説明

遠赤外線の低温乾燥による高機能スギ木口材の製造方法

【課題】スギ材が空気汚染物質(二酸化窒素)を浄化する能力を向上させ、また、スギ材から、セドロール(セスキテルペンアルコール類)を放散させる能力を向上させることができる高機能スギ木口材の製造方法を提供する。
【解決手段】スギ材を遠赤外線により低温で、且つ、短期間で乾燥させることにより、スギ材に含有される高機能成分(セドロール、木の香り、精油、抽出成分等)の損失を防止し、スギの木口材(スギの板目材や柾目材にスリットやV溝加工等を施し、木口面を露出させることで木口の機能を持たせた木口材を含む)が空気汚染物質(二酸化窒素)を浄化する能力を向上させ、また、スギの木口材から、セドロール(セスキテルペンアルコール類)を放散させる能力を向上させることにより、高機能スギ木口材製品を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気汚染物質浄化する能力と、スギ材の中に存在する有効成分を放出すせる能力との両方を有する装置の製造方法に関する。
【0002】
本発明は、スギ材を遠赤外線により低温で、且つ、短期間に乾燥させることにより、スギ材に含有される高機能成分(セドロール、木の香り、精油、抽出成分等)の損失を防止し、高機能スギ木口材を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
(従来の技術)
(スギの空気汚染除去について)
スギ材を従来の板目材や柾目材として利用する場合には、スギ材が空気汚染(二酸化窒素、オゾン、ホルムアルデヒド)を浄化する能力は、木口材として利用する場合の1/6程度と低く、実用的な浄化性能のレベルにはなく、スギ材に含まれる高機能成分の含有量が問題になることはなかった。
【0004】
特許文献1(特開2009−6310)には、スギの木口を露出させた装置を用いることにより、二酸化窒素などの汚染物質を除去できることが開示されている。
【0005】
しかし、特許文献1には、スギからセドロールを放出させることについては開示がない。そもそも、特許文献1においては、スギ中の精油成分(例えば、セドロール)についてはまったく言及がない。すなわち、後述するとおり、従来、スギ中の精油成分(例えば、セドロール)を利用するためには、スギから抽出などの工程を用いてスギ中の精油成分をいったん取り出すことが必要であると考えられていたのであり、スギの木材からその有効量が空気中に放出されるとは考えられていなかったのである。
【0006】
このように、スギの木口材(木口スリット材、V溝木口材など)の開発(特許文献1)により、スギ材のもつ高機能(空気汚染の浄化性能)を生かす装置としての建材などの生産が可能になったが、スギ中の精油成分を高効率で放出させる装置の製造方法はまったくの未知であった。
【0007】
(セドロールについて)
非特許文献1(「香気成分セドロールが睡眠に及ぼす影響」、日本生理人類学会誌、Vol.8,No.2、2003年5月、p25−27)は、セドロールが、交感神経活動を抑制し副交感神経活動を優位にさせることを記載し、セドロールがヒマラヤスギなどから抽出されるセダーウッドオイルに存在する香気成分として得られることを記載する(非特許文献1、25頁本文右欄7行〜12行)。
【0008】
特許文献2(特許第4288883号)には、セドロールが自律神経調整剤、睡眠改善剤及びストレス緩和剤として使用できることが開示されており(例えば、特許文献2の0008段落、0010段落)、そして、代表的な作用として、副交感神経の働きと交感神経の働きとのバランスを制御し、失調した自律神経を改善方向に調整するなどの作用を発現することができ、人に対し良好な鎮静、睡眠改善、ストレス緩和などの効果を奏することが開示されている(例えば、特許文献2の0071段落)。
【0009】
特許文献3(特許第4266093号)には、セドロールがアレルゲン低減化剤として作用できることが記載されている(特許文献3の請求項1、0009段落、0011段落)。特許文献3には、セドロールの入手方法として、植物から抽出して精製することが記載されている(特許文献3の0010段落)。
【0010】
特許文献4(特開2004−204421号)には、スギなどの樹木から抽出したセドロールを生地に付与することにより、繊維に睡眠改善効果を与えることができることが開示されている(特許文献4の0007段落)。
【0011】
特許文献5(特許第4246980号)は、セドロールに優れたIL4産生抑制作用による抗炎症作用、抗アレルギー作用があることを記載している(特許文献5の0003段落)、特許文献5は、セドロールは、一般にマツ科ヒマラヤスギ属等の植物の精油に含まれる香料成分として知られており、また、シダーウッド油、ヒバ油等の精油から蒸留等により精製して得ることができるので、精油精製によって得られたセドロールまたは合成されたセドロールが使用されることを記載している(特許文献5の0010段落)。
【0012】
特許文献6(特許第3723791号)もまた、セドロールに抗アレルギー作用があることを記載している(特許文献6の0008段落)、特許文献6もまた、セドロールは、植物の精油の精製によって得られたものまたは合成されたものが使用されることを記載している(特許文献6の0010段落)。
【0013】
特許文献7(特開2003−81844号)は、セドロールに優れた刺激緩和作用があることを記載している(特許文献7の0004段落)、特許文献7はまた、セドロールは、植物の精油の精製によって得られたものまたは合成されたものが使用されることを記載している(特許文献7の0008段落)。
【0014】
このように、スギには、自律神経調整などの様々な薬理作用を有するセドロールなどの精油成分が含まれることが知られていたが、セドロールなどの精油成分は、スギなどの植物体から精油として抽出して入手し、あるいは合成して使用することが技術常識であった。そのため、セドロールなどの精油成分がスギの材木から直接放出され得るとは考えられておらず、さらにスギの材木からセドロールなどの精油成分の実質的に有効な量を、抽出工程を経ないで直接的に放出させる方法が存在するとは考えられていなかった。
【0015】
ここで、理屈として、スギを建材に使用したときにその中にセドロールなどの精油成分が存在し得ることは知られていた。特許文献8(特開2008−121245号)は、中核壁に天然杉を使用する住宅建築工法を開示し(特許文献8の請求項1および請求項2)、天然杉にセドロールが存在することを開示する(特許文献8の0033段落)。しかし、特許文献8においては、天然杉にセドロールが存在することを一般論として記述しているのに過ぎない。すなわち、実際にセドロールが放出されるか否かを測定もしていないし、実質的に有効な量のセドロールを放出させるために必要なスギの加工方法についてもまったく記載がない。すなわち、特許文献8は単に杉を中核壁として使用することを開示しており、正目面または板目面を表面として露出することを実質的に教示している。この方法では、木口面が空気と接触する面積が非常に少なく、セドロールを十分に空気中に放出させることができない。また、適切な杉の乾燥方法についても一切開示がない。そのため、実用的に使用可能なレベルのセドロールを放出可能な建材のような形態の装置を製造する方法は知られていなかった。
【0016】
(乾燥方法について)
ところで、スギ材の加工においては、製品の所望の形状に加工する前に、森林から伐採された原木を乾燥することが行われている。スギの原木には大量の水分が含まれるため、乾燥を十分に行っておかないと、製品形状に加工した後に製品から水分が抜けてその際に製品が反ったり歪んだりすることになるからである。
【0017】
従来のスギ材の加工においては、スギ材を80〜130℃の高温で乾燥させることが一般的であった。例えば、特許文献9(特開平1−114686号)は、100℃以上の高温で木材を乾燥することを開示する。特許文献9に記載されているように、短時間で木材を乾燥させることが望まれる場合には、100℃以上の高温で乾燥を行うことが技術常識であった。逆に、100℃未満の低温で乾燥を行うことは、乾燥に必要な時間が長くなるので、好ましくないと考えられていた。逆に、加熱を行わずに、スギ材を常温で放置して乾燥させる方法、すなわち自然乾燥法も公知であったが、自然乾燥法では、十分に乾燥を行うのに1〜3年間という非常に長期の乾燥期間を要し、高コストとなり、低コストのスギ間伐材等への活用には、実用的ではなかった。
【0018】
ここで、100℃以上の高温で乾燥を行うと、セドロールなどの揮発性成分が揮発しやすいことが理解されるが、従来は、そもそも、スギ材から抽出工程を行わずに、スギ材製品におけるスギ材の木口から直接セドロールを放出させることができるという知見がなかったため、スギ材の木口から直接セドロールを放出させることはまったく想定されていなかったのであり、100℃以上の高温で乾燥を行っても、スギ材の成分としては実質的なロスはないと考えられていたのである。例えば、特許文献9は、乾燥温度の上限について、
「木材の温度が260℃を越えるとセルロースの急激な分解(すなわち、炭化)が始まるので、それを越えないように注意する必要がある」
と記載している(特許文献9の2頁左下欄1行〜3行)。すなわち、セルロースが分解しないように注意をすれば、260℃に近い高温であっても許容されることが記載されている。このように、木材の乾燥に際しては、100℃程度の温度で乾燥を行っても、有効成分が失われることはないということが技術常識であった。言い換えれば、木材の乾燥に際しては、100℃程度の温度で揮発し得る成分にはまったく着目されていなかったのであり、100℃程度の温度で揮発し得る有効成分がスギ材中に存在することに気付かれていなかったのである。特に、建材などの製品に加工されたスギ材において有用な成分が、スギ材を建材などの製品に加工するために乾燥する際に失われているということに、まったく当業者は気が付いていなかったのである。
【0019】
他方、特許文献10(特許第3406282号)および特許文献11(特許第4355303号)は、木材の乾燥に遠赤外線を使用できることを開示する。しかし、これらの文献においては、スギがセドロールなどの精油成分を放出できることは開示されていない。すなわち、セドロールなどの精油成分と乾燥方法との関係は一切説明されていない。さらに、これらの文献においては、セドロールなどの精油成分を放出させるために木口を開かせることを一切記載していない。
【0020】
従って、有効な量のセドロールなどの精油成分を放出できる建材などの形態の装置を製造する方法は知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開2009−6310号
【特許文献2】特許第4288883号
