遮光膜付ガラス基板および液晶表示装置
【課題】可視光領域で十分に低い反射率を達成することができ、かつ、破壊強度に優れた遮光膜付ガラス基板の提供。
【解決手段】ガラス基板20上に多層構造の遮光膜30が形成されてなる遮光膜付ガラス基板であって、前記多層構造の遮光膜が、下記を満たす第1の酸窒化クロム膜(CrOx1Ny1)31および第2の酸窒化クロム膜(CrOx2Ny2)32が、透明基板側からこの順に積層された構造であることを特徴とする遮光膜付ガラス基板。0.15<x1<0.5、0.1<y1<0.35、0.4<x1+y1<0.65、0.03<x2<0.15、0.09<y2<0.25
【解決手段】ガラス基板20上に多層構造の遮光膜30が形成されてなる遮光膜付ガラス基板であって、前記多層構造の遮光膜が、下記を満たす第1の酸窒化クロム膜(CrOx1Ny1)31および第2の酸窒化クロム膜(CrOx2Ny2)32が、透明基板側からこの順に積層された構造であることを特徴とする遮光膜付ガラス基板。0.15<x1<0.5、0.1<y1<0.35、0.4<x1+y1<0.65、0.03<x2<0.15、0.09<y2<0.25
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮光膜付ガラス基板および、該遮光膜付ガラス基板を用いた液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フラットパネルディスプレイ(FPD)は表示パネルの厚みの薄板化がますます進行している。特に携帯電話やPDAなどの携帯端末機器向けの表示パネルにおいて、装置の軽量化という要望もあり、薄板化の進化が著しい。
表示パネルの薄板化の手法として、カラー液晶表示装置においてCF基板とTFTアレイ基板を貼り合わせた後に、化学的手法または物理的手法(例えば、化学エッチング等)により、ガラス基板の外表面を薄板化することが行われている。
たとえば、一般的に製造されているFPD用板ガラスの標準的な厚みである0.7mmのもの、または、やや薄い0.5〜0.6mmのものを、完成したパネルの状態で、0.2〜0.3mmの厚みに減じるように、エッチング加工することがある。
従来、ガラス基板が一定の厚み以上であった場合には、ガラス基板自体の強度が元々高いために強度は問題とされてこなかったが、このようにガラス基板は厚みを薄くすると最終的に形成したガラス基板の強度が低下するという新たな問題が発生した。
【0003】
また、カラー液晶表示装置において、画像の表示コントラストをはじめとする表示品位を高めるために、使用されるカラーフィルタ基板等にはブラックマトリクス(BM)が備えられている。このBMは、各色画素の表示部分の周辺を遮光することにより、カラーフィルタの隣り合うR、G、Bの3原色の各色の色抜けを防ぎ、カラー表示のコントラストを向上させ表示品位を高めるために一般的に使用されている。
このBMとして重要な特性に光学特性があり、具体的には、遮光率が高いこと、および反射率が低いことが挙げられる。各色の色抜けによる混色を防止するためには、光源からの必要のない光を十分に遮光することが必要である。また、表示側(観察者側)で外部からの光が反射されて、反射光が表示画像のコントラストを低下させるのを防止するためには、反射率を低くすることが必要である。
カラー液晶表示装置用の遮光膜として遮光性の高いメタル膜、特にクロム膜が従来利用されている。クロム膜は遮光性は高いものの、可視光反射率が約50%あるため、よりコントラストを高めるためには、可視光反射率をより低くする必要がある。そこで、酸化クロム膜をクロム膜に積層して用いて、光の干渉により可視光反射率を低下させる方法が考案されている。
【0004】
より低い可視光反射率の遮光膜という要求に対応するため、本願出願人は、特許文献1において以下を提案している。(1)透明基板上に設けられる液晶表示装置用遮光膜であって、該透明基板側から酸化クロム膜/窒化クロム膜の層構造を有することを特徴とする液晶表示装置用遮光膜、(2)透明基板からみて窒化クロム膜の上に金属クロム膜を有することを特徴とする上記(1)に記載の液晶表示装置用遮光膜、(3)酸化クロム膜に代えて酸窒化クロム膜を用いることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の液晶表示装置用遮光膜。
この液晶表示装置用遮光膜は、酸化クロム膜とクロム膜よりなる従来の遮光膜に比べ、比視感度が最大となる波長555nm付近はもちろん可視光全域にわたり反射率を著しく低くできる。したがって、この液晶表示装置用遮光膜は、酸化クロム膜とクロム膜よりなる従来の遮光膜では、どのように厚みを調整しても実現できないほど、可視光領域で十分に低い反射率の遮光膜、具体的には、視感反射率(Y)が5%程度の遮光膜を得ることができる。
【0005】
このように従来の遮光膜付ガラス基板の開発は主にこの光学特性向上に主眼が置かれており、遮光膜と液晶表示装置強度の関係に関しては議論されてこなかった。
しかし、携帯電話やPDAなどの携帯端末機器向けの液晶表示装置の薄板化により、液晶表示装置に対する破壊強度の向上が求められるようになってきた。これにより、液晶表示装置の製造に用いられる遮光膜付ガラス基板についても破壊強度の向上が求められている。
たとえば、特許文献1に記載の液晶表示装置用遮光膜は、可視光領域における低反射率という点では優れていたが、遮光膜付ガラス基板の破壊強度という点では必ずしも十分ではなかった。
従来、遮光膜付きガラス基板の強度は、その体積の大部分を占めるガラス基板自体の強度が支配的であると考えられており、ガラス基板表面に非常に薄く形成された遮光膜が大きく影響するとは考えられてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−282138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した従来技術の問題点を解決するため、本発明は、可視光領域で十分に低い反射率と遮光性を達成することができ、かつ、破壊強度に優れた遮光膜付ガラス基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するため、本発明は、ガラス基板上に多層構造の遮光膜が形成されてなる遮光膜付ガラス基板であって、前記多層構造の遮光膜が、下記を満たす第1の酸窒化クロム膜(CrOx1Ny1)および第2の酸窒化クロム膜(CrOx2Ny2)が、前記ガラス基板側からこの順に積層された構造であることを特徴とする遮光膜付ガラス基板を提供する。
0.15 < x1 < 0.5
0.1 < y1 < 0.35
0.4 < x1+y1 < 0.65
0.03 < x2 < 0.15
0.09 < y2 < 0.25
【0009】
本発明の遮光膜付ガラス基板において、前記多層構造の遮光膜が、前記第2の酸窒化クロム膜(Crx2Ny2)上に下記を満たす酸化クロム膜(CrOx3)がさらに積層された構造であってもよい。
0.07 < x3 < 0.3
ここで、前記第1の酸窒化クロム膜の膜厚が25〜75nmであり、前記第2の酸窒化クロム膜および前記酸化クロム膜の合計膜厚が75〜125nmであり、前記第2の酸窒化クロム膜および前記酸化クロム膜の合計膜厚(L)に対する前記酸化クロム膜の膜厚(l)の割合(l/L)が0.05〜0.75であることが好ましい。
【0010】
本発明の遮光膜付ガラス基板において、前記ガラス基板のθ−2θ=42.0°〜45.0°におけるX線回折の最大強度IGと前記遮光膜付ガラス基板のθ−2θ=42.0°〜45.0°におけるX線回折の最大強度ICとの比IC/IGがIC/IG≦1.5を満足することが好ましく、IC/IG≦1.4がより好ましい。
【0011】
また、本発明は、液晶層を挟持するための一対の基板の一方として本発明の遮光膜付ガラス基板を用いた液晶表示装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、可視光領域で十分に低い反射率を達成することができ、かつ、ガラス基板を含めた遮光膜の破壊強度に優れた液晶表示装置用の遮光膜付ガラス基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の遮光膜付ガラス基板の一実施形態を示した断面図である。
【図2】本発明の遮光膜付ガラス基板の別の一実施形態を示した断面図である。
【図3】本発明の遮光膜付ガラス基板を用いた液晶表示装置要素の一例を示した断面図である。
【図4】実施例におけるX線回折測定の結果を示したグラフである。
【図5】実施例におけるX線回折測定の結果を示したグラフである。
【図6】実施例におけるX線回折測定の結果を示したグラフである。
【図7】実施例におけるX線回折測定の結果を示したグラフである。
【図8】実施例におけるX線回折測定の結果を示したグラフである。
【図9】実施例におけるX線回折測定の結果を示したグラフである。
【図10】実施例で破壊強度試験に使用した装置を示した図である。
【図11】破壊強度試験の結果を示したグラフである。
