説明

遮光フィルム

【課題】耐熱性、寸法安定性に優れ、かつ、高遮光性、低光沢性であり、及び、そのばらつきの少ない遮光フィルムを安価に製造する。
【解決手段】ポリアミドイミド樹脂、平均粒径0.01〜1μmの黒色フィラー、平均粒径0.1〜10μmのシリカを含む遮光フィルムであり、遮光フィルム中のポリアミドイミド樹脂の含有率が55〜91重量%、黒色フィラーの含有率が1〜10重量%、シリカの含有率が8〜35重量%であることを特徴とする遮光フィルムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドイミド樹脂と黒色フィラー、無機粒子を含む遮光フィルムに関する。更に詳しくは、耐熱性、寸法安定性、低光沢性、遮光性などに優れ、デジタルビデオカメラ、携帯電話、車載カメラ等のレンズユニットに搭載される絞り、シャッター羽根や、プロジェクタの絞り、光量調整用絞り装置の絞り羽根、光学機器部品、絶縁基板用の反射防止層等として好適に使用できる遮光フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、どこへでも持ち運びが容易でいつでも使用できる携帯性に優れるコンパクトカメラ、デジタルビデオカメラが市場に多く出回っている。それに伴いコンパクトカメラ、デジタルビデオカメラの更なる軽量化、小型化、高性能化が求められている。このように、光学機器、特にコンパクトカメラやデジタルカメラの軽量化、小型化および高性能化により、それらを構成する部材にも軽量化、小型化、および高性能化が求められている。
特に光学機器に用いられるシャッター羽根や絞り羽根は、シャッタースピードの高速化により、軽量化が必要となっている。また、CCD等の撮像素子の前面を覆って光を遮る必要があるため、基本的に遮光性を必要とする。更に、各羽根間の漏れ光を防ぐために表面の反射率は低いことが望まれている。また、使用環境により、カメラ内部が高温となるため、シャッター羽根や絞り羽根には耐熱性、寸法安定性も求められている。
【0003】
従来、一般的に、前記遮光フィルムは、金属薄板(SUS、Al等)が使用されてきた。例えば、カメラのレンズシャッターにおいては、金属薄板の遮光フィルムをシャッター羽根、絞り羽根として用いる場合、羽根材を開閉する際に、金属板同士が擦れあって大きな騒音が発生する。プロジェクタでも同様な騒音が発生し、この騒音を低減するためには羽根を低速で動作することになり、この場合、画像の変化に光量調整が追いつかず、画像が不安定となるという問題があった。
【0004】
前記問題や軽量化の観点から、金属薄板でなく合成樹脂を用いたフィルムを基材とすることが主流となってきている。しかし、絶縁性の合成樹脂フィルムを用いると、静電気の帯電によるゴミ付着の問題が生じ、このため、遮光フィルムには、更に、導電性も求められている。上記のことから、遮光フィルムの必要特性は、高遮光性、耐熱性、寸法安定性、低光沢性、導電性等であるとされている。このような遮光フィルムの特性を満足するために、従来からさまざまな材料、フィルム構造を用いたものが提案されている。
【0005】
例えば特許文献1ではポリエステルフィルムにカーボンブラックを配合したフィルムをサンドブラストすることによりフィルム表面を粗面化し、導電剤を塗布することで遮光フィルムを製造する方法が記載されている。また、特許文献2では基材フィルムの少なくとも片面にバインダー樹脂、平均粒径1μm以下の黒色微粉末、平均粒径0.5〜10μmの有機フィラー、平均粒径0.1〜10μmの滑剤から構成される遮光層を設けた遮光フィルムについて、特許文献3では基材フィルムの少なくとも片面に、Tg40℃以上、軟化点80℃以上の熱硬化性樹脂、平均粒径1μm以下の黒色微粉末、平均粒径0.5〜10μmの有機フィラー、平均粒径0.1〜10μmの滑剤から構成される遮光層を設けた遮光フィルムが提案されている。更に、特許文献4には、フレキシブルプリント基板に平均粒径2〜8μmのシリカ微粒子、芳香族ポリアミドイミドからなる遮光性インクを塗布することで遮光性をもつフレキシブルプリント基板が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−120503号公報
【特許文献2】特開平7−319004号公報
【特許文献3】特開2003−29314号公報
【特許文献4】特開2008−251877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の方法では、ポリエステルフィルムをベースとする為、耐熱性、寸法安定性に劣るという問題点がある。又、特許文献2や特許文献3の方法では、耐熱性、寸法安定性にも劣るが、フィルム表裏面で遮光性や光沢性に差がでるという大きな問題点がある。また、特許文献2や特許文献3においては、仮に、基材フィルムの両面に遮光層を設けたとしても、ポリエステルベースフィルム断面で光沢感が高くなり、厚み方向での光沢性のばらつきが生じ十分な低光沢度が得られないという問題点がある。
