易に排出することができる。特に、第2の収容部と第1の収容部側のポートの開口部とが非連通状態となって隔離されるため、上澄の排出時に沈殿物が舞い上がって、上澄と一緒に沈殿物が排出されてしまうおそれもない。
また、上澄を排出する際に、容器壁の密着箇所を第2の収容部に集積された遠心沈殿物の直上とすることにより、第2の収容部に残存する上澄を可及的に少なくすることができる。
さらに、容器本体が密閉されており、かつ、第1の収容部側に開口部を有するポートを備えているため、細胞混濁液等の内容液の収容、遠心分離及び上澄の排出といった一連の作業を閉鎖系システムで実現でき、細胞の分離・洗浄等を無菌的に、簡易に、かつ、廉価で行うことができる。
【0035】
請求項2に係る遠心分離用容器によれば、第1の収容部の下部側にはテーパ部が設けられており、第1の収容部は、テーパ部を介して第2の収容部と連通しているため、遠心時に沈殿物は、テーパ部に沿って第2の収容部へスムースに沈降し、第1の収容部に滞留することがない。
【0036】
請求項3に係る遠心分離用容器によれば、第2の収容部の容積が第1の収容部の容積の10%以下であるため、沈殿物の濃度の高い遠心分離物が得られるだけでなく、沈殿物から分散媒を除去するために行われる洗浄においては、繰り返し洗浄の回数を減らすことができ、繰り返し洗浄による沈殿物の流出を防ぐことができるので、沈殿物の回収も効率良く行うことができる。
【0037】
請求項4に係る遠心分離用容器によれば、容器本体が、重ね合わせた柔軟性を有するシートまたはフィルムの周縁をシールすることによって形成されているので、均一な柔軟性を有する、減容性の良い、すなわち、保管性、廃棄性を
高めることができる。また、柔軟性を有する部分が、容器本体の一部に限ることなく、全体が柔軟性を有することになり、閉鎖系のシステムを構築することが容易となる。
さらに、柔軟性に優れているため、遠心前の遠心分離用容器の形状が姿勢保持用アダプターの収容空間の内側構造に必ずしもフィットしていない場合であっても、その違いが小さければ、遠心時に容器壁が伸び等の変形で違いを吸収できるため、姿勢保持用アダプターの収容空間の内側構造にフィットし、破袋を免れることができる。
【0038】
請求項5に係る遠心分離用容器によれば、容器本体がブロー成形法により、柔軟性を有する樹脂から形成されているので、姿勢保持用アダプターの収容空間の内側構造とのフィット性を高めることができる。また、柔軟性を有する部分が、容器本体の一部に限ることなく、全体が柔軟性を有することになり、閉鎖系のシステムを構築することが容易となる。
さらに、柔軟性に優れているため、遠心前の遠心分離用容器の形状が姿勢保持用アダプターの収容空間の内側構造に必ずしもフィットしていない場合であっても、その違いが小さければ、遠心時に容器壁が伸び等の変形で違いを吸収できるため、姿勢保持用アダプターの収容空間の内側構造にフィットし、破袋を免れることができる。
【0039】
請求項6に係る遠心分離用容器によれば、容器本体の内部空間と連通可能な柔軟性を有する流体移送用チューブがポートに取り付けられているため、閉鎖系のシステムを構築するのに好都合である。
【0040】
請求項7に係る遠心分離用容器によれば、移送用チューブが溶断シール可能で、かつ、無菌接合装置により連通可能に連結できるので、細胞培養用バッグ、培地バッグ、洗浄液バッグ、廃液用バッグ等と無菌的に連結及び分離が可能となる。
【0041】
請求項8に係る遠心分離用容器の姿勢保持用アダプターによれば、上面側に第1の収容部が収容される第1の収容空間を、底面側に第2の収容部が収容される第2の収容空間を備えるとともに、第1の収容空間における第2の収容空間側には、第1の収容部を保持する保持部を備え、遠心時に、遠心分離用容器の離脱を防止する周壁を備えているため、遠心分離用容器の第1の収容部と第2の収容部との境界部若しくはその近傍の容器壁が柔軟性を有する場合のみならず、遠心分離用容器全体が柔軟性を有して自立困難な場合であっても、遠心時に、遠品遠心分離用容器を確実に保持することができる。
【0042】
請求項9に係る遠心分離用容器の姿勢保持用アダプターによれば、遠心分離用容器の第1の収容部の下部側に設けられたテーパ部を保持するすり鉢状の保持部を備えているため、かかる形状の遠心分離用容器に好適にフィットすることができる。
【0043】
請求項10に係る遠心分離用容器の姿勢保持用アダプターによれば、すり鉢状の保持部の傾斜角度が45°〜80°であるため、ほとんどの沈殿物をテーパ部に滞留させることなく、テーパ部に沿って第2の収容部に沈殿させることができる。
【0044】
請求項11に係る遠心分離用容器の姿勢保持用アダプターによれば、遠心分離用容器の姿勢保持用アダプターが、上下方向に延在する分割面を有する略半分割可能であって、分割面の密着及び離間が可能であるため、遠心分離用容器をセットする際には、分割面を離間させて隙間を設けることにより、遠心分離用容器を容易に、かつ、確実にセットすることができる。そして、遠心時には、分割面を密着させることにより、遠心分離用容器を保持する所定の収容空間とすることができる。
