説明

遠心成形用金型及び無端成形体の製造方法

【課題】無端成形体を高い生産性で成形することのできる遠心成形用金型、及び、この遠心成形用金型を利用して、無端成形体を高い生産性で成形することのできる無端成形体の製造方法を提供すること。
【解決手段】筒状を成す外側金型20Aと、前記外側金型20Aから熱が伝達するように前記外側金型20Aに装入される筒状を成す内側金型30Aとを備えた遠心成形用金型、及び、この遠心成形用金型を予め加熱する加熱工程と、前記遠心成形用金型における内側金型の内部に樹脂組成物を注入して、無端成形体を遠心成形する成形工程と、前記遠心成形用金型における外側金型の加熱状態を維持しつつ、前記内側金型を前記外側金型から取り出し、前記内側金型を冷却する冷却工程とを有する無端成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心成形用金型及び無端成形体の製造方法に関し、さらに詳しくは、生産性に優れた遠心成形用金型及びこの遠心成形用金型を利用した無端成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種装置、例えば、プーリ、駆動装置、無限軌道装置等に、無端成形体、例えば、ベルト等が使用されている。その一例を挙げると、例えば、画像形成装置には、金属製ドラム体又は弾性ローラに代えて、又は、これらに加えて、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂等によって形成された無端ベルトが、例えば、転写ベルト、中間転写ベルト、転写搬送ベルト、搬送ベルト、定着ベルト及び現像ベルト等として、用いられている。
【0003】
このような無端成形体は、例えば、遠心成形法によって、成形される。遠心成形法によって無端成形体を成形する方法としては、例えば、筒状を成す遠心成形用金型を加熱すると共に回転させ、この遠心成形用金型の内部に流動性の成形材料を注入して遠心成形用金型の内周面に成形材料を展開させ、展開させた成形材料を架橋又は硬化等させた後、遠心成形用金型を冷却して、成形された無端成形体を遠心成形用金型から取り出す方法が挙げられる。
【0004】
このような遠心成形法に使用される金型は、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂等の成形温度への加熱及び成形温度から室温程度の温度への冷却が繰り返して行われるから熱サイクルに対する耐熱性、繰り返される熱サイクルに対する寸法安定性、及び、遠心成形時における高速回転に耐えうる機械的強度等が要求される。したがって、遠心成形用金型は、通常、所望の耐熱性、寸法安定性及び機械的強度等を実現することができる材料及び構造が採用され、例えば、耐熱性等に優れた金属材料によって肉厚の筒状体とされる。
【0005】
しかし、肉厚の筒状体とされた遠心成形用金型は、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂等の成形温度に遠心成形用金型を加熱する加熱工程、及び、成形温度から室温程度に冷却する冷却工程に長時間を要し、無端成形体の生産性を低下させる要因の一つになっている。
【0006】
このように、遠心成形用金型に要求される特性と無端成形体の生産性とは相反することから、従来の遠心成形用金型は、無端成形体の生産性をある程度犠牲にしても、遠心成形用金型に要求される特性を満足するように、肉厚の筒状体に形成されていた(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
【特許文献1】特開2002−307461号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、無端成形体を高い生産性で成形することのできる遠心成形用金型、及び、この遠心成形用金型を利用して、無端成形体を高い生産性で成形することのできる無端成形体の製造方法を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段として、
請求項1は、筒状を成す外側金型と、前記外側金型から熱が伝達するように前記外側金型に装入される筒状を成す内側金型とを備えた遠心成形用金型であり、
請求項2は、前記外側金型と前記内側金型との間に熱伝達手段を備えた請求項1に記載の遠心成形用金型であり、
請求項3は、請求項1又は2に記載の遠心成形用金型を予め加熱する加熱工程と、前記遠心成形用金型における内側金型の内部に樹脂組成物を注入して、無端成形体を遠心成形する成形工程と、前記遠心成形用金型における外側金型の加熱状態を維持しつつ、前記内側金型を前記外側金型から取り出し、前記内側金型を冷却する冷却工程とを有する無端成形体の製造方法であり、
請求項4は、請求項1又は2に記載の遠心成形用金型を予め加熱する加熱工程と、前記遠心成形用金型における第1の内側金型の内部に樹脂組成物を注入して、無端成形体を遠心成形する第1の成形工程と、前記遠心成形用金型における外側金型の加熱状態を維持しつつ、前記第1の内側金型を前記外側金型から取り出し、次いで、前記第1の内側金型とは別の第2の内側金型を前記外側金型に装入する内側金型交換工程と、前記外側金型から取り出した前記第1の内側金型を冷却する冷却工程と、前記第2の内側金型の内部に樹脂組成物を注入して、無端成形体を遠心成形する第2の成形工程とを有する無端成形体の連続製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
この発明に係る遠心成形用金型は、外側金型と、前記外側金型に装入される内側金型とを備え、外側金型と内側金型とは熱が伝達するように組立られるから、内側金型の加熱時間を大幅に短縮することができ、及び/又は、内側金型の冷却時間も大幅に短縮することができ、無端成形体の生産性を向上させることができる。したがって、この発明によれば、無端成形体を高い生産性で成形することのできる遠心成形用金型を提供することができる。
【0011】
また、この発明によれば、この発明に係る遠心成形用金型を利用して、無端成形体を高い生産性で成形することのできる無端成形体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明における遠心成形用金型を図面に基づいて説明する。この遠心成形用金型は、筒状を成す外側金型と、前記外側金型から熱が伝達するように前記外側金型に装入される筒状を成す内側金型とを備えている。
