説明

遠心機

【課題】容器を鉛直かつ安定して挿入可能な遠心機を提供する。
【解決手段】容器内の収容物に遠心力を加えるための遠心機であって、当該遠心機の設置時に、水平面に対して傾斜するよう延びる回転軸と、回転軸を回転させる駆動部と、回転軸に取り付けられた回転部と、を備え、回転部は、容器を保持するための保持孔が外周縁部に少なくとも一つ形成されており、当該遠心機の設置時に、外周縁部上面が最下点において水平な状態となるような形状である、遠心機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器に収容された収容部に遠心力を加えるための遠心機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、医学、化学、薬学等さまざまな分野において、種々の遠心機が使用されている。例えば、特許文献1には、血液等の試料を遠心分離するための遠心機が提案されている。この遠心機は、駆動部によって回転する回転部を備えており、この回転部には鉛直軸に対して所定角度傾斜した細長い孔が形成されている。この孔に試料が収容された容器を挿入して駆動部を駆動し、回転部を鉛直軸周りに回転させると、容器内の試料が遠心分離される。ここで、上記遠心機において、回転部の孔に容器を挿入するためには容器を斜めに傾ける必要がある。このため、ロボットアーム等を用いて容器を自動で挿入する場合は、例えば多関節ロボットアームといった容器を斜めに傾けるための特別な機構が必要となり、構造が複雑化してしまう。
【0003】
これに対して、特許文献2には、容器を収容するためのバケットが回転部の周縁に回動自在に取り付けられた遠心機が提案されている。この遠心機のバケットは、回転部の回転時には容器内の試料を遠心分離するために水平にスイングするが、回転部の停止時には水平面に対して垂直な状態となっている。このため、上記遠心機においては容器をバケット内に鉛直に挿入することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−248379号公報
【特許文献2】特開2006−142156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したような遠心機は、バケットが回転部に対し回動自在に取り付けられているため不安定である。このため、ロボットアーム等の搬送手段により自動でバケット内に容器を挿入する場合、この搬送手段が容器を挿入する位置を定めることができず、容器を正確にバケット内に挿入することが困難であるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、容器を鉛直かつ安定して挿入可能な遠心機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る遠心機は、上記課題を解決するためになされたものであり、容器内の収容物に遠心力を加えるための遠心機であって、当該遠心機の設置時に、水平面に対して傾斜するよう延びる回転軸と、前記回転軸を回転させる駆動部と、前記回転軸に取り付けられた回転部と、を備え、前記回転部は、容器を保持するための保持孔が外周縁部に少なくとも一つ形成されており、当該遠心機の設置時に、前記外周縁部上面が最下点において水平な状態となるような形状である。
【0008】
上記遠心機は、回転軸に取り付けられた回転部の外周縁部に保持孔が形成されており、この外周縁部上面は最下点が水平な状態となっている。この外周縁部の最下点において容器を保持孔に挿入し、駆動部を駆動して回転軸及び回転部を回転させると、回転軸が水平面に対して傾斜していることにより、回転部の保持孔に保持された容器内の収容物に遠心力が加えられる。このように、上記遠心機は、回転部の外周縁部上面において最下点が水平な状態であるため、この最下点において保持孔に容器を鉛直に挿入することができる。また、上記遠心機は、保持孔が回転部に直接形成されているため、回転部が停止している場合は保持孔の位置が固定されている。これにより、容器を保持孔に挿入する際に容器の位置決めが容易となり、容器を保持孔に安定して挿入することができる。なお、上記遠心機において、外周縁部の上面とは容器を受け入れる側の面のことをいう。
【0009】
上記遠心機において、回転部は、中央部が回転軸に対して垂直であり、この中央部に対して外周縁部が傾斜するよう構成されていてもよい。
【0010】
上記遠心機において、回転軸は水平面に対して45〜80度の範囲で傾斜していることが好ましい。
【0011】
上記遠心機において、回転部は板状であり、保持孔は回転部の外周縁部を貫通するよう構成されていてもよい。