【特許文献3】特許第4266093号
【特許文献4】特開2004−204421号
【特許文献5】特許第4246980号
【特許文献6】特許第3723791号
【特許文献7】特開2003−81844号
【特許文献8】特開2008−121245号
【特許文献9】特開平1−114686号
【特許文献10】特許第3406282号
【特許文献11】特許第4355303号
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】「香気成分セドロールが睡眠に及ぼす影響」、日本生理人類学会誌、Vol.8,No.2、2003年5月、p25−27
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明は上述した課題を解決しようとするものであり、スギに含まれる高機能成分を高い効率で空気中に放出できる装置を製造する方法を提供することを目的とする。
【0024】
また、1つの実施形態において、本発明は、二酸化窒素などの汚染物質を含む空気を高い効率で浄化する装置を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果として、本発明を完成させた。すなわち、本発明によれば、以下の方法などが提供され、そのことにより上記課題が解決される。
【0026】
(項1) セドロールを空気中に放出する装置の製造方法であって、
スギ材を、乾燥室の中に収容できる大きさに切断する工程、
切断されたスギ材を該乾燥室の中に収容し、遠赤外線を照射しながら、35℃〜60℃の温度で該スギ材を乾燥させる工程、および
該乾燥を行ったスギ材の木口面以外の面に切削加工を行って木口面を露出させる工程
を包含する、方法。
【0027】
(項2) 上記項1に記載の方法であって、
前記木口面を露出させる工程において、スリットを形成する、方法。
【0028】
(項3) 上記項1または2に記載の方法であって、
前記スギ材を乾燥させる工程が、35℃〜60℃、または40℃〜60℃の温度で行われる、方法。
【0029】
(項4) 上記項1〜3のいずれか1項に記載の方法であって、
前記スギ材を乾燥させる工程が、スギの含水率が、全乾燥時の重量を基準とした含水率として5〜15%の範囲になるまで行われる、方法。
【0030】
(項5) 上記項1〜4のいずれか1項に記載の方法であって、
前記スリットの幅が1mm以下50mm以下であり、深さが1mm以上100mm以下(好ましくは1mm以上50mm以下)であり、長さが10mm以上2000mm以下であり、1つのスリットと次のスリットとの間の間隔が1mm以下50mm以下である、方法。
【0031】
(項6) 上記項1〜5のいずれか1項に記載の方法であって、
前記スギ材が、宮崎県産のスギ材である、方法(すなわち、1つの好適な実施形態において宮崎県を産地とするスギ材が使用可能であるが、他の産地のスギ材においても本願発明の方法は使用可能である)。
【0032】
(項7) 上記項1〜6のいずれか1項に記載の方法であって、
前記装置が、室内において空気中にセドロールを放出するものであり、該室内に居住する人に対してセドロールによる薬理作用を提供するための装置である、方法。
【0033】
(項8) 上記項7に記載の方法であって、
前記装置が、前記室内に居住する人の自律神経調整、睡眠改善、ストレス緩和、抗アレルギー、抗炎症または刺激緩和のための装置である、方法。
【0034】
(項9) 上記項1〜8のいずれか1項に記載の方法であって、
前記装置が、セドロールに加えて、セドロール以外のスギの精油成分を空気中に放出する、方法。
【0035】
(項10) 空気中の汚染物質を除去する装置の製造方法であって、
スギ材を、乾燥室の中に収容できる大きさに切断する工程、
切断されたスギ材を該乾燥室の中に収容し、遠赤外線を照射しながら、35℃〜60℃の温度で該スギ材を乾燥させる工程、および
該乾燥を行ったスギ材の木口面以外の面に切削加工を行って木口面を露出させる工程
を包含する、方法。
【0036】
(項11) 上記項10に記載の方法であって、
前記木口面を露出させる工程において、スリットを形成する、方法。
【0037】
(項12) 上記項10または11に記載の方法であって、
前記スギ材を乾燥させる工程が、40℃〜60℃の温度で行われる、方法。
【0038】
(項13) 上記項10〜12のいずれか1項に記載の方法であって、
前記スギ材を乾燥させる工程が、40時間〜400時間行われる、方法。
【0039】
(項14) 上記項10〜13のいずれか1項に記載の方法であって、
前記汚染物質が二酸化窒素、オゾン、またはホルムアルデヒドから選択される、方法。
【0040】
(項15) 上記項10〜14のいずれか1項に記載の方法であって、
前記スリットの幅が1mm以下50mm以下であり、深さが1mm以上100mm以下または1mm以上50mm以下であり、長さが10mm以上2000mm以下であり、1つのスリットと次のスリットとの間の間隔が1mm以下50mm以下である、方法。
【0041】
(項16) 上記項1〜9のいずれか1項に記載の方法であって、
前記装置が、セドロールを空気中に放出し、かつ空気中の汚染物質を除去する装置である、方法。
【0042】
このように、上記目的を達成するため、本発明においては、スギ材を遠赤外線により乾燥させることを1つの特徴とする。本発明においては、低温で、且つ、短時間にスギの乾燥を行うことが可能であり、スギに含まれる高機能成分(セドロール、木の香り、精油、抽出成分等)の損失を防止して高機能スギ木口材を製造することを1つの特徴とする。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、スギ材の中に存在する精油成分(例えば、セドロール)を高いレベルで放出すせる能力との両方を有する装置の製造方法が提供される。
【0044】
本発明によれば、スギ材の中に存在する精油成分(例えば、セドロール)を有効利用する方法として、抽出工程を行って液体の製品を一旦調製した後に使用するという従来の利用方法とはまったく異なり、抽出工程を行うことなく、液体の製品を一旦調製することもなく、スギ材の内部に存在する精油成分(例えば、セドロール)を乾燥工程の際にスギ材の内部に維持しておいて、その後、そのスギ材の木口を露出させることにより、精油成分(例えば、セドロール)をスギ材の木口から放出させるという方法により、その精油成分を有効利用することが可能になる。
【0045】
なお、理論に限定されるわけではないが、スギの内部について説明すると、スギには仮導管があり、切削加工により木口面を露出された場合、その木口面においては仮導管が開いている。そのため、木口面から空気は木材内部まで導入され得る。木材が仮導管を通じて外気と呼吸するように、木材の内部において精油成分の放出作用および浄化作用が奏されると考えられる。つまり、木口材の場合は、木口の仮導管を通じて、木材全体が精油成分の放出および汚染空気の浄化機能に関与していると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】スギ材の遠赤外線乾燥装置を示す説明図である。
【図2】実施例に用いたスギ材のブロック試料(5cm×10cm×15cm)の写真である。左の写真は、木口面をその正面から写したものである。中央の写真は、側面(柾目)をその正面から写したものである。右の写真は、平面(板目)をその正面から写したものである。
【図3】遠赤外線45℃乾燥時のスギ材の乾燥開始時点の含水量に対する含水率と乾燥時間との関係を示す測定図である。
【図4】スギ木口試験体(5cm×10cm×1.5cm)を示す説明図である。
【図5】空気浄化性能試験器を示す説明図である。
【図6】NO及びNOの出口濃度を示す測定図である。
【図7】スギ材(宮崎飫肥産)の乾燥方法の違いによるにNO浄化能力(%)を示す測定図である。
【図8】セドロールの放散性能試験装置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0048】
(スギ)
スギは裸子植物門・球果植物綱の樹木である。本発明には、任意のスギが使用可能である。
【0049】
本発明に好ましく使用可能な具体的なスギの種類としては、例えば、屋久杉、神代杉、春日杉、吉野杉、秋田杉、土佐杉、御山杉、霧島杉、市房杉、日光杉、北山杉、日田杉、天竜杉、飫肥杉などがある。
【0050】
杉の産地は、特に限定されないが、日本国内であることが好ましい。また、九州産であることがより好ましい。1つの好ましい実施形態では、宮崎産である。
【0051】
スギの表面において、二酸化窒素は空気中の水分と反応して硝酸と亜硝酸になり、木材内部に沈着する。スギの表面においては、この反応が極めて速い速度で進むため、スギが二酸化窒素を高い効率で浄化できると考えられる。スギは、その内部に様々な微量成分を含有することが知られている。例えば、スギがジテルペン、トリテルペン、セスキテルペン、フラボノイド、リグナンなどを含有することが研究されている。このようなスギの成分が、窒素酸化物を含む空気の高効率の浄化に役立っていると考えられる。
【0052】
またスギは一般に、長い繊維を有するが、木口面においては、その長い繊維の断面が露出されることになり、この断面から木材の深い部分にまで空気が入りやすい。このことも、窒素酸化物の浄化に役立っていると考えられる。
【0053】
また針葉樹は一般に、仮導管が均一に配列し、木口面においては、その長い繊維の横断面が露出されることになり、この断面から木材の深い部分にまで空気が入りやすい。このことも、窒素酸化物の浄化に役立っていると考えられる。
【0054】
(樹齢)
本発明に用いるスギの木材の樹齢は、特に限定されない。若齢木を用いてもよく、老齢木を用いても良い。若齢木を用いる場合には、間伐材を用いることができる点で好ましい。
【0055】
具体的には、スギの若齢木を用いることが好ましい。例えば、樹齢25年〜35年のものが好ましい。スギの老齢木には材中にタンニンが含まれる。このため、スギの老齢木を用いた場合には、大量(二酸化窒素浄化量の3分の1程度)の一酸化窒素が発生するため、好ましくない。
【0056】
本発明に用いる木材は、心材、すなわち、樹木の中心部の着色した材でもよく、辺材、すなわち、外周部の材でもよい。心材が好ましい。心材を用いる場合には、赤化した赤心材であってもよく、黒化した黒心材であってもよい。
【0057】
(乾燥方法)
スギ材は、その産地において伐採した原木を乾燥させた後に所望の製品の形状に加工されて使用される。伐採された時点におけるスギは、非常に多量の水を含むため、乾燥を行わずに使用すると、その後の水分の蒸発によりスギ材が反ったり歪むなどの変形が生じ、その製品の所望の形状を維持することが困難になる。