【図12】IC/IGと平均破壊強度との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の遮光膜付ガラス基板を説明する。
図1は、本発明の遮光膜付ガラス基板の一実施形態を示した断面図である。図1に示す遮光膜付ガラス基板10では、ガラス基板20上に、第1の酸窒化クロム膜31、および、第2の酸窒化クロム膜32がこの順に積層された多層構造の遮光膜30が形成されている。
なお、図1に示す遮光膜30は、ガラス基板20上にカラーフィルタ膜を形成するために、パターニングされた状態で示されている。
図1に示す遮光膜付ガラス基板10において、ガラス基板20の多層構造の遮光膜30が形成されていない側の面が、液晶表示装置における表示面となる。
【0015】
図1に示す遮光膜30において、第1の酸窒化クロム膜31は、可視光領域で透明であり、主として低反射膜としての機能を担う。液晶表示装置の表示側(観察者側)で反射率が高いと外部からの光が反射されて、反射光が表示画像のコントラストを低下させるので反射率を低くすることが必要である。
ここで、低反射とは、遮光膜ガラス付基板での表示面側からの視感反射率(Y値)が6.5%以下であることを言い、好ましくは6.0%以下、より好ましくは5.5%以下である。
また、第1の酸窒化クロム膜31は、パターンエッジ形状が良好であること、充分な耐熱性、耐酸性、アルカリ性を有していることなどが求められる。
【0016】
上記した物性を満たすため、第1の酸窒化クロム膜31は、その膜組成(CrOx1Ny1)が下記(1)〜(3)を満たす。
ここで、x1は第1の酸窒化クロム膜中の酸素原子の割合(at%)を示しており、y1は第1の酸窒化クロム膜中の窒素原子の割合(at%)を示している。なお、第1の酸窒化クロム膜中のクロム原子の割合(at%)は1−x1−y1となる。
0.15 < x1 < 0.5 (1)
0.1 < y1 < 0.35 (2)
0.4 < x1+y1 < 0.65 (3)
【0017】
第1の酸窒化クロム膜31中の酸素原子の割合x1が0.15at%以下であると、遮光膜付ガラス基板での表示面側からの視感反射率(Y値)が高くなるので問題である。一方、x1が0.5at%以上であると、エッチング速度が遅くなり、パターニングしてBMを形成することが困難となる。
x1は下記(4)を満たすことが好ましく、下記(5)を満たすことがより好ましい。
0.2 < x1 < 0.4 (4)
0.25 < x1 < 0.35 (5)
【0018】
第1の酸窒化クロム膜31中の窒素原子の割合y1が0.1at%以下であると、遮光膜付ガラス基板での表示面側からの視感反射率(Y値)が高くなるので問題である。一方、y1が0.35at%以上であると、エッチング速度が遅くなり、パターニングしてBMを形成することが困難となる。
y1は下記(6)を満たすことが好ましく、下記(7)を満たすことがより好ましい。
0.15 < y1 < 0.3 (6)
0.2 < y1 < 0.3 (7)
【0019】
第1の酸窒化クロム膜31中の酸素原子と窒素原子の割合の合計x1+y1が0.4at%以下であると、遮光膜付ガラス基板での表示面側からの視感反射率(Y値)が高くなるので問題である。一方、x1+y1が0.65at%以上であると、エッチング速度が遅くなり、パターニングしてBMを形成することが困難となる。
x1+y1は下記(8)を満たすことが好ましく、下記(9)を満たすことがより好ましい。
0.45 < x1+y1 < 0.6 (8)
0.45 < x1+y1 < 0.55 (9)
【0020】
第1の酸窒化クロム膜31は、膜厚が25〜75nmであることが、低反射性能の観点から好ましく、35〜65nmであることがより好ましく、40〜60nmであることがさらに好ましい。
【0021】
図1に示す遮光膜30において、第2の酸窒化クロム膜32は、可視光領域で不透明であり、主として遮光膜としての機能を担う。ここで、遮光性とは、遮光膜付ガラス基板でのOD値(Optical Density値、透過光の減衰量を示す光学濃度)が3.8以上であることを言い、好ましくは4.0以上、より好ましくは4.2以上である。
また、第2の酸窒化クロム膜32は、パターンエッジ形状が良好であること、充分な耐熱性、耐酸性、耐アルカリ性を有していることなどが求められる。
【0022】
上記した物性を満たすため、第2の酸窒化クロム膜32は、その膜組成(CrOx2Ny2)が下記(10)〜(11)を満たす。
ここで、x2は第2の酸窒化クロム膜中の酸素原子の割合(at%)を示しており、y2は第2の酸窒化クロム膜中の窒素原子の割合(at%)を示している。なお、第2の酸窒化クロム膜中のクロム原子の割合(at%)は1−x2−y2となる。
0.03 < x2 < 0.15 (10)
0.09 < y2 < 0.25 (11)
また、第2の酸窒化クロム膜(CrOx2Ny2)32は、その膜組成が上記(10)〜(11)を満たすことにより、その結晶状態がアモルファスとなる。本明細書において、「結晶状態がアモルファスである」と言った場合、全く結晶構造を持たないアモルファス構造となっているもの以外に、微結晶構造のものを含む。
【0023】
本発明の遮光膜付ガラス基板は、第2の酸窒化クロム膜32がアモルファス構造の膜または微結晶構造の膜であることにより、遮光膜付ガラス基板の割れ強度が向上している。
後述する手順で遮光膜付ガラス基板の破壊強度試験を実施した場合に、ガラス基板上に形成した遮光膜表面に割れの起点が生じ、伸展した割れがガラス基板に伝播することによって遮光膜付ガラス基板が破壊する場合がある。第2の酸窒化クロム膜32がアモルファス構造の膜または微結晶構造の膜であれば、結晶構造の膜に比べて遮光膜表面に割れの起点が生じにくい。しかも、割れの起点が生じた場合であっても、結晶構造の膜に比べて遮光膜中での割れの伸展が起こりにくい。これらの理由から、遮光膜付ガラス基板の割れ強度が向上する。
【0024】
なお、第2の酸窒化クロム膜32の結晶状態がアモルファスであることは、X線回折(XRD)法によって確認することができる。すなわち、第2の酸窒化クロム膜がアモルファス構造の膜、または、微結晶構造の膜であれば、XRD測定により得られる回折ピークにシャープなピークが見られないので、結晶状態がアモルファスであることを確認することができる。
また、第2の酸窒化クロム膜32の結晶状態がアモルファスであることは、ガラス基板20のθ−2θ=42.0°〜45.0°におけるXRDの最大強度IGと遮光膜付ガラス基板10のθ−2θ=42.0°〜45.0°におけるXRDの最大強度ICとの比IC/IGによっても確認することができる。具体的には、第2の酸窒化クロム膜32の結晶状態がアモルファスであれば、IC/IG≦1.5を満たしている。本発明の遮光膜付ガラス基板において、IC/IG≦1.4であることがより好ましい。
【0025】
第2の酸窒化クロム膜32中の酸素原子の割合x2が、0.03at%以下であると、遮光膜ガラス基板の強度が充分に向上しないという問題がある。一方、x2が、0.15at%以上であると、遮光膜のエッチング速度が遅くなり、パターニングしてBMを形成することが困難となる。
x2は下記(12)を満たすことが好ましい。
0.03 < x2 < 0.12 (12)
【0026】
第2の酸窒化クロム膜32中の窒素原子の割合y2が、0.09at%以下であると、遮光膜付ガラス基板の強度が充分に向上しないという問題がある。一方、y2が、0.25at%以上であると、遮光膜のエッチング速度が遅くなり、パターニングしてBMを形成することが困難となる。
y2は下記(13)を満たすことが好ましい。
0.1 < y2 < 0.2 (13)
【0027】
第2の酸窒化クロム膜32中の酸素原子と窒素原子の割合の合計x2+y2が、下記(14)を満たすことが、遮光膜付ガラス基板の強度向上とパターンエッジ形状の両立ができるという理由から好ましく、下記(15)を満たすことがより好ましい。
0.15< x2+y2 <0.30 (14)
0.17< x2+y2 <0.25 (15)
【0028】
第2の酸窒化クロム膜32は、膜厚が75〜125nmであることが好ましい。膜厚が75nm未満だと、BMとして充分な遮光性を発揮することができず、OD値が小さくなってしまうおそれがある。一方、膜厚が125nm超だと、生産性低下およびコスト増加の原因となるおそれがある。第2の酸窒化クロム膜32の膜厚は85〜115nmであることがより好ましく、90〜110nmであることがさらに好ましい。
【0029】
図2は、本発明の遮光膜付ガラス基板の別の一実施形態を示した断面図である。図2に示す遮光膜付ガラス基板10´では、ガラス基板20上に、第1の酸窒化クロム膜31、第2の酸窒化クロム膜32、および、酸化クロム膜33がこの順に積層された多層構造の遮光膜30´が形成されている。
酸化クロム膜33は、後述する特定の組成とした場合、可視光領域で不透明であり、かつ、結晶状態がアモルファスであることから、第2の酸窒化クロム膜32と同様の機能を発揮することができる。
【0030】