【0013】
この発明における一例である遠心成形用金型10Aは、図1及び図2に示されるように、筒状を成す外側金型20Aと筒状を成す内側金型30Aとを備えている。
【0014】
前記外側金型20Aは、公知の遠心成形装置(例えば、図8参照。)によって回転可能で、外側金型20Aの長手方向に貫通する、後述する内側金型30Aを装入可能な貫通中空部を有する筒状に形成されていればよく、具体的には、図1(a)及び図2に示されるように、貫通中空部を有する円筒状に形成されている。この外側金型20Aは、長手方向(一端から他端に向かう方向)にわたって均一な外径及び内径を有し、すなわち、長手方向にわたって均一な厚さを有する。外側金型20Aの厚さは、遠心成形時における高速回転に耐えうる機械的強度等を有する厚さに調整されればよく、外側金型の大きさ及び材料等に応じて任意に調整され、例えば、10〜20mm程度に調整される。外側金型の大きさ、外径及び内径は、成形する無端成形体に応じて、所望のように調整される。
【0015】
外側金型20Aにおける外周面及び内周面22Aの表面状態は、特定の表面状態に調整されなくてもよいが、内周面22Aは、後述する内側金型30Aとの摩擦力を確保し、外側金型20Aと一体となって内側金型30Aを回転させることができる点で、粗面化処理等の表面処理により、粗面にされるのが好ましい。内周面22Aの表面状態、例えば、表面粗さRa等は、外側金型20Aと内側金型30Aとの接触状態及び内側金型30Aの質量等に応じて、所望のように調整される。
【0016】
外側金型20Aを形成する材料は、遠心成形時における高速回転に耐えうる機械的強度、寸法安定性及び熱伝導性を有する材料であればよく、例えば、銅、銅合金、黄銅、青銅、アルミニウム、アルミニウム合金、鋼、各種めっき鉄、鉄合金、ステンレス鋼等の金属等が挙げられ、遠心成形用金型10Aの形状及び構造並びに成形条件等に応じて、所望の材料が選択される。外側金型20Aは、例えば、プリハードン鋼、アズ・ロールド鋼、焼入れ焼き戻し鋼、時効処理鋼等の特殊鋼によって形成されるのが好ましい。
【0017】
前記内側金型30Aは、前記外側金型20Aの貫通中空部に装入され、かつ、内側金型30Aの長手方向に貫通する、無端成形体を成形可能な貫通中空部を有する筒状に形成されていればよく、具体的には、図1(b)及び図2に示されるように、貫通中空部を有する円筒状に形成されている。この内側金型30Aは、長手方向にわたって均一な外径及び内径を有し、すなわち、長手方向にわたって均一な厚さを有する。内側金型30Aの厚さは、遠心成形時における高速回転に耐えうる機械的強度等を有していればよく、好ましくは、外側金型20Aの厚さよりも薄い厚さを有している。内側金型30Aの厚さが外側金型30の厚さよりも薄いと、内側金型30Aを、成形温度に加熱する加熱時間及び/又は成形温度から室温程度に冷却する冷却時間を短くすることができ、無端成形体の生産性をより一層向上させることができる。内側金型30Aの厚さは、外側金型20Aの厚さに対して、例えば、80%以下に調整されるのが好ましく、50%以下に調整されるのがより好ましい。一方で、内側金型30Aの厚さは、内側金型30Aの機械的強度等を確保するため、例えば、1mm以上に調整され、好ましくは2mm以上に調整される。内側金型30Aの厚さは、具体的には、例えば、1〜10mm程度に調整される。内側金型30Aの大きさは、前記外側金型20Aの大きさ等に応じて、所望のように調整される。
【0018】
内側金型30Aの外径及び内径は、内側金型30Aの厚さが前記厚さとなるように調整される。加えて、内側金型30Aの外径は、外側金型20A及び内側金型30Aの熱膨張率等を考慮して、遠心成形用金型10Aが成形温度に加熱されたときに、外側金型20Aの内径と内側金型30Aの外径とがほぼ一致するように、調整され、また、内側金型30Aの内径は、無端成形体の大きさ、特にその外周径に応じて、任意に調整される。
【0019】
内側金型30Aにおける外周面31Aの表面状態は、特定の表面状態に調整されなくてもよいが、内側金型30Aの外周面31Aは、前記外側金型20Aとの摩擦力を確保し、外側金型20Aと一体となって内側金型30Aを回転させることができる点で、粗面化処理等の表面処理により、粗面にされるのが好ましい。外周面31Aの表面状態、例えば、表面粗さRa等は、外側金型20Aと内側金型30Aとの接触状態及び内側金型30Aの質量等に応じて、所望のように調整される。
【0020】
また、内側金型30Aにおける内周面32Aの表面状態は、無端成形体に要求される表面状態に応じて、鏡面処理等により鏡面にされてもよい。また、内周面32Aはフッ素樹脂やシリコーン樹脂等の離型剤により離型処理され、無端成形体が内周面32Aから容易に脱型できるように、表面処理されてもよい。
【0021】
内側金型30Aを形成する材料は、熱サイクルに対する耐熱性、繰り返される熱サイクルに対する寸法安定性、及び、機械的強度等を有する材料であればよく、例えば、銅、銅合金、黄銅、青銅、アルミニウム、アルミニウム合金、鋼、各種めっき鉄、鉄合金、ステンレス鋼等の金属等が挙げられ、遠心成形用金型10Aの形状及び構造、成形条件並びに外側金型20Aの材料等に応じて、所望の材料が選択される。遠心成形用金型10Aにおいては、内側金型30Aは、外側金型20Aの材料とほぼ同じ熱膨張率を有する材料で形成されるのがよい。内側金型30Aは、例えば、プリハードン鋼、アズ・ロールド鋼、焼入れ焼き戻し鋼、時効処理鋼等の特殊鋼によって形成されるのが好ましい。
【0022】
遠心成形用金型10Aは、図2に示されるように、外側金型20Aの貫通中空部に内側金型30Aが、外側金型20Aから内側金型30Aに熱が伝達するように装入された二重構造になっている。遠心成形用金型10Aは、成形温度に加熱されたときに、外側金型20Aの内径と内側金型30Aの外径とが略一致するように、外側金型20Aの内径及び内側金型30Aの外径が調整され、また、好ましくは、外側金型20Aと内側金型30Aとがほぼ同じ熱膨張率を有する材料で形成されているから、前記成形温度において、外側金型20Aの内周面22Aと内側金型30Aの外周面31Aとは密接状態となり、その結果、加熱された外側金型20Aの内周面22Aから内側金型30Aの外周面31Aを介して内側金型30Aに熱が伝達し、外側金型20Aと内側金型30Aとが所定の成形温度に加熱される。また、このように、外側金型20Aの内径及び内側金型30Aの外径が調整され、また、好ましくは、外側金型20Aと内側金型30Aとの材料が選択されているから、外側金型20Aを回転させると、内側金型30Aも外側金型20Aと一体になって、回転することができる。