【0058】
スギの原木の含水率は、一般に、全乾燥時の重量を基準として心材の場合70〜180%であり、辺材の場合80〜280%前後であるが、いずれも本願発明に利用可能である。
【0059】
(乾燥前の処理工程)
スギ材の乾燥を行う前に、スギ材の大きさは、乾燥室に収容することが可能な大きさに調整される。
【0060】
スギ材は、伐採の際に、乾燥室に収容することが可能な大きさになるように伐採されてもよい。しかし、一般的には、伐採の際には、乾燥室に収容することができない大きさに切断されることが多い。その場合には、スギ材は、伐採の後、乾燥室に収容することが可能な大きさに切断した後に乾燥室に収容する。
【0061】
乾燥室に収容する際のスギ材は、伐採された丸太の形状であってもよく、角材または板の形状に切削されたものであってもよい。丸太の形状の場合、樹皮を剥いでおくことが好ましい。角材または板材の形状(すなわち、断面が長方形となる形状)であることが、後の加工工程の容易さの観点などから好ましい。
【0062】
スギ材は、乾燥室に収容可能であれば、任意の大きさとすることが可能であるが、好ましい実施形態では、乾燥工程を考慮して、乾燥工程が行いやすい大きさに切断しておけば、乾燥を均一に短時間で行うことが容易になる。
【0063】
従って、乾燥室に収容する際のスギ材の長さは、乾燥室の内部空間の長さよりも短ければよく、任意の長さとすることが可能である。具体的には、長さの上限については、例えば、10m以下、5m以下、3m以下、または1m以下などに設定することが可能である。長さの下限についても、特に限定されないが、具体的には、例えば、10cm以上、20cm以上、30cm以上、40cm以上、50cm以上または70cm以上などに設定することが可能である。
【0064】
乾燥室にスギ材の丸太を収容する場合、その丸太の太さは、特に限定されない。具体的には、太さの上限については、例えば、2m以下、1m以下、50cm以下、30cm以下、または20cm以下などに設定することが可能である。太さの下限についても、特に限定されないが、例えば、3cm以上、5cm以上、7cm以上、または10cm以上などに設定することが可能である。
【0065】
乾燥室にスギの角材または板材を収容する場合、そのスギ材の太さ(厚み)および幅は、特に限定されない。太さ(厚み)の上限については、例えば、1m以下、50cm以下、30cm以下、20cm以下、10cm以下または5cm以下などに設定することが可能である。太さ(厚み)の下限についても、特に限定されないが、具体的には、例えば、0.5cm以上、1cm以上、2cm以上、3cm以上または4cm以上などに設定することが可能である。幅の上限については、例えば、3m以下、2m以下、1.5m以下、1m以下または80cm以下などに設定することが可能である。幅の下限についても、特に限定されないが、具体的には、例えば、5cm以上、10cm以上、20cm以上、30cm以上、40cm以上または50cm以上などに設定することが可能である。
【0066】
(乾燥室)
乾燥工程は、スギ材を乾燥室に収容して、そのスギ材に遠赤外線を照射しながら行う。
【0067】
乾燥室は、スギ材を収容して、温度を一定に保つことができる箱体であればよい。排気装置を有することが好ましい。このような乾燥室としては、木材用の乾燥機として従来公知のものが使用可能である。
【0068】
乾燥室のサイズは、所望のスギ材を収容できるように選択される。大きいものを用いれば大きいサイズのスギ材を収容できるので有利である。
【0069】
(乾燥工程)
乾燥工程は、スギ材を乾燥室に収容して、そのスギ材に遠赤外線を照射しながら行う。
【0070】
遠赤外線は、波長がおよそ4〜1000
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の電磁波である。この波長の電磁波を放射できる遠赤外線放射装置を用いることによって、遠赤外線をスギ材に照射することができる。例えば、遠赤外線ヒーターを使用することができる。また、ヒーターと一体となっていない遠赤外線パネルを使用することもできる。例えば、加熱温度を一定に保持可能なヒーターを有する恒温室内に遠赤外線パネルを配置しておけば、その高温室のヒーターから与えられる熱により遠赤外線パネルから遠赤外線が放射される。
【0071】
遠赤外線の照射は、公知の遠赤外線ヒーターまたは遠赤外線パネルを乾燥室内に配置することにより行うことが可能である。例えば、乾燥室中のスギ材が置かれる場所のまわりに遠赤外線ヒーターまたは遠赤外線パネルを配置することが可能である。遠赤外線ヒーターの配置は特に限定されないが、スギ材の各表面にほぼ均等に遠赤外線が照射されるように配置することが好ましい。1つの乾燥室中に1つの遠赤外線ヒーターまたは遠赤外線パネルを配置してもよいが、2ヶ所以上の場所に遠赤外線ヒーターまたは遠赤外線パネルを配置して、2方向以上の方向から遠赤外線を照射することが好ましい。具体的には、乾燥室中に置かれたスギ材の右側および左側の両方に遠赤外線ヒーターまたは遠赤外線パネルを配置して、左右の両側から遠赤外線を照射することが好ましい。また、乾燥室中に置かれたスギ材の上側および下側の両方に遠赤外線ヒーターまたは遠赤外線パネルを配置して、上下の両側から遠赤外線を照射することも好ましい。また、乾燥室中に置かれたスギ材の上および左右の3方向に遠赤外線ヒーターまたは遠赤外線パネルを配置して、上および左右の3方向から遠赤外線を照射することがさらに好ましい。そして乾燥室中に置かれたスギ材の上下および左右の4方向に遠赤外線ヒーターまたは遠赤外線パネルを配置して、上下左右の4方向から遠赤外線を照射することが最も好ましい。
【0072】
遠赤外線ヒーターまたは遠赤外線パネルとスギ材との間の距離は、遠赤外線がスギ材に十分に照射されるように適宜選択することができる。具体的には例えば、遠赤外線ヒーターまたは遠赤外線パネルとスギ材との距離は、1m以下、50cm以下、30cm以下、20cm以下、10cm以下または5cm以下となるように、遠赤外線ヒーターまたは遠赤外線パネルをスギ材の周囲に配置することができる。また例えば、遠赤外線ヒーターまたは遠赤外線パネルとスギ材との距離は、5mm以上、1cm以上、2cm以上、3cm以上または5cm以上となるように、遠赤外線ヒーターまたは遠赤外線パネルをスギ材の周囲に配置することができる。
【0073】
遠赤外線ヒーターの種類としては任意の公知の遠赤外線ヒーターが使用可能である。遠赤外線ヒーターとしては、例えば、セラミックスの中に金属ヒーターを埋め込み、セラミックスを加熱することにより、遠赤外線を多く放出するセラミックヒーターが好ましく使用可能である。ここで、セラミックヒーターに使用される遠赤外線放射材料としては、珪素、アルミウニム、鉄、銅、クロム、コバルト、マンガン、ニッケル、チタン、亜鉛等の酸化物若しくはこれらの複合酸化物、窒化物、炭化物などが使用可能である。また、タングステン等の発熱体を石英ガラスに収容し、ハロゲンガスを封入し発熱させるハロゲンヒーター、石英ガラスにカーボンの棒あるいは線状の発熱体を収容して発熱させるカーボンヒーターなども使用可能である。また、ニクロム線ヒーター、シーズヒーターなども使用可能である。
【0074】
遠赤外線ヒーターの形状は特に限定されない。パイプ形ヒーター、パネルヒーターなどの任意の形状の遠赤外線ヒーターが使用可能である。パネルヒーターが好ましい。
【0075】
遠赤外線ヒーターの大きさも特に限定されない。乾燥室に収容されるスギ材の大きさに応じて十分な遠赤外線が照射される程度の大きさの遠赤外線ヒーターを使用すればよい。スギ材の大きさに比較して小さい遠赤外線ヒーターを使用する場合には、複数の遠赤外線ヒーターを配置して、スギ材の全体にほぼ均一に遠赤外線が照射されるようにすることが好ましい。例えば、スギ材の上方向から遠赤外線を照射する場合、スギ材と平行にスギ材の上に複数の遠赤外線ヒーターを並べて配置して、スギ材の先端から末端までほぼ均等に遠赤外線を照射できるようにすることが好ましい。スギ材の他の方向から遠赤外線を照射する場合も同様である。
【0076】
遠赤外線ヒーターの出力や、遠赤外線の照射強度は特に限定されないが、乾燥室内の温度が適切な温度になるように調整される。
【0077】
ヒーターを有さない遠赤外線パネルを用いる場合、その種類は特に限定されず、上述した遠赤外線放射材料、すなわち、珪素、アルミウニム、鉄、銅、クロム、コバルト、マンガン、ニッケル、チタン、亜鉛等の酸化物若しくはこれらの複合酸化物、窒化物、炭化物などを用いた遠赤外線パネルが使用可能である。ヒーターを有さない遠赤外線パネルを用いる場合、その乾燥室に用いるヒーターの種類は特に限定されない。
【0078】
ヒーターを有さない遠赤外線パネルを用いる場合、その大きさは特に限定されない。乾燥室に収容されるスギ材の大きさに応じて十分な遠赤外線が照射される程度の大きさのパネルを使用すればよい。スギ材の大きさに比較して小さい遠赤外線ヒーターを使用する場合には、複数の遠赤外線パネルを配置して、スギ材の全体にほぼ均一に遠赤外線が照射されるようにすることが好ましい。例えば、スギ材の上方向から遠赤外線を照射する場合、スギ材と平行にスギ材の上に複数の遠赤外線パネルを並べて配置して、スギ材の先端から末端までほぼ均等に遠赤外線を照射できるようにすることが好ましい。スギ材の他の方向から遠赤外線を照射する場合も同様である。
【0079】
(乾燥時間)
乾燥工程は、スギ材の含水率が、その後の加工などを行うのに適切な率に下がるまで行う。乾燥が不十分であると、その後の加工の際に、または最終製品が完成した後にスギ材が反ったり変形したりする可能性があるため好ましくない。
【0080】
例えば、スギ材の含水率が、全乾燥時の重量を基準とした含水率として、約25%になるまで乾燥を行うことが好ましく、約20%になるまで乾燥を行うことがより好ましく、約15%になるまで乾燥を行うことがさらに好ましい。約10%の含水率となるまで乾燥を行うことが特に好ましい。また、含水率の特に低いスギ材が所望される場合には、さらに10%以下の含水率になるまで乾燥をいってもよい。例えば、約5%になるまで乾燥を行ってもよい。ただし、必要以上に含水量を低下させようとすると、必要な乾燥時間が長くなる傾向がある。そのため、例えば、5〜15%の範囲内になるまで乾燥を行うようにすることが好ましい。または、例えば、10〜15%の範囲、8〜12%の範囲、6〜10%の範囲、もしくは5〜10%の範囲内になるまで乾燥を行うようにしてもよい。
【0081】
従って、乾燥工程を行う時間は、スギ材の含水率が上述した好ましい範囲になるまでの時間として設定することができる。
【0082】