特許文献1のように、ガラス基板上に酸窒化クロム膜および酸化クロム膜をこの順に積層とした層構成では、光学特性を満たす酸化クロム膜を成膜した時には遮光膜付きガラス基板として十分な強度を得ることが出来ないので、本発明では、図2に示すように、第2の酸窒化クロム膜32上に酸化クロム膜33を積層させた構造とし、かつ、第2の酸窒化クロム膜32と酸化クロム膜33の合計膜厚が上述した第2の酸窒化クロム膜32の膜厚の好適範囲を満たすこと、および、第2の酸窒化クロム膜32と酸化クロム膜33の合計膜厚に対する酸化クロム膜33の膜厚の割合が後述する範囲を満たすことが求められる。
【0031】
上記した物性を満たすため、酸化クロム膜33は、その膜組成(CrOx3)が下記(16)を満たす。
ここで、x3は酸化クロム膜中の酸素原子の割合(at%)を示している。なお、酸化クロム膜中のクロム原子の割合(at%)は1−x3となる。
0.07 < x3 < 0.3 (16)
酸化クロム膜33中の酸素原子の割合x3が、0.07at%以下であると、遮光膜ガラス基板の強度が充分に向上しないという問題がある。一方、x3が、0.3at%以上であると、遮光膜のエッチング速度が遅くなり、パターニングしてBMを形成することが困難となるという問題がある。
x3は下記(17)を満たすことが好ましい。
0.09 < x3 < 0.25 (17)
【0032】
第2の酸窒化クロム膜32および酸化クロム膜33の合計膜厚が75〜125nmであることが好ましい。合計膜厚が75nm未満だと、BMとして充分な遮光性を発揮することができず、OD値が小さくなってしまうおそれがある。一方、合計膜厚が125nm超だと、生産性低下およびコスト増加の原因となるおそれがある。第2の酸窒化クロム膜32および酸化クロム膜33の合計膜厚は85〜115nmであることがより好ましく、90〜110nmであることがさらに好ましい。
【0033】
また、第2の酸窒化クロム膜32および酸化クロム膜33の合計膜厚(L)に対する酸化クロム膜33の膜厚(l)の割合(l/L)が0.05〜0.75であることが強度向上とパターニング形状を良好にする目的から理由から好ましく、0.05〜0.50であることがより好ましい。
【0034】
本発明の遮光膜付ガラス基板は、ガラス基板上に形成された遮光膜が、上記した第1の酸窒化クロム膜、および、第2の酸窒化クロム膜がこの順に積層された多層構造の遮光膜、または、第2の酸窒化クロム膜上にさらに上記の酸化クロム膜が形成された多層構造の遮光膜であることにより、表示面側からの視感反射率(Y値)が低く、6.5%以下であり、好ましくは6.0%以下、より好ましくは5.5%以下である。また、OD値が3.8以上であり、好ましくは4.0以上、より好ましくは4.2以上である。
【0035】
上述した第1の酸窒化クロム膜31、第2の酸窒化クロム膜32、および、酸化クロム膜33は、公知の成膜方法、例えば、スパッタリング法により形成することができる。ここで、使用するスパッタリング法は特に限定されず、DCスパッタリング法、RFスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング、イオンビームスパッタリング法といった各種スパッタリング法を使用することができる。
【0036】
DCスパッタリング法を用いて、第1の酸窒化クロム膜31、または、第2の酸窒化クロム膜32を形成する場合、ターゲットとして金属クロムターゲットを使用し、スパッタリングガスとして、酸素または二酸化炭素と、窒素と、アルゴンガス等の不活性ガスと、の混合ガスを使用する。ここで、形成される酸窒化クロム膜31,32の組成は、スパッタリングガスとして使用する混合ガスの混合比、スパッタリングガスのガス圧力、もしくは、投入電力によって制御することができる。
DCスパッタリング法を用いて、酸化クロム膜33を形成する場合、ターゲットとして金属クロムターゲットを使用し、スパッタリングガスとして、酸素、および、アルゴンガス等の不活性ガスの混合ガスを使用する。
形成される酸窒化クロム膜31,32の組成、および、酸化クロム膜33の組成は、スパッタリングガスとして使用する混合ガスの混合比、スパッタリングガスのガス圧力、もしくは、投入電力によって制御することができる。
スパッタリング条件は、使用するスパッタリング法によって異なるが、DCスパッタリング法の場合、下記条件で実施することが好ましい。
スパッタリング時の電力密度:0.4〜5W/cm2より好ましくは0.5〜2.5W/cm
スパッタリング圧力:0.15〜0.5Paより好ましくは0.2〜0.35Pa
成膜温度(基板温度):室温〜300℃、より好ましくは室温〜200℃
【0037】
本発明の液晶表示装置は、液晶層を挟持するための一対の基板の一方として本発明の遮光膜付ガラス基板を用いたものである。
本発明の遮光膜付ガラス基板は、たとえば、黒い背景に明るい表示を行う場合の背景部分に遮光膜が設けられるもの、カラーフィルタを併用してカラー表示を行う場合の画素間に対応する部分(BM)などに遮光膜が設けられるものとして用いることができる。遮光膜はセルの内面(液晶層側)に設けられてもよいし、セルの外面に設けられてもよい。本発明の遮光膜は、フォトプロセスによるパターニング特性が非常に良いので、特に、セル内面に設けられるカラーフィルタのBMに用いられる遮光膜に好ましく使用できる。
カラーフィルタのBMとして用いる場合には、液晶セル表示面を正面から見た場合に、遮光膜は表示画素の境界部分に対応する部分に設けられる。表示画素は、電圧印加により光透過率を制御される部分であって、例えば、単純マトリクスタイプの液晶表示装置であれば、走査電極とデータ電極の交差する部分に相当する。
【0038】
図3は、本発明の遮光膜付ガラス基板を用いた液晶表示装置要素の一例を示した断面図である。
図3に示す液晶表示装置要素100において、本発明の遮光膜付ガラス基板10(10´)のガラス基板20上には、液晶表示装置の画素に対応する部分にカラーフィルタ膜200R,200G,200Bが形成されており、液晶表示装置の画素間に対応する部分には本発明の遮光膜付ガラス基板10(10´)の遮光膜30(30´)が形成されている。
ここで、カラーフィルタ膜200R,200G,200Bは、公知の手法で透明基板20上に形成される。ここで使用する公知の手法は、電着法、フォトリソ法、印刷法、染色法等のいずれでもよい。また、これらの組み合わせでもよい。
【0039】
カラーフィルタ膜200R,200G,200B、および、遮光膜30(30´)の上には、必要に応じて任意に形成される透明な保護膜300を介して、液晶駆動電極用の透明導電膜400が形成されている。この透明導電膜400は、通常、酸化錫や、インジウム酸化錫(ITO)などからなる。透明導電膜400は、表示に対応してパターニングされていてもよいし、共通電極として用いられる場合などにはベタ電極とされてもよい。形成方法としては、特にこれに限るものではないが、層厚を均一にする見地からは、蒸着法、スパッタ法等が好ましく用いられる。
図3に示す液晶表示装置要素100において、液晶駆動電極用の透明導電膜400の上もしくは下には、必要に応じて、SiO2、TiO2等の絶縁膜、TFT、MIM、薄膜ダイオード等の能動素子、位相差膜、偏光膜、反射膜、光導電膜等が形成されていてもよい。
【0040】
さらに、図3に示す液晶表示装置要素100上には、必要に応じて液晶配向膜を形成する。これは、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコール等の有機樹脂膜をラビングしたものであってもよいし、SiO等を斜め蒸着してもよいし、垂直配向剤を塗布して用いる場合もある。
【0041】
図3に示す液晶表示装置要素100上を用いて液晶表示装置を製造する方法については、通常用いられる方法が採用できる。すなわち、液晶層を挟持するための一対の基板のうちの一方を、図3に示す液晶表示装置要素100とし、他方を適宜パターニングされた電極付基板とし、液晶表示装置要素100上に必要に応じて液晶配向膜を形成し、次いで、一対の基板を電極面側を相対向させて周辺部をシールしてその内部に液晶を封入する。これにより、鮮明度の高いカラー液晶表示体を得ることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、例1〜3は実施例、例4〜5は比較例である。
【0043】
ガラス基板として、0.7mm厚のガラス基板(旭硝子社製無アルカリガラス「AN100」)を使用し、ガラス基板の表面を洗剤で洗浄し、清浄なガラス基板表面を得た後、インライン式DCスパッタリング装置を用いて、ガラス基板の加熱は行わずにガラス基板上に多層構造の遮光膜を形成した。
例1については、第1の酸窒化クロム膜(膜厚:51nm)と、第2の酸窒化クロム膜(膜厚:115nm)と、が積層された構造の遮光膜を形成した。
例2については、第1の酸窒化クロム膜(膜厚:51nm)、第2の酸窒化クロム膜(膜厚:59nm)、および、酸化クロム膜(膜厚:59nm)が積層された構造の遮光膜を形成した。
