説明

遠心圧縮機及び過給機

【課題】吸気量が減少した際にサージング限界流量を低減して、効率を維持させることができる遠心圧縮機及び過給機を提供する。
【解決手段】コンプレッサインペラ13と、吸込口27からコンプレッサインペラ13の外周部まで延びる流路壁29が設けられたコンプレッサハウジング19と、コンプレッサインペラ13近傍の吸込口27側の流路壁29に配されて、吸込口27からコンプレッサインペラ13に流れる流体の流路面積を変動させる絞り機構31を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心圧縮機及び過給機に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンへの過給を行う過給機は、タービンインペラを有するタービンと、コンプレッサインペラを有する遠心圧縮機(コンプレッサ)と、が軸受車室を介して一体となっている。タービンインペラ及びコンプレッサインペラは、ハウジング内に回転自在に支持された回転軸にて連結されている。
【0003】
このような過給機は、エンジンの排気が吸気されることによってコンプレッサインペラが回転し、回転軸を介してさらにタービンインペラが回転して、吸気を遠心圧縮機で圧縮してエンジンに給気している。
【0004】
遠心圧縮機においては、図5に一例を示すように、空気量が減少してくると、圧縮機の特性曲線Iがサージ線S1を越えてサージング領域Aに入るという特性がある。従って、サージ線S1をS2の位置へとより低流量側へ移動させることができれば、エンジンの運転範囲に対してより広い範囲に亘り適合することができる。
【0005】
そこで、このような遠心圧縮機として、例えば、コンプレッサインペラの外周部から前方に延びて吸込口を形成するようにしたハウジングのシュラウド壁の吸込口側の部分に、コンプレッサインペラの方向へ向けて縮径する絞り部を設け、且つシュラウド壁に、コンプレッサインペラ設置位置に設けた第1開口部と、絞り部の終端となる最小径付近に設けた第2開口部と、第1開口部と第2開口部とを連絡する流路とからなる循環流路を設けた遠心圧縮機が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平5−060097号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の遠心圧縮機では、循環流路内で流れを戻すための流路長が大きくなり、摩擦・混合損失が増大する。このため、空気力学的な圧力損失が大きくなって、開口部における空気の旋回速度エネルギーの損失が生じ、遠心圧縮機の効率が低下する可能性がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みて成されたものであり、吸気量が減少したときにもサージング限界流量を低減して、効率を維持させることができる遠心圧縮機及び過給機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る遠心圧縮機及び過給機では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
第1の発明は、コンプレッサインペラと、一端に吸込口が設けられると共に該吸込口から前記コンプレッサインペラの外周部まで延びる流路壁が設けられたコンプレッサハウジングと、を備えた遠心圧縮機であって、前記コンプレッサインペラ近傍の前記吸込口側の前記流路壁に配されて、前記吸込口から前記コンプレッサインペラに流れる流体の流路面積を変動させる絞り機構を備えていることを特徴とする。
【0009】
この発明は、コンプレッサインペラの回転数に対して吸込口からの吸気量が相対的に少ないときにコンプレッサインペラの近傍で逆流が生じても、絞り機構で流路を絞ることによって、流路壁に沿って逆流した流れをコンプレッサインペラ側に再度戻すことができ、エネルギー損失を低減することができる。この際、流量を絞ってコンプレッサインペラ近傍の流速を維持させることができる。
【0010】
また、本発明に係る遠心圧縮機は、前記絞り機構が、開口部を有する絞り板と、該絞り板に回動可能に軸支された複数の絞り片と、を備え、前記開口部の径方向の大きさが変化する方向に、前記各絞り片を連動して移動させる駆動機構と接続されていることを特徴とする。
【0011】
この発明は、絞り片の移動に応じて開口部の開口径を調節することができ、吸込量に応じた絞りを実現することができる。
【0012】