【0023】
この発明における別の一例である遠心成形用金型10Bは、図3に示されるように、筒状を成す外側金型20Bと筒状を成す内側金型30Bとを備えている。
【0024】
前記外側金型20Bは、基本的には、前記外側金型20Aと同様に形成されているが、図3に示されるように、外側金型20Bの内径が長手方向に沿って漸次減少又は増大するように、調整されている。すなわち、外側金型20Bの貫通中空部が円錐台形状になっている。
【0025】
前記内側金型30Bは、基本的には、前記内側金型30Aと同様に形成されているが、図3に示されるように、内側金型30Bの外径が、外側金型20Bの内径とほぼ同じ割合で長手方向に沿って漸次減少又は増大するように、調整されている。すなわち、内側金型30Bの外周面31Bは、テーパ状に形成され、換言すると、内側金型30Bは、内径が均一な貫通中空部を有する円錐台形に形成されている。
【0026】
遠心成形用金型10Bは、図3に示されるように、外側金型20Bの貫通中空部に内側金型30Bが、外側金型20Bから内側金型30Bに熱が伝達するように装入された二重構造になっている。遠心成形用金型10Bは、外側金型20Bの内径と内側金型30Bの外径とが、ほぼ同じ割合で長手方向に沿って漸次減少又は増大するように調整されているから、外側金型20Bの貫通中空部に内側金型30Bを装入すると、外側金型20Bの内周面22Bと内側金型30Bの外周面31Bとが密接状態となる。この密接状態は前記成形温度においても維持され、その結果、加熱された外側金型20Bの内周面22Bから内側金型30Bの外周面31Bを介して内側金型30Bに熱が伝達し、外側金型20Bと内側金型30Bとが所定の成形温度に加熱される。また、このように、外側金型20Bの内径及び内側金型30Bの外径が調整されているから、外側金型20Bを回転させると、内側金型30Bも外側金型20Bと一体になって、回転することができる。
【0027】
この遠心成形用金型10Bにおいては、前記のように、外側金型20Bの内径及び内側金型30Bの外径が調整されているから、外側金型20Bと内側金型30Bとが異なる熱膨張率を有する材料によって形成されていても、加熱によって外側金型20Bと内側金型30Bとに生じる熱膨張の変化に応じて、外側金型20Bに対して内側金型30Bが外側金型20Bの貫通中空部を水平移動することにより、外側金型20Bの内周面22Bと内側金型30Bの外周面31Bとが密接状態を確保することができる。したがって、内側金型30Bは、外側金型20Bの材料と異なる熱膨張率を有する材料で形成されてもよく、外側金型20Bの材料とほぼ同じ熱膨張率を有する材料で形成されてもよい。
【0028】
次に、この発明における、熱伝達手段を備えた遠心成形用金型を図面に基づいて説明する。この遠心成形用金型は、筒状を成す外側金型と、前記外側金型から熱が伝達するように前記外側金型に装入される筒状を成す内側金型と、前記外側金型と前記内側金型との間に熱伝達手段50とを備えている。
【0029】
この発明における一例である、熱伝達手段50を備えた遠心成形用金型10Cは、図4に示されるように、筒状を成す外側金型20Cと、筒状を成す内側金型30Cと、前記外側金型20C及び前記内側金型30Cとの間に熱伝達手段50とを備えて成る。
【0030】
前記外側金型20Cは、基本的には、前記外側金型20Aと同様に形成され、また、前記内側金型30Cは、基本的には、前記内側金型30Aと同様に形成されるが、外側金型20Cと内側金型30Cとの間に後述する熱伝達手段50が配置されるように、外側金型20Cの内径及び内側金型30Cの外径が調整されている。
【0031】
前記熱伝達手段50は、成形温度に加熱された外側金型20Cの熱を内側金型30Cに伝達することができればよく、外側金型20Cの内周面22Cと内側金型30Cの外周面31Cとに密接しているのが好ましい。このような熱伝達手段50は、例えば、金属等の熱導電性材料によって形成され、内側金型30Cを挿入可能な貫通中空部を有する筒体、外側金型20Cの内周面22Cに敷設された金属等の熱導電性材料の層、また、オイル及び水蒸気等の熱媒体等を充填可能な中空内部を有する筒状体、伝熱性樹脂シール等が挙げられる。図4に示される遠心成形用金型10Cは、熱伝達手段50として、金属によって形成された筒体50を備えている。この筒体50の外周面及び内周面は粗面化されているのが好ましい。
【0032】
遠心成形用金型10Cは、図4に示されるように、外側金型20Cの貫通中空部に筒体50が装入され、かつ、筒体50の貫通中空部に内側金型30Cが装入された三重構造になっている。遠心成形用金型10Cは、成形温度に加熱されたときに、外側金型20Cの熱が筒体50を経由して内側金型30Cに伝達するように構成され、また、好ましくは、筒体50が外側金型20Cの内周面22Cと内側金型30Cの外周面31Cとに密接するように構成されているから、筒体50を介して外側金型20Cと内側金型30Cとが所定の成形温度に加熱される。また、このように、筒体50が構成されているから、外側金型20Cを回転させると、筒体50を介して、内側金型30Cも外側金型20Cと一体になって、回転することができる。
【0033】
この発明における、固定手段を備えた遠心成形用金型を図面に基づいて説明する。この遠心成形用金型は、筒状を成す外側金型と、前記外側金型から熱が伝達するように前記外側金型に装入される筒状を成す内側金型と、前記外側金型と前記内側金型とを固定する固定手段と、所望により、前記外側金型と前記内側金型との間に熱伝達手段とを備えている。
【0034】
この発明における一例である、固定手段を備えた遠心成形用金型10Dは、図5に示されるように、筒状を成す外側金型20Dと筒状を成す内側金型30Dと、固定手段40Aとを備えて成る。
【0035】