【0045】
請求項12に係る遠心分離用容器の姿勢保持用アダプターによれば、遠心分離用容器のセット状況を外部から目視で確認可能な透明性を有するため、遠心分離用容器がセットされている状態を目視確認でき、セットミスを防止できる。
【0046】
請求項13に係る遠心分離用用具によれば、遠心分離後、ポートから上澄を容易に排出することができ、また、上澄の排出時に沈殿物が舞い上がって、上澄と一緒に沈殿物が排出されてしまうおそれもない。さらに、上澄を排出する際に、第2の収容部に残存する上澄を可及的に少なくすることができる。
また、細胞混濁液等の内容液の収容、遠心分離及び上澄の排出といった一連の作業を閉鎖系システムで実現でき、細胞の分離・洗浄等を無菌的に、簡易に、かつ、廉価で行うことができる。
さらに、遠心分離用容器の第1の収容部と第2の収容部との境界部若しくはその近傍の容器壁が柔軟性を有する場合のみならず、遠心分離用容器全体が柔軟性を有して自立困難な場合であっても、遠心分離用容器の姿勢保持用アダプターによって、遠心時に、遠品遠心分離用容器を確実に保持することができる。
【0047】
請求項14に係る遠心分離用用具によれば、遠心時に沈殿物は、テーパ部に沿って第2の収容部へスムースに沈降し、第1の収容部に滞留することがない。
また、遠心分離用容器の姿勢保持用アダプターは、遠心分離用容器のテーパ部を保持するすり鉢状の保持部を備えているため、かかる形状の遠心分離用容器に好適にフィットすることができる。
【0048】
請求項15に係る遠心分離用用具によれば、すり鉢状の保持部の傾斜角度が45°〜80°であるため、ほとんどの沈殿物をテーパ部に滞留させることなく、テーパ部に沿って第2の収容部に沈殿させることができる。
【0049】
請求項16に係る遠心分離用用具によれば、遠心分離用容器の姿勢保持用アダプターに遠心分離用容器をセットする際には、分割面を離間させて隙間を設けることにより、遠心分離用容器を容易に、かつ、確実にセットすることができる。そして、遠心時には、分割面を密着させることにより、遠心分離用容器を保持する所定の収容空間とすることができる。
【0050】
請求項17に係る遠心分離用用具によれば、遠心分離用容器の姿勢保持用アダプターへの遠心分離用容器のセット状況を外部から目視で確認可能な透明性を有するため、遠心分離用容器がセットされている状態を目視確認でき、セットミスを防止できる。
【0051】
なお、ここまで、本発明を説明するに当って説明を容易にするために、対象となる懸濁液を細胞または細胞懸濁液として説明してきたが、本発明の原理から言えば、本発明は、細胞または細胞懸濁液に限らず、分散質と分散媒からなるその他の懸濁液から分散質を分離または洗浄する場合にも広く適用できることは明らかであり、その場合も本発明の範囲に含まれる。特に、無菌的操作を必要とする場合には、本発明の効果は、顕著である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、本発明の一実施例に係る遠心分離用容器を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1の遠心分離用容器を周縁シールで形成した場合の容器本体の全体形状の概略を示す平面図である。
【図3】図3は、図1の遠心分離用容器を姿勢保持用アタプターにセットした状態を示す平面図である。
【図4】図4は、図1の遠心分離用容器に設けられるポート周辺を示す拡大斜視図である。
【図5】図5は、本発明の一実施例に係る遠心分離用容器の姿勢保持用アダプターを示す斜視図である。
【図6】図6は、図5の姿勢保持用アダプターを構成する二つの部材の一方を示す斜視図である。
【図7】図7は、図1の遠心分離用容器から遠心分離後の上澄を排出する際に使用する容器壁押え用クリップを示す側面図である。
【図8】図8は、図1の遠心分離用容器を図5の姿勢保持用アダプターにセットした状態を示す斜視図である。
【図9】図9は、図1の遠心分離用容器から遠心分離後の上澄を排出する状況を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本発明を遠心分離用用具に基づいて説明すると、遠心分離用用具として、被遠心分離物を収容する遠心分離用容器1,遠心分離用容器1の姿勢保持用アダプター2の二つの部材を備えて構成されている。
なお、姿勢保持用アダプター2とは、詳細については後述するが、遠心機のバケットに被遠心物を収納する時に被遠心物の位置および形状を維持するために、被遠心物とバケット間を埋めるためのアダプターをいい、必ずしも、固形物である必要はなく、遠心時に変形して、被遠心物にフィットして被遠心物の位置および形状を維持するものであっても良い。
【0054】
遠心分離容器1は、図1で示すように、被遠心分離液を収容可能に密閉された内部空間を有する容器本体10と、容器本体10の密閉された内部空間を外部と連通可能なポート11,12とを備えて構成されている。
【0055】