また、第2の発明は、タービンとコンプレッサを備える過給機において、前記コンプレッサとして、第1の発明に係る遠心圧縮機を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、吸気量が減少した際に、サージング限界流量を低減して、効率を維持させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る遠心圧縮機及び過給機の実施形態について、図1から図4を参照して説明する。
本実施形態に係る過給機1は、図1に示すように、中心軸線CL1を有するハウジング3と、ハウジング3の一端部側に配されたコンプレッサ(遠心圧縮機)5と、他端部側に配された遠心式のタービン7と、を備えている。
【0015】
コンプレッサ5とタービン7との間には、ハウジング3に対して回転自在に、回転軸部材9がたとえば流体軸受11を介して設けられている。回転軸部材9の一端部には、コンプレッサ5を構成しているコンプレッサインペラ13が一体的に固定されており、回転軸部材9の他端部には、タービン7を構成しているタービンインペラ15が一体的に固定されている。
【0016】
ハウジング3は、回転軸部材9を支持するベアリングハウジング17と、コンプレッサインペラ13を囲んでコンプレッサインペラ13側でベアリングハウジング17に一体的に設けられたコンプレッサハウジング19と、タービンインペラ15を囲んでタービンインペラ15側のベアリングハウジング17に一体に設けられたタービンハウジング21と、を備えている。
【0017】
コンプレッサハウジング19には、コンプレッサインペラ13の外周部にデュフューザ部23を介してスクロール状に形成された圧縮流路25と、一端に設けられた吸込口27と、吸込口27からコンプレッサインペラ13の外周部まで延びる流路壁29と、が設けられている。コンプレッサインペラ13近傍の吸込口27側の流路壁29には、流路面積を変動させる絞り機構31が配されている。
【0018】
絞り機構31は、所定の径を有する開口部33aを有する絞り板33と、絞り板33に枢支軸35によって回動可能に軸支されたシート状の複数の絞り片37と、を備えている。そして、開口部33aの大きさが変化する方向に各絞り片37を連動して移動する駆動機構39と接続されている。
【0019】
絞り板33は、中心軸線CL1方向に互いに回転可能に重ね合わされた複数の板33A,33Bを備えている。各絞り片37は円弧状に形成され、両端部側にはそれぞれ枢支軸35が挿通されて、周方向に端部が互いに重なるようにして絞り板33に配されている。駆動機構39は、動力源となる駆動部41と、絞り板33と接続されて、駆動部41の動力を絞り片37が移動する力に変換するための駆動力伝達部43と、を備えている。
【0020】
なお、絞り板33A,33Bは、両方ともコンプレッサハウジング19に対して回転可能に配置されていても良いし、いずれか一方のみコンプレッサハウジング19に対して固定されていても良い。
いずれか一方のみ固定する場合は、絞り板33B(ベアリングハウジング17に近接する絞り板)を固定させ、絞り板33A(吸込口27側の絞り板)を回転可能にすると良い。絞り板33Bを回転させる構成は、圧縮流路25があるために配置スペースを確保しにくいが、絞り板33Aを回転させる構成は、圧縮流路25から離れた位置に設けることができるので、配置スペースを確保しやすいからである。
絞り板33Aは、絞り板33Bの凸状部33Cよりも外周側、かつ、絞り板33Bの本体部33Dよりも吸込口27側に配置されている。
【0021】
駆動力伝達部43Cは、絞り板33Aの外周面と、絞り板33Bの本体部33Dにそれぞれ接続されている。枢支軸35を周方向に動かすという目的の観点からは、本体部33Dは無くても良いが、駆動力伝達部43を取り付けるためにはあるほうが好ましい。
枢支軸35は、絞り板33Aの吸込口27側の面と、絞り板33Bの凸状部33Cにそれぞれ複数本ずつ(図2の例では4本ずつ)、周方向において等間隔を空けた位置に取り付けられている。
【0022】
各絞り片37の両端部には、長穴状の軸保持穴が設けられている。枢支軸35は、軸保持穴に沿ってスライド可能になっている。各枢支軸35は、開口部33aが開かれた状態では、各軸保持穴の内端部側に位置する。つまり、絞り片37の両端部に位置する枢支軸35が互いに近接した状態になる。
一方、開口部33aが絞られた状態では、各軸保持穴の外端部側に移動する。つまり、絞り片37の両端部に位置する枢支軸35が互いに離隔した状態になる。
なお、絞り板の枚数は4枚に限定されず、任意の数であって良い。枚数が多いほど、絞ったときの開口部33aの形状が円形に近くなるため、好ましい。
【0023】
タービンハウジング21には、一端にガス入口(図示せず)を供えたスクロール通路45が設けられており、このスクロール通路45の内周部のタービンインペラ15との間には、環状のガス流路47が形成されている。
