説明

遠心成形硬化体用水硬性組成物

【課題】材齢1〜7日程度での強度が100N/mm2以上の超高強度の遠心成形硬化体を製造するのに好適で、且つ作業性(ワーカビリティ)にも優れた水硬性組成物を提供する。
【解決手段】セメント、水硬性粉体、骨材、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物水溶性塩を含有する分散剤、及び水を含有する遠心成形硬化体用水硬性組成物であって、水硬性組成物の初期スランプ値が0〜7cm、崩落量が200g以下、水/粉体重量比が10/100〜22/100、粉体の重量が450〜1000kg/m3である遠心成形硬化体用水硬性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高強度の遠心成形硬化体を製造するのに良好な水硬性組成物、前記水硬性組成物を製造するのに良好な水硬性組成物用分散剤、前記水硬性組成物を使用した遠心成形硬化体の製造方法及び前記製造法で得られた遠心成形硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建造物の耐久性向上、高層化及び工期短縮の観点から、地盤整備に使用されるパイル(コンクリート便覧(第二版)708頁(コンクリート工学協会出版、1996年2月15日))等の遠心成形製品の高強度化、特に、出荷100N/mm2以上、さらには120N/mm2以上の超高強度化が遠心成形製品分野の技術課題とされてきた。
【0003】
従来、遠心成形硬化体の高強度化に対してはオートクレーブ法が有力であったが、生産性、設備費用及び省エネの観点から、蒸気養生により材齢1〜7日程度での強度を確保することが要請されている。
【0004】
しかし、蒸気養生により、前述の超高強度を発現させるには、遠心成形硬化体を構成する水硬性組成物中の水硬性粉体を多量に必要とし、かつ、極めて低い水/粉体重量比(以下、W/Pと記す)としなければならない。
【0005】
かかる配合の水硬性組成物は、混練排出後の初期状態において粘性が極めて高く、水硬性組成物の型枠への充填性の観点からは、スランプをあまり小さく設定できないとされていた。
【0006】
一方、遠心成形製品、特に、パイルに代表される中空遠心成形製品の製造では、内壁面が平滑に仕上がるような十分な遠心締固性の観点から、スランプをあまり大きく設定できず、また、ジャンカ発生等の充填性低下を抑制する観点からは、スランプをあまり小さくすることができなかった。
【0007】
以上の状況の下、従来の遠心成形製品分野では、コンクリートの材齢1〜7日程度での強度が100N/mm2以上の超高強度の遠心成形硬化体を製造するのに適した水硬性組成物、即ち、粉体が多量で、W/Pが低く、かつ遠心成形性(型枠への充填性及び遠心締固め性)を良好に維持できる技術は十分に検討されていなかった。
【0008】
例えば、特許文献1〜3には、ナフタレン系の分散剤を用いた水硬性組成物を遠心成形することが記載されているが、W/Pは24〜25%程度以上のものを対象とした実施例が示されているに過ぎない。
【0009】
一方、特許文献4には、W/Pが10〜22%であって、材齢1日強度が100N/mm2以上の超高強度の遠心成形硬化体を製造するのに良好な水硬性組成物が開示されている。
【特許文献1】特開平1−122949号公報
【特許文献2】特開2001−240455号公報
【特許文献3】特開2005−169814号公報
【特許文献4】特開2006−36629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献4によれば、コンクリートの材齢1日強度が100N/mm2以上の超高強度の遠心成形硬化体を製造するのに適した水硬性組成物が提供されるが、こうした水硬性組成物についても、該組成物を取り扱う際の作業性(ワーカビリティ)に優れることが望ましいが、特許文献4では、この点について特段の言及はされていない。
【0011】