容器本体10は、全体が柔軟性を有する軟質部材で形成され、上部側の大きな容積を有する第1の収容部10aと、下部側の相対的に小さな容積を有する第2の収容部10bとから構成されており、第1の収容部10aの下側には、第2の収容部10bと連通するテーパ部10cが設けられている。
【0056】
この容器本体10の少なくとも第2の収容部10b及びテーパ部10cは、相対向する容器壁10d、10eの内面同士を密着させることにより、第2の収容部10bを第1の収容部10aから非連通状態に隔離可能な構成となっている。
なお、上澄を排出する際に相対向する容器壁10d、10eの内面同士を密着させる上下方向の位置は、主に第2の収容部10bに沈殿した沈殿物の容量によって適宜決定されるものである。また、第2の収容部10b及びテーパ部10cを構成する容器壁10d、10eの内面同士を密着させるには、例えば、後述する容器壁押え用クリップ3(図7参照)を使用することができる。
【0057】
以下において、相対向する容器壁10d、10eの内面同士を密着させることが可能な領域を境界部10fと称することにする。
このように、第2の収容部10b及びテーパ部10cを構成する容器壁10d、10eの内面同士を密着させることにより、第2の収容部10bが第1の収容部10aと非連通状態に隔離されるため、沈殿物を第2の収容部10bに収容したままの状態で、例えばポート11を介して上澄のみを第1の収容部10aから容易に排出することができる。
【0058】
第1の収容部10aは、後述する本体蓋部を含み、上部側には略直方体形状の収容空間が形成されている。また、第1の収容部10aの下側に設けられたテーパ部10cは、第2の収容部10bに向かって徐々に狭くなるよう形成されている。第2の収容部10bは、内容液を満たした状態で、管状構造又は袋状構造を呈するように形成されている。
【0059】
第2の収容部10bは、管状構造又は袋状構造を形成し、いわゆる、懐が深い構造を形成しているので、上澄排出時の沈殿物への影響をさらに小さくすることができる。
ここで、懐が深いとは、入り口寸法に比べて、奥行きが、上澄排出時の沈殿物への影響をさらに小さくすることができる程度に十分に深いことをいい、例えば、入り口が円の場合は直径の2倍より奥行きが深医ことが好ましく、入り口が楕円の場合には長径の1倍より奥行きが深いことが好ましい。
【0060】
容器本体10は、例えば2枚の柔軟性を有するシートまたはフィルムを重ね合わせて、その周縁を密封シールすることによって形成されるか、または、柔軟性を有する樹脂からブロー成形法によって形成される。
この容器本体10を形成する樹脂としては、例えば、軟質の塩化ビニル樹脂、低密度ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン樹脂、エチレン−プロピレン共重合樹脂、ポリブタジエン樹脂、スチレン−ブタジエン共重合樹脂及びそれらの水素添加樹脂、ポリウレタン樹脂等、及び、それらの樹脂の混合物が挙げられる。
【0061】
上述した樹脂のうち、低密度ポリエチレンには、一般の低密度ポリエチレンは勿論のこと、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂、メタロセン触媒系低密度ポリエチレン樹脂が含まれる。また、ポリプロピレン樹脂には、ステレオブロックポリプロピレン樹脂及びポリプロピレン樹脂とステレオブロックポリプロピレン樹脂の混合物等も含まれる。
【0062】
容器本体10を周縁シールにより形成するには、図2で示すように、第1の収容部相当面10a’、第2の収容部相当面10b’、テーパ部相当面10c’を一枚ものとして裁断した柔軟性を有するシートまたはフィルムから形成することができる。
【0063】
一枚もののシートまたはフィルムを用いる場合は、それらを二枚重ねに重ね、図1で示すように中央のトップシール10g、中央のトップシール10gの長さ方向の両端より直交方向に亘る左右側辺のトップシール10h,10iとから本体蓋部を密封する。また、中央のトップシール10hの長さ方向の両端同位置から第1の収容部10aから第2の収容部10bに向かって伸びる左右のサイドシール10j,10kにより本体蓋部を除く容器本体10を密封する。
【0064】
ポート11,12は、内容液を充填、排出、または、移送するためのもので、第1の収容部10aを形成する容器壁に左右側辺のトップシール10h,10iによる周縁の溶着と同時に取り付けられており、容器本体10の密閉された内部空間を外部と連通する機能を有している。
【0065】
ポート11,12を形成する材料としては、容器本体10と熱接着する材料が好ましく、例えば、容器本体がポリエチレン系樹脂の場合はポリエチレン系樹脂の中から選定すればよい。ブロー成形で容器本体10を成形する場合には、ポート11,12を容器本体10と一体化し成形してもよい。
【0066】
ポート11,12は、図3で示すように、容器本体10を姿勢保持用アダプター2に収納した時、中央方向に向くように、または、容易に向けられるように設けることが好ましい。