特許文献4においてもシリカの添加量が少ないことから厚み方向での分散性がばらつき、不均一な光沢感になるという問題点があり、フィルムを切断面から観察したときの光沢度も高くなるという問題があった。
【0008】
本発明の目的は上記の課題を解決するためになされたものである。即ち、本発明の目的は、耐熱性、寸法安定性に優れ、かつ、高遮光性、低光沢性であり、フィルム表裏面及び断面における光沢性のばらつきの少ない遮光フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明によって以下の遮光フィルムが提供される。
【0010】
(項1)
ポリアミドイミド樹脂、平均粒径0.01〜1μmの黒色フィラー、及び平均粒径0.1〜10μmのシリカをそれぞれ以下の(i)〜(iii)に示す含有率で含み、かつ単層構造であることを特徴とする遮光フィルム;
(i)ポリアミドイミド樹脂の含有率が55〜91重量%;
(ii)平均粒径0.01〜1μmの黒色フィラーの含有率が1〜10重量%;
(iii)平均粒径0.1〜10μmのシリカの含有率が8〜35重量%。
(項2)
前記黒色フィラーが、カーボンブラックである項1に記載の遮光フィルム。
(項3)
前記シリカが、シリコーンオイル又は/及びシランカップリング剤で表面処理されたシリカであることを特徴とする項1または2に記載の遮光フィルム。
(項4)
前記ポリアミドイミド樹脂、前記黒色フィラー、前記シリカに加えて、さらに前記黒色フィラー及び/又は前記シリカの分散剤を含有することを特徴とする項1〜3のいずれかに記載の遮光フィルム。
(項5)
前記分散剤の含有量が黒色フィラー又は/及びシリカ100重量部に対して1〜50重量部である項4に記載の遮光フィルム。
(項6)
前記ポリアミドイミド樹脂が、酸成分として無水トリメリット酸を含み、アミン成分として3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル又はこれに対応するジイソシアネートを含むことを特徴とする項1〜5のいずれかに記載の遮光フィルム。
(項7)
前記ポリアミドイミド樹脂が、酸成分として無水トリメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物及びビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含み、アミン成分として3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル又はこれに対応するジイソシアネートを含むことを特徴とする項1〜6のいずれかに記載の遮光フィルム。
(項8)
遮光フィルムの厚みが、5〜100μmであることを特徴とする項1〜7のいずれかに記載の遮光フィルム。
(項9)
JIS Z8741−1997に記載されている鏡面光沢度測定方法に準拠し測定された遮光フィルムの両面の光沢度が、40以下であることを特徴とする項1〜8のいずれかに記載の遮光フィルム。
【0011】
すなわち、本発明の遮光フィルムは、ポリアミドイミド樹脂を含むので、耐熱性、寸法安定性に優れる。また、平均粒径0.1〜10μmの無機粒子を8〜35重量%含むので、低光沢性に優れ、表裏面や断面、厚み方向でのばらつきを抑えることができる。また、平均粒径0.01〜1μmの黒色フィラーを1〜10重量%含むので、遮光性に優れる。本発明の遮光フィルムを用いれば、遮光特性を必要とする光学材料用途、とりわけ、デジタルビデオカメラ、携帯電話、車載カメラ等のレンズユニットに搭載される絞り、シャッター羽根や、プロジェクタの絞り、光量調整用絞り装置の絞り羽根、光学機器部品、絶縁基板用の反射防止層等を容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の遮光フィルムは、ポリアミドイミド樹脂、平均粒径0.01〜1μmの黒色フィラー、平均粒径0.1〜10μmの無機粒子を含み、遮光フィルム中のポリアミドイミド樹脂の含有率が55〜91重量%、黒色フィラーの含有率が1〜10重量%、無機粒子の含有率が8〜35重量%である。
【0013】
本明細書において、ポリアミドイミド樹脂の含有率、黒色フィラーの含有率、及び無機粒子の含有率は、ポリアミドイミド樹脂、黒色フィラー、及び無機粒子の質量の合計を100重量%とした場合の、それぞれの含有率(重量%)を意味する。
【0014】