例3については、第1の酸窒化クロム膜(膜厚:51nm)と、第2の酸窒化クロム膜(膜厚:118nm)と、が積層された構造の遮光膜を形成した。
例4については、第1の酸窒化クロム膜(膜厚:51nm)と、第2の酸窒化クロム膜(膜厚:112nm)と、が積層された構造の遮光膜を形成した。
例5については、第1の酸窒化クロム膜(膜厚:51nm)と、第2の酸窒化クロム膜(膜厚:114nm)と、が積層された構造の遮光膜を形成した。
【0044】
第1の酸窒化クロム膜、および、第2の酸窒化クロム膜の形成には、ターゲットとして金属クロムターゲットを使用し、スパッタリングガスとして、酸素、窒素、および、アルゴンガスの混合ガスを使用した。スパッタリングガスとして使用する混合ガスの混合比の調整により酸窒化クロム膜の組成を調整した。スパッタリング圧力は0.3Paとした。
第1の酸窒化クロム膜スパッタ時の電流密度は例1〜5の全てにおいて2.7W/cm2で行った。
第2の酸窒化クロム膜のスパッタリング時の電力密度は、例1〜3は2.2W/cm2、例4は1.8W/cm2、例5は1.9W/cm2で行った。
酸化クロム膜の形成には、ターゲットとして金属クロムターゲットを使用し、スパッタリングガスとして、酸素およびアルゴンガスの混合ガスを使用した。スパッタリングガスとして使用する混合ガスの混合比の調整により酸窒化クロム膜の組成を調整した。酸化クロム膜形成時のスパッタリング圧力は0.3Pa、スパッタリング時の電力密度を2.2W/cm2で行った。
形成された第1の酸窒化クロム膜、第2の酸窒化クロム膜、および、酸化クロム膜中のOおよびNの組成をESCA分析により測定した。結果を下記表に示した。表中、単位は原子%である。残部の主成分はCrであるが、Cなどの不純物も極微量含有されている。
元素分析に用いたESCAの装置名および測定条件を以下に示す。
XPS装置:JEOL JPS−9000MC(日本電子(株)製)
X線源:Mg−std線、ビーム径6mmφ
X線出力:10kV、10mA
帯電補正:フラットガン
陰極 −100V
バイアス −10V
フィラメント 1.15A
測定方法は、表面10mmφをAr+イオンビームにて速度1nm/ 秒でエッチングし、 各層の厚さの中心付近で測定を行った。N(1s),O(1s),Cr(2s)のピークを測定し、ピーク面積を求め、下記相対感度係数を用いて、表面原子数比(すなわち、原子%)を算出した。
O :1s 11.914
N :1s 7.5128
Cr:2s 6.4405
【0045】
また、第2の酸窒化クロム膜の結晶状態(例2の場合、第2の酸窒化クロム膜と酸化クロム膜の結晶状態)を、X線回折(XRD)装置(RIGAKU社製)で確認した。
XRD回折測定条件はX線源をCuとし、θ−2θスキャン角度=20〜90°を0.0200°ピッチで測定を行った。
得られる回折ピークを図4〜9に示した。なお、図4は例1の回折ピーク、図5は例2の回折ピーク、図6は例3の回折ピーク、図7は例4の回折ピーク、図8は例5の回折ピークであり、図9は遮光膜を形成することなしに測定したガラス基板の回折ピークである。
図から明らかなように、例1〜3ではシャープなピークが見られないことから、第2の酸窒化クロム膜の結晶状態(例2の場合、第2の酸窒化クロム膜と酸化クロム膜の結晶状態)がアモルファス構造または微結晶構造であることが確認された。一方、例4〜5ではシャープなピークが見られることから、第2の酸窒化クロム膜の結晶状態が結晶構造であることを確認した。
また、測定されたXRDプロファイルから、ガラス基板のθ−2θ=42.0°〜45.0°におけるX線回折の最大強度をIGと遮光膜付ガラス基板のθ−2θ=42.0°〜45.0°におけるX線回折の最大強度をICとした時のIC/IGを算出した。下記表にICとIC/IGを示した。なお、IG=572(cps)であった。
【0046】
(破壊強度)
例1〜5の遮光膜付ガラス基板の破壊強度試験を以下の手順で測定した。
図10は、破壊強度試験に使用した装置を示した図である。図10に示す装置の受け治具2100の上に、遮光膜付ガラス基板から5cm角に切り出したサンプル1000を遮光膜が上側になるように設置した。その後、サンプル1000の上方から、加圧治具2000を用いてサンプル1000の中央領域を加圧し、サンプル1000が破壊した時点の加圧力を測定した。図11は、破壊強度試験の結果を示したグラフであり、横軸は加圧治具60による加圧力〔kgf〕、縦軸は累積破壊確率(Cumulative Failure Probability)〔%〕を示している。図11の結果から求めた平均破壊強度を下記表に示した。また、IC/IGと平均破壊強度(Average Breaking Strength)との関係を図12に示した。
この結果から、第2の酸窒化クロム膜がアモルファス構造または微結晶構造となり、IC/IGが小さくなるほど平均破壊強度が高くなることが判った。平均破壊強度を高くする為にはIC/IGが1.5以下であることが好ましく、1.4以下であることがさらに好ましい。
【0047】
(低反射性能)
可視光領域でのY値を、分光測定計(ミノルタ社製CM2002)を用いて測定した。結果を下記表に示した。なお、液晶表示装置用としてはY値が6.5%以下、好ましくは6.0%以下、より好ましくは5.5%以下であることが望ましい。
【0048】
(遮光性能)
OD値=−log(I/I0 )で表すことができる。Iは透過光の強度、I0は入射光の強度である。この光学濃度の数値が高いほど光を遮蔽している。液晶表示装置用としてはOD値が3.8以上、好ましくは4.2以上が必要とされている。
OD値の測定はマクベス社製光学濃度計「TD−904」にて行った。結果を下記表に示した。
【0049】
(パターンエッジ形状)
上記の手順で得られた遮光膜付ガラス基板の遮光膜を以下の手順でパターニングした。
洗浄
スピン洗浄装置を用いて純水洗浄を5分間実施した。
レジスト膜形成
市販のポジフォトレジストを膜厚約1μmとなるようにスピンコーティング(500rpm、20sec)を実施した。
プリベーク
100℃、30minプリベークを実施した。
露光
下記条件で露光を実施した。
76mJ/cm2(365nm、25.4mW/cm2、3sec)
現像
現像液としてNaOH(0.33wt%)を使用した(室温、60sec)。
ポストベーク
120℃、10minポストベークを実施した。
エッチング
Crエッチャントである硝酸セリウムアンモニウム−過塩素酸混合水溶液(Ce4+:13.4wt%、HCO4:3.4wt%、30℃)を用いて湿式エッチングを実施した。
レジスト剥離
NaOH水溶液(5wt%)を用いて室温で5分間実施した。
パターニングした部位を切断し、パターンエッジの断面を走査型電子顕微鏡(SEM)の40,000倍観察にて撮影して、パターニング後のパターンエッジ形状を評価した。結果を下記表に示した。
なお、表中の符号はそれぞれ以下を意味している。
○:パターンエッジの形状が順テーパー状である。
△:パターンエッジの形状が垂直である。
×:パターンエッジの形状が逆テーパー状である。
一般にパターンエッジ形状は、垂直または順テーパーが良いとされており、この結果から本発明の遮光膜付きガラス基板が良好なパターニング特性を有していることが確認できる。
【0050】
【表1】
【表2】
【符号の説明】
【0051】
10,10´:遮光膜付ガラス基板
20:ガラス基板
30,30´:遮光膜
31:第1の酸窒化クロム膜
32:第2の酸窒化クロム膜
33:酸化クロム膜
100:液晶表示装置要素
200R,200G,200B:カラーフィルタ膜
300:保護膜
400:透明導電膜
1000:サンプル
2000:加圧冶具
2100:受け冶具
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮光膜付ガラス基板および、該遮光膜付ガラス基板を用いた液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フラットパネルディスプレイ(FPD)は表示パネルの厚みの薄板化がますます進行している。特に携帯電話やPDAなどの携帯端末機器向けの表示パネルにおいて、装置の軽量化という要望もあり、薄板化の進化が著しい。
表示パネルの薄板化の手法として、カラー液晶表示装置においてCF基板とTFTアレイ基板を貼り合わせた後に、化学的手法または物理的手法(例えば、化学エッチング等)により、ガラス基板の外表面を薄板化することが行われている。
たとえば、一般的に製造されているFPD用板ガラスの標準的な厚みである0.7mmのもの、または、やや薄い0.5〜0.6mmのものを、完成したパネルの状態で、0.2〜0.3mmの厚みに減じるように、エッチング加工することがある。
従来、ガラス基板が一定の厚み以上であった場合には、ガラス基板自体の強度が元々高いために強度は問題とされてこなかったが、このようにガラス基板は厚みを薄くすると最終的に形成したガラス基板の強度が低下するという新たな問題が発生した。
【0003】