前記外側金型20Dは、基本的には、前記外側金型20Aと同様に形成されているが、図5に示されるように、一端部に、周方向全体にわたって外側方向に張り出した鍔23、すなわち、外向きフランジが形成されている。また、前記内側金型30Dは、基本的には、前記内側金型30Aと同様に形成されているが、図5に示されるように、一端部に、周方向全体にわたって外側方向に張り出した鍔33、すなわち、外向きフランジが形成されている。
【0036】
遠心成形用金型10Dは、図5に示されるように、外側金型20Dと内側金型30Dとを固定する固定手段40A、例えば、ボルト41及びナット42を備えている。この固定手段40Aは、鍔23と鍔33との周方向に均等な間隔をおいて4箇所に配置されている。このように、固定手段40Aによって、鍔23と鍔33とが固定されることにより、外側金型20Dと内側金型30Dとが固定されると、外側金型20Dの材料と内側金型30Dの材料との熱膨張率の相違等によって、外側金型20Dの内周面22Dと内側金型30Dの外周面31Dとが、外側金型20Dと内側金型30Dとが一体となって回転させるのに十分な密接状態にない場合においても、外側金型20Dと内側金型30Dとを所望のように一体に回転させることができる。
【0037】
固定手段40Aは、外側金型20Dと内側金型30Dとを固定することができればよく、具体的には、ボルト41とナット42との組み合わせの他に、鍔23と鍔33とを挟持して固定するクリップ、鍔23に形成された係止部、例えば、係止片と鍔33に形成された係止部、例えば、係止溝との組み合わせ等が挙げられる。
【0038】
この発明における別の一例である、固定手段を備えた遠心成形用金型10Eは、図6に示されるように、筒状を成す外側金型20Eと筒状を成す内側金型30Eとを備えて成る。
【0039】
前記外側金型20Eは、基本的には、前記外側金型20Aと同様に形成されているが、図6に示されるように、外側金型20Eにおける内周面22Eに、外側金型20Eの長手方向に延在する断面略四角形の凸状体43が、内周面22Eの円周方向に等間隔で4箇所に形成されている。
【0040】
前記内側金型30Eは、基本的には、前記内側金型30Aと同様に形成されているが、図6に示されるように、内側金型30Eにおける外周面31Eに、内側金型30Eの長手方向に延在し、前記凸状体43とほぼ同一又はわずかに大きな断面積を有する断面略四角形の溝44が、外周面31Eの円周方向に等間隔で4箇所に形成されている。
【0041】
遠心成形用金型10Eは、図6に示されるように、外側金型20Eに形成された凸状体43と内側金型30Eに形成された溝44とを備えた固定手段40Bを備え、外側金型20Eの凸状体43と内側金型20Eの溝44、すなわち、固定手段40Bが適合するように、外側金型20Eの貫通中空部に内側金型30Eが装入された二重構造になっている。このように、外側金型20Eと内側金型30Eとが固定手段40Bによって固定されていると、外側金型20Eの材料と内側金型30Eの材料との熱膨張率の相違等によって、外側金型20Eの内周面22Eと内側金型30Eの外周面31Eとが、外側金型20Eと内側金型30Eとが一体となって回転させるのに十分な密接状態にない場合においても、外側金型20Eと内側金型30Eとを所望のように一体に回転させることができる。
【0042】
固定手段40Bは、外側金型20Eと内側金型30Eとを固定することができればよく、具体的には、凸状体43と溝44との組み合わせの他に、筒状の凸状体とこの凸状体が挿入される穴とからなる固定手段等が挙げられる。
【0043】
この発明におけるまた別の一例である、固定手段を備えた遠心成形用金型10Fは、図7に示されるように、筒状を成す外側金型20Aと筒状を成す内側金型30Aと、固定手段40Cとを備えて成る。固定手段40Cは、図7に示されるように、円盤体を成し、この円盤体の略中心部に貫通孔45と、この貫通孔45を囲繞するように、外側金型20A及び内側金型30Aの合計厚さとほぼ同一又はわずかに大きな幅を有する環状挿入溝46とを有する。この貫通孔45は、無端成形体の材料を投入するために設けられ、その開口径は無端成形体の材料を投入可能な径であればよい。
【0044】
固定手段40Cは、図示しないが、遠心成形用金型10Aにおける外側金型20A及び内側金型30Aが環状挿入溝46に挿入され、所望により、遠心成形用金型10Aと固定手段40Cとを公知の方法によって固定することにより、外側金型20A及び内側金型30Aを固定することができる。このように、外側金型20Aと内側金型30Aとが固定手段40Cによって固定されていると、外側金型20Aの材料と内側金型30Aの材料との熱膨張率の相違等によって、外側金型20Aの内周面22Aと内側金型30Aの外周面31Aとが、外側金型20Aと内側金型30Aとが一体となって回転させるのに十分な密接状態にない場合においても、外側金型20Aと内側金型30Aとを所望のように一体に回転させることができる。
【0045】
また、固定手段40Cは、図7に示されるように、その貫通孔45の開口径が内側金型30Aの内径よりも小さく調整されている場合には、外側金型20Aと内側金型30Aとを固定する機能に加えて、前記樹脂組成物が遠心成形用金型10Aから漏出することを防止する機能をも有する。
【0046】
前記したように、この発明に係る遠心成形用金型について一例を挙げて説明したが、この発明においては、種々の変更及び改良が可能である。例えば、遠心成形用金型10Aは、遠心成形用金型10Aが成形温度に加熱されたときに、外側金型20Aの内径と内側金型30Aの外径とがほぼ一致するように、調整され、また、遠心成形用金型10Bは、外側金型20Bの内径と内側金型30Bの外径とがほぼ同じ割合で長手方向に沿って漸次減少又は増大するように、調整され、さらに、遠心成形用金型10Cは、遠心成形用金型10Aと同様に、外側金型20Cの内径と、筒体50の内径及び外径と、内側金型30Cの外径とが調整されているから、外側金型20Aと内側金型30Aとが、また、外側金型20Bと内側金型30Bとが、さらに、外側金型20Cと筒体50と内側金型30Cとが、ぞれぞれ、所望のように一体になって回転することができるが、この発明において、外側金型と内側金型とをより正確に一体になって回転させることができる点で、遠心成形用金型10A〜10Cに固定手段を設けることもできる。
【0047】
