説明

遠隔ガス流速計測方法及び遠隔ガス流速計測装置

【課題】ダストが多い悪環境においても、ダストによる波動の減衰の影響を受け難く遠隔の所定位置のガス流速を、比較的簡単な機器構成で高精度に計測できるようにする。
【解決手段】いわゆるマイクロ波或いはミリ波と呼ばれる電磁波を波動として用いており、その波長はmm〜cmオーダであるため、通常の直径が約0.1〜1mm程度のダスト粒子が多い雰囲気では、若干の散乱波が生ずると同時にそれらの電磁波の透過性が確保されるので、送信アンテナ23及び受信アンテナ24から比較的離れた遠隔の場所でもガス流速の計測が可能となり、さらに、電磁波を擬似ノイズで変調した電磁波を送信し、受信された散乱波を擬似ノイズで相関処理を施して検出するため、微弱な散乱波を高感度或いは高ノイズ抑制性能をもって検出できるので、送信アンテナ23及び受信アンテナ24から遠隔な場所の微弱な散乱波を検出し、ガス流速の計測が可能となるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば高炉炉頂部など高温で粉塵が多い悪環境下において、遠隔的に所定位置のガス流速を計測するための遠隔ガス流速計測方法及び遠隔ガス流速計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、竪型炉の代表例である高炉における操業安定化を図るためには、高炉内のガス流速分布を把握することは極めて重要である。具体的には、高炉炉頂の中心部から炉壁まで全域に亘るガス流速分布を計測することが要請されている。
【0003】
高炉炉頂部の半径方向のガス流速分布を把握する手段としては、例えば、炉頂部の挿入物上方に水平ゾンデを挿入して炉頂ガス温度分布を計測することが行われている。また、炉頂部の挿入物上方に挿入される水平ゾンデにレーザドップラー速度計を設置し、炉頂ガス流に随伴して空間内を上昇するダスト粒子の速度を半径方向の各点で測定する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、産業上の応用分野は異なるものの、自動車車載用の衝突防止レーダ装置において、他自動車などの遠隔の測定対象の位置及びその速度を計測する手段として、マイクロ波或いはミリ波を搬送波とし、これに擬似ノイズを変調したスペクトル拡散波を用いたレーダ装置も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−174737号公報(第2頁、第1図)
【特許文献2】特開平5−256936号公報(第2〜4頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、炉頂部において原料の上方に挿入された水平ゾンデに設けられた温度計により半径方向の温度分布を計測する方法では、計測された温度分布から間接的にモデル計算によりガス流速を推定する程度のものであり、操業に役立つだけの十分な精度をもってガス流速を推定することは極めて困難である。
【0007】
例えば、特許文献1に示されるような水平ゾンデにレーザドップラー速度計を設置してガス流速を計測しようとする方法は、レーザ光の波長が短いため炉頂部のダストの影響を受けやすいことによりレーザ光の伝播が極めて近距離の内に減衰してしまうので、せいぜいレーザ距離計の極近傍のガス流速しか測れず、本来計測したい原料直上のガス流速は測定困難であるという問題がある。さらに、レーザドップラー速度計の極近傍のガス流速を計測できたとしても、炉頂部に設置されるレーザドップラー速度計などの光学的計測器に対しては、その汚れ防止或いは冷却のため、通常はエアーパージを行う。このエアーパージの気流により、特に、センサ近傍のガス流速が乱れてしまい、正確なガス流計測が困難になるという問題もある。
【0008】
一方、特許文献2に示されるように、自動車の衝突防止を目的とした遠隔の対象物との距離とその相対速度を計測するドップラーレーダ方式として、擬似ノイズ信号によりミリ波或いはマイクロ波などの電磁波を変調してアンテナから送出し、対象物からの反射波をアンテナで受信し、その受信信号と参照用擬似ノイズ信号との相関が最大となるような参照用擬似ノイズ信号の遅延時間からその反射物までの距離を測定し、同時に対象物の相対速度に起因するドップラー効果により生ずる受信信号の周波数変化を、前記相関が最大となるような参照用擬似ノイズ発生用クロック信号の周波数を変化させながら探すことにより検出し、遠隔の対象物の相対速度を計測する方法では、対象物が自動車のように相当の大きさを持ち、そこからの反射信号が明確に存在する場合には有効であるが、高炉中のように空間中に広く分散して飛ぶダストからの微弱な多数の散乱波が重なり合ったようないわゆるバックスキャッタ状の信号に対しては、反射波と参照用擬似ノイズとの相関が最大となるようなことは発生しないので、適用が不可能である。
【0009】
また、特許文献2では、対象物の相対速度を検出するため、擬似ノイズの発生周波数に対するドップラー効果を検出しようとするものであるが、擬似ノイズ発生周波数、すなわち擬似ノイズ発生用のクロック信号の周波数は比較的低いため、ドップラー効果による周波数変化も小さく、高精度が得にくいという問題もある。