本発明は、材齢1〜7日程度での強度が100N/mm2以上の超高強度の遠心成形硬化体を製造するのに好適で、且つ作業性(ワーカビリティ)にも優れた水硬性組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、セメント、水硬性粉体(以下、セメントと水硬性粉体とをまとめて粉体という)、骨材、分散剤及び水を含有する遠心成形硬化体用水硬性組成物であって、
分散剤がナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物水溶性塩であり、以下の要件全てを具備する遠心成形硬化体用水硬性組成物に関する。
[要件1]水硬性組成物の初期スランプ値が0〜7cm
[要件2]崩落量が200g以下
[要件3]水/粉体重量比が10/100〜22/100
[要件4]粉体の重量が450〜1000kg/m3
【0013】
また、本発明は、上記本発明の遠心成形硬化体用水硬性組成物を遠心成形して得る遠心成形硬化体の製造方法であって、前記遠心成形の条件が以下の要件5を具備する遠心成形硬化体の製造方法、及び、該製造方法によって得られる遠心成形硬化体に関する。
[要件5]遠心締固め開始後から遠心力を0.1〜1.5Gで1〜5分間保持する工程を有する
【発明の効果】
【0014】
本発明により材齢1〜7日程度での強度が100N/mm2以上の超高強度の遠心成形硬化体を製造するのに好適で、作業性にも優れた水硬性組成物、前記水硬性組成物を使用した遠心成形硬化体の製造方法及び前記製造法で得られた遠心成形硬化体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
《水硬性組成物の配合》
本発明の水硬性組成物は、さらに、遠心力により締固めできることが要求されるため、混練後のフレッシュ状態におけるスランプ(以下、初期スランプ値という)が0〜7cmであり(要件1)、崩落量は200g以下である(要件2)。初期スランプ値は、0〜6cmが好ましく、1〜6cmがより好ましい。初期スランプ値は、要件3の水/粉体重量比と要件4の粉体重量を満足する範囲内で、特定の分散剤の種類と添加量を調節することにより調整できる。
【0016】
本発明の水硬性組成物は、後述の要件3及び要件4を具備する必要から、W/Pが小さく、粉体量が大きい。そのため、コンクリート粘性が極めて高く、コンクリート型枠に充填し難い、また従来100N/mm2未満の成形硬化体の製造の遠心締固めにとって好ましいとされる2cm以上の初期スランプ値では、100N/mm2以上の成形硬化体の製造の遠心締固めが適正にできないと考えられた。しかし、本発明では特定の分散剤を使用することにより、充填および遠心締固めを良好に行うことができる。
【0017】
ここに、初期スランプ値は、混練終了後5分以内に、JIS A 1101に従った測定で得られるスランプ値をいう。
【0018】
なお、JIS A 1101によるスランプ値の測定に供する水硬性組成物は、適正に混練されていることを要するが、本発明の水硬性組成物では、以下に定義する崩落量が200g以下であり(要件2)、より好ましくは100g以下、さらに好ましくは50g以下であるように混練すると、モルタルと粗骨材の一体性(以下、材料分離抵抗性という)が良好に確保される。
【0019】
ここに、崩落量とは、JIS A 1101のスランプ値の測定で、スランプコーンに詰めた水硬性組成物の上面をスランプコーンの上端に合わせてならした後、スランプコーンを鉛直に引き抜き終わった時点で、スランプコーンを引き上げる前のスランプコーンの底面中心から半径22cmの円外に、スランプコーンに詰めたコンクリートから崩落した水硬性組成物の重量(g)をいう。
【0020】
本発明の水硬性組成物は、所定の初期スランプ値を確保するため、さらに水硬性組成物のW/Pが10/100〜22/100であり(要件3)、粉体量が450〜1000kg/m3であること(要件4)が必要である。
【0021】
