説明

遮光性フィルム

【課題】カッティング特性に優れ、微細な大きさであっても取り扱い易く、レンズユニット等へ高い位置精度で配置することが可能であり、歩留りが高く性能のばらつきのない遮光性フィルムを提供する。
【解決手段】有機樹脂及び/又はその原料とカーボンブラックとを必須成分として形成される遮光層を有する遮光性フィルムであって、該遮光性フィルムは、遮光層からなる単層構造であり、該有機樹脂は、硬化性樹脂硬化物又はガラス転移温度が150℃以上の熱可塑性樹脂を含有し、該有機樹脂が溶剤可溶性であるか又はその原料が溶剤可溶性若しくは液状であり、該カーボンブラックは、DBP吸油量が200〜500ml/100gである遮光性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮光性フィルムに関する。より詳しくは、光学用途やオプトデバイス用途、表示デバイス用途、機械部品、電気・電子部品等の各種用途に有用な遮光性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
遮光性フィルムは、例えば、レンズユニット等の光学部材の他、オプトデバイス部材、表示デバイス部材、機械部品、電気・電子部品等の各種用途において、所望の波長の光を散乱・吸収等してその波長の光を遮光するための遮光層を有するフィルムである。例えば、デジタルカメラや携帯電話用カメラのカメラモジュール等の光学用途では、レンズユニット内部での光学ノイズの発生及び拡大を抑えるために、上記のような遮光層を有する遮光性フィルムが開発、改良されている。
【0003】
従来の遮光性フィルムとしては、例えば、基材上に遮光層が積層されたものが知られている。そのうち、遮光層が無機材料からなるものとしては、カーボンブラック等の黒色顔料が配合された耐熱性有機樹脂フィルム基材上に金属炭化物膜が形成された耐熱遮光フィルムが開示されており(例えば、特許文献1参照。)、高温環境下でも優れた耐久性を発揮できると記載されている。
一方、遮光層が有機材料からなるものとしては、基材プラスチックフィルムの片面又は両面に艶消性、導電性及び遮光性を併有する合成樹脂層が積層された遮光シートが開示されており(例えば、特許文献2参照。)、該合成樹脂層にカーボンブラックを配合することで、艶消性、導電性及び遮光性を同時に実現することができる旨記載されている。
また、熱可塑性樹脂を主成分とする基材フィルムの両面に、カーボンブラック等を含有する有機樹脂層が設けられた遮光性フィルムが開示され(例えば、特許文献3参照。)、着色用カーボンブラックと導電性カーボンブラックとを併用することで、遮光性や導電性に優れた遮光性フィルムが得られる旨記載されている。
【0004】
遮光性や耐熱性に優れた遮光性フィルムとしてはまた、硬化性樹脂硬化物又はガラス転移温度が150℃以上の熱可塑性樹脂を含有する有機樹脂と黒色材料とを必須とする遮光性フィルムが開示されている(例えば、特許文献4参照。)。特定の有機樹脂を用いたことにより、有機樹脂中に黒色材料をより均一に分散又は溶解させることができ、得られるフィルムが遮光性に優れたものとなることが記載されている。また、このような遮光性フィルムの構造として、フィルムが遮光層のみからなる単層構造が好適である旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−96842号公報
【特許文献2】特開平4−62048号公報
【特許文献3】特開平9−274218号公報
【特許文献4】国際公開第2009/014264号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、種々の遮光性フィルムが検討・開発されているが、近年、光学分野においては、デジタルカメラや携帯電話に搭載される撮像レンズ等の小型化が進み、光学部材の小型化、薄型化、軽量化が一層求められている。それに伴い、デジタルカメラモジュール等に用いられる遮光性フィルムや、レンズ等を有するレンズユニットの小型化、薄型化、軽量化が望まれるところである。また、低コスト化も求められているため、無機ガラスに代わってプラスチックレンズの採用が進んでいるが、更に一層の低コスト化を図るためには、プラスチックレンズや各種部材をリフローアブル仕様に耐える耐熱性に優れたものとすることが要求される。
【0007】
しかしながら、従来の遮光性フィルムは、上述した光学部材の小型・薄型化や耐熱化の要求に充分対応できるものではなかった。
例えば、特許文献1のような高硬度の無機膜を積層したフィルムの場合、フィルムを微細な大きさにカットする際に切断面が粗くなったり、無機膜が割れたり剥離したりすることにより、遮光特性が低下するという問題があった。また、無機膜が硬いために、カットされたフィルムをレンズユニットに配置する際に破断面によりレンズを傷つけてしまうおそれがあった。また、金属炭化物のような無機材料は高価であり、低コスト化を目的とするリフローアブル仕様のレンズ製造への適用には不向きであった。
また、特許文献2及び3に記載の遮光性フィルムのように、積層する遮光層を有機材料とした場合でも、基材フィルムと遮光層との積層構造である以上、薄膜化には限界があった。また、遮光性フィルムがこのような積層構造を有するものであると、カッティング時の応力やリフロー工程における熱、使用環境下での水分や熱により界面が剥離するおそれがある。また、基材や遮光層がリフローアブル仕様に耐える充分な耐熱性を有しているとはいえなかった。
一方、特許文献4に記載の遮光性フィルムについても、一層の小型化、薄型化を実現するという点においては、未だ改善の余地を残しているといえる。
このように、従来の技術には、年々高まる小型化、薄型化、耐熱化の要求に応える遮光性フィルムを開発するための工夫の余地があった。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、カッティング特性に優れ、微細な大きさであっても取り扱い易く、レンズユニット等へ高い位置精度で配置することが可能な、歩留りが高く性能のばらつきのない遮光性フィルムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記のような、小型化、薄型化、耐熱化の要求に応え得る遮光性フィルムについて検討するうち、遮光性フィルムを特定の大きさ以下にまで微細化して取り扱い、レンズユニット等に高い位置精度で配置できるようにするためには、遮光性フィルムの表面抵抗値を特定の範囲に制御する必要があることを見出した。遮光性フィルムの表面抵抗値は、導電性カーボンブラックを用いることによって制御することができるが、カーボンブラックとして特定の構造を有するものを用いると、フィルムを微細化(カット)する際のカッティング特性に優れたものとなること、並びに、少量の含有量で表面抵抗値を上記特定の範囲に制御できることを見出した。さらに、遮光性フィルムを上述した特定の構造を有するカーボンブラックが分散された遮光層からなる単層構造とすると、上記カッティング特性にさらに優れたものとなることを見出した。微小な遮光体において、遮光性や導電性のばらつきを抑えるためには、遮光性フィルムが有する遮光層に、カーボンブラックが均一に分散されていることが特に重要である。カーボンブラックが均一に分散されていないと、カッティングの際にフィルムの切断面が乱れるおそれがある。また、カーボンブラックとして上述したような特定の構造を有するものを用いる場合には、その構造を維持した状態で分散されている必要があるが、遮光層を構成する樹脂として特定の有機樹脂を用いると、カーボンブラックを低いシェアでその構造を損なうことなく均一に樹脂中に分散することができることを見出した。そして、以上のような構成を有する遮光性フィルムが、デジタルカメラや携帯電話のカメラモジュールの撮像レンズに用いられる遮光性フィルムに好適な性能を有し、搭載に適した形状に容易に加工することができることも見出し、上記課題をみごとに解決できることに想到し、本発明に到達したものである。
【0010】
すなわち本発明は、有機樹脂及び/又はその原料とカーボンブラックとを必須成分として形成される遮光層を有する遮光性フィルムであって、上記遮光性フィルムは、遮光層からなる単層構造であり、上記有機樹脂は、硬化性樹脂硬化物又はガラス転移温度が150℃以上の熱可塑性樹脂を含有し、上記有機樹脂が溶剤可溶性であるか又はその原料が溶剤可溶性若しくは液状であり、上記カーボンブラックは、DBP吸油量が200〜500ml/100gであることを特徴とする遮光性フィルムである。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明の遮光性フィルムは、有機樹脂及び/又はその原料とカーボンブラックとを必須成分として形成される遮光層を有するものであるが、遮光層は、有機樹脂及び/又はその原料とカーボンブラックとを必須成分とする限り、他の成分を含んでいてもよく、これらの成分は1種又は2種以上を用いることができる。
【0012】
<カーボンブラック>
本発明の遮光性フィルムが有する遮光層は、DBP(ジブチルフタレート)吸油量が200〜500ml/100gであるカーボンブラックを必須成分として形成されるものである。吸油量が500ml/100gを超えると、カーボンブラックの分散性が悪くなるため、得られる遮光層の色相(黒色)や導電性(表面抵抗値)が充分には均一とならない上に、カーボンブラックの粗大粒子が形成され、カッティングの際に切断面が乱れる等、得られる遮光性フィルムのカッティング特性が充分に優れたものにならないおそれがある。また、吸油量が200ml/100g未満であると、アグリゲートの発達度合い(ストラクチャー)が小さくなり、高導電性を発現しないおそれがある。上記吸油量としてより好ましくは、300〜500ml/100gである。
【0013】
上記カーボンブラックは、比表面積が100〜1500m/gであるものが好ましい。カーボンブラックの比表面積は、B.E.T.法により測定することができる。上記比表面積が100m/g未満であると、カーボンブラック中の導電経路が形成しにくく、少量の添加で高導電性を発現させることが困難になる。また、1500m/gを超えると、カーボンブラックの分散濃度や添加量を増加させることが困難となるため、極少量しか添加できず、高導電性が発現しないおそれがある。上記比表面積として、より好ましくは、500〜1500m/g以上である。
【0014】
カーボンブラックは、通常、透過型電子顕微鏡像において、基本単位となる粒子が融着により連鎖状あるいは不規則な鎖状に枝分かれした様々な凝集形態(アグリゲート)を有するか、2次凝集や会合することなく独立して存在する形態で観察される。上記基本単位となる粒子は、通常、ほぼ球状又は粒状の形態を呈し、それ以上、分割が困難であると認められ、これを1次粒子という。本発明で好適に使用されるカーボンブラックにおいては、擬似グラファイト構造と呼ばれる結晶子が集合して1次粒子を形成してなる。
1次粒子の大きさを1次粒子径というが、上記カーボンブラックは、透過型電子顕微鏡像により評価した1次粒子径が20〜100nmであることが好ましい。より好ましくは、30〜50nmである。1次粒子径の個数平均値(平均一次粒子径)が上述の範囲であることが更に好ましい。平均一次粒子径を求めるにあたっては、20個以上の1次粒子の大きさを測定しそれらの測定値の平均を求めることが好ましい。
上記1次粒子は、結晶子の集合形態により、空隙のない密な構造からなるもの、及び、空隙率の高い疎な構造からなる粒子のいずれでもよいが、空隙率の高い疎な構造からなる粒子であることが好ましい。
1次粒子の構造の疎密の程度は、上記平均1次粒子径(透過型電子顕微鏡により評価される、d)に対する、比表面積径dsの比(ds/d)の値から見積もることができる。
比表面積径dsは、B.E.T.法により測定される比表面積値Sより下記式によって算出することができる。
比表面積径(nm)=6000/(ρ×S)
(式中、ρは、真比重を表し、1.8を採用する。Sは、比表面積(m/g)を表す。)
本発明で用いるカーボンブラックの上記比(ds/d)は特に制限されず、通常、0.01〜1.2のカーボンブラックを用いることができるが、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.2以下、特に好ましくは0.02〜0.2である。
【0015】
上記カーボンブラックはまた、揮発分が1%以下であることが好ましい。揮発分が1%を超えると、カーボンブラックの表面に存在する官能基数が多くなり、それらの官能基に電子がトラップされて導電性を発現しにくくなる。
【0016】
上記カーボンブラックは、高導電性を発現させる観点から、導電性カーボンブラックであることが好ましい。上記導電性カーボンブラックとしては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック等が挙げられる。
【0017】
上述した特性を有するカーボンブラックは、通常のカーボンブラックの製法において、その特性を調整することによって得ることができる。本発明の遮光性フィルムを製造するにあたっては、入手可能なカーボンブラックの中から上述した特性を満たすものを適宜選択して用いればよい。
【0018】
<有機樹脂>
本発明の遮光性フィルムが有する遮光層はまた、有機樹脂及び/又はその原料を必須成分として形成されるものである。上記有機樹脂は、硬化性樹脂硬化物又はガラス転移温度(Tg)が150℃以上の熱可塑性樹脂を含有する。また、上記有機樹脂が溶剤可溶性であるか又はその原料が溶剤可溶性若しくは液状である。このような要件を満たす有機樹脂又はその原料は、硬化前又は成形前の工程において液状で取り扱うことができるため、カーボンブラックを低いシェア(剪断力)で該有機樹脂中に均一に分散させることが可能となる。
なお、本明細書において、物を「液状で取り扱うことができる」とは、その物自体、又は、その物を溶剤に溶解した溶液の粘度が、25℃において100Pa・s以下であることを意味する。その物自体の粘度が上記範囲にある場合には、その物が「液状である」ということとする。
上記粘度は、B型粘度計により測定することができる。
また、上記有機樹脂の原料には、有機樹脂の前駆体や該前駆体の原料、更に、有機樹脂を形成するための単量体が含まれるものとする。
【0019】
上記有機樹脂は、硬化性樹脂硬化物又はTgが150℃以上の熱可塑性樹脂を含有するものであり、かつ、硬化前又は成形前の工程において液状で取り扱うことができるものであれば特に限定されないが、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、フッ素化芳香族ポリマー、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂が好適である。上記有機樹脂がポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、フッ素化芳香族ポリマー、ポリエーテルケトン樹脂及びポリエチレンナフタレート樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であることは、本発明の好適な実施形態の1つである。このような有機樹脂を用いることで、得られる遮光性フィルムが耐熱性に優れたものとなる。上記有機樹脂としてより好ましくは、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂であり、更に好ましくは、ポリイミド樹脂である。