遠心成形用金型10Cにおいて、外側金型20Cと内側金型30Cとの間に1つの熱伝達手段(筒体)50が装入されているが、この発明において、2以上の熱伝達手段が外側金型20Cと内側金型30Cとの間に装入されてもよい。
【0048】
遠心成形用金型10Dにおいて、固定手段40Aは鍔23及び鍔33を固定するように構成されているが、この発明において、外側金型の周側面と内側金型の周側面とを固定することにより、外側金型と内側金型とを固定するように、構成されてもよく、また、固定手段40Aは、鍔23と鍔33とに4箇所配置されているが、この発明において、固定手段は、少なくとも1個所に配置されていればよい。
【0049】
遠心成形用金型10Eにおいて、固定手段40Bは、外側金型20E及び内側金型30Eの長手方向に延在するように形成されているが、この発明において、固定手段は、外側金型の内周面及び内側金型の外周面に螺旋状に形成されても、前記内周面及び前記外周面を一巡するように延在する環状に形成されてもよく、また、固定手段40Bは、断面が略四角形に形成されているが、この発明において、固定手段は、断面が多角形、円形、楕円形等に形成されてもよい。さらに、固定手段40Bは、外側金型20Eの内周面22Eと内側金型30Eの外周面31Eとに4箇所配置されているが、この発明において、固定手段は、少なくとも1個所に配置されていればよい。
【0050】
遠心成形用金型10C及び遠心成形用金型10Eにおいて、外側金型20C及び20E並びに内側金型30C及び30Eはそれぞれ、長手方向に均一な内径及び外径を有しているが、この発明において、外側金型及び内側金型はそれぞれ、図2に示されるように、外側金型の内径と内側金型の外径とがほぼ同じ割合で、長手方向に沿って漸次減少又は増大するように、形成されてもよい。
【0051】
遠心成形用金型10D及び10Fにおいて、外側金型20D及び20A並びに内側金型30D及び30Aの一端に固定手段40A及び40Cが設けられているが、この発明において、固定手段は、外側金型及び内側金型の両端に設けられてもよい。
【0052】
遠心成形用金型10D、10E及び10Fにおいては、1種の固定手段40A、40B及び40Cを備えているが、この発明において、2種以上の固定手段を備えてもよく、例えば、固定手段40Aと固定手段40Bとの併用、固定手段40Bと固定手段40Cとの併用等が挙げられる。
【0053】
遠心成形用金型10A〜10Eにおいては、その両端は開口しているが、この発明において、遠心成形用金型の両端に、遠心成形時における無端成形体を形成する樹脂組成物が遠心成形用金型から漏出することを防止する着脱自在な蓋体等を備えてもよい。
【0054】
遠心成形用金型10A〜10C、10E〜10Fにおいては、外側金型20A〜20C、20Eと、内側金型30A〜30C、30Eとは、それぞれ同じ長さに形成されているが、いずれか一方が長く又は短く形成されていてもよい。
【0055】
遠心成形用金型10A〜10Fはそれぞれ円柱体に形成されているが、この発明において、遠心成形用金型は完全な円柱体に形成される必要はなく、例えば、楕円柱等に形成されてもよい。
【0056】
遠心成形用金型10A〜10Fにおいて、外側金型20A〜20Dはいずれも外周面が平滑とされているが、この発明において、外側金型の外周面に、後述する遠心成形用金型回転部に備えられた駆動ローラの変位を規制する環状突起が形成されてもよい。
【0057】
遠心成形用金型10A〜10Fにおいて、外側金型20A〜20Dはいずれも筒状に形成されているが、この発明において、外側金型は、その内部に、オイル、ヒータ、電熱器、熱媒体等の加熱手段を有する筒状に形成されてもよい。
【0058】
次に、この発明に係る遠心成形用金型を用いた無端成形体の製造方法を説明する。ここでは、遠心成形用金型として前記遠心成形用金型10Aを用いて、無端成形体として画像形成装置等に配設される無端ベルト1(図10参照。)を成形する方法を説明する。
【0059】
この発明に係る無端成形体の第1の製造方法は、遠心成形用金型10Aを予め加熱する加熱工程と、遠心成形用金型10Aにおける内側金型30Aの内部に樹脂組成物を注入して、無端成形体1を遠心成形する成形工程と、遠心成形用金型10Aにおける外側金型20Aの加熱状態を維持しつつ、内側金型30Aを外側金型20Aから取り出し、内側金型30Aを冷却する冷却工程とを有する。
【0060】
図10に示されるように、無端ベルト1は、樹脂組成物で環状に形成されて成る。無端ベルト1は、画像形成装置において、張架される複数のローラ間隔等に応じて、所望の内径及び外径並びに所望の幅となるように、形成される。無端ベルト1は、図10に示されるように、単層構造とされているが、二以上の層を積層した多層構造とされてもよい。無端ベルト1の厚さは、特に限定されないが、通常、例えば、0.03〜1mmであるのが好ましい。
【0061】
このような無端ベルト1の製造に使用される遠心成形装置は、公知の装置を特に限定されることなく使用することができる。その一例を示すと、遠心成形装置60は、図8及び図9に示されるように、遠心成形用金型10Aを水平に積載する駆動ローラ61が、遠心成形用金型10Aの両側に、かつ遠心成形用金型10Aの長手方向に直列に配置された遠心成形用金型回転部、及び、遠心成形用金型10Aの軸方向に対して前後進可能に構成された材料供給部62、例えば、スタティックミキサと、無端ベルト1を形成する樹脂組成物を貯蔵する材料貯蔵部63とを有する材料供給装置64を備えている。
【0062】
無端ベルト1の製造方法においては、まず、図9に示されるように、遠心成形用金型10Aが、遠心成形用金型回転部の駆動ローラ61上に水平に積載され、駆動ローラ61によって所定の回転速度で回転される。このとき、遠心成形用金型10Aの内側金型30Aは外側金型20Aと一体になって回転する。遠心成形用金型10Aは回転しつつ、予め所定の成形温度に加熱される。このとき、内側金型30Aは、加熱された外側金型20Aの熱が外側金型20Aから熱が伝達するように、外側金型20Aの貫通中空部に装入されているから、内側金型30Aも外側金型20Aを介して、加熱される。遠心成形用金型10Aを加熱する加熱手段は、特に限定されることなく、例えば、遠心成形用金型回転部の近傍にヒータ等の加熱器を配置してもよく、遠心成形用金型回転部を包囲する空間に過熱水蒸気を噴射してもよく、また、遠心成形用金型10Aの外側金型20Aに内蔵された加熱手段を起動させてもよい。