また、カラー液晶表示装置において、画像の表示コントラストをはじめとする表示品位を高めるために、使用されるカラーフィルタ基板等にはブラックマトリクス(BM)が備えられている。このBMは、各色画素の表示部分の周辺を遮光することにより、カラーフィルタの隣り合うR、G、Bの3原色の各色の色抜けを防ぎ、カラー表示のコントラストを向上させ表示品位を高めるために一般的に使用されている。
このBMとして重要な特性に光学特性があり、具体的には、遮光率が高いこと、および反射率が低いことが挙げられる。各色の色抜けによる混色を防止するためには、光源からの必要のない光を十分に遮光することが必要である。また、表示側(観察者側)で外部からの光が反射されて、反射光が表示画像のコントラストを低下させるのを防止するためには、反射率を低くすることが必要である。
カラー液晶表示装置用の遮光膜として遮光性の高いメタル膜、特にクロム膜が従来利用されている。クロム膜は遮光性は高いものの、可視光反射率が約50%あるため、よりコントラストを高めるためには、可視光反射率をより低くする必要がある。そこで、酸化クロム膜をクロム膜に積層して用いて、光の干渉により可視光反射率を低下させる方法が考案されている。
【0004】
より低い可視光反射率の遮光膜という要求に対応するため、本願出願人は、特許文献1において以下を提案している。(1)透明基板上に設けられる液晶表示装置用遮光膜であって、該透明基板側から酸化クロム膜/窒化クロム膜の層構造を有することを特徴とする液晶表示装置用遮光膜、(2)透明基板からみて窒化クロム膜の上に金属クロム膜を有することを特徴とする上記(1)に記載の液晶表示装置用遮光膜、(3)酸化クロム膜に代えて酸窒化クロム膜を用いることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の液晶表示装置用遮光膜。
この液晶表示装置用遮光膜は、酸化クロム膜とクロム膜よりなる従来の遮光膜に比べ、比視感度が最大となる波長555nm付近はもちろん可視光全域にわたり反射率を著しく低くできる。したがって、この液晶表示装置用遮光膜は、酸化クロム膜とクロム膜よりなる従来の遮光膜では、どのように厚みを調整しても実現できないほど、可視光領域で十分に低い反射率の遮光膜、具体的には、視感反射率(Y)が5%程度の遮光膜を得ることができる。
【0005】
このように従来の遮光膜付ガラス基板の開発は主にこの光学特性向上に主眼が置かれており、遮光膜と液晶表示装置強度の関係に関しては議論されてこなかった。
しかし、携帯電話やPDAなどの携帯端末機器向けの液晶表示装置の薄板化により、液晶表示装置に対する破壊強度の向上が求められるようになってきた。これにより、液晶表示装置の製造に用いられる遮光膜付ガラス基板についても破壊強度の向上が求められている。
たとえば、特許文献1に記載の液晶表示装置用遮光膜は、可視光領域における低反射率という点では優れていたが、遮光膜付ガラス基板の破壊強度という点では必ずしも十分ではなかった。
従来、遮光膜付きガラス基板の強度は、その体積の大部分を占めるガラス基板自体の強度が支配的であると考えられており、ガラス基板表面に非常に薄く形成された遮光膜が大きく影響するとは考えられてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−282138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した従来技術の問題点を解決するため、本発明は、可視光領域で十分に低い反射率と遮光性を達成することができ、かつ、破壊強度に優れた遮光膜付ガラス基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するため、本発明は、ガラス基板上に多層構造の遮光膜が形成されてなる遮光膜付ガラス基板であって、前記多層構造の遮光膜が、下記を満たす第1の酸窒化クロム膜(CrOx1Ny1)および第2の酸窒化クロム膜(CrOx2Ny2)が、前記ガラス基板側からこの順に積層された構造であることを特徴とする遮光膜付ガラス基板を提供する。
0.15 < x1 < 0.5
0.1 < y1 < 0.35
0.4 < x1+y1 < 0.65
0.03 < x2 < 0.15
0.09 < y2 < 0.25
【0009】
本発明の遮光膜付ガラス基板において、前記多層構造の遮光膜が、前記第2の酸窒化クロム膜(Crx2Ny2)上に下記を満たす酸化クロム膜(CrOx3)がさらに積層された構造であってもよい。
0.07 < x3 < 0.3
ここで、前記第1の酸窒化クロム膜の膜厚が25〜75nmであり、前記第2の酸窒化クロム膜および前記酸化クロム膜の合計膜厚が75〜125nmであり、前記第2の酸窒化クロム膜および前記酸化クロム膜の合計膜厚(L)に対する前記酸化クロム膜の膜厚(l)の割合(l/L)が0.05〜0.75であることが好ましい。
【0010】
本発明の遮光膜付ガラス基板において、前記ガラス基板のθ−2θ=42.0°〜45.0°におけるX線回折の最大強度IGと前記遮光膜付ガラス基板のθ−2θ=42.0°〜45.0°におけるX線回折の最大強度ICとの比IC/IGがIC/IG≦1.5を満足することが好ましく、IC/IG≦1.4がより好ましい。
【0011】
また、本発明は、液晶層を挟持するための一対の基板の一方として本発明の遮光膜付ガラス基板を用いた液晶表示装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、可視光領域で十分に低い反射率を達成することができ、かつ、ガラス基板を含めた遮光膜の破壊強度に優れた液晶表示装置用の遮光膜付ガラス基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の遮光膜付ガラス基板の一実施形態を示した断面図である。
【図2】本発明の遮光膜付ガラス基板の別の一実施形態を示した断面図である。
【図3】本発明の遮光膜付ガラス基板を用いた液晶表示装置要素の一例を示した断面図である。
【図4】実施例におけるX線回折測定の結果を示したグラフである。
【図5】実施例におけるX線回折測定の結果を示したグラフである。
【図6】実施例におけるX線回折測定の結果を示したグラフである。
【図7】実施例におけるX線回折測定の結果を示したグラフである。
【図8】実施例におけるX線回折測定の結果を示したグラフである。
【図9】実施例におけるX線回折測定の結果を示したグラフである。
【図10】実施例で破壊強度試験に使用した装置を示した図である。
【図11】破壊強度試験の結果を示したグラフである。
【図12】IC/IGと平均破壊強度との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の遮光膜付ガラス基板を説明する。
図1は、本発明の遮光膜付ガラス基板の一実施形態を示した断面図である。図1に示す遮光膜付ガラス基板10では、ガラス基板20上に、第1の酸窒化クロム膜31、および、第2の酸窒化クロム膜32がこの順に積層された多層構造の遮光膜30が形成されている。
なお、図1に示す遮光膜30は、ガラス基板20上にカラーフィルタ膜を形成するために、パターニングされた状態で示されている。
図1に示す遮光膜付ガラス基板10において、ガラス基板20の多層構造の遮光膜30が形成されていない側の面が、液晶表示装置における表示面となる。
【0015】
図1に示す遮光膜30において、第1の酸窒化クロム膜31は、可視光領域で透明であり、主として低反射膜としての機能を担う。液晶表示装置の表示側(観察者側)で反射率が高いと外部からの光が反射されて、反射光が表示画像のコントラストを低下させるので反射率を低くすることが必要である。
ここで、低反射とは、遮光膜ガラス付基板での表示面側からの視感反射率(Y値)が6.5%以下であることを言い、好ましくは6.0%以下、より好ましくは5.5%以下である。
また、第1の酸窒化クロム膜31は、パターンエッジ形状が良好であること、充分な耐熱性、耐酸性、アルカリ性を有していることなどが求められる。
【0016】
上記した物性を満たすため、第1の酸窒化クロム膜31は、その膜組成(CrOx1Ny1)が下記(1)〜(3)を満たす。
ここで、x1は第1の酸窒化クロム膜中の酸素原子の割合(at%)を示しており、y1は第1の酸窒化クロム膜中の窒素原子の割合(at%)を示している。なお、第1の酸窒化クロム膜中のクロム原子の割合(at%)は1−x1−y1となる。
0.15 < x1 < 0.5 (1)
0.1 < y1 < 0.35 (2)
0.4 < x1+y1 < 0.65 (3)
【0017】
第1の酸窒化クロム膜31中の酸素原子の割合x1が0.15at%以下であると、遮光膜付ガラス基板での表示面側からの視感反射率(Y値)が高くなるので問題である。一方、x1が0.5at%以上であると、エッチング速度が遅くなり、パターニングしてBMを形成することが困難となる。
x1は下記(4)を満たすことが好ましく、下記(5)を満たすことがより好ましい。
0.2 < x1 < 0.4 (4)
0.25 < x1 < 0.35 (5)
【0018】