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ガス流に随伴して流れる微小粒子を対象とした電磁波ドップラーレーダ方式の速度計測において、ダストが多い悪環境においても、ダストによる波動の減衰の影響を受け難く遠隔の所定位置のガス流速を、比較的簡単な機器構成で高精度に計測することができる遠隔ガス流速計測方法及び遠隔ガス流速計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる遠隔ガス流速計測方法は、電磁波を搬送波とするドップラーレーダ方式の遠隔ガス流速計測方法において、基本クロック信号を生成する工程と、基本クロック信号により生成され同一の符号パターンを有し測定対象空間を特定するために相対的な遅延時間が設定されるようにした2つの擬似ノイズを生成する工程と、測定対象空間の位置に対応した前記相対的な遅延時間を設定する工程と、搬送波を発する工程と、該搬送波を一方の前記擬似ノイズで変調して変調波を得る工程と、該変調波をガス流速測定対象空間に向けて送出する工程と、該ガス流速測定対象空間内の粒子からの散乱波を受信する工程と、該受信信号を他方の前記擬似ノイズで復調する工程と、復調信号を前記搬送波で同期検波して同期検波信号を得る工程と、前記同期検波信号に含まれる周波数成分を解析する工程と、前記同期検波信号に含まれる周波数から前記ガス流速測定対象空間内のダスト粒子の速度を算出する工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかる遠隔ガス流速計測方法は、上記発明において、前記ダスト粒子の速度を算出する工程は、同期検波信号に含まれる周波数分布のうち、高周波数側で強度が所定閾値となるときの周波数である最も高い周波数を用いてダスト粒子の速度を算出することを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかる遠隔ガス流速計測方法は、電磁波を搬送波とするドップラーレーダ方式の遠隔ガス流速計測方法において、基本クロック信号を生成する工程と、基本クロック信号により生成され同一の符号パターンを有し測定対象空間を特定するために相対的な遅延時間が設定されるようにした2つの擬似ノイズを生成する工程と、搬送波を発する工程と、該搬送波を一方の前記擬似ノイズで変調して変調波を得る工程と、該変調波を竪型炉内のガス流速測定対象空間に向けて送出する工程と、該ガス流速測定対象空間内のガス流速に随伴するダスト粒子からの散乱波を受信する工程と、該受信信号を他方の前記擬似ノイズで復調する工程と、復調信号を前記搬送波で同期検波して同期検波信号を得る工程と、該同期検波信号から同期検波信号の強度を評価する工程と、前記同期検波信号の強度が最大となる測定対象空間位置の直上が原料部直上の位置として測定対象空間となるように前記2つの擬似ノイズの相対的な遅延時間を設定する工程と、前記同期検波信号に含まれる周波数成分を解析する工程と、前記同期検波信号に含まれる周波数から前記ガス流速測定対象空間内のダスト粒子の速度を算出する工程と、を含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかる遠隔ガス流速計測方法は、上記発明において、前記ダスト粒子の速度を算出する工程は、同期検波信号の周波数成分の最大強度が一定の大きさよりも大きい場合に、当該ガス流速計測が有効であると判定する工程を含むことを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかる遠隔ガス流速計測装置は、電磁波を搬送波とするドップラーレーダ方式の遠隔ガス流速計測装置において、基本クロック発生器と、基本クロック信号により生成され同一の符号パターンを有し測定対象空間を特定するために相対的な遅延時間が設定されるようにした2つの擬似ノイズを生成する相互遅延制御擬似ノイズ発生器と、測定対象空間の位置に対応した前記相対的な遅延時間を設定するための測定位置設定器と、搬送波発生器と、該搬送波発生器が発する搬送波を一方の前記擬似ノイズ発生器で生成された前記擬似ノイズで変調して変調波を得るための変調器と、該変調波をガス流速測定対象空間に向けて送出するための送信アンテナと、該ガス流速測定対象空間内の粒子からの散乱波を受信するための受信アンテナと、該受信信号を他方の前記擬似ノイズ発生器で生成された前記擬似ノイズで復調するための復調器と、復調信号を前記搬送波で同期検波して同期検波信号を得るための同期検波器と、該同期検波信号に含まれる周波数成分を解析するための周波数解析器と、該同期検波信号に含まれる周波数から前記ガス流速測定対象空間内のダスト粒子の速度を算出するための速度算出器と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明にかかる遠隔ガス流速計測装置は、上記発明において、前記速度算出器は、同期検波信号に含まれる周波数分布のうち、高周波数側で強度が所定閾値となるときの周波数である最も高い周波数を用いてダスト粒子の速度を算出することを特徴とする。
【0017】
また、本発明にかかる遠隔ガス流速計測装置は、電磁波を搬送波とするドップラーレーダ方式の遠隔ガス流速計測装置において、基本クロック発生器と、基本クロック信号により生成され同一の符号パターンを有し測定対象空間を特定するために相対的な遅延時間が設定されるようにした2つの擬似ノイズを生成する相互遅延制御擬似ノイズ発生器と、搬送波発生器と、該搬送波発生器が発する搬送波を一方の前記擬似ノイズ発生器で生成された前記擬似ノイズで変調して変調波を得るための変調器と、該変調波を竪型炉内のガス流速測定対象空間に向けて送出するための送信アンテナと、該ガス流速測定対象空間内のガス流速に随伴するダスト粒子からの散乱波を受信するための受信アンテナと、該受信信号を他方の前記擬似ノイズ発生器で生成された前記擬似ノイズで復調するための復調器と、復調信号を前記搬送波で同期検波して同期検波信号を得るための同期検波器と、該同期検波信号から同期検波信号の強度を求める反射強度評価器と、前記同期検波信号の強度が最大となる測定対象空間位置の直上が原料部直上の位置として測定対象空間となるように前記2つの擬似ノイズの相対的な遅延時間を設定する測定位置設定器と、前記同期検波信号に含まれる周波数成分を解析するための周波数解析器と、前記同期検波信号に含まれる周波数から前記ガス流速測定対象空間内のダスト粒子の速度を算出するための速度算出器と、を備えたことを特徴とする。
【0018】