【0067】
例えば、容器本体10を周縁シールにより形成する場合、ポート支持片13,14を左右側辺のトップシール10h,10iによる周縁の溶着と同時に取り付け、ポート11,12をポート支持片13,14に溶着することによって、容器本体10を姿勢保持用アダプター2に収納した時、ポート支持片13,14を中央方向に折り込むことにより、ポート11,12を中央方向に向くように寝かせることができる。
【0068】
ポート11には、容器本体10の内部空間と連通可能な柔軟性を有する流体移送用チューブ15を取り付けることができる。また、ポート12には、外部の流体移送具と連結可能な連結用アダプター16を取り付けることができる。
なお、ポート支持片13,14を中央方向に折り込むことにより、ポート11,12を中央方向に向くように寝かせることができるため、遠心時に、ポート11,12又はポート11に取り付けた流体移送用チューブ15やポート12に取り付けた連結用アダプター16を後述する姿勢保持用アダプター2の内に収めることができる。
【0069】
移送用チューブ15を形成する材料としては、軟質塩化ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、低密度ポリエチレン樹脂、エチレンプロピレン共重合体、軟質PP樹脂(例えば、ポリプロピレン樹脂のステレオブロック共重合体)、ポリブタジエン樹脂、スチレンブタジエン共重合体等が挙げられる。
【0070】
移送用チューブ15は、溶断シール可能で、かつ、無菌接合装置により連通可能に連結可能に備え付けるのが好ましい。その溶断シールは、市販のチューブシーラー、例えば、ヘモネティックス社製のミニチューブシーラー2380、テルモ社製のチューブシーラーAC―155等により、チューブを熱溶着して密封するとともに、熱溶着部の両側のチューブを密封状態に維持したまま切断可能にシールすることで行える。
【0071】
また、無菌接合装置により連通可能に連結することは、市販の無菌接合装置、例えば、テルモ社製の無菌接合機TSCD202により、連結していない他のチューブ、例えば、血液保存用バッグのチューブ、輸血セット用のチューブ等と、連通可能に、かつ、無菌的に溶接して連結することにより行える。
【0072】
上述した柔軟性を有し、溶断シールが可能で、無菌接合装置により連通可能に連結可能という条件を備える移送用チューブ15の形成樹脂としては、軟質塩化ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体が上げられる。但し、今後の溶断シール機、無菌接合装置の進歩により、軟質塩化ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体以外の材料も採用し得る可能性は否めない。
【0073】
連結用アダプター16は、軟質塩化ビニル樹脂等により形成することから、市販の瓶針付き流体移送具と連結可能に備えられている。この連結用アダプター16には、図4で示すように容器本体10の内部空間と外部を隔離すると共に、瓶針付き流体移送具、例えば、テルモ社製の連結管瓶針を刺通することによって連通可能な隔膜16aが管内16bに設けられている。
【0074】
姿勢保持用アダプター2は、図5で示すように、遠心分離用容器1を挿置可能な天面の開放された容器収容空間20を有し、また、遠心分離機のバケットに適合するよう底面の平らな外側形状を有するように形成されている。
容器収容空間20は、遠心分離用容器1の第1の収容部10aが収容される第1の収容空間201と、第2の収容部10bが収容される第2の収容空間202とを上下方向に備えて構成されている。
【0075】
また、第1の収容空間201の下側には、遠心分離用容器1のテーパ部10cを保持するすり鉢状の保持部203が形成されており、このすり鉢状の保持部203の傾斜角度を45°以上にすることにより、ほとんどの沈殿物を遠心分離用容器1のテーパ部10cに滞留させることなく、テーパ部10cに沿って第2の収容部10bに沈殿させることができる。なお、傾斜角が80°以上にすると第1の収容空間201が少なくなり、ひいては、遠心分離用容器1の第1の収容部10aの容量が少なくなってしまうという欠点がある。
なお、ここでいう傾斜角とは、遠心時の遠心力のベクトルと垂直な平面に対するすり鉢状の斜面の立上りの角度をいう。
【0076】
容器収容空間20は、遠心時に、遠心分離用容器1の第1の収容部10a,テーパ部10c,第2の収容部10bが、その容器壁外面でフィット可能な円筒面20a、すり鉢状の保持部203のテーパ面20c,管状面又は袋状面20bが上下方向に連続する周壁面から形成されている(遠心分離用容器1については、図1参照)。
【0077】
ここで、フィットするとは、遠心時に、遠心分離用容器1の容器壁が、破損することなく、姿勢保持用アダプター2の円筒面20a、すり鉢状のテーパ面20c,管状面又は袋状面20bに密着し、その密着した容器壁に沿って、沈殿物が第2の収容部10bに効率良く集積されることを意味している。なお、容器壁のシワの発生は少ない方が好ましいが、シワがあっても、沈殿物がシワに集積し難く、効率良く第2の収容部10bに集積されれば、フィットするに含めることとする。