本発明の遮光フィルムの遮光とは、マクベス社性の光学濃度計TD−904にて遮光フィルムの光学濃度を測定し、光学濃度が5以上の場合を良好(遮光性)とし、光学濃度が5より小さい場合を不良(非遮光性)と判断している。定性的には、例えば、1000ルクスの光源の蛍光灯をフィルムから50cm離れた位置に置き、その蛍光灯の光が透過するかどうか目視により判断した場合に、光が透過しない程度の遮光性を指す。
【0015】
本発明の「遮光フィルム」は、「ポリアミドイミド樹脂」、「黒色フィラー」、及び「無機粒子」を含む黒色樹脂組成物を用いて形成される。また、本発明の黒色樹脂組成物には、必要に応じて、「黒色フィラー及び/又は無機粒子の分散剤」を添加することができる。以下に、それぞれを説明する。
【0016】
<ポリアミドイミド樹脂>
本発明の遮光フィルムは、ポリアミドイミド樹脂を55〜91重量%含有する。より好ましくは65重量%〜87重量%である。
本発明に用いるポリアミドイミド樹脂は従来公知の方法で合成することができる。例えば、イソシアネート法、アミン法(酸クロリド法、低温溶液重合法、室温溶液重合法等)などであるが、本発明で用いるポリアミドイミド樹脂は、有機溶剤に可溶であることが好ましく、又、工業的にも重合時の溶液がそのまま塗工できるイソシアネート法が好ましい。
イソシアネート法の場合、有機溶剤中でトリカルボン酸無水物、ジカルボン酸、テトラカルボン酸無水物などの酸成分とジイソシアネートを加熱重縮合することで合成できる。重合に使用される溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’―ジメチルアセトアミド、テトラメチルウレア、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、γ―ブチルラクトンなどのアミド系溶剤、エステル系溶剤などが使用できる。
【0017】
本発明では、従来公知のポリアミドイミド樹脂を用いることができるが、好ましい実施態様は、一般式(1)を含むポリアミドイミド樹脂である。一般式(1)を含むポリアミドイミド樹脂としては、酸成分として無水トリメリット酸を含み、アミン成分として3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル又はこれに対応するジイソシアネート(o−トリジンジイソシアネート)を含むポリアミドイミド樹脂が好ましい。
更に、寸法安定性の観点から、一般式(1)、一般式(2)、一般式(3)からなる繰り返し単位を含むポリアミドイミド樹脂が好ましく、その共重合比が{一般式(1)}/{一般式(2)}/{一般式(3)}=49〜98/1〜50/1〜50(モル比)のポリアミドイミド樹脂が好ましい。更により好ましくは{一般式(1)}/{一般式(2)}/{一般式(3)}=55〜90/5〜40/5〜30(モル比)であり、最も好ましくは{一般式(1)}/{一般式(2)}/{一般式(3)}=65〜85/10〜30/5〜20(モル比)である。
一般式(1)が98モル%より多く、一般式(2)、一般式(3)がそれぞれ下限より低い場合は、本発明の目的を達成することはできるが、耐熱性、寸法安定性が低下する傾向にある。又、一般式(1)を含まないか、或いは、49モル%より少なく、一般式(2)、一般式(3)がそれぞれ上限より多い場合は、有機溶剤に対する溶解性が悪くなり、分散加工性が低下する傾向にある。又、光沢性、遮光性が悪くなり、表裏面や厚み方向でのばらつきも大きくなる傾向にある。
特に好ましい組み合わせは、ジメチルジアミノビフェニルなどの、2置換体のビフェニレン基を有するモノマーを使用した場合であり、酸成分が無水トリメリット酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、及び、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の組合せであり、かつ、アミン成分が、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル又はこれに対応するジイソシアネート(o−トリジンジイソシアネート)の場合である。
【0018】
【化1】

【0019】
(式中、R5およびR6は同じであっても異なっていてもよく、それぞれ水素もしくは炭素数1〜4のアルキル基、又は、アルコキシ基を示す。)
【0020】
【化2】

【0021】
(式中、R3およびR4は同じであっても異なっていてもよく、それぞれ水素もしくは炭素数1〜4のアルキル基、又は、アルコキシ基を示す。)
【0022】
【化3】

【0023】
(式中、R1およびR2は同じであっても異なっていてもよく、それぞれ水素もしくは炭素数1〜4のアルキル基、又は、アルコキシ基を示す。又、Yは直結(ビフェニル結合)、或いは、エーテル結合(−O−)を示す。)
【0024】