【0024】
次に、本実施形態に係るコンプレッサ5及び過給機1の作用について説明する。
コンプレッサインペラ13の回転により吸込口27からコンプレッサハウジング19内に吸い込まれた空気は、コンプレッサインペラ13における吸引領域に吸引され、圧縮流路25を通って目的とする場所へ給気される。
【0025】
急加速時等のコンプレッサインペラ13の回転数に対して低流量となる際には、空気の失速にともなうコンプレッサハウジング19内の圧力変動によって、空気がコンプレッサインペラ13近傍の流路壁29から剥離して吸込口27側に逆流しようとする。この際、所定のタイミングにて絞り機構31の駆動部41を駆動する。そして、駆動力伝達部43を介して板33A,33Bを相対回転させる。これにより各絞り片37が移動して、絞り板33の開口部33a径が所定の大きさに変更される。
【0026】
このとき、コンプレッサインペラ13側から絞り板33側へ向かう逆流が生じても、絞り板33及び絞り片37にてせき止められ、再度コンプレッサインペラ13側に押し戻される。同時に、絞り板33の開口部33aを通過する際の流速が高まり、流路壁29からの剥離が抑えられる。
【0027】
このコンプレッサ5及び過給機1によれば、コンプレッサインペラ13の回転数に対して吸込口27からの吸気量が相対的に少ないときに、コンプレッサインペラ13の近傍で逆流が生じても、絞り機構31にて流路を絞ることによって、逆流した流れをコンプレッサインペラ13の直近で再度戻すことができ、エネルギー損失を低減することができる。また、絞り機構31にて流量が絞られるので、コンプレッサインペラ13に到達する際の流速を維持させることができる。したがって、吸気量が減少したときにもサージング限界流量を低減して、効率を維持させることができる。
【0028】
特に、絞り機構31が、絞り片37の絞り板33に対する移動量に応じて開口部33aの開口径を調節することができ、吸気量に応じた流路面積を実現することができる。
【0029】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0030】
例えば、絞り機構の構成は、上記実施形態のものに限らず、絞り板の開口部径を調節できるものであればよい。また、絞り板の移動のタイミングは、逆流が生じる前でもよく、生じた直後であってもよく、実験等によって決めてよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態に係る過給機を示す概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る過給機の要部拡大図である。
【図3】絞り機構を示す正面図である。
【図4】絞り機構を示す側面図である。
【図5】遠心圧縮機の流量と圧力との関係を示す一例図である。
【符号の説明】
【0032】
1…過給機、 5…コンプレッサ(遠心圧縮機)、 7…タービン、 13…コンプレッサインペラ、 19…コンプレッサハウジング、 27…吸込口、 29…流路壁、 31…絞り機構、 33…絞り板、 33a…開口部、 37…絞り片、 39…駆動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンプレッサインペラと、一端に吸込口が設けられると共に該吸込口から前記コンプレッサインペラの外周部まで延びる流路壁が設けられたコンプレッサハウジングと、を備えた遠心圧縮機であって、
前記コンプレッサインペラ近傍の前記吸込口側の前記流路壁に配されて前記吸込口から前記コンプレッサインペラに流れる流体の流路面積を変動させる絞り機構を備えていることを特徴とする遠心圧縮機。
【請求項2】
前記絞り機構が、開口部を有する絞り板と、該絞り板に回動可能に軸支された複数の絞り片と、を備え、
前記開口部の径方向の大きさが変化する方向に、前記各絞り片を連動して移動させる駆動機構と接続されていることを特徴とする請求項1に記載の遠心圧縮機。
【請求項3】
タービンとコンプレッサを備える過給機において、
前記コンプレッサとして、請求項1又は請求項2に記載の遠心圧縮機を用いたことを特徴とする過給機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−236035(P2009−236035A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84071(P2008−84071)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】