本発明の水硬性組成物は、蒸気養生による早期の強度発現性(以下、蒸気養生強度の発現性という)の観点から、W/Pは22/100以下、好ましくは20/100以下、より好ましくは19/100以下、更に好ましくは18/100以下であり、初期スランプ値を確保する観点から、W/Pは10/100以上、好ましくは12/100以上、より好ましくは13/100以上、更に好ましくは14/100以上であり、蒸気養生強度の発現性と初期スランプ値を確保する観点から、W/Pは、好ましくは、12/100〜20/100、より好ましくは13/100〜19/100、さらに好ましくは14/100〜18/100である。
【0022】
本発明の水硬性組成物は、蒸気養生強度の発現性の観点から、粉体量は450kg/m3以上、好ましくは500kg/m3以上、より好ましくは550kg/m3以上、更に好ましくは600kg/m3以上であり、初期スランプ値を確保する観点から、粉体量は1000kg/m3以下、好ましくは900kg/m3以下、より好ましくは800kg/m3以下、更に好ましくは750kg/m3以下であり、蒸気養生強度の発現性と初期スランプ値を確保する観点から、好ましくは500〜850kg/m3、より好ましくは550〜800kg/m3、さらに好ましくは600〜750kg/m3である。
【0023】
本発明の水硬性組成物の水量は、蒸気養生強度発現性の観点から、150kg/m3以下が好ましく、140kg/m3以下がより好ましく、遠心締固め性の観点から、100kg/m3以上が好ましく、110kg/m3以上がより好ましく、強度発現性と遠心締固め性の観点から、100〜150kg/m3が好ましく110〜130kg/m3がより好ましい。
【0024】
《セメント》
本発明の水硬性組成物には、蒸気養生強度発現性が要求されることから、セメントを使用することが必要で、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメントからなる群から選ばれる1種以上を選択することが好ましく、水硬性組成物の型枠への充填性の観点から、早強セメントが好ましい。
【0025】
《水硬性粉体》
本発明の水硬性組成物は粉体量が大きいため、適正に混練し所望の初期スランプ値を確保する観点から、水硬性粉体を含有することが必要である。ここに、水硬性粉体とは、水と化学反応して硬化しうるセメント以外の無機粉体であり、高炉スラグ、フライアッシュ、石膏からなる群から1種以上が選ばれることが好ましく、シリカヒュームを含有することがより好ましく、シリカヒュームだけで構成することが更に好ましい。
【0026】
セメントと水硬性粉体としては、セメントと混合されたシリカヒュームセメントや高炉セメントを用いてもよい。
【0027】
かかる水硬性粉体は、水硬性組成物の蒸気養生強度を適正に確保しつつ、水硬性組成物の混練性を良好にする観点から、比表面積(cm2/g)が、好ましくは3000〜30000であり、より好ましくは4000〜30000であり、更に好ましくは5000〜30000である。
【0028】
本発明の水硬性組成物は、強度発現と遠心締固め性の観点から、セメント/水硬性粉体重量比が97/3〜80/20が好ましく、95/5〜85/15が特に好ましい。セメントと水硬性粉体が混合された形態で用いられる場合、セメントと水硬性粉体の重量を各々の重量とする。
【0029】
《骨材》
本発明の水硬性組成物に使用される骨材は、細骨材として山砂、陸砂、川砂、砕砂が使用でき、粗骨材として山砂利、陸砂利、川砂利、砕石が使用できる。用途によっては、軽量骨材を使用してもよい。
【0030】
前記細骨材は、水硬性組成物の蒸気養生強度の発現性の観点から、密度と吸水率が一定の範囲にあることが好ましく、JIS A 5308、JIS A 5005に規定される品質であることが望ましい。また、前記細骨材は、水硬性組成物の混練性が良好に確保でき崩落量の小さな水硬性組成物を得ることができることから、粗粒率(JIS A 0203−3115)は2.7以上、更には2.8以上、更には2.9以上であることが好ましい。
【0031】
