説明

遠心成形体の製造方法

【課題】従来の製造設備で、しかも特殊な混和材(剤)を用いずとも、ノロを発生させることなく、高強度の遠心成形体を製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、少なくともセメントと、骨材と、水結合材比12〜20%の水と、BET法による比表面積15m/g未満の低BETシリカフュームと、結合材100質量部に対して0.5〜2.0質量部のナフタリン系高性能減水剤とからなる混練物を遠心成形し、その後養生することにより、遠心成形体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノロを発生させない遠心成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりコンクリートパイルやポール、ヒューム管などのコンクリート製品は遠心力によって成形・締固めして製造されている。遠心成形工程ではコンクリート中の水が絞り出され緻密な組織が生成するが、この水にはセメントや骨材中の微粉分などが混じっており、いわゆるノロ として排出される。このノロは、セメントや砂などの微粉部分を20〜40重量%も含有し、強アルカリ性のため、沈降分離・中和処理の後、固形分は産業廃棄物として処理しなければならない。そのため、この処理に多くの時間と経費が掛っているばかりでなく、最近ではノロ の廃棄場所の確保も困難になっており、遠心成形業界にとって大きな問題になっている。
【0003】
上記ノロ対策として、ベントナイト、シリカフューム及びフライアッシュの1種または2種以上と消泡剤を主成分とするノロ低減剤(特許文献1参照)等が提案されている。
また、ノロ低減剤を使用しない方法として、高速アジテート式混練機を用いて混練する方法(特許文献2参照)等も提案されている。
【0004】
ところで、近年、スラッジを皆無にする混和材が開発、商品化され、一部で使用されている。例えば、商品名「TNS‐100」((株)太平洋マテリアル製)、商品名「デンカプラスメリット」(電気化学工業(株)製)等がある。
【0005】
一方、蒸気養生強度の発現性及び遠心成形性に優れた超高強度の遠心成形硬化体を製造する技術としてシリカフュームを使用する技術が提案されている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平09−002853号公報
【特許文献2】特開2004−195940号公報
【特許文献3】特開2006−036629号公報
【0006】
しかしながら、上記これらの混和剤はコンクリート用原料としては高価であり、またこれらの混和剤を計量・投入する設備も必要となり、コンクリートの製造コスト増となってしまう。また、上記高速アジテート式混練機等の特殊な設備の設置や維持も、やはりコンクリートの製造コスト増に繋がってしまう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、上記問題点を改善すべく、鋭意研究の結果、従来の製造設備で、しかも特殊な混和剤を用いずとも、ノロを発生させることなく、高強度の遠心成形体を製造する方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、従来低水結合材比ではコンクリートの製造に用いることができなかったナフタリン系高性能減水剤を、低水結合材比で使用することによって遠心成形時のノロの発生を防ぎ、しかも高強度の遠心成形体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ナフタリン系高性能減水剤と特定の材料を組み合わせることによって、低水結合材比でも作業性及び遠心成形性に優れ、ノロの発生量がゼロであり、かつ該遠心成形体が高強度を有することを確認し、本発明を完成させたものである。
【0010】
即ち、本発明は、少なくとも、セメント、骨材、水、BET法による比表面積が15m/g未満のシリカフューム、ナフタリン系高性能減水剤を含有してなる混練物を遠心成形によって製造することを特徴とする遠心成形体の製造方法である(請求項1)。
そして、ナフタリン系高性能減水剤の添加量が、結合材100質量部に対して0.5〜2.0質量部であることを特徴とする請求項1記載の遠心成形体の製造方法である(請求項2)。
次に、水結合材比が12〜20%であることを特徴とする請求項1記載及び請求項2記載の遠心成形体の製造方法である(請求項3)。
次に、遠心成形体がコンクリートパイルであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の遠心成形体の製造方法である(請求項4)。
【0011】
本願発明で用いる「低BETシリカフューム」とは、「JIS A 6207」で定義されている「BET法による比表面積15m/g以上のシリカフューム」に該当しないもの、即ち、BET法による比表面積15m/g未満のシリカフュームを指すものとする。
また、本発明で用いる「結合材」とは、セメントとシリカフュームを合わせたものを指すものとする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の遠心成形体の製造方法で、遠心成形コンクリート製品を製造すれば、ノロの発生が全くない。
しかも、特殊な混和剤、特殊な設備、特殊な製造方法を必要とするものではなく、通常のコンクリートを製造する方法で製造することができる。