【0012】
上記遠心機において、回転部の保持孔の周縁には切り欠きが形成されていてもよい。この構成によると、容器が保持孔に挿入された際、この切り欠きが容器側面の凸部に係合し、容器が保持孔内で回転するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、容器を鉛直かつ安定して挿入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る装置の概略平面図である。
【図2】同実施形態に係る装置の正面断面図である。
【図3】同実施形態に係る分注チップの正面断面図である。
【図4】同実施形態に係る反応容器の正面断面図である。
【図5】同実施形態に係る分注チップ及び反応容器の正面断面図である。
【図6】同実施形態に係る分注器の正面図である。
【図7】同実施形態に係る分注器及び分注チップの正面図である。
【図8】同実施形態に係る遠心機の概略側面断面図である。
【図9】同実施形態に係る遠心機の動作を示す概略側面断面図である。
【図10】本発明の変形例に係る遠心機の概略側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る遠心機を核酸検出装置に適用した場合の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、説明の便宜上、図1において下側を手前、上側を奥と称することとする。
【0016】
本実施形態に係る核酸検出装置1は、試料に必要な試薬を混入して核酸増幅反応を行った後、試料中の核酸を検出するための装置である。この装置1は、図1及び図2に示すように、各種容器を保持するラック2、このラック2に保持された容器から試料及び試薬を分注する分注器3、この分注器3を移動させる移動手段4を備えている。また、上記装置1は、試料及び試薬に遠心力を加えるための遠心機5、試料の核酸増幅反応を生じさせ核酸を検出するための検出機6、及び使用済みの分注チップ等を廃棄するための廃棄ボックス7を備えている。
【0017】
ラック2は、図1に示すように、手前から奥へと順に、試料及び試薬を分注するための分注チップ8、試料が収容された試料容器9、第1〜第3の試薬が収容された試薬容器101〜103、空の反応容器11がそれぞれ16本ずつ載置されている。
【0018】
分注チップ8は、図3に示すように、略円錐筒状に形成されており、後述する分注器3の先端部に装着可能なよう上端が開口している。また、分注チップ8は、試料や試薬を吸引及び吐出可能なよう下端に吐出孔81を有しており、吸引した試料や試薬を内部に保持することができるよう構成されている。この分注チップ8は、保持した試料及び試薬の飛散を防止するために上部が通気性のフィルタで覆われていることが好ましい。
【0019】
反応容器11は、図4に示すように、下端が閉じ、分注チップ8を内部に挿入可能なよう上端に開口111が形成されている。この反応容器11は、下部に試料及び試薬を貯留するための細長い貯留部112が形成され、上部には分注チップ8を収容するための収容部113が形成されている。反応容器11は、図5に示すように、分注チップ8が挿入された場合に分注チップ8によって開口111が封鎖され、かつ分注チップ8と互いに嵌合するよう構成されている。なお、反応容器11の側面には、後述する遠心機5の保持孔533周縁の切り欠きと係合可能なよう、凸部が形成されていることが好ましい。反応容器11の材料としては熱可塑性樹脂又はガラスが好ましいが特に限定されず、熱可塑性樹脂の場合は、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリメチルペンテン、環状ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリブチレンテレフタレート、メタクリル樹脂、ABS樹脂及びポリ塩化ビニルのいずれか、又はこれらのうち2種以上から成るポリマーアロイ若しくはポリマーブレンドであることが好ましい。
【0020】
分注器3は、図6に示すように、例えばシリンジやピペットといった一般的な分注機構31を有しており、この分注機構31により先端部に分注チップ8が装着された状態で試料や試薬を吸引及び吐出する(図7)。また、分注器3は、上下に移動可能な円筒部32を先端部に有しており、この円筒部32が下方に移動して先端部に装着された分注チップ8を押し下げることで分注チップ8を取り外すことができるよう構成されている。
【0021】