ポリアミドイミド樹脂の分子量は、N−メチル−2−ピロリドン中(ポリマー濃度0.5g/dl)、30℃での対数粘度にして0.3から2.5dl/gに相当する分子量を有するものが好ましく、より好ましくは0.5から2.0dl/gに相当する分子量を有するものである。対数粘度が0.3dl/g未満ではフィルム等の成型物にしたとき、機械的特性が不十分となるおそれがあり、また、2.0dl/gを超えると溶液粘度が高くなる為、成形加工が困難となることがある。適正な溶液粘度としては、25℃でのB型粘度が、1〜1000dPa・sの範囲であることが好ましい。該粘度が上記範囲を外れると塗工性が低下することがある。
【0025】
<黒色フィラー>
本発明に用いる黒色フィラーとしては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック等のカーボンブラックや黒鉛等を用いることができる。黒色フィラーは導電性の黒色フィラーであっても良い。
【0026】
具体的な黒色フィラーの、一例として、カーボンブラック(三菱化学社製、MA100R等)を用いることができるがこれに限定はされない。
【0027】
黒色フィラーの平均粒径は1μm以下、好ましくは0.8μm以下、最も好ましくは0.5μm以下である。平均粒径の下限値は、通常、0.01μmである。平均粒径が1μmより大きいと遮光性が低下するため好ましくない。粒子径は小さければ小さいほど好ましいが、実用上、20nm以上あれば十分である。黒色フィラーの平均粒径は、0.01μm以上1μm以下であれば十分である。又、この黒色フィラーの含有量は、1〜10重量%、好ましくは2〜8重量%、更に好ましくは2〜6重量%である。また、この黒色フィラーの含有量は1〜8重量%であっても好ましい。又、この黒色フィラーの含有量は1重量%より少ないと遮光性や導電性が低下し、10重量%より多いと機械的特性が低下し好ましくない。
【0028】
黒色フィラーの平均粒径は、電子顕微鏡で測定倍率およそ5〜10万倍で観察を行い算術により平均粒径を求めることができる。観察した視野をランダムに測定して約1000個程度の粒子を測定して求めることができる。測定場所は粒子として分離できる部分を測定して行なうことが望ましい。なお、黒色フィラーが略円形状でない場合には、長径と短径を足して2で割った値を粒径として求めることができる。
【0029】
<無機粒子>
本発明で用いる無機粒子は、従来公知の酸化チタン、炭酸カルシウム、アルミナ、シリカ等を用いることができる。好ましくはシリカであり、特に、シリコーンオイルやシランカップリング剤により疎水化処理されたものが好ましい。疎水化処理することで、シリカの凝集力が低下し、又、ポリアミドイミド樹脂との親和性も向上する為、低光沢性、遮光性に優れ、表裏面や厚み方向でのばらつきの少ない遮光フィルムを得ることができる。シリコーンオイルやシランカップリング剤は、ポリジメチルシロキサン、アミン系シランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤など、従来公知のものを用いることができる。
【0030】
具体的なシリカの、一例として、疎水性シリカ(富士シリシア化学社製サイロホービック505など)を用いることができるがこれに限定はされない。
【0031】
無機粒子の平均粒径は0.1〜10μm、好ましくは、1〜7μm、最も好ましくは2.5〜5.5μmである。平均粒径が0.1μmより小さいと表面光沢感が高くなり、平均粒径が10μmより大きいと、遮光フィルムの機械的強度が低下する。無機粒子の含有量は、8〜35重量%、好ましくは、9〜25重量%、最も好ましくは、9〜22重量%である。8重量%より少ないとフィルム表面の光沢感が増し、断面(シャッター等の遮光部材に成形したときの外周の断面(側面)部分)での光反射防止性が低下するため、シャッターや絞りとしての高性能化の妨げになるので好ましくない。35重量%より多いと遮光フィルムの機械的特性が低下し、またコスト高につながる。
無機粒子の平均粒径は、分散媒にメタノールを使用し、レーザー回折式粒度分布測定装置((株)島津製作所製、SALD−2200)にてレーザー回折散乱法で平均粒径を測定し求めることができる。
【0032】
<黒色フィラー及び/又は無機粒子の分散剤>
本発明の黒色樹脂組成物には、必要に応じて、黒色フィラー及び/又は無機粒子の分散剤を添加することができる。分散剤としては、合成高分子からなる分散剤が好ましい。例としては、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリオレフィングリコール系樹脂、スチレン−アクリル酸系樹脂、水酸基含有カルボン酸エステル、ポリアミノアマイド燐酸塩の酸エステル、ポリカルボン酸の塩、不飽和酸エステル、変性ポリウレタン、グラフト化ポリウレタン、変性ポリエーテル、グラフト化ポリエーテル、変性ポリエステル、グラフト化ポリエステル、変性ポリアクリレートなどが挙げられる。好ましくは、ポリエステル、及び/または、ポリエーテルで変性、又は、グラフト化したポリウレタン、アクリル系樹脂、ポリオレフィングリコール、或いは、アクリル系樹脂とポリオレフィングリコールの混合物などである。添加量は、黒色フィラー及び/または無機粒子100重量部に対して1〜50重量部であることが好ましい。添加量がこの範囲より少ないと黒色フィラー及び/または無機粒子の分散性が低下し、均一な分散が困難となる場合がある。この範囲より多いと機械的特性が低下する場合がある。