上述した有機樹脂のうち、ポリイミド樹脂には、400℃以下の温度で加熱しても溶融しないものと、溶融し得るものがある。本願明細書におけるポリイミド樹脂では、前者(400℃以下の温度で加熱しても溶融しないもの)を硬化性樹脂硬化物、後者(400℃以下の温度で加熱して溶融し得るもの)を熱可塑性樹脂と称する。従って、ポリイミド樹脂には、硬化性樹脂硬化物に該当するものと、熱可塑性樹脂に該当するものとがある。
また、上記のうち、エポキシ樹脂は硬化性樹脂硬化物に該当し、フッ素化芳香族ポリマー、ポリエーテルケトン樹脂及びポリエチレンナフタレート樹脂は熱可塑性樹脂に該当する。
【0020】
上記有機樹脂が硬化性樹脂硬化物である場合には、その原料(硬化性樹脂等)を液状で取り扱うことができること、すなわち、該前駆体が溶剤可溶性若しくは液状であることが必要である。なお、本明細書中で、「硬化性樹脂硬化物」は、硬化性樹脂が硬化又は半硬化したものであり、例えば、硬化性樹脂を架橋させることによって形成された架橋構造を有する形態等も好ましい形態の一つである。
一方、上記有機樹脂がTgが150℃以上の熱可塑性樹脂である場合には、該熱可塑性樹脂又はその原料を液状で取り扱うことができること、すなわち、該熱可塑性樹脂が溶剤可溶性であるか、又は、その原料が溶剤可溶性若しくは液状であることが必要である。
【0021】
上記ポリイミド樹脂としては、熱硬化性ポリイミド樹脂硬化物、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂が挙げられる。これらは、イミド環を持っているものであれば、原料とする化合物は限定されるものではないが、本発明の遮光性フィルムに用いる場合、製造の生産性、コスト、耐熱性の面から、熱硬化性ポリイミド樹脂が好ましく、更に、芳香族系熱硬化性ポリイミド樹脂が好ましい。
【0022】
上記ポリイミド樹脂の原料としては、ポリアミック酸や、ポリアミック酸の原料となるジアミンとテトラカルボン酸二無水物等であることが好ましい。より好ましくは、芳香族系のポリアミック酸や、芳香族ジアミン及びテトラカルボン酸二無水物が好ましい。また、ポリイミド樹脂としては、脂環式ポリイミド樹脂も好適である。脂環式ポリイミドの原料としては、ジアミン及び脂環式テトラカルボン酸二無水物を用いることが好適である。
【0023】
上記ポリアミック酸としては、加熱等によりポリイミドとすることができるものであれば特に限定されるものではなく、種々のポリアミック酸を用いることができる。例えば、一般的なポリアミック酸としては、下記式(1);
【0024】
【化1】

【0025】
(式中、Rは少なくとも2個以上の炭素原子を有する3価または4価の有機基である。Rは少なくとも2個以上の炭素原子を有する2価の有機基である。rは、1〜2の数である。)で表される構成単位(1)を有するものが挙げられる。
耐熱性の観点からは、Rは、環状炭化水素、芳香族環又は芳香族複素環を含有するものであることが好ましい。より好ましくは、Rは、環状炭化水素、芳香族環又は芳香族複素環を含有し、かつ炭素数6〜30の3価又は4価の基である。Rとしては、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフタレン基、ペリレン基、ジフェニルエーテル基、ジフェニルスルホン基、ジフェニルプロパン基、ベンゾフェノン基、ビフェニルトリフルオロプロパン基、シクロブチル基、シクロペンチル基等が挙げられるが、特に限定されるものではなく、種々の有機基を用いることができる。
耐熱性の観点からは、Rは、環状炭化水素、芳香族環又は芳香族複素環を含有するものであることが好ましい。より好ましくは、Rは、環状炭化水素、芳香族環又は芳香族複素環を含有し、かつ炭素数6〜30の2価の基である。Rとしては、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフタレン基、ペリレン基、ジフェニルエーテル基、ジフェニルスルホン基、ジフェニルプロパン基、ベンゾフェノン基、ビフェニルトリフルオロプロパン基、ジフェニルメタン基、ジシクロヘキシルメタン基等が挙げられるが、特に限定されるものではなく、種々の有機基を用いることができる。
【0026】
上記構成単位(1)を主成分とするポリアミック酸は、R、Rがそれぞれ1種から構成されているものであってもよいし、それぞれが2種以上から構成されるものであってもよい。
【0027】
上記構造単位(1)を主成分とするポリアミック酸としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルトリフルフォロプロパンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、及び、2,3,5,−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物からなる群より選ばれた1種以上のカルボン酸二無水物と、パラフェニレンジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、及び、4,4’−ジアミノジフェニメタンからなる群より選ばれた1種以上のジアミンから合成されたポリアミック酸(ポリイミド前駆体)が好適なものとして挙げられる。また、ポリアミック酸としては、これらに限定されるものではなく、例示したカルボン酸二無水物及びジアミン以外の化合物を用いて製造したものを用いてもよい。上記ポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを選択的に組み合わせ、溶媒中で反応させることにより合成することができる。
【0028】
また、熱硬化性ポリイミドの原料としては、芳香族ジアミンであることが好ましい。
上記芳香族ジアミンとしては、具体的には、パラフェニレンジアミン(PPD)、メタフェニレンジアミン(MPDA)、2,5−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニル、2,2−ビス(トリフルオロメチル)−4、4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(MDA)、2,2−ビス−(4−アミノフェニル)プロパン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(33DDS)、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(44DDS)、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(34ODA)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(133APB)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(134APB)、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPSM)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、2,2−ビス(3−アミノフェニル)1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン及び9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、3,3’−ジクロロベンジジン、1,5−ジアミノナフタレン、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニルジアミン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、2,4−ビス(β−アミノ−t−ブチル)トルエン、ビス(p−β−アミノ−t−ブチルフェニル)エーテル、ビス(p−β−メチル−δ−アミノフェニル)ベンゼン、ビス−p−(1,1−ジメチル−5−アミノ−ペンチル)ベンゼン、1−イソプロピル−2,4−m−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン等が好ましい。中でも好ましいジアミンは、パラフェニレンジアミン(PPD)、メタフェニレンジアミン(MPDA)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(MDA)、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(33DDS)、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(44DDS)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(34ODA)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(133APB)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(134APB)、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPSM)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)である。
【0029】
また、芳香族系ジアミン以外のジアミンも、用いることができる。例えば、ジ(p−アミノシクロヘキシル)メタン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ジアミノプロピルテトラメチレン、3−メチルへプタメチレンジアミン、4,4−ジメチルヘプタメチレンジアミン、2,11−ジアミノドデカン、1,2−ビス−3−アミノプロポキシエタン、2,2−ジメチルプロピレンジアミン、3−メトキシヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘプタメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、2,17−ジアミノエイコサデカン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,10−ジアミノ−1,10−ジメチルデカン、1,12−ジアミノオクタデカン、ピペラジン、HN(CHO(CHOCHNH、HN(CHS(CHNH、HN(CHN(CH(CHNH等が挙げられる。
【0030】
上記熱硬化性ポリイミド樹脂の原料となるテトラカルボン酸二無水物としては、芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましい。芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、具体的には、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、2,2−ビス[3,4−(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BPADA)、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、オキシジフタル酸無水物(ODPA)、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホキシド二無水物、チオジフタル酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、9,9−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物及び9,9−ビス[4−(3,4’−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン二無水物等を挙げることができる。中でも好ましいテトラカルボン酸二無水物は、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、2,2−ビス[3,4−(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BPADA)、オキシジフタル酸無水物(ODPA)、2,3,3’,4−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。なお、これらをメタノール、エタノール等のアルコール類と反応させてエステル化合物としてもよい。また、これらの芳香族ジアミン、芳香族テトラカルボン酸、芳香族テトラカルボン酸の無水物は、単独で又は混合して用いることができる。更に、複数種類のポリイミド前駆体溶液を調製し、それらのポリイミド前駆体溶液を混合して用いることもできる。
【0031】
上記芳香族テトラカルボン酸(又は芳香族テトラカルボン酸二無水物)と芳香族ジアミンとを反応させる有機極性溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、1,2−ジメトキシエタン、ジグライム及びトリグライム等が挙げられる。中でも好ましい溶媒はN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)である。これらの溶媒を単独で又は混合物として、若しくは、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等の他の溶媒と混合して用いることができる。
【0032】
以下に、熱可塑性ポリイミド樹脂について詳述する。
上記熱可塑性ポリイミド樹脂としては、ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物成分とを含む原料組成物を重縮合反応させて得られる熱可塑性ポリイミド樹脂であることが好ましい。また、本発明において用いられる熱可塑性ポリイミド樹脂のガラス転移温度Tgは、150℃以上である。
【0033】
熱可塑性ポリイミド樹脂の原料として用いられるジアミンとしては、上記のごとく4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル等を使用することができるが、特に限定されるものではなく、本発明の効果を得ることができる範囲で種々の原料を用いることができる。熱可塑性ポリイミド樹脂の原料とすることができるジアミンについて、以下に例示する。
【0034】