前記の好ましい細骨材では、粒度分布が、JIS A 1102で用いられる呼び寸法0.3mmのふるいの通過率(以下、0.3mm通過率という)が1〜10重量%未満で、かつ、粗粒率が2.7〜3.5である細骨材(以下、細骨材Sという)が好ましい。
【0032】
細骨材Sは、より好ましくは、0.3mmを超えるふるい呼び寸法における通過率が標準粒度分布の範囲内にあることである。
【0033】
本発明において、細骨材Sの0.3mm通過率は、水硬性組成物の混練性を確保する観点から、10%未満が好ましく、より好ましくは9%以下、さらに好ましくは7%以下であり、材料分離抵抗性の観点からは、0.3mm通過率は1%以上が好ましく、より好ましくは3%以上、さらに好ましくは5%を超えていることが好ましい。
【0034】
さらに、水硬性組成物の混練性と材料分離抵抗性の観点からは、0.3mm通過率は1〜10%未満が好ましく、より好ましくは3〜9%、更に好ましくは5〜7%であることが好ましい。
【0035】
粗粒率が2.7以上では、水硬性組成物の混練性が良好で、粗粒率が3.5以下では、モルタルと粗骨材との一体性の良好な材料分離抵抗性を確保できる。
【0036】
さらに、細骨材Sの0.3mm通過率が、JIS A 5308付属書1表2の砂の標準粒度の範囲内であることが好ましい。より好ましくは、呼び寸法0.15mmのふるいの通過率が2重量%未満であり、更に好ましくは1.5重量%未満である。ただし、材料分離抵抗性の観点から、0.5重量%以上であることが好ましい。呼び寸法0.3mmを超えるふるいについては、1つ以上の呼び寸法で、通過率が標準粒度の範囲内にあればよいが、好ましくは全部について標準粒度の範囲内にあることである。
【0037】
細骨材Sとしては、上記の粒度分布と粗粒率を満たしたものを、砂、砕砂等、公知のものを適宜組み合わせて使用できる。細骨材Sとしては、中国福建省ミン江等、特定地域の川砂が挙げられる。細孔が少なく、吸水性が低く、同じ流動性を付与するのに少量の水でよい点から、海砂よりも川砂、山砂、砕砂が好ましい。また、細骨材Sは、絶乾密度(JIS A 0203−3109)が2.56以上であることが好ましい。
【0038】
本発明に使用する粗骨材は、水硬性組成物の蒸気養生強度の発現性の観点から、密度と吸水率が一定の範囲にあることが好ましく、JIS A 5308、JIS A 5005に規定される品質であることが望ましい。
【0039】
《分散剤》
本発明の水硬性組成物用分散剤としては、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物水溶性塩が使用される。重量平均分子量は5000〜30000が好ましい。この重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されたものである(標準物質:ポリスチレンスルホン酸)。重量平均分子量は、7000〜30000、更に7000〜20000が好ましい。
【0040】
本発明の水硬性組成物の初期スランプ値は、水硬性組成物の粘性の増大を抑制する観点から、分散剤の添加量で調整することが好ましく、粉体100重量部に対して分散剤固形分で好ましくは3〜10重量部、さらに好ましくは3〜5重量部となるように添加される。
【0041】
本発明の分散剤は先に混練水で希釈してから用いてもよいし、分散剤以外の材料を混合してから分散剤を添加してもよいが、混練性の観点からは、先に混練水で希釈してから用いることが好ましい。
【0042】
《その他の成分》
本発明の水硬性組成物には、上記成分以外に、ノロ低減材、早強材等の各種混和材料を使用することができる。更に、公知の添加剤(材)、例えばAE剤、AE減水剤、高性能減水剤、減水剤、遅延剤、早強剤、促進剤、起泡剤、発泡剤、消泡剤、増粘剤、防水剤、防腐剤等を併用することが出来る。
【0043】
《遠心成形条件》