乾燥時間は、乾燥工程前の時点における含水率の比較的高い原木を用いる場合には比較的長くなり、含水率の比較的低い原木を用いる場合には比較的短くなる。また、スギ材の大きさが大きい場合、特に、厚みが大きい場合、には比較的長い時間が必要となる。
【0083】
従って、乾燥を行う時間については、その原木の含水率や大きさに応じて、適宜設定することができる。例えば、乾燥工程の時間の下限については、好ましくは、5時間以上、10時間以上、20時間以上、30時間以上、40時間以上、または50時間以上などに設定することが可能である。また例えば、乾燥工程の時間の上限については、好ましくは、1000時間以下、700時間以下、500時間以下、または400時間以下などに設定することが可能である。
【0084】
乾燥温度は、高すぎる場合には、スギの精油成分(セドロールなど)が失われてしまうので高すぎないことが好ましい。すなわち、セドロールをはじめとして、スギに含まれる高機能成分(精油成分、抽出成分等)の殆どは揮発性であるので、高温で乾燥を行うと、揮散してしまうのである。
また、低すぎる場合には、乾燥時間が非常に長くなるので生産効率の観点から好ましくない。従って、乾燥の際の温度は、好ましくは35℃以上であり、より好ましくは40℃以上であり、1つの実施形態においては、45℃以上とすることも可能である。また、乾燥の際の温度は、好ましくは65℃以下であり、より好ましくは60℃以下である。すなわち、1つの好ましい実施形態では35℃〜60℃の範囲の温度が使用される。より好ましくは40℃〜60℃の範囲であり、さらに好ましくは45℃〜60℃の範囲である。
【0085】
(木口の露出工程)
本発明の方法においては、乾燥工程を終えた後のスギ材の木口面以外の面に切削加工を行ってスギ材の木口面を露出させる。
【0086】
(木口面)
本発明により製造される装置においては、スギを切断した木材の木口面を、セドロールなどの精油成分を放出するべき空気または二酸化窒素を含有する空気に接触させる。従って、木口面が表面に露出するように、乾燥工程の後のスギ材に切削加工が行われる。
【0087】
木口面とは、木の繊維方向に対して約90°の面をいう。好ましくは、約70〜110°である。より好ましくは、約80〜100°である。さらに好ましくは、約85〜95°である。
【0088】
(形状および大きさ)
木口面の形状は、任意の形状とすることができる。円形状であってもよく、正方形状、長方形状、台形状、三角形状、六角形状などであってもよい。円形状または楕円形状であってもよい。
【0089】
木口面の大きさは、任意の大きさとすることができる。例えば、多角形の形状であれば、その最も長い辺の長さとして、1mm以上であることが好ましく、5mm以上であることがより好ましく、20mm以上であることがさらに好ましく、50mm以上であることが特に好ましく、所望の装置形状の設計に応じて、100mm以上とすることも可能であり、200mm以上とすることも可能である。また、多角形の形状であれば、その最も長い辺の長さとして、2000mm以下であることが好ましく、1500mm以下であることがより好ましく、1000mm以下であることがさらに好ましく、所望の装置形状の設計に応じて、700mm以下とすることも可能であり、500mm以下または300mm以下とすることも可能である。
【0090】
また、円形状または楕円形状であれば、その直径または長径の長さとして、1mm以上であることが好ましく、5mm以上であることがより好ましく、20mm以上であることがさらに好ましく、50mm以上であることが特に好ましく、所望の装置形状の設計に応じて、100mm以上とすることも可能であり、200mm以上とすることも可能である。また、多角形の形状であれば、その最も長い辺の長さとして、2000mm以下であることが好ましく、1500mm以下であることがより好ましく、1000mm以下であることがさらに好ましく、所望の装置形状の設計に応じて、700mm以下とすることも可能であり、500mm以下または300mm以下とすることも可能である。
【0091】
さらに、木口面の面積としては、1mm以上であることが好ましく、1cm以上であることがより好ましく、10cm以上であることがさらに好ましく、50cm以上であることが特に好ましく、所望の装置形状の設計に応じて、100cm以上、500cm以上または0.1m以上とすることも可能であり、0.5m以上または1m以上とすることも可能である。また、木口面の面積は、10m以下であることが好ましく、5m以下であることがより好ましく、2m以下であることがさらに好ましく、所望の装置形状の設計に応じて、1m以下、0.5m以下、または0.1m以下とすることも可能であり、500cm以下、300cm以下または100cm以下とすることも可能である。
【0092】
木口面の大きさが小さ過ぎる場合には、充分な二酸化窒素の浄化効果が得られにくい。また、大き過ぎる場合には、原料となるスギ木材の入手が難しくなる場合がある。
【0093】
なお、大きい木口面を有する木材の入手が難しい場合には、比較的小さい木口面のピースを複数作製して、それらのピースを組み合わせて全体として大面積の木口面を有する装置として使用しても良い。例えば、複数のピースを接着剤等でつなぎ合わせて大きい1つの複合体とすることができる。
【0094】
木口面は平面状であることが好ましいが、必要に応じて緩やかな曲面状とすることもできる。また、その表面に多少の凹凸があっても構わない。
【0095】
木口面を有する木材の厚みは特に限定されないが、1mm以上であることが好ましく、3mm以上であることがより好ましく、5mm以上であることがさらに好ましい。所望の装置形状の設計に応じて、1cm以上、1.5cm以上、2cm以上または3cm以上とすることも可能であり、5cm以上または10cm以上とすることも可能である。また、厚みは、30cm以下であることが好ましく、15cm以下であることがより好ましく、10cm以下であることがさらに好ましく、所望の装置形状の設計に応じて、7cm以下、5cm以下または3cm以下とすることも可能であり、2cm以下または1cm以下とすることも可能である。
【0096】
厚みが薄過ぎる場合には、充分な浄化効果が得られにくい。厚過ぎる場合には、その木材を組み込んだ装置の重量が大きくなってその装置を狭いスペースに設置することが難しくなる場合がある。
【0097】
(精油成分放出装置)
スギを上述したような所望の形状および大きさに切断することにより、木口面が表面に露出した木材部品を得ることができる。この木材部品は、そのまま単独で、精油成分放出装置として使用することができる。例えば、この木材部品を、精油成分を放出させたい場所に置いて、木口面を空気に接触させることにより、空気中に精油成分を放出することができる。
【0098】
(空気浄化装置)
また、上述した木材部品は、そのまま単独で、浄化装置として使用することができる。例えば、この木材部品を、空気を浄化したい場所に置いて、木口面をその空気に接触させることにより、空気を浄化することができる。
【0099】
(精油成分放出および空気浄化装置)
したがって、上述した木材部品を、精油成分の放出および空気の浄化の両方を行いたい場所に置いて、木口面をその空気に接触させることにより、精油成分の放出および空気の浄化の両方を行うことができる。
【0100】
本発明においては、この木材部品の表面の全面を木口面とすることもできるが、必要に応じて、木口面と、木口面以外の面(板目または柾目など)とを併用することができる。表面に露出する木口面の面積の割合がなるべく大きくなるように設計される。すなわち、表面に露出する木口面の面積が、表面に露出する木口面以外の面積よりも大きいことが好ましい。より好ましくは、表面に露出する木口面の面積が、表面に露出する木口面以外の面積の2倍以上であり、さらに好ましくは、表面に露出する木口面の面積が、表面に露出する木口面以外の面積の3倍以上であり、いっそう好ましくは、表面に露出する木口面の面積が、表面に露出する木口面以外の面積の5倍以上であり、特に好ましくは、表面に露出する木口面の面積が、表面に露出する木口面以外の面積の10倍以上であり、最も好ましくは、表面に露出する木口面の面積が、表面に露出する木口面以外の面積の20倍以上となるように設計される。
【0101】
この木材部品は、必要に応じて、その空気に接触させるべき木口面以外の面に塗装等を施しても良い。但し、木口面については、塗装等をまったく行わずに直接空気に接触させることが好ましい。必要に応じて、その木口面の一部分に塗装などのコーティングを施しても良いが、少なくともその一部は直接空気に接触できるように、コーティングのない部分が設けられるべきである。
【0102】
この木材部品の裏面はまた木口面となる。必要に応じて、この裏面はふさいでしまっても構わないが、この裏面の木口面もまた空気と接触させて浄化に用いることもできる。
【0103】
本発明の浄化装置は、必要に応じて、上記木材部品に他の部材を組み合わせた構成とすることができる。
【0104】
例えば、上記木材部品の木口面の反対側の面、すなわち裏面に、裏打ちする材料または支持体となる部材を積層することができる。例えば、支持体となる部材として平板を用意し、これに上記木材部品を1つもしくは複数積層して、浄化装置とすることができる。積層は、木材部品と支持体とは、その間に接着剤または粘着剤層を設けることにより固定してもよく、あるいは釘、木ネジまたはボルトおよびナットなどを用いて木材部品と支持体とを固定してもよい。また、支持体となる部材に穴を開けておき、その穴に上記木材部品をはめ込むことにより固定してもよい。
【0105】
また、上記木材部品の側面または裏面に、この木材部品を保持する脚部となる部材を取り付けても良い。
【0106】
上記木材部品の側面には、枠のような部材を取り付けても良い。また、側面に接着剤を付与するなどして、複数の木材部品を連結してもよい。
【0107】
このようにして得られた製品は、セドロール等のスギ中の精油成分の放出装置として使用することができる。また、空気中の汚染物質の除去装置として使用することもできる。
【0108】
スギ中の精油成分の放出装置として使用する場合、その装置の近くにいる人の自律神経調整、睡眠改善、ストレス緩和、抗アレルギー、抗炎症または刺激緩和のための装置として有用である。
【0109】
また、汚染物質の除去装置として使用する場合、その装置の周囲の空気中の汚染物質を除去するための装置として有用である。
【0110】
(汚染物質)
本明細書中において汚染物質とは、空気を汚染する原因となる物質をいう。中でも、水に可溶の気体からなる汚染物質の除去に本発明は有用である。本発明においては、木口面における水と汚染物質との相互作用が浄化に顕著に寄与しているからである。水に可溶の気体としては、例えば、水1リットル中に0.1グラム以上溶解する気体が好ましく、水1リットル中に1グラム以上溶解する気体がより好ましく、水1リットル中に10グラム以上溶解する気体がさらに好ましい。