また、本発明にかかる遠隔ガス流速計測装置は、上記発明において、前記速度算出器は、同期検波信号の周波数成分の最大強度が一定の大きさよりも大きい場合に、当該ガス流速計測が有効であると判定する計測有効性判定部を備えたことを特徴とする。
【0019】
また、本発明にかかる遠隔ガス流速計測装置は、上記発明において、前記送信アンテナ及び前記受信アンテナを高炉炉頂部内部の積載された原料の上方に移動できるように設置し、積載された原料の直上の限定された範囲におけるガス流に随伴して上昇するダスト粒子からの散乱波を測定対象とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ガス流に随伴して流れる微小粒子を対象とした電磁波ドップラーレーダ方式の速度計測において、ダストが多い悪環境においても、ダストによる波動の減衰の影響を受け難く遠隔の所定位置のガス流速を、比較的簡単な機器構成で高精度に計測することができる遠隔ガス流速計測方法及び遠隔ガス流速計測装置を提供することができる。
【0021】
すなわち、本発明によれば、いわゆるマイクロ波或いはミリ波と呼ばれる電磁波を波動として用いており、その波長はmmからcmのオーダであるため、通常の直径が約0.1〜1mm程度のダスト粒子が多い雰囲気では、若干の散乱波が生ずると同時にそれらの電磁波の透過性が確保される。したがって、送信アンテナ及び受信アンテナから比較的離れた遠隔の場所でもガス流速の計測が可能となる。さらに、電磁波を擬似ノイズで変調した電磁波を送信し、受信された散乱波を擬似ノイズで相関処理を施して検出するため、微弱な散乱波を高感度或いは高ノイズ抑制性能をもって検出できるので、送信アンテナ及び受信アンテナから遠隔な場所の微弱な散乱波を検出し、ガス流速の計測が可能となる。
【0022】
また、送信用に使用される擬似ノイズ信号とこれに対して所定の遅延時間を有する参照用擬似ノイズ信号は、基本クロック信号で例えば簡単なデジタル回路構成できるM系列信号(最長符号系列信号)を駆動して発生され、1ビット単位あるいは1ビットを複数分割した単位で相互の遅延時間を制御すればよいので、簡単な装置構成で自由に相互の遅延時間を設定した同一パターンの2つの擬似ノイズ信号が生成できる。これにより、上記遅延時間に対応するアンテナから任意の距離にある遠隔の所定位置におけるガス流速を簡単な装置構成で測定することができる。
【0023】
さらに、受信信号を参照用擬似ノイズで相関処理した後、搬送波で同期検波して得られる同期検波信号の強度から反射体の反射率の違い、すなわち粒子からの散乱波と積層された原料からの反射波の区別がつくので、積載原料との相対位置として2つの擬似ノイズ信号の遅延時間に相当する測定距離を調整することにより、ガス流速を測定すべき測定対象位置を自動的に自由に設定することができる。
【0024】
また、受信信号を参照用擬似ノイズで相関処理した後、搬送波で同期検波して得られる同期検波信号に含まれる周波数成分を解析してドップラー効果に基づく搬送周波数の変化を検出して速度を求める際に、搬送波の周波数はクロック周波数より比較的周波数が高いので、ドップラー効果も比較的大きくなり、精度の高い速度計測が可能となる。
【0025】
さらに、ガス流に随伴するダストの速度がガス流速と同一なものの、他に遅いダストが存在する場合には、検出されるドップラー周波数分布に低い周波数も存在するが、ガス流速より早い速度のダストは存在しないので、ドップラー周波数分布の最も高い周波数を検出することによって、ガス流速を精度高く計測することができる。
【0026】
また、ダストの濃度が薄い場合やガス流速が遅いためも随伴するダストが少ない場合には、ガス流速の計測が原理的にできなくなる限界をもたらすが、ドップラー周波数の強度が一定の大きさより大きい場合に有効と判断することによって、ガス流速を精度高く計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、実施の形態の遠隔ガス流速計測装置の構成例を示すブロック図である。
【図2】図2は、実施例1が適用される高炉炉頂部内の様子を示す概略断面図である。
【図3】図3は、実施例1の遠隔ガス流速計測装置の構成例を示すブロック図である。
【図4】図4は、擬似ノイズ発生器の構成例を示すブロック図である。
【図5】図5は、パルス列遮断制御器の構成例を示すブロック図である。
【図6】図6は、その動作例を示すタイムチャートである。
【図7】図7は、同期検波器の構成例を示すブロック図である。
【図8】図8は、周波数解析器の構成例を示すブロック図である。
【図9】図9は、実施例2の遠隔ガス流速計測装置の構成例を示すブロック図である。
【図10】図10は、シフトレジスタの構成例を示すブロック図である。
【図11】図11は、実施例3の遠隔ガス流速計測装置の構成例を示すブロック図である。
【図12】図12は、反射強度評価制御器の構成例を示すブロック図である。
【図13】図13は、実施例4の遠隔ガス流速計測装置の構成例を示すブロック図である。
【図14】図14は、同期検波信号による信号強度のドップラー周波数依存性の一例を示す図である。
【図15】図15は、同期検波信号の最大強度が大きい場合と小さい場合との一例を示す図である。
【図16】図16は、同期検波信号の信号強度に直流近傍のノイズが残された場合の一例を示す図である。
【図17】図17は、本実施例4により求めたガス流速と、ゾンデによって求めたガス温度およびガス組成から推定されたガス流速との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明にかかる遠隔ガス流速計測方法及び遠隔ガス流速計測装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、これらの実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0029】