【0063】
遠心成形用金型10A、特に内側金型30Aが所定の成形温度に到達した後、材料供給部62を前進させて、その先端を内側金型30A内に配置する。次いで、材料供給装置64の材料貯蔵部63に貯蔵された樹脂組成物の所定量を、材料供給部62から内側金型30Aの内周面32Aに注入する。そうすると、高速で回転する内側金型30Aの内周面32Aに注入された樹脂組成物は、遠心力により、内周面32Aに均一に展開され、内側金型30Aの内周面32Aに樹脂組成物の層が形成される。このとき、内側金型30Aも所定の成形温度に加熱されているから、内側金型30Aの内周面32Aに形成された樹脂組成物の層が硬化して、図9に示されるように、内側金型30Aの内周面32Aに無端ベルト基体2が遠心成形される。
【0064】
次いで、外側金型20Aの加熱状態を維持しつつ、遠心成形用金型10Aの回転を停止する。そして、内側金型30Aを外側金型20Aから取り出し、内側金型30Aを室温程度まで冷却する。ここで、内側金型30Aを冷却すると、内側金型30Aと無端ベルト基体2との熱膨張率の差により、無端ベルト基体2を容易に脱型することができる。脱型した円筒状の無端ベルト基体2の両側端部を除去し、所定幅に裁断して、無端ベルト1が製造される。
【0065】
この無端ベルト1の製造方法においては、内側金型30Aのみが成形温度から室温程度まで冷却され、好ましくは、内側金型30Aが外側金型20Aよりも薄く形成されているから、内側金型30Aを所定の成形温度に加熱する加熱時間及び/又は成形温度から室温まで冷却する冷却時間を短縮することができ、無端成形体1を高い生産性で製造することができる。
【0066】
この発明に係る無端成形体の第2の製造方法は、遠心成形用金型10Aを予め加熱する加熱工程と、遠心成形用金型10Aにおける第1の内側金型30Aの内部に樹脂組成物を注入して、無端成形体1を遠心成形する第1の成形工程と、遠心成形用金型10Aにおける外側金型20Aの加熱状態を維持しつつ、前記第1の内側金型30Aを外側金型20Aから取り出し、次いで、第1の内側金型30Aとは別の第2の内側金型30Aを外側金型20Aに装入する内側金型交換工程と、外側金型20Aから取り出した第1の内側金型30Aを冷却する冷却工程と、第2の内側金型30Aの内部に樹脂形組成物を注入して、無端成形体1を遠心成形する第2の成形工程とを有する。
【0067】
この第2の製造方法は、内側金型10Aを複数使用する点が、前記第1の製造方法と異なる。したがって、加熱工程及び第1の成形工程は、前記第1の製造方法における加熱工程及び成形工程と同一である。
【0068】
第2の製造方法においては、第1の成形工程に次いで、第1の内側金型30Aを外側金型20Aの加熱状態を維持しつつ、遠心成形用金型10Aの回転を停止する。そして、第1の内側金型30Aを外側金型20Aから取り出し、第1の内側金型30Aとは別の第2の内側金型30Aを外側金型20Aに装入する。
【0069】
次いで、外側金型20Aから取り出した内側金型30Aを室温程度まで冷却する。そうすると、無端ベルト基体2を脱型することができ、脱型した円筒状の無端ベルト基体2の両側端部を除去し、所定幅に裁断して、第1の無端ベルト1が製造される。この冷却工程と同時に、又は冷却工程に前後して、外側金型20Aに装入された第2の内側金型30Aは、外側金型20Aと一体になって回転されつつ、外側金型20Aを介して、加熱される。すなわち、第2の製造方法においては、第1の内側金型30Aの冷却と第2の内側金型30Aの加熱を同時に行うことを特徴とする。
【0070】
そして、第1の無端ベルト1の製造が完了すると同時に又はその後に、所定の成形温度に加熱された内側金型30Aの内部に、前記第1の製造方法における成形工程と同様にして、樹脂組成物を注入し、無端ベルト基体2を遠心成形する。引き続いて、冷却工程を行い、第1の無端ベルト1と同様にして、第2の無端ベルト1が製造される。
【0071】
無端ベルト1の第2の製造方法においては、内側金型30Aのみが加熱と冷却とが繰り返し行われ、また、複数の内側金型30Aを用いて、第1の内側金型30Aの冷却と第2の内側金型30Aの加熱を同時に行うことができ、好ましくは、内側金型30Aが外側金型20Aよりも薄く形成されているから、内側金型30Aを所定の成形温度に加熱する加熱時間及び/又は成形温度から室温まで冷却する冷却時間を大幅に短縮することができ、無端成形体をきわめて高い生産性で製造することができる。
【0072】
前記無端ベルト1の第1及び第2の製造方法においては、所望により、無端ベルト基体2を遠心成形した後、無端ベルト基体2から溶媒を除去する溶媒除去工程を行うこともできる。内側金型30Aの内周面32Aに成形された無端ベルト基体2から溶媒を除去する工程として、次の一次溶媒除去工程及び二次溶媒除去工程からなる溶媒除去工程を挙げることができる。一次溶媒除去工程は、無端ベルト基体2から、遠心成形用金型10Aを回転させたまま、5〜60分間、40〜150℃の熱風を内側金型30Aの貫通中空部を通過させる工程であり、これにより、溶媒が除去される。一次溶媒除去工程に続く二次溶媒除去工程では、外側金型20Aの加熱状態を維持しつつ、内側金型30Aを外側金型20Aから取り出し、内側金型30Aを、例えば、過熱水蒸気炉で110〜350℃の過熱水蒸気で10〜120分間加熱する工程であり、これにより、無端ベルト基体2中の溶媒を所望のように除去することができる。
【0073】
前記無端ベルト1の第1の製造方法においては、1基の遠心成形用金型10Aを使用し、また、前記無端ベルト1の第2の製造方法においては、1基の外側金型20Aを使用しているが、この発明においては、複数の遠心成形用金型又は外側金型を使用することもできる。また、前記無端ベルト1の第2の製造方法においては、2つの内側金型30A及び30Aを使用したが、所望により、3以上の内側金型を使用することもできる。
【0074】
また、第1の製造方法及び第2の製造方法においては、加熱工程は、遠心成形用金型、すなわち、外側金型20Aと内側金型30Aとを同時に加熱しているが、この発明においては、例えば、外側金型20Aを予め加熱した後に、内側金型30Aを外側金型20Aに装入して、内側金型30Aを加熱してもよい。
【0075】
第1の製造方法においては、回分式の製造方法として説明したが、この発明においては、1つの遠心成形用金型10Aを用いた連続式の製造方法としてもよい。