【0111】
具体的な汚染物質の例としては、例えば、二酸化窒素、オゾン、ホルムアルデヒドなどが挙げられる。
【0112】
1つの実施形態では、本発明は、二酸化窒素、オゾンに代表される活性酸素に対して有用である。
【0113】
(建材)
本発明の方法で製造される装置は、建材に使用することが特に有意義である。特に、セドロールなどの精油成分の有効量を放出できる装置が、建材のような形態、すなわち、固体のスギ部材中に保存されている形態を採用することは、抽出工程によりセドロールなどの精油成分を液体状態の製品として抽出するという従来技術における技術思想から大きく異なる技術思想に基づくものである。
【0114】
建材とは、建築材料を意味するが、内装材に限定されず、外装材も含む。外装材の場合には、空気中の汚染物質除去装置として使用できる。特に、二酸化窒素などの汚染物質が多い空気の存在する場所や、二酸化窒素などの汚染物質の除去が望まれる場所に本発明の装置は好適に使用できる。ただし、本発明の方法で得られる装置を精油成分(セドロールなど)の放出装置として使用する場合は、室内で使用する装置とすることが好ましい。
【0115】
以下に、本発明の方法で得られる装置を建材として使用する場合について説明する。
【0116】
建材の内装材の具体例としては、建築物の内壁、天井、床、家具、インテリア部材、小物、建築物の型枠等が挙げられる。建築物の型枠の例としては、例えば、化粧型枠、残置式型枠などが挙げられる。
【0117】
建材の外装材の具体例としては、建築物の外壁、屋根、道路の遮音壁、吸音壁、防音壁、建築物の型枠等が挙げられる。建築物の型枠の例としては、例えば、化粧型枠、残置式型枠などが挙げられる。
【0118】
建材の具体例としては、建築物の外壁、屋根、外構材、ガーデニング部材、道路のガードレール、遮音壁、吸音壁、防音壁、トンネルの内壁、電柱、広告塔、道路標識、看板、等が挙げられる。
【0119】
上記建築物の具体例としては、例えば、住宅、オフィスビル、工場、駅、空港、官公庁舎、公衆便所、寺院、神社、教会、城、宮殿、競技場、球場、橋梁、内陸橋(跨道橋、跨線橋、高架橋、横断歩道橋など)が挙げられる。また、建築物は、特殊建築物であってもよく、その具体例としては例えば、劇場、映画館、公会堂、集会場、病院、診療所、ホテル、旅館、寄宿舎、児童福祉施設、老人ホーム、母子保健施設、学校、体育館、博物館、美術館、図書館、ボーリング場、スキー場、水泳場、スポーツの練習場、百貨店、マーケット、展示場、店舗、公衆浴場、飲食店、倉庫、自動車車庫、映画スタジオ、テレビスタジオなどが挙げられる。
【0120】
さらに、建築物は、門、塀、東屋、電気工作物、第一種特定工作物(例えば、アスファルトプラント、クラッシャープラント)、第二種特定工作物(例えば、野球場、庭球場、陸上競技場、遊園地、動物園)、学校、都市公園、墓園などであってもよい。
【0121】
さらに、建築物は、広告塔、看板、案内板、標識、道路標識を含む、信号機、横断地下歩道、地下道、地下トンネル、電柱、手摺、柵、ベンチ、水道施設、ボラード、柵、仮設構造物、樹木支柱、ゴミ箱などであってもよい。
【0122】
上記各種建築物において、裏面または側面が外部に露出するものは、その裏面または側面に本発明の浄化装置を用いてよい。
【0123】
また本発明の方法で製造される建材は、車両(例えば、乗用車、商用車、トラック、バス)、電車、船舶、飛行機などの内装材に用いることもできる。
【0124】
本発明の方法で製造される建材は、高速道路、道路の交差点(特に幹線道路周辺の交差点)、跨道橋、高架橋、横断歩道橋、トンネル内(特に地下トンネル)、トンネル内排気ガス浄化施設、道路周辺に設置する道路施設(例えば、遮音壁、横断防止柵・外柵・視線誘導施設・遮光施設)、道路構造物(例えば、擁壁、落石防止柵、防風柵)、駐車場など、排気ガスの多い場所における部材などに特に有用である。例えば、幹線道路周辺に位置する各種建造物(会社、店舗、居宅等)の外装材に有用である。あるいは、道路周辺に設置される道路施設の表面層等に有用である。例えば、遮音壁、横断防止柵、外柵、視線誘導施設、道路標識等の表面層、裏面層やその支柱、枠等に使用可能である。また、建築物外壁、木柵、仮設構造材、各種看板、各種木製構造物(例えば、ベンチ、遊具、樹木支柱等)の表面層、裏面層やその支柱、枠等にも使用可能である。
【0125】
1つの実施形態において、本発明の方法で製造される装置は、自律神経調整、睡眠改善、ストレス緩和、抗アレルギー、抗炎症または刺激緩和を必要とする人に有用である。従って、本発明の装置は、それらの症状を有する人が居住する部屋、特に子供部屋、寝室などにおいて有用である。また、病院の病室、高齢者施設。保育施設、美容室、温泉施設などにおいても有用である。
【0126】
1つの実施形態において、本発明の方法で製造される装置は、二酸化窒素の存在量が多い場所に有用である。例えば、二酸化窒素が20ppm以上存在する場所、40ppm以上存在する場所、60ppm以上存在する場所、80ppm以上存在する場所、および100ppm以上存在する場所のいずれにおいても有用である。交通量の多い交差点においては、100ppm程度の二酸化窒素が存在するため、本発明は特に有用である。二酸化窒素の存在量に特に上限はない。後述する実施例では1000ppmの二酸化窒素を含む空気を用いて、空気を浄化できる効果が実証されており、1000ppmの二酸化窒素を含む空気であっても浄化することが可能である。
【0127】
また、本発明の方法で製造される装置は、汚染物質除去装置として使用する場合、二酸化窒素の絶対量としては多くない場所であっても、二酸化窒素の除去が望まれる場所においても有用である。例えば、一般住宅の内装材料に有用である。また、化学物質に過敏な人の住む住宅や病院などの、二酸化窒素の高度な除去が望まれる場所においては特に有用である。また、駅、飛行場、公園、コンサートホール、野球場などの公共施設にも有用である。
【0128】
さらに、本発明の方法で製造される装置は、二酸化窒素以外の汚染物質が多い場所にも有用である。
【0129】
例えば、本発明の方法で製造される汚染除去装置は、オゾンの存在量が多い場所に有用である。オゾンは、二酸化窒素と同様に光化学スモッグの原因物質であるが、オゾンを除去することは非常に重要である。オゾンの存在量が多い場所としては、室内であってもよく、屋外であってもよい。
【0130】
オゾンの多い室内の場所の例としては、例えば、家電量販店、オフィス、コンビニエンスストア、エレベーターホール、エレベーター室内、エスカレーター周辺、パソコンルーム、学校施設、教室、保育園、住宅、体育館、競技場、パルプ工場、病院、半導体工場、浄水場、型枠(化粧型枠・残置式型枠を含む)などが挙げられる。
【0131】
オゾンの多い屋外の場所の例としては、例えば、プール、運動場、型枠(化粧型枠・残置式型枠を含む)などが挙げられる。
【0132】
また、本発明の方法で製造される除去装置が、オゾン除去のための装置として設計される場合、その装置の設置場所としては、上記オゾンの多い場所として例示されたものに限定されず、上述した二酸化窒素が多い場所についても好適にオゾン除去のための装置を設置することができる。
【0133】
また例えば、本発明方法で製造される除去装置は、ホルムアルデヒドの存在量が多い場所に有用である。ホルムアルデヒドは、いわゆるシックハウスの1つの原因とされ、ホルムアルデヒドを除去することは非常に重要である。ホルムアルデヒドの存在量が多い場所としては、室内であってもよく、屋外であってもよい。
【0134】
ホルムアルデヒドの存在量が多い室内の場所の例としては、例えば、住宅、店舗、事務所、学校、幼稚園、保育所、病院、診療所、公共施設などの室内が挙げられる。
住宅としては、一戸建住宅に限らず、集合住宅などの各種住宅も含まれる。特に最近欧米で禁止となったフタル酸エステル、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂を用いた内装木質材を用いた室内に本発明は有用である。また、ホルムアルデヒドの存在量が多い室内の場所の具体例としては、ブティックなどの衣料販売店、カーテン・枕・寝具などの布製商品販売店、ホームセンター、ドラッグストア、化粧品販売店舗、百貨店、宿泊施設(ホテル、旅館、民宿等)、喫煙室、喫煙者用各種店舗、開放型ストーブを設置する室内などが挙げられる。
【0135】
本発明の方法で製造される建材はまた、飛行機、船舶、電車、車両等交通機関の内装材または外装材としても有用である。
【0136】
本発明において、上述した木口面を表面に露出させた木材部品は、そのまま建材として用いることができる。また、建築物の外壁などに上述した木材部品を貼り付けて使用することも可能である。あるいは、必要に応じて、加工を行った上で建材として用いることもできる。例えば、平面状の支持体に木材部品を貼り付けてパネルのような形態として建材に用いることもできる。
【0137】
(スリットなどの加工部分)
本発明の方法で製造される装置においては、木口面を外側に露出させることが好ましいが、必要に応じて、木口面を内側に配置して、その木口の表面に空気が接触するようにしても良い。例えば、板目面または柾目面に深い溝や切れ込みなどのスリットや山型、波型などの加工部分を形成することなどにより木口面を露出させることができる。すなわち、スリットを形成することにより、木口面と空気が接触する面積が広くなり、浄化効果を増大させることが可能になる。
【0138】
精油成分放出能力および空気浄化能力は、開放された仮道管の総面積に比例する。施工性を考えた、形状、溝の深さ、長さ、ピッチ、数による面積の総和によって決まる。そのため、スリットの形状などは、特に限定されないが、1つの実施態様では、より具体的には、例えば、木材の板目面、柾目面から木の繊維方向に対して平均切削角度が90°前後の角度、好ましくは、約70〜110°、より好ましくは、約80〜100°となる角度で切削して切れ込みを形成し、加工後の断面形が三角形、四角形などの多角形、円弧のみ、円弧と直線のいずれかで構成される溝を形成するなどの方法で、木材内部に木口横断面が現れる切削加工を行った上で、装置として用いることもできる。
【0139】
スリットの形状は任意であるが、木口面を広く露出させるような形状が好ましい。
【0140】
スリットの形成の方法としては、従来公知の木材切削方法を使用することができる。すなわち、鋸等を用いることができる。
【0141】