移動手段4は、図1及び図2に示すように、奥行き方向に延びるY軸アーム4y、幅方向に延びY軸アーム4yの表面を奥行き方向に摺動するX軸アーム4x、及び高さ方向に延びX軸アーム4xの表面を幅方向に摺動するZ軸アーム4zを備えており、このZ軸アーム4zに上下に移動可能なよう分注器3が取り付けられている。このような構成により、移動手段4は分注器3を奥行き方向、幅方向、及び高さ方向に自在に移動させることができる。
【0022】
遠心機5は、図1及び図8に示すように、ラック2の奥側に設置されており、水平面に対して角度αだけ傾斜した回転軸51、及び回転軸51を軸周りに回転させるための駆動部52を備えている。回転軸51には円板状の回転部53が取り付けられており、この回転部53の中央部531は回転軸51に対して垂直となっている。回転部53の外周縁部532には反応容器11を保持するための保持孔533が複数形成されており、この保持孔533の周縁には、保持孔533に反応容器11が保持された際に反応容器11側面の凸部と係合可能なよう、好ましくは切り欠きが形成されている。また、回転部53は、外周縁部532が中央部531に対して角度βだけ上昇しており、角度βと角度αとの和が90度となっていることで外周縁部532の最下点が水平な状態となっている。なお、安全性の観点から、回転部53の上面において外周縁部532の最下点以外の部分は着脱可能なカバーで覆われていることが好ましい。
【0023】
検出機6は、図1及び図2に示すように、遠心機5の右側に設置されており、複数の反応容器11を収容可能な収容孔61、加熱器621を有する熱風発生部62、及び核酸を蛍光検出するための蛍光検出部63を備えている。検出機6は、熱風発生部62において加熱器621のON/OFFを切り替えて熱風及び冷風を発生させることにより、反応容器11内において核酸増幅反応を生じさせ、蛍光検出部63で標的核酸を検出する。標的核酸の検出方法としては、例えば、蛍光物質で標識された標識プローブを使用し、この標識プローブが標的核酸にハイブリダイゼーションした際に生じる蛍光の減少量を測定する。なお、励起光の照射方法、蛍光の検出方法については特に限定されない。
【0024】
次に、核酸検出装置1の作動について説明する。
【0025】
まず、ラック2に保持されているある一つの分注チップ8を使用して、この分注チップ8と同列に並ぶ試料容器9及び第1〜第3の試薬容器101〜103からこれらと同列に並ぶ反応容器11に試料及び試薬を分注する。詳述すると、移動手段4のX軸アーム4xをY軸アーム4yに沿って装置1の奥行き方向に移動させ、Z軸アーム4zをX軸アーム4xに沿って装置1の幅方向に移動させることにより、ラック2に保持された分注チップ8の上方に分注器3を移動させる。この分注器3をZ軸アーム4zに沿って下降させて分注器3の先端部を分注チップ8内に挿入し、分注器3の先端部に分注チップ8を装着する(図7)。次に、移動手段4により、分注チップ8が装着された分注器3をラック2上の試料容器9まで移動させ、分注器3の分注機構31により吐出孔81から分注チップ8内に試料容器9内の試料を一定量吸引する。吸引した試料を分注チップ8内に保持したまま、分注器3を移動手段4によりラック2上の第1〜3の試薬容器101〜103に移動させ、分注機構31によりこの第1〜3の試薬容器101〜103内の第1〜3の試薬を分注チップ8内に順に吸引する。その後、分注チップ8内に試料及び第1〜3の試薬を保持した状態で移動手段4により分注器3を反応容器11まで移動させ、分注器3先端部の分注チップ8を反応容器11に挿入して分注チップ8と反応容器11とを互いに嵌合させるとともに、分注チップ8の吐出孔81より反応容器11内に試料及び第1〜第3の試薬を吐出する。
【0026】
次に、移動手段4により、反応容器11及び分注チップ8が装着された分注器3を遠心機5に向かって移動させ、遠心機5の回転部53において水平な状態となっている外周縁部532の最下点上方で分注器3を停止させる。この分注器3を真っ直ぐに下降させ、分注器3の先端部に分注チップ8を介して接続された反応容器11を、外周縁部532の最下点における保持孔533に鉛直に挿入する(図9(a))。そして、円筒部32を下降させて分注器3の先端部から分注チップ8を取り外し、分注チップ8が嵌合した状態の反応容器11を保持孔533内に残して分注器3のみを上昇させる。その後、反応容器11が挿入されていない別の保持孔533が最下点にくるよう回転部53を回転させる。
【0027】
以上のような手順を繰り返し、遠心機5に試料及び試薬が収容された反応容器11を必要な数だけセットする。そして、遠心機5において、駆動部52を駆動して回転部53を回転させると、保持孔533内の反応容器11は上端が回転部53の中央に向かって傾いた状態で回転軸51周りに回転し(図9(b))、これにより、反応容器11内の試料及び試薬は貯留部112の下端に向かって移動する。