第1の酸窒化クロム膜31中の窒素原子の割合y1が0.1at%以下であると、遮光膜付ガラス基板での表示面側からの視感反射率(Y値)が高くなるので問題である。一方、y1が0.35at%以上であると、エッチング速度が遅くなり、パターニングしてBMを形成することが困難となる。
y1は下記(6)を満たすことが好ましく、下記(7)を満たすことがより好ましい。
0.15 < y1 < 0.3 (6)
0.2 < y1 < 0.3 (7)
【0019】
第1の酸窒化クロム膜31中の酸素原子と窒素原子の割合の合計x1+y1が0.4at%以下であると、遮光膜付ガラス基板での表示面側からの視感反射率(Y値)が高くなるので問題である。一方、x1+y1が0.65at%以上であると、エッチング速度が遅くなり、パターニングしてBMを形成することが困難となる。
x1+y1は下記(8)を満たすことが好ましく、下記(9)を満たすことがより好ましい。
0.45 < x1+y1 < 0.6 (8)
0.45 < x1+y1 < 0.55 (9)
【0020】
第1の酸窒化クロム膜31は、膜厚が25〜75nmであることが、低反射性能の観点から好ましく、35〜65nmであることがより好ましく、40〜60nmであることがさらに好ましい。
【0021】
図1に示す遮光膜30において、第2の酸窒化クロム膜32は、可視光領域で不透明であり、主として遮光膜としての機能を担う。ここで、遮光性とは、遮光膜付ガラス基板でのOD値(Optical Density値、透過光の減衰量を示す光学濃度)が3.8以上であることを言い、好ましくは4.0以上、より好ましくは4.2以上である。
また、第2の酸窒化クロム膜32は、パターンエッジ形状が良好であること、充分な耐熱性、耐酸性、耐アルカリ性を有していることなどが求められる。
【0022】
上記した物性を満たすため、第2の酸窒化クロム膜32は、その膜組成(CrOx2Ny2)が下記(10)〜(11)を満たす。
ここで、x2は第2の酸窒化クロム膜中の酸素原子の割合(at%)を示しており、y2は第2の酸窒化クロム膜中の窒素原子の割合(at%)を示している。なお、第2の酸窒化クロム膜中のクロム原子の割合(at%)は1−x2−y2となる。
0.03 < x2 < 0.15 (10)
0.09 < y2 < 0.25 (11)
また、第2の酸窒化クロム膜(CrOx2Ny2)32は、その膜組成が上記(10)〜(11)を満たすことにより、その結晶状態がアモルファスとなる。本明細書において、「結晶状態がアモルファスである」と言った場合、全く結晶構造を持たないアモルファス構造となっているもの以外に、微結晶構造のものを含む。
【0023】
本発明の遮光膜付ガラス基板は、第2の酸窒化クロム膜32がアモルファス構造の膜または微結晶構造の膜であることにより、遮光膜付ガラス基板の割れ強度が向上している。
後述する手順で遮光膜付ガラス基板の破壊強度試験を実施した場合に、ガラス基板上に形成した遮光膜表面に割れの起点が生じ、伸展した割れがガラス基板に伝播することによって遮光膜付ガラス基板が破壊する場合がある。第2の酸窒化クロム膜32がアモルファス構造の膜または微結晶構造の膜であれば、結晶構造の膜に比べて遮光膜表面に割れの起点が生じにくい。しかも、割れの起点が生じた場合であっても、結晶構造の膜に比べて遮光膜中での割れの伸展が起こりにくい。これらの理由から、遮光膜付ガラス基板の割れ強度が向上する。
【0024】
なお、第2の酸窒化クロム膜32の結晶状態がアモルファスであることは、X線回折(XRD)法によって確認することができる。すなわち、第2の酸窒化クロム膜がアモルファス構造の膜、または、微結晶構造の膜であれば、XRD測定により得られる回折ピークにシャープなピークが見られないので、結晶状態がアモルファスであることを確認することができる。
また、第2の酸窒化クロム膜32の結晶状態がアモルファスであることは、ガラス基板20のθ−2θ=42.0°〜45.0°におけるXRDの最大強度IGと遮光膜付ガラス基板10のθ−2θ=42.0°〜45.0°におけるXRDの最大強度ICとの比IC/IGによっても確認することができる。具体的には、第2の酸窒化クロム膜32の結晶状態がアモルファスであれば、IC/IG≦1.5を満たしている。本発明の遮光膜付ガラス基板において、IC/IG≦1.4であることがより好ましい。
【0025】
第2の酸窒化クロム膜32中の酸素原子の割合x2が、0.03at%以下であると、遮光膜ガラス基板の強度が充分に向上しないという問題がある。一方、x2が、0.15at%以上であると、遮光膜のエッチング速度が遅くなり、パターニングしてBMを形成することが困難となる。
x2は下記(12)を満たすことが好ましい。
0.03 < x2 < 0.12 (12)
【0026】
第2の酸窒化クロム膜32中の窒素原子の割合y2が、0.09at%以下であると、遮光膜付ガラス基板の強度が充分に向上しないという問題がある。一方、y2が、0.25at%以上であると、遮光膜のエッチング速度が遅くなり、パターニングしてBMを形成することが困難となる。
y2は下記(13)を満たすことが好ましい。
0.1 < y2 < 0.2 (13)
【0027】
第2の酸窒化クロム膜32中の酸素原子と窒素原子の割合の合計x2+y2が、下記(14)を満たすことが、遮光膜付ガラス基板の強度向上とパターンエッジ形状の両立ができるという理由から好ましく、下記(15)を満たすことがより好ましい。
0.15< x2+y2 <0.30 (14)
0.17< x2+y2 <0.25 (15)
【0028】
第2の酸窒化クロム膜32は、膜厚が75〜125nmであることが好ましい。膜厚が75nm未満だと、BMとして充分な遮光性を発揮することができず、OD値が小さくなってしまうおそれがある。一方、膜厚が125nm超だと、生産性低下およびコスト増加の原因となるおそれがある。第2の酸窒化クロム膜32の膜厚は85〜115nmであることがより好ましく、90〜110nmであることがさらに好ましい。
【0029】
図2は、本発明の遮光膜付ガラス基板の別の一実施形態を示した断面図である。図2に示す遮光膜付ガラス基板10´では、ガラス基板20上に、第1の酸窒化クロム膜31、第2の酸窒化クロム膜32、および、酸化クロム膜33がこの順に積層された多層構造の遮光膜30´が形成されている。
酸化クロム膜33は、後述する特定の組成とした場合、可視光領域で不透明であり、かつ、結晶状態がアモルファスであることから、第2の酸窒化クロム膜32と同様の機能を発揮することができる。
【0030】
特許文献1のように、ガラス基板上に酸窒化クロム膜および酸化クロム膜をこの順に積層とした層構成では、光学特性を満たす酸化クロム膜を成膜した時には遮光膜付きガラス基板として十分な強度を得ることが出来ないので、本発明では、図2に示すように、第2の酸窒化クロム膜32上に酸化クロム膜33を積層させた構造とし、かつ、第2の酸窒化クロム膜32と酸化クロム膜33の合計膜厚が上述した第2の酸窒化クロム膜32の膜厚の好適範囲を満たすこと、および、第2の酸窒化クロム膜32と酸化クロム膜33の合計膜厚に対する酸化クロム膜33の膜厚の割合が後述する範囲を満たすことが求められる。
【0031】
上記した物性を満たすため、酸化クロム膜33は、その膜組成(CrOx3)が下記(16)を満たす。
ここで、x3は酸化クロム膜中の酸素原子の割合(at%)を示している。なお、酸化クロム膜中のクロム原子の割合(at%)は1−x3となる。
0.07 < x3 < 0.3 (16)
酸化クロム膜33中の酸素原子の割合x3が、0.07at%以下であると、遮光膜ガラス基板の強度が充分に向上しないという問題がある。一方、x3が、0.3at%以上であると、遮光膜のエッチング速度が遅くなり、パターニングしてBMを形成することが困難となるという問題がある。
x3は下記(17)を満たすことが好ましい。
0.09 < x3 < 0.25 (17)
【0032】
第2の酸窒化クロム膜32および酸化クロム膜33の合計膜厚が75〜125nmであることが好ましい。合計膜厚が75nm未満だと、BMとして充分な遮光性を発揮することができず、OD値が小さくなってしまうおそれがある。一方、合計膜厚が125nm超だと、生産性低下およびコスト増加の原因となるおそれがある。第2の酸窒化クロム膜32および酸化クロム膜33の合計膜厚は85〜115nmであることがより好ましく、90〜110nmであることがさらに好ましい。
【0033】
また、第2の酸窒化クロム膜32および酸化クロム膜33の合計膜厚(L)に対する酸化クロム膜33の膜厚(l)の割合(l/L)が0.05〜0.75であることが強度向上とパターニング形状を良好にする目的から理由から好ましく、0.05〜0.50であることがより好ましい。
【0034】
本発明の遮光膜付ガラス基板は、ガラス基板上に形成された遮光膜が、上記した第1の酸窒化クロム膜、および、第2の酸窒化クロム膜がこの順に積層された多層構造の遮光膜、または、第2の酸窒化クロム膜上にさらに上記の酸化クロム膜が形成された多層構造の遮光膜であることにより、表示面側からの視感反射率(Y値)が低く、6.5%以下であり、好ましくは6.0%以下、より好ましくは5.5%以下である。また、OD値が3.8以上であり、好ましくは4.0以上、より好ましくは4.2以上である。