本発明の水硬性組成物は、W/Pが小さく粉体量が多いことから、モルタル粘性が極めて大きいため、遠心成形硬化体を製造する際には遠心締固め開始後の一定時間内は、低遠心力で遠心成形することが好ましい。本発明の遠心成形硬化体の製造方法は、該水硬性組成物の遠心成形の条件として遠心締固め開始後少なくとも1分間、最大5分間の遠心力(以下、初期遠心力ともいう)が0.1〜1.5Gの範囲であり、すなわち、遠心締固め開始後から遠心力を0.1〜1.5Gで1〜5分間保持する工程を有する(要件5)ことである。遠心力は0.2〜1.0Gが好ましく、0.3〜0.8Gがより好ましく、0.4〜0.7Gが更に好ましい。遠心締固め装置によって異なるが、0Gから設定した遠心力までに達する時間は通常15秒以内である。本発明では遠心力を保持する時間には0G(開始)から設定した遠心力に到達するまでの時間を含める。
【0044】
初期遠心力が前記範囲にあると、型枠内での遠心締固め性が良好で、特に、パイル等の中空の遠心管を成形する場合、水硬性組成物が円管壁に沿いより均一となり、内壁面が平滑に成形できる。
【0045】
かかる低遠心力を保持して遠心を行う時間は、例えば、0.5Gの場合では、4〜8分間が好ましく、5〜7分間がより好ましく、1Gの場合では、2〜7分間が好ましく、4〜6分間がより好ましい。
【0046】
さらに、遠心締固め性の観点から、遠心成形時の加速は多段階で行うことが好ましく、例えば、第1段階の初期遠心力による遠心後は、第2段階として、好ましくは2〜10Gで第1段階後から2〜6分間、より好ましくは3〜8Gで2〜6分間、更に好ましくは4〜6Gで3〜5分間、第3段階として、好ましくは10〜20Gで第2段階後から1〜5分間、より好ましくは12〜18Gで1〜4分間、更に好ましくは13〜17Gで2〜3分間、第4段階として、好ましくは20〜35Gで第3段階後から1〜6分間、より好ましくは22〜30Gで1〜5分間、更に好ましくは23〜28Gで1〜4分間行うことが好ましい。
【0047】
《蒸気養生条件》
本発明の水硬性組成物を、前述の条件で遠心成形すると、特にパイルのような中空遠心管については内壁面が平滑な遠心成形硬化体を得ることができる。さらに、かかる遠心成形硬化体について、コンクリートの材齢1〜7日程度での強度が100N/mm2以上の超高強度の遠心成形硬化体を得るための好ましい蒸気養生条件は、前置き1〜2時間、昇温20〜30℃/hr、保持70〜80℃で6〜10時間保持し、自然冷却することが好ましく、前置き2〜4時間、昇温15〜25℃/hr、保持60〜85℃で4〜12時間保持し、自然冷却することがより好ましい。また14日以降の強度を高めたい場合は、前置き3〜4時間、昇温10〜20℃/hr、保持60〜70℃で4〜6時間保持し、自然冷却する条件が好ましい。
【0048】
本発明の水硬性組成物は、7日蒸気養生強度試験値が120N/mm2以上、更に123N/mm2以上、特に125N/mm2以上であることが好ましい。
【0049】
ここに、7日蒸気養生強度試験値とは、後述の実施例記載の手順により測定された値をいう。
【0050】
《遠心成形硬化体》
本発明の遠心成形硬化体は、材齢1〜7日程度で強度100N/mm2以上の強度を得ることができ、パイルその他の高強度を必要とする遠心成形品として好適である。
【実施例】
【0051】
《コンクリート材料》
下記のコンクリート材料を用いて表1の配合によりコンクリート(水硬性組成物)の製造に用いた。
W:セメント分散剤を混合した水道水
C:普通ポルトランドセメント〔太平洋セメント(株)〕、密度=3.16(g/cm3
HC:早強ポルトランドセメント〔太平洋セメント(株)〕、密度=3.14(g/cm3
SF:シリカヒューム〔花王(株)〕、密度=2.25(g/cm3)、比表面積=20000(cm2/g)
GP:α型無水石膏、密度=2.95(g/cm3)、比表面積=7000(cm2/g)
S:細骨材、中国福建省ミン江産川砂、表乾密度=2.58(g/cm3)、FM=2.90
G:粗骨材、兵庫県措赤穂産砕石、表乾密度=2.63(g/cm3)、吸水率=0.65
W/P:[W/(C+SF)](重量比)C+SFの合計を100とする
S/a:[S/(S+G)]×100(%、体積比)
【0052】
【表1】

【0053】
《セメント分散剤》
(1)分散剤1、2
