説明

遠隔X線透視装置および方法

【課題】被検査物から離れた位置から高いS/N比で後方散乱X線を検出することができ、これにより被検査物に接近することなく被検査物を透視検査することができる遠隔X線透視装置および方法を提供する。
【解決手段】広がり角が十分小さい高指向性のパルスX線3を周期的に発生するX線源12(逆コンプトン散乱X線源)と、パルスX線3を被検査物1に向けて走査するX線走査装置14と、被検査物内で発生する散乱X線3を検出する散乱X線検出器16と、被検査物内で発生する散乱X線のみを検出するように、散乱X線の検出をパルスX線の発生と同期させて制限する検出制御装置18とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検査物から離れた位置から被検査物を透視検査する遠隔X線透視装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線は波長が約0.1〜100Å(10-11〜10-m)程度の電磁波であり、このうち波長の短いX線(10〜100keV,λ=1〜0.1Å)を硬X線、波長の長いX線(0.1〜10keV,λ=100〜1Å)を軟X線という。また、物質に電子線などを当てた時に放射される、物質の構成元素固有の波長をもつX線を特性X線という。
【0003】
X線を物資に照射すると、X線と物質間の相互作用として、透過、吸収、および散乱が生じる。原子番号の大きい鉄等の金属と原子番号の小さい炭素、窒素、酸素等で構成されるプラスチックを比べると、吸収は金属の方が強いが、散乱はプラスチックの方が大きい。
このX線の後方散乱の性質を利用すると透過X線による方法ではとらえることができなかった軽元素の画像を得ることができる。この後方散乱X線を利用した装置として、例えば、特許文献1〜5が開示されている。
【0004】
一方、シンクロトロン放射光(SR光)は、環状加速器(シンクロトロン)において、光速に近い速度まで加速した電子ビームの軌道を強力な磁石で変化させ、その軌道変化の際に発生するX線である。SR光は、X線管に比べて桁違い(10倍以上)に強力なX線源であり(例えばX線強度(光子数):約1014photons/s、パルス幅:約100ps)、高いX線強度を必要とする分野で用いられる。
【0005】
しかし、シンクロトロンを用いた放射光施設は、シンクロトロンの長径が例えば50m以上、軌道長が100m以上に達する大型設備であるため、研究や医療用であっても容易には導入できない問題がある。そこで、小型の線形加速器を用いた小型X線発生装置が提案されている(例えば非特許文献1)。
【0006】
特許文献1の「透視装置」は、図6に示すように、人体56のような被検体に狭い断面の主X線ビーム54を照射し、検出装置58と視準装置59により検査しようとする人体構造57の陰影画像を得るものである。この場合、視準装置59により遮蔽される点状人体領域51は、「見掛け上の放射線源」とみなすことができる。
【0007】
特許文献2の「二次元撮像後方散乱プローブ」は、図7に示すように、放射線源60と放射線検出器62と放射線検出器に結合された位置感知装置64とを有し、プローブ(放射線源+検出器)を透視対象物の表面に沿って走査することにより対象物の透視像を得るものである。
この装置では、プローブの位置感知装置の信号と散乱X線の検出信号を関連付けることにより2次元透視像を再構成し、密輸品等の検知を目的に、放射線(X線等)の後方散乱放射線の検出により物体の透視像を得ている。
【0008】
特許文献3の「X線撮像装置」は、図8に示すように、X線映像装置のX線検出部72が、検査対象74に対してX線源78と同じ側に配置され、検査対象74による散乱X線を検出するものである。
この装置では、N×Nのマトリックス状に配置された検出部に到達する極めて微弱な後方散乱X線による撮像を可能とするため、検出器からのデータ読み出しを工夫している。
検出器からのデータ読み出しを個別に順次行う場合、1つの検出器データの読み出しに使用できる時間は許容される撮像時間の1/Nと極めて短時間となり、この読み出し時間間隔に当該検出器に到達するX線強度が極めて微弱となり撮像が困難となる。そこで、複数の検出器を直交変調パターンで動作させることにより、各検出器での有効測定時間を増加させ、微弱後方散乱X線での撮像を可能とし、像の再構成では、読み出した信号群に対して、信号読み出しの際に直交変調の逆変換を行い、各検出部での散乱X線強度に変換している。
【0009】
