説明

遠心成形コンクリート製品及びその製造方法

【課題】コンクリートの盛込み時のワーカビリティが高く、プラスティシティーが低い遠心成形用コンクリートを調製し、該遠心成形用コンクリートを用いて製造した遠心成形コンクリート製品を提供する。
【解決手段】本発明は、遠心成形用コンクリートの調製時に、空気量調整剤(AE助剤)を高性能AE減水剤(または高性能減水剤)と併用することによって、盛込み易く、成形性に優れた遠心成形用コンクリートを調製し、該遠心成形用コンクリートを用いて高強度の遠心成形コンクリート製品を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、盛込みやすく、成形性に優れた遠心成形コンクリート製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートパイルやコンクリートポール、ヒューム管などのコンクリート製品は遠心力によって成形・締固めして製造されている。
遠心力による成形とは、高強度にするために高性能減水剤を多量に添加して水セメント比を下げ、必要に応じてシリカヒュームや膨張材等の混和材を添加してコンクリートを作り、該コンクリートを型枠内に充填し、該型枠を高速で回転させて、重力の25倍ないし40倍位の遠心力によって余剰水を強制分離することによって緻密なコンクリート製品を製造する方法である。
【0003】
遠心成形用のコンクリートを型枠内に充填する方法としては。盛込み式とポンプ打ち式とがあり、盛込み式の場合のスランプは3〜5cm程度、ポンプ打ち式の場合のスランプは8cm〜10cm程度であり、ワーカビリティが低く、プラスティシティが高く、作業性が劣っていた。
尚、ポンプ打ち式の場合は、ワーカビリティを良くするため減水剤を使用するケースが多い。
【0004】
減水剤としては、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物(以下、ナフタレン系と称す)、メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物(以下、メラミン系と称す)、ポリカルボン酸塩(以下、ポリカル系と称す)等が使用されている。
但し、ナフタレン系及びメラミン系は時間的に消泡作用が大きく、またポリカル系は増泡性が大きいという欠点がある。
【0005】
そこで、遠心成形において十分な流動性を確保して良好な作業性を得る方法として、例えば、(メタ)アクリル酸(塩)と3−(メタ)アリロキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸との共重合体を減水剤として使用する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
ところで、セメント、水、骨材、混和剤(材)からなるまだ固まらないコンクリートは、混練り後、時間の経過と共にセメント粒子の物理的、化学的凝集が進行し、流動性を次第に失い、施工性/作業性 が経時的に低下してしまう。
この為、流動性の低下を防止し施工性/作業性を確保する技術が提案されている。
例えば、消石灰類と有機酸を有効成分とする凝結調整材を配合し、コンクリートの使用直前に急結剤を混入して施工することを特徴とするコンクリートの施工方法(特許文献2参照)、流動性及び気泡保持性に優れた効果を発現するコンクリート混和剤(特許文献3参照)、高分子凝集剤とポリカルボン酸系減水剤からなるセメント添加剤(特許文献4参照)、急結剤を配合していないセメントコンクリート に凝結調整材を添加し、必要時に急結剤を添加する方法(特許文献5参照)、初期強度発現性を低下させずに可使時間を向上させることを可能とする凝結遅延剤を用いる方法(特許文献6参照)等である。
【0007】
そして、近年、コンクリート混和剤の機能として流動性の他に気泡の保持性が要求されている。その理由は、コンクリート中に4%程度の気泡を連行することで凍害に対する耐久性を確保するためである。
【0008】
尚、コンクリート中の気泡(空気)としては、AE剤やAE減水剤で連行される場合の200μm前後以下の小さな気泡(20〜40μmのものが多く、一般にエントレインドエア(連行空気)と呼ばれている)、減水剤などの界面活性剤が連行する場合の400μm前後の気泡、混練時に巻込まれる場合の80〜100μm以上の気泡(一般にエントラップトエア(巻き込み空気)と呼ばれている)、硬いコンクリートを盛込み式で投入する際のコンクリートとコンクリートの隙間に入る数mm〜数cmの大きな気泡等がある。
【0009】