本発明の実施の形態について図1に基づいて説明する。図1は、本実施の形態の遠隔ガス流速計測装置の構成例を示すブロック図である。本実施の形態の遠隔ガス流速計測装置は、基本クロック発生器11と、相互遅延制御擬似ノイズ発生器10と、搬送波発生器21と、変調器22と、送信アンテナ23と、受信アンテナ24と、復調器25と、同期検波器26と、測定位置設定器31と、周波数解析器32と、速度算出器33と、を備える。相互遅延制御擬似ノイズ発生器10は、擬似ノイズ発生器13a,13bを備える。
【0030】
基本クロック発生器11は、同一な2つの基本クロック信号を発生するためのものである。相互遅延制御擬似ノイズ発生器10は、基本クロック信号により生成され同一の符号パターンを有し測定対象空間を特定するために相対的な遅延時間が設定されるようにした2つの擬似ノイズを生成するためのものである。
【0031】
また、搬送波発生器21は、搬送波を発生する。変調器22は、搬送波発生器21が発する搬送波を一方の擬似ノイズ発生器13aで生成された擬似ノイズで変調して変調波を得るためのものである。送信アンテナ23は、変調波をガス流速測定対象空間に向けて送出するためのものである。受信アンテナ24は、ガス流速測定対象空間内の粒子からの散乱波を受信するためのものである。復調器25は、受信信号を他方の擬似ノイズ発生器13bで生成された擬似ノイズで復調するためのものである。同期検波器26は、復調信号を搬送波で同期検波して同期検波信号を得るためのものである。
【0032】
また、測定位置設定器31は、ガス流速測定対象空間を特定するために2つの基本クロック信号に対するパルス遮断時間を各々設定するためのものである。周波数解析器32は、同期検波信号に含まれる周波数成分を解析するためのものである。速度算出器33は、同期検波信号に含まれる周波数からガス流速測定対象空間内のダスト粒子の速度を算出するためのものである。
【0033】
ここで、搬送波発生器21により、いわゆるミリ波或いはマイクロ波と呼ばれる電磁波を発信させて搬送波とする。ミリ波或いはマイクロ波の波長は、mmからcmのオーダであり、高炉などにおける通常のダスト粒径が0.1〜1mm程度であることから、搬送波の波長におけるダスト粒子の散乱はレーリー散乱の範疇である。すなわち、電磁波の散乱は、微小ながら存在し、かつ、伝播に対する減衰の影響が少なく透過性もある条件となる。したがって、ダスト中でもある程度の遠隔の場所がガス流速の計測対象となる。
【0034】
搬送波は、相互遅延制御擬似ノイズ発生器10中に存在する擬似ノイズ発生器13aで発生した擬似ノイズを用いて変調器22で位相変調すると、搬送波のスペクトルは拡散され、いわゆるスペクトル拡散状態となる。このスペクトル拡散波は、送信アンテナ23を介して測定対象へ向けて送信される。
【0035】
送信波は、空中のダスト粒子によって散乱される。散乱を起こすダスト粒子は、空間中に多量に存在し、必ずしも遠隔の測定対象範囲に存在する粒子だけでなく、ガス流測定にとって不要な散乱波も少なからず存在する。したがって、測定対象範囲に存在する粒子からの散乱波を受信処理の中で選択的に検出することが必要となるが、この点について以下に説明する。
【0036】
まず、これらの多くの散乱波は、受信アンテナ24によって受信され、相互遅延制御擬似ノイズ発生器10中に存在する擬似ノイズ発生器13bで発生される参照用の擬似ノイズ信号を用いて復調器25で復調される。
【0037】
ここで、擬似ノイズ発生器13bで発生される参照用の擬似ノイズ信号は、擬似ノイズ発生器13aで発生される送信用の擬似ノイズ信号とパターンは同一であるが、相互の遅延時間が異なるように設定されている。このとき、送信用の擬似ノイズ信号が搬送波を介して送信されダスト粒子で散乱され受信アンテナ24で受信され、復調器25に到達するまでの伝播時間と参照用擬似ノイズ信号の送信用擬似ノイズ信号に対する遅延時間とが同一となると、復調器25の出力は元の搬送波が再生され、位相が揃ったコヒーレントな信号が得られる。このコヒーレントな信号は、ダスト粒子の速度によるドップラー効果により周波数が変化している。したがって、このコヒーレントな信号を、搬送波を用いて同期検波器26により同期検波すると、この同期検波信号に含まれる周波数成分は、送信された搬送波の周波数がドップラー効果により変化した周波数変化分、すなわち速度情報を含んでいるので、これを周波数解析器32で解析し、速度算出器33で(1)式を用いて、測定対象範囲内のダスト粒子が選択的に検出され、その速度が測定できる。
【0038】
ドップラー効果による搬送波周波数の変化から、粒子の速度は、(1)式により算出できる。
Δf=f(2v/c) …(1)
ただし、Δfは送信搬送波の周波数に対する受信搬送波の周波数の変化分、cは光速、vはダスト粒子の速度(アンテナに近づく方向がプラス)である。
【0039】
一方、前述の伝播時間と遅延時間とが異なると、復調器25の出力信号は位相がランダムのままで、スペクトル拡散状態が維持される。この復調信号に対して搬送波を用いて、同期検波器26で同期検波した出力は、ノイズ状態となり、周波数解析器32において実質的に消滅する。
【0040】
次に、遠隔の測定対象範囲を設定する方法について説明する。前述したように、測定対象範囲56は、送信用の擬似ノイズ信号が搬送波を介して送信されダスト粒子で散乱され受信アンテナ24で受信され、復調器25に到達するまでの伝播時間と参照用擬似ノイズ信号の送信用擬似ノイズ信号に対する遅延時間とが同一となるようなアンテナからの距離の位置の範囲が測定対象範囲となる。
【0041】