特許文献4の「散乱X線式欠陥検出装置およびX線検出装置」は、図9に示すように、X線源80から発生したX線をピンホール81,82を通して、微小断面積のペンシルビームとして対象物83に照射し、後方散乱X線の検出に円形スリット84と深さ方向の分解能を有する環状配置の検出器85を用いるものである。
入射X線の通過領域から円形スリットを通して検出器を望める領域が限定されるため、環状配置検出器の深さ方向の検出情報から、散乱X線の発生位置が特定できる。 これにより、対象物の深さ方向の断面情報が得られる。
【0010】
特許文献5の「散乱型放射線測定装置」は、地盤の締め固め度合いや含水率等を測定するのに用いられる装置であり、図10に示すように、放射線源96と被測定物92からの散乱放射線の検出器98からなる計測部が装置本体に可動自在に設置され、測定部と測定対象の距離を一定に保つ位置調整装置を有するものである。
これにより、表面に凹凸のある地盤でも精度の良い地盤測定評価を可能とする。また、装置本体自体を走行装置で走行自在としている。
【0011】
非特許文献1の「小型X線発生装置」は、図11に示すように、小型の加速器101(Xバンド加速管)で加速された電子ビーム102をレーザー103と衝突させてX線104を発生させるものである。RF電子銃105(熱RFガン)で生成されたマルチバンチ電子ビーム102はXバンド加速管101で加速され、パルスレーザー光103と衝突する。コンプトン散乱により、時間幅10nsの硬X線104が生成される。
この装置は、一般に線形加速器で用いられるSバンド(2.856GHz)の4倍の周波数にあたるXバンド(11.424GHz)を電子ビーム加速用のRFとして用いて小型化を図っており、例えばX線強度(光子数):約1×10photons/s、パルス幅:約10psの強力な硬X線の発生が予測されている。
【0012】
【非特許文献1】土橋克広、他、「Xバンドリニアックを用いた小型硬X線源の開発」、2002
【0013】
【特許文献1】特開昭57−86029号公報、「透視装置」
【特許文献2】特表2000−515629号公報、「二次元撮像後方散乱プローブ」
【特許文献3】特開2003−83916号公報、「X線撮像装置」
【特許文献4】特開2001−208705号公報、「散乱X線式欠陥検出装置およびX線検出装置」
【特許文献5】特開昭63−308550号公報、「散乱型放射線測定装置」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
税関や空港における手荷物検査等において、X線を被検査物に照射し、透過したX線の強度分布を画像化して内部の危険物(銃器等)を検出するX線検査装置が従来から広く用いられている。
しかし、従来のX線検査装置は、被検査物を透過したX線強度を検出するために、被検査物の背後にX線検出器を配置する必要がある。そのため、爆発物等の危険物を含む可能性のある不審物(被検査物)の検査であっても、不審物に接近することなく内部を透視検査することはできなかった。
【0015】
これに対して、特許文献1〜5の装置は、後方散乱X線を用いるため、被検査物の背後にX線検出器を配置する必要がなく、原理的には、正面から被検査物を検査することができる。
しかし、これらの従来装置は、X線源としてX線管(電子ビームを金属ターゲットに照射し、制動X線を発生させるもの)を用いるため、発生するX線の指向性が乏しく、離れた位置から被検査物に検査に十分な強度のX線ビームを照射することができなかった。
【0016】
また、被検査物と検査装置の距離が離れると、同一面積のX線検出器に到達する後方散乱X線の強度は、この距離の二乗に反比例して小さくなるため、後方散乱X線の信号強度が極めて微弱となる。
そのため、特許文献1〜5の装置では、被検査物から離れた位置で後方散乱X線を検出することも、ほとんど不可能に近かった。
【0017】
また、後方散乱X線の検出強度を向上させる手段として、X線検出器の検出面積を増加させることが考えられるが、この場合、大地および宇宙からの自然放射線の検出によるノイズも増大し、微弱な後方散乱X線の信号はノイズに埋もれ検出不可能である。
【0018】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、被検査物から離れた位置から高いS/N比で後方散乱X線を検出することができ、これにより被検査物に接近することなく被検査物を透視検査することができる遠隔X線透視装置および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明によれば、広がり角が十分小さい高指向性のパルスX線を周期的に発生するX線源と、