そして、従来低水結合材比では使用することが出来なかったナフタリン系高性能減水剤を用いて、コンクリートの作業性及び遠心成形性に優れた遠心成形体を製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について説明する。
本発明は、少なくともセメントと、骨材と、水結合材比12〜20%の水と、低BETシリカフュームと、結合材100質量部に対して0.5〜2.0質量部のナフタリン系高性能減水剤とからなる混練物を遠心成形によって製造することを特徴とする遠心成形体の製造方法である。
そして、必要に応じて、気中養生又は蒸気養生またはオートクレーブ養生によって遠心成形体を製造することができる。
【0014】
以下、本発明の遠心成形体の製造方法について詳細に説明するが、本発明はこれらに何等制限されるものではない。
最初に、材料およびその配合割合について説明する。
本発明で使用するセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセ
メント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランド
セメントが挙げられる。
単位セメント量としては、550〜1200kg/mである。
【0015】
細骨材としては、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂等又はこれらの混合物を使用すること
ができる。
細骨材の配合量としては、500〜800kg/mである。
【0016】
粗骨材の例としては、砂利、砕石等が挙げられる。
粗骨材の配合量は、組成物の作業性や、自己収縮や、硬化後の強度発現性及び耐久性の
観点から、700〜1200kg/mである。
【0017】
本発明で使用するシリカフュームは低BET比表面積のものに限定される。本発明で用いられる低BETシリカフュームのBET法による比表面積は、15m/g未満であり、好ましくは6〜13m/gで、より好ましくは8〜11m/gである。
低BETシリカヒュームの配合量は、結合材100質量部に対して3〜15質量部、より好ましくは5〜13質量部である。
【0018】
水の量は、結合材100質量部に対して12〜20質量部、より好ましくは12〜16質量部である。
水の量が12質量部未満では、成形に必要な所定の流動性が得られない等の欠点がある。
水の量が20質量部を超えると、所定の圧縮強度が得られない等の欠点がある。
【0019】
本発明で使用する減水剤は、ナフタリン系高性能減水剤に限定される。
ナフタリン系高性能減水剤の例としては、ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物、ナフタリンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、ナフタリンスルホン酸塩リグニンスルホン酸塩縮合物系、ナフタリンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等が挙げられる。
市販されているものの例としては、「FT−500V」、「FT−500G」(以上電気化学工業(株)製)、「セルフロー」(第一工業製薬(株)製)、「サンフローPS」(サンフロー(株)製)、「POWERCON−100」((株)デグサコンストラクションシステムズ製)、ポールファイン510N(竹本油脂(株)製)、マイティー150(花王(株)製)等が挙げられる。
添加量としては、結合材100質量部に対して、0.5〜2.0質量部が好ましい。
【0020】
次に、本発明の遠心成形体の製造方法について説明する。
配合物の混練方法は、特に限定されるものではなく、例えば、(a)水、ナフタリン系高性能減水剤以外の材料を予め混合して、プレミックス材を調製しておき、該プレミックス材、水及びナフタリン系高性能減水剤をミキサに投入し、混練する方法、(b)粉末状のナフタリン系高性能減水剤を用意し、水以外の材料を予め混合して、プレミックス材を調製しておき、該プレミックス材及び水をミキサに投入し、混練する方法、(c)各材料を各々個別にミキサに投入し、混練する方法、等を採用することができる。
混練に用いるミキサは、通常のコンクリートの混練に用いられるどのタイプのものでも
よく、例えば、揺動型ミキサ、パンタイプミキサ、二軸練りミキサ等が用いられる。
混練後、配合物を型枠に投入し、遠心成形を行い、その後養生することにより、本発明の遠心成形体を製造することができる。
なお、遠心成形は、1〜4Gの遠心力で1〜6分間成形し、さらに5〜10Gの遠心力で1〜5分間成形し、さらに20〜35Gの遠心力で1〜5分間成形することが好ましい。
また、養生方法は、特に限定されるものではなく、気中養生や蒸気養生やオートクレーブ養生等を行なえば良い。
【実施例】
【0021】
次のようにして、コンクリート遠心成形体を製造した。
[実施例1]
1.使用材料及び配合
(1)セメント;普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)710kg/m3
(2)シリカフューム(BET比表面積:10.5m/g) 90kg/m3
(3)細骨材;砕砂(最大粒径:5mm) 639kg/m3
(4)粗骨材;砕石(最大粒径:20mm) 977kg/m3
(5)混和剤;ナフタリン系高性能減水剤(商品名:マイティ150)9.6kg/m3
(6)水;水道水 120kg/m3