【0033】
具体的なシリカ分散剤の、一例として、シリカ分散剤(変性アクリル系ブロック共重合物、BYK Additives&Instruments、DISPERBYK2008)を用いることができるがこれに限定はされない。また、具体的なカーボンブラック分散剤の、一例として、カーボンブラック分散剤(顔料親和性基を有する高分子共重合体、BYK Additives&Instruments、BYK9077)を用いることができるがこれに限定はされない。
【0034】
本発明の遮光フィルムにおいて、フィルムの厚みは、5〜100μmが好ましく、より好ましくは8〜50μm、最も好ましくは10〜25μmである。フィルムの厚みが5μm未満では遮光性が低下し、フィルム強度等の機械的性質やハンドリング性に劣り、シリカの脱粒といったフィルム欠点につながる可能性がある。フィルムの厚みが100μmを超えるとフレキシブル性などの特性や加工性(乾燥性、塗工性)が低下する傾向がある。
【0035】
本発明の遮光フィルムは、特に基材となるフィルムを必要としない。例えば、遮光フィルムは基材フィルムが必要となる場合、2層構造以上になる。しかし、本発明の遮光フィルムは単層構造である。単層構造である一つの利点は、フィルムの厚みを薄くできることにある。フィルムの厚みが薄ければ、フレキシブル性などの特性や加工性(乾燥性、塗工性)が良くなる。又、もう一つの利点は、フィルム断面での光沢度が低くなり、厚み方向でのばらつきも生じないことである。これらが達成できた理由は、本発明者らが鋭意検討し、ポリアミドイミド樹脂を含む遮光フィルムを想到したからである。また、本発明者らが、ポリアミドイミド樹脂の含有率、平均粒径0.01〜1μmの黒色フィラー含有率、平均粒径0.1〜10μmの無機粒子の含有率を見出したからである。また、本発明者らが、ポリアミドイミド樹脂の種類、配合割合などを見出したからである。
【0036】
<遮光フィルムの製造方法>
本発明の遮光フィルムはポリアミドイミド樹脂、黒色フィラー、無機粒子を含む黒色樹脂組成物を用いて形成される。黒色樹脂組成物はポリアミドイミド系樹脂と黒色フィラー、無機粒子、有機溶媒を配合して、攪拌機、ディゾルバー等のエンペラー型分散機、ボールミル、ビーズミル、三本ロールミルなどを適宣組み合わせて使用することで調整できる。有機溶媒としては、重合時の有機溶媒を用いることができる。該遮光フィルムは、従来公知のフィルム製造方法で製造することができる。例えば、上記黒色樹脂組成物を支持体上に塗布し、乾燥し、熱処理した後、剥離し、遮光フィルムを製造することができる。
塗布、乾燥、熱処理方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を適用することができる。例えば、ロールコーター、ナイフコーター、ドクタ、ブレードコーター、グラビアコーター、ダイコーター、リバースコーターなどによりエンドレスベルト、ドラム、キャリアフィルム等の支持体上に、塗布し、塗膜を乾燥する。場合により、該支持体よりフィルムを剥離後、熱処理することにより本発明の遮光フィルムを製造することができる。
【0037】
本発明の遮光フィルムは、フィルム両面の光沢度が40以下であることが好ましい。光沢度が40を超えると、十分な低光沢性が得られず、フィルム表面の写りこみの発生低減効果が低下することがある。フィルムの光沢度はJIS Z8741−1997に記載されている鏡面光沢度測定方法に準拠し、入射角60°で光源を照射し、反射角60°で反射した光の強度を測定して評価することができる。ここでいう入射角は、光の照射面に対する直角方向を0°としている。測定機器は例えば日本電色(株)のVG200グロスメータ等を用いて測定を行うことができる。
【0038】
本発明の遮光フィルムは、耐熱性に優れ、TMAで測定されるガラス転移温度が150℃以上有することが好ましく、より好ましくは200℃以上であり、250℃以上有することが特に好ましい。
【0039】
本発明の遮光フィルムは、IPC−FC241(IPC−TM−650,2.2.4(c))に準じ、フィルムを絶乾後、25℃で24h静置したサンプルの寸法と200℃×30分熱処理後25℃で24時間静置したサンプルの寸法を測定し、その変化率を100分率で表した寸法変化率が、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.07%以下、さらに好ましくは0.05%以下であることが好ましい。