上記熱可塑性ポリイミド樹脂の原料として用いることができるジアミンとしては、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−アミノベンジルアミン、p−アミノベンジルアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、ビス(3−アミノフェニル)スルフィド、ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、(3−アミノフェニル)(4−アミノフェニル)スルフィド、ビス(3−アミノフェニル)スルホキシド、ビス(4−アミノフェニル)スルホキシド、(3−アミノフェニル)(4−アミノフェニル)スルホキシド、ビス(3−アミノフェニル)スルホン、ビス(4−アミノフェニル)スルホン、(3−アミノフェニル)(4−アミノフェニル)スルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、4,4’−ビス[3−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、ビス[4−{4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ}フェニル]スルホン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−トリフルオロメチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−フルオロフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−メチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−シアノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−ビフェノキシベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、2,6−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾニトリル、6,6’−ビス(2−アミノフェノキシ)−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン、6,6’−ビス(3−アミノフェノキシ)−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3−ビス(3−(3−アミノフェノキシ)フェノキシ)ベンゼン、ビス(3−(3−アミノフェノキシ)フェニル)エーテル、ビス(3−(3−(3−アミノフェノキシ)フェノキシ)フェニル)エーテル、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、1,3−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、1,3−ビス(1−(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)−1−メチルエチル)ベンゼン、1,4−ビス(1−(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)−1−メチルエチル)ベンゼン、1,4−ビス(1−(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)−1−メチルエチル)ベンゼン、2,2−ビス(3−(3−アミノフェノキシ)フェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、及び2,2−ビス(3−(4−アミノフェノキシ)フェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。より好ましくは1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、及び1,3−ビス(3−(3−アミノフェノキシ)フェノキシ)ベンゼンから選ばれた少なくとも一種のジアミンを用いる。更に好ましいジアミンは、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−(3−アミノフェノキシ)フェノキシ)ベンゼンである。これらは、単独で、又は、2種以上を混合して使用することができる。
【0035】
上記熱可塑性ポリイミドの原料として用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、熱可塑性ポリイミドを生成することができるものであれば特に限定されない。例えば、以下に示すテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。
テトラカルボン酸二無水物としては、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、オキシ−4,4’−ジフタル酸二無水物、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、エチレングリコールビストリメリット酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−へキサフルオロプロパン二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,2−ビス(3,4−ジカルボキシベンゾイル)ベンゼン二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシベンゾイル)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシベンゾイル)ベンゼン二無水物、2,2’−ビス((3,4−ジカルボキシ)フェノキシ)ベンゾフェノン二無水物、2,3’−ビス((3,4−ジカルボキシ)フェノキシ)ベンゾフェノン二無水物、2,4’−ビス((3,4−ジカルボキシ)フェノキシ)ベンゾフェノン二無水物、3,3’−ビス((3,4−ジカルボキシ)フェノキシ)ベンゾフェノン二無水物、3,4’−ビス((3,4−ジカルボキシ)フェノキシ)ベンゾフェノン二無水物、及び4,4’−ビス((3,4−ジカルボキシ)フェノキシ)ベンゾフェノン二無水物等を用いることができる。
【0036】
上記熱可塑性ポリイミド樹脂としては上述した原料を用いて製造することができ、熱可塑性ポリイミド樹脂である限り特に限定されるものではなく、種々の化合物を用いることができる。上記熱可塑性ポリイミド樹脂としては、例えば、下記化学式;
【0037】
【化2】

【0038】
で表される構成単位を有するものであることも好ましい形態の一つである。この熱可塑性ポリイミド樹脂を製造するための原料モノマーは、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ピロメリット酸二無水物、又は、その少なくとも一部を加水分解により開環した加水分解開環物、及び、無水フタル酸、又は、その少なくとも一部を加水分解により開環した加水分解開環物等である。
【0039】
上記ポリイミド樹脂としては、芳香族ポリイミド樹脂以外にも、脂環式ポリイミド樹脂を用いることもできる。脂環式ポリイミド樹脂を生成する原料としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下に示す脂環式テトラカルボン酸二無水物を原料として用いることができる。脂環式テトラカルボン酸無水物としては、下記式;
【0040】
【化3】

【0041】
で表される単環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物、下記式;
【0042】
【化4】

【0043】
で表されるビシクロ環構造の脂肪族テトラカルボン酸二無水物、下記式;
【0044】
【化5】

【0045】
で表される三環以上の多脂環構造テトラカルボン酸二無水物等が好適である。
【0046】
上記熱可塑性ポリイミド樹脂は、公知の方法により製造することが可能である。例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルフォキサイド(DMSO)、硫酸ジメチル、スルフォラン、ブチロラクトン、クレゾール、フェノール、ハロゲン化フェノール、シクロヘキサン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライムなどの溶媒中において、上記テトラカルボン酸二無水物成分と上記ジアミン成分を所定の割合で混合して原料組成物を得る。得られた原料組成物を、反応温度0〜100℃の範囲内で反応させることにより、熱可塑性ポリイミド前駆体の溶液が得られる。ポリイミド前駆体とは、例えばポリアミック酸である。この溶液を200℃〜500℃の高温雰囲気で熱処理して、イミド化して熱可塑性ポリイミドの溶液とする方法がある。
【0047】
上記熱可塑性ポリイミドの原料に含まれる、ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物成分のモル比(テトラカルボン酸二無水物成分/ジアミン成分)は、0.75〜1.25の範囲が好ましく、0.90〜1.10の範囲がさらに好ましく、特に好ましくは1.00〜0.97の範囲である。反応の制御が容易であること、および、合成される熱可塑性ポリイミドの加熱流動性が良好であるからである。また、上記熱可塑性ポリイミドの前駆体溶液の原料組成物における、ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物成分の総含有率は、5〜20重量%程度が好ましい。
【0048】
上記ポリイミド樹脂としては、ポリアミドイミド樹脂を用いることもできる。ポリアミドイミド樹脂とは、トリカルボン酸化合物由来のイミド結合とアミド結合とを有するポリイミド樹脂(ここでの「ポリイミド樹脂」とは、広義のポリイミド樹脂を意味する。)である。このようなポリアミドイミド樹脂は、ポリアミドイミド前駆体ポリマーをイミド化反応して得ることができる。
上記ポリアミドイミド前駆体ポリマーは、少なくともトリカルボン酸化合物を含む多価カルボン酸化合物と、多価アミン化合物及び/又は多価イソシアネート化合物との反応により得られるものであることが好適である。反応原料としては、各々1種又は2種以上を使用でき、複数種類のポリアミドイミド前駆体ポリマーを調製し、それらのポリマーを混合して用いることもできる。
【0049】
上記多価カルボン酸化合物とは、分子中に2個以上のカルボキシル基又はカルボキシル基の誘導基を有する化合物であり、その無水物も含むものとする。したがって、多価カルボン酸化合物の1種であるトリカルボン酸化合物は、分子中に3個のカルボキシル基又はカルボキシル基の誘導基を有する化合物であり、その無水物も含むものとする。
ここで、カルボキシル基の誘導基とは、COXで表され、Xがハロゲン元素又はORで表される基(Rは、炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基を表す。)をいう。
【0050】
上記多価カルボン酸化合物は、少なくともトリカルボン酸化合物を含むものであるが、その含有割合は、多価カルボン酸化合物の総量100質量%に対し、トリカルボン酸化合物が30質量%以上であることが好適である。これにより、更に優れた硬化転写性を発揮できることになる。より好ましくは50質量%以上であり、更に好ましくは70質量%以上である。
【0051】
上記トリカルボン酸化合物(トリカルボン酸一無水物も含む)としては、脂肪族環状炭化水素、芳香族環又は芳香族複素環を含むものが好適であり、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフタレン基、ペリレン基、ジフェニルエーテル基、ジフェニルスルホン基、ジフェニルプロパン基、ベンゾフェノン基、ビフェニルトリフルオロプロパン基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の基に、3個のカルボキシル基又はその誘導基が結合してなる化合物等が挙げられる。中でも、芳香族環を含むものが好ましく、トリメリット酸や水素化トリメリット酸、その無水物や誘導体がより好ましい。
【0052】
上記トリカルボン酸化合物以外の多価カルボン酸化合物としては、テトラカルボン酸化合物やその無水物等が挙げられ、中でも、以下に示す芳香族テトラカルボン酸二無水物が好適である。また、これらをメタノール、エタノール等のアルコール類と反応させてエステル化合物としてもよい。
ピロメリット酸二無水物(PMDA)、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、2,2−ビス[3,4−(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BPADA)、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、オキシジフタル酸無水物(ODPA)、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホキシド二無水物、チオジフタル酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、9,9−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物及び9,9−ビス[4−(3,4’−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン二無水物等。
【0053】
これらの中でも、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、2,2−ビス[3,4−(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BPADA)、オキシジフタル酸無水物(ODPA)、2,3,3’,4−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物等が好適である。
【0054】
上記多価アミン化合物とは、分子内に2以上のアミノ基を有する化合物であり、特に分子内に2つのアミノ基を有する化合物(ジアミン化合物)であることが好適である。ジアミン化合物としては、2つのアミノ基間に芳香族環を含む芳香族ジアミンや、2つのアミノ基間が脂肪族基で構成される脂肪族ジアミン、2つのアミノ基間にシロキサン結合を含む構造単位を有するシロキサンジアミン等を用いることができる。
【0055】
上記芳香族ジアミンとしては、具体的には、パラフェニレンジアミン(PPD)、メタフェニレンジアミン(MPDA)、2,5−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニル、2,2−ビス(トリフルオロメチル)−4、4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(MDA)、2,2−ビス−(4−アミノフェニル)プロパン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(33DDS)、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(44DDS)、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(34ODA)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、
【0056】
1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(133APB)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(134APB)、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPSM)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、2,2−ビス(3−アミノフェニル)1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン及び9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、3,3’−ジクロロベンジジン、1,5−ジアミノナフタレン、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニルジアミン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、2,4−ビス(β−アミノ−t−ブチル)トルエン、ビス(p−β−アミノ−t−ブチルフェニル)エーテル、ビス(p−β−メチル−δ−アミノフェニル)ベンゼン、ビス−p−(1,1−ジメチル−5−アミノ−ペンチル)ベンゼン、1−イソプロピル−2,4−m−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン等が挙げられる。