前記パルスX線を被検査物に向けて走査するX線走査装置と、
前記被検査物内で発生する散乱X線を検出する散乱X線検出器と、
前記被検査物内で発生する散乱X線のみを検出するように、前記散乱X線の検出をパルスX線の発生と同期させて制限する検出制御装置と、を備えたことを特徴とする遠隔X線透視装置が提供される。
【0020】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記X線源は、パルスX線の広がり角が1mrad以下、パルス幅が1μs以下、X線強度が10光子/cm/shot以上の逆コンプトン散乱X線源である。
【0021】
また、前記X線源は、異なる2波長のパルスX線を交互に周期的に発生する2波長X線源であるのが好ましい。
【0022】
また、前記散乱X線検出器は、積分像透視を目的とする場合は、時間分解能10ns程度以下で光子検出できる検出器が望ましく、断層透視を目的とする場合は、1ps以下の時間単位で散乱X線を連続して検出可能な高時間分解能検出器であるのが好ましい。
【0023】
また、断層透視を目的とする場合は、前記散乱X線検出器は、X線ストリークカメラである、ことが好ましい。
【0024】
また、前記散乱X線検出器の前面に、被検査物に対向しない方向からの自然放射線を遮断するシールドを備える、ことが好ましい。
【0025】
また、前記X線源、X線走査装置、散乱X線検出器、および検出制御装置を同一の車両上に搭載することが好ましい。
【0026】
また、本発明によれば、被検査物から離れた位置において、
広がり角が十分小さい高指向性のパルスX線を周期的に発生させ、
前記パルスX線を被検査物に向けて走査し、
前記パルスX線の発生と同期させて散乱X線の検出を制限し、被検査物内で発生する散乱X線のみを検出する、ことを特徴とする遠隔X線透視方法が提供される。
【発明の効果】
【0027】
上記本発明の装置および方法によれば、パルスX線の発生と同期させて散乱X線の検出を制限して、被検査物内で発生する散乱X線のみを検出するので、大地および宇宙からの自然放射線の影響を大幅に低減することができ、被検査物から離れた位置であっても高いS/N比で後方散乱X線を検出することができる。
【0028】
また、被検査物から離れた位置から、高指向性のパルスX線を被検査物に向けて走査し、被検査物から離れた位置で、被検査物内で発生する散乱X線を検出するので、被検査物に接近することなく被検査物を透視検査することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお各図において、共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0030】
はじめに本発明の原理について説明する。
【0031】
X線の波長は、約0.01〜100Å(10-12〜10-m)程度であり、波長λ[Å]と光量子エネルギーE[keV]との間には、式(1)の関係がある。
E=12.4/λ・・・(1)
従って、波長λ[Å]と光量子エネルギーE[keV]は1対1で対応している。
【0032】
またX線がある物質中をδzの距離透過する際の、散乱X線強度Iは、式(2)で表される。
I=∫I・exp(−2μ・z)・N・Z・σ・dz、ここで積分領域:z→z+δz ・・・(2)
ここで、Iは物質に入射する前のX線強度、Nは散乱物質の原子密度、Zは散乱物質の原子番号、σは散乱立体角αへのコンプトン散乱断面積であり、μは物質中でのX線減衰係数である。NとZは物質によって決まる定数であり、σは散乱立体角αとX線波長λによって決まる定数であり、μはX線波長λをパラメータとしてNとZの関数として与えられる。
【0033】
ある被写体に波長λのX線を透過させ、散乱X線のX線強度Iを計測する場合を想定する。
この場合、入射X線強度Iとコンプトン散乱断面積σが既知であれば、式(2)からN・Zが決まり、散乱物質のN・Z(原子密度と原子番号の積)を特定することができる。
【0034】
図1(A)は、散乱X線を用いた透視検査の原理図である。この図において、ある被写体に異なる波長λ,λの2種のX線を透過させ、散乱X線の各X線強度I,Iを計測する場合を想定する。
この場合、入射X線強度I10,I20とコンプトン散乱断面積σが既知であれば、式(2)から、式(3a)(3b)が得られる。
=∫I10・exp(−2μ1・z)・N・Z・σc1・dz・・・(3a)