【0040】
本発明の遮光フィルムは、樹脂としてポリアミドイミドを用い、黒色フィラーや無機粒子を適量入れることで、機械的特性に優れた遮光フィルムを得ることができる。上述したように黒色フィラーや無機粒子の量が多すぎると、機械的特性が低下する恐れがあるため好ましくない。本発明の遮光フィルムは、強度が150MPa以上300MPa以下、伸度が10%以上100%以下、弾性率が4.5GPa以上10GPa以下あることが好ましい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により、この発明をさらに詳しく説明する。なお、本発明は実施例により、特に制限されるものではない。
【0042】
<平均粒径>
黒色フィラーの平均粒径は、電子顕微鏡で測定倍率10万倍で観察を行い算術により平均粒径を求めた。観察した視野をランダムに測定して約1000個程度の粒子を測定した。なお、黒色フィラーが略円形状でない場合には、長径と短径を足して2で割った値を粒径とした。無機粒子の平均粒径は、分散媒にメタノールを使用し、レーザー回折式粒度分布測定装置((株)島津製作所製、SALD−2200)にてレーザー回折散乱法で平均粒径を測定した。
【0043】
<ガラス転移温度>
TMA(熱機械的分析/セイコーインスツル(株)社製)引張荷重法により本発明の遮光フィルムを以下の条件で測定した。
荷重:5g
サンプルサイズ:4(幅)×20(長さ)mm
昇温速度:10℃/分
雰囲気:窒素
【0044】
<光沢度>
遮光フィルムの光沢度はJIS Z8741−1997に記載されている鏡面光沢度測定方法に準拠し、入射角60°で光源を照射し、反射角60°で反射した光の強度を測定した。ここでいう入射角は、光の照射面に対する直角方向を0°としている。測定機器は日本電色(株)のVG200グロスメータを用いて測定を行った。測定は遮光フィルム両面(A面、B面とした)を測定し、B面を塗布・乾燥時の支持体側とした。
遮光フィルム断面の光沢度は、遮光フィルムの切断面を光学顕微鏡(×500)で観察し、その反射具合を評価した。低光沢のものを良:○、そうでないものを不良:×とした。また、フィルムA面/B面のグロス差が大きい程、フィルム断面の光沢度が不良になる傾向にあり、フィルムA面/B面のグロス差により判断することもできる(A面、B面のグロス差が40以上であると不良:×となる傾向にある)。
【0045】
<遮光性>
マクベス社性の光学高度計TD−904にて遮光フィルムの光学濃度を測定した。
光学濃度が5以上の場合を良好「○」とし、光学濃度が5より小さい場合を不良「×」とした。
【0046】
<引張試験>
引張強度、引張伸度、弾性率は引張試験機(商品名「テンシロン引張試験機」、東洋ボールドウィン社製)を用いて、本発明の遮光フィルムを以下の条件で測定した。
サンプルサイズ:10(幅)×40(長さ)mm
クロスヘッド速度:20mm/分
温度:23℃
【0047】
<寸法変化率>
IPC−FC241(IPC−TM−650,2.2.4(c))に準じ、フィルムを絶乾後、25℃で24h静置したサンプルの寸法と200℃×30分熱処理後25℃で24時間静置したサンプルの寸法を測定し、その変化率を100分率で表したものである。
サンプルサイズ;200mm×200mm
【0048】
<フィルム厚み>
デジタル測長機(Nikon社製 NH−15M)にて3点測定しその平均値を求めた。
【0049】
(実施例1)
無水トリメリット酸(80モル%)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(12.5モル%)、3,3’ ,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(7.5モル%)、o−トリジンジイソシアネート(100モル%)から合成した有機溶媒可溶性ポリアミドイミド樹脂をポリマー濃度10%になるようにN−メチル−2−ピロリドンに溶解した。
該樹脂80重量%、平均粒径3.9μmのシリコーンオイル(ジメチルシロキサン)で表面処理された疎水性シリカ(富士シリシア化学社製、サイロホービック505)16重量%、平均粒径24nmのカーボンブラック(三菱化学社製、MA100R)4重量%の構成比で配合し(固形分換算)、シリカ分散剤(変性アクリル系ブロック共重合物、BYK Additives&Instruments、DISPERBYK2008)をシリカ100重量部に対して15重量部、カーボンブラック分散剤(顔料親和性基を有する高分子共重合体、BYK Additives&Instruments、BYK9077)をカーボンブラック100重量部に対して50重量部を加え、3本ロールミルで均一に分散させ、黒色樹脂組成物溶液を調整した。