エントレインドエアは、その微細な気泡がコンクリート配合物中の細骨材の周辺でボールベアリング作用を生じて、混練コンクリートの流動性を高めワーカビリティを向上させると共に、分離抵抗性を高めコンクリートに対する耐凍害性を改善し、硬化コンクリートの外観特性を向上するものとされている。
【0010】
しかしながら、遠心成形によるコンクリート製品の製造では、コンクリート中にエントレインドエアを導入することは行なわれて来なかった。その理由は、重力の20〜40倍位の遠心力によって遠心成形するためにコンクリート中に連行されたエントレインドエアは抜けてしまうため、遠心成形後もコンクリート中に留まって耐凍害性を発揮する効果が期待できないからである。
【0011】
【特許文献1】特開平05−306151号公報
【特許文献2】特開平06−263498号公報
【特許文献3】特開平08−225352号公報
【特許文献4】特開2000−143313号公報
【特許文献5】特開2001−172065号公報
【特許文献6】特開2004−262718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した通り、遠心成形に於いてコンクリート製品を製造する場合、流動性を高めワーカビリティを得る為に減水剤が使用されているが、ワーカビリティが低く、プラスティシティーが高いという問題点が依然存在している。
【0013】
本発明は、ワーカビリティが高く、プラスティシティーが低い遠心成形用コンクリートを調製し、該遠心成形用コンクリートを用いて製造した遠心成形コンクリート製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記問題点を改善すべく、鋭意研究の結果、遠心成形用コンクリートの調製時に、空気量調整剤(AE助剤)を添加することによって、コンクリートにエントレインドエアを導入することにより、盛込み易く、成形性に優れた効果を見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、遠心成形用コンクリートの調製時に、空気量調整剤(AE助剤)を高性能AE減水剤(または高性能減水剤)と併用することによって、盛込み易く、成形性に優れた遠心成形用コンクリートを調製し、該遠心成形用コンクリートを用いて高強度の遠心成形コンクリート製品を得ることが出来るものである。
【0016】
即ち、本発明の第一の発明は、遠心成形前のコンクリート調製時に、少なくとも空気量調整剤(AE助剤)を添加することを特徴とする遠心成形コンクリート製品の製造方法である。
本発明の第二の発明は、遠心成形前のコンクリート調製時に、少なくとも空気量調整剤(AE助剤)と減水剤とを添加することを特徴とする遠心成形コンクリート製品の製造方法である。
本発明の第三の発明は、第一の発明及び第二の発明に記載の製造方法によって製造された遠心成形コンクリート製品である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の遠心成形コンクリート製品は、遠心成形前のコンクリート調製時に少なくとも空気量調整剤(AE助剤)が添加されているので、盛込み時の作業性が良く、成形性に優れている。しかもプラスティシティーが低いため、遠心成形時間の短縮及び遠心力の低減ができるので、成形効率が良く経済的であり、騒音低減効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明について説明する。
本発明の第一の発明は、遠心成形前のコンクリート調製時に、少なくとも空気量調整剤(AE助剤)を添加することを特徴とする遠心成形コンクリート製品の製造方法である。
【0019】
即ち、遠心成形前のコンクリート調製時に、少なくとも空気量調整剤(AE助剤)を添加して、混練コンクリートにエントレインドエアを導入することによって混練コンクリートの流動性を高めワーカビリティを向上させ、盛込み時やポンプ圧送時の作業性を高めて、遠心成形コンクリート製品を製造するものである。
【0020】
従来、遠心成形以外のコンクリート製品では、空気量調整剤(AE助剤)を添加して、混練コンクリートにエントレインドエアを導入することによってボールベアリング作用が生じて混練コンクリートの流動性を高めワーカビリティを向上させると共に、分離抵抗性を高めコンクリートに対する耐凍害性を改善し、硬化コンクリートの外観特性を向上するものであった。
しかしながら、遠心成形では重力の20〜40倍の遠心力によってこのエントレインドエアが脱泡してしまい耐凍害性が期待できないため、遠心成形コンクリート製品の製造には空気量調整剤(AE助剤)が使用されることはなかった。
【0021】