【0035】
上述した第1の酸窒化クロム膜31、第2の酸窒化クロム膜32、および、酸化クロム膜33は、公知の成膜方法、例えば、スパッタリング法により形成することができる。ここで、使用するスパッタリング法は特に限定されず、DCスパッタリング法、RFスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング、イオンビームスパッタリング法といった各種スパッタリング法を使用することができる。
【0036】
DCスパッタリング法を用いて、第1の酸窒化クロム膜31、または、第2の酸窒化クロム膜32を形成する場合、ターゲットとして金属クロムターゲットを使用し、スパッタリングガスとして、酸素または二酸化炭素と、窒素と、アルゴンガス等の不活性ガスと、の混合ガスを使用する。ここで、形成される酸窒化クロム膜31,32の組成は、スパッタリングガスとして使用する混合ガスの混合比、スパッタリングガスのガス圧力、もしくは、投入電力によって制御することができる。
DCスパッタリング法を用いて、酸化クロム膜33を形成する場合、ターゲットとして金属クロムターゲットを使用し、スパッタリングガスとして、酸素、および、アルゴンガス等の不活性ガスの混合ガスを使用する。
形成される酸窒化クロム膜31,32の組成、および、酸化クロム膜33の組成は、スパッタリングガスとして使用する混合ガスの混合比、スパッタリングガスのガス圧力、もしくは、投入電力によって制御することができる。
スパッタリング条件は、使用するスパッタリング法によって異なるが、DCスパッタリング法の場合、下記条件で実施することが好ましい。
スパッタリング時の電力密度:0.4〜5W/cm2より好ましくは0.5〜2.5W/cm
スパッタリング圧力:0.15〜0.5Paより好ましくは0.2〜0.35Pa
成膜温度(基板温度):室温〜300℃、より好ましくは室温〜200℃
【0037】
本発明の液晶表示装置は、液晶層を挟持するための一対の基板の一方として本発明の遮光膜付ガラス基板を用いたものである。
本発明の遮光膜付ガラス基板は、たとえば、黒い背景に明るい表示を行う場合の背景部分に遮光膜が設けられるもの、カラーフィルタを併用してカラー表示を行う場合の画素間に対応する部分(BM)などに遮光膜が設けられるものとして用いることができる。遮光膜はセルの内面(液晶層側)に設けられてもよいし、セルの外面に設けられてもよい。本発明の遮光膜は、フォトプロセスによるパターニング特性が非常に良いので、特に、セル内面に設けられるカラーフィルタのBMに用いられる遮光膜に好ましく使用できる。
カラーフィルタのBMとして用いる場合には、液晶セル表示面を正面から見た場合に、遮光膜は表示画素の境界部分に対応する部分に設けられる。表示画素は、電圧印加により光透過率を制御される部分であって、例えば、単純マトリクスタイプの液晶表示装置であれば、走査電極とデータ電極の交差する部分に相当する。
【0038】
図3は、本発明の遮光膜付ガラス基板を用いた液晶表示装置要素の一例を示した断面図である。
図3に示す液晶表示装置要素100において、本発明の遮光膜付ガラス基板10(10´)のガラス基板20上には、液晶表示装置の画素に対応する部分にカラーフィルタ膜200R,200G,200Bが形成されており、液晶表示装置の画素間に対応する部分には本発明の遮光膜付ガラス基板10(10´)の遮光膜30(30´)が形成されている。
ここで、カラーフィルタ膜200R,200G,200Bは、公知の手法で透明基板20上に形成される。ここで使用する公知の手法は、電着法、フォトリソ法、印刷法、染色法等のいずれでもよい。また、これらの組み合わせでもよい。
【0039】
カラーフィルタ膜200R,200G,200B、および、遮光膜30(30´)の上には、必要に応じて任意に形成される透明な保護膜300を介して、液晶駆動電極用の透明導電膜400が形成されている。この透明導電膜400は、通常、酸化錫や、インジウム酸化錫(ITO)などからなる。透明導電膜400は、表示に対応してパターニングされていてもよいし、共通電極として用いられる場合などにはベタ電極とされてもよい。形成方法としては、特にこれに限るものではないが、層厚を均一にする見地からは、蒸着法、スパッタ法等が好ましく用いられる。
図3に示す液晶表示装置要素100において、液晶駆動電極用の透明導電膜400の上もしくは下には、必要に応じて、SiO2、TiO2等の絶縁膜、TFT、MIM、薄膜ダイオード等の能動素子、位相差膜、偏光膜、反射膜、光導電膜等が形成されていてもよい。
【0040】
さらに、図3に示す液晶表示装置要素100上には、必要に応じて液晶配向膜を形成する。これは、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコール等の有機樹脂膜をラビングしたものであってもよいし、SiO等を斜め蒸着してもよいし、垂直配向剤を塗布して用いる場合もある。
【0041】
図3に示す液晶表示装置要素100上を用いて液晶表示装置を製造する方法については、通常用いられる方法が採用できる。すなわち、液晶層を挟持するための一対の基板のうちの一方を、図3に示す液晶表示装置要素100とし、他方を適宜パターニングされた電極付基板とし、液晶表示装置要素100上に必要に応じて液晶配向膜を形成し、次いで、一対の基板を電極面側を相対向させて周辺部をシールしてその内部に液晶を封入する。これにより、鮮明度の高いカラー液晶表示体を得ることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、例1〜3は実施例、例4〜5は比較例である。
【0043】
ガラス基板として、0.7mm厚のガラス基板(旭硝子社製無アルカリガラス「AN100」)を使用し、ガラス基板の表面を洗剤で洗浄し、清浄なガラス基板表面を得た後、インライン式DCスパッタリング装置を用いて、ガラス基板の加熱は行わずにガラス基板上に多層構造の遮光膜を形成した。
例1については、第1の酸窒化クロム膜(膜厚:51nm)と、第2の酸窒化クロム膜(膜厚:115nm)と、が積層された構造の遮光膜を形成した。
例2については、第1の酸窒化クロム膜(膜厚:51nm)、第2の酸窒化クロム膜(膜厚:59nm)、および、酸化クロム膜(膜厚:59nm)が積層された構造の遮光膜を形成した。
例3については、第1の酸窒化クロム膜(膜厚:51nm)と、第2の酸窒化クロム膜(膜厚:118nm)と、が積層された構造の遮光膜を形成した。
例4については、第1の酸窒化クロム膜(膜厚:51nm)と、第2の酸窒化クロム膜(膜厚:112nm)と、が積層された構造の遮光膜を形成した。
例5については、第1の酸窒化クロム膜(膜厚:51nm)と、第2の酸窒化クロム膜(膜厚:114nm)と、が積層された構造の遮光膜を形成した。
【0044】
第1の酸窒化クロム膜、および、第2の酸窒化クロム膜の形成には、ターゲットとして金属クロムターゲットを使用し、スパッタリングガスとして、酸素、窒素、および、アルゴンガスの混合ガスを使用した。スパッタリングガスとして使用する混合ガスの混合比の調整により酸窒化クロム膜の組成を調整した。スパッタリング圧力は0.3Paとした。
第1の酸窒化クロム膜スパッタ時の電流密度は例1〜5の全てにおいて2.7W/cm2で行った。
第2の酸窒化クロム膜のスパッタリング時の電力密度は、例1〜3は2.2W/cm2、例4は1.8W/cm2、例5は1.9W/cm2で行った。
酸化クロム膜の形成には、ターゲットとして金属クロムターゲットを使用し、スパッタリングガスとして、酸素およびアルゴンガスの混合ガスを使用した。スパッタリングガスとして使用する混合ガスの混合比の調整により酸窒化クロム膜の組成を調整した。酸化クロム膜形成時のスパッタリング圧力は0.3Pa、スパッタリング時の電力密度を2.2W/cm2で行った。
形成された第1の酸窒化クロム膜、第2の酸窒化クロム膜、および、酸化クロム膜中のOおよびNの組成をESCA分析により測定した。結果を下記表に示した。表中、単位は原子%である。残部の主成分はCrであるが、Cなどの不純物も極微量含有されている。
元素分析に用いたESCAの装置名および測定条件を以下に示す。
XPS装置:JEOL JPS−9000MC(日本電子(株)製)
X線源:Mg−std線、ビーム径6mmφ
X線出力:10kV、10mA
帯電補正:フラットガン
陰極 −100V
バイアス −10V
フィラメント 1.15A
測定方法は、表面10mmφをAr+イオンビームにて速度1nm/ 秒でエッチングし、 各層の厚さの中心付近で測定を行った。N(1s),O(1s),Cr(2s)のピークを測定し、ピーク面積を求め、下記相対感度係数を用いて、表面原子数比(すなわち、原子%)を算出した。
O :1s 11.914
N :1s 7.5128
Cr:2s 6.4405
【0045】
また、第2の酸窒化クロム膜の結晶状態(例2の場合、第2の酸窒化クロム膜と酸化クロム膜の結晶状態)を、X線回折(XRD)装置(RIGAKU社製)で確認した。