【0057】
これらの中でも、パラフェニレンジアミン(PPD)、メタフェニレンジアミン(MPDA)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(MDA)、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(33DDS)、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(44DDS)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(34ODA)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(133APB)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(134APB)、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPSM)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)等が好適である。
【0058】
上記脂肪族ジアミンとしては、例えば、ジ(p−アミノシクロヘキシル)メタン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ジアミノプロピルテトラメチレン、3−メチルへプタメチレンジアミン、4,4−ジメチルヘプタメチレンジアミン、2,11−ジアミノドデカン、1,2−ビス−3−アミノプロポキシエタン、2,2−ジメチルプロピレンジアミン、3−メトキシヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘプタメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、2,17−ジアミノエイコサデカン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,10−ジアミノ−1,10−ジメチルデカン、1,12−ジアミノオクタデカン、ピペラジン、HN(CHO(CHOCHNH、HN(CHS(CHNH、HN(CHN(CH(CHNH等が挙げられる。
【0059】
上記シロキサンジアミンとしては、例えば、ポリジメチルシロキサンジアミン(シリコーンオイルX−22−161AS(アミン当量450)、X−22−161A(アミン当量840)、X−22−161B(アミン当量1500)、X−22−9409(アミン当量700)、X−22−1660B−3(アミン当量2200)、KF−8010(アミン当量415)(以上、信越化学工業社製))等が挙げられる。
【0060】
上記多価イソシアネート化合物とは、分子内に2以上のイソシアナート基を有する化合物であり、特に分子内に2つのイソシアナート基を有する化合物(ジイソシアネート化合物)であることが好適である。
上記ジイソシアネート化合物としては、例えば、メチレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキシルジイソシアネート、p−キシレンジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネート、4,4’−ビス(3−トリレン)ジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジイソシアネートビフェニル、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0061】
上記多価カルボン酸化合物と、多価アミン化合物及び/又は多価イソシアネート化合物との反応において、これらの成分割合は、ポリアミドイミド前駆体ポリマーに推奨される分子量の調整等によって適宜設定すればよいが、例えば、カルボキシル基及びその誘導基の総量を1モルとすると、アミノ基及びイソシアナート基の合計モル量が0.7〜1.5モルとなるように設定することが好適である。1.5モルより多いと、未反応の多価アミン化合物や多価イソシアネート化合物が残存しやすく、成膜性が充分とはならないおそれがあり、0.7モル未満であると、ゲル化を引き起こしやすく、この場合も成膜性が充分とはならないおそれがある。より好ましくは、アミノ基及びイソシアナート基の合計モル量を0.9〜1.3モルとすることである。
【0062】
上記反応は、通常の手法により行えばよく、例えば、反応温度は、80〜210℃とすることが好適である。これにより、反応時間を短く、かつゲル化を充分に抑制することが可能になる。より好ましくは100〜190℃であり、更に好ましくは120〜180℃である。また、反応時間は、30分〜15時間とすることが好適であり、より好ましくは1〜10時間である。
【0063】
上記反応はまた、必要に応じ、有機溶媒や触媒の存在下で行ってもよい。
上記有機溶媒としては、有機極性溶媒が好ましく、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、1,2−ジメトキシエタン、ジグライム及びトリグライム等が挙げられる。中でも、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)が好適である。これらの溶媒は、単独で又は混合物として使用することもできるし、また、トルエンやキシレン等の芳香族炭化水素等の他の溶媒と混合して用いることもできる。
上記触媒としては、例えば、三級アミン類、アルカリ金属、アルカリ土類金属、錫、亜鉛、チタニウム、コバルト等の金属又は半金属化合物等が挙げられる。
【0064】
上記ポリアミドイミド樹脂の分子量としては、数平均分子量として、1000〜200000であることが好適である。1000未満であると、耐熱性に優れた樹脂にならないおそれがあり、200000を超えると、ゲル化してしまうおそれがある。より好ましくは5000〜150000であり、更に好ましくは10000〜100000である。
上記数平均分子量としては、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定することができる。
【0065】
このように、上述したポリイミド樹脂は、その原料(ポリアミック酸、前駆体ポリマー等)が溶剤可溶性であり、遮光層の形成工程において、硬化(イミド化)前に液状で取り扱うことができる。従って、カーボンブラックを低いシェア(剪断力)でより均一に有機樹脂中に分散することができる。
【0066】
上記ポリイミド樹脂としては、上述したもの以外に、溶剤可溶性ポリイミド樹脂を用いることもできる。溶剤可溶性ポリイミド樹脂とは、有機溶剤に可溶であるポリイミド樹脂をいい、分子骨格に屈曲性の分子鎖を導入したり、分子内のイミド環同士の距離を増大させる基を導入したりすることにより、溶剤可溶性としたものである。
上記溶剤可溶性ポリイミド樹脂としては、有機溶剤に可溶な限り特に制限されず、従来公知のものが広く使用できる。溶剤可溶性ポリイミド樹脂は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン成分とを、好ましくは不活性ガス雰囲気下で、イミド化することにより調製することができる。
このような溶剤可溶性ポリイミド樹脂を用いると、遮光層の形成工程においては、ポリイミド樹脂の溶液中にカーボンブラックを分散することとなるため、低いシェア(剪断力)で均一にカーボンブラックを分散することができる。
【0067】
上記エポキシ樹脂(硬化物)は、その原料となる硬化性樹脂である多官能エポキシ化合物を硬化反応させることにより得られる。
上記多官能エポキシ化合物としては、以下のような化合物等が好適である。ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール等のビスフェノール類とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるエピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、及び、これらを上記ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール等のビスフェノール類と更に付加反応させることにより得られる高分子量エピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フェノール、クレゾール、キシレノール、ナフトール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール等のフェノール類とホルムアルデヒド、アセトアルテヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド、ジシクロペンタジエン、テルペン、クマリン、パラキシリレングリコールジメチルエーテル、ジクロロパラキシリレン、ビスヒドロキシメチルビフェニル等を縮合反応させて得られる多価フェノール類を更にエピハロヒドリンと縮合反応することにより得られるノボラック・アラルキルタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;テトラメチルビフェノール、テトラメチルビスフェノールF、ハイドロキノン、ナフタレンジオール等とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られる芳香族結晶性エポキシ樹脂、及び、更に上記ビスフェノール類やテトラメチルビフェノール、テトラメチルビスフェノールF、ハイドロキノン、ナフタレンジオール等を付加反応させることにより得られる芳香族結晶性エポキシ樹脂の高分子量体;上記ビスフェノール類やテトラメチルビフェノール、テトラメチルビスフェノールF、ハイドロキノン、ナフタレンジオール等の芳香族骨格を水素化した脂環式グリコール類やエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、PEG600、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、PPG、グリセロール、ジグリセロール、テトラグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン及びその多量体、ペンタエリスリトール及びその多量体、グルコース、フルクトース、ラクトース、マルトース等の単/多糖類等とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られる脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂;(3,4−エポキシシクロヘキサン)メチル3´,4´−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート等のエポキシシクロへキサン骨格を有するエポキシ樹脂;テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、安息香酸とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂;ヒンダトインやシアヌール酸、メラミン、ベンゾグアナミンとエピハロヒドリンとの縮合反応により得られる室温で固形の3級アミン含有グリシジルエーテル型エポキシ樹脂。中でも、上記脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂やエポキシシクロヘキサン骨格を有するエポキシ樹脂が光照射時の外観劣化抑制を目的とした場合はより好適に用いられる。
【0068】
上記エポキシ基を少なくとも1つ有する化合物としては、可とう性を有する化合物であることも好ましい。可とう性を有する化合物を含むことによって、例えば、加工、成形等の工程において取り扱い性が優れたものとなる。可とう性を有する化合物を用いることによって、例えば、フィルム形状等へ成形する場合等に特に好適である。可とう性を有するエポキシ基を少なくとも1つ有する化合物としては、具体的には、−[−(CH−O−]−で表されるオキシアルキレン骨格を有する化合物(nは2以上、mは1以上の整数である。好ましくは、nは2〜12、mは1〜1000の整数である。より好ましくは、nは3〜6、mは1〜20の整数である。);高分子エポキシ樹脂(例えば、水添ビスフェノール型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、YL−7170、エポキシ当量1000、固形水添エポキシ樹脂);オキシアルキレン骨格がオキシブチレンであるエポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、YL−7217、エポキシ当量437、液状エポキシ樹脂(10℃以上)や、ジャパンエポキシレジン社製のYED−216D);フェノキシ樹脂(例えば、ジャパンエポキシレジン社製、YX−8100BX、YX6954BX等);脂環式固形エポシキ樹脂(ダイセル工業社製、EHPE−3150);脂環式液状エポキシ樹脂(ダイセル工業社製、セロキサイド2081)等が好ましい。これらの中でもより好ましくは、末端や側鎖や主鎖骨格等にエポキシ基を含む化合物である。このように、エポキシ基を少なくとも1つ有する化合物が、可とう性を有するものであることも、本発明の好ましい形態の一つである。
【0069】
本発明では、硬化性樹脂として、熱可塑性樹脂等の非硬化性成分と低分子量の硬化性化合物とを含有するものを使用することもできる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンからなるABS樹脂、塩化ビニル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、アセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンオキシド、ポリエステル、ポリイミド等を挙げることができる。上記硬化性化合物としては、多価フェノール化合物、重合性不飽和結合を有する化合物、ポリイミド樹脂、及び、エポキシ基を少なくとも1つ有する化合物について例示した中から、適宜選択して使用すればよい。
【0070】
本発明において、有機樹脂の原料が多官能エポキシ化合物である場合、有機樹脂は、熱潜在性カチオン発生剤を用いてカチオン硬化されてなるものであることが好ましい。熱潜在性カチオン発生剤とは、カチオン重合開始剤とも呼ばれ、樹脂組成物において硬化温度になれば、硬化剤としての実質的な機能を発揮するものである。このような熱潜在性カチオン発生剤を用いることにより、例えば、室温で硬化がすすむような有機樹脂原料を用いた場合であっても、室温で硬化を進まないようにすることができ、硬化反応のハンドリングが容易にできるようになる。また、得られる樹脂組成物硬化物(有機樹脂、遮光層)の耐湿性が劇的に改善され、過酷な使用環境においても樹脂組成物が有する優れた光学特性を保持し、種々の用途に好適に用いることができるものとなる。通常、屈折率が高い水分が樹脂組成物やその硬化物に含まれると、濁り、黒色度の低下の原因になるが、上記カチオン硬化性樹脂組成物を用いた場合、優れた耐湿性が発揮できることから、このような濁り、黒色度の低下が抑制され、遮光性フィルム並びにレンズ等の光学用途に好適に用いることができる。特に車載用カメラや宅配業者向けバーコード読み取り機などの用途では、長時間の紫外線照射や夏季の高温暴露により黄変や強度劣化が懸念されるが、これらの現象は空気や水分の紫外線照射又は熱線暴露の相乗効果により酸素ラジカルの発生が原因と考えられる。耐湿性が向上することで、樹脂組成物硬化物中への吸湿が抑制され、紫外線照射又は熱線暴露の相乗効果による酸素ラジカル発生も抑えられるため、樹脂組成物硬化物の黄変や強度低下を引き起こすことなく長時間にわたり優れた耐熱性を発揮する。