=∫I20・exp(−2μ1・z)・N・Z・σc2・dz・・・(3b)
式(3a)(3b)における未知数は物質のNとZのみであり、この2式を解くことにより物質のNとZを求めることができ、散乱物質を特定することができる。
【0035】
図2は、本発明の遠隔X線透視装置の全体構成図であり、上方から見た状態を示している。
この図において、本発明の遠隔X線透視装置10は、X線源12、X線走査装置14、散乱X線検出器16、および検出制御装置18を備える。
これらのX線源12、X線走査装置14、散乱X線検出器16、および検出制御装置18は、この例では同一の車両20上に搭載されている。車両20は、例えば、トレーラ、トラック、等である。
この構成により、車両20の移動により、本発明の遠隔X線透視装置10をどこにでも容易に搬送することができ、爆発物等の危険物を含む可能性のある不審物(被検査物1)の検査の際に、被検査物1から十分離れた位置に、遠隔X線透視装置10を位置決めすることができる。
【0036】
図3は、本発明の遠隔X線透視装置のブロック図である。
図2及び図3において、X線源12は、広がり角が十分小さい高指向性のパルスX線2を周期的に発生する。
【0037】
X線源12は、非特許文献1に例示した逆コンプトン散乱X線源であるのが好ましい。逆コンプトン散乱X線源は、パルスX線2の広がり角が1mrad以下、パルス周期10pps以上、パルス幅が1μs以下、X線強度が10光子/cm/shot以上であるのがよい。
パルスX線2の広がり角が1mrad以下、例えば0.5mradであれば、X線源から10m離れた位置でもビーム径を10mm以下にできる。
【0038】
X線走査装置14は、X線走査光学系であり、パルスX線2を被検査物1に向けて走査する。ビームスキャン幅をビーム径の半分(この例で5mm)とすると、パルス周期10ppsの場合、50mm/sの速度で被検査物1の表面に沿って走査(スキャン)することができる。従って、被検査物1の大きさが例えば250mm×250mmの場合、水平走査(5s)を5mmピッチで50回繰り返すことにより、全体で250s(約4分)で被検査物1の全面を走査することができる。
【0039】
散乱X線検出器16は、被検査物1の内部で発生する散乱X線3を検出する。
積分像透視を目的とする場合は、散乱X線検出器16は、円形又は矩形のシンチレータと、シンチレータのX線による発光を検出するフォトダイオードと、フォトダイオードの電流出力を電圧信号に変換しかつ増幅する電流電圧変換アンプと、変換した電圧信号をそれぞれデジタル信号に変換するA/D変換器とを有する。
なお散乱X線検出器16はこの構成に限定されず、気体の電離作用を利用した比例計数管、固体の蛍光作用を利用したシンチレーション計数管、固体半導体のイオン化作用を利用した半導体検出器、等であってもよい。
【0040】
断層透視を目的とする場合は、散乱X線検出器16は、1ps以下の時間単位で散乱X線を連続して検出可能な高時間分解能検出器であるのが好ましい。またこの遠隔X線透視装置は、X線ストリークカメラであるのが好ましい。
この場合、逆コンプトン散乱X線源のパルス周期は10pps以上、パルス幅は1μs以下であるので、1ps以下の時間単位で散乱X線を連続して検出することにより、被検査物1の全面を走査すると同時にその厚さ方向の断層像情報を得ることができる。
【0041】
検出制御装置18は、ゲート付きカウンター18aと制御部18bからなり、被検査物1内で発生する散乱X線3のみを検出するように、散乱X線3の検出をパルスX線2の発生と同期させて制限する。
【0042】
制御部18bは、例えばPC(コンピュータ)であり、同期信号4をX線源12とゲート付きカウンター18aに出力するとともに、ゲート付きカウンター18aから計測データ5を受信する。制御部18bは、さらに受信した計測データを基に、散乱X線強度分布を図1(B)に模式的に示すような、画像イメージを作成し表示する。
【0043】
また、X線源12は、異なる2波長のパルスX線を交互に周期的に発生する2波長X線源を利用することにより、図1(A)の原理図で説明したように、散乱X線を用いた透視検査により散乱物質を特定することができる。
【0044】
ゲート付きカウンター18aは、同期信号4に基づき、パルスX線2の発射タイミングと散乱X線3の受信タイミングを演算し、照射したパルスX線2により被検査物1内で発生する散乱X線3のみを検出するように、散乱X線3の検出をパルスX線2の発生と同期させて制限する。