本発明品の分散剤として、ナフタレン系分散剤であるマイテイ150(花王株式会社)(分散剤1)、高強度パイル用ナフタレン系分散剤であるマイテイHS(花王株式会社)(分散剤2)を用いた。
【0054】
(2)分散剤3、4
ナフタレンスルホン酸(未反応ナフタレン量7モル%)1モルと縮合用水2.2モルを反応容器に入れ90℃に昇温し、ホルマリン(37%ホルムアルデヒド水溶液、ホルムアルデヒドとして0.97モルを含有する)を4時間かけて滴下する。次いで、105℃に昇温して15時間(分散剤3)又は30時間(分散剤4)反応して縮合度の異なる縮合物を得る。縮合物の中和方法はライミングソーデーション法(水酸化カルシウムでカルシウム塩として余剰硫酸を石膏として分別した後、炭酸ナトリウムでナトリウム塩とする方法)で行い、固形分濃度が40重量%になるように調整して合成ナフタレン系の分散剤3、4(本発明品)を得た。
【0055】
(3)分散剤5、6
ポリカルボン酸系分散剤として、特開2006−36629号公報の表1の分散剤8を分散剤5、特開2006−36629号公報の表1の分散剤7を分散剤6として用いた。
【0056】
上記の分散剤を表2にまとめた。
【0057】
【表2】

【0058】
《コンクリートの製造及び評価》
表3にコンクリートのフレッシュ状態(初期スランプ値、崩落量、貫入抵抗値、ワーカビリティ)と、これらのコンクリートを使用して遠心成形したときの硬化体の内壁面の状態の結果と硬化後の強度(7日蒸気養生強度試験値)を示す。
【0059】
〔1〕コンクリートの製造条件
混練量は、40リットルとし、以下のように製造した。
セメント分散剤と混合した水以外のコンクリート材料を60リットル強制2軸ミキサーに投入し、300秒間混練後、セメント分散剤と混合した水を投入し、300秒間混練した後、排出した。
【0060】
〔2〕スランプ値及び崩落量の測定
JIS A 1101 に従った。崩落量は、スランプコーンに詰めたコンクリートの上面をスランプコーンの上端に合わせてならした後、スランプコーンを鉛直に引き上げた時点で崩落するコンクリートの量(g)を測定した。
【0061】
〔3〕貫入抵抗値の測定(ワーカビリティの評価)
JIS A 6204記載の凝結時間試験測定における貫入抵抗値測定と同様のプロクター式貫入値測定試験機を用いて、製造直後のフレッシュコンクリートの貫入抵抗値を測定した。ここで貫入抵抗値はコンクリートを扱う上での作業の容易性(ワーカビリティ)を表す指標であり、貫入抵抗値が低い程ワーカビリティに優れる。通常コンクリートにおける作業の容易性(ワーカビリティ)はコンクリートスランプ値等に代表されるが、本特許ではコンクリートスランプ値が低い領域での技術であり尚且つ粉体量が非常に多いコンクリート配合である為コンクリートスランプ値等では作業の容易性(ワーカビリティ)が表せないので、貫入抵抗値を採用した。また表3には実際のコンクリート作業の容易性(ワーカビリティ)についても以下の基準で評価した結果を示した。
◎:作業の容易性が優れる
△:作業の容易性が劣る
×:作業の容易性が極めて劣る
【0062】
〔4〕7日養生強度試験値
後述の(1)〜(6)の手順による方法で測定した。
(1)前記〔1〕の条件で製造した水硬性組成物15kgを遠心成形型枠(直径20cm×高さ30cm)に入れて、初速0.7G×3分間、二速5G×4分間、三速15G×2分間、四速25G×3分間の第1〜第4の段階で遠心成形を行う。ここで、遠心成形における第1段階の初期遠心力を初速、第2段階の遠心力を二速、第3段階の遠心力を三速、第4段階の遠心力を四速と記した。
(2)遠心成形後の型枠を20±2℃の室温で混練終了後から3時間静置した後、蒸気養生槽内で、昇温18℃/時間で80℃まで昇温後、80℃で8時間の条件で蒸気養生を行う。
(3)蒸気養生終了後、20±2℃の室温で自然冷却し遠心成形型枠から脱型する。
(4)混練開始から7日後まで気中で放置する。
(5)型枠をとり外し、JISA1108に従って、圧縮強度を測定する。