【0071】
上記熱潜在性カチオン発生剤としては、下記一般式(2):
(RZ)+m(MXn)−m(2)
(式中、Zは、S、Se、Te、P、As、Sb、Bi、O、N及びハロゲン元素からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を表す。R、R、R及びRは、同一又は異なって、有機基を表す。b、c、d及びeは、0又は正数であり、b、c、d及びeの合計はZの価数に等しい。カチオン(RZ)+mはオニウム塩を表す。Mは、ハロゲン化物錯体の中心原子である金属又は半金属(metalloid)を表し、B、P、As、Al、Ca、In、Ti、Zn、Sc、V、Cr、Mn、Coからなる群より選ばれる少なくとも一つである。Xは、ハロゲン元素を表す。mは、ハロゲン化物錯体イオンの正味の電荷である。nは、ハロゲン化物錯体イオン中のハロゲン元素の数である。)で表されるものであることが好ましい。
【0072】
上記一般式(2)の陰イオン(MXn)−mの具体例としては、テトラフルオロボレート(BF4−)、ヘキサフルオロホスフェート(PF6−)、ヘキサフルオロアンチモネート(SbF6−)、ヘキサフルオロアルセネート(AsF6−)、ヘキサクロロアンチモネート(SbCl6−)等が挙げられる。
更に一般式MXn(OH)で表される陰イオンも用いることができる。また、その他の陰イオンとしては、過塩素酸イオン(ClO)、トリフルオロメチル亜硫酸イオン(CFSO)、フルオロスルホン酸イオン(FSO)、トルエンスルホン酸イオン、トリニトロベンゼンスルホン酸イオン等が挙げられる。
【0073】
上記熱潜在性カチオン発生剤の具体的な商品としては、ジアゾニウム塩タイプ:AMERICUREシリーズ(アメリカン・キャン社製)、ULTRASETシリーズ(アデカ社製)、WPAGシリーズ(和光純薬工業社製)
ヨードニウム塩タイプ:UVEシリーズ(ゼネラル・エレクトリック社製)、FCシリーズ(3M社製)、UV9310C(GE東芝シリコーン社製)、Photoinitiator 2074(ローヌプーラン社製)、WPIシリーズ(和光純薬工業社製)
スルホニウム塩タイプ:CYRACUREシリーズ(ユニオンカーバイド社製)、UVIシリーズ(ゼネラル・エレクトリック社製)、FCシリーズ(3M社製)、CDシリーズ(サトーマー社製)、オプトマーSPシリーズ・オプトマーCPシリーズ(アデカ社製)、サンエイドSIシリーズ(三新化学工業社製)、CIシリーズ(日本曹達社製)、WPAGシリーズ(和光純薬工業社製)、CPIシリーズ(サンアプロ社製)
等が挙げられる。
【0074】
また、熱潜在性カチオン発生剤以外の硬化剤としては、例えば、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルヘキサヒドロフタル酸、無水ピロメリット酸、メチルナジック酸等の酸無水物類;フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂、テルペンフェノール樹脂等の種々のフェノール樹脂類;種々のフェノール類とヒドロキシベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、グリオキザール等の種々のアルデヒド類との縮合反応で得られる多価フェノール樹脂等の各種のフェノール樹脂類;BF錯体、スルホニウム塩類、イミダゾール類等の1種又は2種以上を用いることができる。また、上記エポキシ基を少なくとも1つ有する化合物を後述する多価フェノール化合物で硬化することも好ましい態様である。
【0075】
上記多官能エポキシ化合物を含有する樹脂組成物の硬化においては、硬化促進剤を用いることができ、例えば、トリフェニルホスフィン、トリブチルヘキサデシルホスフォニウムブロマイド、トリブチルホスフィン、トリス(ジメトキシフェニル)ホスフィン等の有機リン化合物等の1種又は2種以上が好適である。
上記硬化温度としては、70〜200℃が好ましい。より好ましくは、80〜150℃である。硬化時間としては、1〜15時間が好ましい。より好ましくは、5〜10時間である。
【0076】
上記Tgが150℃以上の熱可塑性樹脂としては、フッ素化芳香族ポリマー、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリイミド樹脂等が好適である。なお、本明細書中で、「フッ素化芳香族ポリマー」は、芳香族フッ素化ポリエーテルケトン樹脂を除くものとする。
上記Tgが150℃以上の熱可塑性樹脂として好ましくは、Tgが高く、リフローアブル加工に好適に用いることができる点で、フッ素化芳香族ポリマー、ポリイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂である。より好ましくは、フッ素化芳香族ポリマー、ポリイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂であり、更に好ましくは、ポリエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂である。
【0077】
上記ポリイミド樹脂については既に説明したとおりである。
上記ポリエーテルケトン樹脂としては、芳香環を有する芳香族ポリエーテルケトン樹脂、一部又は全部がフッ素化されたフッ素化ポリエーテルケトン樹脂(FPEK)が好ましい。より好ましくは、フッ素化ポリエーテルケトン樹脂であり、更に好ましくは、芳香環の一部又は全部がフッ素化された芳香族フッ素化ポリエーテルケトン樹脂である。芳香族フッ素化ポリエーテルケトン樹脂を用いると、原料が溶剤可溶性であり、しかも、耐熱性に優れる遮光性フィルムとすることができる。
上記芳香族フッ素化ポリエーテルケトン樹脂としては、下記構成単位:
【0078】
【化6】

【0079】
(式中、Rは、下記式:
【0080】
【化7】

【0081】
で表される基の少なくとも一つである。)の少なくともいずれか一つを有するポリマーであることが好ましい。より好ましくは、上記構成単位の少なくとも一つを繰り返し単位として有するポリマーであり、更に好ましくは、上記基(1)を有する構成単位(I)を繰り返し単位として有するポリマー、及び、上記基(2)を有する構成単位(II)を繰り返し単位として有するポリマーである。
上記フッ素化ポリエーテルケトン樹脂の分子量としては、数平均分子量が10000〜200000が好ましく、より好ましくは20000〜150000であり、更に好ましくは30000〜120000である。
上記数平均分子量の測定方法としては、スチレン換算によりGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定するものである。GPCの測定条件としては、以下の条件を用いる。
機種:東ソー社製 HLC−8120GPC
カラム:G−5000HXL+GMHXL−L
展開溶媒:THF
流速:1ml/min
標準:標準ポリスチレン使用
【0082】
上記熱可塑性樹脂のTgは150℃以上である。150℃以上であると、耐熱性に優れ、かつ可とう性に優れるものとすることができる。Tgが150℃未満であると、リフローアブル仕様とするには耐熱性が充分でなく、種々の用途に好適に用いることができないおそれがある。Tgとしてより好ましくは180℃以上であり、更に好ましくは190℃以上であり、特に好ましくは200℃以上であり、最も好ましくは、230℃以上である。例えば、遮光性フィルムをレンズモジュールなどに装着する際には、素子化の工程等において高温に暴露されることとなるが、上記範囲で示すような高いTgを有することにより、素子化の工程等の加工温度で変形することを防ぐことができる。本発明の遮光性フィルムを有するレンズユニットが耐リフロー性を有するようにすることで、ハンダリフロー工程による自動実装化が可能となり、製造コストをより低く抑えることができることとなる。ハンダリフロー工程に対する充分な耐熱性を有するには、Tgが230℃以上であることが特に好ましい。すなわち、本発明の遮光性フィルムは、半田リフロー工程に供されるレンズユニットに用いられるものであることも本発明の好適な形態の一つである。
【0083】
上記熱可塑性樹脂の数平均分子量としては、10000〜200000であり、好ましくは20000〜150000である。更に好ましくは30000〜120000である。10000以下であると、耐熱性に優れた樹脂にならず、200000以上であると、ポリマーがゲル化してしまうおそれがある。
【0084】
上記有機樹脂は、硬化性樹脂硬化物又はTgが150℃以上の熱可塑性樹脂を含有する限り、その他の成分を含有していてもよく、これらの成分は1種又は2種以上を用いることができる。有機樹脂が上記その他の成分を含有する場合、該その他の成分も、硬化前又は成形前の工程において液状で取り扱うことができるものであることが必要である。上記有機樹脂中の硬化性樹脂硬化物又はTgが150℃以上の熱可塑性樹脂の含有量としては、有機樹脂の総量100質量%に対して、50質量%〜100質量%であることが好ましい。より好ましくは、70質量%〜100質量%である。
【0085】
<遮光層形成用樹脂組成物>
本発明の遮光性フィルムは、遮光層が有機樹脂及び/又はその原料並びにカーボンブラックを含む遮光層形成用樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」ともいう。)により形成されることが好ましい。上記樹脂組成物を構成する有機樹脂及びカーボンブラックは、上述したものと同様である。
上記樹脂組成物は、有機樹脂及び/又はその原料並びにカーボンブラックを必須とする限り、その他の成分を含んでいてもよく、それらの成分は1種又は2種以上を用いることができる。
【0086】
上記樹脂組成物において、上記カーボンブラックは、均一に分散されていることが好ましい。樹脂組成物中でカーボンブラックを分散する場合、カーボンブラックが均一に分散した方が、遮光層におけるカーボンブラックの濃度分布が均一となり、色相(黒色)が均一となる。また、カーボンブラックが均一濃度で分散してなるものであると、遮光性フィルムを微小な大きさにカットする際のカッティング特性に優れたものとなる。一方、カーボンブラックが分散された状態で存在しない場合には、遮光性フィルムにおける遮光層を形成した際に遮光層が充分に均一に黒色とはならず、より優れた遮光性を発揮できないおそれがある。
なお、遮光層形成用樹脂組成物中に分散させた場合のカーボンブラックの均一分散性は透過型電子顕微鏡(TEM)を使用することにより評価することができる。
【0087】
上記カーボンブラックを分散する手法、すなわちカーボンブラックが分散した形態の樹脂組成物の製造方法としては、種々の方法を好適に用いることができ、例えば、(1)有機樹脂及び/又はその原料を溶剤に溶解させた樹脂バインダー溶液にカーボンブラックを混合し、分散処理する方法;(2)カーボンブラックを分散させた分散液に有機樹脂及び/又はその原料を溶解する方法;(3)有機樹脂またはその原料それ自体が液状である場合、これらに(溶剤を使わずに)カーボンブラックを混合し分散処理する方法;(4)その他、有機樹脂及び/又はその原料を微粒子状に分散した分散体にカーボンブラックを混合し、分散処理する方法や、有機樹脂及び/又はその原料とカーボンブラックとの混合物を溶融、混練処理する方法等が挙げられ、カーボンブラック及び有機樹脂に応じて適宜選択し、用いることができる。中でも、(1)〜(3)が好適に採用される。
【0088】
上記カーボンブラックの含有量としては、有機樹脂とカーボンブラックとの固形分合計100質量%に対し、1質量%以上、20質量%未満であることが好ましい。1質量%未満であると、遮光性が充分とはならないおそれがあり、20質量%以上では、樹脂組成物の粘度が高すぎるために扱いにくく、得られる樹脂フィルムが割れ易くなるおそれがある。より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。また、より好ましくは10質量%以下である。
【0089】
上記樹脂組成物は、有機樹脂及び/又はその原料、カーボンブラックとともに溶剤を含むことが好ましい。上記溶剤としては、有機樹脂またはその原料を溶解できるものを用いることが好ましい。上記有機樹脂が他の樹脂やその樹脂原料を含む場合には、それらの成分は溶剤可溶性であることが好ましい。これにより、カーボンブラックを樹脂組成物中に均一に分散させることが容易になるため、カーボンブラックが充分に均一に分散した樹脂組成物が得られ、結果としてカーボンブラックが充分に均一に分布した、カッティング特性や遮光性に優れたフィルムを得ることが可能になる。
この場合、上記樹脂組成物の製造方法としては、有機樹脂及び/又はその原料が溶解した溶液(樹脂バインダー溶液)に、カーボンブラックが分散した分散液を、混合・分散させる方法を用いることが好適である。これにより、例えば、この樹脂組成物を用いて塗布等により遮光層(黒色層)を形成した場合に、遮光層としてより均質な黒色性を得ることができ、優れた遮光性を発揮することが可能になる。
カーボンブラックが分散した分散液を調製する際、ポリビニルピロリドン等の分散剤を使用することも好ましい形態である。
【0090】
上記溶剤としては、樹脂の種類に応じて適宜選択されるがメチルエチルケトン(2−ブタノン)、メチルイソブチルケトン(4−メチル−2−ペンタノン)、シクロヘキサノン等のケトン類;PGMEA(2−アセトキシ−1−メトキシプロパン)、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体(エーテル化合物、エステル化合物、エーテルエステル化合物等);N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類;N−メチル−ピロリドン(より具体的には、1−メチル−2−ピロリドン等)等のピロリドン類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;シクロヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジプチルエーテル等のエーテル類;等が好適である。
また、上記溶剤としてより好ましくは、メチルエチルケトン(2−ブタノン)、メチルイソブチルケトン(4−メチル−2−ペンタノン)、シクロヘキサノン、PGMEA(2−アセトキシ−1−メトキシプロパン)、N,N−ジメチルアセトアミド、酢酸エチル、1−メチル−2−ピロリドン(NMP)等であり、これらの溶剤は、例えば、有機樹脂が熱可塑性樹脂である場合のように、有機樹脂とその原料とが同じ(組成的に同じである)ものである場合に特に好ましい。
更に、上記有機樹脂の原料が、ポリイミド樹脂の原料であるポリアミック酸、若しくは、ポリアミック酸の原料となる芳香族ジアミン化合物と芳香族テトラカルボン酸二無水物とである場合には、N−メチル−ピロリドン、N,N’−ジメチルアセトアミド、芳香族炭化水素類、及び、これらの混合物がより好ましい。上記有機樹脂の原料が、エポキシ樹脂の原料である多官能エポキシ化合物、若しくは、多官能エポキシ化合物と硬化剤とである場合には、ケトン類、芳香族炭化水素類、グリコール誘導体、又は、これらの混合物であることがより好ましい。
【0091】