一方、測定対象の範囲、すなわち空間的幅は、擬似ノイズの1ビット分の伝播時間に相当する空間的幅となる。これは、2つの擬似ノイズの相互相関が2ビット分に跨り、この時間が往復伝播距離に相当するので、測定範囲は擬似ノイズの1ビット分の伝播距離となるからである。電磁波レーダによる一般的な距離測定においては擬似ノイズの1ビット単位あるいは1ビットの複数分割の距離測定分解能では不十分であるものの、本発明で目的とする通常のガス流速測定の場合であれば、測定対象範囲は、擬似ノイズの1ビット分の空間的幅で1ビット単位あるいは1ビットの複数分割単位の位置特定性能で十分な場合が多い。そこで、本発明では、2つの擬似ノイズの相互遅延時間を1ビット単位あるいは1ビットの複数分割単位で制御する。
【0042】
具体的に、2つの擬似ノイズの相互遅延を1ビット単位で制御する方法については、実施例で後述するが、例えば、基本クロック信号からそのパルスを適宜遮断して作られた2種類のクロック信号により各々で2つの擬似ノイズ信号を生成する方法や、基本クロック信号で1つの擬似ノイズを生成しておきそれをシフトレジスタのようなデジタル的な遅延素子を通過させ任意の遅延量をもった2つの擬似ノイズを取り出す方法などが考えられる。また、1ビットの数数分割単位の遅延量を得るためには、それらに相当する遅延量を持つ数種類の遅延線を設けて切り替えると同時に前述の1ビット単位での遅延方法とくみあわせることで実現できる。いずれにしても、相互遅延制御擬似ノイズ発生器10中では、擬似ノイズ発生器13aと擬似ノイズ発生器13bとが設けられているという表現になる。
【0043】
このようにして、相互遅延制御擬似ノイズ発生器10で作られる1ビット単位あるいは1ビットの複数分割単位で遅延量が制御された2つの擬似ノイズにより、測定対象範囲は自由に変更設定できる。
【0044】
(実施例1)
本発明の実施例1について図2〜図7を参照して説明する。本実施例1は、高炉炉頂における遠隔の特定位置におけるガス流速をその測定対象範囲内に存在するダスト粒子の速度を検出することで測定する場合への適用例を示す。図2は、高炉炉頂部内の様子を示す概略断面図である。本実施の形態2では、竪型炉である高炉51の炉頂部51aに設けた水平ゾンデ53の先端に本実施の形態2によるガス流速測定装置の送信アンテナ23及び受信アンテナ24を設置し、水平ゾンデ53を炉頂部51a内に挿入するタイミングで、アンテナ23,24から下方の凡そ2.0〜2.6mの位置において、指定された測定対象範囲56内のガス流速を測定したものである。図2中、高炉51に対しては原料投入シュート52が設けられ、高炉51内には原料54が投入されている。また、高温の原料54からは炉頂ガスのガス流55が上方向きに形成されているため、ダスト粒子41もこのガス流55に随伴されて上方へと飛行している。
【0045】
また、図3において、本実施例の相互遅延制御擬似ノイズ発生器10は、パルス列遮断制御器12a,12bと、擬似ノイズ発生器13a,13bとからなる。2つのパルス列遮断制御器12a,12bは、基本クロック発生器11から発生した2つの基本クロック信号のパルス列を測定位置設定器31により設定される各々のパルス遮断時間だけ遮断して得られる2つのクロック信号を生成するためのものである。
【0046】
図3において、本実施例では、搬送波発生器21により100GHzのミリ波を発生させた。このミリ波の波長は、3mmであるのに対して、ダスト粒子41の直径は0.05〜1mm程度が主成分であったので、ダスト粒子41による散乱は、レーリー散乱の条件が満たされていた。
【0047】
また、基本クロック発生器11からは、800MHzの基本クロックを発生させた。パルス列遮断制御器12a,12bは、図5に示すような同一のデジタル回路で構成した。すなわち、任意の時間長のパルス遮断指令信号123が1つ入力されると、図6に示すように、基本クロック信号121のパルスが1つ遮断されたクロック信号122を出力するように構成されている。このとき、1つのパルス遮断指令信号123に対して基本クロック信号121と同期して確実に1つだけパルスを遮断するように回路が構成されている。このため、パルス列遮断制御器12a,12bは、パルス遮断指令信号123が入力されるワンショットパルス発生器125と、ワンショットパルス発生器125の出力が入力されるANDゲート126と、ANDゲート126の入力がS端子に入力されるフリップフロップ127と、基本クロック信号121とフリップフロップ127からのパルス通過信号124とが入力されるANDゲート128とにより構成されている。
【0048】
基本クロック信号121の周波数は800MHzであるから、1つのクロックパルスを遮断する度に、測定対象範囲56の距離を0.1875m単位で調整することができる。また、この場合、測定対象範囲56の長さも0.1875mとなる。これらの条件から、水平ゾンデ53に設置した送信アンテナ23及び受信アンテナ24の高炉51内の水平位置に対応して変化する原料54までの位置を予め求めておき、いつも原料54の積層の直上が測定対象範囲56となるように、測定位置設定器31からパルス遮断指令信号123a,123bをパルス列遮断制御器112a,112bに各々出力する。このように、パルス列遮断制御器112a,112bは、各々パルス遮断指令信号123a,123bに従って、基本クロック信号121のパルスが適宜遮断されて作られたクロック信号122a.122bで擬似ノイズ発生器13a,13bを駆動する。
【0049】
擬似ノイズ発生器13a,13bは、図4に示すように、同一なM系列信号発生回路で構成した。すなわち、このM系列信号発生回路は、クロック信号122に同期して動作する7段のシフトレジスタ131の一部の出力信号を、排他的論理和を算出する排他的ORゲート132を介して初段にフィードバックするように構成されている。このような循環回路からは、周期127パルスの擬似ノイズ信号が得られる。この周期は、測定距離に換算すると、127×0.1875=23.8mとなり、この距離は送信アンテナ23や受信アンテナ24から測定対象までの距離及びアンテナ23,24やそれに付随する導波管での伝播も含めた伝播距離に十分対応できる。
【0050】