【0045】
ここで、散乱X線検出器16を構成するシンチレータの大きさを200cm×200cm×10cmと仮定すると、シンチレータが吸収する自然放射線のエネルギー量はおよそ0.328J/年となり、仮に5keV以下をカットしても自然放射線によるノイズはおよそ1.3×107カウント/sとなり、自然放射線によるノイズが大きな問題となる。
これに対し、1μsのパルスX線2であれば、散乱X線3の検出をパルスX線2の発生と同期させて1μsに制限すれば、ノイズは最大でも13カウント/sとなる。
従って、散乱X線3の検出をパルスX線2の発生と同期させて制限することにより、大地および宇宙からの自然放射線の影響を大幅に低減することができる。
【0046】
また、散乱X線検出器16の前面に、被検査物1に対向しない方向からの自然放射線を遮断するシールド(図示せず)を備えることにより、自然放射線によるノイズをほぼ無視できる程度まで低減することができる。
【0047】
図4は、本発明の遠隔X線透視装置の原理説明図である。
この図において、散乱X線検出器16が、パルスX線2の出射口2aを囲む円形のシンチレータを有し、その直径をaとする。また、被検査物1の大きさ(最大径)をb、その厚さ(奥行き)をh、出射口2aから被検査物1までの距離をLとする。
この場合、被検査物1の大きさb、厚さ(奥行き)h、距離Lは、パルスX線2の走査と散乱X線3の検出から、遅延時間等に基づき、検出制御装置18により求めることができる。
また、散乱立体角αは、散乱X線検出器16の直径aおよび距離Lから求まるため、コンプトン散乱断面積σも求まる。
従って、2種のX線を用いる場合、式(3a)(3b)の2式を解くことにより物質のNとZを求めることができ、散乱物質を特定することができる。
【0048】
図5は、図4の部分拡大図である。この図において、zは散乱物質の表面からの距離である。
X線が表面から距離zまで透過するまでの減衰率をη、散乱X線が表面から距離zの位置から表面まで透過する減衰率をηとすると、X線がある物質中を表面からの距離zまで透過し、dzの範囲で散乱され、散乱光が表面まで透過する際の、散乱X線強度Iは、式(4)で表される。
I=∫I10・η1(z)・η1(z)・N・Z・σc1・dz・・・(4)
【0049】
散乱X線検出器16として、1ps以下の時間単位で散乱X線を連続して検出可能な高時間分解能検出器(例えばX線ストリークカメラ)を用い、1ps以下の時間単位で散乱X線3を連続して検出する場合、減衰率η・ηをその時点前の散乱X線のX線強度から検出制御装置18により求めることができる。
従って、2種のX線を用いた場合、局所的に物質のNとZを求めることができ、被検査物の奥行き方向の物質分布を特定することができる。
【0050】
上述した装置を用い、本発明の遠隔X線透視方法は、被検査物1から十分離れた位置(例えば10m)において、広がり角が十分小さい高指向性のパルスX線2を周期的に発生させ、このパルスX線2を被検査物1に向けて走査し、パルスX線2の発生と同期させて散乱X線3の検出を制限し、被検査物内で発生する散乱X線3のみを検出する。
【0051】
上述したように、本発明は、X線源12として高指向性、高輝度パルスX線源を用いるものであり、具体例として、逆コンプトン散乱X線源を用いる。
また、後方散乱X線3の検出は、X線源12のX線発生と同期をとり、照射X線発生時間の間のみ計測を行うものである。
逆コンプトン散乱X線源は、従来の電子ビーム制動型のX線源に比べ、指向性が高く、光源から数m離隔した対象物表面で、10光子/cm2/shot以上の強度のX線ペンシルビームを形成可能である。
また、X線発生のパルス幅が1μs程度以下の短パルスX線源であり、後方散乱X線の測定をこのX線発生パルスと同期して行うことにより、時間的に連続線源である自然放射線の検出量は大幅に低下し、大面積の検出器を用いることで、極めて微弱な後方散乱X線に対しても、十分なシグナル・ノイズ比での検出が可能となる。
【0052】
なお、波長の短いX線では、レンズ等の光学系の形成が難しく、発散角の大きいX線の集光は困難である。
しかし逆コンプトン散乱X線源のような、高指向性のX線源はその発散角が小さいため、全反射ミラー型レンズの適用が可能であり、これにより、照射X線強度の増加が可能となり、透視検査時間の短縮、離隔距離の増大が可能となる。
【0053】
また、X線源として、パルス幅ps程度以下の極短パルスの逆コンプトン散乱X線源を用い、検出器にX線ストリークカメラのような高時間分解能(ps程度以下)検出器を用いれば、照射X線パルスからの散乱X線の遅延時間を利用して遠隔物の断面像を得ることが可能となる。