上記溶剤の使用量としては、有機樹脂100重量部に対して、150重量部以上であることが好ましく、また、1900重量部以下が好ましい。より好ましくは、200重量部以上であり、また、1400重量部以下である。上記樹脂組成物が有機樹脂の原料をも含む場合には、有機樹脂及びその原料の総量100重量部に対して、溶剤の含有量が上記範囲にあることが好ましい。
【0092】
上記樹脂組成物の製造方法においては、樹脂組成物の原料として、カーボンブラックを溶剤可溶性の有機樹脂またはその原料に分散含有させてなる粒子(カーボンブラック含有粒子)を用いる形態であってもよい。この場合、有機樹脂としては溶剤可溶性のポリイミド樹脂が特に好適である。
【0093】
上記遮光層形成用樹脂組成物において、樹脂溶液としての固形分含有量(有機樹脂及び/又はその原料とカーボンブラックとの合計含有量)は、該樹脂組成物100質量%中、4〜40質量%であることが好ましい。4質量%未満であると、溶剤が多く、フィルム乾燥に時間がかかり、また凝集等により膜厚特性が充分なものとはならないおそれがあり、40質量%を超えると、粘度が高すぎ、塗工できずフィルム化できないおそれがある。より好ましくは5〜35質量%であり、更に好ましくは10〜30質量%である。
【0094】
上記遮光層形成用樹脂組成物としては、その粘度(樹脂溶液としての25℃における粘度)が10cP〜10万cP(センチポアズ)であることが好ましい。この範囲にあると、遮光層形成用樹脂組成物を容易に塗布、乾燥、固化、硬化又は反応して成膜することが可能となる。より好ましくは500cP〜5万cPである。
上記粘度は、B型粘度計により測定することができる。
【0095】
上記遮光層形成用樹脂組成物はまた、表面調整剤を含むことが好ましい。表面調整剤は、膜の均一性の改善、具体的には穴の解消やゆず肌の解消の為に好適に使用し得るものである。表面調整剤としては、穴をなくす効果が高い点で、表面張力低下能の高い化合物が好ましく、また、ゆず肌の解消効果が高い点で、極性が高い化合物が好ましい。
上記表面調整剤としては、例えば、シリコン系表面調整剤(シリコン系添加剤)が好ましい。シリコン系表面調整剤としては、ビックケミー・ジャパン社製のBYK−300、BYK−301、BYK−302、BYK−306、BYK−307、BYK−310、BYK−315、BYK−320、BYK−322、BYK−323、BYK−325、BYK−330、BYK−331、BYK−333、BYK−337、BYK−341、BYK−344、BYK−345、BYK−346、BYK−347、BYK−348、BYK−349、BYK−370、BYK−375、BYK−377、BYK−378、BYK−UV3500、BYK−UV3510、BYK−UV3570(いずれも商品名)等が挙げられる。これらの中でも、極性が高い点から、BYK−306、BYK−310、BYK−333、BYK−370、BYK−375等が好ましい。表面張力低下能が高い点からは、BYK−306、BYK−307、BYK−330、BYK−333、BYK−370、BYK−377、BYK−341、BYK−375等が好ましい。また、極性が高く、かつ表面張力低下能が高い点から、BYK−306、BYK−333、BYK−375が特に好ましい。
【0096】
上記遮光層形成用樹脂組成物は更に、必要に応じて、例えば硬化剤、硬化促進剤、反応性希釈剤、不飽和結合をもたない飽和化合物、顔料、染料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、非反応性化合物、連鎖移動剤、熱重合開始剤、嫌気重合開始剤、重合禁止剤、無機充填剤や有機充填剤、カップリング剤等の密着向上剤、熱安定剤、防菌・防カビ剤、難燃剤、艶消し剤、消泡剤、レベリング剤、湿潤・分散剤、沈降防止剤、増粘剤・タレ防止剤、色分かれ防止剤、乳化剤、スリップ・スリキズ防止剤、皮張り防止剤、乾燥剤、防汚剤、帯電防止剤、導電剤(静電助剤)等の1種又は2種以上を含有してもよい。
【0097】
上記遮光層形成用樹脂組成物を成膜後、硬化反応及び/又は脱溶剤することにより、本発明の遮光層を得ることができる。上記遮光層は、硬化性樹脂硬化物又はガラス転移温度が150℃以上の熱可塑性樹脂、及び、DBP吸油量が200〜500ml/100gであるカーボンブラックを必須成分とするものである。
上記遮光層における各成分の含有量としては、硬化性樹脂硬化物又はガラス転移温度が150℃以上の熱可塑性樹脂(固形分)は、遮光層の総量100質量%に対して60〜99質量%であることが好ましい。より好ましくは、80〜95質量%である。
カーボンブラックは、遮光層の総量100質量%に対して、20質量%未満であることが好ましい。カッティング特性に優れる点で10質量%以下が好ましい。さらにまた、1質量%以上であることが好ましい。1質量%以上であると、遮光性フィルム(5mm角以上の正方形に収まる大きさ)が取り扱い性に優れたものとなる。より好ましくは3質量%以上であり、この範囲であると、遮光フィルムの表面抵抗値を容易に1×1010Ω/□以下とすることができ、フィルムを微細な大きさ(例えば、4mm角の正方形に収まる大きさ)にカットしても取り扱い性に優れるため、デジタルカメラや携帯電話のカメラ等の小型撮像レンズ用に好適に用いることができる。更に好ましくは5質量%以上であり、この範囲であると、遮光フィルムの表面抵抗値を容易に1×10Ω/□以下とすることができ、フィルムを更に微細な大きさ(例えば、2mm角の正方形に収まる大きさ)にカットしても取り扱い性に優れる。
上記遮光層における溶剤の含有量は、遮光層の総量100質量%に対して、1質量%未満であることが好ましい。
【0098】
<遮光性フィルム>
本発明の遮光性フィルムは、上記有機樹脂及び/又はその原料とカーボンブラックとを必須成分として形成される遮光層(黒色層とも言う。)からなる単層構造である。すなわち、上記遮光性フィルムは、遮光層単独で構成されている。このような形態とすることにより、カッティング特性に優れるとともに、多層積層体である場合に生じる界面剥離の問題もなく、遮光性フィルムの厚みを薄くすることができ、光学用途(レンズユニット)に用いる場合に、光路を短縮でき、レンズユニットの小型化、薄型化を達成することができる。
【0099】
上記遮光性フィルム(本発明では、遮光層)の厚みは、遮光層の有機樹脂にもよるが、フィルムの後加工が行い易く、機械的強度に優れる点から、20μm以上が好ましく、更に好ましくは、30μm以上である。遮光性フィルム(遮光層)の厚みの上限としては、遮光層の材質にもよるが、遮光性能が充分となること、薄型化の要求の高いレンズユニットへの適用を踏まえれば200μm以下が好ましく、更に好ましくは100μm以下である。特に好ましい範囲としては、30〜80μmである。
ここで、遮光層の厚みとは、マイクロメーターで遮光層を測定した厚みである。遮光層の厚みを上述した範囲とすることにより、本発明の遮光性フィルムが薄くなり、例えば、該遮光性フィルムを光学部材に用いた場合に、光路を短縮することができる。これにより、この光学部材(例えば、カメラモジュール等)を薄型化することができる。
【0100】
上記遮光性フィルムは、少なくとも一方の表面の光沢度が20以下であることが好ましい。遮光性フィルムの光沢度が20を超えると、遮光が充分とならず、例えば、レンズユニットとして用いた場合にノイズとして誤作動の原因となるおそれがある。より好ましくは、10以下であり、更に好ましくは、5以下である。
さらに両面とも光沢度が上記範囲であることが好ましい。
上記光沢度は、日本電色工業社製 光沢計 VG−2000を用いて、測定角度(θ)60度で測定する。
【0101】
上記遮光性フィルムは、表面の光沢度を上記範囲とするために、フィルム表面を凹凸形状(凹凸構造)を有するものとすることが好適である。表面に凹凸形状を有することにより、遮光性フィルムの光沢を低減し、光の反射を防ぎ、遮光することができる。また、表面に凹凸形状を有する遮光性フィルムは、このような形態とすることにおいて、本発明の効果が発揮される点でも好適である。このように、上記遮光性フィルムが、フィルム表面の少なくとも片面に凹凸形状を有するものである形態もまた、本発明の好適な形態の1つであり、遮光性フィルムの光沢度を後述する光沢度の範囲に制御するために有効である。より好ましくは、両面に凹凸形状を有するものであり、当該効果がより充分に発揮されることとなる。
【0102】
上記表面凹凸形状としては、上述した形状の凹凸を有する限り特に限定されないが、カーボンブラック以外の微粒子を遮光性フィルムに含有させずに凹凸形状が形成されていることが好ましい。微粒子を含有させて凹凸形状を形成する場合は、通常、微粒子が白色又は淡色微粒子であることから、遮光性フィルムの表面近傍に存在する該微粒子が光の透過路となり、遮光性フィルムの遮光性が充分に優れたものとならないおそれがある。本発明の遮光性フィルムにおいて含有され得る微粒子は耐熱性が高いことが好ましいが、球状シリカ、シリコーン樹脂粒子等の耐熱性の高い粒子は白色である。このような白色(又は淡色)微粒子を用いると、優れた遮光性を得るための黒色化の阻害要因となるため、多量のカーボンブラックの添加が必要となることから、表面の均一な凹凸形成には不利である。また、微粒子を用いて凹凸形状を形成する場合、均一な凹凸形成のためには粒度分布が揃った粒子が必要であり高価になるおそれがある。
【0103】
単層構造である本発明の遮光性フィルムの模式図を図1に示す。図1(1)は凹凸が片面に形成された形態であり、(2)は凹凸が両面に形成された形態である。
本発明の遮光性フィルムを後述する方法で製造する場合は、単層構造かつ少なくとも片面に凹凸を有する遮光性フィルムを連続して生産することができ、小型(軽量)で薄いだけでなく、高品質の遮光性フィルムを安価に得ることができることとなる。
【0104】
上記遮光性フィルムの形状としては、用途に応じて適宜選択することができ、レンズユニットに装着する場合には、レンズを固定する淵に貼ることにより、効果的に光路以外の光の透過、光の反射を抑え、光学ノイズを低くすることができる。すなわち、レンズユニットにおいては、図2に模式的に示すように、遮光性フィルム(遮光層)がレンズを固定する淵に貼られることが好ましい。すなわち、レンズユニットにおけるレンズと遮光層との位置関係としては、レンズユニットの断面図として見ると、図3に模式的に示したものであることが好ましい。したがって、遮光性フィルムの遮光層は、レンズユニット入射光側からみると、図4に模式的に示すような平面形状(輪の形状)であることが好ましい。輪の中心は空洞でもよく、可視光を透過する透明フィルムであってもよく、レンズであってもよい。好ましくは、輪の中心は空洞であることである。
【0105】
上記遮光性フィルムの大きさとしては、該フィルムが搭載される光学部材の小型化の要求に対応する観点から、4mm角の正方形に収まる大きさであることが好ましい。言い換えると、4mm角の正方形に収まる大きさにカッティングでき、かつ、カットされた遮光性フィルムが取り扱い性に優れるものであることが好ましい。上記遮光性フィルムの大きさは、年々微細化の要求が高まっていることから、2mm角の正方形に収まる大きさとすることがより好ましい。
【0106】
本発明の遮光性フィルムは耐熱性に優れる有機樹脂に特定のカーボンブラックを均一分散したものである遮光層からなり、しかも単層構造であるために、さらに、導電性、耐熱性にも優れたものとなる。
上記遮光性フィルムにおいては、遮光層の表面抵抗値が1×1010Ω/□以下であることが好適である。遮光層の表面抵抗値としては、通常、1×1013Ω/□以下であれば遮光性フィルムが取り扱い性に優れたものとなるが、デジタルカメラや携帯電話のカメラ等の小型撮像レンズ用の微小な遮光性フィルムを安価に提供するためには、上記のように1×1010Ω/□以下とすることが好ましい。表面抵抗値が1×1010Ω/□以下であると、遮光性フィルムに充分な導電性を持たせることができ、フィルムを4mm角の正方形に収まる大きさにカットしても、取り扱い性に優れたものとすることができる。より好ましくは、1×10Ω/□以下である。表面抵抗値が1×10Ω/□以下であると、フィルムを2mm角の正方形に収まる大きさにカットしても、取り扱い性に優れたものとすることができ、更なる微細化の要求に応えることができる。
【0107】
上記遮光性フィルムの耐熱性としては、該フィルムを高温で加熱したときのフィルム形状の変化、遮光性能の変化の有無、程度で評価することができる。
遮光性能の変化(遮光性能保持性)としては、具体的には、加熱前後における、フィルムの表面光沢度の変化、透過率の変化の程度で評価することができる。200℃で1分加熱したときの光沢度の変化量が20%以下、同じ透過率の変化量が20%以下となることが好ましい。
フィルム形状の変化としては、加熱した前後におけるフィルムの寸法(面内の縦方向、横方向のそれぞれの長さ、厚み方向の長さ)の変化が小さいほど好ましく、形状保持性に優れたものであることが好ましい。形状保持性に優れる(耐熱性を有する)ことの具体例としては、200℃で1分加熱した際に、加熱前に対する加熱後の各長さの変化率(寸法変化率)が10%以下となることである。寸法変化率が10%以下であると、上述した用途において、通常使用される条件で遮光性フィルムの特性を充分に発揮することができ、例えば、レンズユニット内部での光学ノイズの発生及び拡大を抑えることができる。より好ましくは5%以下、更に好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下である。
なお、寸法変化率を測定するときの試料の大きさは、適宜選択すればよく、例えば、縦50.0mm×横10.0mm×厚さ35〜80μmサイズの試料を用いることができる。
【0108】
上記寸法変化率の測定条件としては、より厳しい条件で行ってもよく、加熱温度としては、250℃であることが好ましい。また、加熱保持時間としては、2分であることが好ましい。より好ましくは、5分であり、更に好ましくは、10分である。このような厳しい条件で、寸法変化率が上記範囲であるような遮光性フィルムがより好ましい。
また上記寸法変化率としてより好ましくは、260℃で2分加熱した際に、加熱前に対する加熱後の各長さの変化率(寸法変化率)が10%以下であることが好ましい。測定条件としては、空気雰囲気下で行うことが好ましい。すなわち、上記遮光性フィルムは、該フィルムを空気雰囲気下で260℃で2分間加熱したときに、加熱前に対する加熱後における縦、横、厚みのそれぞれの寸法変化率が10%以下であることが好ましい。260℃2分間の加熱にて寸法変化が小さい(寸法変化率が10%以下である)ことによって、上記遮光性フィルムをレンズユニットに用いる場合に、半田リフロー工程に充分に耐え得るものとすることができる。この場合における寸法変化率としては、より好ましくは5%以下、更に好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下である。
本発明の遮光性フィルムは耐熱性に優れる有機樹脂に特定のカーボンブラックを均一分散したものである遮光層からなり、しかも単層構造であるために、これらの耐熱性に優れたものとなる。
【0109】
上記遮光性フィルム中のカーボンブラックの含有量は、遮光性フィルムが遮光層単独で構成されることから、遮光層中のカーボンブラックの含有量と言い換えることができる。これについては、既に述べたとおり、遮光層の総量100質量%に対して、20質量%未満であることが好ましい。より好ましくは10%以下である。また、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることが更に好ましい。
【0110】