しかしながら、本発明では、遠心成形の混練コンクリートの型枠への盛込みやポンプ圧送時の作業性の向上には、エントレインドエアの導入により流動性を高めワーカビリティを向上させることは非常に有効であることを見出し、本発明を完成させたものである。
即ち、盛込みやポンプ圧送時だけでもエントレインドエアの導入は効果的である。
【0022】
空気量調整剤(AE助剤)としては、マイクロエア101、マイクロエア 202、マイクロエア303A、マイクロエア 775、マイクロエア 775S、マイクロエア 785(以上(株)エヌエヌビー製)、ヴィンソル、ヴィンソルW、ヴィンソル70、ヴィンソル70LT(以上山宗化学(株)社製)、チューポールC、チューポールFA−10(以上竹本油脂(株)製)、シーカAER−20、シーカAER−50、シーカAER−G、シーカAER−FA(以上日本シーカ(株)製)、マイテイAE−03、マイテイAE−04(花王(株)製)等が例示される。
【0023】
本発明の第二の発明は、遠心成形前のコンクリート調製時に、少なくとも空気量調整剤(AE助剤)と減水剤とを添加することを特徴とする遠心成形コンクリート製品である。
【0024】
即ち、水セメント比を下げ高強度の遠心成形コンクリート製品を製造するために減水剤を、盛込みやポンプ圧送時の作業性を良くするために空気量調整剤(AE助剤)を使用するものである。
尚、本発明で用いる減水剤とは、通常の減水剤だけではなく、AE減水剤、高性能(AE)減水剤を含むものである。
【0025】
通常の減水剤としては、変性リグニンスルホン酸化合物とオキシカルボン酸化合物の複合体が例示される。
AE減水剤としては、リグニンスルホン酸化合物とポリオールの複合体、リグニンスルホン酸化合物とポリカルボン酸エーテルの複合体、変性リグニンスルホン酸化合物とポリカルボン酸系化合物の複合体、ポリカルボン酸系多元ポリマー及び非塩素系特殊無機塩等が例示される。
高性能(AE)減水剤としては、ポリカルボン酸エーテル系の複合体、マレイン酸共重合物、マレイン酸エステル共重合物、ポリカルボン酸系化合物等のポリカルボン酸系減水剤が、ポリアルキリアリルスルホン酸塩と反応性高分子、アルキルアリルスルホン酸塩変性リグニン共重合物と変性リグニン等のナフタレン系減水剤が、スルホン化メラミン高縮合物、変性メチロールメラミン縮合物と水溶性特殊高分子化合物等のメラミン系減水剤が、芳香族アミノスルホン酸系高分子化合物、芳香族スルホン酸縮合物とリグニンスルホン酸誘導体等のアミノスルホン酸系減水剤が、それぞれ例示される。
【0026】
本発明の第三の発明は、前述の第一の発明及び第二の発明に記載の製造方法によって製造した遠心成形コンクリート製品である。
【0027】
本発明では、コンクリートパイル、コンクリートポール、ヒューム管の遠心成形コンクリート製品の製造時の混練コンクリートに、空気量調整剤(AE助剤)と減水剤を使用するものである。
本発明では、盛込み時やポンプ圧送時の作業性を高める目的でエントレインドエアを導入するものである。このエントレインドエアは遠心成形時の遠心力によって脱泡されるものであるので、このエントレインドエアの混練コンクリート中の含有量は問題とならない。したがって、盛込み時やポンプ圧送時の作業をし易い範囲内で必要なエントレインドエアを導入するように空気量調整剤(AE助剤)を添加すれば良い。
【0028】
次に、本発明の遠心成形コンクリート製品の製造方法の一例について説明する。
配合物の混練方法は、特に限定されるものではなく、例えば、(a)水、ナフタリン系高性能減水剤、空気量調整剤(AE助剤)以外の材料を予め混合して、プレミックス材を調製しておき、該プレミックス材、水、ナフタリン系高性能減水剤、及び空気量調整剤(AE助剤)をミキサに投入し、混練する方法、(b)粉末状のナフタリン系高性能減水剤を用意し、水以外の材料を予め混合して、プレミックス材を調製しておき、該プレミックス材、水、及び空気量調整剤(AE助剤)をミキサに投入し、混練する方法、(c)各材料を各々個別にミキサに投入し、混練する方法、等を採用することができる。
【0029】
混練に用いるミキサは、通常のコンクリートの混練に用いられるどのタイプのものでも
よく、例えば、揺動型ミキサ、パンタイプミキサ、二軸練りミキサ等が用いられる。
混練後、配合物を型枠に投入し、必要に応じて振動遠心成形、または遠心成形を行い、その後養生することにより、本発明のコンクリート製品が得られる。
なお、遠心成形は、1〜4Gの遠心力で1〜6分間成形し、さらに5〜10Gの遠心力で1〜5分間成形し、さらに20〜35Gの遠心力で1〜10分間成形することが好ましい。
また、養生方法は、特に限定されるものではなく、気中養生や蒸気養生等を行なえば良い。
【実施例】
【0030】
[実施例1]
1.使用材料及び配合