スリットの幅は空気が入り込むことが可能となるように設計されるが、好ましくは1mm以上であり、より好ましくは、2mm以上であり、さらに好ましくは、3mm以上である。また、目的とする装置の所望の外観形状などに応じて、4mm以上、5mm以上、6mm以上、8mm以上もしくは10mm以上の幅とすることもできる。スリットの幅の上限は特にないが、好ましくは50mm以下であり、より好ましくは、40mm以下であり、さらに好ましくは、30mm以下である。また、目的とする装置の所望の外観形状などに応じて、25mm以下、20mm以下、または15mm以下の幅とすることもできる。
【0142】
スリットの深さは、目的とする装置の所望の外観形状などに応じて適宜選択することが可能であり、好ましくは1mm以上であり、より好ましくは、2mm以上であり、さらに好ましくは、3mm以上である。また、目的とする装置の所望の外観形状などに応じて、4mm以上、5mm以上、6mm以上、8mm以上もしくは10mm以上の深さとすることもできる。スリットの深さの上限は特にないが、1つの実施形態では100mm以下であり、好ましくは50mm以下であり、より好ましくは、40mm以下であり、さらに好ましくは、30mm以下である。また、目的とする装置の所望の外観形状などに応じて、25mm以下、20mm以下、または15mm以下の深さとすることもできる。
【0143】
スリットの長さは、目的とする装置の所望の外観形状などに応じて適宜選択することが可能であり、好ましくは10mm以上であり、より好ましくは、30mm以上であり、さらに好ましくは、50mm以上であり、目的とする装置の所望の外観形状などに応じて、100mm以上、200mm以上または300mm以上とすることもできる。板の全長にわたってスリットを設けてもよい。スリットの長さの上限は特にないが、目的とする装置の所望の外観形状などに応じて、2000mm以下、1000mm以下または500mm以下とすることもできる。
【0144】
スリットは、板を正面から見た際に直線状であってもよく、折れ線状であってもよく、曲線状であってもよい。
【0145】
スリットは、装置の1つの板に1つのみ設けてもよく、1つの板に複数のスリットを設けても良い。直線状のスリットが複数設けられる場合、複数のスリットが平行線状に設けられてもよく、スリットとスリットとが交差してもよい。また、スリットとスリットとが交差しないようにそれぞれのスリットの長さを短く設計してもよい。
【0146】
1つの好ましい実施形態においては、複数のスリットを平行に設ける。
【0147】
複数のスリットを設ける場合、スリットのピッチ、すなわち、1つのスリットと次のスリットとの間の間隔は特に限定されないが、スリットとスリットとの間の間隔を狭くすれば、狭い面積の場所に多数のスリットを設けることが可能になる。しかし、スリットとスリットとの間の間隔を狭くしすぎると、スギの仮導管の損傷が大きくなり過ぎるので好ましくない。スギには仮導管があり、切削加工により木口面を露出された場合、その木口面においては仮導管が開いている。木口面から空気は木材内部まで導入され得る。木材が仮導管を通じて外気と呼吸するように、木材の内部において浄化作用が奏されると考えられます。つまり、木口材の場合は、木口の仮導管を通じて、木材全体が汚染空気の浄化機能に関与していると考えられる。スリットとスリットとの間隔は、好ましくは1mm以上であり、より好ましくは、2mm以上であり、さらに好ましくは、3mm以上である。また、目的とする最終製品の所望の外観形状などに応じて、4mm以上、5mm以上、6mm以上、8mm以上もしくは10mm以上の間隔とすることもできる。スリットとスリットとの間の間隔の上限は特にないが、好ましくは50mm以下であり、より好ましくは、40mm以下であり、さらに好ましくは、30mm以下である。また、目的とする最終製品の所望の外観形状などに応じて、25mm以下、20mm以下、または15mm以下の幅とすることもできる。
【0148】
曲線状のスリットが複数設けられる場合、複数のスリットが交差しないように設けられてもよく、交差するように設けられてもよい。例えば、円弧状のスリットを同心円状に設けることも可能である。
【0149】
また、スリットにより、板の表面に模様を形成しても良い。
【0150】
このように板目または柾目にスリットやV字形状の溝などの凹部を形成する方法には、以下のような特徴がある。
【0151】
木口加工材と板目(柾目)への加工材を比較すると、板目(柾目)への加工材の方が(1)加工が容易で加工コスト面においても優位であり、(2)施工性も高く、使用範囲が広範であり、(3)加工に伴い表面に木目による美しい模様が現れ、意匠性が高く、そして(4)環境浄化機能を有する使用事例の前例はない、との優位性を有する。このため、板目(柾目)への加工材は木口加工材より販路の広い材となる。
【0152】
板目(柾目)材への加工は、スリット、V型、波型等多様な形状が可能であり、かつ容易であり、それぞれ異なった高い意匠性を発揮することが可能になる。
【0153】
(V型の溝)
本発明の1つの実施形態においては、板目または柾目の面に、V字形状の溝を形成して木口面を表面に露出させることもできる。この場合、V字形状の溝の表面は、木材の繊維に直交せず、90°未満の角度で交差することになる。溝の表面と木材繊維との角度は、90°に近いほど、木口面に近い面が露出して高い浄化量が期待できるので好ましい。具体的には、溝の表面と木材繊維との角度は、30°以上であることが好ましく、45°以上であることがより好ましく、60°以上であることがさらに好ましく、70°以上であることが特に好ましい。V字形状の溝を加工する際の加工のしやすさの観点からは、この角度は、85°以下とすることが好ましく、80°以下とすることがより好ましく、75°以下とすることがさらに好ましい。
【0154】
V字形状の溝の深さは、目的とする装置の所望の外観形状などに応じて適宜選択することが可能であり、好ましくは1mm以上であり、より好ましくは、2mm以上であり、さらに好ましくは、3mm以上である。また、目的とする装置の所望の外観形状などに応じて、4mm以上、5mm以上、6mm以上、8mm以上もしくは10mm以上の深さとすることもできる。V字形状の溝の深さの上限は特にないが、好ましくは50mm以下であり、より好ましくは、40mm以下であり、さらに好ましくは、30mm以下である。また、目的とする装置の所望の外観形状などに応じて、25mm以下、20mm以下、または15mm以下の深さとすることもできる。
【0155】
V字形状の溝の最上部の幅は、目的とする装置の所望の外観形状などに応じて適宜選択することが可能であり、好ましくは1mm以上であり、より好ましくは、2mm以上であり、さらに好ましくは、3mm以上である。また、目的とする装置の所望の外観形状などに応じて、4mm以上、5mm以上、6mm以上、8mm以上もしくは10mm以上の幅とすることもできる。V字形状の溝の最上部の幅の上限は特にないが、好ましくは50mm以下であり、より好ましくは、40mm以下であり、さらに好ましくは、30mm以下である。また、目的とする装置の所望の外観形状などに応じて、25mm以下、20mm以下、または15mm以下の幅とすることもできる。
【0156】
V字形状の溝の長さは、目的とする装置の所望の外観形状などに応じて適宜選択することが可能であり、好ましくは10mm以上であり、より好ましくは、30mm以上であり、さらに好ましくは、50mm以上であり、目的とする装置の所望の外観形状などに応じて、100mm以上、200mm以上または300mm以上とすることもできる。板の全長にわたってV字形状の溝を設けてもよい。V字形状の溝の長さの上限は特にないが、目的とする装置の所望の外観形状などに応じて、2000mm以下、1000mm以下または500mm以下とすることもできる。
【0157】
V字形状の溝は、板を正面から見た際に直線状であってもよく、折れ線状であってもよく、曲線状であってもよい。
【0158】
V字形状の溝は、装置の1つの板に1つのみ設けてもよく、1つの板に複数の溝を設けても良い。直線状の溝が複数設けられる場合、複数の溝が平行線状に設けられてもよく、溝と溝とが交差してもよい。また、溝と溝とが交差しないようにそれぞれの溝の長さを短く設計してもよい。
【0159】
曲線状のV字形状の溝が複数設けられる場合、複数の溝が交差しないように設けられてもよく、交差するように設けられてもよい。例えば、円弧状の溝を同心円状に設けることも可能である。
【0160】
また、V字形状の溝により、板の表面に模様を形成しても良い。
【0161】
(浄化工程)
本発明の方法においては、二酸化窒素を含む空気を木口面に接触させる。そのことにより、空気中の二酸化窒素を除去することができる。
【0162】
二酸化窒素を含む空気に木口面を接触させる時間は、特に限定されない。好ましくは、10秒間以上であり、より好ましくは1分間以上であり、さらに好ましくは5分間以上である。浄化装置の設置場所などの条件に応じて、20分以上、1時間以上、または6時間以上とすることが可能であり、さらには、12時間以上または1日以上とすることも可能である。そして、二酸化窒素を含む空気に木口面を接触させる時間は、非常に長い時間とすることも可能であり、半永久的に接触させ続けることもできる。
【0163】
また、浄化装置の接触場所などの条件のために、長時間接触させることができない場合あるいは長時間接触させることが好ましくない場合があり得る。そのような場合において、本発明の方法は、比較的短時間の接触時間においても高い窒素酸化物浄化機能を発揮することができる。このため、空気との接触時間は、例えば、1日以下であってもよく、12時間以下であってもよく、6時間以下であってもよく、1時間以下であってもよい。さらに20分間以下であってもよく、10分間以下であってもよく、5分以下であってもよい。ただし、接触時間があまりに短すぎる場合には、充分に窒素酸化物を浄化できない場合があり得る。
【0164】
木口面と空気とを接触させる方法は特に限定されない。すなわち、木口面を塞ぐことなく、開放しておくことにより、木口面が空気と接触し、浄化を行うことができる。空気は、静止した状態であってもよく、動いている状態であってもよい。密閉した室内などのように空気が静止していてもよいが、風のある屋外や扇風機などの設置された室内などのように空気が流動していれば、短時間に多量の空気が木口面に接触することになり、好ましい。
【0165】
(一酸化窒素の発生)
好ましい実施形態においては、上記浄化工程の際に、一酸化窒素を実質的に発生しないようにすることができる。例えば、スギの若齢木を用いることにより、一酸化窒素を実質的に発生しないようにすることができる。好ましくは、JIS R1701−1に従って測定した場合に、一酸化窒素発生量が、30μMm−2hr−1以下とすることが可能であり、より好ましくは、20μMm−2hr−1以下とすることが可能であり、さらに好ましくは15μMm−2hr−1以下とすることが可能である。