【0078】
姿勢保持用アダプター2は、図5及び図6で示すように、上下方向に延在する分割面21を有する略半分割された2つの部材2A、2Bから構成されており、この分割面21は、遠心機の遠心軸と平行になるように設定されている。
そして、遠心時には、2つの部材2A、2Bが分割面21で密着し、また、遠心分離用容器1を容器収容空間20へ収容する際には、容器収容空間20への収容を容易に、かつ、確実に行なうため、2つの部材2A、2Bの分割面21に隙間を設けられるように構成されている。
【0079】
略半分割された2つの部材2A、2Bは、貫通孔22a,22b、23a,23bに挿通するボルト24a,24b、25a,25b(図5参照)による締め付けで一体化可能な構造となっており、ボルト24a,24b、25a,25bの調整によって分割面21の隙間の大きさを調整することができる。
【0080】
姿勢保持用アダプター2を形成する樹脂としては、例えば、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、ポリスルフォン樹脂等の硬く靭性を有する樹脂が挙げられる。
【0081】
また、遠心分離用容器1のセット状況が容易に外部から目視で確認可能に形成するには、透明性を有するアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ボリスルフォン樹脂、透明ABS樹脂、透明化ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂等の透明樹脂が挙げられる。
【0082】
容器壁押え用クリップ3は、図7で示すように、押え部30,31と、ハンドル32,33と、ハンドル32,33を開いて押え部30,31を閉じ、容器本体10の境界部10f(図1参照)を密着して締め付けるためのバネ34とを備えて構成されている。押え部30,31は、容器本体10の境界部10dの幅方向の長さよりも長く設定されており、ハンドル32,33の端部には吊下げ孔35,36が設けられている。
【0083】
以上説明したように、本実施形態に係る遠心分離用容器1によれば、上部側に大きな容積の第1の収容部10aを有し、下部側に遠心沈殿物を収容する相対的に小さな容積の第2の収容部10bを有しているため、遠心分離後、沈殿物は第2の収容部10bに集積されることになる。そして、遠心分離後、上澄を排出する際には、第1の収容部10aと第2の収容部10bとの境界部10 d若しくはその近傍の柔軟性を有する容器壁10d、10eを密着させることにより、第2の収容部10bと第1の収容部10a側のポート11の開口部とが非連通状態となるため、ポート11から上澄を容易に排出することができる。特に、第2の収容部10bと第1の収容部10a側のポート11の開口部とが非連通状態となって隔離されるため、上澄の排出時に沈殿物が舞い上がって、上澄と一緒に沈殿物が排出されてしまうおそれもない。
また、上澄を排出する際に、容器壁10d、10eの密着箇所を第2の収容部10bに集積された遠心沈殿物の直上とすることにより、第2の収容部10bに残存する上澄を可及的に少なくすることができる。
さらに、容器本体10が密閉されており、かつ、第1の収容部10a側に開口部を有するポート11を備えているため、細胞混濁液等の内容液の収容、遠心分離及び上澄の排出といった一連の作業を閉鎖系システムで実現でき、細胞の分離・洗浄等を無菌的に、簡易に、かつ、廉価で行うことができる。
【0084】
また、第1の収容部10aの下部側にはテーパ部10cが設けられており、第1の収容部10aは、テーパ部10cを介して第2の収容部10bと連通しているため、遠心時に沈殿物は、テーパ部10cに沿って第2の収容部10bへスムースに沈降し、第1の収容部10aに滞留することがない。
【0085】
本実施形態に係る遠心分離用容器の姿勢保持用アダプター2によれば、上面側に第1の収容部10aが収容される第1の収容空間201を、底面側に第2の収容部10bが収容される第2の収容空間202を備えるとともに、第1の収容空間201における第2の収容空間202側には、第1の収容部10aのテーパ部10cを保持するすり鉢状の保持部203を備え、遠心時に、遠心分離用容器1の離脱を防止する円筒面20aを備えているため、遠心分離用容器1の第1の収容部10aと第2の収容部10bとの境界部10f若しくはその近傍の容器壁10d、10eが柔軟性を有する場合のみならず、遠心分離用容器1全体が柔軟性を有して自立困難な場合であっても、遠心時に、遠品遠心分離用容器1を確実に保持することができる。
【実施例1】
【0086】
ここで用いる遠心分離用容器1は、容器本体10の上部に2つのポート11、12を有し、それぞれのポート11、12には流体移送用チューブ15又は連結用アダプター16が接続されている。容器本体10の下部には、懐の深い袋状構造を有する第2の収容部10bと、この第2の収容部10bに向かって徐々にテーパ状に狭まるテーパ部10cが形成されている。
