説明

遠心成形超高強度コンクリート組成物及び製造方法

【課題】肉厚精度が高いコンクリート成形品を得ることができる遠心成形超高強度コンクリート組成物及び製造方法を提供する。
【解決手段】少なくともセメントを含む結合材、細骨材、粗骨材及び水とからなり、水結合材比が20%以下である遠心成形超高強度コンクリート組成物であって、単位水量が100kg/m3よりも大で120kg/m3以下であることを特徴とする。粗骨材Gの量を増加させることができるので、モルタル層2の形成が抑制され、肉厚精度を高くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、遠心成形超高強度コンクリート組成物及び製造方法に関し、さらに詳細には、遠心締固めによって成形されるパイル、ポール、ヒューム管等のコンクリート成形品の製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
パイル、ポール、ヒューム管等の円筒形コンクリート成形品を製造する方法として、遠心成形法が知られている。この遠心成形法は、型枠内に混練したコンクリート材料を投入し、型枠を高速回転させて生じる遠心力によって、型枠内面にコンクリートを押し付けるようにして締固める方法である。
【0003】
この遠心成形法の下では、遠心締固めによって多量の水とセメント及び砂の微粒子が内面に絞り出されることから、成形品の内面にペースト層が形成されるとともに、スラリーが貯まる。このようなことから、水セメント比30%以下の高強度コンクリートについて、高性能減水剤を用いて単位水量を低減するとともに、高速回転時の遠心力及び回転時間を所定範囲に抑えることにより、ペースト層及びスラリーの発生を抑制する技術が開発されている(特許文献1,2参照)。
【0004】
他方、水結合材比が20%以下であるような超高強度コンクリートの場合は、コンクリートの粘性が増大することから、単位水量を増加しても、また遠心力を大きくしてもペースト層やスラリーが発生しない。すなわち、図4(a)に示すように、コンクリート層1とその内面のモルタル層2とに分離した成形状態となる。しかし、分離したモルタル層2が厚くなると、図4(b)に示すように、回転終了後に内面のモルタルが自重により変形し、硬化後に得られる成形品の肉厚が全周に亘って均一にならないという肉厚精度の問題が発生する。特に、超高強度コンクリート成形品の場合、高い軸力を保持することが要求されることから、肉厚が不均一で薄い部分があると構造的にも弱点となる。
【0005】
なお、成形後にモルタル層を切削する技術も提案され(例えば特許文献3参照)、この技術を適用すれば、不均一な肉厚を是正することができる。しかし、切削による方法は作業工程を増やすだけでなく、廃棄物の増大を招くという問題がある。
【特許文献1】特公平3−19043号公報
【特許文献2】特公平3−19044号公報
【特許文献3】特開平10−202640号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は上記のような技術的背景に基づいてなされたものであって、次の目的を達成するものである。
この発明の目的は、肉厚精度が高いコンクリート成形品を得ることができる遠心成形超高強度コンクリート組成物及び製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明の発明者は鋭意研究を重ねたところ、以下のような知見を得ることができた。すなわち、遠心成形法の下では、図4(a)に示すように、質量が大きな粗骨材が遠心力により外周に分離する。その結果、内面にモルタル層2が形成される。そこで、コンクリート中の単位水量(コンクリート1m3中の水量:kg/m3)を減少させて、粗骨材量を増加させたところ、図1に示すように、遠心形成時のモルタル層2の形成が抑制されることを見出した。そして、実験結果によれば、単位水量が120kg/m3以下とした場合には肉厚精度の顕著な向上が見られ、その一方単位水量を100kg/m3まで減少させると、遠心成形が不可能になるということが判明した。
【0008】
この発明は上記のような知見に基づいてなされたものであって、次のような手段を採用している。
すなわち、この発明は、少なくともセメントを含む結合材、細骨材、粗骨材及び水とからなり、水結合材比が20%以下である遠心成形超高強度コンクリート組成物であって、
単位水量が100kg/m3よりも大で120kg/m3以下であることを特徴とする遠心成形超高強度コンクリート組成物にある。
【0009】
ここで、この発明の発明者は、上記範囲にある単位水量(110kg/m3)を選択して細骨材容積率(%)を種々変化させた実験を試みたところ、細骨材容積率を小さくした場合(26%)には粗骨材量が多くなりすぎ、逆に細骨材容積率を大きくした場合(50%)には細骨材量が多くなりすぎて、いずれの場合も遠心成形が困難あるいは不可能であることが判明した。この実験結果を考慮すると、細骨材容積率は30%以上45%以下とすることが好ましい。
【0010】
さらに、この発明は、上記組成物を混練し、遠心締固めにより成形することを特徴とする遠心成形超高強度コンクリートの製造方法にも存する。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、遠心成形超高強度コンクリートにおいて、単位水量を減少させることにより粗骨材量を増加させた結果、モルタル層の形成が抑制され、肉厚精度の高いコンクリート成形品を得ることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
超高強度コンクリートは、一般には、水結合材比を20%以下としたものである。結合材としては、セメントのみ、あるいはセメントに混和材を加えたもので構成することができる。セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩セメント、低熱セメントなどが用いられる。混和材としては、シリカヒューム、高強度混和材、高炉スラグ微粉から選択される1種以上のものを用いることができる。
【0013】
骨材としては、従来のコンクリートに用いられている砕砂、砂のような細骨材、砕石のような粗骨材を用いることができる。コンクリート1m3中の全骨材容積(m3/m3)は、水結合材比及び単位水量を設定することにより決まる。そして、細骨材容積(m3/m3)及び粗骨材容積(m3/m3)のそれぞれは、設定した細骨材容積率から算出される。
【0014】
遠心成形品を得るには、上記のようにして配合比を決定したコンクリート材料を混練し、型枠内に投入して、周知の遠心成形機により締固める。型枠の回転は、低速、中速、高速の順で行い、最大遠心力は15G〜30Gとする。この発明によって得られるコンクリート成形品の適用用途は特に限定されるものではなく、パイル、ポール、ヒューム管等の円筒形コンクリート成形品一般に適用することができる。
【実施例】
【0015】
水結合材比を17%とし、単位水量を150kg/m3〜100kg/m3まで10kg/m3ごとに段階的に減少させ、また細骨材容積率(%)を種々変化させて遠心成形実験を行った。成形品を得た後、肉厚精度を測定した。測定結果を図2に示す。
【0016】
なお、実験に用いたコンクリート材料及び成形条件は次のとおりである。
<コンクリート材料>
水:水道水(比重1.00)
セメント:早強ポルトランドセメント(比重3.14)
高強度混和材:無水石膏系(比重2.9)
シリカヒューム:比重2.2
細骨材:山梨県大月産、砕砂(比重2.64、粗粒率2.66)
粗骨材:山梨県大月産、砕石(比重2.62、最大粒径15mm、粗粒率6.32)
高性能減水剤:ポリカルボン酸系、花王株式会社製商品名「マイティ21WH」(比重1.08)
<成形条件>
使用型枠内径:20cm
成形品設定肉厚:4cm
遠心力及び回転時間:低速(1G,7分)→中速1(6G,2分)→中速2(10G,1分)→高速(30G,2分)
【0017】
図2において、縦軸の遠心成形厚さ変動係数は成形品の肉厚精度を示し、次式で表される。
変動係数=標準偏差/平均値
ここに、平均値は、成形品個々の周方向の複数箇所で測定した肉厚データの平均値であり、標準偏差はその母集団の標準偏差である。したがって、変動係数は、肉厚のバラツキの程度を意味している。実験結果によれば、単位水量の減少に応じてモルタル層の形成が抑制されて肉厚精度が良くなり、特に120kg/m3以下になるとその傾向が顕著になり、高い軸力保持を要求される構造部材として充分に適用可能であることが分かった。
【0018】
また、本実験では、単位水量を減少させること、すなわち全骨材量が増加することが成形可能性に与える影響も調べた。その結果を表1に示す。
【表1】