XRD回折測定条件はX線源をCuとし、θ−2θスキャン角度=20〜90°を0.0200°ピッチで測定を行った。
得られる回折ピークを図4〜9に示した。なお、図4は例1の回折ピーク、図5は例2の回折ピーク、図6は例3の回折ピーク、図7は例4の回折ピーク、図8は例5の回折ピークであり、図9は遮光膜を形成することなしに測定したガラス基板の回折ピークである。
図から明らかなように、例1〜3ではシャープなピークが見られないことから、第2の酸窒化クロム膜の結晶状態(例2の場合、第2の酸窒化クロム膜と酸化クロム膜の結晶状態)がアモルファス構造または微結晶構造であることが確認された。一方、例4〜5ではシャープなピークが見られることから、第2の酸窒化クロム膜の結晶状態が結晶構造であることを確認した。
また、測定されたXRDプロファイルから、ガラス基板のθ−2θ=42.0°〜45.0°におけるX線回折の最大強度をIGと遮光膜付ガラス基板のθ−2θ=42.0°〜45.0°におけるX線回折の最大強度をICとした時のIC/IGを算出した。下記表にICとIC/IGを示した。なお、IG=572(cps)であった。
【0046】
(破壊強度)
例1〜5の遮光膜付ガラス基板の破壊強度試験を以下の手順で測定した。
図10は、破壊強度試験に使用した装置を示した図である。図10に示す装置の受け治具2100の上に、遮光膜付ガラス基板から5cm角に切り出したサンプル1000を遮光膜が上側になるように設置した。その後、サンプル1000の上方から、加圧治具2000を用いてサンプル1000の中央領域を加圧し、サンプル1000が破壊した時点の加圧力を測定した。図11は、破壊強度試験の結果を示したグラフであり、横軸は加圧治具60による加圧力〔kgf〕、縦軸は累積破壊確率(Cumulative Failure Probability)〔%〕を示している。図11の結果から求めた平均破壊強度を下記表に示した。また、IC/IGと平均破壊強度(Average Breaking Strength)との関係を図12に示した。
この結果から、第2の酸窒化クロム膜がアモルファス構造または微結晶構造となり、IC/IGが小さくなるほど平均破壊強度が高くなることが判った。平均破壊強度を高くする為にはIC/IGが1.5以下であることが好ましく、1.4以下であることがさらに好ましい。
【0047】
(低反射性能)
可視光領域でのY値を、分光測定計(ミノルタ社製CM2002)を用いて測定した。結果を下記表に示した。なお、液晶表示装置用としてはY値が6.5%以下、好ましくは6.0%以下、より好ましくは5.5%以下であることが望ましい。
【0048】
(遮光性能)
OD値=−log(I/I0 )で表すことができる。Iは透過光の強度、I0は入射光の強度である。この光学濃度の数値が高いほど光を遮蔽している。液晶表示装置用としてはOD値が3.8以上、好ましくは4.2以上が必要とされている。
OD値の測定はマクベス社製光学濃度計「TD−904」にて行った。結果を下記表に示した。
【0049】
(パターンエッジ形状)
上記の手順で得られた遮光膜付ガラス基板の遮光膜を以下の手順でパターニングした。
洗浄
スピン洗浄装置を用いて純水洗浄を5分間実施した。
レジスト膜形成
市販のポジフォトレジストを膜厚約1μmとなるようにスピンコーティング(500rpm、20sec)を実施した。
プリベーク
100℃、30minプリベークを実施した。
露光
下記条件で露光を実施した。
76mJ/cm2(365nm、25.4mW/cm2、3sec)
現像
現像液としてNaOH(0.33wt%)を使用した(室温、60sec)。
ポストベーク
120℃、10minポストベークを実施した。
エッチング
Crエッチャントである硝酸セリウムアンモニウム−過塩素酸混合水溶液(Ce4+:13.4wt%、HCO4:3.4wt%、30℃)を用いて湿式エッチングを実施した。
レジスト剥離
NaOH水溶液(5wt%)を用いて室温で5分間実施した。
パターニングした部位を切断し、パターンエッジの断面を走査型電子顕微鏡(SEM)の40,000倍観察にて撮影して、パターニング後のパターンエッジ形状を評価した。結果を下記表に示した。
なお、表中の符号はそれぞれ以下を意味している。
○:パターンエッジの形状が順テーパー状である。
△:パターンエッジの形状が垂直である。
×:パターンエッジの形状が逆テーパー状である。
一般にパターンエッジ形状は、垂直または順テーパーが良いとされており、この結果から本発明の遮光膜付きガラス基板が良好なパターニング特性を有していることが確認できる。
【0050】
【表1】
【表2】
【符号の説明】
【0051】
10,10´:遮光膜付ガラス基板
20:ガラス基板
30,30´:遮光膜
31:第1の酸窒化クロム膜
32:第2の酸窒化クロム膜
33:酸化クロム膜
100:液晶表示装置要素
200R,200G,200B:カラーフィルタ膜
300:保護膜
400:透明導電膜
1000:サンプル
2000:加圧冶具
2100:受け冶具
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板上に多層構造の遮光膜が形成されてなる遮光膜付ガラス基板であって、前記多層構造の遮光膜が、下記を満たす第1の酸窒化クロム膜(CrOx1Ny1)および第2の酸窒化クロム膜(CrOx2Ny2)が、前記ガラス基板側からこの順に積層された構造であることを特徴とする遮光膜付ガラス基板。
0.15 < x1 < 0.5
0.1 < y1 < 0.35
0.4 < x1+y1 < 0.65
0.03 < x2 < 0.15
0.09 < y2 < 0.25
【請求項2】
前記多層構造の遮光膜が、前記第2の酸窒化クロム膜(Crx2Ny2)上に下記を満たす酸化クロム膜(CrOx3)がさらに積層された構造である、請求項1に記載の遮光膜付ガラス基板。
0.07 < x3 < 0.3
【請求項3】
前記多層構造の遮光膜において、前記第1の酸窒化クロム膜の膜厚が25〜75nmであり、前記第2の酸窒化クロム膜および前記酸化クロム膜の合計膜厚が75〜125nmであり、前記第2の酸窒化クロム膜および前記酸化クロム膜の合計膜厚(L)に対する前記酸化クロム膜の膜厚(l)の割合(l/L)が0.05〜0.75である、請求項2に記載の遮光膜付ガラス基板。
【請求項4】
前記ガラス基板のθ−2θ=42.0°〜45.0°におけるX線回折の最大強度IGと前記遮光膜付ガラス基板のθ−2θ=42.0°〜45.0°におけるX線回折の最大強度ICとの比IC/IGがIC/IG≦1.5を満足する請求項1〜3のいずれかに記載の遮光膜付ガラス基板。
【請求項5】
液晶層を挟持するための一対の基板の一方として、請求項1〜4のいずれかに記載の遮光膜付ガラス基板を用いた液晶表示装置。
【請求項1】
ガラス基板上に多層構造の遮光膜が形成されてなる遮光膜付ガラス基板であって、前記多層構造の遮光膜が、下記を満たす第1の酸窒化クロム膜(CrOx1Ny1)および第2の酸窒化クロム膜(CrOx2Ny2)が、前記ガラス基板側からこの順に積層された構造であることを特徴とする遮光膜付ガラス基板。
0.15 < x1 < 0.5
0.1 < y1 < 0.35
0.4 < x1+y1 < 0.65
0.03 < x2 < 0.15
0.09 < y2 < 0.25
【請求項2】
前記多層構造の遮光膜が、前記第2の酸窒化クロム膜(Crx2Ny2)上に下記を満たす酸化クロム膜(CrOx3)がさらに積層された構造である、請求項1に記載の遮光膜付ガラス基板。
0.07 < x3 < 0.3
【請求項3】
前記多層構造の遮光膜において、前記第1の酸窒化クロム膜の膜厚が25〜75nmであり、前記第2の酸窒化クロム膜および前記酸化クロム膜の合計膜厚が75〜125nmであり、前記第2の酸窒化クロム膜および前記酸化クロム膜の合計膜厚(L)に対する前記酸化クロム膜の膜厚(l)の割合(l/L)が0.05〜0.75である、請求項2に記載の遮光膜付ガラス基板。
【請求項4】
前記ガラス基板のθ−2θ=42.0°〜45.0°におけるX線回折の最大強度IGと前記遮光膜付ガラス基板のθ−2θ=42.0°〜45.0°におけるX線回折の最大強度ICとの比IC/IGがIC/IG≦1.5を満足する請求項1〜3のいずれかに記載の遮光膜付ガラス基板。
【請求項5】
液晶層を挟持するための一対の基板の一方として、請求項1〜4のいずれかに記載の遮光膜付ガラス基板を用いた液晶表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−197521(P2011−197521A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65964(P2010−65964)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】
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