(6)(1)〜(5)に基づく試験を3回行い、圧縮強度値の平均値を7日蒸気養生強度試験値とする。
【0063】
〔5〕内壁面の平滑性
〔4〕7日養生強度試験値の(1)〜(4)に基づく試験にて得られた遠心供試体硬化体の内面の平滑性を測定した。
硬化体の上部と下部のコンクリート厚み(mm)を、各4個所測定し、以下の基準で評価した。
◎:4個所の厚みの変動が3mm未満
○:4個所の厚みの変動が3mm以上5mm未満
×:4個所の厚みの変動が5mm以上
【0064】
【表3】

【0065】
表中、分散剤の添加量は、粉体(セメント+シリカヒューム)に対する重量%である。
【0066】
比較例1は、減水剤添加量が不足していて、崩落量が過剰となり、遠心締固めができなかった。比較例2は、初期スランプ値が過剰となっており、所定の遠心成形条件により内壁面が平滑な遠心成形硬化体を製造することができなかった。比較例3は、コンクリートのW/Pが大きいため、7日蒸気養生強度試験値が120N/mm2に達達しなかった。
【0067】
比較例4は、ポリカルボン酸系分散剤5の添加量が多いため、初期スランプ値が過剰となっている。そのため遠心締固めができない。また、ワーカビリティも悪い。ポリカルボン酸系分散剤6を用いた比較例5は、120N/mm2以上の遠心成形硬化体を作成可能であるが、ナフタレン系分散剤を使用した場合と比べるとワーカビリティが悪く遠心型枠へ充填しづらいコンクリートである。
【0068】
実施例1〜8のコンクリートは、いずれも、7日蒸気養生強度試験値が120N/mm2以上であり、所定の遠心成形条件により内壁面が平滑な遠心成形硬化体を製造することができる。貫入抵抗値とワーカビリティには相関があり、貫入抵抗値100N/cm2を超えるとコンクリートのワーカビリティは悪くなる傾向がある。本発明では、遠心成形可能なコンクリートスランプが0〜7cmと広く、またワーカビリティも優れる為120N/mm2以上の高強度遠心成形硬化体の製造が容易に行える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、水硬性粉体(以下、セメントと水硬性粉体とをまとめて粉体という)、骨材、分散剤及び水を含有する遠心成形硬化体用水硬性組成物であって、
分散剤がナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物水溶性塩であり、以下の要件全てを具備する遠心成形硬化体用水硬性組成物。
[要件1]水硬性組成物の初期スランプ値が0〜7cm
[要件2]崩落量が200g以下
[要件3]水/粉体重量比が10/100〜22/100
[要件4]粉体の重量が450〜1000kg/m3
【請求項2】
分散剤を、粉体100重量部に対して3〜10重量部含有する請求項1記載の遠心成形硬化体用水硬性組成物。
【請求項3】
さらに、水の重量が100〜150kg/m3である請求項1又は2記載の遠心成形硬化体用水硬性組成物。
【請求項4】
水硬性粉体が、シリカヒュームを含有する請求項1〜3いずれか記載の遠心成形硬化体用水硬性組成物。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載の遠心成形硬化体用水硬性組成物を遠心成形して得る遠心成形硬化体の製造方法であって、前記遠心成形の条件が以下の要件5を具備する遠心成形硬化体の製造方法。
[要件5]遠心締固め開始後から遠心力を0.1〜1.5Gで1〜5分間保持する工程を有する
【請求項6】
蒸気養生工程を含む請求項5の遠心成形硬化体の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6の遠心成形硬化体の製造方法によって得られる遠心成形硬化体。

【公開番号】特開2008−7351(P2008−7351A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−177825(P2006−177825)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】