変調器22、復調器25は、ダブルバランスミキサーなどの汎用的な部品で構成した。送信アンテナ23及び受信アンテナ24としては、高炉51の炉頂部51a内の高温環境を考慮して内部をエアーパージした金属製のホーンアンテナと導波管を用い、比較的環境の良好な場所に設置した本装置本体と接続した。受信アンテナ24で受信された受信信号は、復調器25で復調され、同期検波器26に入力される。
【0051】
同期検波器26の構成例を図7に示す。搬送波発生器21で発生された搬送波を分岐して参照波とし、この参照波とこの参照波を位相変換器261で90°位相を変化させた信号との2系統の参照信号を生成し、乗算器262,263によってこれらと復調信号(被検波信号)との乗算を各々行い、同相成分であるI信号と直交成分のQ信号とを得る。
【0052】
周波数解析器32の構成例を図8に示す。同期検波器26で得られたI信号は実部、Q信号は虚部として、I+iQ(iは虚数単位)となるような複素数の加算器321で加算したあと、高速フーリエ変換器322で周波数を解析した。この処理で検出された周波数から速度算出器33において(1)式に従ってダスト粒子41の速度、すなわちガス流速を算出した。解析されて検出された周波数は一定値ではなく、分布している場合があった。この場合には、周波数分布の内、最高周波数をもって速度算出に適用した。
【0053】
なお、高周波回路において、各部品間の不整合による反射波の影響をなくすために挿入されるべき方向性結合器或いは各部品の信号レベルを整合させるための増幅器などは、適宜必要に応じて挿入されるが、本実施例では、本質的なことではないので、それらについての記述は省略した。
【0054】
また、同期検波器26の構成は、図7に示したもの以外にも、以下に述べるような構成であってもよい。すなわち、別途に局部発振器を設け、これから出力される局部発振信号と、搬送波発生器21で発生された搬送波を局部発振信号と乗算して低周波に変換された中間周波数信号を分岐し、この参照波とこの参照波を位相変換器で90度位相変化させた信号の2系統の中間周波数参照信号を作る。一方、復調信号と局部発振信号とを乗算して低周波に変換された中間周波数復調信号を作る。この中間周波数復調信号と2系統の中間周波数参照信号とを各々乗算し、同相成分であるI信号と直交成分のQ信号とを得る。このように中間周波数を用いた同期検波も適用できる。
【0055】
本実施例1によれば、高炉51の炉頂部51aのガス流速分布は、中央部が速くなっていることが実際測定され、高炉51がいわゆる棚釣り状態などの不調状態に陥ると、このガス流速分布が乱れることが測定できた。この高炉51の炉頂部51aのガス流速分布の計測値から原料挿入方法などの操業改善が容易かつ迅速に行えるようになった。
【0056】
(実施例2)
本発明の実施例2を図9に基づいて説明する。実施例2は、相互遅延制御擬似ノイズ発生器10の構成を実施例1と異ならせたものである。実施例2では、基本クロック信号発生器11で発生させた基本クロック信号で1つの擬似ノイズ発生器13を駆動して発生させた擬似ノイズを擬似ノイズ13cとして発生させる。また、この擬似ノイズをビット単位遅延器14で任意に設定したビット単位の遅延量だけ遅延させた擬似ノイズを擬似ノイズ13dとして発生させる。
【0057】
具体的なビット単位遅延器14の構成例を図10に示す。すなわち、擬似ノイズ発生器13で生成された擬似ノイズをシフトレジスタに入力し、シフトレジスタは、基本クロック信号で順次シフトされていくので、シフトレジスタの中にはピット単位で遅延された擬似ノイズが蓄積される。そこで、測定位置設定器31からの信号に相当する遅延量の擬似ノイズが収められているレジスタを選択し、そこから擬似ノイズを擬似ノイズ13dとして出力する。さらに、1ビットを複数分割した遅延量を持つ数種類の遅延線を切り替えられえるようにして追加すれば、遅延量を比較的細かく制御できるようになる。相互遅延制御擬似ノイズ発生器10の構成以外の動作は、実施例1と同様である。
【0058】
(実施例3)
本発明の実施例3を図11および図12に基づいて説明する。実施例1,2では、測定対象範囲56を予め設定しておき、これに応じて2つの擬似ノイズの遅延時間差を設定するようにしたが、本実施例3は、高炉51の炉頂部51aにおける原料積載部分の上面の位置を自動的に認識して、測定対象範囲56を自動的に設定するようにしたものである。
【0059】
仮に、測定対象範囲56が原料積載表面部に相当するような設定になっていると、原料積載表面から強い反射波が戻ってくる。一方、散乱波は、比較的弱い信号として検出される。したがって、検出される信号強度を評価すれば、原料表面が測定対象範囲56に含まれているか否かを判断できるようになる。このため、図11に示すように、同期検波器26で得られた同期検波信号を反射強度評価器34においてその強度を評価できるようにした。
【0060】
図12は、反射強度評価器34の構成例を示すブロック図である。すなわち、同期検波器26で得られたI信号とQ信号とを各々二乗器341,342で2乗した後、加算器343で加算することで、反射波強度の2乗の値を得ることができる。
【0061】
図8において、測定位置設定部31では、測定対象範囲56を少しずつ変化させて、原料積載表面を探し、その原料積載表面の直上が測定対象範囲56となるように設定できるようにした。例えば、測定対象範囲56をアンテナ23,24から少しずつ離しながら反射強度を評価し、急激に反射強度が大きくなる位置を探せば、その位置が原料積載表面の位置と判断できる。そこで、今度は、その原料積載表面の位置から少し測定対象範囲56をアンテナ23,24方向に近づければ、その位置が本来ガス流速を計測したい原料積載表面の直上位置となる。このようにして、本実施例3によれば、自動的にガス流速を計測するために最適な測定対象範囲56を設定でき、高精度なガス流速の計測が可能となる。
【0062】