【0076】
第2の製造方法においては、第1の内側金型30Aの冷却と第2の内側金型30Aの加熱を同時に行っているが、この発明においては、これら冷却と加熱とは同時に行わなくてもよい。
【0077】
この発明において、無端成形体を形成する樹脂組成物は、無端成形体の用途及び性質等に応じて、適宜選択される。無端ベルト1を製造する場合には、樹脂組成物は、ある程度の強度を有し、繰返し変形に耐える可撓性に富む樹脂単体又は複数種類の樹脂を含有してなる樹脂組成物であるのがよく、このような樹脂組成物に含有される樹脂としては、例えば、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、アラミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、架橋型ポリエステル樹脂等のポリエステル系樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂が好ましく、ポリアミドイミド樹脂がより好ましく、特に、芳香族ポリアミドイミド樹脂が、強度、可撓性、寸法安定性及び耐熱性等の機械的特性がバランスよく優れている点で、好ましい。前記芳香族ポリアミドイミド樹脂は、トリカルボン酸無水物とジイソシアネート化合物とを反応させるジイソシアネート法により製造することができ、原料の入手、反応性及び副生成物が少ない等の点で優れている。この他にも、芳香族ポリアミドイミド樹脂は、ジイソシアネート化合物に代えてジアミン化合物を用いて製造することもできる。ジアミン化合物を用いて得られる芳香族ポリアミドイミド樹脂は、ヤング率が高く、無端ベルト1を形成する樹脂組成物に含まれる樹脂として好適である。芳香族ポリアミドイミド樹脂を合成する重縮合反応に使用される溶媒としては、溶解性の点で極性溶媒が好ましく、反応性を考慮すると非プロトン性極性溶媒が特に好ましい。前記トリカルボン酸無水物としては芳香族トリカルボン酸無水物が好ましく、前記ジイソシアネート化合物としては芳香族ジイソシアネート化合物を好ましい。
【0078】
また、トリカルボン酸無水物の一部をテトラカルボン酸二無水物に代えてイミド結合を増加させた芳香族ポリアミドイミド樹脂は、耐湿性に優れている。芳香族ポリアミドイミド樹脂は、適宜の溶媒中で、常圧下、及び、常温下又は加熱下で反応させることにより、容易に合成することができる。テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン酸二無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物、及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0079】
無端ベルト1に導電性が要求される場合には、樹脂組成物に導電性付与剤が添加され、導電性樹脂組成物とされる。導電性付与剤としては、各種カーボンブラック、黒鉛粉末、金属又は合金等の粉末等が挙げられる。これらの中でも、カーボンブラックが、粒径、導電性及び樹脂との親和性等がバランスよく優れている点で、好ましい。導電性付与剤の添加量は、導電性付与剤の導電性及び粒径、並びに、無端ベルト1に要求される導電性等により、適宜調整すればよいが、通常、導電性樹脂組成物と溶媒との合計100質量%に対して、1〜25質量%であるのが好ましい。
【0080】
樹脂組成物及び導電性樹脂組成物は、前記樹脂又は前記樹脂及び前記導電性付与剤に加えて、例えば、シリコーン系化合物、フッ素系有機化合物、カップリング剤、滑剤、酸化防止剤、可塑剤、着色剤、帯電防止剤、老化防止剤、補強性充填材、反応助剤、反応抑制剤等の各種添加剤、他の樹脂及び溶媒等を含有してもよい。
【0081】
樹脂組成物及び導電性樹脂組成物は、成形時の粘度が50,000mPa・s以下に調整されるのが好ましい。粘度が50,000mPa・sを超えると、厚さの均一な無端ベルト1を製造するのが困難になることがある。樹脂組成物の粘度の下限については、特に限定されるものではないが、10mPa・s以上であるのが好ましい。樹脂組成物の粘度は、前記溶媒等により調整することができる。
【0082】
樹脂組成物及び導電性樹脂組成物は、例えば、ミキシングロール、加圧式ニーダ、押出機、三本ロール、ホモジナイザー、ボールミル及びビーズミル等を用いて調製することができる。
【実施例】
【0083】
(実施例1)
プリハードン鋼(HRC33、日立金属株式会社製)を用いて、外側金型を作製した。外側金型は、長さ1200mm、外径256mm、内径232mm及び厚さ12mmであった。同様にして、プリハードン鋼(HRC33)を用いて、内周面を鏡面処理した内側金型を作製した。内側金型は、長さ1200mm、外径232mm、内径226mm及び厚さ3mmであった。作製した外側金型の貫通中空部に内側金型を装入して、遠心成形用金型とした。
(実施例2)
実施例1と同様にして、長さ1200mm、外径256mm、内径238mm及び厚さ9mmの外側金型と、長さ1200mm、外径238mm、内径226mm及び厚さ6mmの内側金型とを作製した。作製した外側金型の貫通中空部に内側金型を装入して、遠心成形用金型とした。
【0084】
(比較例1)
実施例1と同様にして、内周面を鏡面処理した、長さ1200mm、外径256mm、内径226mm及び厚さ15mmの遠心成形用金型を作製した。
【0085】
作製した遠心成形用金型を用いて、成形温度に到達するまでに要した加熱時間及び成形温度から室温(25℃)までの冷却に要した冷却時間を測定した。その結果、実施例1は、加熱時間に60分、冷却時間に5分、つまり、加熱及び冷却の1サイクルに合計65分を要し、実施例2は、加熱時間に60分、冷却時間に15分、つまり、加熱及び冷却の1サイクルに合計75分を要した。一方、比較例1は、加熱時間に60分、冷却時間に30分、つまり、加熱及び冷却の1サイクルに合計90分を要した。
【0086】
次いで、冷却した内側金型又は遠心成形用金型を用いて、同様にして、連続製造方法を想定した加熱時間及び冷却時間を測定した。その結果、実施例1は、加熱時間に10分、冷却時間に5分、つまり、加熱及び冷却の1サイクルに合計15分を要し、実施例2は、加熱時間に25分、冷却時間に15分、つまり、加熱及び冷却の1サイクルに合計40分を要した。一方、比較例1は、加熱時間に60分、冷却時間に30分、つまり、加熱及び冷却の1サイクルに合計90分を要した。