【0050】
上記の様にして得られた黒色樹脂組成物溶液を膜厚100μmのPETフィルムにナイフコーターを用いて塗布し、90℃で8分間初期乾燥した。次いで、PETフィルムから剥離した遮光フィルムをイナートガスオーブンで、流量20L/分での窒素下230℃×3hr、続いて280℃×3hr、続いて300℃×1hrの条件で加熱処理した。得られたフィルム中の溶剤は完全に除去されており、最終絶乾状態の膜厚は20μmである。
得られた遮光フィルムの特性、及び、ポリアミドイミド樹脂、カーボンブラック、シリカの遮光フィルム中の含有率を表1に示す。
なお、表1中のポリアミドイミド樹脂、カーボンブラック、及びシリカの重量比は、ポリアミドイミド樹脂、カーボンブラック、及びシリカの質量の合計を100重量%とした場合の比率に、換算して表示している。
【0051】
(実施例2〜4、比較例1〜5)
ポリアミドイミド樹脂、シリカ、カーボンブラックの含有率を表1の内容に変えた以外は実施例1と同様にして遮光フィルムを作製した。
得られた遮光フィルムの特性を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
実施例1〜4は、耐熱性(Tg)、寸法安定性、遮光性、低光沢性(A面、B面、断面の光沢度)、機械特性(強度、伸度、弾性率)で優れており、良好な結果を示した。
【0054】
比較例1ではシリカの粒子径が小さく、又、比較例2ではシリカの量が少ない為、A,B面の光沢度、および、そのバラツキにおいて本発明の目的を達成することができてない。断面の光沢性も本発明の目的を達成できていない。
比較例3では、シリカの配合量が多すぎる為、また、比較例5では、カーボンの配合量が多すぎる為、伸度、弾性率が低く、本発明においては、機械強度を満足することはできない。又、比較例4では、カーボンブラックの量が少ない為、本発明における遮光性を満足することができない。
【0055】
(実施例5)
無水トリメリット酸(80モル%)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(10モル%)、3,3’ ,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(10モル%)、o−トリジンジイソシアネート(100モル%)から合成した有機溶媒可溶性ポリアミドイミド樹脂をポリマー濃度10%になるようにN−メチル−2−ピロリドンに溶解した。以下、この樹脂溶液を用いて、実施例1と同様に黒色樹脂組成物溶液を調整し、遮光フィルムを作製した。
【0056】
(実施例6)
無水トリメリット酸(70モル%)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(10モル%)、3,3’ ,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(20モル%)、o−トリジンジイソシアネート(100モル%)から合成した有機溶媒可溶性ポリアミドイミド樹脂をポリマー濃度10%になるようにN−メチル−2−ピロリドンに溶解した。以下、この樹脂溶液を用いて、実施例1と同様に黒色樹脂組成物溶液を調整し、遮光フィルムを作製した。
【0057】
(実施例7)
無水トリメリット酸(72.5モル%)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(20モル%)、3,3’ ,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(7.5モル%)、o−トリジンジイソシアネート(100モル%)から合成した有機溶媒可溶性ポリアミドイミド樹脂をポリマー濃度10%になるようにN−メチル−2−ピロリドンに溶解した。以下、この樹脂溶液を用いて、実施例1と同様に黒色樹脂組成物溶液を調整し、遮光フィルムを作製した。
【0058】
(比較例6)
ポリエステルエマルジョン(固形分30質量%の水分散体)をポリマー濃度10%になるようにN−メチル−2−ピロリドンに溶解した。この樹脂溶液を用いて、実施例1と同様に黒色樹脂組成物溶液を調整し、膜厚100μmのPETフィルムにナイフコーターを用いて塗布し、イナートガスオーブンで、流量20L/分での窒素下120℃×10分の条件で加熱処理することで遮光フィルムを作製した。
【0059】
実施例5〜7で得られた遮光フィルムの特性、並びにポリアミドイミド樹脂、カーボンブラック、及びシリカの遮光フィルム中の含有率を表2に示す。また、比較例6のポリエステル樹脂、カーボンブラック、及びシリカの含有率を表2に示す。なお、表2中のポリアミドイミド樹脂(比較例6はポリエステル樹脂)、無機粒子、及び黒色フィラーの重量比は、ポリアミドイミド樹脂(比較例6はポリエステル樹脂)、黒色フィラー、及び無機粒子の質量の合計を100重量%とした場合の比率に、換算して表示している。