【0087】
容器本体10は、酢酸ビニル含有量15重量%のエチレン酢酸ビニル共重合体をインフレーション成形して得られた柔軟性を有するシート10d、10eを重ね合わせ、高周波シールによって周縁シールし、その後に射出成形法によって成形された中密度ポリエチレン樹脂製ポート11をポート支持片14に熱シールすることにより柔軟性を有するシートから容器壁全部を形成した。
【0088】
容器本体10のテーパ部10cは、内溶液が充填されて立体化した時のテーパ(対面する稜線のなす角度)が60°近傍になるように周縁シール時の角度を90°に設定した。また、容器壁押え用クリップ3で境界部10fを挟んで対面する容器壁10d、10eを密着させた時の狭部側の空間とポート側の空間の体積比を約1:150に設定した。
【0089】
流体移送用チューブ15は、内径4.7mm、外径6.7mmの柔軟性を有する軟質塩化ビニル樹脂により形成したものを備え付けた。連結用アダプター16は、瓶針付き流体移送具の瓶針を容易に刺通・連結可能で、かつ、容易には外れないように、内径4.4mmの軟質塩化ビニル樹脂により形成したものを備え付けた。
【0090】
姿勢保持用アダプター2としては、透明なアクリル樹脂のブロックを切削加工することにより製作し、切削加工面の研磨により、内側が目視可能にまで透明化したものを備え付けた。容器収納部のテーパ面の傾斜角は、容器本体のテーパ部がフィットするように、傾斜角が最大となる箇所の傾斜角を63°に設定し、傾斜角が最小となる箇所の傾斜角を57°に設定した。
【0091】
上述した遠心分離用容器1および姿勢保持用アダプター2を使用し、細胞分離する手順及び結果を説明する。
【0092】
K562細胞8.8×10の4乗個/mlを含有する255mlの培地(KBM400:コージンバイオ社製)からなる細胞浮遊液を容量300mlの遠心分離用容器1に移送後、流体移送用チューブ15をテルモ社製チューブシーラー(テルフレックス AC―157)により溶断シールし、容器を密封した。
【0093】
次に、姿勢保持用アダプター2のボルト24a,24b、25a,25bを緩め、2つの部材2A、2Bの分割面21に隙間を設けた後に、培養液が充填された遠心分離用容器1を目視で確認しながら姿勢保持用アダプター2の第1の収容空間201及び第2の収容空間202の内に挿置し、分割面21を密着させるようボルト24a,24b、25a,25bを締め付けた。
【0094】
ポート11および流体移送用チューブ15は、一旦、中央のトップシール10gに沿って収納し、姿勢保持用アダプター2の第1の収容空間201を構成する対面する他方の円筒面20aを越える分については、他方の内壁近傍で曲げて内壁に沿って収納した。また、連結用アダプター16も中央のトップシール10gに沿って収納した。
【0095】
同様にして作製したもう一つの遠心分離用容器1が挿置された姿勢保用アダプター2と共に、遠心機(久保田製作所社製大容量冷却遠心機9810)の対角線上のバケットにそれぞれ載置し、400Gで20分間遠心した。
以下において、二つの遠心分離用容器1を第1の容器、第2の容器という。
【0096】
遠心後、姿勢保持用アダプター2のボルト24a,24b、25a,25bを緩めて、遠心分離用容器1を静かに取り出し、沈殿物が明瞭な界面を形成していることを確認した後に、容器壁押え用クリップ3により、同界面の直上、すなわち、第2の収容部10bとテーパ部10cとの境界部近傍を、沈殿物の界面を乱さないように挟んで対面する容器壁10d、10eを密着させ、第2の収容部10cをポート11側の第1の収容部10aから隔離した。
【0097】
次に、遠心分離用容器1の上澄液側の容器壁を手でもむようにして上澄液を撹拌し、遠心分離用容器1の壁面に沈殿または付着した細胞を上澄液に分散させた。
さらに、第1の容器については、容器壁押え用クリップ3を吊下げ孔35、36でハンガーにかけてポート11が下になるように吊り下げ、ポート11側の空間、すなわち、第1の収容部10a内に存在する培地、すなわち、上澄液を、流体移送用チューブ15から全て排出し、上澄液の量と上澄液に浮遊する細胞数を測定し、上澄液に浮遊する総細胞数算出し、遠心分離用容器1内に残った総細胞数と初期の総細胞数との比を算出し、回収率とした。
また、第2の容器については、容器壁押え用クリップ3を外して、1回目の遠心操作と同様に姿勢保持用アダプター2に挿置し、400Gで20分間の2回目の遠心操作を行なった後に、第1の容器と同様に、上澄液に浮遊する総細胞数と回収率を算出した。
【0098】
その結果、表1の通りであった。

【0099】
次に、第1の容器に沈殿として残った細胞に、PBS30mlを注入し、沈殿部を軽くつまみ沈殿物の再分散性を目視観察及び倒立顕微鏡観察(100倍)したところ、集塊を造ることなく均一に分散していることが確認できた。
また、第2の容器の上澄液排出後のバッグ内液量を測定したところ、2.1mlであり、当初充填した総液量の0.82%であった。