【0087】
また、反応容器内で、当量のトリメリット酸無水物と4,4′−ジアミノジフェニルメタンとをN,N−ジメチルアセトアミドに溶解し、これを加熱して、固形分濃度(実質的全閉環のポリアミドイミド)28質量%の芳香族ポリアミドイミド溶液を得た。この溶液に、N,N−ジメチルアセトアミドをさらに加え、固形分濃度15質量%、固形分の比重1.2のポリアミドイミド溶液を調製した。得られたポリアミドイミド溶液に酸化処理カーボンブラック(商品名「プリンテックス150T」、Degussa社製、pH5.8、揮発分10.0%)をポリアミドイミド溶液と酸化処理カーボンブラックとの合計100質量%に対して10質量%となるように配合し、ポットミルで24時間混合分散して、導電性樹脂組成物溶液を調製した。
【0088】
実施例1及び2並びに比較例1で作製した内径226mmの内周面を有する遠心成形用金型の周囲温度を、熱風乾燥機により80℃に保ち、遠心成形用金型を1000rpmの速度で回転させた。この遠心成形用金型内に、導電性樹脂組成物溶液190gを注入し、遠心成形用金型内周面に導電性樹脂組成物を均一に展開させた。次いで、この状態を30分間保持し、無端ベルト基体を成形した。その後、遠心成形用金型の回転を停止し、外側金型から取り出した内側金型(実施例1及び2)又は遠心成形用金型(比較例1)を250℃のオーブンに2時間投入して、二次溶媒除去工程を行った。次いで、内側金型又は遠心成形用金型を放置して室温まで冷却し、無端ベルト基体を内側金型又は遠心成形用金型から脱型し、脱型した無端ベルト基体における両端部をそれぞれカットして無端ベルトをそれぞれ作製した。
【0089】
このようにして作製された無端ベルトは、いずれも、100μmの均一な厚さを有し、溶媒残留量及び体積抵抗値等の特性もほぼ同等の値を示した。
【0090】
さらに、実施例1において、複数の内側金型を準備し、前記第2の製造方法において、無端ベルトを製造したところ、生産性がきわめて向上したうえ、得られた無端ベルトは、実施例1及び2と同様に、100μmの均一な厚さを有し、実施例1及び2で製造した無端ベルトとほぼ同等の溶媒残留量及び体積抵抗値等の特性を有していた。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】図1は、この発明における一例である遠心成形用金型の分解斜視図であり、図1(a)は外側金型を示す斜視図であり、図1(a)は内側金型を示す斜視図である。
【図2】図2は、この発明における一例である遠心成形用金型を示す斜視図である。
【図3】図3は、この発明における別の一例である遠心成形用金型を示す斜視図である。
【図4】図4は、この発明における一例である、熱伝達手段を備えた遠心成形用金型を示す斜視図である。
【図5】図5は、この発明における一例である、固定手段を備えた遠心成形用金型を示す斜視図である。
【図6】図6は、この発明における別の一例である、固定手段を備えた遠心成形用金型を示す斜視図である。
【図7】図7は、この発明におけるまた別の一例である、固定手段を備えた遠心成形用金型を示す斜視図である。
【図8】図8は、無端ベルトの製造に使用される遠心成形装置を示す概略正面図である。
【図9】図9は、遠心成形用金型回転部の駆動ローラ上に遠心成形用金型を積載した状態を示す、遠心成形装置の概略左側面図である。
【図10】図10は、無端ベルトを示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0092】
1 無端ベルト
2 無端ベルト基体
10A、10B、10C、10D、10E 遠心成形用金型
20A、20B、20C、20D、20E 外側金型
22A、22B、22C、22D、22E 内周面
23、33 鍔
24、34 規制手段
30A、30B、30C、30D、30E 内側金型
31A、31B、31C、31D 外周面
32A 内周面
40A、40B、40C 固定手段
41 ボルト
42 ナット
43 凸状体
44 溝
45 貫通孔
46 環状挿入溝
50 熱伝達手段(筒体)
60 遠心成形装置
61 駆動ローラ
62 材料供給部
63 材料貯蔵部
64 材料供給装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状を成す外側金型と、前記外側金型から熱が伝達するように前記外側金型に装入される筒状を成す内側金型とを備えた遠心成形用金型。
【請求項2】
前記外側金型と前記内側金型との間に熱伝達手段を備えた請求項1に記載の遠心成形用金型。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の遠心成形用金型を予め加熱する加熱工程と、
前記遠心成形用金型における内側金型の内部に樹脂組成物を注入して、無端成形体を遠心成形する成形工程と、
前記遠心成形用金型における外側金型の加熱状態を維持しつつ、前記内側金型を前記外側金型から取り出し、前記内側金型を冷却する冷却工程とを有する無端成形体の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の遠心成形用金型を予め加熱する加熱工程と、
前記遠心成形用金型における第1の内側金型の内部に樹脂組成物を注入して、無端成形体を遠心成形する第1の成形工程と、
前記遠心成形用金型における外側金型の加熱状態を維持しつつ、前記第1の内側金型を前記外側金型から取り出し、次いで、前記第1の内側金型とは別の第2の内側金型を前記外側金型に装入する内側金型交換工程と、
前記外側金型から取り出した前記第1の内側金型を冷却する冷却工程と、
前記第2の内側金型の内部に樹脂組成物を注入して、無端成形体を遠心成形する第2の成形工程とを有する無端成形体の連続製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−307768(P2007−307768A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−138026(P2006−138026)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】