【0060】
【表2】

【0061】
実施例5〜7は、耐熱性(Tg)、寸法安定性、遮光性、低光沢性(A面、B面、断面の光沢度)、機械特性(強度、伸度、弾性率)で優れており、良好な結果を示した。
【0062】
比較例6では、単層フィルムを得ることができず、本発明の目的を達成することができてない。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の遮光フィルムによれば、耐熱性、寸法安定性、低光沢性、遮光性に優れ、表裏面や断面、厚み方向での遮光性のばらつきの少ない遮光フィルムを得ることができる。従って、小型化、軽量化、高性能化へのニーズの高い、デジタルビデオカメラ、携帯電話、車載カメラ等のレンズユニットに搭載される絞り、シャッター羽根や、プロジェクタの絞り、光量調整用絞り装置の絞り羽根、光学機器部品、絶縁基板用の反射防止層等として好適に使用でき、これら機器の小型化、軽量化、高性能化へのニーズを満足することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドイミド樹脂、平均粒径0.01〜1μmの黒色フィラー、及び平均粒径0.1〜10μmのシリカをそれぞれ以下の(i)〜(iii)に示す含有率で含み、かつ単層構造であることを特徴とする遮光フィルム;
(i)ポリアミドイミド樹脂の含有率が55〜91重量%;
(ii)平均粒径0.01〜1μmの黒色フィラーの含有率が1〜10重量%;
(iii)平均粒径0.1〜10μmのシリカの含有率が8〜35重量%。
【請求項2】
前記黒色フィラーが、カーボンブラックである請求項1に記載の遮光フィルム。
【請求項3】
前記シリカが、シリコーンオイル又は/及びシランカップリング剤で表面処理されたシリカであることを特徴とする請求項1または2に記載の遮光フィルム。
【請求項4】
前記ポリアミドイミド樹脂、前記黒色フィラー、前記シリカに加えて、さらに前記黒色フィラー及び/又は前記シリカの分散剤を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の遮光フィルム。
【請求項5】
前記分散剤の含有量が黒色フィラー又は/及びシリカ100重量部に対して1〜50重量部である請求項4に記載の遮光フィルム。
【請求項6】
前記ポリアミドイミド樹脂が、酸成分として無水トリメリット酸を含み、アミン成分として3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル又はこれに対応するジイソシアネートを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の遮光フィルム。
【請求項7】
前記ポリアミドイミド樹脂が、酸成分として無水トリメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物及びビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含み、アミン成分として3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル又はこれに対応するジイソシアネートを含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の遮光フィルム。
【請求項8】
遮光フィルムの厚みが、5〜100μmであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の遮光フィルム。
【請求項9】
JIS Z8741−1997に記載されている鏡面光沢度測定方法に準拠し測定された遮光フィルムの両面の光沢度が、40以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の遮光フィルム。

【公開番号】特開2013−54393(P2013−54393A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−276738(P2012−276738)
【出願日】平成24年12月19日(2012.12.19)
【分割の表示】特願2011−536686(P2011−536686)の分割
【原出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000003160)東洋紡株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】