【0022】
2.製造
予め上記配合のセメント、シリカフューム、細骨材、粗骨材を混合しておき、該混合物、水、高性能減水剤を二軸ミキサに投入し混練した。そして、該混練物を型枠内に投入し、遠心成形を行った。この時の遠心成形の条件は、初速(4G)5分、中速(10G)5分、高速(35G)5分であった。次に、蒸気養生を行ってコンクリートパイルを製造した。尚、この時の養生条件は、前置(40℃)5時間、15℃/hで昇温、蒸気養生(80℃)9時間であった。
【0023】
[比較例1]
1.使用材料及び配合
(1)セメント;普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製) 710kg/m3
(2)シリカフューム(BET比表面積:20.1m/g) 90kg/m3
(3)細骨材;砕砂(最大粒径:5mm)
639kg/m3
(4)粗骨材;砕石(最大粒径:20mm)
977kg/m3
(5)混和剤;ナフタリン系高性能減水剤(商品名:マイティ150)9.6kg/m3
(6)水;水道水
120kg/m3
【0024】
2.製造
予め上記配合のセメント、シリカフューム、細骨材、粗骨材を混合しておき、該混合物、水、高性能減水剤を二軸ミキサに投入し混練した。
【0025】
[比較例2]
1.使用材料及び配合
(1)セメント;普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製) 710kg/m3
(2)シリカフューム(BET比表面積:20.1m/g) 90kg/m3
(3)細骨材;砕砂(最大粒径:5mm)
608kg/m3
(4)粗骨材;砕石(最大粒径:20mm)
929kg/m3
(5)混和剤;ナフタリン系高性能減水剤(商品名:マイティ150)18.5kg/m3
(6)水;水道水
150kg/m3
【0026】
2.製造
予め上記配合のセメント、シリカフューム、細骨材、粗骨材を混合しておき、該混合物、水、高性能減水剤を二軸ミキサに投入し混練した。そして、該混練物を型枠内に投入し、遠心成形を行った。この時の遠心成形の条件は、初速(4G)5分、中速(10G)5分、高速(35G)5分であった。次に、蒸気養生を行ってコンクリートパイルを製造した。尚、この時の養生条件は、前置(40℃)5時間、15℃/hで昇温、蒸気養生(80℃)9時間であった。
【0027】
試験結果を下記に示す。
【表1】

【0028】
表1で示した通り、本願発明のコンクリート遠心成形体は、120N/mm以上の圧縮強度が出ており、内面も平滑で綺麗に仕上がっていた。また、コンクリートの作業性及び遠心成形性も何等問題なく、ノロの発生量もゼロであった。
【0029】
尚、実施例1の結果は、従来報告があったセメント粒子よりも小さい微粒子でセメントの粒子間を充填し、その間隙をシリカフュームと水で埋める方法とは異なった方法であり、例えば、高炉スラグやフライアッシュ等を併用しない場合でも、120N/mm以上の超高強度のコンクリートパイルを提供することができるものである。
【0030】
これに対して、低BETシリカフュームでないシリカフュームを用いて実施例1と同じ水結合材比で配合した比較例1では、コンクリート自体が練れなかった。
一方、低BETシリカフュームでないシリカフュームを用いて、コンクリートが混練できるように水結合材比及び高性能減水剤の添加量を調整した比較例2では、圧縮強度が108N/mmであり、遠心成形性に於いてもペースト層等の明確な分離が確認され、またノロも発生していた。
【0031】
以上説明したように、本発明によれば、低BETシリカフュームとナフタリン系高性能減水剤を併用して遠心成形体を製造することによって、ノロの発生量をゼロとすることができる。
従って、ノロの処理費が掛からないばかりでなく、廃棄物の発生を伴わないので、環境にやさしい製造方法となる。
しかも、120N/mm以上の圧縮強度を有する超高強度の遠心成形体を製造することが可能である。
【0032】
更に、従来使用されていたノロ低減剤、高速アジテート式混練機、スラッジを皆無にする混和材に比べると、ナフタリン高性能減水剤は極めて安く、しかもコンクリート製造には一般的に使用されていたものであり、経済的にも極めて有益である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、セメント、骨材、水、BET法による比表面積が15m/g未満のシリカフューム、ナフタリン系高性能減水剤を含有してなる混練物を遠心成形によって製造することを特徴とする遠心成形体の製造方法。
【請求項2】
ナフタリン系高性能減水剤の添加量が、結合材100質量部に対して0.5〜2.0質量部であることを特徴とする請求項1記載の遠心成形体の製造方法。
【請求項3】
水結合材比が12〜20%であることを特徴とする請求項1記載及び請求項2記載の遠心成形体の製造方法。
【請求項4】
遠心成形体がコンクリートパイルであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の遠心成形体の製造方法。




【公開番号】特開2008−155507(P2008−155507A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−347762(P2006−347762)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】