本発明の遮光性フィルムの製造方法としては、上述した遮光層形成用樹脂組成物から構成される樹脂膜の表面に、転写法により凹凸形状を形成する工程(「表面凹凸形成工程」ともいう。)と、該樹脂膜を乾燥、固化又は硬化させる工程とを有する方法であることが好適である。これにより、再現性よく微細なレベルで凹凸形状を形成することができ、凹凸形状の大きさや深さ等の形態を精密に制御することができる。すなわち、平坦性に優れながら均一で微細な凹凸形状に基づくマット性を表面に付与することができる。更に、必要に応じてその他の工程を含むものであってもよい。
【0111】
上記表面凹凸形成工程としては、転写層に遮光層形成用樹脂組成物を接触させて凹凸を形成することが好適であり、遮光層形成用樹脂組成物の組成や特性に応じて具体的な方法を適宜選択すればよい。例えば、
転写法(1):転写層(例えば、表面凹凸基材)に遮光層形成用樹脂組成物を塗布後、乾燥・固化、又は、硬化若しくは反応(例えば、ポリアミック酸を反応させてポリイミドにする反応)して成膜し、凹凸を形成する方法(これを、基材鋳型転写法とも言う。)。この場合、通常は、凹凸を形成した後に、転写層から、成形された遮光層形成用樹脂組成物を剥離することとなる。また、転写層としては、すりガラス、及び、マットフィルム(表面凹凸PET等)のいずれかが好ましい。
転写法(2):あらかじめ遮光層形成用樹脂組成物をフィルム状に形成し、フィルムが化学的、組成的に中間状態のもの、又は、半乾燥、半硬化、若しくは、未反応・半反応の状態にした後に、フィルム状に形成したものを転写層に接触させて凹凸を形成する方法。この場合、転写層としては、すりガラス、マットフィルム(表面凹凸PET等)、及び、マットロールのいずれかが好ましい。
転写法(2’):遮光層形成用樹脂組成物をフィルム状に形成し、フィルムが化学的、組成的に最終状態のものを乾燥、固化、硬化、若しくは、反応完了した状態のものを転写層に接触させて凹凸を形成する方法。この場合、転写層としては、すりガラス、マットフィルム(表面凹凸PET等)が好ましい。有機樹脂が熱可塑性樹脂(ポリイミドやPEEK)である場合には、転写法(2’)は、加熱下で、加圧して転写層を接触(マットロール処理、すりガラスで挟んで加熱等)させることにより凹凸を形成することも好ましい。
すなわち、転写法(2)、転写法(2’)のように、あらかじめ遮光層形成用樹脂組成物をフィルム状に形成したものを転写層に接触させて凹凸を形成する方法も好ましい転写法の一つである。
上記転写法(1)、(2)及び(2’)のうち2つ以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
なお、このような表面に凹凸形状を有する遮光性フィルムの製造方法は、例えば、国際公開第2009/014264号パンフレットの第57〜72段落に詳細に記載されている。
【0112】
<レンズユニット>
本発明の遮光性フィルムは、レンズ、鏡筒とともにレンズユニットを構成することもできる。このようなレンズユニットは、上述した遮光層形成用樹脂組成物から形成される遮光層を有する遮光性フィルムを用いて構成されるため、耐リフロー性及び耐熱性を有し、光学用途やオプトデバイス用途に特に有用であり、その他、表示デバイス用途、機械部品、電気・電子部品等として用いることができるものである。特に、カッティング特性や耐汚染性に優れるために微細形状で優れた画質が要求される、デジタルカメラや携帯電話のカメラ、車載用カメラ、監視カメラ等の撮像素子用途に好適である。このような、上記遮光性フィルムとレンズと鏡筒とを備えるレンズユニットもまた、本発明の1つである。
上記レンズユニットは、上記遮光性フィルムとレンズと鏡筒とを備えることとなるが、これらはそれぞれ一つ以上備えられていればよく、レンズユニットの用途等に応じて、装着する数を適宜設定することができ、複数備えられていてもよい。
【0113】
なお、本明細書中で「耐リフロー性を有するレンズユニット」とは、少なくとも遮光性フィルムの形状保持性が優れ、遮光性能保持性に優れるレンズユニットである。好ましい形態としては、上述した遮光性フィルムにおける形状保持性、遮光性能保持性と同様である。
【0114】
上記レンズユニットにおいて、レンズは、可視光領域の波長を透過し、成形可能な材料であればよく、有機材料、無機材料、有機・無機複合材料のいずれであってもよく、これらは1種又は2種以上を用いてもよい。上記有機材料(例えば、熱可塑性樹脂組成物、硬化性樹脂組成物)は、加工性に優れ、無機材料(例えば、ガラス)は、透明性・熱膨張率に優れ、有機・無機複合材料(例えば、有機無機複合樹脂組成物)は、両者の特徴を備えたものが好適である。レンズは、いずれの材料からなるものも好適に用いることができるが、耐リフロー性を有する材料(耐熱材料)が好ましい。
このように、レンズユニットを構成する遮光性フィルム及びレンズが、耐リフロー性を有するものである形態は、本発明の好ましい形態の一つである。遮光性フィルム及びレンズの両方が、充分な耐熱性を有することにより、自動実装化が可能となり、実装コストが充分に低減され、カメラモジュール等の光学用途に好適に用いることができる。このように、本発明の遮光性フィルムは、カメラモジュールに用いられる撮像用レンズユニットに好適であり、特に、半田リフロー工程に供されるカメラモジュールに用いられる撮像用レンズユニットに好適である。すなわち、上記レンズユニットは、カメラモジュールに用いられる撮像用レンズユニットであることが好ましく、特に、半田リフロー工程に供されるカメラモジュールに用いられる撮像用レンズユニットであることが好ましい。
【0115】
上記レンズの材質として、有機材料からなる好ましい具体例としては、無色透明性と耐熱性に優れる点から、エポキシ基を少なくとも1つ有する化合物を主たる樹脂(原料)とする硬化性樹脂組成物を硬化してなる材料、重合性不飽和結合を有する化合物を主たる樹脂(原料)とする硬化性樹脂組成物を硬化してなる材料等の硬化性樹脂硬化物;フェノール樹脂を主たる樹脂(原料)とする硬化性樹脂組成物を硬化してなる材料、及び、シリコーン樹脂を主たる樹脂(原料)として硬化してなる材料、シリコーン樹脂からなる熱可塑性樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂等のTgが150℃以上の熱可塑性樹脂である。なお、硬化とは、熱による硬化又は活性エネルギー線照射による硬化など従来公知の硬化を意味し、硬化性樹脂組成物には上記の主たる化合物に、更に、硬化を促進するための硬化触媒、硬化促進剤、又は、硬化剤といった従来公知の材料が併用される。また、上記で「主たる」とは、樹脂(原料)総量に対して70質量%以上であることをいう。
上記材料として、特に好ましくは、エポキシ基含有化合物を主たる樹脂(原料)とする硬化性樹脂組成物を硬化してなる材料である。エポキシ基含有化合物、及び、重合性不飽和結合を有する化合物については、遮光性フィルム用の遮光性樹脂組成物における同種の化合物に関する態様を適用し得る。
上記有機・無機複合材料の有機材料成分としては、上記好ましい有機材料であることが好ましい。
【0116】
上記レンズは、硬化性樹脂組成物を硬化させて得られるものであることが好ましい。硬化性樹脂組成物を用いることで、無機材料(例えば、ガラス)にはできない複雑な加工を安価に行うことができ、熱可塑性樹脂組成物を用いた場合には達成できない耐熱性を有するレンズとすることができ、加工(成形)、レンズユニットへの実装において、工業的な生産工程に適し、効率よく行うことができるという利点がある。なお、上記レンズは硬化性樹脂組成物を硬化させて得られるものであることが好ましいが、硬化性樹脂組成物としては、有機樹脂成分としてエポキシ基を少なくとも1つ有する化合物を含むものが好ましい。また、硬化性樹脂組成物は無機成分を有する有機無機複合樹脂組成物でもあることがより好ましい。
本発明においては、上述したように、レンズは硬化性樹脂組成物を硬化させて得られるものであることが好ましい。中でも、エポキシ基含有化合物を主たる樹脂原料とし、熱硬化性硬化剤等のカチオン硬化触媒を含む硬化性樹脂組成物をカチオン硬化してなるレンズが好ましい。
【0117】
上記エポキシ基を少なくとも1つ有する化合物としては、遮光性フィルムに含まれる有機樹脂として例示したエポキシ化合物を好適に用いることができる。中でも、エピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;ノボラック・アラルキルタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;芳香族結晶性エポキシ樹脂;脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂;エポキシシクロへキサン骨格を有するエポキシ樹脂;グリシジルエステル型エポキシ樹脂;3級アミン含有グリシジルエーテル型エポキシ樹脂等が好ましい。また、硬化性樹脂として、熱可塑性樹脂等の非硬化性成分と低分子量の硬化性化合物とを含有するものを使用することもできる。上記レンズに用いる硬化性樹脂組成物(熱硬化性エポキシ樹脂組成物)の使用形態としては、後述する遮光性フィルムとして説明する形態を好適に用いることができ、特に、熱潜在性硬化剤を用いる形態が好ましい。なお、硬化性樹脂組成物は、レンズ用途として用いることから、遮光性フィルムとして用いる場合に必須の黒色微粒子は、含まないことが好ましい。
【0118】
上記有機無機複合樹脂組成物としては、有機樹脂と、無機微粒子又はオルガノポリシロキサンと、を含むものであることが好適である。有機樹脂としては、高アッベ数のものについては、アッベ数が45以上のものである形態、硬化性樹脂である形態、脂環式エポキシ化合物を必須として含む形態、分子量が700以上のものである形態が好ましい。無機微粒子としては、湿式法により得られたものである形態、平均粒径が400nm以下のものである形態、溶液中に分散させたときの25℃におけるpHが3.4〜11のものである形態が好ましい。有機無機複合樹脂組成物としては、不飽和結合が10質量%以下である形態、可とう性成分を含む形態が好ましい。
【0119】
上記レンズは、厚みが1mm未満であることが好ましい。レンズの厚み(像を写す領域の最大厚み)を1mm未満とすることにより、遮光性フィルムを用いることとあいまって、光路長を短くすることができ、レンズユニットをより小さくすることができる。レンズの厚みとしてより好ましくは、800μm未満であり、更に好ましくは、500μm未満である。
上記レンズのアッベ数としては、特に限定されないが、例えば、アッベ数を45以上とすることにより、光の波長分散が小さくなり、解像度があがり、光学特性に優れたものとすることができる。45未満であると、例えば、にじみがみられるおそれがあり、充分な光学特性を発揮せず、レンズユニットに好適な材料とはならないおそれがある。上記アッベ数として、より好ましくは、50以上であり、更に好ましくは、55以上であり、特に好ましくは、58以上であり、最も好ましくは、60以上である。
【0120】
上記レンズユニットを構成するレンズは目的とする解像度に応じて、レンズの光学物性(アッベ数、屈折率等)、レンズの形状(凹状、凸状、曲率等)を制御したものを1枚で又は複数組み合わせて用いられる。使用するレンズの個数としては、1枚であってもよく、2枚以上であってもよい。1枚である場合、光の波長分散が小さくなり、解像度があがり、光学特性に優れたものとすることができる点でアッベ数の高いレンズを用いることが好ましく、2枚以上組み合わせて用いる場合は、その組み合わせは任意であり、多様な組み合わせが適用可能であるが、例えば、アッベ数の高いレンズと低いレンズとを組み合わせて用いることが好ましい。
【0121】
上記レンズユニットを構成する鏡筒の材質としては、有機材料、無機材料、有機・無機複合材料のいずれであってもよく、これらは1種又は2種以上を用いてもよいが、レンズユニットの軽量化を図る観点からは、有機材料、有機・無機複合材料を用いることが好ましい。
【0122】
上記レンズユニットにおいては、遮光性フィルムとレンズと鏡筒とを備えるものであれば特に限定されないが、赤外カットフィルター、シーモスセンサー、バレル、接着剤等の他の部材を有する形態が好ましい。なお、接着剤は、レンズ、遮光性フィルム等の部材をユニットに固定させるために用いるものである。
上記レンズユニットの各構成要素の配置としては、レンズユニットとしての特性が発揮される限り特に限定されないが、遮光性フィルムは、上述したように、遮光層がレンズを固定する淵(コバ)に貼られる配置であることが好ましい。遮光性フィルムとレンズとの位置関係としては、レンズが入射光側である形態と、遮光性フィルムが入射光側である形態とがあるが、レンズ表面での反射光を吸収するため、少なくとも1つの遮光性フィルムがレンズより入射光側に配置されていることが好ましい。
上記遮光性フィルムの形状としては、上述したように、遮光層が輪の形状で、輪の中心は空洞であることが好ましい。このような配置・形状とすることで、遮光機能を充分に発揮することができる。具体的には、図5(b)に模式的に示すように、中心部が透明フィルムであると、該遮光性フィルムを有することで光路長が長くなる。一方、中心部が空洞であると、図5(a)に模式的に示すように、光路長が長くなることはない。レンズユニットにおいては、小型化が求められていることから、上記レンズユニットにおいて、遮光層を輪状に有し、中心は空洞とする形態が好ましい。遮光性フィルムの場合、レンズとシーモスセンサーとの間に遮光性フィルムを有すると、レンズとシーモスセンサーとの間に位置する遮光性フィルムの厚みを薄くすることにより、光路長を短くすることができ、レンズユニットを小さく、ユニットの厚みを薄くすることができる。
【0123】
上記レンズユニットにおいて、遮光性フィルムとレンズの配置としては、図2のように、入射光の進行方向に沿って、遮光性フィルム、1枚又は2枚以上のレンズ、シーモスセンサーの順に配置される形態が好ましい。レンズが2枚以上ある場合は、それぞれのレンズに遮光性フィルムが設けられる形態がより好ましい。このように、遮光性フィルムを複数枚用いると、不要な光を充分に遮断することができる。また、遮光性フィルムはレンズの間に配置されていてもよい。なお、後述する赤外カットフィルター等その他の機能層を用いる場合は、それらの効果が充分に発揮される形態に設けることが好ましい。図2においては、赤外カットフィルターをシーモスセンサーに最も近い位置に配置している。なお、赤外カットフィルターがレンズユニットの入射光表面に位置するように配置されてもよい。
【0124】
本発明のレンズユニットの大きさとしては、種々の用途に好適に用いることができるため、レンズユニットは小型であることが好ましい。上記レンズユニットの厚みとしては、50mm以下であることが好ましい。このような厚みとすることにより、カメラモジュール等の種々の光学部材に好適に用いることができる。レンズユニットの厚みとしてより好ましくは、30mm以下であり、更に好ましくは、10mm以下である。
【0125】
中心部が透明フィルムである遮光性フィルムを用いる場合、上記レンズユニットの長さとしては、レンズとシーモスセンサーとの間に位置する遮光性フィルムが薄い程小さくすることができる。具体的には、カメラモジュールにおいては、遮光性フィルムとレンズとシーモスセンサーとを有することとなる。図2及び図5に、カメラモジュールの一例を、模式的に示した。なお、これらの図は、エレクトロニックジャーナル第81回テクニカルセミナー(Electronic Journal 第81回 Technical Seminar)資料を参照した。カメラモジュールに遮光性フィルムを図5(b)のように配置すると、焦点距離が伸びるため、バックフォーカスが伸張し、モジュールが大きくなる。図5(b)に示すように、遮光性フィルムが入射光表面及びレンズとシーモスセンサーとの間に位置し、遮光性フィルムの厚みがtで屈折率nが1.5程度の場合、バックフォーカスが約t/3伸張し、モジュールが大きくなるが、遮光性フィルムを薄くして、焦点距離を短くし、モジュールを小さくすることができる。それにより、例えば、1/10インチの光学サイズの光路長としては、遮光性フィルムなしの場合の120%以下とすることが好ましい。より好ましくは、110%以下であり、更に好ましくは、105%以下である。