【0028】
遠心機5により試料及び試薬を反応容器11の貯留部112に充填した後、反応容器11及び分注チップ8を分注器3の先端部に再び装着する。この反応容器11及び分注チップ8が装着された分注器3を移動手段4により検出機6まで移動させ、分注器3を下降させて反応容器11を検出機6の収容孔61に収容し、分注器3から分注チップ8及び反応容器11を取り外して分注器3のみを上昇させる。そして、収容孔61内の反応容器11に対し、熱風発生部62において加熱器621のON/OFFを切り替えて発生させた熱風及び冷風により所定の温度サイクルを施し、反応容器11の貯留部112において試料の核酸増幅反応を生じさせる。このとき、反応容器11の貯留部112においては、例えば、標識プローブが標的核酸にハイブリダイゼーションすることにより消光しており、この蛍光の減少量を蛍光検出部63で測定することにより標的核酸を検出する。
【0029】
核酸の検出終了後、検出機6の収容孔61内の反応容器11及び分注チップ8を分注器3の先端部に再び装着し、移動手段4により分注器3を廃棄ボックス7まで移動させ、分注チップ8及び反応容器11を分注器3から取り外して廃棄ボックス7内に廃棄する。
【0030】
以上のように、上記実施形態によれば、遠心機5において、反応容器11を保持するための保持孔533が外周縁部532に形成されており、この外周縁部532は最下点が水平な状態となるよう回転部53の中央部531に対して上昇傾斜している。このため、外周縁部532の最下点において、反応容器11を保持孔533に鉛直に挿入することができる。また、保持孔11が回転部53に直接形成されていることにより、反応容器11を保持孔533に挿入する際に反応容器11の位置決めが容易であり、安定して反応容器11を保持孔533に挿入することができる。
【0031】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態においては、遠心機10の回転部53は、回転軸51に垂直な中央部に対して外周縁部が上昇傾斜していたが、回転部の上面において外周縁部の最下点が水平な状態であればこれに限定されず、例えば、図10に示すように、回転部53の上面が上方に向かって拡径するテーパー状に形成されていてもよい。
【0032】
また、上記実施形態において、遠心機5の回転部53は板状に形成されていたがこれに限定されず、回転部を種々の形状に形成することができる。この場合、回転部に形成されている保持孔は、容器を保持することができれば回転部を貫通していなくてもよい。
【0033】
また、上記実施形態においては本発明を核酸検出装置に適用していたが、これに限定されるものではなく、例えば、酵素反応により物質を測色的測定法あるいは抗原抗体反応により物質を測定、検出する方法に適用することもできる。
【符号の説明】
【0034】
5 遠心機
51 回転軸
52 駆動部
53 回転部
532 外周縁部
531 保持孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内の収容物に遠心力を加えるための遠心機であって、
当該遠心機の設置時に、水平面に対して傾斜するよう延びる回転軸と、
前記回転軸を回転させる駆動部と、
前記回転軸に取り付けられた回転部と、を備え、
前記回転部は、容器を保持するための保持孔が外周縁部に少なくとも一つ形成されており、当該遠心機の設置時に、前記外周縁部上面が最下点において水平な状態となるような形状である、遠心機。
【請求項2】
前記回転部は、中央部が前記回転軸に対して垂直であり、前記外周縁部が前記中央部に対して傾斜している、請求項1に記載の遠心機。
【請求項3】
前記回転軸は、水平面に対して45〜80度の範囲で傾斜している、請求項1又は2に記載の遠心機。
【請求項4】
前記回転部は、板状であって、前記保持孔が前記外周縁部を貫通している、請求項1〜3のいずれかに記載の遠心機。
【請求項5】
前記回転部は、前記保持孔に保持された容器の側面に形成された凸部と係合するよう、前記保持孔の周縁に切り欠きが形成されている、請求項1〜4のいずれかに記載の遠心機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−72888(P2011−72888A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225966(P2009−225966)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】