(1)セメント;ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)540kg/m3
(2)シリカフューム(BET比表面積:21.4m/g) 60kg/m3
(3)細骨材;砕砂(最大粒径:5mm) 756kg/m3
(4)粗骨材;砕石(最大粒径:20mm) 903kg/m3
(5)混和剤;ナフタリン系高性能減水剤(商品名:マイティ150)15.0kg/m3
(6)空気量調整剤(AE助剤);12g/m3
(7)水;水道水 150kg/m3
尚、上記混和剤及び空気量調整剤は単位水量の一部である。
【0031】
2.水硬性組成物の調整
予め上記配合のセメント、シリカフューム、細骨材、粗骨材を混合しておき、該混合物、水、高性能減水剤、及び空気量調整剤(AE助剤)を二軸ミキサに投入し混練した。そして、該混練物を型枠内に投入し、遠心成形を行った。この時の遠心成形の条件は、初速(4G)1分、中速(10G)2分、高速(35G)8分であった。次に、蒸気養生を行ってコンクリートパイルを製造した。尚、この時の養生条件は、前置(20℃)3時間、蒸気養生(80℃)5時間であった。
【0032】
[比較例1]
1.使用材料及び配合
(1)セメント;ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)540kg/m3
(2)シリカフューム(BET比表面積:21.4m/g) 60kg/m3
(3)細骨材;砕砂(最大粒径:5mm) 756kg/m3
(4)粗骨材;砕石(最大粒径:20mm) 903kg/m3
(5)混和剤;ナフタリン系高性能減水剤(商品名:マイティ150)15.0kg/m3
(6)水;水道水 150kg/m3
尚、上記混和剤は単位水量の一部である。
【0033】
2.水硬性組成物の調整
予め上記配合のセメント、シリカフューム、細骨材、粗骨材を混合しておき、該混合物、水、高性能減水剤を二軸ミキサに投入し混練した。そして、該混練物を型枠内に投入し、遠心成形を行った。この時の遠心成形の条件は、初速(4G)5分、中速(10G)5分、高速(35G)10分であった。次に、蒸気養生を行ってコンクリートパイルを製造した。尚、この時の養生条件は、前置(20℃)3時間、蒸気養生(80℃)5時間であった。
【0034】
実施例1及び比較例1についての試験結果を表−1に示す。
尚、空気量はJIS A 1128、スランプはJIS A 1101、圧縮強度はJIS A 1108(材齢7日)に準じて測定した。

【0035】
表−1で示した通り、空気量調整剤(AE助剤)を使用した本発明のコンクリートパイルは、128N/mm以上の圧縮強度が出ており、内面も平滑で綺麗に仕上がっていた。また、流動性保持時間も何等問題がなかった。
【0036】

遠心成形時間も11分と略半分に短縮することができた。特に初速及び中速での遠心成形時間を短縮することができた。
これは、コンクリート混練物を型枠に投入した際、空気量調整剤(AE助剤)添加によって導入されたエントレインドエアが該コンクリート混練物の流動性を高めワーカビリティを向上させたため、初速での遠心時に短時間で型枠全体に該コンクリート混練物を行き渡らせることができたためである。
【0037】
以上説明したように、本発明によれば、遠心成形コンクリート製品の配合に空気量調整剤(AE助剤)を添加することによって、型枠への盛込み時の作業性を改善するとともに、遠心成形時間も短縮することができた。
従って、作業性を改善できるばかりでなく、工程の短縮にも寄与することができる。
しかも、空気量調整剤(AE助剤)を使用しても、従来と同等の126N/mm以上の圧縮強度を有する超高強度の遠心成形コンクリート製品を製造することができる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心成形前のコンクリート調製時に、少なくとも空気量調整剤(AE助剤)を添加することを特徴とする遠心成形コンクリート製品の製造方法。
【請求項2】
遠心成形前のコンクリート調製時に、少なくとも空気量調整剤(AE助剤)と減水剤とを添加することを特徴とする遠心成形コンクリート製品の製造方法。
【請求項3】
請求項1及び請求項2記載の製造方法によって製造されたことを特徴とする遠心成形コンクリート製品。




【公開番号】特開2008−247681(P2008−247681A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−92120(P2007−92120)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】