【0019】
実験結果によれば、単位水量を100kg/m3まで減少させると、成形品にいわゆるジャンカが生じ、成形は不可能であることが分かった。この単位水量が100kg/m3の場合は、細骨材容積率(%)をどのような値としても成形することができなかった。他方、単位水量を110kg/m3とした場合は、細骨材容積率が32%、38%、44%では遠心成形することができたが、26%、50%では遠心成形することができなかった。これは、細骨材容積率26%では粗骨材量が多くなりすぎ、細骨材容積率50%では細骨材量が多くなりすぎて、いずれの場合も成形できなかったものと考えられる。単位水量を120kg/m3とした場合については、細骨材容積率38%でのみ成形実験したが、単位水量を110kg/m3とした場合に細骨材容積率32%〜44%で成形可能であったことを考慮すると、少なくとも細骨材容積率30%以上45%以下の範囲でも成形可能であると推定される。
【0020】
以下、粗骨材容積(m3/m3)を決定する方法について、単位水量を110kg/m3と設定した場合を例にとって説明する。表1に示されたデータから、単位水量を110kg/m3とした場合の粗骨材容積(m3/m3)と細骨材容積率(%)との関係は、次式及び図3のグラフで表すことができる。
最適粗骨材容積(m3/m3)=0.6732−0.0068×設定細骨材容積率(%)…(1)
ここで、JISで規定されるレディミクスコンクリートによれば、骨材計量精度は±3%とされている。この計量精度を考慮し、目標粗骨材容積は、次式により決定する。
目標粗骨材容積(m3/m3)=最適粗骨材容積×(100±3%)…(2)
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明により得られるコンクリート成形品を模式的に示す断面図である。
【図2】単位水量と肉厚精度との関係を示すグラフである。
【図3】単位水量を110kg/m3と設定した場合の、細骨材容積率と粗骨材容積との関係を示すグラフである。
【図4】従来技術によるコンクリート成形品を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 コンクリート層
2 モルタル層
G 粗骨材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともセメントを含む結合材、細骨材、粗骨材及び水とからなり、水結合材比が20%以下である遠心成形超高強度コンクリート組成物であって、
単位水量が100kg/m3よりも大で120kg/m3以下であることを特徴とする遠心成形超高強度コンクリート組成物。
【請求項2】
細骨材容積率が30%以上45%以下であることを特徴とする請求項1記載の遠心成形超高強度コンクリート組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の組成物を混練し、遠心締固めにより成形することを特徴とする遠心成形超高強度コンクリートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−13382(P2008−13382A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−183473(P2006−183473)
【出願日】平成18年7月3日(2006.7.3)
【出願人】(505408686)ジャパンパイル株式会社 (67)
【Fターム(参考)】