【0054】
上述した本発明により、爆発物等の危険物を含む可能性のある不審物に対して、接近することなく、数m以上の離隔距離をおいて内部の透視検査が可能となる。
また本発明により、運搬が不可能な大型構造物や、検査装置の近接設置が困難な構造物(例えば、高層建築物の外壁、大型船舶の外壁)に対する内部亀裂、欠陥等の透視検査が可能になる。
さらに本発明により、海上コンテナなどの大型貨物に対して、荷揚げ前の船上での遠隔検査が可能となる。
【0055】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々に変更することができることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】散乱X線を用いた透視検査の原理図(A)と画像イメージ(B)である。
【図2】本発明の遠隔X線透視装置の全体構成図である。
【図3】本発明の遠隔X線透視装置のブロック図である。
【図4】本発明の遠隔X線透視装置の原理説明図である。
【図5】図4の部分拡大図である。
【図6】特許文献1の「透視装置」の模式図である。
【図7】特許文献2の「二次元撮像後方散乱プローブ」の模式図である。
【図8】特許文献3の「X線撮像装置」の模式図である。
【図9】特許文献4のX線検出装置の模式図である。
【図10】特許文献5の「散乱型放射線測定装置」の模式図である。
【図11】非特許文献1の「小型X線発生装置」の模式図である。
【符号の説明】
【0057】
1 被検査物、2 パルスX線、2a 出射口、
3 散乱X線、4 同期信号、5 計測データ、
10 遠隔X線透視装置、12 X線源(逆コンプトン散乱X線源)、
14 X線走査装置、16 散乱X線検出器、
18 検出制御装置、18a ゲート付きカウンター、
18b 制御部、20 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
広がり角が十分小さい高指向性のパルスX線を周期的に発生するX線源と、
前記パルスX線を被検査物に向けて走査するX線走査装置と、
前記被検査物内で発生する散乱X線を検出する散乱X線検出器と、
前記被検査物内で発生する散乱X線のみを検出するように、前記散乱X線の検出をパルスX線の発生と同期させて制限する検出制御装置と、を備えたことを特徴とする遠隔X線透視装置。
【請求項2】
前記X線源は、パルスX線の広がり角が1mrad以下、パルス幅が1μs以下、X線強度が10光子/cm/shot以上の逆コンプトン散乱X線源である、ことを特徴とする請求項1に記載の遠隔X線透視装置。
【請求項3】
前記X線源は、異なる2波長のパルスX線を交互に周期的に発生する2波長X線源である、ことを特徴とする請求項1に記載の遠隔X線透視装置。
【請求項4】
前記散乱X線検出器は、積分像透視を目的とする場合は、時間分解能10ns程度以下で光子検出できる検出器であり、断層透視を目的とする場合は、1ps以下の時間単位で散乱X線を連続して検出可能な高時間分解能検出器である、ことを特徴とする請求項1に記載の遠隔X線透視装置。
【請求項5】
断層透視を目的とする場合に、前記散乱X線検出器は、X線ストリークカメラである、ことを特徴とする請求項4に記載の遠隔X線透視装置。
【請求項6】
前記散乱X線検出器の前面に、被検査物に対向しない方向からの自然放射線を遮断するシールドを備える、ことを特徴とする請求項1に記載の遠隔X線透視装置。
【請求項7】
前記X線源、X線走査装置、散乱X線検出器、および検出制御装置を同一の車両上に搭載する、ことを特徴とする請求項1に記載の遠隔X線透視装置。
【請求項8】
被検査物から離れた位置において、
広がり角が十分小さい高指向性のパルスX線を周期的に発生させ、
前記パルスX線を被検査物に向けて走査し、
前記パルスX線の発生と同期させて散乱X線の検出を制限し、被検査物内で発生する散乱X線のみを検出する、ことを特徴とする遠隔X線透視方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−2940(P2008−2940A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−172465(P2006−172465)
【出願日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】