すなわち、本実施例により、回収率が良く、再分散性が良く、沈殿物側の残留液が少ない、効率の良い遠心分離が行なわれたことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0100】
以上のように、本発明に係る遠心分離用容器,遠心分離用容器の姿勢保持用アダプター、遠心分離用用具は、細胞培養後の細胞の分離および洗浄に使用すれば効率よく細胞を分離できる。例えば、免疫療法に使用される細胞、抗体、タンパク質の回収または洗浄用手段として、再生医療に使用するための細胞の回収または洗浄用手段として、また、細胞培養による製薬の研究開発用の手段として、さらには、細胞以外の微粒子の回収または洗浄用手段として極めて好適である。
【符号の説明】
【0101】
1 遠心分離用容器
10 容器本体
10a 第1の収容部
10b 第2の収容部
10c テーパ部
10d、10e 容器壁
10f 境界部
11、12 ポート
15 流体移送用チューブ
16 連結用アダプター
2 姿勢保持用アダプター
2A、2B 略半分割された2つの部材
20 容器収容空間
21 分割面
201 第1の収容空間
202 第2の収容空間
203 すり鉢状の保持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心機に、姿勢保持用アダプターを介してセットされる遠心分離用容器であって、
被遠心物を収容可能な密閉された内部空間を有する容器本体と、前記内部空間と外部とが連通可能なポートを備え、
前記容器本体は、上部側の大きな容積を有する第1の収容部と、前記第1の収容部と連通し、遠心沈殿物を収容する下部側の相対的に小さな容積を有する第2の収容部とからなり、
前記ポートは、前記第1の収容部側に開口部を有し、
前記第1の収容部と前記第2の収容部との境界部若しくはその近傍の容器壁が柔軟性を有し、当該境界部若しくはその近傍において、対向する容器壁を密着させることにより前記第2の収容部と前記ポートの前記開口部とが非連通状態となるように隔離可能であることを特徴とする遠心分離用容器。
【請求項2】
前記第1の収容部の下部側にはテーパ部が設けられており、前記第1の収容部は、前記テーパ部を介して前記第2の収容部と連通し、
前記テーパ部と前記第2の収容部との境界部若しくはその近傍の容器壁が柔軟性を有し、当該境界部若しくはその近傍において、対向する容器壁を密着させることにより前記第2の収容部と前記ポートの前記開口部とが非連通状態となるように隔離可能であることを特徴とする請求項1に記載の遠心分離用容器。
【請求項3】
前記第2の収容部の容積が、前記第1の収容部の容積の10%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の遠心分離用容器。
【請求項4】
前記容器本体が、重ね合わせた柔軟性を有するシートまたはフィルムの周縁をシールすることによって形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の遠心分離用容器。
【請求項5】
前記容器本体が、ブロー成形法により、柔軟性を有する樹脂から形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の遠心分離用容器。
【請求項6】
前記容器本体の内部空間と連通可能な柔軟性を有する流体移送用チューブが前記ポートに取り付けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の遠心分離用容器。
【請求項7】
前記移送用チューブが、溶断シール可能で、且つ、無菌接合装置により連通可能に取り付けられていることを特徴とする請求項6に記載の遠心分離用容器。
【請求項8】
被遠心物を収容可能な密閉された内部空間を有する容器本体を備え、
前記容器本体は、上部側の大きな容積を有する第1の収容部と、前記第1の収容部と連通し、遠心沈殿物を収容する下部側の相対的に小さな容積を有する第2の収容部とからなり、
前記第1の収容部と前記第2の収容部との境界部若しくはその近傍の容器壁が柔軟性を有する遠心分離用容器を遠心機のバケットにセットするための遠心分離用容器の姿勢保持用アダプターであって、
上面に前記遠心分離用容器を収容するための開口を備え、
前記上面側に前記第1の収容部が収容される第1の収容空間を、底面側に前記第2の収容部が収容される第2の収容空間を備えるとともに、前記第1の収容空間における前記第2の収容空間側には、前記第1の収容部を保持する保持部を備え、
遠心時に、前記遠心分離用容器の離脱を防止する周壁を備えたことを特徴とする遠心分離用容器の姿勢保持用アダプター。
【請求項9】
被遠心物を収容可能な密閉された内部空間を有する容器本体を備え、
前記容器本体は、上部側の大きな容積を有する第1の収容部と、前記第1の収容部と連通し、遠心沈殿物を収容する下部側の相対的に小さな容積を有する第2の収容部とからなり、
前記第1の収容部の下部側にはテーパ部が設けられており、前記第1の収容部は、前記テーパ部を介して前記第2の収容部と連通し、