【発明の効果】
【0126】
本発明の遮光性フィルムは、上述のような構成であるので、カッティング特性に優れ、微細な大きさであっても取り扱い易く、レンズユニット等へ高い位置精度で配置することが可能であり、歩留りが高く性能のばらつきのないものである。このような遮光性フィルムレンズユニットの小型化・薄型化の要求に応えるものであり、更に、耐熱樹脂膜で構成されているため、リフロー仕様のカメラレンズユニット用、特に熱的な挙動、密着追随性などの点から、耐熱樹脂レンズ、ハイブリッドレンズとの組合せにおいて好ましく採用し得る。また、このような遮光性フィルムを備えたレンズユニットは、光学部材やオプトデバイス部材、表示デバイス部材、機械部品、電気・電子部品等の各種用途に有用なものであり、特に、デジタルカメラや携帯電話のカメラモジュール用に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】図1は、遮光性フィルムの好ましい形態の一つを示す断面模式図である。
【図2】図2は、レンズユニットの好ましい形態の一つであるカメラモジュールの構成を示す断面模式図である。
【図3】図3は、レンズユニットにおける遮光性フィルムとレンズとの関係を示す断面模式図である。
【図4】図4は、レンズユニットにおける遮光性フィルムの好ましい形態の一つを示す平面模式図である。
【図5】図5は、遮光性フィルムの有無によるバックフォーカスの伸張を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0128】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0129】
<ケッチェンブラック(導電性カーボンブラック)分散液の調製>
温度計、冷却管、ガス導入管、及び、攪拌機を備えた反応機に、N,N−ジメチルアセトアミド187.78部、ポリビニルピロリドン(和光純薬工業社製、K−30)1.22部、ケッチェンブラック(ライオン社製、EC300J、DBP吸油量365ml/100g)11部を仕込んだ。攪拌速度600rpmにて10分予備分散した後、ジルコニアビーズ600部を投入し、攪拌速度1200rpmとした。続いて50℃まで昇温し、50℃到達より3時間攪拌した。攪拌速度1200rpmで攪拌しながら45℃まで冷却後、SUS製500メッシュで吸引濾過しビーズと分散液とを分離した。得られたカーボンブラック分散液CB−1の粘度をB型粘時計にて25℃で測定したところ4800cPであり、固形分5.52%、粒子径0.28μmであった。
【0130】
<アセチレンブラック(導電性カーボンブラック)分散液の調製>
温度計、冷却管、ガス導入管、及び、攪拌機を備えた反応機に、N,N−ジメチルアセトアミド187.78部、ポリビニルピロリドン(和光純薬工業社製、K−30)1.22部、アセチレンブラック(電気化学工業社製、HS−100、DBP吸油量140ml/100g)11部を仕込んだ。攪拌速度600rpmにて10分予備分散した後、ジルコニアビーズ600部を投入し、攪拌速度1200rpmとした。続いて50℃まで昇温し、50℃到達より3時間攪拌した。攪拌速度1200rpmで攪拌しながら45℃まで冷却後、SUS製500メッシュで吸引濾過しビーズと分散液とを分離した。得られたカーボンブラック分散液CB−2の粘度は25℃で150cPであり、固形分5.53%、粒子径0.27μmであった。
【0131】
各カーボンブラック分散液の物性は、以下に示す方法にて評価した。
(粘度測定)
東京計器社製、B形粘時計(形式:B8L)、ローター No.2、測定温度25℃
回転数6rpm
【0132】
(粒子径測定)
HORIBA社製、動的光散乱式粒径分布装置 LB−500を用い、25℃における粒径を測定した。
【0133】
<塗工液(ポリアミック酸にカーボンブラックを分散させた硬化性樹脂組成物)の調製>
調製例1
I.S.T社製ポリ(アミド)イミドワニスPyre−ML RC5083(固形分18.5%)、上記で得たケッチェンブラック分散液CB−1、ビックケミー・ジャパン社製BYK−306を用い、表1に示した重量比で、温度計、冷却管、ガス導入管、及び攪拌機を備えた反応機で混合し、SUS製500メッシュにて加圧濾過することにより、硬化性樹脂組成物(1)を得た。以下に混合条件、加圧濾過条件を示す。
【0134】
(混合条件)
攪拌羽根:2段パドル
RC5083とBYK−306を先に窒素雰囲気下で、15分攪拌。その後、攪拌しながらCB−1を投入、投入後60分攪拌。
【0135】
(加圧濾過条件)
使用加圧濾過器:ADVANTEC社製、KST−293−10−JA
【0136】
調製例2〜4
上記調製例1で用いたのと同じ原料を表1に示した重量比で混合・加圧濾過して硬化性樹脂組成物(2)、(3)及び(4)を得た。
【0137】
調製例5〜6
上記調製例1において、カーボンブラック分散液CB−1に代えてカーボンブラック分散液CB−2を用い、各原料を表1に示した重量比で混合・加圧濾過して硬化性樹脂組成物(5)及び(6)を得た。
【0138】
【表1】

【0139】
<第1の転写および単層フィルムの作製>
上記調製例1〜6で得られた硬化性樹脂組成物(1)〜(6)を、それぞれ第1の鋳型フィルム(転写材)として帝人デュポン社製マットペットフィルム(銘柄:PSG、厚さ100μm)に塗工し、140℃で5分間乾燥させた後、剥離する事により片面が転写処理された硬化性樹脂膜(1)〜(6)を得た。以下に塗工条件を示す。
塗工方式:スロットダイ
塗工幅:25cm
乾燥炉温度:140℃
乾燥時間:5分
【0140】
得られた硬化性樹脂膜(1)〜(6)の厚み、固形分濃度、マットペットフィルム接触面の光沢度等を以下に示す方法にて測定し、結果を表2に示した。
【0141】
(厚み測定)
マイクロメーターで測定。
(光沢度の測定)
得られた硬化性樹脂膜に関し、転写処理した表面の光沢度を測定した。
光沢度は、堀場製作所社製 ハンディ光沢時計(グロスチェッカ IG−331)を用いて、測定角度(θ)60度における光沢度を測定する事により求めた。なお、上記光沢度は、5ヶ所を測定し、ばらつきの範囲(測定値の上限と下限)を測定値として記載した。
【0142】
(フィルムの固形分含有量)
硬化性樹脂膜における固形分含有量は次のようにして求めた。すなわち、フィルム小片を試料とし、TG−DTA(BRUKER AXS社製、TG−DTA 2000SA)を用い、昇温速度10℃/分で常温から350℃までの重量減少量を測定し、この重量減少量を溶剤含有量とし、残分を固形分含有量とした。
【0143】
(イミド化率の求め方)
硬化性樹脂膜の表面におけるイミド化率は下記の測定方法及び計算方法で求めた。
測定装置:FT−IR(Thermo Nicolet NEXUS670)
測定方法:ATR法測定(Geプリズム)1回反射 積算回数32回 分解能4cm−1
イミド化率の計算方法
まず、ラミネートによる転写工程を供していない硬化性樹脂膜を完全にイミド化した。イミド化条件は硬化樹脂フィルムの作製と同条件で行った。次に、完全にイミド化した基材フィルム非接触面のFT−IRを測定。測定結果よりベンゼン環(1500cm−1)に対するイミド基(1775cm−1)のピーク面積比率を求め、これをイミド化率100%とする。硬化性樹脂膜のイミド化率を求めるには、FT−IRを測定し、同様にピーク面積比率を求め、先ほどの100%基準のピーク面積比率よりイミド化率を計算する。すなわち、例えば100%イミド化したフィルムのピーク面積比率が0.1であったとして、硬化性樹脂膜のピーク面積比率が0.05であった場合は50%のイミド化率となる。
【0144】
【表2】

【0145】
<第2の転写:転写ロールによる転写>
硬化性樹脂膜(1)〜(6)の第1の鋳型フィルム非接触面に、第2の鋳型フィルムを用いた転写ロール法により、それぞれ転写フィルム(1)〜(6)を作製した。
すなわち、1対の転写ロール(ロールA、ロールB)が備えられた熱カレンダー装置を用い、硬化性樹脂膜と第2の鋳型フィルムとを、硬化性樹脂膜の第1の鋳型フィルム非接触面が、第2の鋳型フィルムと接触する(積層状態となる)よう、転写ロール間に供給する事により、硬化性樹脂膜の第1の鋳型フィルム非接触面に転写を行い、更に、第2の鋳型フィルムから剥離することにより、それぞれ転写樹脂膜(1)〜(6)を得た。得られた転写樹脂膜の第2の転写面について前述と同様の方法で光沢度を測定した結果、60°光沢度はいずれも3〜5であった。
第2の鋳型フィルムとしては、帝人デュポン社製マットペットフィルム(銘柄:PSG、厚さ100μm)を用いた。
転写時に於いて、硬化性樹脂膜側に転写ロールAとして、ゴム製のロールを用い、第2の鋳型フィルム側に転写ロールBとしてSUS製のロールを用い、転写工程において、転写ロールAの表面は150℃に、転写ロールBの表面は140℃に、それぞれ加熱保持された。また、他の転写条件は、以下の通りである。
硬化性樹脂膜、第2の鋳型フィルムの供給速度:いずれも、1m/min
転写時の転写ロール間にかかる圧力:線圧で20N/mm
【0146】
<硬化樹脂フィルム(遮光性フィルム)の作製>
転写樹脂膜(1)〜(6)を、イナートオーブン中で、下記に示す加熱条件下で加熱、硬化することにより、それぞれ硬化樹脂フィルム(1)〜(6)を得た。
加熱条件:窒素雰囲気下で、常温より5時間かけて350℃まで昇温(昇温速度約1m/min)。350℃到達より20分間加熱保持した。
【0147】
上記で得た硬化樹脂フィルム(1)〜(6)について、厚み、両面の光沢度、可視光透過率、耐熱性及び導電性を以下に示す方法にて評価した。結果を表3に示す。
表3には、光沢度、表面抵抗値に関して、第1転写面における値をそれぞれ示したが、何れのフィルムにおいても、第2転写面における光沢度、表面抵抗値も同様の値であった。
【0148】
(厚み測定)
マイクロメーターで測定。
(光沢度の測定)
得られたフィルム(硬化樹脂フィルム)に関し、転写処理した表面(第1転写面および第2転写面)の光沢度を測定した。
光沢度は、堀場製作所社製 ハンディ光沢時計(グロスチェッカ IG−331)を用いて、測定角度(θ)60度における光沢度を測定する事により求めた。なお、上記光沢度は、5ヶ所を測定し、ばらつきの範囲を測定値(測定値の上限と下限)として記載した。
【0149】
(可視光透過率)
紫外可視分光光度計(Shimadzu UV−3100(島津製作所社製))を用いて、380〜780nmにおける透過率を測定した。なお透過率は、各波長における全光線透過率である。
【0150】
(耐熱性試験)
作製した硬化樹脂フィルムを、以下の大きさに切り出し試験片とした。
試験片:50mm×10mmサイズのフィルム
上記試験片を下記試験条件で加熱試験を行い、試験前後の試験片の長さ方向の寸法変化を測定し評価した。
試験条件:260℃2分間加熱処理(260℃に加熱保持された熱風乾燥機内に試験片を投入し2分後に取り出す)
長さ方向における寸法変化率が3%未満を○、3%以上を×とした。
【0151】
(表面抵抗値測定)
測定装置としてディジタル超絶縁計/微小電流計 DSM−8104(日置電機社製)を用い、測定電極として平板試料用電極SME−8310(日置電機社製)を用いて測定した。測定条件は下記に示した。
測定はフィルムの両面について行った。
測定条件
測定電圧:0.1V
積分時間(SAMPL):300ms
Discharge10秒→Charge45秒→Measure(測定)15秒
【0152】
【表3】

【0153】
実施例1〜4、比較例1〜2
硬化樹脂フィルム(1)〜(6)について、フィルムの取り扱い性及びカッティング特性を以下に示す方法にて評価した。結果を表4に示す。
【0154】
(フィルムの取り扱い性試験)
所定サイズの各硬化樹脂フィルムを準備し、歯科用ピンセット(小山歯科工業社製、コーク型K1−1)にてフィルムの中心を掴んで持ち上げ、掴まなくなった際のフィルムの落下性試験をした。この際、帯電によってピンセットにくっ付かず、下に落ちたものの回数を数えた。試験回数は10回で、落ちた回数をそれぞれ表4に示した。
【0155】
(カッティング特性)
トムソン刃を用いて打抜き性試験をした。
トムソン刃の形状:内径2mm、外径3.5mmのドーナツ状
打抜いたフィルムを走査型電子顕微鏡(SEM)にて250倍、500倍にて観察をおこなった。破断面に打ち抜けていないこぼれがないものを○とし、あったものを×とした。
【0156】
【表4】

【0157】
表4に示す結果から、表面抵抗値が低いフィルムほど、ピンセットにくっつきにくく、微細化しても取り扱い性に優れていることが分かる。
また、カーボンブラックとしてDBP吸油量が200〜500ml/100gの範囲内であるもの(カーボンブラック分散液CB−1)を用いたフィルムは、上記範囲外のもの(カーボンブラック分散液CB−2)を用いたフィルムと比較してカッティング特性に優れることが分かった。
【符号の説明】
【0158】
1:遮光層
3:遮光性フィルム
4:レンズ
5:赤外カットフィルター
6:バレル
7:センサーレンズ
8:コバ
t:遮光性フィルムの厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機樹脂及び/又はその原料とカーボンブラックとを必須成分として形成される遮光層を有する遮光性フィルムであって、
該遮光性フィルムは、遮光層からなる単層構造であり、
該有機樹脂は、硬化性樹脂硬化物又はガラス転移温度が150℃以上の熱可塑性樹脂を含有し、
該有機樹脂が溶剤可溶性であるか又はその原料が溶剤可溶性若しくは液状であり、
該カーボンブラックは、DBP吸油量が200〜500ml/100gである
ことを特徴とする遮光性フィルム。
【請求項2】
前記有機樹脂は、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、フッ素化芳香族ポリマー、ポリエーテルケトン樹脂及びポリエチレンナフタレート樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載の遮光性フィルム。
【請求項3】
前記遮光性フィルムは、表面抵抗値が1×1010Ω/□以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の遮光性フィルム。
【請求項4】
前記遮光性フィルムは、4mm角の正方形に収まる大きさであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の遮光性フィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の遮光性フィルムと、レンズと、鏡筒とを備えることを特徴とするレンズユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−31345(P2012−31345A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173981(P2010−173981)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】