(実施例4)
図13は、本発明の実施例4の構成を示すブロック図である。実施例1では、速度算出器33が、ドップラー周波数分布のうち、最高周波数をもって速度の算出をするようにしていたが、この実施例4では、速度算出器33による、この最高周波数の算出の具体例を示すとともに、図13に示すように、速度算出器33に、この速度計測が有効であるか否かを判定する計測有効判定部33aを設けている。
【0063】
一般に、単一ターゲットの速度を計測するための通常のドップラー速度計では、同期検波信号の中に、その速度に対応した単一のドップラー周波数が検出される。しかし、ガス流に随伴するダストの多くの速度はガス流速に等しくなるものの、その一部は、特に比較的大きなダストは、ガス流速よりも遅くなるものがある。このため、同期検波信号は周波数分布をもつことになる。ガス流に随伴するダストの速度は、ガス流速より大きいものは存在しないので、同期検波に含まれる周波数分布は、図14に示すような強度パターンとなる。そこで、この周波数分布のうち最も高い周波数を検出し、この最も高い周波数に対応するダストの速度を算出し、この速度をもってガス流速とみなすことが妥当となる。
【0064】
また、図14に示されるようなドップラー周波数分布の強度は、ダストの濃度やガス流速によって変化するが、この強度が一定の強さ以上であることが、本計測原理の前提となる。そこで、計測有効性判定部33aは、当該計測の有効性を自動的に判定するために、この周波数分布の強度が一定の値より大きいことを確認するようにしている。
【0065】
まず、速度算出器33による最高周波数の具体的決定処理について説明する。図14は、本実施例4で得られた典型的な同期検波信号の周波数分布を示している。ダスト粒子の直径は、数μmから数百μmの大きさである。そのうち、数十μm以下のダスト粒子は、ガス流速とほぼ同じ速度を有しているが、数十μm以上のダストはガス流速より遅い速度で運動するため、同期検波信号に含まれる周波数分布は、図14のように、やや台形状にとなり、低い周波数側に引きずられた分布となる。ガス流に随伴して運動するダスト粒子の速度は、ガス流速より速くはならないので、この周波数分布の最高周波数fmaxを求めれば、ガス流と同じ速度で随伴するダスト粒子の速度を求めることができる。このため、図14の周波数分布のデータから、まず、その分布の最大強度Pmaxと、ダストの無い状態すなわち無信号状態におけるノイズレベルとして得られる最小強度Pminとを求め、次式でもとまる閾値Pthを求めた。
Pth=Pmin+(Pmax−Pmin)×Cth …(2)
なお、Cthは閾値係数であり、Cth=0.2としている。
【0066】
この閾値Pthが求まると、同期検波信号の周波数解析データでの高周波側において、図14に示すように、この閾値Pthと交差するような周波数を最高周波数fmaxとして決定する。そして、この最高周波数fmaxを、式(1)におけるΔfに代入して、速度vを求め、この求めた値をガス流速とした。
【0067】
ところで、ガス流速が同じでも、ダスト粒子の濃度が小さいとダスト粒子からの散乱波も小さくなるので、図15に示すように、周波数成分の強度Pも小さくなり、前述したような方法でガス流速を求めることができなくなる場合がある。そこで、計測有効性判定部33aは、同期検波信号の周波数解析データから最大強度Pmaxがある一定値Pmaxth以上となった場合に、その計測が有効であることを判定するための有効性判定を行っている。
【0068】
なお、本実施例では、送信アンテナ23と受信アンテナ24との間の漏洩波や原料からの反射波は測定対象範囲56の外側に設定できるので、擬似ノイズ信号を用いた変調・復調により排除できるものの、この効果には限界もあり、残留信号が残る場合もある。この場合、図16に示すように、同期検波信号の周波数解析データの直流近傍に、直流成分とその揺らぎに起因する低周波成分が現れ、前述の速度算出計算や有効性判定に支障をもたらすことがある。そこで、これらのデータ処理をする前に、同期検波信号の周波数解析データから直流近傍のデータを排除する事前処理を施しておくことが好ましい。
【0069】
図17は、本実施例によるガス流速の速度計測結果と、比較的安定した高炉操業においてゾンデを用いて得えられたガスの温度とガス組成とからそのガス流速を推定した推定結果との関係を示している。図17に示すように、本実施例で得られた計測結果とゾンデを用いて得られたガスの温度とガス組成とから推定した推定結果とは直線的な相関があり、傾向が一致し、本実施例によって、安定したガス流速を計測できることが理解できる。
【符号の説明】
【0070】
10 相互遅延制御擬似ノイズ発生器
11 基本クロック発生器
12a,12b パルス列遮断制御器
13a,13b 擬似ノイズ発生器
21 搬送波発生器
22 変調器
23 送信アンテナ
24 受信アンテナ
25 復調器
26 同期検波器
31 測定位置設定器
32 周波数解析器
33 速度算出器
33a 計測有効性判定部
34 反射強度評価器
41 ダスト粒子
56 測定対象範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を搬送波とするドップラーレーダ方式の遠隔ガス流速計測方法において、
基本クロック信号を生成する工程と、
基本クロック信号により生成され同一の符号パターンを有し測定対象空間を特定するために相対的な遅延時間が設定されるようにした2つの擬似ノイズを生成する工程と、
測定対象空間の位置に対応した前記相対的な遅延時間を設定する工程と、
搬送波を発する工程と、
該搬送波を一方の前記擬似ノイズで変調して変調波を得る工程と、
該変調波をガス流速測定対象空間に向けて送出する工程と、
該ガス流速測定対象空間内の粒子からの散乱波を受信する工程と、
該受信信号を他方の前記擬似ノイズで復調する工程と、
復調信号を前記搬送波で同期検波して同期検波信号を得る工程と、