前記テーパ部と前記第2の収容部との境界部若しくはその近傍の容器壁が柔軟性を有する遠心分離用容器を遠心機のバケットにセットするための遠心分離用容器の姿勢保持用アダプターであって、
上面に前記遠心分離用容器を収容するための開口を備え、
前記上面側に前記第1の収容部が収容される第1の収容空間を、底面側に前記第2の収容部が収容される第2の収容空間を備えるとともに、前記第1の収容空間における前記第2の収容空間側には、前記テーパ部を保持するすり鉢状の保持部を備え、
遠心時に、前記遠心分離用容器の離脱を防止する周壁を備えたことを特徴とする遠心分離用容器の姿勢保持用アダプター。
【請求項10】
前記すり鉢状の保持部の傾斜角度が、45°〜80°であることを特徴とする請求項9に記載の遠心分離用容器の姿勢保持用アダプター。
【請求項11】
前記遠心分離用容器の姿勢保持用アダプターが、上下方向に延在する分割面を有する略半分割可能であって、前記分割面の密着及び離間が可能であることを特徴とする請求項8乃至10のいずれかに記載の遠心分離用容器の姿勢保持用アダプター。
【請求項12】
前記遠心分離用容器のセット状況を外部から目視で確認可能な透明性を有することを特徴とする請求項8乃至11のいずれかに記載の遠心分離用容器の姿勢保持用アダプター。
【請求項13】
被遠心物を収容可能な密閉された内部空間を有する容器本体と、前記内部空間と外部とが連通可能なポートを備え、
前記容器本体は、上部側の大きな容積を有する第1の収容部と、前記第1の収容部と連通し、遠心沈殿物を収容する下部側の相対的に小さな容積を有する第2の収容部とからなり、
前記ポートは、前記第1の収容部側に開口部を有し、
前記第1の収容部と前記第2の収容部との境界部若しくはその近傍の容器壁が柔軟性を有し、当該境界部若しくはその近傍において、対向する容器壁を密着させることにより前記第2の収容部と前記ポートの前記開口部とが非連通状態となるように隔離可能である遠心分離用容器と、
上面に前記遠心分離用容器を収容するための開口を備え、
前記上面側に前記第1の収容部が収容される第1の収容空間を、底面側に前記第2の収容部が収容される第2の収容空間を備えるとともに、前記第1の収容空間における前記第2の収容空間側には、前記第1の収容部を保持する保持部を備え、
遠心時に、前記遠心分離用容器の離脱を防止する周壁を備えたことを特徴とする遠心分離用容器の姿勢保持用アダプターと、
を備えたことを特徴とする遠心分離用用具。
【請求項14】
被遠心物を収容可能な密閉された内部空間を有する容器本体と、前記容器本体の密閉された内部空間を外部と連通可能なポートを備え、
前記容器本体は、上部側の大きな容積を有する第1の収容部と、遠心沈殿物を収容する下部側の相対的に小さな容積を有する第2の収容部とからなり、
前記第1の収容部の下部側にはテーパ部が設けられており、前記第1の収容部は、前記テーパ部を介して前記第2の収容部と連通し、
前記テーパ部と前記第2の収容部との境界部若しくはその近傍の容器壁が柔軟性を有し、当該境界部若しくはその近傍において、対向する容器壁を密着させることにより前記第2の収容部と前記ポートの前記開口部とが非連通状態となるように隔離可能である遠心分離用容器と、
上面に前記遠心分離用容器を収容するための開口を備え、
前記上面側に前記第1の収容部が収容される第1の収容空間を、底面側に前記第2の収容部が収容される第2の収容空間を備えるとともに、前記第1の収容空間における前記第2の収容空間側には、前記テーパ部を保持するすり鉢状の保持部を備え、
遠心時に、前記遠心分離用容器の離脱を防止する周壁を備えたことを特徴とする遠心分離用容器の姿勢保持用アダプターと、
を備えたことを特徴とする遠心分離用用具。
【請求項15】
前記遠心分離用容器の姿勢保持用アダプターの前記すり鉢状の保持部の傾斜角度が、45°〜80°であることを特徴とする請求項14に記載の遠心分離用用具。
【請求項16】
前記遠心分離用容器の姿勢保持用アダプターが、上下方向に延在する分割面を有する略半分割可能であって、前記分割面の密着及び離間が可能であることを特徴とする請求項13乃至15のいずれかに記載の遠心分離用用具。
【請求項17】
前記遠心分離用容器の姿勢保持用アダプター本体が、前記遠心分離用容器のセット状況を外部から目視で確認可能な透明性を有することを特徴とする請求項13乃至16のいずれかに記載の遠心分離用用具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−125813(P2011−125813A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288141(P2009−288141)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(510097747)独立行政法人国立がん研究センター (35)
【出願人】(000136354)株式会社フコク (97)
【Fターム(参考)】