【0166】
具体的には、例えば、後述する実施例1においては、10μMm−2hr−1にまで一酸化窒素発生を抑制しており、実施例2においては、13μMm−2hr−1にまで一酸化窒素発生を抑制している。本発明においてはこのような低い値にまで一酸化窒素の発生を抑制可能である。
【0167】
(浄化機能回復)
本発明の方法で製造される浄化装置は、1つの実施形態においては、浄化する工程とは別に、浄化機能回復の工程を行うことができる。
【0168】
すなわち、上述した浄化工程を行った後には、浄化装置の浄化機能は低下した状態となる。この機能低下した浄化装置に対して、その浄化機能を回復する工程を行うことができる。浄化機能の回復は、浄化装置の置かれる環境を変化させることによって行うことができる。例えば、湿度を上げることによって、浄化機能を回復させることができ、または湿度を下げることによって浄化機能を回復させることができる。湿度の変化により、スギ木材の内部で水分の移動が生じ、そのことにより浄化機能が活性化されると考えられる。例えば、空調設備などにより一定の環境に調節された室内に浄化装置を静置しておく場合には、浄化機能が容易に回復しない。従って、空調設備のない湿度の変化しやすい場所に浄化装置を置いておくなどの方法により、浄化機能を回復させることができる。
【0169】
(その他の切削加工工程)
なお、乾燥工程を終えたスギ材については、上記木口を露出させるための切削加工以外に、必要に応じて、所望の製品形状を得るためのその他の切削加工を行うことが可能である。
【実施例】
【0170】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。
【0171】
(実施例1)
[スギ材の乾燥方法]
(乾燥試験装置)
乾燥試験に供した乾燥機(乾燥室)は、YAMATO社製DK347S型(内寸30×30×60cm)であった。
【0172】
乾燥室の内部に、遠赤外線パネル{(29.5×29.5cm)2枚+(23.0×31.0cm)1枚}を配置した。29.5×29.5cmのパネルをそれぞれスギ材の上部と底部とに配置し、23.0×31.0cmのパネルを乾燥室の奥に配置した。スギ材と上部及び底部のパネルとの間の距離は、各々およそ10cmであり、スギ材と乾燥室の奥のパネルとの間の距離は、およそ7cmであった。
【0173】
使用した遠赤外線パネルの組成は、二酸化マンガン(MnO)50〜70%、二酸化鉄(Fe)10〜30%、酸化コバルト(CoO)5〜20%、酸化ケイ素(SiO)3〜10%、その他10%未満であった。
【0174】
遠赤外線による乾燥試験の状況を図1に示す。
【0175】
(乾燥試験条件)
乾燥温度(30〜60℃: 温湿度計(TR−72U)でモニタリング,
100℃: 水銀温度計でモニタリング)
乾燥時間(30〜336時間 ブロック試料の両面が含水率10%以下(含水率計:CSA electronic社製 高周波木材水分計DELTA−200XL型))
(試験材料)
宮崎県飫肥産のスギ(40年生)の心材の未乾燥の原木を切断して、サンプルを作成した。サンプルのサイズは、5cm×10cm×15cmであった(図2)。
【0176】
(スギ材の乾燥性能)
遠赤外線を用いて45℃で乾燥を行い、スギ材の含水率と乾燥時間との関係を測定した。その結果を図3に示す。
【0177】
スギ材のサンプルについて、遠赤外線を用いて35℃、40℃、45℃または60℃で乾燥を行い、含水率が10%になるまで乾燥を行った。
【0178】
各実験におけるスギ材の乾燥方法、乾燥温度および乾燥時間を表1に示す。
【0179】
【表1】

【0180】
遠赤外線によるスギ材の乾燥では、乾燥温度が60℃から35℃に低下すれば、乾燥時間は多少長くなった。また、同じ45℃の乾燥温度で比較すると、遠赤外線を使用した方が、使用しない場合よりも短時間で乾燥可能であった。表1に示す乾燥時間からは、遠赤外線を使用した45℃〜60℃においては、プロセスの効率としても適切であると考えられる。
【0181】
(実施例2)
(スギ木口試験体の調製)
含水率10%以下まで乾燥したブロック試料(5cm×10cm×15cm)から、スギ木口試験体(5cm×10cm×1.5cm)(図4)を切り出し、浄化性能試験に供した。
【0182】
(空気浄化性能試験装置)
木材の空気浄化能力の評価には、JIS R1701−1:2004(光触媒材料の空気浄化試験法:光を照射しない)を用いた。内側をテフロン(登録商標)コートで不活性化処理を施した空気浄化性能試験装置内(図5)に、スギ木口試験体(5cm×10cm×1.5cm)(図4)を挿入し、木口試験体の表面(50cm)に流速3L/min(通気線速度20cm/sec)の標準ガス(NO)を通気し、入口及び出口ガス濃度を5時間測定し、浄化能力を評価した。
【0183】
(NO標準ガスの調製及び測定)
NO標準ガスボンベ(102ppm,Nバランス,製鉄化学社製)を用い、マスフロー装置で1,000ppb標準ガス(湿度50%,20℃)を調製し、空気浄化性能試験器の出口濃度(NO,NO)をNOx計(モニターラボ社製 ML9841B NOx)で連続測定した。
【0184】
(1)スギ木口試験体のNO浄化能力
空気浄化試験器のNO及びNOの出口濃度の変化を図6に示す。遠赤外線による乾燥温度45℃の場合、5時間の平均で25.0±5μM 50cm−2 5hr-1(n=3)(浄化%:59.7%±1.3%(n=3))のNO浄化能力を示した。
【0185】
(2)乾燥方法の違いによるスギ木口試験体のNO浄化能力
乾燥方法の違いによるスギ木口試験体のNO浄化能力を表2及び図7に示す。乾燥温度45℃の場合、単なる加熱による乾燥の場合より、遠赤外線を用いた乾燥の方が、乾燥時間が短くなるため、約1.4倍のNO浄化能力を発揮した。本試験では、遠赤外線を用いた乾燥温度35℃〜60℃の場合に、優れたNO浄化能力を発揮した。
【0186】
【表2】

【0187】
(測定条件)
入口NO濃度:1,000ppb.
標準ガス流速:3L/min.
標準ガス線速度:20cm/sec.
接触面積:50cm
接触時間:0.5sec.
測定時間:5hr.
RT:20℃.
RH:50%。
【0188】
(実施例3)
(セドロールの放散性能)
(セドロールの放散性能試験装置)
図8の装置のインキュベータ内に各スギ木口試験体(図4)を設置し、放散するセドロールを捕集管に捕集し、GC/MSで測定した。
【0189】
(スギ木口試験体の調製)
二酸化窒素の浄化性能試験の場合と同様に、含水率10%以下まで乾燥されたブロック試料(5cm×10cm×15cm)から、スギ木口試験体(5cm×10cm×1.5cm)(図4)を切り出し、セドロールの放散性能試験に供した。
【0190】
(インキュベータ内の庫内容積)
35cm×45.5cm×24cm=38L
(通気条件)
インキュベータ内の温度、湿度:20℃、RH50%
(スギ木口試験体の静置時間)
30分、60分、120分
(清浄空気の通気速度)
3L/min
(採取方法及び採取時間)
Tenax TA 捕集管 採取時間:10分
(1)スギ木口試験体からのセドロールの放散性能
各スギ木口試験体からのセドロールの放散性能を表3に示す。
【0191】
本試験では、遠赤外線を用いた乾燥温度35℃〜60℃の場合に、優れたセドロールの放散性能を発揮した。とりわけ、遠赤外線を用いた乾燥温度40℃〜60℃の場合に、非常に優れたセドロールの放散性能を発揮した。
【0192】
【表3】

【0193】
(測定条件)スギ木口面積:100cm (5cm×10cm×2(両面))
インキュベータ内の庫内容積:35cm×45.5cm×24cm=38L
清浄空気の通気速度:3L/min
スギ木口試験体の静置時間:60min
採取時間:10min インキュベータ内の温湿度(RT:20℃ RH:50%)。
【0194】
(実施例4)
(睡眠改善効果の確認)
上記実施例3と同様に遠赤外線を用いて45℃で乾燥を行った平面板形状のサンプルを作成した。サンプルの大きさは、150mm(縦)×100mm(横)×30mm(厚み)であった。このサンプルの1つの表面(150mm(縦)×100mm(横))に直線状のスリットを多数形成した。スリットの深さは5mm、スリットの幅は5mm、スリットとスリットとの間隔は7mmであった。両面にスリットを加工しその本数は裏表11本計22本であった。
【0195】
以下の各被験者にこのサンプルを使用してもらった。すなわち、各被験者の寝室の枕元にサンプルを立て、その木口面が室内空気に接するようにした。その状態で3晩、被験者に就寝してもらった。なお、被験者は、全員ともに、全身の健康状態は良好であり、通院などの処置を要するような疾患をまったく有さない者であった。
【0196】
(実験1: 10代の女性)
10代の女性の寝室の枕元に上記サンプル片を置いた。この被験者には、このサンプル片についての予備知識がない状態で実験を行った。
【0197】
置く前の睡眠等についてヒアリングを行った。
【0198】
寝つきについて、悪いとの回答であった。より具体的には、普段は不眠に悩んでいるとの回答であった。
【0199】
眠りの質について、悪いとの回答であった。
【0200】
目覚めの良さについて、普通との回答であった。
【0201】
昼間の活動について、悪いとの回答であった。
【0202】
この被験者に、サンプル片を置いて3日間生活してもらい、その後、睡眠等についてヒアリングを行った。
【0203】
寝つきについて、良いとの回答であった。
【0204】
眠りの質について、普通との回答であった。
【0205】
目覚めの良さについて、良いとの回答であった。
【0206】
昼間の活動について、普通との回答であった。
【0207】
この被験者は、普段は不眠に悩んでいたところ、サンプル片を置いた間は直ぐに眠れた点において、サンプルを使用した場合と使用しなかった場合との間に顕著に眠りの質の相違があるとの感想を述べた。
【0208】
(実験2: 10代の男性)
10代の男性の寝室の枕元に上記サンプル片を置いた。この被験者には、このサンプル片についての予備知識がない状態で実験を行った。
【0209】
置く前の睡眠等についてヒアリングを行った。
【0210】
寝つきについて、良いとの回答であった。
【0211】
眠りの質について、わからないとの回答であった。
【0212】
目覚めの良さについて、とても悪いとの回答であった。
【0213】
昼間の活動について、普通との回答であった。
【0214】
サンプルを置いて3日後、ヒアリングをおこなった。
【0215】
眠りの質について、わからないとの回答であった。
【0216】
目覚めの良さについて、悪いとの回答であった。
【0217】
昼間の活動について、普通との回答であった。
【0218】
被験者の男性に感想を尋ねたが、毎日寝不足でよくわからないとのことであった。