前記同期検波信号に含まれる周波数成分を解析する工程と、
前記同期検波信号に含まれる周波数から前記ガス流速測定対象空間内のダスト粒子の速度を算出する工程と、
を含むことを特徴とする遠隔ガス流速計測方法。
【請求項2】
前記ダスト粒子の速度を算出する工程は、同期検波信号に含まれる周波数分布のうち、高周波数側で強度が所定閾値となるときの周波数である最も高い周波数を用いてダスト粒子の速度を算出することを特徴とする請求項1に記載の遠隔ガス流速計測方法。
【請求項3】
電磁波を搬送波とするドップラーレーダ方式の遠隔ガス流速計測方法において、
基本クロック信号を生成する工程と、
基本クロック信号により生成され同一の符号パターンを有し測定対象空間を特定するために相対的な遅延時間が設定されるようにした2つの擬似ノイズを生成する工程と、
搬送波を発する工程と、
該搬送波を一方の前記擬似ノイズで変調して変調波を得る工程と、
該変調波を竪型炉内のガス流速測定対象空間に向けて送出する工程と、
該ガス流速測定対象空間内のガス流速に随伴するダスト粒子からの散乱波を受信する工程と、
該受信信号を他方の前記擬似ノイズで復調する工程と、
復調信号を前記搬送波で同期検波して同期検波信号を得る工程と、
該同期検波信号から同期検波信号の強度を評価する工程と、
前記同期検波信号の強度が最大となる測定対象空間位置の直上が原料部直上の位置として測定対象空間となるように前記2つの擬似ノイズの相対的な遅延時間を設定する工程と、
前記同期検波信号に含まれる周波数成分を解析する工程と、
前記同期検波信号に含まれる周波数から前記ガス流速測定対象空間内のダスト粒子の速度を算出する工程と、
を含むことを特徴とする遠隔ガス流速計測方法。
【請求項4】
前記ダスト粒子の速度を算出する工程は、同期検波信号の周波数成分の最大強度が一定の大きさよりも大きい場合に、当該ガス流速計測が有効であると判定する工程を含むことを特徴とする請求項3に記載の遠隔ガス流速計測方法。
【請求項5】
電磁波を搬送波とするドップラーレーダ方式の遠隔ガス流速計測装置において、
基本クロック発生器と、
基本クロック信号により生成され同一の符号パターンを有し測定対象空間を特定するために相対的な遅延時間が設定されるようにした2つの擬似ノイズを生成する相互遅延制御擬似ノイズ発生器と、
測定対象空間の位置に対応した前記相対的な遅延時間を設定するための測定位置設定器と、
搬送波発生器と、
該搬送波発生器が発する搬送波を一方の前記擬似ノイズ発生器で生成された前記擬似ノイズで変調して変調波を得るための変調器と、
該変調波をガス流速測定対象空間に向けて送出するための送信アンテナと、
該ガス流速測定対象空間内の粒子からの散乱波を受信するための受信アンテナと、
該受信信号を他方の前記擬似ノイズ発生器で生成された前記擬似ノイズで復調するための復調器と、
復調信号を前記搬送波で同期検波して同期検波信号を得るための同期検波器と、
該同期検波信号に含まれる周波数成分を解析するための周波数解析器と、
該同期検波信号に含まれる周波数から前記ガス流速測定対象空間内のダスト粒子の速度を算出するための速度算出器と、
を備えたことを特徴とする遠隔ガス流速計測装置。
【請求項6】
前記速度算出器は、同期検波信号に含まれる周波数分布のうち、高周波数側で強度が所定閾値となるときの周波数である最も高い周波数を用いてダスト粒子の速度を算出することを特徴とする請求項5に記載の遠隔ガス流速計測装置。
【請求項7】
電磁波を搬送波とするドップラーレーダ方式の遠隔ガス流速計測装置において、
基本クロック発生器と、
基本クロック信号により生成され同一の符号パターンを有し測定対象空間を特定するために相対的な遅延時間が設定されるようにした2つの擬似ノイズを生成する相互遅延制御擬似ノイズ発生器と、
搬送波発生器と、
該搬送波発生器が発する搬送波を一方の前記擬似ノイズ発生器で生成された前記擬似ノイズで変調して変調波を得るための変調器と、
該変調波を竪型炉内のガス流速測定対象空間に向けて送出するための送信アンテナと、
該ガス流速測定対象空間内のガス流速に随伴するダスト粒子からの散乱波を受信するための受信アンテナと、
該受信信号を他方の前記擬似ノイズ発生器で生成された前記擬似ノイズで復調するための復調器と、
復調信号を前記搬送波で同期検波して同期検波信号を得るための同期検波器と、
該同期検波信号から同期検波信号の強度を求める反射強度評価器と、
前記同期検波信号の強度が最大となる測定対象空間位置の直上が原料部直上の位置として測定対象空間となるように前記2つの擬似ノイズの相対的な遅延時間を設定する測定位置設定器と、
前記同期検波信号に含まれる周波数成分を解析するための周波数解析器と、
前記同期検波信号に含まれる周波数から前記ガス流速測定対象空間内のダスト粒子の速度を算出するための速度算出器と、
を備えたことを特徴とする遠隔ガス流速計測装置。
【請求項8】
前記速度算出器は、同期検波信号の周波数成分の最大強度が一定の大きさよりも大きい場合に、当該ガス流速計測が有効であると判定する計測有効性判定部を備えたことを特徴とする請求項7に記載の遠隔ガス流速計測装置。
【請求項9】
前記送信アンテナ及び前記受信アンテナを高炉炉頂部内部の積載された原料の上方に移動できるように設置し、積載された原料の直上の限定された範囲におけるガス流に随伴して上昇するダスト粒子からの散乱波を測定対象とすることを特徴とする請求項7または8に記載の遠隔ガス流速計測装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2013−11582(P2013−11582A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245440(P2011−245440)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】