【0219】
被験者の母親に、被験者の様子について尋ねたところ、普段は寝起きが悪く、いくら起こしても起きられず、起こすのに30分以上かかっていたが、サンプル片を置いて寝た3日間は一度声をかけただけですっと起きてきたと回答した。そして、母親は、観察された被験者の様子から、被験者が良い眠りをとれていたように思われたとのことであった。
【0220】
(実験3: 30代の女性)
30代の女性の寝室の枕元に上記サンプル片を置いた。
【0221】
置く前の睡眠等についてヒアリングを行った。
【0222】
寝つきについて、良いとの回答であった。
【0223】
眠りの質について、悪いとの回答であった。
【0224】
目覚めの良さについて、悪いとの回答であった。
【0225】
昼間の活動について、普通との回答であった。
【0226】
この被験者に、サンプル片を置いて3日間生活してもらい、その後、睡眠等についてヒアリングを行った。
【0227】
寝つきについて、良いとの回答であった。
【0228】
眠りの質について、悪いとの回答であった。
【0229】
目覚めの良さについて、良いとの回答であった。
【0230】
昼間の活動について、良いとの回答であった。
【0231】
(実験4: 70代の女性)
70代の女性の寝室の枕元に上記サンプル片を置いた。
【0232】
置く前の睡眠等についてヒアリングを行った。
【0233】
寝つきについて、悪いとの回答であった。
【0234】
眠りの質について、悪いとの回答であった。
【0235】
目覚めの良さについて、普通との回答であった。
【0236】
昼間の活動について、普通との回答であった。
【0237】
この被験者に、サンプル片を置いて3日間生活してもらい、その後、睡眠等についてヒアリングを行った。
【0238】
寝つきについて、良いとの回答であった。
【0239】
眠りの質について、良いとの回答であった。
【0240】
目覚めの良さについて、良いとの回答であった。
【0241】
昼間の活動について、普通との回答であった。
【0242】
この被験者に実験後の感想を尋ねたところ、普段は夜中に2〜3回トイレに行くが、サンプル片を置いて寝た間は、夜中にトイレに一回しか起きなかった。良く眠れた。また、普段は寝付きが悪く、新聞や本を何冊も読まないと眠れないが、サンプル片を置いた間は直ぐに眠れた、と回答した。
【0243】
(実験5: 40代の女性)
40代の女性の寝室の枕元に上記サンプル片を3日間置いた。
【0244】
置く前の睡眠等についてヒアリングを行った。
【0245】
寝つきについて、良いとの回答であった。
【0246】
眠りの質について、悪いとの回答であった。
【0247】
目覚めの良さについて、悪いとの回答であった。
【0248】
昼間の活動について、悪いとの回答であった。
【0249】
3日間置いた後のヒアリング結果は以下のとおりであった。
【0250】
寝つきについて、良いとの回答であった。
【0251】
眠りの質について、良いとの回答であった。
【0252】
目覚めの良さについて、とても良いとの回答であった。
【0253】
昼間の活動について、良いとの回答であった。
【0254】
この被験者に実験後の感想を尋ねたところ、普段は夢見が悪く、起きた時に身体が痛く頭が重くしんどいが、サンプル片を置いて寝たときは、頭がスッキリとして身体の痛みがないと回答した。
【0255】
上記実験1〜実験5の結果から、遠赤外線を用いて乾燥を行った木口サンプルを枕元に置くことにより、睡眠が著しく改善できることが確認された。
【0256】
したがって、遠赤外線を用いて乾燥を行うことにより、実質的に睡眠改善効果の薬理作用を奏するのに十分な量のセドロールが空気中に放出されることが確認された。
【0257】
(実施例5)
(遠赤外線乾燥による睡眠改善効果の確認)
上記実施例3において遠赤外線を用いて45℃で乾燥を行ったサンプルを、成人男性の被験者の寝室の枕元に置き、その木口面を上に向けた。その状態で1晩、被験者に就寝してもらった。その次の晩、今度は、遠赤外線を用いて乾燥したサンプルではなく、上記実施例3において遠赤外線を用いずに45℃で乾燥を行ったサンプルを、その前の晩と同様の配置で被験者の寝室の枕元に置き、その木口面を上に向けた。その状態で1晩、同じ被験者に就寝してもらった。
【0258】
被験者の全身の健康状態は良好であり、通院などの処置を要するような疾患をまったく有さない者であったが、ただし、普段、眠りがやや浅いとの自覚(本人が治療を必要と感じない程度のレベルのもの)を有する者であった。上記2晩目の就寝の後、1晩目と2晩目の眠りの深さを被験者に尋ねたところ、1晩目については、サンプルを枕元に置いていなかったそれ以前の晩と比べて非常に眠りが深くなったとの回答であった。2晩目については、サンプルを枕元に置いていなかったそれ以前の晩と比べて眠りの深さはあまり変わらなかったとの回答であった。
【0259】
この結果から、遠赤外線を用いて乾燥を行った木口サンプルを枕元に置くことにより、睡眠が著しく改善できることが確認された。
【0260】
したがって、遠赤外線を用いて乾燥を行うことにより、実質的に睡眠改善効果の薬理作用を奏するのに十分な量のセドロールが空気中に放出されることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0261】
本発明は、上述したとおり、スギ中の高機能成分を放出できる装置を提供し得る。また、空気浄化性能に優れる装置を提供し得る。
【0262】
そのため、本発明の方法により製造した装置を、例えば室内に置くことにより、室内の空気浄化が高い効率で行うことが可能になり、また、その室内に居住する人の自律神経調整、睡眠改善、ストレス緩和などの効果を高い効率で得ることが可能になる。スギ中の高機能成分による効果を容易に高いレベルで提供することが可能になり、自律神経調製などを必要とする患者などに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セドロールを空気中に放出する装置の製造方法であって、
スギ材を、乾燥室の中に収容できる大きさに切断する工程、
切断されたスギ材を該乾燥室の中に収容し、遠赤外線を照射しながら、35℃〜60℃の温度で該スギ材を乾燥させる工程、および
該乾燥を行ったスギ材の木口面以外の面に切削加工を行って木口面を露出させる工程
を包含する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記木口面を露出させる工程において、スリットを形成する、方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法であって、
前記スギ材を乾燥させる工程が、40℃〜60℃の温度で行われる、方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法であって、
前記スギ材を乾燥させる工程が、スギの含水率が、全乾燥時の重量を基準とした含水率として5〜15%の範囲になるまで行われる、方法。
【請求項5】
請求項2に記載の方法であって、
前記スリットが複数形成され、該スリットの幅が1mm以下50mm以下であり、深さが1mm以上50mm以下であり、長さが10mm以上2000mm以下であり、1つのスリットと次のスリットとの間の間隔が1mm以下50mm以下である、方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法であって、
前記スギ材が、宮崎県産のスギ材である、方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法であって、
前記装置が、室内において空気中にセドロールを放出するものであり、該室内に居住する人に対してセドロールによる薬理作用を提供するための装置である、方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、
前記装置が、前記室内に居住する人の自律神経調整、睡眠改善、ストレス緩和、抗アレルギー、抗炎症または刺激緩和のための装置である、方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法であって、
前記装置が、セドロールに加えて、セドロール以外のスギの精油成分を空気中に放出する、方法。
【請求項10】
空気中の汚染物質を除去する装置の製造方法であって、
スギ材を、乾燥室の中に収容できる大きさに切断する工程、
切断されたスギ材を該乾燥室の中に収容し、遠赤外線を照射しながら、35℃〜60℃の温度で該スギ材を乾燥させる工程、および
該乾燥を行ったスギ材の木口面以外の面に切削加工を行って木口面を露出させる工程
を包含する、方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、
前記木口面を露出させる工程において、スリットを形成する、方法。
【請求項12】
請求項10または11に記載の方法であって、
前記スギ材を乾燥させる工程が、40℃〜60℃の温度で行われる、方法。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれか1項に記載の方法であって、
前記スギ材を乾燥させる工程が、スギの含水率が、全乾燥時の重量を基準とした含水率として5〜15%程度になるまで行われる、方法。
【請求項14】
請求項10〜13のいずれか1項に記載の方法であって、
前記汚染物質が二酸化窒素、オゾン、またはホルムアルデヒドから選択される、方法。
【請求項15】
請求項11に記載の方法であって、
前記スリットが複数形成され、該スリットの幅が1mm以下50mm以下であり、深さが1mm以上50mm以下であり、長さが10mm以上2000mm以下であり、1つのスリットと次のスリットとの間の間隔が1mm以下50mm以下である、方法。
【請求項16】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法であって、
前記装置が、セドロールを空気中に放出し、かつ空気中の汚染物質を除去する装置である、方法。

【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−254226(P2012−254226A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129628(P2011−129628)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【出願人】(508346527)社団法人大阪府木材連合会 (3)
【出願人】(500122433)有限会社ホームアイ (2)
【Fターム(参考)】